三人が出会った山の頂上。そこにモモンガ、たっち、ペロロンチーノはいた。
魔法で防壁を作り、不可知化する。明かりはマジックアイテムのランタンを利用した。モモンガが魔法で椅子と机を創造し、それに座る。
眠る必要がない三体の異形種たちは、お喋りをした。
「へえ、モモンガさんたちはお互いに近かったんですね」
「ええ、近くに転移したんですよ。いや、転生ですか?」
「転生ですね。まさかユグドラシルのアバターになっちゃうなんて、驚きですよう。どうせならエロゲーの主人公になりたかった」
「……エロゲーがリアルになったら、それはもう現実であって、ゲームじゃないですよ?」
「それは嫌だな。やっぱりゲームはゲームでいいや!」
こうしたたわいもない話を続ける。まるで昔に戻ったみたいだ。
仲間と会話すると、ふとした瞬間にパインさんの顔が浮かぶ。彼女は大丈夫だろうか。自分と同じように、この世界にいるだろうか。
骨だけの手を見る。なぜユグドラシルのアバター姿なのだろう。なぜこの世界なのだろう。なぜ俺が。出口のない水は、ぐるぐると脳みその中で渦巻いた。
それは終わりを迎える。
遠い夜空の向こう。巨大な魔法陣らしき模様が、真っ暗な空に現れた。眩しく輝き地上を照らしている。俺たちはすぐに武器を手にとり、立ち上がった。
「あれは一体……?」
たっちが首を傾げている。ペロロンチーノは首を捻っていた。
「どこかで見たことあるような気がする」
モモンガは頷いた。それもそうだと。
「……魔法少女の必殺技ですよ。ほら、マギアっていう名前の」
「あっそれだ。パインさんが昔に見せてくれたやつにそっくりだわ」
魔法陣からいくつもの光が地上に降りていく。その内の一つがこちらに飛んできた。たっちが前衛に、モモンガとペロロンチーノが後衛に移動する。モモンガは全員に何重もバフをかけ、たっちとペロロンチーノも続けて自己を強化した。
光は彼らから少し離れた所に降りて、ローブを羽織った少女の姿へ変わる。
高校生から大学生ぐらいの歳にみえる。顔立ちは美しく、髪を短く刈り上げていた。ローブの下には丈の長いスカートがのぞいている。手にはカンテラを持っていた。少女は、モモンガたちの警戒を気にせず、まるで友人かのように語りかける。
「こんばんは。私はアインラードゥン。案内役の魔法少女よ。時間がないから手短に済ませるわね。あなたたちを、リアルからこの世界へ導いたのは私」
「なんですって?」
声を上げるペロロンチーノさんを、アインラードゥンは手で止める。
「本当ならパインちゃんの元まで送りたかったんだけど、力が足りなかったの。ごめんなさい。でも近くまで下ろせたから、あとは自力で進んでちょうだい。方向はあっちよ。真っ直ぐ向かって。ナザリック地下大墳墓の周囲に張り巡らされた、パインちゃんの使い魔が気づいてくれるはずだから」
思いがけず渇望していた情報を得て、驚いた。なぜこの少女はナザリックのことを知っているのか。もしかして本当に、自分たちをこの世界へ導いたのは彼女なのか。
だからといって、鵜呑みにはできない。
モモンガは聞いた。
「どうやって、それを信じろと?」
少女は眉を下げた。
「証拠はある。でも、あなたたちが確認できない以上、意味をなさないわ。だから、私の言葉を信じてもらうしかない」
真摯な態度だった。三人はアイコンタクトをとり、信じられるのか考えるよりも、質問することを選んだ。モモンガが口を開く。
「パインさんは無事ですか?今どこに?どうやって俺たちを、この世界へ連れて来たんですか」
「パインちゃんはナザリック地下大墳墓でみんなといる。この世界へ転生したきっかけはわからない。私は拾って、連れてきただけ。パインちゃんが望んだから」
たっちさんが半歩前にでた。
「パインさんが望んだ?だから、私たちはここにいるんですか?」
「あなたたちは、リアルとこの世界の境界に落ちていた。そこへ私が行って、お互いが望んで承諾する。私は魔法を行使して、この世界へ案内できた」
ペロロンチーノが苛だたしそうに頭をかく。
「あの、プレイヤーなら、まどろっこしい表現やめてくれませんか。只でさえ混乱しているのに、それじゃ、ちょっとわかりにくいですよ」
アインラードゥンは眉を釣り上げて、声を荒げた。
「急いでいるから、こんな言い方になるんです。パインちゃんの友達だから、こんなに融通を利かしているのに!」
まるで癇癪を起こす幼子だ。もしかしたら、見た目よりも精神年齢が幼いのか?その姿を見て、たっちが体を少し屈めた。言葉が子供向けへと変わっている。
「失礼なことを言ってしまい、すみません。私たちを、助けてくれてありがとう。パインさんとは、ユグドラシルで知り合ったんですか?」
「……そうです」
「あなたはプレイヤーですか?」
優しい声色で話しかけたおかげか、相手の調子が落ち着いてきた。
「そう。魔法少女イベントで出会ってお友達になったの。フレンド登録だってして、最後までイベントクリアもした仲なんだから」
「それは、仲良しですね」
魔法少女イベントは、魔法少女になることで参加できるイベントだった。アインズ・ウール・ゴウンからはパインさんのみ参加した。たしか、イベント中は同じ魔法少女たちと行動を共にしていたはず。その中の一人なのだろう。
「お友達だから、願いを叶えてあげたかった。ちょっとズレたけど、同じ世界の同じ時間に存在している。だから、また会えるわ」
アインラードゥンは再び、向こうの空を指差した。
「あっちよ。まっすぐ向かって。必ずパインちゃんに会えるから。パインちゃんもずっと会いたがっているから」
モモンガが、さらに質問しようと考えた。しかし、少女は前触れもなく光の球に戻ってしまい、空へと帰っていった。
ペロロンチーノが弓から力を抜く。
「行っちゃいましたね。アインラードゥンさん」
光の球は次々に、空へとのぼっていく。
「……とりあえず、情報を整理しましょうか」
その話し合いは朝まで続いた。
三人はまず、得た情報を整理した。
一、自分たちが転生した、そのものの理由は不明。しかし、アインラードゥンによってこの世界に案内された。そこにパインさんの意志が関わっている。
ニ、ナザリック地下大墳墓がある方角が判明。
三、「みんなといる」という発言から。パインさんはおそらく、他のギルドメンバーと再会している可能性がある。
それから、この情報をもたらした少女、アインラードゥンを信じるのか意見を交わした。
結果、示された方角へ進むことになった。他に手がかりはない。可能性があるなら、確かめておくべきだ。
三人は、太陽が顔を覗かせてすぐに空を飛んだ。
〈つづく〉