王様のいないナザリック(完結)   作:紅絹の木

6 / 42
謎の少女は案内役?

 

三人が出会った山の頂上。そこにモモンガ、たっち、ペロロンチーノはいた。

魔法で防壁を作り、不可知化する。明かりはマジックアイテムのランタンを利用した。モモンガが魔法で椅子と机を創造し、それに座る。

眠る必要がない三体の異形種たちは、お喋りをした。

「へえ、モモンガさんたちはお互いに近かったんですね」

「ええ、近くに転移したんですよ。いや、転生ですか?」

「転生ですね。まさかユグドラシルのアバターになっちゃうなんて、驚きですよう。どうせならエロゲーの主人公になりたかった」

「……エロゲーがリアルになったら、それはもう現実であって、ゲームじゃないですよ?」

「それは嫌だな。やっぱりゲームはゲームでいいや!」

こうしたたわいもない話を続ける。まるで昔に戻ったみたいだ。

仲間と会話すると、ふとした瞬間にパインさんの顔が浮かぶ。彼女は大丈夫だろうか。自分と同じように、この世界にいるだろうか。

骨だけの手を見る。なぜユグドラシルのアバター姿なのだろう。なぜこの世界なのだろう。なぜ俺が。出口のない水は、ぐるぐると脳みその中で渦巻いた。

 

それは終わりを迎える。

 

遠い夜空の向こう。巨大な魔法陣らしき模様が、真っ暗な空に現れた。眩しく輝き地上を照らしている。俺たちはすぐに武器を手にとり、立ち上がった。

「あれは一体……?」

たっちが首を傾げている。ペロロンチーノは首を捻っていた。

「どこかで見たことあるような気がする」

モモンガは頷いた。それもそうだと。

「……魔法少女の必殺技ですよ。ほら、マギアっていう名前の」

「あっそれだ。パインさんが昔に見せてくれたやつにそっくりだわ」

魔法陣からいくつもの光が地上に降りていく。その内の一つがこちらに飛んできた。たっちが前衛に、モモンガとペロロンチーノが後衛に移動する。モモンガは全員に何重もバフをかけ、たっちとペロロンチーノも続けて自己を強化した。

 

光は彼らから少し離れた所に降りて、ローブを羽織った少女の姿へ変わる。

高校生から大学生ぐらいの歳にみえる。顔立ちは美しく、髪を短く刈り上げていた。ローブの下には丈の長いスカートがのぞいている。手にはカンテラを持っていた。少女は、モモンガたちの警戒を気にせず、まるで友人かのように語りかける。

「こんばんは。私はアインラードゥン。案内役の魔法少女よ。時間がないから手短に済ませるわね。あなたたちを、リアルからこの世界へ導いたのは私」

「なんですって?」

声を上げるペロロンチーノさんを、アインラードゥンは手で止める。

「本当ならパインちゃんの元まで送りたかったんだけど、力が足りなかったの。ごめんなさい。でも近くまで下ろせたから、あとは自力で進んでちょうだい。方向はあっちよ。真っ直ぐ向かって。ナザリック地下大墳墓の周囲に張り巡らされた、パインちゃんの使い魔が気づいてくれるはずだから」

思いがけず渇望していた情報を得て、驚いた。なぜこの少女はナザリックのことを知っているのか。もしかして本当に、自分たちをこの世界へ導いたのは彼女なのか。

 

だからといって、鵜呑みにはできない。

モモンガは聞いた。

「どうやって、それを信じろと?」

少女は眉を下げた。

「証拠はある。でも、あなたたちが確認できない以上、意味をなさないわ。だから、私の言葉を信じてもらうしかない」

真摯な態度だった。三人はアイコンタクトをとり、信じられるのか考えるよりも、質問することを選んだ。モモンガが口を開く。

「パインさんは無事ですか?今どこに?どうやって俺たちを、この世界へ連れて来たんですか」

「パインちゃんはナザリック地下大墳墓でみんなといる。この世界へ転生したきっかけはわからない。私は拾って、連れてきただけ。パインちゃんが望んだから」

たっちさんが半歩前にでた。

「パインさんが望んだ?だから、私たちはここにいるんですか?」

「あなたたちは、リアルとこの世界の境界に落ちていた。そこへ私が行って、お互いが望んで承諾する。私は魔法を行使して、この世界へ案内できた」

ペロロンチーノが苛だたしそうに頭をかく。

「あの、プレイヤーなら、まどろっこしい表現やめてくれませんか。只でさえ混乱しているのに、それじゃ、ちょっとわかりにくいですよ」

アインラードゥンは眉を釣り上げて、声を荒げた。

「急いでいるから、こんな言い方になるんです。パインちゃんの友達だから、こんなに融通を利かしているのに!」

まるで癇癪を起こす幼子だ。もしかしたら、見た目よりも精神年齢が幼いのか?その姿を見て、たっちが体を少し屈めた。言葉が子供向けへと変わっている。

「失礼なことを言ってしまい、すみません。私たちを、助けてくれてありがとう。パインさんとは、ユグドラシルで知り合ったんですか?」

「……そうです」

「あなたはプレイヤーですか?」

優しい声色で話しかけたおかげか、相手の調子が落ち着いてきた。

「そう。魔法少女イベントで出会ってお友達になったの。フレンド登録だってして、最後までイベントクリアもした仲なんだから」

「それは、仲良しですね」

魔法少女イベントは、魔法少女になることで参加できるイベントだった。アインズ・ウール・ゴウンからはパインさんのみ参加した。たしか、イベント中は同じ魔法少女たちと行動を共にしていたはず。その中の一人なのだろう。

「お友達だから、願いを叶えてあげたかった。ちょっとズレたけど、同じ世界の同じ時間に存在している。だから、また会えるわ」

アインラードゥンは再び、向こうの空を指差した。

「あっちよ。まっすぐ向かって。必ずパインちゃんに会えるから。パインちゃんもずっと会いたがっているから」

モモンガが、さらに質問しようと考えた。しかし、少女は前触れもなく光の球に戻ってしまい、空へと帰っていった。

ペロロンチーノが弓から力を抜く。

「行っちゃいましたね。アインラードゥンさん」

光の球は次々に、空へとのぼっていく。

「……とりあえず、情報を整理しましょうか」

 

 

 

その話し合いは朝まで続いた。

三人はまず、得た情報を整理した。

 

一、自分たちが転生した、そのものの理由は不明。しかし、アインラードゥンによってこの世界に案内された。そこにパインさんの意志が関わっている。

ニ、ナザリック地下大墳墓がある方角が判明。

三、「みんなといる」という発言から。パインさんはおそらく、他のギルドメンバーと再会している可能性がある。

 

それから、この情報をもたらした少女、アインラードゥンを信じるのか意見を交わした。

結果、示された方角へ進むことになった。他に手がかりはない。可能性があるなら、確かめておくべきだ。

 

三人は、太陽が顔を覗かせてすぐに空を飛んだ。

 

 

〈つづく〉


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。