王様のいないナザリック   作:紅絹の木

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宝物殿へ。

魔女の館から転移して、宝物殿に転移した。

宇宙に届くだろうNPCたちの忠誠の一端を見たパインは、精神的にかなり疲れてしまった。

頭の中は、今後の予定でいっぱいである。周りを見る余裕がなくなり、眼前に輝く金貨や財宝が見えなくなった。

と言っても、ギルドメンバーが二人のみログインするようになった頃から、金策はパインがしていた。転移して目の前にある金貨は、ほぼパインが投げ入れた物だ。見慣れすぎているから目を引くようなこともないのだ。ちなみに、担当していたわけではなく、モモンガより早くログインできたからやっていただけである。金策は魔女の館で行えるので、簡単に稼げて、モモンガも合流しやすかった。

 

「パイン様。私はこれからパンドラズ・アクターと代わり、宝物殿の守護を任されよう。良いかね?」

「あ…ええ、それでいいわ。私は変身していくし……」

「変身を?…外に出られるのか?」

「いいえ。モモンガさんがいないから。」

「モモンガ様が?ふむ、そうかね。モモンガ様は最近、リアルが忙しいと仰っていたから、先にログアウトなされたのかな?」

「……多分?」

えーと、ヘドラにはどこまで伝えていいのかな?守護者に言っていない事は言えないよね?組織の情報は上から順に伝えるものだし、セバスたちに命令した内容は黙っとこうか。

まいった精神で、もやもやと考える。パンドラに話すときも、守護者と同じタイミングでいいのか?…創造主がいなくなったのだから、先に話すべき?うーん、でも本当に終了間際にログアウトしたのかもしれないし、そうなればこっち側に来ている可能性は未知数だ。何もわからないのに伝えていいものだろうか。

「創造主よ、多分とはどういう事でしょうか?」

「ううん…えーと、今日は…といっても日付が変わったから、もう昨日の話ね。強制ログアウトを待つと仰っていたわ。だけど、私より先にいなくなってね…驚いたの。でも、アルベドはログアウトしたんじゃないかって。確かに、モモンガさんは今ナザリックにいないから、アルベドが正しいと思う…」

 突然の敬語ビビるからやめてね。その低い声に敬語とか最高だから、また聞かせて欲しいです。

 それにしても、モモンガさんがログアウトしたら……異世界転移できないんじゃね?こっち来られるの?別ゲームからの転移者いるのか?モモンガさんがこちらに転移するゲームをする確率とか……、そんな偶然あり得るのかな。

「…御身の静寂を破ることをお許しください。パイン様、少々お時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」

 敬語ありがとうございます!なんて浮かれたいけど、嫌な予感に心が引かれて、気分が沈み気味だ。あと、他のことを考えている余裕はない。

「話?それは急ぎの件なの?そうじゃないなら、今は用事があるから…」

「失礼いたしました。では、後ほど」

「うん。じゃあ、速く着きたいから走って行きましょう」

「畏まりました」

 

それから霊廟に辿り着くまで、私たちは風よりも速く宝物殿を走り抜けた。高速による風の冷たさや痛みを感じない。頑丈な体が羽のように軽い。これが今の私なのだと、少しドキドキした。

 

 

 

 

 長い廊下を抜けると、明かりがほとんどついていない広い空間に出た。

「パンドラズ・アクター、出てきて」

 静寂を破る声は、普通の大きさでも室内にこだまする。やがて、反対側の通路から姿を現す人影があった。

 いや、異形種だ。

 

 人型体の体、頭に歪んだヤギの角。顔を縦で割り、その半分を隠す仮面。

 ギルドメンバーのウルベルトさん。

 

 おおう、ウルベルトさんのアバターって現実になると、悪意と憎しみと恐怖を掛け算したような、雰囲気醸し出すのか。すごく怖い。けど、迫力があって超絶かっこいいぞ。

お顔から見える体毛がフサフサで柔らかそうで触ってみたいなー、なんて思うけど怖くて言い出せないやつ。しかし、今目の前にいるのはウルベルトさんに変身したパンドラなのに、こんなにもオーラあるとか…悪魔だから?

 第六階層に付いてくるように言えないでいると、ヘドラが動いた。パインとパンドラズ・アクターの間に立ち、声を上げる。

「パンドラズ・アクター、急ぎパイン様に従い行動してもらえるかね」

 有無を言わせない友人の声に応えるように、悪魔の姿がぐにゃりと歪み…元の姿に戻った。

 軍服にヘドラと同じ卵頭で、唯一顔を飾る目と口がぽっかり空いた闇に見える。ドッペルゲンガーだ。

「ご機嫌麗しゅう、パイン・ツリー様!そして、我が無二の友よ。挨拶もなしとは、何か異常事態ですかな?」

踵をカツンと鳴らし、オーバーアクションで敬礼を決めたパンドラから視線を感じる。うう、モモンガさんの事を話したいけども…。「……後でまとめて話します」と言って顔をそらした。ごめんね、今はそれしか言えないの。残り数十分の我慢とは言え、罪悪感がすごい。息子さんの顔がまともに見れねえ…!あと、想像以上にオーバーアクションの衝撃がくる。敬礼はかっこいいけど、心の奥に巣くう“厨二病”が発病しそうで危ない。

「まとめて、ですか。わかりました。その時を待ちしましょう!」

 仰々しくコートを翻すのやめよ?脳内でモモンガさんが「ぐわああああ」って悶えちゃうよ。

「わ、わかってくれてありがとう。じゃあ、“変身”してくるからちょっと待ってて――」

「おお!いつもの御姿になられるのですね!パイン様の神聖な“寝具”はいつでもお使いいただけますよう、私が全身全霊で清掃しております!あのパイン様専用アイテムは、この世に二つとないのですから、その希少さからして……」

 わあ、パンドラズ・アクターのマシンガントークだ。

君の熱い話は聞きたかったんだよね。私は、アイテムや登場人物の細かい設定、他者の考察とか、自分にはない視点を見れるから好き。だけども、今は急いでいるからタイミングが悪いね。

「――パイン様。指輪は預かりますので、お急ぎください」

 ヘドラが区切ってくれた。助かった。

「…頼んだ。また後でね、パンドラ」

「はい。行ってらっしゃいませ、人任せの魔女様」

 魔女は頷き、熱が引いたパンドラとヘドラに見送られ霊廟奥へと消えて行った。

 

 

 

足音が聞こえなくなったころ、パンドラズ・アクターは友人に向き合う。いつもとは違い演技っぽさを感じない。ナザリックでも、現在ヘドラしか知らないだろう素の彼だ。

「……ヘドラ・ファンタズマ、すみませんでした。至高の御方であり、我が親友の奥方様を怖がらせるつもりはありませんでした。心より謝罪します。」

「ありがとう、パンドラズ・アクター。卿の謝罪、丁重に受け取らせてもらう。それから、あまり気負わなくて大丈夫だ。パイン様は怒っていない。この件でパンドラ、卿を罰するつもりはない。」

「左様ですか…」

 パンドラズ・アクターは、胸に溜めた息を吐く。

 至高の御方々は神のごとき存在であることは、NPCたちの常識だ。そんな方々の思考を読み取るなど、愚行だ。それはNPCたちが、至高の存在の足元にも及ばないと思っている故である。

 

しかし、パインとヘドラは違う。それは、2人が“夫婦”だからではない。魔女と使い魔という魂の根幹から繋がるもの同士だからこそ、分かりえるのだ。ヘドラ・ファンタズマは自らの王、創造主であるパイン・ツリーから直に流れてくる“感情”を汲み取った上で、「パイン様は怒っていない」と発言している。

 

パンドラズ・アクターも、その事情を知る一人だ。ヘドラが断言するならば、信じられる。

けれども、彼が至高の存在を怖がらせてしまったことも事実だ。

「ヘドラ、貴方は覚えているでしょうか?パイン様は以前、ウルベルト様に変身した私を見て“よく似ている。まるで本人のように恐ろしく、威厳があり、邪悪だ。”と、笑って褒めて下さいました」

「覚えている。そして、理解しているとも。卿があの日のことを想い、今日もウルベルト様に変身したのだ。パイン様を驚かせ、喜ばせるために。至高なる御方の言葉とおり、卿の変身は大変素晴らしかったよ。なぜなら“恐怖”と“感嘆”の両方を感受されたのだから」

 ヘドラが言い終えると同時に、パンドラズ・アクターはコートをオーバーアクションで翻し、演技かかった口調で言う。

「ありがとうございます。ヘドラ・ファンタズゥーマッ!さすが、私の無二の友であり、ナザリック地下大墳墓においてただ一人、至高の御方と心を通わせる者よ!!…至高の御方の御心を知ることができ、安心しました。教えてくださり感謝します」

 祭服の異業種は創造主に定められた口調で、友人に応えた。

「構わないとも。私はある程度パイン様の御心を口外する許可は頂いている。何より、卿が悲しむことを望まれていない」

 ヘドラは、ちらりと霊廟奥へ続く通路に目を向けた。

「パンドラズ・アクター、パイン様の護衛を引き継ぐ卿に、伝えておくべき報告が上がっている」

「お聞きしましょう」

 

 

「現在、ナザリック地下大墳墓の周辺は沼地ではなく…草原となっている」

 

 

 

 

 

 

 

 壁の窪みにいる像は、仲間たちの姿に似せて創られたレメゲトンたちだ。そのさらに奥にワールドアイテムと一緒にパイン専用アイテムも置かれていた。

 天上も床も壁も白銀の部屋。天井は中央から優しい光が降り、眩しくて直視できない。

 この太陽にも似た光は無属性の光だ。太陽の光のように優しいが、いざとなれば幻惑、猛毒、魅了、盲目などなど……敵を状態異常にかける真っ黒な光に変わる。なぜ侵入者を攻撃するアイテムを設置していないのか?

 

“私”がやるからさ。

 

部屋の壁際には一つ一つが小さな祠を模した台座がある。その上にはワールドアイテムが鎮座していた。

その中心に、場違いとも取れる花が植えられてある。花は半径2mの円の中に植えられ、赤、白、ピンクを中心に様々な色が鮮やかに咲いている。種類はまばらだが、どれも最高級の香水、食事などに必要な、希少な素材でもある。

 パインは、その花の中心に置かれた棺桶に用事があった。

 木製の棺桶は、この神聖な場所には合わないほど“なんの装飾もなれていない長方形の形”をしていた。だが、何の装飾も施されていないというところが、少し特別かもしれない。

 持ち主が近づくと棺桶の蓋は、ゆっくりと横にずれた。中には周囲と同じく花がいっぱいに敷き詰められている。まるで花のベッドにパインは足を入れ、座り、仰向けになった。光が眩しい。普段なら眠れないが、だんだんと瞼が重くなる。

「(転移してから身代わりの体に移るのは、はじめて。フレーバーテキストには、使い魔の体に乗り移る、としか書いてなかったし…怖いことは何も起きないよね?)」

 ちょっと心配だが、もう眠たくて仕方がない。

 パイン・ツリーは目を閉じた。遠くで何かを引きずる音がして、同時に天井からの光が遮られていくのを感じた。

 

 

 

 体が沈んでいくと思った後、誰かに腕を引かれた。「起きて」って意味だと思うんだけど、合ってるかな?

 ゆっくりと“瞼”を開く。そしてすべてが白銀の部屋、白い光が降り注ぐ天上、ワールドアイテムが置かれている台座。前方には、パンドラズ・アクターとヘドラが待つ部屋と繋がる通路がある。

 

 私は立っていた。背後には、蓋が閉じられた棺桶が置かれている。

 左手を上げてみた。真っ黒な線のように細い手だ。右手には先端が二股に分かれ、その中央に直径10cm程の丸いエメラルドが浮かぶ杖を所持している。

 

パインは今、ナザリック地下大墳墓が異世界に転移する前、円卓でヘロヘロに見せた姿に変化していた。

顔は真っ黒で、凹凸のない球体。大きな“魔女の帽子”を被っている。そして肩から上部分がない―つまり首がないため―、頭部が浮かんでいる。上着は白く、非常に丈の短い―鎖骨あたりまでしかない―。その裾は金で縁取られている。襟は長めで、顎下まであり、ない首が隠れていた。体のラインに沿う赤のドレスは腰辺りから、少し膨らんでいる。

 

 ふむふむ、どうやら体の動かし方は人間の頃と大差ないらしい。これは楽でいいね。

 なによりも…よかった、無事に発動できたようだ。

 

 

パイン・ツリーは、あるイベントをクリアして、“魔法少女まどか☆マギカ”の魔法少女の力と体を手に入れた。そして、“円環の理に導かれし者”なので、魔法少女の姿で、魔女の力も扱うことができる。

導かれたのに、なぜ地上にいるのか―他のプレイヤーのようにゲームをプレイできていたか―というと、女神様に許可を貰っているからだ。つまり、円環の理から派遣されているから、ユグドラシルにいられたし、こうしてナザリックにも留まることができたのだ。

 

 

パンドラたちに告げた“変身”とは、スキルや魔法の名ではない。《魔女の身代わり》というスキルを使って、魔法少女の姿から現在の魔女の姿になることを指す。

 

“魔女の身代わり”―使い魔に、自身のソウルジェム(魂が具現化されたもの、魂そのもの)を装備させ、乗り移るスキル。回数制限はない。スキルを発動させるには本体を棺桶に寝かせる必要がある。このスキルを使用中は、乗り移った使い魔のレベルに合わせてステータスがダウンする。使用できるスキルや魔法も制限され、また変化する。そして、装備は使い魔ごとに固定されているので、変更は不可能。さらに、本体の時よりアイテム所持数が減る。

色々制限はあるが、“死亡時にレベルダウンしない”―死ぬのは使い魔の体であり、プレイヤーではないからだ―というメリットがある。ちなみに、使い魔に装備させていたソウルジェムは使い魔たちが回収してくれるらしい。他の所持アイテム、使い魔の装備品はランダムにドロップしてしまう。回収されたソウルジェムは、パインに届けられる。それまでは復活できない。

魔女の代わりに使い魔が死ぬスキル。

これがパイン・ツリー、ナザリック唯一の魔法少女の能力の一部である。

 

彼女はこのスキルを気に入っていた。

 

身代わりに乗り移るとき、使い魔の体が、こう……魔法少女みたいに変身するんだよ!

キラキラっと星のエフェクトが輝き、使い魔の体から、この顔が真っ黒い球体の体に変化する。そして最後に、私の“魔女の口付けのマーク”が浮かぶ。それがめっちゃかっこいいんだよ!!!

これ私やギルメンがやったんじゃないよ?元からそういう仕様なんだよね!運営様ありがとうございます。まどマギファンにはたまらないサービスです!

ちなみに変身シーンは、自分じゃ見れない。なので、ギルメンに録画してもらった映像見せてもらった。自分の視点からは、さっきのように棺桶に横になると画面が暗くなり、何もわからない。そこだけが残念です。

 

 私がこのスキルを「変身」と呼ぶ理由は、変身シーンがお気に入りだから。この姿も、異形種らしくて可愛いし、大好き!ちょっと不気味な感じが、ファン心を掴まれる…!

 

 なによりも、ユグドラシルがすごい。

魔法少女の力を手に入れたプレイヤーごとに能力や、姿が違うのだ。一人一人違うんだよ?これらにかけた時間と労力は、計り知れない。一体どうやって用意したんだ…。

 

 

 いけない。今は考え事にふける時間なんてないんだった。

 問題がないなら、2人のところへすぐに戻らないと。まずは、身だしなみチェックからしようか。「さてさて、現実になったこの姿はどんなものかな?」と、アイテムボックスから手鏡を取り出す。そして自分の顔を見てみた。

「……特に変化なし、か」

 ユグドラシルで見た、いつもの自分だ。おかしなところは何もない。

 少し残念に思いながらパインは、ヘドラたちが待つ場所へ歩き出した。

 

 

 ふと、己のキャラクターで一番重要な設定を思い出す。

「そういえば、転移後の円環の理ってどうなっているんだろう。こっちでも機能しているのかな?…私の体にはなんともないけど」

 

 

 

【つづく】

 

 


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