王様のいないナザリック   作:紅絹の木

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みんな集まって。

 

宝物殿はヘドラ・ファンタズマに任せ、彼の指輪をパンドラズ・アクターに貸し与え、第六階層へと転移する。

まず、目に入るのは石造りの廊下だ。人工的な灯りが先から見える大きな格子戸へ向かう。黙って歩く私に追従するパンドラは気を利かせてくれたのか、静かだ。

パインは感動していた。

「(ここはよく通った道だ。ゲームで何度も、ぶくぶく茶釜さんとやまいこさんと餡ころもっちもちさんたちと一緒に歩いた)」

第六階層でおしゃべりをしたり、自分たちが創ったNPCたちを集めては着せ替えて遊んだ。

前進すると青臭さと土の匂いが鼻腔いっぱいに香る。今生では嗅げなかった懐かしい匂いだ。前の人生なんて、あまりにも古い思い出という感じなので詳しいことは覚えていない。

性別は何だったか、確か人ではあった。それから他はどうだったか。家族は?好きなものは?好い人は?

霞がかかったように遠く、輪郭を失っている。

 

ただ、オーバーロードだけははっきりと思い出せた。

今生でSNSでユグドラシルのロゴを見たとき、それらだけは明確に蘇ったのだ。モモンガさん、アインズ・ウール・ゴウン、ナザリック地下大墳墓、NPCたち、ギルドメンバーたち。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国…。

少々穴抜けながらもオーバーロードを思い出したら彼らに会いたくて、ユグドラシルをプレイし始めた。

 

 

そうして未知の世界を楽しんでいるうちに、モモンガさんたちのことはすっぽりと頭の中から抜け落ちてしまう。ぽんこつな私は1年以上アインズ・ウール・ゴウンとはまったく関係ないプレイヤーと一緒に遊びまわる。

楽しく初心者時代をプレイできたのはいい思い出だし、遊んでくれたメンバーとは友達になれた。けれども、オバロファンなのに原作を忘れてしまったことが情けなくてし、ばらく落ち込んだ。

 

 

パインは、今回は大丈夫だと思いたかった。

「(原作の流れは紙に書き出しておいた。だから大まかな流れはわかる。でもモモンガさんがいない。私が残り、彼がいないことがとても怖い)」

何度も押し寄せる不安は引いてくれず、じわじわと前を向いて歩もうとする足にからみつくようだ。

 

やがて格子戸の前に立つと、それは自動ドアのように上へ持ち上がった。完全に上がりきったところで潜り抜ける。二人は円形闘技場(コロッセウム)へ入場した。

広大な広場を囲む高い壁、その上には客席が見える。客席のほとんどにゴーレムが座っていた。

「(うん……。転移する前と特に変わりないかな)」

いろんな場所に永続光(コンティニュアル・ライト)の魔法がかかっており、闘技場は昼より明るい。

 

私は守護者たちの到着を待たず、コロッセウム広場の一角―低い舞台―に向かう。広場で、“忠誠の儀”ができるのは、あそこだけだし。

 

「パイン・ツリー様!」

高い声は貴賓席から聞こえた。そちらへ顔を向けると、金髪に、白色のベストとズボンが目印の守護者がいた。彼女は本で見せたように、貴賓席から跳躍した。映像で見た体操選手よりも美しい回転をし、六階建ての建物に相当する高さから、無傷で着地をしてみせた。

なんて軽業だろうか。「お~」と思わず感嘆の声が漏れた。私も、レベル100だし、同じようにできるかな。

小走りで―それでも獣の全速力のように速く―こちらにやって来る。

私たちの距離はあっというまに縮まった。両足で急ブレーキをかける。≪ザザザ≫と広場が削れて、土煙が上がった。そして煙はパインに届かない。煙たさも感じない。……これは、どのように調整すればできるんだろう?

 

「お待たせいたしました。パイン・ツリー様、パンドラズ・アクター、あたしの守護階層へようこそ」

 

第六階層守護者、双子の姉、アウラ・ベラ・フィオーラ。金髪に薄黒い肌を持つダークエルフ。年齢は10歳ぐらい。髪は肩口で切り揃えられていて、サラサラだ。職業は魔獣使い(ビーストテイマー)と野伏(レンジャー)。活発な女の子だ。

 

いつか、アニメで聞いたあの可愛らしい声の女の子は、目の前でニコニコ笑っている。

とってもかわいいです。

そして彼女の口から色のついたブレスが漏れた。

これは彼女の能力で硬化は精神異常だったかな。

まるでピンクの綿菓子のようなカラーが綺麗で、手ですくおうとしても息は逃れるだけだ。その様子に疑問に思ったアウラが口を開ける。

「パイン様、アタシの息が何か?」

「ピンクの綿菓子みたいに綺麗な色だったから触ってみたくて……気に障ったかしら?」

アウラはバタバタと両手を振る。

「まさか!アタシの息を気に入っていただけてすごく嬉しいぐらいです」

耳がゆるりと垂れ下がり少し赤いので、お世辞ではないと結論付ける。しかし、恥ずかしかったのかブレスはそれ以上見れなかった。

そういえば挨拶がまだだった。

 

「こんばんは、アウラ」

「こんばんは、パイン・ツリー様!」

彼女はにっこり笑ってくれる。笑顔いただきました。嬉しいです!

「ごきげんよう、アウラ殿。お久りぶりですね」

「久しぶりだね、パンドラズ・アクター。今日は、パイン・ツリー様の護衛を任されたの?」

「ええ、左様でございます」

NPCのやりとりを見て、頬が緩む。生でNPC同士の交流を見て興奮した。目の前で大好きなアウラとパンドラがニコニコしていると、とても嬉しい。幸せ!

しかし落ち着いて。気分が上がるのはいいけど、上司のロールプレイを崩さないようにしないと。口調と動きには注意しつつ、自然体に、それでいて私らしくすること。

私らしくだと…そうだ。日付変わったから、お菓子配らないと。

「あの…これ、今日はまだお菓子を渡していなかったから、どうぞ」

アイテムボックスから、簡単にラッピングされたクッキーの詰め合わせを取り出し、アウラに渡した。そしてパンドラズ・アクターにも渡す。

アウラとパンドラは菓子を丁重にを受け取り、各々の喜びを表現した。

「いつも、ありがとうございます!あたし、パイン・ツリー様がくださるお菓子が大好きなんです!やったー!!」

「ありがとございます!いつも頂いているとはいえ、やはりパイン・ツリー様から直接いただけるのは、大変嬉しいものですね。このクッキー、大事に頂戴します」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。また、持ってくるね」

そんなに喜んでもらえると、渡しがいがある。

私とモモンガさんしかログインしなくなった頃から、私はNPCたちにお菓子を配るようになった。みんなが寂しくならないようにと、そして自分の寂寥感を紛らわすために。

ユグドラシル時代では、当たり前だけど渡したお菓子の感想を聞けなかった。今、こうしてこの子たちと話すことができて、心が満たされていく。異世界への転移で、モモンガさんの行方も知れず、不安が積るけれど、頑張っていこうと思うのだ。

 

そしてパインはアイテムボックスから、赤い皮の手帳を取り出す。見た目は薄く、幅は5cmほどで、女性の手の平サイズの大きさだ。手帳の入れ替わりに、持っていた杖をアイテムボックスにしまう。

手帳にはいくつかの付箋が貼られている。その中でクッキー型のものが貼られたページを開いた。一番左には今日の日付、その右隣に“Present for NPC”というタイトルが見える。ページの左端にはNPCたちの名前が縦一列に並び、パインはアウラとパンドラの横に“〇”を書き込んだ。

これでよし。パインは手帳をアイテムボックスに戻そうとして、やめた。ここにはもう一人渡す相手がいる。

「そういえば、マーレは?」

「マーレはあそこです」

アウラは、自分が飛び降りた貴賓席を指差した。

たしか、マーレの登場が遅れたのって、階段を使って降りようとしたからだよね。

「そう。うん、時期に来るだろうし、私たちは先にあそこへ行きましょう」

視線の先には、原作でモモンガさんが守護者たちと会っていたあの場所―コロッセウム広場の一角にある低い舞台―だ。

「あそこで皆を待ちましょう」

「かしこまりました」

「かしこまりました。…あの、パイン・ツリー様。皆というのは?」

「階層守護者たちだよ。彼らにここに来るよう呼んだの」

「なら、歓迎の準備を―」

「ううん、必要ないよ。1時間も経たず、来るでしょうし」

「そうですか。―ということは、シャルティアも!?」

「そうだよ」

「……はあ」

がくりと、肩と耳が垂れるアウラ。さっきまでの元気はどこへいったのか。

「おや、どうされましたか?アウラ殿」

「なんでもない…。そうだ、パンドラズ・アクター。私の事は呼び捨てでいいよ。それぞれ立場は違うけれど、同じナザリックの仲間なんだしさ」

「そうですか。では、そのようにしましょう。よろしければ、私のことは“パンドラ”とお呼びください。それが愛称なので」

「うん、オッケー。これからはそう呼ぶね」

パンドラズ・アクターは、ほとんどのNPCたちとユグドラシル時代に顔を合わせている。モモンガさんの許可を得て、私が彼を連れまわしたからだ。こうやってパンドラを表に出しておけば、異世界に転移した後も、彼を早い段階で宝物殿から出すことができる。そうすれば、ナザリックはより繁栄すると思ったのだ。といっても、ゲーム中は私がNPCを使ってお人形遊びしているようにしか、見えなかっただろう。まあ、ヘドラを作った当初からやっていたし、「よくやるなー」程度に思われているでしょ…多分。

 

 

マーレは3人が目的の場所に辿り着くちょっと後に、やって来た。

「お、お待たせしました。パイン・ツリー様」

「それほど待ってないよ、マーレ」

彼の本気の走りはアウラと比べるとずいぶん遅かった。途中でアウラが我慢しきれず「はやくしなさい!」と声を荒げたほどだ。

アウラにそっくりなダークエルフは、男の子のはずなのに、スカートをはいていた。そう、男の娘というやつだ。堂々とした双子の姉とは違い、おどおどとしている。

彼は設定故に弱気な態度なのだとわかっているけど、私が怖がらせてしまったようで申し訳ない気持ちになる。あ、そうだ。

「さっき、二人にも渡したの。これはマーレの分ね」

「あ、ありがとうございます!パイン・ツリー様からいただくこのお菓子、とっても甘くて美味しくて、ぼくは大好きです」

よかった、笑顔になった。「嬉しい。また持ってくるからね」と私も笑顔で返す。といっても、顔が真っ黒だから表情なんてないけど。顔があったら、にこにこなのよ?

「お姉ちゃん、今日もパイン・ツリー様からお菓子が貰えたよ」

「よかったね、マーレ。あたしもパンドラもさっき貰ったんだよ!」

「そ、そうなんだ。こ、こんにちは、パンドラズ・アクターさん」

「ごきげんよう、マーレ殿。お久しぶりでございますね」

「お、お久しぶりです。呼び捨てで結構ですよ。き、今日はどうしてここへ?」

「かしこまりました。これからはマーレと呼びましょう。階層守護者たちを第6階層に集まるようパイン様がご命令されました。時期に皆さん集まるでしょう」

「そ、そうだったんだ」

こくりと頷く。動作が一つ一つ丁寧で、かわいい。ああー胸がキュンとしてます。

しかし、このままではいけない。私は仰ぎ、第6階層の夜空を眺めた。このまま3人と話していたら、そのかわいさに口元がにやける。例え表情がわからなくても、声でわかるだろう。意識を彼らから、そらさなければならない。うん、ここは実験を行おう。私の攻撃の要、召喚は無事にできた。

「アウラ、マーレ、藁人形を用意してくれる?」

「え?はい、すぐにご用意できますけど」

「わ、藁人形で何をされるのですか?」

「私の能力の確認よ」

「?」

二人から不思議そうに見つめられる。なぜ、そうする必要があるのかと、表情が語った。「今確認しておきたいの」と伝える。

 

 

 

 

手帳に書き込んでいる間に、筋肉隆々の人型をしたドラゴンのモンスターが藁人形を二つ、私から五十メートル離れた場所に設置した。彼らが離れてから行動する。

 

一つは、杖を剣のごとくふるい、斬撃を飛ばして人形を真っ二つにした。マーレが「すごい!」と驚く。たしかに魔法詠唱者がこんな芸当ができるのは珍しいだろう。

私も驚いた。できちゃったよ!と心の中で騒ぐ。宝物殿に置いてきた本体との力の繋がりを明確に感じとれるので、それを引き出すつもりで杖を剣のように振り下ろしたのだ。まさか戦士の真似事がやれてしまうとは思わなかった。

この体の身体能力は高いと考えられる。必要があれば囮として時間を稼げそうだ。

 

ちょっと調子がのってきたので、今度は攻撃を創作してみる。これもできる気がしたのだ。なのでアニメを思い出して、もっと自由に攻撃方法を考えてみたのだ。

 

杖の先、二股の間にある宝石にエネルギーを込める。ボワァと輝きはじめ、その状態を維持しつつ杖を藁人形に向ける。エネルギーはビームのように真っ直ぐ、当たれば弾け飛ぶとつよく想い、そして発射した。

ビームは細く大した反動はなかった。けれど瞬きの間も無く--

バァン!!!

まるで風船のごとく、広場全体に藁を飛ばして人形は華やかに弾ける。攻撃は人形にのみ作用し、施設は傷ついていない。

実験の成功にパインは胸をなでおろした。

 

その周りでは拍手が起こる。

「パイン・ツリー様すごいです!あのビーム最初は強くないものなのかなって思ったんですけど、藁人形が闘技場中に吹き飛んじゃいました!」

「さ、さすがは至高の御方。ぼ、ぼく杖で斬撃を飛ばすところはじめて見ました!」

「お見事でございます。どれもはじめて見る攻撃ばかりでした。後学のためにぜひ教えていただきたいものです」

めっちゃ褒めてくれるじゃん!ありがとう、照れ臭いよ。

「んん、ありがとう。楽しんでもらえたのなら嬉しいわ」

 

まだ空中をパラパラと散る藁を見上げる。

攻撃の幅は広がった。果たして器用貧乏になるか、使いこなせるのか。すべては鍛錬次第だろう。

戦士職のNPCたちを練習に誘ってみよう。

 

【つづく】

 


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