第1節 最悪の出会い
さて、これはどうしたもんだろう?
目の前の情景を前に、頭の中の思考や浮かぶ感情を抑制して顔に出さないように努めつつ。
自他共に認める木っ端魔術師な俺は思案にふける。
「フォウ! フォウフォウ、キャ~~ウ……」
先ほどからこちらを見上げて鳴いているこの生き物。
この怪生物は仕事を受けてやってきた俺がエントランスをくぐった途端に出くわしたのだが。
通路のど真ん中に鎮座して――るだけなら普通にやり過ごしていただろう。
こちらが気にしないなら、向こうも気にせずそのまますれ違う。 そう思っていたのだから。
ところが実際には俺を一目見た途端これである。
まさかとは思うが。
「お出迎え? コレが?」
募集されたスタッフのうち、俺が採用された部署の採用内訳は採用決定時に聞いてはいた。
適性のある魔術師と、(どうもそれだけでは足りなかったのか)まさかの一般枠から複数名。
守秘義務とやらで俺を採用した担当官は相当ぼかしてはいたが、魔術師ならば察せるといった具合にうまく説明してくれたおかげで概要はおおむねわかっている。
これが一般枠なら名前順か採用順か、とにかく識別以上の意味は持たないわけだが……これが魔術師ともなるとそれ以上の意味を持つ。
要するに割り振られたナンバーがすべてを物語っているわけだ。
つまり俺に与えられた38というラストナンバーは、序列を気にする魔術師の意識に沿って割り振られたもので。
結論としては出迎えるスタッフを割くほどの存在は一人もない、と到着早々自分の席次を思い知らされたわけだ。
まぁ、無理もない事ではある。
ぶっちゃけた話をすると、俺という存在は実力の低さに反して知名度は高いのである。 もちろん悪い意味で。
かくいうこちらも、ここのトップ(或いは採用担当責任者)は一体どんな酔狂な人物かと興味を持ってやってきたわけだからお互い様ではあるのだが。
なんてことを取り留めもなく考えているうちに。
あの怪生物は、いつの間にか姿が見えなくなり。
そしていつの間にか肩が少し重くなっていた。
何が起きたのかは、頬に押し付けられた肉球の感触で察する。
やや強引に押し付けられる肉球に逆らわずに首を動かせば。
「おや、君は……? 今日は来客はないと聞いていたのだがね?」
これまたいつの間にやってきたのやら。
視線の先に延びている通路の陰からやってきたであろう、紳士ともいうべき男性がこちらを怪訝そうに見ていた。
流石に腕のいい魔術師らしく、人のよさそうな如才ない表情を「作り慣れている」であろう彼をして。
その表情が一時的にでも消えてしまう程に怪しまれていては名乗らざるを得ない。
「ああ、キミが……なるほど。
しかし随分とまた間の悪い、いや。 失礼。 それでは君の部屋に案内しようか」
こういう時、いかなる意味であろうと知名度と言うものは非常に役に立つものだ。
名乗りさえすれば身分証明になるのだから。
ただ、流石に俺のことを風の噂ででも耳にしていたか彼の表情は一瞬固まっていた。
見ただけでわかる魔術師としての格と彼が身にまとう雰囲気から。 この場における彼の立場が相当上であることは見て取れる。
で、そんなエリート魔術師からすれば、その界隈で悪目立ちした俺と言う魔術師を目にすればお決まりの流れになるのも無理はない。
むしろ抱いたであろう感情を表情に出さずに、寸前で押しとどめたことこそ称賛を送ってやりたいほどだ。
そして、この件に関して俺は彼に敗北を喫することになる。
何しろ彼の名前を聞いた時、俺は驚きにあまり声が裏返り、表情を取り繕う事も出来なかったのだから。
でも、一つだけ言わせてほしい。
ここのスタッフの中でもトップに近い重鎮にいの一番に出くわして案内させた。
これだけでも事案であるのに、よりにもよってこの御仁はトップのお気に入り。
俺がこの後どうなったかと言うと……語るまでもないのだが一言だけ。
窓際街道一直線!
流石はあの/ひと!
主人公を一発で窮地に追いやるとか、悪の所業ですね!