不良少年は譲らない   作:ポーラテック

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Rooftops

フィルター越しに燻された葉が発する煙を吸い込む。

「フーッ…」

肺に入れたそれは仄かに甘く、吐き出した紫煙は中空へ解けて消えた。

ぼんやりと火のついたタバコを持ちながら眼下を見下ろす。

それなりに大きいグラウンドでは体育の授業だろうか、黄色い歓声を上げながら女子生徒たちがサッカーの試合中だった。

「うるせぇなぁ」

ドリブルを妨害した生徒がもみくちゃになって倒れて悲鳴にも似た声がココまで届く。

女子特有の甲高い声に不快感を感じて、俺は悪態をついた。

何だって女子の声と言うのは聴く者に不快感を与えるキンキン声なのだろうか。

電車や教室でバカ話をする女子は不愉快でたまらない。

授業終了のチャイムが鳴り、バラバラと教室へ引き上げ始める生徒達を見ながらそう思った。

「…ハァ」

身体を預けた鉄柵から離れ、タバコを口に運んで煙を肺へ入れて吐き出す。

チャイムが鳴ったという事は6時間目の授業が終わり、残すはホームルームのみという事だ。

残り10分20分したらもう下校するとしよう。

屋上で入り口の影に敷いたシートに座り込み、俺はまだ屋上に居座る事にした。

 

暫くボーっと適当な教室を眺めていると、不意に背後の鉄扉が開かれた。

腕時計を確認する。

何時も通りの時間だ。

「居た居た、またサボり?」

「まぁな」

スペースを確保する為、少し隅に退いてやると彼女は俺の隣に座った。

「サボってばっかりだと留年するわよ?」

「最低限授業出てっから平気だろ」

「貴方授業出ても寝てばっかりじゃない…まぁいいわ、一本頂戴」

「ん」

懐から今朝開封したばかりのタバコの箱を取り出して差し出す。

「ありがと」

無造作にそこから一本取り出すと、形の良い唇に咥えた。

「火」

「あいよ」

安物のライターで彼女に提供したタバコに着火してやる。

100円ライターの火で炙られ、燻された煙を吸い込む彼女の一連の仕草は手馴れていた。

「フーッ」

「最近良く来るな」

制服に匂いが着くのを気にして遠くへ煙を吐き出す彼女に声を掛けた。

ココ最近、彼女は毎日の様に屋上へ通い詰めている。

「誰かさんと違って忙しくてね。その分休憩」

「生徒会長も大変だな」

「本心からそう思ってる?」

「さぁ」

日本人には珍しい金髪を搔き揚げ、タバコを吸う彼女の姿を見ながら自身も紫煙を肺へ送っていると、視線に気付いた彼女から怪訝な視線を返される。

「…何?」

「いや?文武両道才色兼備を地で往く生徒会長が、ウラでは未成年喫煙者なんて知ったら絢瀬を慕う生徒や先生はどう思うのかなって」

絢瀬絵里。

俺の同級生でこの学校の生徒会長を務める彼女は極めて優秀な成績を納めている模範的生徒で、その大人びた雰囲気と端整な容姿、モデル顔負けのスタイルもあって生徒から――特に同性から――絶大な人気を誇っている。

とても俺とは釣り合いが取れていない。

「あなた、バラしたら殺すわよ」

「恐っ」

蒼い瞳で睨んで来る絢瀬にとりあえずビビッた素振りをしておく。

「それにロシアだとお酒とタバコは18からオーケーなの。私は今年で18だしノーカンよノーカン」

「さすが喫煙率上位の国」

「…ハァ、誰も面倒くさがってやりたがらない仕事やってるんだから、コレ位多めに見て欲しいものだわ」

「生徒会、今そんなに忙しいのか」

「ええ、廃校問題でてんやわんやよ…その他にもやる仕事はたくさんあるのに」

やってられない、と言わんばかりに絢瀬はまた煙を吐き出した。

少子化に伴う入学希望者の減少で、3年後我が母校国立音ノ木学院は廃校となる。

新年度始業式、いきなり理事長から伝えられたらしい。

といっても俺は始業式をサボったので、クラスメートから伝え聞いたのだが。

「共学化もムダだったってワケか」

生徒数減少自体は数年前から兆候が見られた音ノ木坂学院は、状況打開の為思い切った策に出た。

女子校だったのを共学化したのである。

共学化から少しの間は生徒数は増加したらしいが、現在は3年生3クラス、2年生2クラス、1年生1クラスと共学化は一時的な延命措置という結果に終わった。

「入学希望者を増やさないと廃校を免れる事はできない…生徒会や各クラブ、委員会も意見を出し合ってる所よ。あなたも何か思いついたら意見もらえる?」

「俺が考えつく事は絢瀬も考え付いてると思うけどな…ま、考えとく」

言いながらフィルター直近まで吸いきった絢瀬のタバコを受け取り、携帯灰皿に入れて火を揉み消す。

吸殻や灰を残しては喫煙がバレて指導を貰ってしまうので、後始末は入念にしなくてはならない。

「ありがとう…そろそろ行くわ。あんまり遅いとあなたとツルんでるのがばれちゃう」

一本吸いきった綾瀬は、スカートを叩いてシートから立ち上がる。

懐から取り出した口臭ケア用のタブレットを噛むなど、証拠隠滅は徹底している。

「あなたも程々にね」

「ん」

屋上から立ち去る絢瀬に会釈をして見送る。

「俺もそろそろ帰るか」

タバコの火を消し、吸殻と灰を携帯灰皿に回収して昼寝シートの片付けを始める。

絢瀬と同じタイミングで屋上を出ては俺と絢瀬の関係が疑われ、喫煙もバレてしまうので立ち去るタイミングをずらすのは暗黙の了解だった。

 

放課後、完璧で通っている生徒会長とこっそり悪い事をする。

コレが俺、村田武憲の日常である。




Rooftops(Sean Murray)
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