不良少年は譲らない   作:ポーラテック

5 / 8
最果てが見たい

本日ハ晴天ナリ。

春の暖かな日差しと心地よい気温は絶好の昼寝日和である。

ここでタバコを吸いながら時間を気にせず寛げたらどんなに気持ち良いだろうか、想像に難くない。

しかし今俺は屋上の隅で何をするでもなくレジャーシートに座っており、タバコは懐から取り出してすらいない。

原因は最近増えた()()()にある。

「ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー」

園田の手拍子に合わせて高坂と南がステップを踏む。

しかしその動きは少々ぎこちなく、互いに合わせて動くべきであろう部分もズレていたり、ステップ自体も踏み間違えたりと素人目線でも拙いのが見て取れる。

全くの素人がトレーナーの指導もなく独学で、しかも練習を始めて数日という事を鑑みれば充分と言えるのだろうが。

「穂乃果、2番目のステップと3番目のステップが間違っていますよ!順番を入れ替えてください!」

「うんっ!」

「ことりは全体的にテンポが遅れ気味です!気持ちテンポ上げ気味に!」

「はいっ!」

2人の問題点を園田が指摘、的確に修正の指示を出して指示通り矯正する。

この数日試行錯誤し、ダンスは園田が指導しつつ高坂と南がそれに追従する形に落ち着いた。

素人3人組がプロの指導無く僅か数日で何となくではあるが形が出来つつある状態に持っていけてるので大したセンスである。

 

「どうでしたか!?今日の練習!」

「そうだな…初日に比べたら凄い進歩だと思う」

感想をねだる高坂に答える。

練習初日は予想は出来たが酷い有様であった。

取り敢えず、と踊ってみればステップは間違え、隣とぶつかる、タイミングはズレ、テンポはバラバラ。

ゆくゆくは大々的なライブを行い、学校の名前を売り出すのはかなり茨の道である事は十二分に見て取れたが、この上達ぶりなら何とかなるのではないかとすら思わせるものがある。

「ホントですか!?やっぱり穂乃果たち上手くなってるよ!海未ちゃん!ことりちゃん!」

「うん、ことりも穂乃果ちゃんと海未ちゃん見てて思ってた」

「私も正直驚きました。ここまで早く上達するとは」

「園田の教え方が良いんだと思う。どこが悪くてどうすれば良いかすぐ指摘してるから高坂と南も修正出来るんだろ」

「そ、そうですか?ありがとうございます」

俺の賞賛に対する園田の返答は固い。

これでも初日に比べたら大分柔らかくはなったとは思うが、完全に打ち解けるにはまだまだ時間がかかるだろう。

「海未ちゃんの教え方が上手なのももちろんだけど、村田先輩が居てくれるお陰だって穂乃果は思うな」

「俺?」

高坂から出た意外な言葉に思わず聞き返す。

俺のおかげとはどういうわけだろうか。

「そうですよ。見られてるって思うと、良い感じのプレッシャーになって集中出来るんです」

「そういうもんか?」

「そういうもんです!」

前に出て注目を浴びる様な経験をした事が無いので、俺には高坂の言い分はよく分からない。

「そうかも…それにことり達、これから大勢の前で歌うんだから人の目にも慣れなきゃ」

「うっ、人の目ですか…」

が、南の意見で納得した。

これから高坂達は不特定多数の衆人観衆の前で歌う事になる。

恐らくステージ上で歌うなど初めての経験の彼女たちにとって、人目によるプレッシャーの克服はアイドル活動をする上で重要なプロセスになる。

「そうです、今は村田先輩だけですがゆくゆくは大勢の人前で…ああ…」

特に、人目というワードに苦い顔をしている園田には特に重要だ。

 

不意に屋上の鉄扉が開かれ、俺たちは一斉にそちらへ視線をやった。

「…あっ」

現れた人物は予想外の組み合わせに驚いた表情を見せる。

「生徒会長?」

「…」

高坂の言葉を受けた絢瀬は硬い表情を作り、沈黙で応えた。

ちら、と左手首の腕時計を確認すれば絢瀬が屋上に現れる何時もの時間だ。

最近は姿を見せなかったので失念していたが…。

「…何の用でしょうか」

「貴女達に用はないわ。用があるのは村田くんよ」

警戒の色濃い園田の問いに毅然とした態度で絢瀬が応える。

未成年喫煙をしに来た不良生徒会長とは思えない。

「村田くん、ちょっと」

絢瀬は必要最低限の言葉を残して校舎内へと戻る。

それに追従するべくシートから立ち上がった。

「村田先輩?大丈夫なんですか?」

生徒会長直々の呼び出しを心配してくれているのか、高坂が不安そうに声をかけてくる。

「まさか、何か問題を起こしてしまったとか…」

「生徒会長が直接探しに来るなんてよっぽどですよ?」

園田と南も高坂に続く。

2人は俺の不良なイメージからして、絢瀬がここに来た目的ーー俺に愚痴りながら未成年喫煙ーーを全く見当もつかない様子で、俺が何かしらの問題で呼び出されていると思い込んでいるようだ。

俺と絢瀬のあまり大っぴらに出来ない関係を広められると不味いので思い込んでくれるのは有難い。

「大丈夫だ。そんな大げさな事じゃないからな」

それに、絢瀬の表情からどんな言葉をかけられるのかは容易に予想出来る事だし。

 

「村田くん、あなたはあの娘たちとどういう関係なのかしら」

ホラな、と内心で思った。

校舎へ続く階段の踊り場で待ち構えていた絢瀬に無人の生徒会室に連行された俺はパイプ椅子に座らされ、机を挟んで向かい合った絢瀬の尋問を受けている。

「別に。練習で屋上使いたいって言うし俺も暇だから練習見学してるだけ」

「それだけ?ずいぶん親しげだったけれど」

「あの高坂って奴がグイグイ来てるだけだよ」

「ふぅん…そう…」

疑わしげに絢瀬が半目で俺を睨む。

どうやら俺の答えには満足いただけていないらしい。

「随分あいつらに突っかかるんだな」

空気を変えようと話題を逸らす。

皆に慕われる美少女生徒会長が一生徒に向ける態度と高坂たちへのそれは余りに冷たく突き放すように俺には映ったからだ。

「当然よ。あの娘たちの遊びに学校が付き合う余裕も時間もないの。早く諦めてもらうには仕方ないわ」

「遊び、ってな」

手探りながら真剣に学校を守ろうと努力している高坂達に対してその発言はあんまりではないか。

たった数日だが真面目に練習を見た身としては、正直腹が立った。

「…じゃあよ、絢瀬には何か手があんのか?廃校阻止できる一発逆転、起死回生の手がよ」

「…それ、は」

絢瀬の目が動揺で揺れる。

そう、結局絢瀬率いる生徒会は未だ廃校を免れる手段すら見付けられて居ない。

理事長方針で生徒会の活動に待ったを掛けられている現状、高坂達の様に自分なりの考えで動く生徒を励ますまでは行かなくても、見守るぐらいはしてやっても良いのではないか。

「でも、スクールアイドルは駄目よ!学校のPRに失敗すればイメージの悪化にも」

「そう言うけどよ。無くなるのが決まり掛けの学校にイメージ悪化もクソも無いんじゃねぇのか?どうせ無くなるなら思う存分使ってやりゃ良いじゃねぇか」

「…何で、あの娘達の肩ばかり持つの?」

「え?」

俺に弁を遮られた絢瀬は、俯くと腹の底から絞り出す様に呟いた。

一瞬だけ、その時の表情はとても悔しそうな、それでいて悲しそうに見えた。

「…もう良いわ、話は終わりよ。私はまだ仕事があるから」

そのまま視線を切った絢瀬は書類が山と積まれた自分の机に着き、何やら書き物を始めた。

まるで俺など存在しないかのように。

 

不意に開かれたドアに私は咄嗟に身を引く。

「あっ」

その拍子に抱えた書類を廊下へ撒いてしまった。

単純なミスを恥じながらしゃがんで書類を集めようとすると、私以外の手が書類を集め始める。

「…悪い」

目が合った私に詫びたその少年の風態は生徒の模範たる生徒会、その本拠地である生徒会室には似つかわしく無い。

無造作な纏まりのない髪。

にだらしなく緩めたブレザーのネクタイ。

第2ボタンまで外したシワのよったYシャツ。

恐らく勉強道具など一切入って居ないであろうぺったんこの学生鞄。

人目で真面目な生徒ではない、私と同じ色のネクタイの少年を、直接話したことこそないが私は知っている。

ーー村田武憲、音ノ木坂学院内でもっぱら不良であると有名な3年生。

授業ボイコットの常習犯で他校生徒と喧嘩の目撃情報もある要注意人物だ。

特定の不良グループに所属する訳でもなく、いつも1人で過ごしているのでこちらから喧嘩をふっかけなければさほど危険性はないので生徒会もスルーしていたが、そんな彼が生徒会に何の用だろうか。

「うん、大丈夫よ。ありがと」

村田君が集め終わり、差し出された書類を受け取る。

どうやら噂に聞くより紳士的であるらしい。

「そうか…それじゃ」

立ち去ろうと歩みを進める前、村田君が生徒会を覗き込む。

「邪魔したな、絢瀬」

えりち?

村田君の視線の先には書類仕事に取り掛かっている私の親友が居た。

「…」

しかしえりちは呼ばれても顔を上げようともせず黙殺するかのように村田君に反応しない。

「…ハァ」

そんなえりちの反応に、メンドくさそうな溜息をついて村田君は去っていった。

「えりち?」

「…希?どうしたの?」

私の声でようやく顔を上げたえりちの様子は普段と変わらない。

いや、若干の不機嫌さを雰囲気に滲ませている。

やはり村田君と何かあったのだろうか。

「頼まれた書類持って来たよ」

「ああ、そこへ置いておいて。悪いわね、お使いなんてさせて」

「別にええよ。というか、今の村田武憲君やろ?生徒会室に居るなんてなんかあったん?」

不良と生徒会。

相反する2つが先程まで同居していた事がつい気になった私は親友に探りを入れてみる。

すると、あからさまにえりちは顔を曇らせた。

「別に。さっき屋上でサボってたから呼び出して指導しただけよ」

「屋上で?」

はて、さっきと言うが、さっきまで屋上では暫定スクールアイドルの卵候補たちが練習していて、まだ続けている筈だ。

そこに数時間前講堂の使用申請の件で揉めていた3人組と村田君、えりちが居るとはどういうワケだろうか。

「気になるなぁ」

「…何が?」

「ううん、何でもないよ?」

スクールアイドル、不良、生徒会長。

相反しすぎる要素が揃っているとは実に興味をそそられる。

(…調べてみよっかな)

最近は廃校なんてショックな出来事こそあれど面白い事が立て続けに起こる。

実に、実に愉快ではないか。




最果てが見たい(椎名林檎)

えりちの嫉妬ファイヤー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。