不良少年は譲らない   作:ポーラテック

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May I Help You?

「村田、職員室の蛍光灯変えてくれるか?」

「村田くん、空き教室の机と椅子を全部倉庫に運んでくれる?え?1人でだけど?」

「村田ァ、俺掃除してたら雑巾落としてトイレ詰まっちゃってさぁ、治してくれよ」

「村田先輩、校内に野良猫が忍び込んだそうなので捕まえて外へ逃がしてください。それと侵入した箇所の特定と補修もお願いします」

「村田くん!」

「村田先輩!」

「村田!」

 

「村田ったら!起きなさいよ!」

「…」

体を揺さぶられて嫌々体を起こす。

悪い寝方をしたのか、頭は僅かな痛みを訴えている。

「…今何時?」

霞みがかった頭のまま、起こしてくれた矢澤に問う。

「何時って、もうホームルーム終わったわよ…アンタ、昼休みどっかから帰ってきてからずっと寝てたから死んだと思ったわよ」

「んー、朝から明日の新入生歓迎会の準備でな」

「そんな事もやらされてる訳?」

「あー、んー」

「…生徒会のパシリになってからずっとこんな調子だけど大丈夫?」

適当な俺の生返事に、生徒会にこき使われているーー弱みを握られている事実は誤魔化したーー事情を知る矢澤は心配そうな表情を見せる。

「何だ、心配してくれてんのか?」

「当たり前でしょ。あんたが居なくなったら誰がウチに食材卸すのよ」

「流石のドライっぷりだ。将来大物になれる」

軽口の応酬も切り上げて俺は机から立ち上がる。

「またどっか行くの?」

「放課後アルパカ小屋の掃除やれって頼まれてる…あーっ」

伸びをして首と肩、腰を回すと小気味良い音が各部位の骨から鳴った。

すっかりおっさん臭くなってしまったものだ。

「ねぇ、ホントに大丈夫なんでしょうね。学校で休み時間は生徒会にこき使われて、学校終わったらバイトして…身体持つの?」

「大丈夫だ。授業中バッチリ休んでるからな」

「それで授業内容は?」

「何言ってんだ?覚えてる訳ないだろ」

「何で奉仕活動やらされてるのか考えなさいよ!」

周囲にはありのままの事実を伝える訳にはいかないので、俺の生活態度改善の為に生徒会に奉仕活動をさせられている事にしている。

普段から授業をサボる俺の態度をよく知っていた為あっさりとこの嘘は浸透した。

自業自得です、と園田の厳しい意見が身に刺さりはしたが。

「心配してくれるんなら、次の弁当は春巻きが食いたいな」

「…わかったわよ、回鍋肉も付けたげるわ」

「サンキュー」

矢澤の優しさに感謝しつつ、今日も今日とて俺はコキ使われに向かうのだった。

 

何回か飼育小屋の掃除をしてわかった事だがアルパカというのはなかなかどうして頭が良い。

トイレは毎度決まった場所でしてくれるし、大人しいので掃除の邪魔をする事はあまり無い。

「…おい」

訂正、時々ちょっかいをかけてくる。

俺のジャージの裾を噛んで引っ張って来る白いアルパカは特にそれが顕著だ。

「離せ白いの。伸びるだろ」

箒を動かす手を止め、掌で軽く白アルパカの鼻を押すと素直に引き下がる。

「すぐ終わるから待ってろ、な?」

言葉を理解しているかはわからないが、アルパカ特有の長い首を撫でながら語りかけると不思議とこの白いのは言う事を聞いてくれる…と思う。

はじめに無理やり動かそうとして臭さ過ぎる唾を顔面に引っ掛けられれば、否応にもアプローチは慎重になる。

「小泉?どうした?」

「えっ?あっ、えっと…」

飼育小屋の隅で大人しくしている茶色アルパカーーおそらく番ーーの元へ戻った白いのを見送っていると、こちらを眺めている一年生と目があった。

そもそも俺がこうしてアルパカの世話係をしているのは、元々の世話係である今わたわたしている彼女、小泉花陽をサポートしろ、との東條からの名を受けての事だ。

他の飼育係が軒並みサボるのでその穴埋めという訳である。

「む、村田先輩って動物、す、好きなんですか?」

「…まぁ嫌いじゃない」

おどおどしている小泉に答える。

人間と違って動物は素直で嘘を付かない。

それだけで俺の中で動物に対する印象はかなり良く、好きと言えるかもしれない。

「そっそうなんですか。アルパカさん、村田先輩によく懐いてるし、村田先輩もアルパカさんと接してる時楽しそうにしてるから、好きなのかなって」

「楽しそうに、なぁ」

自分では普通にしているつもりなのだが外野にはそう見えるのだろうか。

「あっ、あの、ごめんなさい!」

などと考えていると小泉は唐突に俺に謝罪した。

気分を害したと思ったようだ。

…いい加減1週間近く一緒に掃除しているのだから、俺がそんなことで一々腹を立てる人間でないとわかって欲しい。

この数日、一緒に飼育小屋の掃除をして分かったが小泉は相当な人見知りだ。

特に異性に対しては男性恐怖症と言っても差し支えないレベルの。

こちらの一挙手一投足すべてに萎縮していた初日から比べれば少しは慣れてくれた、と考えられなくもない。

まぁ、そのうち慣れるだろうし無理に関わったりする必要はないだろう。

どうせ飼育小屋でしか会わない薄い繋がりだ。

 

「…よし、終わりだな」

ざっと小屋を見渡し、綺麗になった事を確認し頷く。

アルパカは頭が良く人懐こいとはいえ、草は1日1キロは食べるし走り回って小屋の草を散らしてしまうので飼育は以外と大変だ。

特にエサやりは小柄で運動部には所属していないらしい小泉には一苦労だろう。

「ホラ、もう良いぞ」

小屋の支柱に繋いでおいたアルパカ二匹を解放してやる。

リードを解いた瞬間、二匹から俺は揉みくちゃにされる事になった。

「ああもうわかったから!ジャージ引っ張んな!髪を食うないででで!」

「ダ、ダメェ!アルパカさん!」

小泉が俺からつぶらな瞳の白いヤツと目が隠れてる茶色いヤツを引き離そうとすると二匹ともすんなり小泉に従う。

「あっ、ふふっ」

俺への過激なスキンシップとは打って変わり、小泉へのそれは鼻をこすりつけたり匂いを嗅いだりと大人しいものである。

…何だか納得が行かない。

「鍋にするぞお前ら」

「アルパカさん食べちゃダメですよぉ…」

アルパカを小屋へ放すと俺と小泉は外へ出る。

掃除用具を片付け、報告をすれば今日の仕事は全て終わりだ。

「じゃあ片付けと報告は俺がしとくから小泉は帰って良いぞ」

「えっ?でも、飼育係は私で」

「俺はどうせ今日の活動報告があるからついでだ。それにーー」

「かよちーん?掃除終わったー?」

「ーー友達も来たみたいだしな」

「あ、凛ちゃん」

現れた下校する出で立ちの1年の女生徒は、目当ての人物を見つけると朗らかな表情で手を振って駆け寄ってくる。

「早く帰ろーよかよちん!今日は駅前のクレープ屋さん行く約束でしょ?」

「で、でもまだ片付けとか終わってないし、もうちょっと待ってて?」

「えー!?クレープ無くなっちゃうにゃあ!」

「り、凛ちゃん!先輩の前だよ!?」

「あっ!…む、村田先輩、お疲れ様です…」

にゃあってなんだその語尾。

などと考えながら眼前のやり取りを眺めていると、先程までの朗らかさは何処へやら、俺を認識した途端すっかり萎縮してしまった。

生徒会雑用係になっても俺の不良のレッテルは中々変わりそうにない。

「あー、星空、だったっけ?片付けは俺がやるから小泉連れて帰って良いぞ」

「え!ほんと!?」

萎縮した表情から一転、星空の顔は再び朗らかなそれに戻る。

喜怒哀楽のはっきりした奴だ。

「…えと、本当に良いんですか?」

恐る恐る小泉が聞いてくる。

「ん、良いよ。俺の気が変わらないうちに帰れ帰れ」

「村田先輩ありがとー!ほら、かよちん!行こ!」

「えっ、あっありがとうございます!」

星空に手を引かれながら小泉は帰宅と相成った。

余程親友と居るのが嬉しいのか星空はステップなど踏んでいる。

「へぇ、優しいやん村田くん」

「…東條」

いつから居たのか、俺の背後には性悪生徒副会長が立って居て1年生2人を見送っていた。

「だいぶ花陽ちゃんとも打ち解けたみたいやん?良かった良かった」

「全然警戒されてるがな」

「それでも紹介初日より距離縮まったんやないの?はじめはお互い気まずそうだったやん」

「そら初日に比べたらマシにはなったが…それよか今日の活動報告だが」

雑用係としては1日の最後に副会長である東條にその日1日の内容を報告する事になっている。

「いや、良いよ。別口から報告上がって把握してるから」

その規則に則り報告しようとすると、東條が俺の弁をそう遮った。

…いつも思うがこの東條希という女、一体どうやって情報を集めているのだろうか。

「分かってるなら話早い」

報告が不要であるのならば片付けを済ませてさっさと帰るとしよう。

今日はバイトはないが、朝から働き詰めなので部屋でゆっくりしたい。

「ああちょっと待ってや。明日の事なんやけど」

片付けに入ろうとした俺を東條が引き止める。

「何だよ」

明日の、というのは新入生歓迎会の事だろう。

会場設営は終わっているので俺の出番は撤収の時ぐらいのはずだ。

「いやね?新入生歓迎会終わった後、講堂で催しがあるんよ」

「はぁ、それの設営か?」

「いや。その催しに生徒会は講堂使用許可出しただけでノータッチなんよ」

「はぁ…つか、何なんだよその催しって」

「校内の張り紙見てないん?村田くんと仲良しのμ'sが新入生歓迎会でライブやるんよ?」

「…あぁ」

そういえば、そんな手書きの張り紙を見た気がする。

最近は屋上に顔を出す余裕がない程忙しかったので失念していたが、2年生3人組スクールアイドル"μ's"が明日初ライブを行うのだった。

「それで?そのライブをどうすんだ?」

まさか台無しにする段取りをしろ、などといのではあるまいか。

綾瀬の件もあり、生徒会はμ'sの活動には反対していると考えて良いだろう。

生徒会長に倣って東條も反対派である可能性は十二分にある。

「簡単よーー手伝ってきて、そのライブ」

「はぁ…は?」

勘繰っていた俺を裏切る様に、東條はそんなことを口にした。




May I Help You?(10-FEET)
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