37管理外世界。
自然が豊かで共存するように人々が生活する世界。その奥地に目的の研究所はあった。智紀とフレッドの二人は出張捜査と偽りミッドチルダの空港から他の管理世界に行き、そこから情報部の手引きで管理外世界にやってきたのだ。
「目標確認。ったく情報部の連中転送場所遠すぎだろ。歩きだけで体力消耗するわ」
「夜お楽しみして翌朝出社し来る程度に体力はあるだろうがお前」
智紀が呆れながらそういい、スコープのようなもので目標の研究施設を観察する。二人は管理局の制服ではなく、全身黒の服装にこれまた黒のフェイスガードをつけフードのようなものを被り、見た目では分別がまったくつかないようになっている。
「入り口は一箇所だけ、感じから言って地下に続く構造、めんどくせぇなこりゃ。入り口閉じちゃってるし」
「それはいいとして、中に入ってからだな。抵抗がある場合は敵性排除、研究所内の情報を吸出し、最低5人ほど研究者を捕獲、あとは施設は完全破壊ねぇ。捕獲ってのがネックだな。情報部の連中ちゃんと後方待機してんだろうな」
「あいつら仕事はキッチリする連中だからな。一応今まで約束を反故にしたことはないし」
「元の世界じゃ諜報機関ってのは、裏切りが付き物だったんだがなぁ」
そういいながら智紀はフェイスガードをいじりながら、フレッドはデバイスをいじりながら立ち上がる。
「じゃあ始めるか」
「ああ、やっちまおう」
その瞬間二人は景色に溶けるように消えた。
山の中腹にその研究所はあった。ここは山々が重なるように山脈を形成している一部の場所で、現地の人間もほとんど立ち寄らない場所だった。研究所の前には木々で隠れるようにヘリポート用のスペースが空きそのすぐそばに鋼鉄のゲートが地下シェルターの入り口のように建っていた。今二人はそのゲートの目の前にいてついた瞬間警報が鳴る。
「ストリング、ちょっと離れてろ」
「了解」
智紀がそう言い、フレッドがすぐに後退する。智紀がゲートの前に立ち、少しの時間待って左手を大きく振りかぶってとんでもない速度の拳を打つ。その瞬間まるで大型の爆弾が爆発したかのようなとんでもない衝撃と音が起こり鋼鉄のゲートに大穴が開いていた。
「…久々に見たな。お前の大理不尽パンチ」
「そんなことよりさっさと行くぞ」
吹き飛んだゲートの瓦礫が衝撃により、奥のほうにある地下へと降りる、車も載れそうな大きいエレベータまで飛び、多くいたであろう警備隊のほとんどが、飛んできた瓦礫により原型を留めずバラバラになって転がっていた。
「GG、階段を見つけたから俺はそっちから行く」
「わかった、俺はエレベーターで行きながら陽動に徹する。何かあったら念話で通信してくれ」
「あいよ、じゃあ死ぬなよ」
「お前もな」
そういいながら二人は別行動を始めた。
智紀side
智紀はエレベーターに乗り下の階に進んでいた。1番上のフロアはゲートを吹っ飛ばした影響でほとんどの人間が死に、生きていても戦闘など出来る状態ではなかったため、脅威にならず、すんなりと通ってこれたのだ。エレベーターが止まり扉が開いた瞬間大量の魔力弾が襲ってきた。回避することなく能力で自分に重力のバリアのような壁を作り、全ての魔力弾を防ぐ。魔力弾が暴風雨の如く打ち出されるが、一つもその身に受けることなく歩き出す。
「なんなんだあいつは!何でこっちの攻撃が通用しないんだ!」
「チクショウ!こっちは殺傷設定で一斉射撃なんだぞ。誰か砲撃魔法使えるやつら、ぶっ放せぇ!!」
外野が戦々恐々している間に智紀はまわりを見渡し、確認する。
「(ふむ、広い空間に多くの資材がある。資材置き場として活用しながら侵入者をここで迎撃するためのフロアかな…)」
確認が終わった瞬間バリアを解き、まるでスケートリンクを滑るように高速で移動を始めた。地面だけでなく壁、天井も一切足を動かすことなく縦横無尽に滑走し魔法弾や砲撃魔法を避ける。そこからさらに多くの資材やコンテナを浮かして高速で飛ばし始めた。
「うわ!?なん・・・」グシャ
「ギャアアア・・・」ザクッ
大きなコンテナは何人もの人間を押しつぶし、平たい鉄板はギロチンの如く体を両断、長い資材は隠れているバリケードごと刺さり敵対者を貫く。さっきまで多くいた魔導師たちは一気に半分ほど減り、そこは一瞬で地獄と錯覚するような惨状だった。
「…なんだこいつは」
「ば、化け物…」
相対する魔導師はみな恐怖の表情を浮かべる。彼らは並みの魔導師よりも格上であると自負できるほどの実力と経験がある。そんな自分たちの攻撃が通じないだけでなく、その辺に置いてある資材やコンテナを何のモーションを起こさずに浮かせ、飛ばしてきたのだ。しかも驚きのあまりに足が止まっている魔導師にダメだしと言わんばかりに、頭を砕きバリアジャケットごしに体を貫通、もしくは体だけに直接ダメージを負わせる拳足を繰り出している。あまりにも非常識で徹底した一撃に、魔導師たちは恐怖により動きが鈍ってしまう。すると一人の男が飛び出していく。空戦が出来るようで飛びながら、壁を走る智紀に一瞬で近づき剣を振るった。とっさにバリアーを張るが切り裂かれ、その剣を智紀は左手で受けようとする。しかし受けた瞬間に違和感を感じ即座に距離を空ける。
「!?」
「・・・」
よく見ると受けた掌に切れ込みが入っていた。男は間髪いれずに再度攻撃を開始する。受けてはならないと判断し全てそれを回避する。距離を開けたい智紀だが男がそれを許さず距離を詰める。そこで智紀は能力で男を飛ばし無理矢理距離をあけた。すると今まで攻撃をやめていた警備隊たちが攻撃を再開する。その中には砲撃魔法も含まれ退路にも魔法弾の弾幕が張られていたためバリアーで何とか凌ぐ。智紀のバリアーは非常に強固である。だがそれは絶対防御の防壁などではなく、飽和攻撃や一撃が非常に強力な攻撃を受ければ当然の如く壊れてしまう。今はまさに雨のような魔力弾、砲撃魔法、によりその場で釘付けにされており、なんとかバリアーを幾重にも張って凌いでいた。しかし長くは持ちそうに無い。
「このまま物量で押せー!」
警備隊たちが勢い付き集中砲火をさらに強める。
「クソッ」
智紀はバリアーを薄め滑走しながら魔法弾のみ受け、下に転がっているコンテナを飛ばし砲撃魔法からの盾として使う。さらに再度落ちていた資材たちを飛ばし牽制する。相手も先ほどの惨劇から学びその攻撃をなんとか凌ぎ、攻撃を再開しようとするがいくつも浮かんだ資材、コンテナが邪魔をし、目標へのエイミングが遅れる。浮かぶ資材の影に智紀は隠れ、左手の袖を破き手を合わせる。
「こいつを使うか」
すると智紀の左腕背中側の肩から手首までが割れ、そこから不思議な模様の剣が出てきた。
頂肘装剣(エルボーゲン・ブラッド)
今度は智紀から攻撃を仕掛けた。今度は自分も浮かび上がり、浮かんでいる物を自分中心にして球状に高速回転させ、それで相手からの攻撃を防ぎながら物にかけている重力を解き、360度全体に廻っていた物を吹っ飛ばす。中にはうまく魔法障壁で飛んでくる物を防ぐ連中もいるがそれが、間に合わず潰れるやつらもいた。智紀は凌いだ連中に接近し間合いを詰め、左手に出した剣で斬り捨てる。それに気づいた剣士の男も間合いを詰める。それに遅れて他の数人も接近戦のモーションに入る。周りの警備隊はそれに合わせ援護射撃をして智紀の邪魔をする。そのせいで体勢が崩れ隙ができ、そこに剣士が己の全身全霊を込めた一撃を叩き込んだ。
「!?」
「もらいだ」
斬ったと思った人間が目の前にいた。剣士の男は瞬時に理解した。
「…『機』を外したか」
そう言った直後、彼の頭部と胴体は分離した。接近戦に入った数人も回転するような独特な動きの剣技により、誰もがバラバラに斬り刻まれ頭部、腸、手足など数々の部位が宙に舞う。
「次はお前たちだ」
血まみれになりながら警備隊全員にそう告げる。直後、資材置き場は血の海に染まった。
フレッドside
智紀が大暴れしているとき、フレッドは智紀のいるフロアより下の研究区画にいた。彼も智紀と同じく警備隊との戦闘になっていた。
「クソッ!?」
「オラァ!!」
狭い通路なので派手な攻撃が出来なく、魔法弾によるチマチマした攻撃をフレッドはステップやスウェーで回避し、距離を詰めながら左手の人差し指と中指をクイッと動かす。すると後ろのほうにいた二人が首から血を噴出して倒れた。
「な!?」
「余所見はいけねぇなぁ」
そういいながら前にいる二人の内の片方の男の眼を、もう片方の男の喉下を突く。
「ギャアアアア」
「ゴホッゴホッ!?」
二人の男たちは崩れるように倒れこみ、そこにダメだしの銃弾のような魔法弾で二人の男の頭部を撃ち抜く。そのまま男たちから悲鳴や咳き込みが消えた。
「ヒィィィ」
「じゃあお前さんには聞きたいことがある」
フェイスガードに仕込んである変声機で声を変え、右手から眼に見えるような糸を出して男の首に巻きつけ、隣にあった無人の部屋に引きずりながら入る。
「さっき二人の首が切れた正体はこれだ。じゃあ質問しようか」
「な、なんのだ」
怯えた口調の男にフレッドは淡々を聞き出す。
「研究員が少ないがなぜだ」
「そ、それは緊急時マニュアルに則ってまびきするんだ」
「まびき?」
「お前らみたいなのが襲撃してきた場合、あらかじめ脱出させると決めていた研究員以外を全て処分するんだよ。情報漏えいを防ぐためにな」
「何人残っている?」
「そ、それは」
男が口ごもると腰のホルスターから銃を出し突きつけた。
「魔力は節約しないとなぁ」
「わ、わかった言う。言うからやめろ!?」
男が叫び銃をはなす。
「7人だ。場所はこのフロアでこの部屋から反対側にある部屋に隠れている」
「そうか(手間が省けたな)」
そういってフレッドは立ち上がり、それを隙だと思った男はすぐに魔法を放とうとする。その瞬間首がずれ落ちた。
「糸があったこと忘れんな」
ある程度フロアを探索し、先ほど男が言っていた部屋に入っていった。そこには白衣を着た男5人女2人いた。
「き、君はだれだ!何の為にこんなこと…」
「お前らがそれを聞くのか?」
フレッドはフェイスガードに仕込んである変声機で声を変え、前にいる研究員に凄む。
「質問に答えてもらおう。ここのデータバンクはどこだ?」
「そんなこと言うはずが『パン』ギャアアア!?」
男性研究員の一人が反抗した瞬間、フレッドが銃を放ち研究員の肩を打ち抜いたのだ。男性はそのまま倒れ痛みによりのた打ち回る。
「キャアアアア!?」
女性研究員がその惨状に悲鳴を上げ男性研究員たちが戦慄する。
「データバンクはどこだ?」
同じ質問をする。
「デ、データバンクはこのフロアの一つ下にあるラボの中だ。これでいいだろ!私たちを解放しろ!殺したところで何の得も無いだろ!」
腰を抜かした状態でもう一人の男性研究員がフレッドに食って掛かる。
「じゃあそこまで案内してもらおうか」
「な、なぜそこまでしなくてはいけない」
「お前ら生きたいか?」
その言葉に渋々頷く6人。
「じゃあ協力してもらわないとなぁ。こっちもただのお荷物はいらないからなぁ」
分かりやすいほど嫌味な口調で言いながら、拳銃をクルクル指で回す。
「わ、分かった協力する。そうすれば私たちは死なないんだな?」
「ああ、殺さない。じゃあ纏まったところで案内よろしく」
こうして二人の案内人を選び、その他を糸で拘束して置く。二人を連れて下にむかい、その途中で智紀に念話を送る。
「こちらストリング。状況は?」
『こちらGG。丁度大方片付いた。そっちは?』
「研究員たち7人を発見した。俺は2人を連れて下の階にあるデータバンクのある部屋に行く」
『了解。じゃあこっちは残りを連れて行く』
「OKだ。こちらが終わり次第連絡する」
下のフロアに降りたたところで念話を切ると、目の前に一つのドアがあった。どうやら重要な部屋のようで、重厚感があり壊すには一苦労しそうなドアだ。二人のうち一人のIDですんなりと空けることができ、部屋の中に入るとそこには異様な光景が広がっていた。
「なんじゃこりゃ」
「ふん、貴様のようなやつには理解できない偉大な研究だ」
入った瞬間さっきまで怯えていた研究員が急に強気な態度になる。その部屋は壁一面に脳みその入った水槽が所狭しと並んであり、なにかの溶液に浸され何本ものコードが繋がっているという極めて何かがおかしい空間だった。フレッドは部屋に入ってドアをロックさせ、部屋の一番奥にある大きな端末の前に行く。その前には巨大なガラス張りの水槽のようなものがあり、その中にも数え切れない脳みそが浮かび繋がっていた。
「おまえらこっちに来い。下手なことをしたら頭ぶち抜くぞ」
そういいながら連れてきた二人の研究員を端末の前に立たせ、持ってきていたメモリーにデータ全てを移させる。フレッドは込み上げてくる吐き気と怒りを抑え、さっさと終わらせて早くここを出よう、そう思っていた。そこでふと思ったことを二人の研究員に聞く。
「そういえば被検体の体はどうしているんだ?」
「いらない物はそのまま処分する。いる物は…こうするんだよ!」
研究員が何かのボタンを押したそのときフレッドは危機感を感じドアのほうを向いた。ロックしていたはずのドアが開き、そこには十歳を超えたばかりと思われる手術のときに着るような服を着た子供が立っていた。その顔は能面のように固まり頭部に毛はなく、いくつもの手術痕があった。
「な!?(俺が気が付かなかっただと)」
警戒し横に回避すると謎の空気の流れを感じ、自分のいた場所の頭くらいの高さのところでヒュンと何かが通ったような音が聞こえ後ろの大水槽にひびが入っていた。フレッドが分析に入ると研究員の男が高らかに笑う。
「ははは!これでお前は終わりだ!」
「なに?」
連れてきた男性研究員が笑い出した。
「それはここで作られたレアスキル被検体で今ここにある被検体では唯一の完成品だ。チップにより空気を操るレアスキルを与えた上に、脳の情報処理を10倍以上にまで引き上げた作品だ。たかが魔導師が相手なら問題にもならない。さあ、私たちを助けろ!そうすれば」
言い終わらないうちに男の体が穴だらけになった。いきなりの出来事にもう一人の研究員は驚き尻餅をつきすぐに物陰に隠れた。フレッドは止まっていては危険と判断し即座に行動を開始しとりあえず拳銃を発砲する。すると弾丸は子供に届かず空中で静止しポロポロ落ちる。
「チッ、反則くせぇ」
「・・・」
子供は無言のまま空気の弾丸を飛ばしてくる。それを避けながら糸や銃弾を打ち出すが全て無力化されてしまう。すると子供のほうに空気が多く集まっていくような流れを感じた。
「やべ!?」
とっさにジャンプし天井に設置されていたパイプに糸を巻きつけ空中に逃げる。すると大砲のように巨大な弾が打ち出されたらしく大水槽と衝撃波により壁一面にある水槽を破壊した。そこでチャンスが訪れた。大水槽や水槽に入っていた溶液のようなものが流れ、津波のように押し寄せ、子供はバランスを崩した。その瞬間フレッドは糸を切って着地し、自分のレアスキルを使った。彼のレアスキルはハラスメント。使った相手の頭に浮かんだ戦術を強制的に半分忘れさせるといったものである。その効果は5分で使えば15分間使えないというデメリットがあるため短期決戦で決めなければならない。すると今回は運がよかったようで相手が空気の弾丸を使うという戦術を忘れ、空気の壁での攻撃を試みようとする。しかし弾丸よりも大雑把な攻撃でフレッドにとって、はるかに攻撃が読みやすかった。フレッドは左手の薬指からでる糸を引く。するとこちらを攻撃している子供が急に宙吊りになる。先ほど天井に逃げたときに気づかれないように糸を一本忍ばせておいたのだ。子供は苦しそうに首の糸を外そうとする。
「…あやまりはしない。恨んでくれ」
そういい糸をキュっと引っ張り、子供の首を落とした。
「悪魔め…」
隠れていた研究員がそう毒づく。
「その認識でまちがってねぇよ」
そういって死んだ研究員を捨て吸出しの終わったメモリーを抜き、研究員を連れて部屋を後にした。そのまま智紀に連絡を入れ、合流するため上を目指していく。
side out
完了の念話を受けて智紀は5人の研究員を能力で浮かばせ、フレッドを先ほどいた資材置き場のエレベーター前で相手の攻撃をバリアーと資材の壁で防ぎながらフレッドの到着の念話を待っていた。
『こちらストリング。合流地点に到着した』
「了解。これから向かう」
そういうとエレベーターを使わずそのまま自ら浮かび、飛んでいく。このエレベーターは資材搬入を兼ねたものであるようで、天井がなく上を見れば地上の階が見えるので、そのまま飛んでいっても問題なかった。智紀はついでにエレベーターを破壊し追撃が出来ないようにして速度を出して飛んでいく。上につくとフレッドが1人の人間を連れて待っていた。
「よし来たか。こんな所さっさ出よう」
「まったくだ。こんな所長居したくねぇ」
そういいながらフレッドと連れている1人も浮かして飛ぶ。生憎追っ手はまだ来てないらしく追撃は気にしないで外に出ることができた。ご丁寧に誰一人出れないように大きく開いた穴に瓦礫を積み上げる。
「じゃあ、さっさと最後の仕事にするか」
ある程度はなれて空に浮かんだまま智紀は手を研究所に向ける。するととんでもない轟音と小規模な地震を起こしながら研究所があった場所が沈んでいく。上からすさまじい重力で圧縮しているのだ。終わるとそこには高さ100mはあるかもしれ大穴が開いていた。それをフレッドは慣れたような顔で、起きている研究員は驚きに満ちた顔でその光景を眺めていた。
「よし終わったから行くぞ」
情報部の後方待機している部隊に研究員とメモリーを渡し、今回の任務を終えたのだった。
翌日 ミッドチルダ空港
任務を終え疲労困憊で帰りの次元航行船の中では二人とも爆睡だった。管理局の制服を着た男二人が船の中ずっと爆睡というのは違和感があったようで、近くの乗客、乗員は到着するまで怪訝な顔で彼らを見つめていた。ようやくミッドチルダの空港について二人は荷物の受け取り所で自分の荷物が来るのを待っている。
「あ~疲れた。もう当分やりたくねぇや」
「だな。早く帰ってシャワー浴びて寝たい」
荷物を受け取り二人とも外に出ようとしたとき、鼓膜を破らんばかりの轟音と地震のような揺れが空港を襲いった。
「なんなんだよクソ!?」
「今やべぇ事意外わかるか!」
二人とも怒鳴りながら瞬時に行動を開始する。避難誘導や倒れている人の介抱だ。そこに通信が入った。
『二人とも空港にいる?』
「います」
「います。なにがおきてんスか?」
通信相手はクリアだった。フレッドは冷静に聞き出す。
『空港で爆発が起こったの。事故かテロかはまだ不明で被害は甚大。二人はそのまま中で救助活動に当たってちょうだい』
「「了解」」
通信を切り行動を開始する。しばらくすると救助に来た部隊や消防隊がやってきて大規模な救助活動が開始されていく。しかし奥に行くにつれて火の手が激しくなりだんだんと難航していった。そこでまた通信が入った。またクリアだった。
『急にごめんなさい。青い髪の少女二人を見なかった?』
「いや見てません。その子たちがなにか?」
『…ゲンヤ・ナカジマ三佐の…ああ彼この前昇進したの。その娘さん二人が空港内にいたようよ。まだ発見されたと言う報告が上がっていない』
「おいおいあと残ってるとこって言ったら、火の手の激しい区画しか残ってないぞ」
「やべぇな。そのことゲンヤさんは?」
『もちろん知っているけど救助の指揮を執っているからそっちまで手が回らないのよ。責任感が強い人だからね。だから私たちに通信を入れてきたってわけ』
その瞬間二人は動き出した。智紀が能力で燃えているものを退かし道を作る。
「じゃあいきます」
『たのんだわよ。こちらも出来るだけフォローに回るから』
すぐに二人とも走り出す。
「智紀!俺は隣の区画に行く!」
「わかった俺はここを探す」
そういって二人とも炎の中に突っ込んでいった。
大きなホールを一人の少女が歩いていた。大きな怪我はなく、これほどの惨事の中運がいいと言えばそうだが、辺りの炎が行く手を遮っている状況がその幸運を全てマイナスにしてしまっていた。
「お父さん…お姉ちゃん…」
今にも不安に押しつぶされそうな声で家族を呼ぶ。しかしその声には誰も答えることなく、代わりにと言わんばかりにすぐ横で小規模な爆発が起こる。
「キャアアア!?」
少女は爆風に飲み込まれ大きく吹き飛ばされた。気づくと大きな石像の前まで飛ばされていた。
「痛いよ…熱いよ…」
少女が耐えられず泣き出してしまう。すると先ほどの爆発のせいか、後ろの石像の根元に大きくヒビが入り、ミシミシと嫌な音を立て始めた。それに少女は気づかない。
「誰か…助けて…」
そうか細い声で言うと自重に耐え切れなくなった石像が倒れだした。そこで少女はようやく自分の置かれている状況に気づき、恐怖により眼を瞑り自身の死を覚悟した。しかし自分の予想に反し何も起こらない。恐る恐る眼を開けるとそこには宙に浮いた石像が目の前にあった。
「大丈夫か!よく生きててくれた!もう大丈夫だからな」
そこには管理局の制服を着た一人の男がいた。智紀である。智紀は少女を抱き上げ石像の下から移動し、石像の重力を徐々に元に戻し、石像をゆっくりおろす。
「(あぶねー!?マジもう少し遅かったこの子がスプラッタ死体になるとこだった!)」
心底間に合ってよかったと思う智明に少女は驚いた表情を浮かべる。智紀は少女をおろして話しかけた。
「怪我は…そこまでひどくないな。君はゲンヤさんの娘さんかい?」
「え?お父さんを知ってるの?」
「ああ、お父さんとは友達だ。君の名前は?」
「…スバル」
智紀はそういって少女を落ち着かせ通信を入れる。
「こちら323浮岳。要救助者確保。ゲンヤ・ナカジマ三佐の娘さんです」
するとクリアではないオペレーターが出る。
『了解です!そう報告します!』
「もう一人のほうは?」
『いえ、まだ救助されたという報告は上がっていません』
「分かりました。このまま救助者を安全なところに移します」
そういって切ると丁度いいタイミングで一人の魔導師が飛んできた。
「大丈夫ですか!」
白いバリアジャケットに茶色の髪をツインテールにした少女だった。
「こちらは大丈夫ですって…高町?」
「え!浮岳教官!?」
二人は旧知の仲だった。以前智紀が教官をやっている知り合いに接近戦闘や護身術のレクチャーをしてくれと頼まれ、渋々やったレクチャーの訓練生の中に彼女がいたのだ。
「お前さんか、なら安心だな。この子頼めるか?」
そういってスバルを預ける。
「はい大丈夫ですが…教官はどうするんですか?」
「教官って言うのやめてくれマジで…。俺はこのまま救助を続ける」
「わかりました。じゃあ私がそのまま報告しておきます」
「じゃあよろしく」
そういって立ち去ろうとしたとき悪寒を感じ後ろを向く。そこには魔方陣を展開するなのはの姿がある。
「上まで一撃で抜くよ」
魔力を練り上げチャージする。
「え、ちょっとおま…」
「ディバイン」
さらに溜まりいい大きさになり。
「バスター!!」
地下から地上までぶち抜く砲撃を放った。
それを見ていた智紀は呆然とした顔で考える。
「(いやこれは救助に必要だったからよかったんだ。ぶち抜いて問題になって仕事が増えるなんてことは無い…ハズッ!!)」
そんな彼女たちに聞かせられないことを考えていた。
一方フレッドも丁度スバルの姉であるギンガを確保して通信を入れたところだった。
「もう大丈夫だ。君の妹も救助されたってよ」
「そうですか。ありがとうございます」
少女がうれしそうに微笑む。彼らのいるところはあまり火の手が無いため足場などを気にして安全に進んでいた。そこに金髪の魔導師が飛んできた。
「そこの人たち大丈夫ですか!」
「ん?おおいいところに航空魔導師がきたな。ほらあのネーチャンんといきな。連れてってくれるから」
「え、あの…」
「自分は323部隊のフレッド・オーレン二等陸尉です。この子たのみます」
「フェイト・テスタロッサ執務官です。分かりました、必ず安全なところまで連れて行きます」
「じゃあよろしくな」
そういってフレッドも智紀と同じく救助に戻っていった。
このあとも二人とも323部隊と合流して救助活動を続けた。被害は甚大だったが救える命を救い、多くの部隊や魔導師たちのおかげで鎮火することができた。しかし今回のこの一件で地上部隊や航空魔導師部隊との確執が浮き彫りになり大きな影響を及ぼす一件ともなった。そんなことは露知らず323部隊では。
「おい、これなんだ…」
「マジかよ…」
今回の空港火災の捜査と財務部から依頼できた被害総額算出の仕事の一部が智紀、フレッドのデスクの上に置かれていた。大量の紙束と共に。
「あと智紀君これもお願いね」
そういってクリアから渡されたのは、空港の運営団体への救助の際に行った施設破壊の報告と報告会への出席だった。
「これって…まさか…」
「あなた1番奥で救助してたんだし彼女の砲撃間近で見てたんだからうまく説明できるでしょ?」
「ここだけでも彼女にやらせれば…」
「エースオブエースにこんなもの上がやらすわけ無いでしょう」
「…ですよねぇ」
「まだ俺の方がマシだな…」
「あなたもよ?」
一瞬フレッドが硬直しすぐ正気にもどる。
「な、なんでッスか!俺は何にも…」
「あなたが救助者預けた執務官。彼女結構壁に穴あけて進んでいったらしいのよねぇ…」
「…なにその理不尽なとばっちり…」
そう言いながらフレッドは耐え切れず膝をついて項垂れる。これでさらに智紀とフレッドの自宅に帰れる回数が減ったことは言うまでも無い。323部隊全員は彼らに同情の眼を向け、肩を叩き精一杯の慰めの気持ちを送った。
『大理不尽パンチ』
「弾丸撃」(ゲショスシュラーク)という音速を超えるパンチに電磁加速を加えたもの。
『頂肘装剣』(エルボーゲン・ブラッド)
肘にブレードを装備して戦う術
最近夜が昼寝する時間くらいしか眠れん・・・。どうにかならんものか・・・。