薄ら寒い駄文です。お覚悟を
「あ~、涼しいなぁここ」
「今年の夏はなんか去年より暑くなるらしいぞ」
「マジか~、まぁ冷夏になって色々おかしくなるよりはいいか」
空港火災から幾月か過ぎ、季節は夏となった。ジメジメとした空気にプラスして、ジリジリと太陽が照りつけ、コンクリートジャングルの街は昼に近づくにつれてドンドン加熱されていく。そんな昼過ぎに智紀とフレッドはミッドチルダではメジャーなファミレスで昼飯を食べようと店内に入っていった。そこにはガルシアが煙草を吸いながら待っていたようで、二人を見つけると煙草の火を消して座りなおした。二人は汗を拭きながら席につき注文を入れ話を始める。
「で、そっちは何か掴んだか?」
「掴んだって言うほどじゃないですけど、一応ちらほらって感じですかね」
「そうか。俺のほうも似たようなもんかな」
3人はある事件を追っていた(他の3人はオフィスで別の仕事)。今日の早朝クラナガンの一般住宅地でスーツ姿の女性の死体が発見された。名前はドロシー・パテシア39歳、ミッドチルダなどでは有名な大手キッチン用品企業のOL 、一人暮らしで交際相手なし、死因は自宅マンションからの飛び降りによる脳挫傷及び全身打撲。『この世の中で生きることに疲れました』というタイトルの封筒に入った遺書のようなものが見つかっているため、一応自殺の方向で捜査を進めているが、まだ断定できないので多角的に捜査をしている。そのためこれについて調べるため3人は、彼女周辺の聞き込みを行って、昼飯と一緒に中間報告をしようとしていたのだ。フレッドがメモ帳を見ながら話し出す。
「勤めてた会社に行ってきたんスけど、彼女結構なやり手だったようでしてねぇ、会社の幹部候補で人望もあって、会社での人間関係も良好で、誰に聞いても恨まれてるような話は出なかったって感じっス」
「自分も似たような感じです。近所の住民とクラナガンに住んでる彼女の友人のお宅を訪ねに行きましたけど、人当たりのいい人みたいでご近所づきあいも良好。友人たちの話にも恨み妬み、みたいなのは無かったですね」
「そうか、俺も現場検証で変わったところはなかったな。見た限りじゃ誰かいた痕跡もないし、部屋は良く片付いて特におかしい点はなかったな。遺族に知らせたりしたか?」
「それはもうしました。相当悲しんでましたよ」
「そりゃそうだろ。娘が自分らより早く逝っちまったんだから」
ガルシアは顔を顰めながら話を続けた。
「まぁ最近なにか悩みを抱えていたらしいな。彼女の部下がそう言ってた」
「悩みですか?」
「それがどんな悩みなのか今んとこ解んねぇんだけどな」
「自分のほうでは友人に婚期がどうのこうのって悩みは打ち明けてたらしいですね。でもそれは自殺の要因にはならないと思うんですよねぇ」
「過去の男とかはどうだったんだ?」
「聞きましたけど問題は無かったみたいですね。別れるときはちゃんとお互い納得した形で別れたそうですし、現に連絡のついた元カレは結婚して家庭持ちでアリバイもありました」
ガルシアは頭を掻き、智紀は水を飲みながら、フレッドは腕を組んで悩む。
「この女性、自殺する要因があんまないんだよなぁ」
「そうなんスよねぇ。突発性って事もあるし、悩みもあったって事らしいですけど、優秀なOLだったって言う女性が、気安く自殺なんてするとは思えないんスよねぇ」
「今んとこ解ってるのは、何か悩みを抱えていたってところですね。婚期かどうかはわかりませんけど」
「それが何かによっちゃ捜査の方針変えないといけないかもしれないっスねぇ」
「まぁ後は一回帰って検死結果と鑑識結果見てからだな。…お、飯がきたな」
注文していた昼飯が来て、三人はとりあえず一息入れていた。ガルシアは野菜たっぷりカレー、智紀は焼きそば大盛り、フレッドはしょうが焼き定食を食べる。そして会計をして店を出て行く。
「じゃあちょっと午後用事あるんで分かれます」
「そういやそんなこといってたな。わかった、先帰ってるわ」
「俺も帰るわ。じゃあ後でな」
そういって三人は別れていった。
先ほどガルシアたちと別れた智紀は今度はシャレた喫茶店にいた。コーヒーを注文し、少し大きめの鞄を注意しながら足元に置く。そこで少しばかり別件の仕事の資料を見ながら過ごしていると、一人の男が近寄ってきた。スーツ姿でキツそうな眼に痩せ型で、歩き方としっかりした体軸から只者ではないことがわかる。
「約束の時間より10分前、さすが時間にはカッチリしてるな」
「10分前行動はそれほど珍しいことでもないだろう」
男はそういうと智紀の前に腰掛て、店員にハーブティを注文する。
「で、本来表側ではお互い干渉しないと決めているはずの我々に、なぜこのようなことを頼んだ?浮岳」
「これはちょっとばかし個人的な用事でな、あんまり部隊の中で話す内容でもなかったんだ。だからお前らのところで且、まだ交流がある方の人間であるお前に頼み事をしたってわけだ、ジョージ」
ジョージと言われた男は悩ましいと言わんばかりに自分の眉間を揉む。彼はジョージ・レスター、本局にある情報部の人間で裏の仕事のときに度々世話になっている人物である。
「まぁ貴様らのボスの秘匿回線から来た通信だということから、お前のとこのボスから了承を得てやっているんだろうが、こちらの立場というのも考えて欲しいな」
「まぁそういうな。お前らにも幾つか情報をくれてやるんだから」
そういって智紀はコーヒーを飲み干し、店員におかわりを頼む。ジョージは懐からメモリーを出して智紀のほうに渡した。
「その中に前回の仕事の際に手に入れたデータが入っている。お前の欲しい情報もその中だろう。見たら返せよ。では聞かせてもらおうかお前の情報とやらを」
智紀はもらったメモリーを自分の端末に挿し、資料を見ながら話す。
「前回の仕事でレアスキルの開発があっただろ?」
「ああ、脳に改造を施すとかいうやつか」
「あれさ実は俺の元いた世界の技術に似てるんだよな」
「…何?」
ジョージはただでさえ細く鋭い眼をさらに細め、射殺さんばかりの眼光を放つ。そこにオドオドしながら店員がおかわりのコーヒーを持ってきた。それにお礼を言い店員が戻ったところで、ジョージの眼光を気にもしないで智紀は話を進める。
「脳に能力ICを埋め込んで使うっていう技術は、俺の世界では実際に実用化レベルまでいったものだ。俺の頭にも使ってるし。でも見た感じこれはまだ未完成って感じだな。チップ自体でかいし」
その言葉にジョージは少し驚いた表情をする。
「つまりお前がこの情報を欲した理由は自分のいた世界と類似したものだったからか…。」
「まぁ、そんな感じかな」
「お前の脳にも入ってるということだが、どういった経緯で?」
「俺のは実用化以前の人体実験で貰ったもんだ。俺の手足知ってりゃ解ると思うけど昔大怪我してさ、この手足付ける前に脳みそ弄られたりしてな、それでお前らで言うレアスキルが手に入ったんだよ」
「実用化したそっちのチップとこちらの世界のチップはどこが違う?」
その質問にコーヒーを飲んで一呼吸いれる。
「お前らがこの前の施設とか、俺が受けた非道な実験みたいなのをしないって、信用してるから話すけど一応言っとくぞ。見つけたらお前ら全員楽な死なせ方させねぇからな」
智紀が雰囲気をかえ、ジョージだけに強烈な殺気を放つ。それにジョージは真剣な顔に少しばかり怒気を含ませる。
「見くびるなよ。我々は多少排他的ではあるが仕事に誇りを持っているし、分別くらいはつく。現にこの情報を持ち出すのに数ヶ月を有するほどに情報管理を徹底しているのだ。そこらの烏合の衆のような部隊と一緒にするな」
そういって互いに睨み付け凄む。その様子に他の客、店員は怯え店内の空気が凍った様に寒くなる錯覚を覚えた。智紀は予想外の反応を示したジョージと店の凍えた雰囲気に笑えてきてしまい、自ら発する圧力を緩めた。
「そうかい、悪かったな。その言葉を信用しよう」
「フン、本題に戻るぞ」
「ああ、俺の世界のものはこんなメカメカしい物じゃなくて、脳にいれたら時間が経つにつれて馴染んで脳の一部に溶け込むタイプのものだった。だから解剖して取り出すってのもできないし、こっちのリサイクルみたいなコンセプトっていうのはなかった。あともう一つ俺の世界には拡張パックってのがあってな。まぁ簡単に言うと魔導師が使うデバイスみたいなものだ。能力使用の補助をしてくれている。こいつも基本的なものは脳の中にいれて馴染ませる。物によっちゃ外部から接続するものもあったがそういったのはクソでかい力を使うときだけだ、他ではあまり使わない。まぁこんなところか」
「だいぶ違うな」
「まあな、大元は似てはいるがな。脳みそにぶち込むって発想辺りが」
ジョージは終止真剣な顔で智紀の説明を聞き、質問を続ける。
「この件にお前の世界の技術が関与している可能性は考えられるか?」
「それについて俺もずっと考えてた。今のところ俺の世界との関係性については、証拠が無さ過ぎて判断付かねぇ。このデータだけで見ても別物に見える。でもなんだかキナ臭いいんだよなぁ」
「こちらの次元世界の独自技術だけが入ってきたしても十分厄介だが…」
「俺の世界から技術だけでなく技術を理解し扱うことが出来る人物がこっちに来ているとしたら…」
二人とも苦虫を噛み潰したような渋い顔で押し黙る。
「…今は予想の範囲を出ないが少し調査が必要かもしれないな」
「そうだな、俺も少し探ってみよう」
長話が終わり一息入れる二人。そこでふと思い出したように智紀が自分の鞄をあさって、渡されたメモリーと鞄の中身をジョージに差し出した。
「ほら、ささやかな感謝の贈り物だ」
「急に気持ちの悪いやつだなお前は…。」
そういって紙袋に包まれたものの中身を確認する。
「こ、これは!?」
その中にはフリフリの服を着た、可愛らしい女の子のグッズとフィギュアが入っていた。
「丁度私が欲しいと思っていたものを寄越すとは…。よく私の好みがわかったな」
「前の任務んときの移動中に、あんだけ長く語られたら嫌でも覚えるわ」
「しかしこれ第97管理外世界のものだぞ。よく手に入ったな」
「前にとっ捕まえた奴に盗品を捌いてるやつがいたんだよ。そいつ出所して心入れ替えてから真っ当な商い始めて成功してな、管理外世界の物の商売とかもやってるからこういったもんが手に入ったんだよ。金額かなり高くなってたけど、割引してもらったよ」
「ほう、それはいい事を聞いた。これから私も利用してみよう」
「俺の紹介って言えばたぶん割引してくれると思うぞ。俺からも連絡しておこう」
話し合いにお互い満足した二人は席を立ち会計して外に出る。
「見送りはいらない。このまま失礼する」
「おう、またな」
そういって二人は徐々に日が傾いてきた町に溶け込んでいった。
所変わって捜査官八神はやてのオフィス。彼女は端末の前で何かの書類を書き終わったようで背筋を伸ばし、ふと別の資料を見始めた。
「どうしたのですか?はやてちゃん?」
「え?あ、いやなんでもないよリイン。報告書終わったからちょっと調べ物をな?」
「調べ物ですか?最近多いですね」
はやては数ヶ月前に起こった空港火災のときのことを考えていた。元々管理局で仕事をしていて感じてはいたが、あの時の管理局の対応のちぐはぐさにとても不信感と危機感を覚えたのだ。そこで彼女は自ら部隊を持つことで管理局の古い体制に一石を投じようと思い立ったのだ。そんなある時彼女は管理局の部隊・局員全書とあるウィンドウに眼を通していて、とある一つの気になる部隊を見つけていた。
「捜査支援課323部隊か…」
はやてが今どういった部隊があるのか調べているときに目に付いた部隊がそれであった。航空火災の際高町なのはやフェイト・T・ハラオウンたちが救助に入ったときに中で会い、今の管理局にしては珍しい業務内容に彼女は関心を寄せていたのだ。
「設立目的は管理局の慢性的な人手不足を解消するために試験的に導入された部隊…。主な業務はクラナガンの事件捜査と、各部隊から委託された仕事…か。良く言えばお人好し、悪く言えばパシリやね。委託された仕事は別に手柄とかにもならんようやし」
そういいながら名簿のほうを見る。
「執務官、捜査官に…うわ査察官までおるんや。これなら大体どの部隊の仕事にも対応できる…。階級もある程度高いから個人で動ける権限もあるし…。おもしろい部隊やな」
はやては名簿を見ながら一人の隊員を見る。
「…でこの人がなのはちゃんの教官だった人」
そこには智紀の証明写真とプロフィールがあった。
「元次元漂流者で…って丁度私たちが魔法と始めて出会った年にやって来たんや。特殊な格闘技の達人でレアスキル保持者…。ていうか全員が何かしらレアスキル持っとるやん。その代わり魔力の類はあまりないみたいやけど」
一通り見終わりウィンドウを閉じ椅子に寄りかかる。椅子をギシギシ揺らしながら考えることに没頭する。
「(この部隊は私の部隊作りの参考になるかもしれない。いつか見てみたいなぁ)」
「はやてちゃん!!」
「うわ!?どおしたんリイン?」
「もうそろそろ出かけなきゃいけない時間ですよ。はやてちゃんさっきからボーっとして具合でも悪いですか?」
「大丈夫よ~リイン。今から準備するからな~」
仲良さそうに話しながら二人は外出する準備を始める。時間は夕方、太陽が若干傾き始め空の色はきれいなオレンジになり始めていた。
智紀は323部隊のオフィスに戻ってきていた。現場検証で集まった情報をみんなで整理しようと思ったためだ。入るとフレッド、ガルシア、ラナ、ユキナが揃い応接用の机に資料の紙が積まれていた。
「あれ部隊長は?」
「別件で出てしばらく帰ってこない。じゃあちゃっちゃとやっちまうぞ」
ガルシアが場を仕切りホワイトボードを使って会議が始まった。
「まずは害者についてから改めて説明するか」
ガルシアは解っている被害者についての説明を、滞りなく簡潔にホワイトボードを使って確認する。
「害者はドロシー・パテシア39歳、大手キッチン用品企業のOL 、一人暮らしで交際相手なし。死因は自宅マンション屋上からの飛び降りによる脳挫傷及び全身打撲でほぼ即死。死亡推定時刻は2時15分。4時に出かけようとした住民が駐車場にて発見し発覚。遺書も見つかっており自殺の可能性あり。リンカーコアはなく魔力はないためデバイスも持っていない。まぁこんなところか。で、これが新たに出た鑑識と検死結果のデータだ。ちゃんと眼通しておけよ」
「ん?こりゃ…」
そこには現場や遺体の写真つきで事細かなデータが書かれていた。
「アルコールが検知されたって酒飲んでたのか。しかも結構数値高いな」
「酒飲んだ勢いで自殺ってするか普通?しかもスーツ姿のままってのも奇妙だな」
「それだけじゃないわね。現場から若干の魔力が検知されてる。この感じからいって恐らく人払いの可能性がある」
「彼女の端末も何か操作された形跡があったみたいですね。中の一部データが消された痕跡があるそうです」
四人はデータを見ながら驚きを隠せないでいた。これらの不可解なデータが出てきたということは。
「お前らの思っているとおり、今回この案件は殺人の可能性が出てきたということになる」
ガルシアの言葉に一気に場の空気が引き締まった。
「少し状況を整理するぞ」
「そうですね。まず彼女の人物像。職場では優秀で人望があり、友人関係も良好。性格や人間性では人の話を聞く限り問題はなさそうですね。少々几帳面だったらしいですけど」
「今のところ害者のことでネックなのは何か悩みを抱えていたって所っスね。職場の人間が言っていたところを見ると職場関係の可能性がありそうな印象っスけど」
「現場のマンションはセキュリティがしっかりしていて侵入は難しい。そんな所で誰かの魔力を検知。恐らく人払いかそれに順ずる認識阻害系の魔法を仕掛けた人物がいることは確かね」
「遺書はパソコン端末で書かれ印刷されたもので、書こうと思えば誰でも書ける文面であり、紙質が彼女の部屋にあったプリンターにあった紙とは違ったとあります。端末からは何者かが弄った可能性がある痕跡と、消されていたデータがあるといった感じでしょうか」
「酒を飲んでいたが家からは空けた缶やビンの類は無かった。たぶんどこかで飲んでいたかもしれないな」
「監視カメラとかはジャミングか何かの影響か砂嵐で何も見えないか…。彼女の姿も無かったところを見るともしかしたら一緒にマンションに入ったかもしれないですね」
「鑑識結果から面白いデータが出てるなぁ。彼女のハイヒールの靴跡以外に別の靴跡が見つかっている…。こいつはパンプスらしいっスね」
「被害者問わず指紋・毛髪の類がきれいになくなっているということは、その何者かは実際に彼女の部屋に上がって自分の痕跡を掃除していったかもしれない。この他のやつを踏まえてもなかなか計画的な印象を受けるわね」
「前々から殺害する算段をつけていたって事でしょうか」
皆がどんどん意見を出し、ホワイトボードが文字や線で埋まっていく。ガルシアがいい頃合をみて一旦切る。
「じゃあこれからは殺人に捜査方針を変えていく。俺はもう一度現場に行って見落としがないか見てくる」
「自分はさっき聞き込みに行った人たちにまた聞いてきます」
「俺もまた勤め先の会社に行ってきまっす」
「私も智紀たちと同じく彼女の身辺を洗いなおしてみるわ」
「私は彼女の端末について調べます。もしかしたら消去されたデータが復元できるかも知れません」
皆が新たな捜査方針に切り替え、各々役割分担していく。
「おし、みんなの方針が決まったところで一旦解散。そろそろ夜になるから捜査は明日からだな。じゃあみんなで仲良く書類仕事しよう。・・・オネガイシマス、シゴトテツダッテクダサイ…」
「おじさん…カッコ悪…」
ガルシアがそういって会議を締める。最年長が頭を下げてお願いしている姿に、一同言いようの無い侘しさを感じ、微妙な空気のままみんなで仲良くお仕事をし、本日の業務を終了した。
ジョージ・レスター
情報部の人間。階級は智紀と同じ。優秀な人間で数々の極秘ミッションをやり遂げている。323部隊とは裏で協力し見知った仲といった感じ。他世界のサブカルチャーに大きな興味を抱いている所謂ガチオタ。