底辺扱いされる強く生きる者たち   作:ガッセー

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法律は大体日本のを参考にしています。
ミッドの法律知らないんで。




6話 真夏の捜査日誌 2

翌日、昼前を見計らい智紀は聞き込みを行っていた。大体は昨日と同じで近所の聞き込みをユキナに任せ、被害女性の友人たちに片っ端から聞きまわっていた。そんなわけでまた昨日訪ねた、彼女の学生時代の友人宅に訪問しているところだった。

 

「昨日に続き今日もご協力いただきありがとうございます」

「いえいえそんな…。私も他の友人たちもドロシーの自殺の理由を知りたいですから…」

 

対応してくれている人物はミランダ・ボイキニア。被害女性ドロシー・パテシアの学生時代の友人で、現在まで良好な友人関係が続いていた親友にあたる人物である。現在彼女は結婚し二児の母親で専業主婦として生活している。彼女は少しばかり陰のある微笑を浮かべ、頭を下げながら智紀を自宅のリビングに案内し、客人として茶や茶菓子を出してもてなす。智紀はそのまま椅子に座りその対応にお礼を言いながら早速話しを始めた。

 

「実は本日また伺ったのはご報告することと聞きたいことがありまして」

「報告することと聞きたいことですか?」

「はい、実に言い難いことなのですが、捜査を進めていくうちに自殺ではなく他殺である可能性が出てきました」

 

その言葉にミランダは驚愕の表情を浮かべ、二重の目を大きく見開いた。

 

「え!?た、他殺って事は…誰かに殺されたのですか!?」

「ええ、今はまだ捜査中で詳しいことは話せませんが、それを匂わせる物証が出てきています。御辛いとは思いますが再びお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「…はい…、協力させてください。私の話が彼女の事件解決に役立つなら」

 

ミランダは辛そうな表情浮かべながらも強い思いを感じさせる眼で智紀にそう答えた。

 

「ありがとうございます。ではお聞きしたいのですが本当に彼女に怨恨のような感情を持っていた人物などに心当たりはありませんか?」

「怨恨とかの感情は持っている人は…心当たりは本当にありません。あ、でも逆に気に食わない人がいるって言うのは聞いたことがあります」

「気に食わない人ですか?」

「はい、彼女あまり仕事の話はしないんですけど、2ヶ月くらい前お酒を二人で飲んでるときに珍しくポロっとつぶやいたんです。会社の上司らしいんですけど名前までは聞きませんでした」

「なるほど…。その他にいましたか」

「いえ…記憶にあるのはこれだけです」

 

智紀はこの証言について会社に聴取しに行ったフレッドに急いで内容を送った。これで新しい証言が出てくるかもしれない。

 

「では次にいきます。先ほどもお酒を二人で飲んでいたと仰っていましたが、ドロシーさんはお酒が好きなんですか?」

「そうですね。酒豪と言えるほどたくさん飲めるわけではないですけど、お酒はよく飲んでいました」

「その中に彼女の行きつけの店などはご存じないでしょうか」

「お店ですか…。はい、いくつか知ってるのでちょっと待っててください。アドレス帳を持ってきます」

 

そう言って戸棚からB5くらいの手帳一冊を取り出し、二つの名刺のようなものと二つの住所が書かれた欄を見せてきた。

 

「こちらの二つの名刺が彼女に連れてってもらったバーのものです。こちらの二つも同様の飲み屋さんのものです。私が知っている範囲はこのくらいです。彼女飲むことも好きだったですけど、食べることも好きでたくさんのおいしいお店を知ってたんです。それでよく私も教えてもらって・・・」

 

思い出に触れてしまい思わず涙が込み上げてきて言葉が続かなくなってしまう。智紀はただ黙って彼女が元に戻るのを待った。

 

「すみませんお見苦しいところを…」

「いえ御気に為さらないでください。ご友人を亡くされたのですから悲しむのは当然ですよ」

「ありがとうございます」

 

そういってミランダは涙を拭う。呼吸も落ち着きお互いお茶を飲んで一息入れ智紀が切り出す。

 

「お辛いとは思いますが最後に後一つだけよろしいでしょうか」

「はい大丈夫です」

「最近ドロシーさんに新しい友人や知り合いが出来たなどの話は聞いたりしませんでしたか?」

「いえ、そのような話はあまり…。ドロシーは元々社交的でしたから友人や知り合いはたくさん出来てると思うし、よく色んな人の話を聞いたのでどの人が付き合いが浅いとかいうのは申し訳ありませんがわかりません」

「そですか…」

 

智紀は一つ考え事をしながら次は教えてもらった店の住所に行ってみるかと考え席を立とうと思ったそのとき、ミランダが何かを思い出したように顔を上げた。

 

「そういえばドロシーが最近可愛い女の子がいるって言ってました。20代後半の若い子でとても気があって最近よく飲みに行ったり遊んだりしてるって」

 

その証言に智紀は何か手がかりを掴んだという感覚を感じた。

 

「その女性について詳しいことは?」

「たしか顎下に大きいほくろがあるセクシーな感じの子ってドロシーは言ってました。実際にその子のことは見てないのでこれ以上は…すみません」

「いえとても有益な情報です。ありがとうございます」

「もしかしてその子が?」

「いえまだわかりませんのでそれ以上のことは…」

「…もし犯人を捕まえたら聞いてもらえますか?なぜドロシーを殺さなければならなかったのかを・・・」

「はい必ず。任せてください、必ず我々が犯人を捕まえます」

「よろしくお願いします…」

 

智紀はミランダの協力に礼を言い、家を後にする。ミランダは願いを託すかのように智紀が角を曲がり見えなくなるまで見送り続けていた。

 

 

智紀が情報を得た店に向かっていたとき、クリアから念話通信が入った。

 

「浮岳です。どうでした?」

『智紀くん今から君の携帯端末にある映像を送るから見てちょうだい』

「何の映像ですか?」

『今うちで追っているOL事件についての映像。場所はクラナガン中央区画にある飲食街に設置されている監視カメラのものよ』

 

智紀は素早く持っている端末を弄り、送られてきた映像を見る。そこにはスーツ姿の被害女性ドロシーと隣を歩く一人のダークブラウンの女性が映っていた。

 

「こいつは…」

『この映像が撮られたのは一昨日の夜8時。となりの女性については調査中よ。彼女たちが向かった店の住所もメールで送っておいたからそこに向かって』

 

智紀は驚きながら先ほどもらった情報の中にある店の住所を見つめる。すると二つの店の住所が送られてきた住所と合致した。

 

「了解です。これから向かいます」

『そこの捜査が終わったら一旦オフィスに集まって情報整理するから戻りなさい。じゃあね』

 

そういって通信は切られた。智紀は急ぎ足で商店街の場所に向かっていった。

 

 

クラナガン中央区画の飲食街、近くにオフィスビルや管理局地上本部があるため客足が絶えない。色々な世界の料理や一流料理人の店が軒を連ね観光スポットとしても人気のある地域である。その飲食街の入り口にある大きなゲートの下に智紀はいた。捜査内容が書かれているメモ帳を歩き見ながらゲートを潜っていく。あくびをして現在時刻を確認し、手帳を閉じて目的地に急ぐ。

 

「ここか」

 

一件めの店は簡単に言うとイタリア料理店のようなところだった。外装は白い漆喰のような塗装がされ、店内は雰囲気作りのためか年季の入ったレンガ造りのような内装にしてあり、木のテーブルとイスが並んでいる。まだ2時とギリギリ昼時ということもありチラホラ客が食事をしている。二人が誰かに声をかけ様と思ったとき奥からウェイターと思しき女性が出てくる。

 

「いらっしゃいませー。お一人ですか?」

「いえ、管理局のものです。少しお話を聞かせていただきたいのですがよろしいでしょうか」

「え、あ、はい少々お待ちください」

 

そういって奥の厨房に入っていき少ししてから店長と思われる料理人の服装をした初老のように見える男性が出てきた。

 

「ここの店長のアドネと申します。ここではあれなので奥の別室に行きましょう」

 

案内され店の奥の従業員の休憩室のようなところで話を再開する。

 

「それでどういったご用件でしょうか?」

「まず自己紹介ですね。管理局323部隊の浮岳智紀です。本日伺ったのは少々お話を聞かせていただきたいと思いまして…。こちらの女性をご存知でしょうか?」

 

そういって智紀は自身の名刺を渡し、被害女性のドロシー・パテシアの写真を見せる。それを見せるとアドネ氏はすぐに質問に答えた。

 

「ああ、ドロシーさんですね、常連のお客様です。一昨日も来たばかりですよ。彼女が何か?」

「実は彼女が遺体で発見されました。今は事件、自殺両方の視点で捜査しています」

「え!?そうなんですか!?彼女が…」

「それで一昨日のことについてお聞きしたいのです」

「一昨日は…たしかご友人と一緒に来店していただきまして…。彼女にはシーザーサラダとゴルゴンゾーラ、ご友人にはカルボナーラをお出ししたのを記憶しています」

「そのご友人はどういった方でしたか?」

「ここ最近何度か二人でお越しいただいてましたよ。たしか顎下に大きめのホクロがある、キレイ系の美人といった感じでしょうか」

 

その発言に智紀は反応する。

 

「何時くらいまでここの居ましたか?」

「たしか1時間ちょっとですかね…。お二人で帰っていきましたよ」

「そうですか…。ご協力ありがとうございました」

 

礼を言いそこで話をて終え店から出て行き、次の店に向かっていった。そこは先ほどの店からさほど遠くない場所にあった。バーのようなところで外見からしてシックな大人の雰囲気というものが醸し出されている。準備中の札が掛けられていたが智紀はお構いなくドアを開け入っていく。すると掃除をしていた店員がこちらに気付き、小走りで近づいてきた。

 

「すみません、今はまだ準備中でして…」

「お仕事中すみません。私たちは管理局323部隊所属の浮岳智紀というものです。実はお話を聞かせていただきたくてこちらにお邪魔したのです」

「話ですか?」

「はい。ちなみにあなたは…」

「ああ、すみません私はここの店長のアーベル・ビヨルネといいます」

 

そういってアーベルは自身の名刺を差し出し、智紀も自身の名刺を交換し近くの四人席に案内され話しを始めた。

 

「実はある事件を追ってまして、こちらの女性に覚えはありますか?」

 

ドロシーの写真を見せ相手の反応を伺う。

 

「ああ、ドロシーさんですね。よく当店に来ていただいてます。彼女がどうかしたんですか?」

 

智紀は先ほどと同じような説明をし、話を再開させた。

 

「ここに一昨日彼女の他にもう一人来たはずなのですがご存知ですか?」

「ああ彼女ですか。確かに来店されましたよ。ドロシーさんは最近よく彼女と一緒にいらっしゃいましたよ」

「その彼女について何か知りませんか?」

「さぁ、私もそこまで親しくも無いですし、ここ数ヶ月で数回程度しか来店されてませんから…。でもたしかドロシーさんにベティって呼ばれてたかなぁ。年は離れてそうでしたけど二人ともすごく親しそうでしたよ」

「ベティさんですか…。その他には」

「すみません。そのくらいしかないですね」

「何か話していたとか、何か持っていたとか何でもいいのでありませんか」

 

店長はうーんと腕を組んで悩む。3分くらいそのような状態が続き店長が申し訳なさそうな表情で話し出す。

 

「私が聞いた話はホント世間話ばかりで会社の上司がどうだとか、洋服がどうだとかそんなのばかりです。何か持っていたといっても持っていたのは当店のグラスとか食器の類とかとボトル、あと自分のデバイスくらいしか記憶にはないですよ」

「デバイスですか?」

「ええ、ドロシーさんは持って無いようでしたから携帯端末を、ベティさんは自身のデバイスを持っていました」

「先ほどボトルと仰っていましたが…」

「ああ、ドロシーさんのキープボトルがあるんですよ」

 

そういってカウンターの棚に所狭しと並んでいる酒瓶から一本の瓶を持ってくる。

 

「これです」

「…高そうですね」

「そうですね。ちょっと値は張りますけど上物ですよ。彼女これを持ってよく酌をしたり自分も飲んだりしてました」

「そうですか…。これに触る人はどの位いますかね」

「そんなにいないですよ。自分かあとドロシーさんくらいです。キープされてるボトルとかは大体私が管理をしてるので決まったところに置いておくし、弄られてどこ行ったか解らなくなるのが嫌なので、私以外の従業員にはあまり触らせないようにしてるんです。」

「なるほど。そのボトルいただいてもよろしいですか?あとあなたの指紋も」

「え、かまいませんけど…なぜ?」

「そのボトルに付着しているベティさんの指紋を採取したいんです。そこであなたの指紋を取っておいて照合のときに混乱が起きないように事前にわかるようにしておきたいんです」

「そういうことなら…」

 

そういってセロハンテープのようなものに指紋をつけてもらい、それを回収する。

 

「ご協力感謝します。では自分はこのへんでおいとまします」

「いえいえ何かに協力できたなら幸いです。今度はお酒を飲みにいらして下さい。サービスしますよ」

 

そういって店長はイタズラっぽく笑みを浮かべる。

 

「ははは、そうですね。じゃあ今度また伺いますよ」

 

智紀は店長にそう返し店を出て行く。時間は3時前で太陽が燦々と輝き汗を誘う。智紀はうんざりしたように「暑い」とつぶやきオフィスへと戻っていった。

 

 

 

オフィスは冷房がガンガンに効いてもはや寒いレベルまでになっていた。智紀は帰ってきたのはいいものの、早すぎたためかクリアとユキナしかいないオフィスでテレビを見ながら一人遅い昼食を取っていた。飲食街で何か食べればよかったのだが、みんな集まっているかもしれないと思い寄り道せず帰ってきたのだ。そんなわけで一人物悲しくカップ麺をコーヒーと共に啜り飢えを凌いでいた。

 

「コーヒーとは合わねぇな…。コーヒーもまずいし」

「ちょっと。テレビうるさいから音量下げて」

 

ユキナがパソコンで表をまとめながら智紀に注文する。智紀は言われたとおりリモコンで音量を下げ、何かのバラエティ番組の再放送を流しながらまた麺を啜る作業に入る。

 

「あんたいつもそんなものばっかり食べてるの?」

「いいんだよ、腹に溜まれば美味かろうが不味かろうが同じなんだから」

「あんた料理できないんでしょ。情けないわねぇ作ってあげましょうか?」

「ハァ?お前料理なんてできんの?初耳だわ」

「ま、まぁね!(炒飯くらいしか出来ないとは言えない…)」

 

内心冷や汗を掻きながらドヤ顔をするユキナ。それを見たクリアは必死に笑いを堪え、智紀はひらめいた様にニヤリと笑う。

 

「じゃあ作ってもらおうかな~。それみんなで食べようぜ。ねぇクリアさん(ニヤニヤ)」

「そうねぇ。ぜひユキナちゃんの手料理を食べてみたいわね~(ニヤニヤ)」

 

二人とも含みのある笑い顔でユキナに提案する。ユキナは相手の予想外の返しをしてきたため一瞬狼狽してしまう。

 

「(し、しまった~!墓穴掘った!)い、いいですよ全員分余裕ですよ!」

 

今更できませんなど言えず、結局乗せられてしまうユキナなのであった。

 

 

 

 

そんな茶番が終わり他のみんなが戻ってきたところで、ガルシアが仕切り会議がスタートする。

 

「はい、じゃあ時計回りで俺、フレッド、ユキナ、智紀、部隊長の順で報告していくぞ」

「あれ、ラナがいないっスけど」

「あの子には頼みごとしてあるから遅れて来るわ。先に始めちゃいましょう」

 

クリアがラナの不在理由を告げる。ガルシアはそれに頷きホワイトボードのペンを持ち、張ってある被害女性の住んでいたフロアの見取り図に点を書き込み始める。

 

「これが害者と謎の人物の足跡だ。鑑識曰くかなり乱れた足取りでな特に害者の足跡が酷かったらしい。酒を飲んでいたことやこの足跡から考えると、泥酔状態の彼女を謎の人物が肩を貸して二人三脚みたいにして歩いていたと推測が出来る。あとここからが重要なんだが、屋上で彼女の足跡、指紋が検出されなかった。そのくせ鍵だけは開いていたんだ。自殺にしても他殺にしても不可解すぎる」

「それはベランダとか別の所から落ちた可能性は?」

「そいつは無理だ。駐車場はベランダではなくマンションの側面で、壁には空気交換用の小さい窓しかない。しかも彼女は角部屋じゃないからそんなことはできない。害者が落ちた地点はほぼ垂直な壁に面しているところで、どう足掻いても屋上からしかあの地点に落ちることは不可能だ。こんな感じだな、次どうぞ」

 

ガルシアは自身の説明を終え次のフレッドに回す。

 

「あい、じゃあ俺ね。昨日行った害者の勤め先に行ったんスけど、昨日じゃ出てこなかった証言が出ました。まず害者は人望のある人気者の反面、やっぱ若干の妬み見たいなのはあったようで、若いというのもあって一部の上司に睨まれていたらしいっス。で、近年そいつらの彼女に対しての当たりが強くなり始めていたらしくて、結構な無理難題や仕事量を押し付けていたようっス。でも彼女かなり優秀でそんな仕事も結局成功させちゃって逆に昇進チャンスとかにしちゃったらしいんスよ。で、そっから上と彼女のイタチゴッコみたいなのが続いていたらしいっス」

「それが害者が抱えていた悩みってやつなのか?」

「いや逆にこの逆境をバネにして仕事やっつけてたらしいから、あまり深刻な悩みではなかったようなんスよね」

「この上司ってどんな奴だ?」

「名前はジーン・ビクスビー。会社の重役で社内での評判はマチマチだったな。仕事面では優秀で信頼できるっていってたが、いかんせん小心者らしくて人望面ではあまりいい声はなかったな。そういやお前連絡してきたけど何だったんだ?」

「それは後で説明するよ」

 

フレッドが終わりユキナに発表者を次に移す。

 

「私ね。私は主に彼女の自宅周辺で聞き込みをしていました。そこで色々な証言が出てきました。まず一つはマンション周辺の住人から。2,3ヶ月ほど前から一週間に一度くらいの頻度で同じような女性が目撃されていました。大体決まった曜日にいたらしくて、それが印象に残って覚えていた人が証言してくれました。あともう一つ、あの辺りは昼になるとよく資源回収の業者が徐行で回っていたようでその人に話を聞きました。その人も前に証言してくれた方たちと同じで不審な女性を目撃していました。しかも職業柄同じ場所を周回するらしいのですが、その女性も何度もマンション周辺を回っていたそうで不思議に思っていたようです。恐らく推測するに綿密な下調べをしていたのでしょう。その女性の特徴なのですが、皆さん女性というのはわかっていたそうなんですが、どうも特徴などが全員そろって覚えていないようで、どうやら人に気付かれない程度の認識阻害魔法を使っていた可能性があります。私からは以上です」

「時間帯とかも一緒なのかしら?」

「いえ、昼時のときと夜時で曜日が違ったようです。カレンダーと照らし合わせてみたら、どうやら一週間に一度それぞれ交互に来ていたようです。」

 

これ以上質問が出ないようで次の智紀に移る。

 

「自分も外車に親密に関係のある人物を中心に聞き込みと彼女が通っていた飲食店への聞き込みを行いました。そこで害者と学生時代から親しかったミランダ・ボイキニアさんから気になる証言を幾つか貰いました。一つ目は害者が気に食わないと嫌っていた人物がいたということです。これは会社の上司のようで、フレッドの言っていた人物かはわかりませんがその可能性は十分に考えられます。二つ目は彼女が贔屓にしていた店の情報で、これについては後で説明します。三つ目は害者が最近自分より若い女と親しくしていたということです。どうやら友人関係らしいのですが詳しいことはわからず、特徴として顔の顎下に大きめのホクロがあるというもののみです。そして最後に彼女が贔屓にしていた店のことです。この中から害者が一昨日に例の女性と行った店を特定しました。実際に赴いて話を聞いたところ、一軒目でパスタの料理を食べ、一時間後くらいではしごしてバーにて酒を飲んでいます。そこのバーの店長から例の女性の呼び名を聞きだすことが出来ました。名前はベティ。本名か偽名か愛称かはわかりませんがそのように害者から呼ばれていたそうです。ここでも特徴である大きなホクロが確認されています。あと害者はそのバーでボトルをキープしていたようで、そのボトルをベティという女性は酌をしていたらしく、さっき鑑識に回したところ、害者、店長以外の指紋を発見したようで、恐らくそれがベティの指紋であると思われます。自分からは以上です」

「その女性とはどんなことを話していたんだ?」

「ただの世間話だったそうだ。ああそういえば言い忘れていたけど、ベティはどうやらデバイスを持っているそうだ。バーの店長が目撃していた」

「デバイス…。魔導師か」

 

自分の番を終え次のクリアに交代する。

 

「私のほうは調べたというより提供してもらった資料を紹介していくわ。まずは司法解剖の結果ね。これで解ったことは智紀君が行ったお店の料理とかお酒とかがでてきたわ。あと体内でわずかに睡眠魔法を使用したと思われる魔力を感知したの。これが被害者の自宅一帯に張られていた人払いの魔法の魔力と一致して、殺しと結界張った人物が同じだと考えていいわね。これで個人の特定が出来るようになったわ。今照合中よ。次は飲食街の監視カメラの映像を解析した結果謎の人物だったベティという女の人相が割れたわ。これ画像だからよく見ておいて」

 

画像が配られ皆が目に焼き付けるように見る。その画像には確かに顎下にホクロのある、背中まで届く長髪の女が映っていた。

 

「ほう、こりゃ美人っスねぇ」

「こいつか…」

「あとガルシア君あなたに一つ…」

 

クリアが何かを言いかけたとき突然オフィスのドアが勢いよく開かれる。そこには走ってきたのか息切れを起こしているラナが、何か茶封筒入りの資料を持って汗を袖で拭いながら近づいてきた。

 

「すみません!遅れました」

「大丈夫よ。で、今からすぐにいいかしら?」

「はい、大丈夫です!」

 

するとラナは持っていた茶封筒からホッチキス止めされた数枚の資料を全員分渡し、説明を開始する。

 

「私は今回被害者のパソコンを調べ、消されたと思われるデータの復元を試みてみました。結果だけで言うと5・6割復元に成功したといった感じです。そこで断片的ですがとんでもない表とデータが出てきました。資料にそのまま載せたので見てみてください」

 

全員がそう言われて渡された資料を読み出す。そこには今までの捜査ではまったく出てこなかった事実が浮き彫りになっていた。

 

「ちょっとこれって…」

「おいおい俺でも知ってる会社名があるな」

「この洗剤やスポンジとかその他…価格と数量計算のこのグラフとデータが正しけりゃこれは…」

「価格と数量のハードコア・カルテル…」

 

そこにはキッチン洗剤やスポンジなどの主婦には欠かせないキッチン用品の、ここ数年の価格、数量がグラフとして記され、さらに詳しい説明が書かれていた。まさかここまで大物が釣れるとは一同考えてもいなかったようで目を見開いて驚いている。

 

「このデータが彼女のパソコンに?」

「はい、復元できる分はこれだけですがまだまだデータには証拠が残っていたみたいでした。ここまで克明に書かれていたところを見ると彼女は…」

「管理局に直訴しようとしていたって訳ね」

 

ユキナが沈痛な面持ちで資料を見通す。

 

「だが解せないな。黒のこの女は会社ともまったく関系ねぇ。なんで害者を殺害したんだ?」

「実はそれを説明できるデータがあるのよ」

 

クリアはフレッドの弁にそう答え、一枚の紙を皆に配った。

 

「さっきの時にくださいよ…」

「ラナからの説明があったほうが理解しやすいし二度手間でしょ?」

 

そこには過去にあった自殺案件が書かれていた。数だけを見れば10件はある。

 

「男女関係無く車内で練炭に首吊り、身投げもあるな。これ全部まさかこいつが?」

「被疑者というより被害者の体内で見つかった魔力がそれらの案件から見つかった魔力と同質のものだということが判明したの。この魔力極めて隠蔽性が高くてね、これらの案件は全部過去に被疑者不在で自殺とかお宮になったものばかりなの。今回のでその尻尾が見えてきたってところね」

「つまりこいつは殺しを自殺に見せかける殺し屋…。しかもこいつに害者の殺しを依頼したやつがいるってことですか」

「こいつがとにかくクソアマでさっさと捕まえなきゃならないってのはわかったっスけど、こいつどこいるんすかね?」

 

フレッドのぼやきにみんながうーんと頭を抱える。人相と前科などがわかっても肝心の居場所がないとわからないのだ。そんなみんなが思い悩んでいるとき、クリアがガルシアにあるものを渡す。

 

「そんな悩んでいるガルシア君これを」

「は?これは…酒?って結構上等なやつじゃないですか」

「あ、それは…」

 

クリアが手渡した物は智紀が持ち帰ってきたボトルだった。

 

「それは智紀君が持ち帰ってきた、被疑者が触って被害者に酌した酒瓶だそうよ。これならあなたの能力で終えないかしら」

「ちょっと難しいですね。その場合はこの酒を酌している情景が見えるだけで犯人追跡に使える因果的なものがありません」

「その中身ではどうですか?」

 

二人が何とかできないかと悩んでいるところに智紀が意見を挟む。

 

「バーのマスターを聴取しているときその酒の中身も飲んでいたそうです。それではいけませんかね?」

 

その意見にガルシアは暫し考え、顔を上げた。

 

「それならいけるかもしれない」

 

その言葉に全員が安堵の表情とやる気に満ちた表情を浮かべる。

 

「これでクソアマを追えるな」

「ええ、でもカルテルのほうはどうするの?これはさすがに規模が大きすぎて私たちじゃ対処しきれないし、なにより門外漢よ?」

「それについては大丈夫です!」

 

ラナが無い胸を張って自身ありげに言う。

 

「もうすでに知能犯捜査の専門部隊のところに連絡を入れておきました。すでに資料も渡したので向こうでも捜査を行うはずです」

「ああ、それで会議に遅れてきたんだ。でも今回大手柄だな。すごいじゃないか」

 

そういいながら智紀はラナの頭をなで繰り回す。それに続きユキナも頭を撫でラナは「子ども扱いしないでください!」と言うがまんざら嫌ではないようであった。一方ガルシアは能力を使って女の追跡をしようと思っていたがその方法で悩んでいた。

 

「なぁちょっといいか?」

「どうしたんスか?」

 

深刻そうに酒瓶をもって一言。

 

「追跡に必要かもしれないからこれ飲んでいいか?」

 

当然彼が全員の冷ややかな視線を浴びたことは言うまでも無い。

 

 

 

20:00クラナガンのある住宅街にあるマンション。そこに二人の男と一人の女がいた。二人の男は黒いスーツに身を包み、そこらのチンピラとは比べ物にならない威圧感を放ちながら多人数用のソファに、女は濃い青のスーツを着込み一人用のソファに腰掛けていた。双方の間の机にはスーツケースが置いてあり、大量の札束が入ってあった。

 

「ボスからの謝礼金だ」

「あら、今回は中々良心的な額ね。そっちの景気がいいのかしら」

「今回の仕事は元々ボスへの頼まれごとだったからサービスだとよ」

 

そういって帽子を被った男がクツクツと笑う。女はそれに見向きもせず札束を数え始める。

 

「今回の仕事の後、管理局はどう動いてるのかしら?」

「嗅ぎまわっているようだが、お前がいつも通り仕事をしていればここまでたどり着くことはないだろう」

「でもそろそろ顔が割れると思うのよね~。一旦どこかに身を隠そうかしら」

「それは次の仕事を終えてからにしてもらいたいな」

 

そういって帽子を被らずインテリっぽい眼鏡を掛けている男が内ポケットからバッジ型のデバイスを取り出し、ウィンドウを展開する。

 

「ちょっとペースが速くない?ついさっき仕事終えたばかりなのよ」

「今回はまどろっこしい小細工はいらない。闇討ちして仕留めてもらいたい。ターゲットは管理局の…」

 

ピンポーン

そのとき家のインターホンが鳴った。3人はドアを凝視し、音を立てずに移動する。ここのマンションはセキュリティ上一階でまず第一のインターホンを鳴らし、家主に入るためのOKを貰わなくてはならない。だが今の音は第二のインターホンであるドアのすぐ横に備え付けてあるものの音だった。だれもこの部屋に呼んでもいないし、何より下のパスも行っていない。女は慎重な顔でインターホンに出てモニターを覗く。そこには初老に近い男性とスウェットにジャージの上着を着た黒髪の若い男が映っていた。

 

「どちら様ですか?」

『夜分遅くすみません。自分はこのマンションの管理人です。近隣住民の方から苦情が来てまして少しお話がしたいのですが』

 

それを聞いた3人は首をかしげ、とりあえず応対をする。

 

「いったい何のことでしょうか。心当たりが在りませんが…」

『私の横にいる方やそのほかの住人の方から異臭がするという苦情をいただいてます。私としても苦情をいただいてしまっては、何もしないわけにはいけませんので出来れば話し合いで解決したいのですが…』

「知りません。帰ってください」

『こちらとしてもこのまま苦情が続くようなら、管理局などに一報を入れなければならなくなりますが…』

 

その言葉につい舌打ちしてしまう。面倒なことになった。仲間の帽子男が首をクイクイっとドアのほうにやる。

 

「(面倒だから出て話し合いで解決しろ)」

 

そのように目で訴えてくる。女はため息を吐き今から開けると告げ、玄関に向かう。二人の男はトイレや脱衣所に隠れ様子を伺う。そして女がドアを開けた。すると初老の男性の姿はなくジャージ男だけが立っていた。すると男がドアが閉まらないように足をストッパーのように入れこちらにIDのようなものと一枚の紙を見せてくる。それには管理局員の身分と逮捕状と書かれていた。

 

「管理局だ。ヘザー・バーギンスさんアンタを殺人容疑で逮捕する」

 

その瞬間女はデバイスを起動し、その手に機械的な杖を持って、先端に殺傷設定の魔法の刃をつけ男に襲い掛かる。だがその一撃は右手によって左に払われその右腕の上から左腕の拳が放たれ女の顎にクリーンヒットする。その一撃で女は昏倒してしまった。その1秒にも満たない攻防に二人の男は出遅れていまい二人ともベランダからの脱出を試みる。二人とも魔導師であり、空戦まではいかないが空は飛べたのだ。窓を開けデバイスを起動してベランダから飛び出そうとする。一旦逃げてボスに報告しようそう思っていた矢先だった。

一切の音も無く眼鏡の男は見えない糸に絡みとられ、帽子の男は布で簀巻きにされていた。

 

「はいお疲れさん」

「気をつけなさい。逃げようとすればその分絞まるわよ」

 

管理局員の男と女が両隣の部屋のベランダから自身のデバイスを使い、得物を待つ蜘蛛の如く待機していたのだ。そのとき初めて自分らが包囲されていたことに男たちは気付いたのだった。

 

そこからの捜査はトントン拍子で滞りなく進んでいった。女、ベティ改めヘザー・バーギンスが全て吐いたのだ。どうやら魔法で眠らせた後そのまま担いで空を飛んで屋上と同じ高さから放り投げ、屋上の鍵も空中に浮かびながら開けてあたかも自殺のように見せかけたと自供した。男二人も同様だった。なぜヘザーの名前が割れたかというと理由は単純で成人前の学生時代に売春などの問題行為で管理局に補導され、そのときに取られた魔力がデータバンクの奥底に残っていたのだ。彼女らはとあるマフィアの構成員でヘザーは組織お抱えの殺し屋だった。彼女はなぜドロシーを殺さなければいけなかったのか理由は知らなかったが、二人の男が自供した。どうやら被害者のドロシー・パテシアが勤めている会社の重役に組織のボスと繋がりがある人物がいるようで、その人物から直々に依頼が来たそうだ。

このことから二つの案件がほぼ同時に追われることになった。まず先に追われたのがマフィアの事務所だ。ここに管理局のメスが入り323部隊も協力要員として参加した。元々覚醒剤の売買などで目を付けられていたらしく、丁度今回の殺人絡みでついに事務所のガサ入れに踏み込めるようになった。そこからは覚醒剤はもちろんのこと、ドロシー殺害を依頼した人物の連絡先まで入っていた。さらに芋づる式のようにドロシーが勤めていた会社の強制捜査が開始された。それは百人を優に超える管理局員が動員され、メディアに大きく取り上げられるほどだった。強制捜査の結果、数社の会社とカルテルが行われていた証拠が挙がり、さらにドロシー殺しの依頼者として彼女の上司ジーン・ビクスビーが教唆犯の疑いで逮捕された。こうしてドロシー・パテシアを廻る事件は無事解決し、他二つの犯罪の芽を駆除することが出来た。

 

数日後、大体9時ごろ、智紀はと言うと事件解決の旨を告げに友人宅をまわっており大方回り終えたところであった。友人であったミランダさんらは涙を流しながら「ありがとう」と何度もお礼を口にし、晴れやかとは決して言えないが、憑き物が取れたような表情を浮かべていた。智紀はそのまま足をあの飲食街に向け、とあるバーの扉を開ける。そこには部隊のみんながそろっていた。

 

「遅ぇぞ。そんなにマダムたちとの密会は楽しかったか?」

「お前じゃあるまいし、そんな不順なもののわけがあるか阿呆」

 

すでに飲んでいるフレッドと適当に会話し、智紀はそのままみんなの座っている座席に座り、マスターと会話する。

 

「いらっしゃいませ。まさか来ていただけるとは思ってませんでしたよ。しかも団体様で」

「サービスして貰えると聞いちゃ行かない手は無いでしょう?」

 

智紀はにやりと口角を挙げ、マスターは苦笑する。

 

「何に為さいますか?」

「まずは生ビールで」

「かしこまりました」

 

マスターは離れカウンターに戻っていく。今日は打ち上げということでここのバーを貸切にしてもらえたのだ。久しぶりの飲み会ということで皆のテンションも上限知らずで上がっていく。

 

「ではここで第一回ドキ☆ドキ大暴露大会を開催するわよー!!くじ引いて当たり引いた人はじゃんじゃんうれしはずかしー体験を暴露しちゃってねー!!」

「ヒュー、クリアさん大胆~!」

 

クリアが酒に酔ってなにかをやり始め、フレッドがそれを囃す。

 

「(おいおい!?もうここまで進んでいたのかこいつら!)」

 

智紀は予想外のアルコールの回り具合に危機感を覚える。よく見るとクリア、フレッドがハイになり、ガルシアは笑いっぱなしでユキナは泣き出していた。

 

「あっれ~、智紀ひゃんノリわりゅいでひゅね~」

「…ラナ、お前飲んだのか?」

「アハハハ!そんにゃわけにゃいじゃにゃいですか~」

 

ラナの持っているものを見るとどうやらオレンジジュースらしきものが入っている。アルコール臭はしない。

 

「…お前場酔いなのか」

 

そこはまさに餌を与えた水槽の魚見たく収拾が付かなくなっており、頭を抱えたくなるような状況であった。

するとみんなくじを引き始める。智紀は「やんのかよ!」と心でツッコンで仕方なしにくじへと手を伸ばす。散々愚痴るがたまにはこういうのも悪くないと心で思えてしまう智紀であった。

 




今更ながらUAが4000を超え、評価も800以上と当初の自分が想像していたものの遥か上をいく数値となりました。
まだまだ未熟な私の書く文章ですが、ここまでの評価をいただき誠にありがとうございます。とても嬉しいです。
完結目指して精進していきますので、よろしくお願いします。

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