ある日、オレの母ちゃんが殺されていた。
鬼女であったためか、武士然とした男が母ちゃんの首を落としていた。
「む、小僧。何者だ?」
男はオレに気付いて怪訝な顔をする。このような山奥に子供がいるという違和感と金髪碧眼という異質さのためだろう。
「オレは息子だよ。あんたが殺したその人の、な!」
父ちゃんから貰った
この行動は
だがよ、母親を殺されて何もしないっていうのも不義理ってもんだろ。
「くっ、重い」
男は金時の攻撃を大鎌で防ぐ。
「貴様も鬼の血が……」
「関係ねぇ」
フツーの人間じゃ持つこともままならない鉞を連続で振り回し、時には雷を放つ。
オレの力は母ちゃんを殺した、この男より圧倒的に上回っていた。
だが――
「なんだと!?」
男は攻撃を受け流し、足捌きと大鎌の変則的な動きでオレの体勢を崩す。
「“力”は確かにお前の方が上だ。しかし、“力”だけが強さじゃない。お前は技術も経験も足りん」
倒れたオレに大鎌を突きつけながら、男は声をかける。
「俺は貴様のような力任せの化物に遅れはとらん」
化物――その言葉が耳に入った途端、拍動が一層強くなる。それと同時に身体が紅く染まる。
「うるせぇ」
「なんだ……ッ!」
異変に気付いた男が大鎌を振るう。
「!?」
紅く染まった左腕で、大鎌を受け止める。
そして、紅い右腕を男の心臓めがけて突き出す。
「あらあら、おいたはそこまでですよ」
オレと男の間に現れた何者かに右腕が止められる。
よく見るとそれは女であり、オレの攻撃は女の細腕によって止められていたのだ。
「あら、思いのほか可愛らしい顔ですね」
女は微笑む。
「ですが、悪い子にはお灸が必要ですね……えいっ」
「ぐはっ!」
女がオレを投げ飛ばす。
可愛らしい声を出した割には、地面に叩きつけられる衝撃は凄まじいものだった。
「申し訳ありません。油断したあまりに、ご迷惑をかけて」
男は女に頭を下げる。
「いいえ、それには及びません。ですが貞光、あなたはこの子に謝らなくてはいけませんよ」
「何故ですか? それは子供とはいえ、鬼ですよ」
「あなたには感じませんでしたか? その鉞に纏う神性を。
おそらくこの子は龍神に縁のあるものよ」
「!?」
男の驚きを他所に、女がオレに近づく。
「私たちはあなたの母親を殺しました。これについては謝るつもりはありません。鬼は退治されなければなりませんもの。
ですが、親を亡くしたあなたに何かしてあげようと思います」
女はこちらの反応を見ずに淡々と告げる。
何か言い返してやりたいが、疲弊していて声が出ない。
「そこで私は思いつきました。母を亡くしたのですから、私が母になりましょう」
何を言ってるんだこの女。
男を見ると、またいつものが始まった、という顔をしている。
「私の名は源頼光。後のことは母に任せて、今はゆっくり眠りなさい」
言いたいことは山ほどあったが、女――頼光の言葉通りに眠気に襲われ、瞼が閉じて意識が遠のく。
「ふふふ、可愛い子」
眠っているオレを、頼光は胸に抱き寄せた気がしたが、オレはそのことを最後まで確かめることが出来なかった。
恥ずかしかったからじゃねぇぞ。
「うっ……朝か」
電子端末の音で慎二は目を覚ます。
携帯端末を確認すると『2階掲示板にて、次の対戦者を発表する』と書かれていた。
「ふぅん。やっと、予選ギリギリの落ちこぼれの顔を拝めるわけか」
金時の方に目をやると、彼はまだ寝ていた。前日遅くまで起きていたためだろう。
「夜更かしの理由が模様替えしたマイルームに興奮してってのじゃなければな」
慎二は金時を置いて、マイルームを後にする。
掲示板に着くと先客がいた。
「へぇ。まさか君が1回戦の相手とはね。
この本戦にいるだけでも驚きだったけどねぇ」
慎二は先客――岸波白野の隣に立ち、声をかける。
「慎二……」
白野は振り返り慎二の顔を見る。
「けど、考えてみればそれもアリかな。
僕の友人に振り当てられた以上、君も世界有数の
「格の違いは歴然だけど、楽しく友人をやってたワケだし。
一応、おめでとうと言っておくよ」
「それはどうも……」
二人は本当の友達というわけではない。
予選において一時的に記憶をなくされていた時に慎二と白野は友人であるという別の記憶を刷り込まれていたのだ。
それは記憶を取り戻した今でも覚えていて、慎二は自然とその時の距離感で接していた。
「――そういえば、予選をギリギリに通過したんだって?
どうせ、お情けで通してもらったんだろ?」
「確かに……本当なら、予選の最後で俺は死んでいたけど」
「いいよねぇ凡俗は、いろいろハンデつけてもらってさ。
でも本戦からは実力勝負だから、勘違いしたままは良くないぜ」
「勘違いなんてしてないさ。俺の弱さは誰よりも知ってる」
「ふぅん。けど、ここの主催者もなかなか見所あるじゃないか。ほんと、1回戦から盛り上げてくれるよ」
「?」
「そうだろう?
悲しいな、なんと過酷な運命なんだろうか。主人公の定番とはいえ、こればかりは僕も心苦しいよ」
慎二は陶酔した顔で叫ぶと、いつものにやついた表情に戻って白野の肩を叩く。
「ま、正々堂々戦おうじゃないか。大丈夫、結構いい勝負になると思うぜ? 君だって選ばれたマスターなんだから」
「…………」
「それじゃあ、次に会う時は敵同士だ。僕らの友情に恥じないよう、いい戦いにしようじゃないか」
慎二は笑いながら白野の側を離れる。
「ほんと、僕は運がいい。強いサーヴァントを引き当てるだけじゃなく、対戦相手にも恵まれてるんだからな」
慎二はマイルームのドアを開ける。
「お、シンジ。ゴキゲンじゃねぇか」
「やっと起きたのかよ。
まぁ機嫌もよくなるよ。なにせ、あれほど平凡が似合う岸波が相手なんだから」
「ほう、知り合いか。ならゴールデンなとこ見せなくっちゃな」
慎二のポケットからまたしても電子音が鳴り響く。
携帯端末を確認すると『
「たしか二つの
「だから、ゴールデンだってば」
二人はアリーナに向かう。
「ははっ、思ったより簡単だったね。まぁ、僕にかかればこんなものかな」
慎二と金時は
「あれ? ちょうどいいや」
慎二たちの目の前に白野とサーヴァントの姿が見える。
「おいバー……じゃなかった。ゴールデン、ちょっと遊んでやろうぜ」
ゴールデンと呼ぶことに抵抗がないわけではないが、クラスを隠すという意味合いでもそう呼ぶことにしたのだ。
「おう! ゴールデンに行こうぜ」
金時も満足気に頷く。
「遅かったじゃないか、岸波。お前があまりにもたもたしてるから、僕はもう
「慎二は相変わらずだな」
白野は呆れたように反応する。
「あははっ、そんな顔するなよ? 才能の差ってやつだからね。
うん、気にしなくてもいいよ!」
慎二は厭らしく嗤う。
「くんくん。何やら海藻類の匂いがすると思ったら、ワカメさんでしたか」
青い和服を着た、桃髪の狐耳という属性盛り沢山な、白野のサーヴァントが声をかける。
「ちょ、おま、なんだよ! 口悪いな」
慎二も気にしてるのかムキになる。
「キャスター、いくらワカメっぽい髪してるからって、それは言い過ぎだと思うよ」
「いや、お前もひどいからね!」
「キャーッ! 天然で罵倒するご主人様もス・テ・キ(はぁと)」
「もう、なんだよお前ら! ほんと、ムカつく!」
「COOLになれよシンジ。奴らの思うつぼだぜ」
金時が慎二をなだめる。
「ああ、そうだな」
「じゃあ、クールダウンしてる間に、オレが
金時が前に出る。
「よう、フォックス。ちょっと挨拶代わりに相撲でも……くっ、お、お前!?」
キャスターに話しかけた金時が、露骨に目を逸らす。
「どうしましたか?」
「てめー、なんだその恰好は!?」
目は逸らしたまま、胸元を指さして叫ぶ。
「胸元!! なんで胸元はだけてんだよ!?
こんなん目のやり場に困んじゃん!?」
「胸元はだけてるのは貴方に言われたくないんですけど。
なんなら雄っぱい見せてる貴方の方がハレンチですし、さっき相撲に誘いましたよね? 女の子相手にそれはないんじゃありませんか」
「相撲はオレの地元のマウンテン挨拶だし」
金時はキャスターにたじろぐ。
「お前もダメじゃん。
もういい。岸波、格の違い見せてやる」
「たく、ひ弱な女を殴んのは趣味じゃねぇが、いっちょヤルか!」
「ご主人様、中身は小学生みたいなコンビですが、私の苦手な脳筋です。
ここは防御に徹して、得られるだけの情報を手に入れちゃいましょう!」
一回戦、初の戦いが幕を開けた。
「ウラァッ!」
「きゃっ!」
金時の一撃でキャスターは吹き飛ぶ。
防戦に徹していたといっても、現在使える呪術『呪相・炎天』を用いて、ただ一方的にやられたわけではない。
それでも金時は止まらず、力技だけで圧倒したのだ。
「興醒めだぜ、失せな」
SE.RA.PHによる妨害が入る前に金時はキャスターに背を向ける。
「おい!
慎二が金時に声を上げる。
「ここで終わんのはつまんねぇよ。まだ2日目だぜ。二回戦まで6日間暇だろ?
もっと楽しもうぜ、シンジ」
「……それも、そうだな。
いやだねぇ、決着が早くても凡人たちに合わせないといけないなんてさ。才能があるってのも考えものだよね。
それじゃあ岸波、決戦までには力をつけろよ。少しぐらい歯ごたえがないと楽しくないからさ」
慎二は厭らしい笑みを浮かべたまま立ち去る。
「キャスター、大丈夫?」
「ご主人様がナデナデしてくれるのであれば、ノープログレム! なんでしたら今夜は一晩中ナデナデしていただいても構いませんよ」
「出会って3日でその距離感はどうなの?」
白野は真名すら知らないキャスターの言動に呆れる。
「ですが、冗談抜きにちょっとキツいですね。
単純なレベルもそうですが、相性が悪すぎます」
「キャスターは白兵戦が苦手だから?」
「それもありますが、もっと根本的なところです。
実際、あの人からは対魔力を感じませんでしたから、呪術は有効ですしね」
「じゃあ、どういうことなの?」
「…………」
キャスターが珍しく黙る。
「あの人は魔を滅ぼす英雄で、私は……」
キャスターは悲しげな表情になる。
「私は……人に仇なす、反英霊だから、です」
「反英霊?」
「ようは英雄に滅ぼされる化物、妖怪、怪物の類です」
「キャスターが化物?」
「幻滅されたでしょうか、でも私はマスターのこと……」
「幻滅なんかしてないよ。君の正体が何者であれ、あのとき俺の命を救ってくれたキャスターを信じるって決めたから」
「ご主人様……分かりました。私もご主人様を信じて、マイルームに戻ったら真名を告げましょう。宝具も使わないとあの人に勝てませんし」
「うん。ありがとう」
「真名を聞いて、ドン引きしたら許しませんからね。先程の言葉、忘れないで下さいね」
いつもの調子に戻ったキャスターが冗談交じりに言う。
「ところで、あのサーヴァントの正体を知ってる風だったけど、心当たりあるの?」
「ええ、見た目だけなら分かりませんでしたが、言葉の端々から漏れた情報と戦い、あとは酒吞ちゃん――メル友の惚気話からですかね。こんなところで役に立つとは思いませんでしたけど」
「???」
「詳しいことはマイルームで。それでは帰りましょう、私たちの愛の巣へ!」
つづく