あれからオレは頼光の大将に拾われて、生活を共にした。
「金時、準備は出来ましたか?」
大将はオレに金時という名をつけた、髪の色が由来の安直な名前。金色は好きだから悪くはねぇんだが、響きがいまいち気に入らねぇ。もっと“金”を格好良く呼べねぇもんか。
「準備ならとっくに出来てるぜ、大将。つーか山育ちのオレとしては、このマサカリさえありゃあ
大将についていって、怪異を倒し続けるうちに、四天王の一人っつーことになって、今回も鬼退治に山に行く予定だ。
「金時、私のことは母と呼びなさいと、いつも言っているでしょう」
母ちゃんが死んでから大将は毎日この調子で、場合によっちゃ泣き落としまでするから質が悪い。
「で、今回行く山の名前ってなんだっけ?」
話を逸らそうと、別の話を振る。元々聞こうとしていた話題だっただけに丁度よかった。
「はぁ、帰ってきたら今度こそ母と呼んで貰いますからね。
大江山ですよ。まったく、目的地を忘れるなんて……やはり一人で行かせるのは早いのでは……」
「そんなことねぇよ、ちっと忘れてただけだ。それに鬼の一匹や二匹、どうってことないぜ」
「それが心配だというのです。もし厳しそうなら、母に言って下さいね。任務を放り投げて駆けつけますから」
「そりゃあダメだろ……ところで、鬼の名前ってなんだっけ?」
「目的地だけでなく討伐対象も忘れたとは、これは帰ったら教育が必要ですね」
大将の表情に冷たさが増していく。これはガチでヤバいやつだ。
「酒吞童子、と名乗っているそうです。名の通り、呑んだくれの醜い鬼でしょうが」
「…………」
慎二が目を覚ます。
「やっぱりあれは、あいつの……」
「どうしたシンジ?」
「あ、いや、なんでもない」
「? まぁいいや、ところでさ学校の端にある教会に行きてぇんだが、一緒に行かねぇかい。なんだかゴールデンな予感がするんだよな」
「いや、僕はちょっと考え事するから、一人で行ってこいよ」
「つれねえな。ま、いっか。じゃあ行ってくるぜ!」
金時はマイルームを出る。
「……僕も行くか」
しばらくして、慎二もマイルームを後にする。
「あら、間桐くん」
廊下を歩いていると赤い服の少女―――遠坂凛が声をかけた。
「遠坂……今、君と話す気分じゃないんだ。またね」
慎二は凛の横を通り抜ける。
「あら、あなたのことだから自分のサーヴァントの自慢でもするかと思ったけど……弱い英霊でも引き当てたのかしら?」
「は? 僕みたいな優秀な
現に岸波に圧勝だったしね」
慎二は振り返って、凛に怒鳴る。
「岸波くんみたいな初心者あいてに威張るなんて、器の底が知れるわよ、間桐くん」
「くっ!?」
「で、何を悩んでたの?」
「ちょっと、僕のサーヴァントがよく分からないヤツだから。話しても要領得ないし」
「対話が出来なくても、その人のことを知る方法ならあるわよ」
凛は図書室を指差す。
「これから戦う上で対戦相手のことを知るのは当然だけど、自分の陣営のことも知っておくのは大切よ」
「…………」
慎二は考えるように俯く。
「まあ、アジア圏有数のクラッカーである間桐慎二くんには必要のないことかもしれないけど」
「な、当たり前だろ! でも、アリーナでせこせこ経験値稼ぎするようなみっともない真似は出来ないし、暇潰しに図書室に行くのも悪くないかな」
そう言い残して慎二は凛の元を去る。
「はぁ、なんであんな助言みたいなこと言っちゃったのかしら」
「(嬢ちゃんがあのマスターを気に入ってるからじゃないのか?)」
凛のサーヴァントが霊体化したまま声をかける。
「冗談! あんなの好みじゃないわよ。ただ、あいつがいつもと違う雰囲気だったから調子が狂っただけよ」
「(ははは、そうだな。嬢ちゃんのお気に入りは出会い頭に身体中ベタベタ触った坊主だもんな)」
「な、だからあれは誤解だって言ってるでしょ!」
「ふーん。思ったより沢山の
慎二は図書室に入り棚を物色する。
「あった!」
慎二は金時に関わる資料を一通り全部集め、図書室の席の一角に座る。
「どれどれ……」
慎二は本を読み進める。
「あれ? 慎二」
「うぁ、き、岸波なんでこんなとこに」
読むのに夢中になっていた所為で白野の接近に気づけなかった。
「そうか、僕のサーヴァントのことを調べに来たんだな」
慎二は読んでいた本を閉じ、机の本と一緒に抱きかかえる。
「残念だけど、そうはさせないよ!」
慎二は本を持って、図書室を出る。
「調べるもなにも真名は知ってるんだけどな……」
白野はそう言いながら本を一冊取る。
日本三大化生の一角として扱われる妖狐の話を。
つづく