new record   作:朱月望

22 / 54
決戦まであと―――2日

 処刑が決まったギネヴィアを救出すべく、私は仲間を殺した。赦されざる罪だと理解しても、愛する者を護りたいという激情に迷いはなかった。

 だからどうか、我が王よ。貴方も私を罰して下さい。貴方の妻を寝取ったのです。貴方の大事な騎士を殺したのです。その胸に宿る憤怒を、憎悪を、恩讐を私にぶつけて下さい。

 ―――それだけが私の救いなのだから

 

 

 

 ダンが教会を訪れると、そこで白野に出会った。

「これは珍しいところで会いますな。君もクリスチャンでしたか」

「いえ、何の気はなく彷徨ってたらここに」

 白野は苦笑しながら答える。

「君のセイバーはどうした? いつも一緒だと記憶しているが」

「セイバーは昨日のあれから機嫌が悪くて……今もふて寝しています」

「そうか……それは難儀だが、あのお嬢さんなら大丈夫だろう」

 先日のアリーナの時とは異なり、ダンの声は温かい。

「一つ聞いておきたかったのですが……」

 白野は唐突に切り出す。

「あなたはどうして聖杯戦争に参加されているのですか?」

「……既に聞いていると思うが、私は西欧財閥の一角を担うイングランド王国の軍人でな。今回も軍人として女王陛下の命に従ってるにすぎん」

「軍人として?」

 白野はその言葉に疑問を抱く。

「あなたは生き残るためなら、どんな手段でも使う……そんな人物だと聞きました」

「……あの革命家のお嬢さんが言いそうなセリフだな」

「最初に狙撃された時は、俺もそう感じました。でも、先日の戦いではそう感じなかった」

「…………」

「あなたは無防備な俺を攻撃する機会はいくらでもあったし、自身のサーヴァントに加勢する様子が見れなかった。それは、騎士の戦いを貶めないようにしているみたいで、聞いた話と比べると違和感を感じました」

「……そうだな軍務に徹していれば、別の戦い方をしただろう」

 ダンは重い口を開く。

「だが、スコープ越しに君を見た時、妻の面影がよぎったのだよ」

「奥さんがいたのですか」

「老人の昔話だがね……今は顔も声も忘れてしまった。面影すら思い返すことができない

 ……そんな彼女が『このままでいいのか?』と私に語りかけてきた気がしたのだ」

「…………」

「そして、私のセイバーの姿を見て思ったのだ……私もあのような騎士になりたかったのではないかと。

 ……そう思ったら、軍人(いぜん)の自分が見ていられなくなったのだ」

「…………」

 ダンの言葉に白野は返す言葉が出なかった。

 この老兵の言葉は、記憶のない自分には重すぎた。

「……らしくない。つまらない話につき合わせた。老人の独り言と笑うがいい」

 ダンは教会の扉に手をかける。

「良い戦いをしよう、少年。君の目に曇りが生じぬように」

 扉を開けながらもう一度、白野の方を向き言葉をかける。

「わしも、わしに恥じぬ戦いをしよう」

 何者かに誓うように、最後の言葉を呟く。それは人生をやり直す力強い意志が感じられた。

 

 つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。