私は夢を見た。
狂気に堕ち、我が王に剣を向ける――そんな夢を。
王は私の胸に聖剣で貫いたが、それは私の望む結末ではなかった。
王は聖杯を獲り、ブリテンを救うなどと云う、王としての理由で私を征したのだ。
本当に困ったお方だ――しかし、そんな人だからこそ私は供に居たかったのかもしれない――
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
決戦へと続くエレベーターの中は静寂に包まれていた。
「あー黙っておっては、余はつまらぬ。おい、そこな騎士よ。何か楽しい話をしてみせよ」
じっとしていることが苦手なネロはランスロットに無茶振りする。
「そうしたいのは山々ですが、あいにく話すことがないもので」
「よい。ならば余の質問に答えよ」
「可能な限り答えましょう」
「湖の騎士よ、そなたの聖杯にかける願いはなんなのだ?」
「おや、私の真名が分かりましたか」
「あれほどヒントを出されてはな。相変わらず、そなたの顔はおぼろげだが……で、余の質問に答えんか」
「私は……我が王に逢いたいのです」
「アーサー王にか。それで何をしたいのだ?」
「王に私の命を奪っていただきたいのです」
「何ッ!?」
「私は裁かれたかった、罰して欲しかった。なのに王として私を赦した……それが赦せないのです」
先日、ダンに語ったことをネロにも告げる。
「私は騎士としてではなく、一人の男として王を裏切った。だから、王ではなく人としての判決が欲しかった。
だから、体裁や見栄を気にする必要がない
ランスロットは滔々と語る。
「……なんという、つまらん願いだ。貴様の抱いているものが過ちであることを説教してやりたいが、そろそろ時間のようだからな……」
大きな音と振動が伝わり、エレベーターが闘技場に辿り着いたことを知らせる。
エレベーターを降りたネロがランスロットに振り返り、剣を突き出して告げる。
「この剣を以って、そなたを正そう!」
「ここで決めるぞ、ランスロット」
「はい。貴女たちにはここで倒れて頂きます。私たちの道のために」
ランスロットは鞘に収められた剣を抜く。
その剣は今までの疑似宝具ではなく、光り輝く聖剣だった。
すると、聖剣の輝きに呼応するかのように、紫紺だった鎧が白銀へと変化する。
『
「それが、そなたの真の姿というわけか」
変化したのは見た目だけではない。その身体に纏う闘気は一回り大きくなっていた。
「ならばその湖光、余の黄金劇場の前に打ち砕いてみせる!」
薔薇の皇帝と湖の騎士、二人の戦いが幕を開ける。
「…………」
戦闘が開始されたもののランスロットは動く気配をみせない。
だが、ネロを見るその瞳は「全力で来い」と言外に告げていた。
「よかろう。ならば見るがいい」
ネロが左腕を天に掲げる。
「レグナム カエロラム エト ジェヘナ……築かれよ我が摩天! ここに至高の光を示せ!」
「『
ネロの呼び声に応え、闘技場は赤と黄金で装飾された劇場に生まれ変わった。
「余の黄金劇場の中で、以前のように剣を振れると思うなよ」
そしてネロは駆け出す。敵が慢心しているうちに最大のダメージを与えるべく。
――はずだった。
「くっ……!?」
「……この程度ですか。貴女の切り札は」
ネロよりも速い動きで、彼女を叩き飛ばす。
「なぜだ、なぜ余の黄金劇場でそのような動きが出来る!?」
「忘れたのですか? 私のスキルを」
「『無窮の武練』……か」
「ええ、いかな宝具と云えど私の剣技が曇ることは、ない!」
ランスロットは続けてネロを攻める。
「セイバー! 『gain_con』!」
白野はセイバーに耐久を上げるコードキャストを用いる。
「感謝する」
体勢を立て直し、ランスロットから距離をとる。
「ダン」
「ああ、では決着をつけるとしよう……『gain_str』」
ダンがランスロットに筋力増加のコードキャストをかける。
「む、宝具か。構えよマスター!」
白野はネロに『heal』をかけて相手の出方を窺う。
「この刃は我が忠節。一切の曇りなく正義を貫く光の聖剣『
ランスロットが剣を振るうと、黄金劇場ですら霞むほどの光の斬撃が奔る。
「こ、これは!?」
この攻撃を受けると間違いなく死ぬ、回避も不可能。ネロは直感で理解する。
「……ウ…………ス・ス……ート……」
ネロは手を動かすこともなく、何か呟く。
そして、そのまま光に呑まれる。
「…………」
全て終わったと、ランスロットは背を向けダンの元へと歩く。
「まだ終わっていないぞ、ランスロット!」
ダンの言葉で気付く――勝者と敗者を別ける壁が出現していないこと。そして黄金劇場が健在であることに
「ッ!?」
煙の中から立ち上がるネロの姿を目撃した
「……驚いた。我が聖剣を受けて立っていられるとは」
ネロは『
―――『
聖剣の一撃を受け、死を迎える直前に発動し命を繋ぎ止めるスキル
これを『
「ですが、次はない。ガウェインの真似をして、聖剣をあのように使いましたが
……真の『
聖剣は先程よりも輝きを増し、限界以上の魔力が漏れ出している。
「最果てに至れ、限界を越えよ。彼方の王よ、この光を御覧あれ!」
それは先程のようにエネルギーを放出するのではなく、一点に集中させることにより発動させる絶技
「『
莫大な光を携えた騎士が迫り来る。
「(まいったな。これに耐える手段が思いつかん)」
『
「(……これで終わりなのか)」
ネロが諦めかけていると
「(ローマは滅びぬ)」
ふと、ロムルスの声が頭に浮かぶ。
「神祖さま……」
そして、満身創痍のネロに極光が振り下ろされる。
この一撃で今度こそ跡形もなく消し飛ぶはずだった。
「なッ!?」
ネロとランスロットの間に何本もの黄金の柱が立ち塞がり、聖剣の進行を抑えていたのだ。
柱が削り取られる度に新たな柱が生まれ、ネロを護る。
ネロはロムルスの樹木操作を真似して、黄金劇場内の柱を操作したのだ。
「貴様の王は、正しさのために、王として、貴様を赦したのでは、ない!」
聖剣の輝きが止むのを見計らい、ネロはランスロットに斬りかかる。
「くッ!?」
宝具解放後の絶対的な隙であったが、それをものともせず剣で受ける。
「貴様が好きだったから、皆が反対したであろう特赦を善しとしたのだ!」
「…………」
ランスロットは無言で、ネロの斬撃を防ぐ。
「そこを勘違いしたままで、何が騎士か!」
「…………」
「それに貴様は自分自身にも嘘を吐いておる」
「…………」
「貴様は裁きの炎を、断罪の剣を欲したわけではない……」
「…………」
「貴様は、王と供に歩きたかったのだろう。全てが終わるその時まで」
幾度かの剣戟のあと、ランスロットは剣を
「ああ、そうか……」
納得してしまった。満足してしまった。戦う理由を見失ってしまった。
「我が剣の湖光を曇らせていたのは、私自身の心だったというわけか……」」
そして、ネロとランスロットの間に勝者と敗者を分ける壁が立ちはだかる。
「ダン、すみません。貴方は勝ち残らなければいけないのに……」
「いや、わしも満足している。君と一緒にいるうちに、本当の騎士になれた気分だったからな」
「貴方は騎士でしたよ。サー・ダン=ブラックモア」
「ありがとう。騎士の中の騎士、サー・ランスロット。貴方が狂気に堕ちずに済んで、本当に、よかった」
そう言うとダンの全身が黒く染まり、消滅する。
「君たちのお蔭で自らの過ちに気付くことができた、本当にありがとう」
「礼には及ばん。正しき道を提示するのも皇帝の務め故な」
「君たちであれば決勝まで進めるだろう。だから、私の代わりに
「無論だ。その想いを引き継ごう」
「それでは、時間だ。さようなら、君たちの未来が光あることを祈る」
そして敗者は消え去り、その場に勝者だけが取り残された。
エピローグ
「……ろ。起きないか」
「ッ!?」
突然の痛みに思わず起き上がる。
「今は一刻の猶予もない。早く城に戻るぞ」
「えっと、これはどういう……」
「なんだ、寝惚けているのか?」
青年は呆れた顔をする。
「私が国を留守にしている間、モードレッドが反旗を翻したそうなのだ。だから卿にも協力してもらうぞ」
「いいのですか、私は……」
「何を言っている、貴方は私の騎士なのだから当然ではないか」
青年は呆れた顔で言う。
「さあ、私と供に来い。私の騎士、サー・ランスロット」
青年は微笑みながら、手を差し出す。
「どこまでもお供します。我が王、アーサー・ペンドラゴン」
そうか、これこそが私の願いだったのだ――
これはきっと夢なのだろう。醒めると儚く消えゆく夢――
だが、そんなことは関係ない。
私は足に力を入れ、立ち上がる。
そして騎士は王の手を取る――その先に待つのが悲劇だとしても、王と供に進むのであれば、もう二度と大切なものを取り零すことはないのだから――
おわり