new record   作:朱月望

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あの日の約束(五回戦)
プロローグ


「…………」

 黒衣の男は最後の敵性プログラム(エネミー)を撃破し、辺りを見回す。

「…………」

 周りには人形――いや、魂の抜けた残骸(したい)が積み重なっている。

「…………」

 しかし、その異様な光景に男は眉一つ動かさない。

 男にとっては死は見慣れた風景――日常であるから。

「おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。とりあえずはここがゴールだ」

 どこからともなく男の声が聞こえる。

「聖杯戦争の本戦に進む前に君にはその資格と力を授けよう」

 男がそう言うと右手が焼けるような痛みに襲われる。

「……これは?」

 右手を見ると、三本の歪な短剣を思わせる紋様が浮かび上がる。

「それは令呪。聖杯戦争の参加者である資格であり、サーヴァントの力を強め、あるいは束縛する、3つの絶対命令権。まあ使い捨ての強化装置とでも思えばいい。

 ただし、先程も言ったがそれは聖杯戦争本戦の参加証でもある。したがって令呪を全て失えば、マスターは死ぬ。注意することだ」

「…………」

 男はそれを聞くと、さして興味をなくしたのか、令呪から目を離す。

「では、最後に君の盾となり剣となる英霊を召喚してもらう。

 地上の聖杯戦争には正式な召喚手順があったらしいのだが、ここではただ念ずるだけでよい」

「…………」

 黒衣の男は黙って右腕を出す。

「(…………)」

 男は口だけでなく、頭の中でも何も言葉にしない。

 これから挑む戦も、その目的に必要な義弟のことも。

「(……様)」

 しかし、不意にある女性のことが頭に浮かんだ。

「(『約束』は必ず……)」

 これから始まる戦いの理由を今一度、強く意識する。

 そして、令呪が紅く輝く。

 その輝きが頂点に達したとき、周りのステンドグラスが割れて、この空間の中央に光が差す。

「ッ!?」

 そして光が収まると、彼の喚び出した英霊(サーヴァント)が――

「zzz……」

 気持ち良さそうに寝ていた。

「……どういう、ことだ?」

 感情を出さない男が動揺する。

 自分が喚び出したコレは何なのだ、と。

「むー、寝心地が悪い。具体的には畳から石畳に代わったような……」

 目を覚ました何者かが背伸びをしながら起き上がる。

「グッモーニン! ここは誰で、お前は何処か?」

 現れたサーヴァントは本気で言っているようだ。

「ふむふむ。かくかくしかじか、受信完了!

 つまり、貴様が新しいご主人ということか?」

「……ああ、オレがお前のマスターだ」

 何を言っているか分からなかったが、マスターの確認であろうと理解した男がそう答える。

「ふむ。今ここに契約は完了した。給料三ヵ月分のネコ缶、確かに頂くからな。よろしく頼むぞ、ご主人!」

「……ああ」

 何やら変な物を要求されたが、男は考えないことにした……苦労することには慣れている。

「そういえば自己紹介がまだであったな。

 我こそはタマモナインの一角、野生の狐タマモキャット! ご主人、よろしくだワン!」

 狐なのか猫なのか犬なのか、そもそもタマモナインとはなんだとか、思うことは沢山あったが、男は自己紹介に対してこう返す。

「……オレは、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。貴様が何者でも構わない、ただ私の言うことを聞く道具であればな」

 黒衣の男――ユリウスのサーヴァントを人と思わない発言に対し、タマモキャットは――

「zzz……」

「…………」

 どこまでも自由に、気の向くまま眠りこけていた。

 

 こうして、一つの約束に執着する男と、ブレブレなキャラである事にブレない女――交わることはない彼らは出会った。

 

 

 つづく

 

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