プロローグ
「…………」
黒衣の男は最後の
「…………」
周りには人形――いや、魂の抜けた
「…………」
しかし、その異様な光景に男は眉一つ動かさない。
男にとっては死は見慣れた風景――日常であるから。
「おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。とりあえずはここがゴールだ」
どこからともなく男の声が聞こえる。
「聖杯戦争の本戦に進む前に君にはその資格と力を授けよう」
男がそう言うと右手が焼けるような痛みに襲われる。
「……これは?」
右手を見ると、三本の歪な短剣を思わせる紋様が浮かび上がる。
「それは令呪。聖杯戦争の参加者である資格であり、サーヴァントの力を強め、あるいは束縛する、3つの絶対命令権。まあ使い捨ての強化装置とでも思えばいい。
ただし、先程も言ったがそれは聖杯戦争本戦の参加証でもある。したがって令呪を全て失えば、マスターは死ぬ。注意することだ」
「…………」
男はそれを聞くと、さして興味をなくしたのか、令呪から目を離す。
「では、最後に君の盾となり剣となる英霊を召喚してもらう。
地上の聖杯戦争には正式な召喚手順があったらしいのだが、ここではただ念ずるだけでよい」
「…………」
黒衣の男は黙って右腕を出す。
「(…………)」
男は口だけでなく、頭の中でも何も言葉にしない。
これから挑む戦も、その目的に必要な義弟のことも。
「(……様)」
しかし、不意にある女性のことが頭に浮かんだ。
「(『約束』は必ず……)」
これから始まる戦いの理由を今一度、強く意識する。
そして、令呪が紅く輝く。
その輝きが頂点に達したとき、周りのステンドグラスが割れて、この空間の中央に光が差す。
「ッ!?」
そして光が収まると、彼の喚び出した
「zzz……」
気持ち良さそうに寝ていた。
「……どういう、ことだ?」
感情を出さない男が動揺する。
自分が喚び出したコレは何なのだ、と。
「むー、寝心地が悪い。具体的には畳から石畳に代わったような……」
目を覚ました何者かが背伸びをしながら起き上がる。
「グッモーニン! ここは誰で、お前は何処か?」
現れたサーヴァントは本気で言っているようだ。
「ふむふむ。かくかくしかじか、受信完了!
つまり、貴様が新しいご主人ということか?」
「……ああ、オレがお前のマスターだ」
何を言っているか分からなかったが、マスターの確認であろうと理解した男がそう答える。
「ふむ。今ここに契約は完了した。給料三ヵ月分のネコ缶、確かに頂くからな。よろしく頼むぞ、ご主人!」
「……ああ」
何やら変な物を要求されたが、男は考えないことにした……苦労することには慣れている。
「そういえば自己紹介がまだであったな。
我こそはタマモナインの一角、野生の狐タマモキャット! ご主人、よろしくだワン!」
狐なのか猫なのか犬なのか、そもそもタマモナインとはなんだとか、思うことは沢山あったが、男は自己紹介に対してこう返す。
「……オレは、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。貴様が何者でも構わない、ただ私の言うことを聞く道具であればな」
黒衣の男――ユリウスのサーヴァントを人と思わない発言に対し、タマモキャットは――
「zzz……」
「…………」
どこまでも自由に、気の向くまま眠りこけていた。
こうして、一つの約束に執着する男と、ブレブレなキャラである事にブレない女――交わることはない彼らは出会った。
つづく