「無駄ですよ」
目の前には私をここまで追いやった元凶の陰陽師が現れる。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。
私は安倍晴明。貴女の名は?」
「私は玉藻の前」
「それは人に化けていた間の仮初の名でしょう」
「いえ、これは鳥羽様に貰った大切な名です。今の私はそれ以外の何者でもない!」
「その様子を見ると『騙すつもりはなかった』、というのは本当のようですね。
……ふっ、ふふ」
「何が可笑しい」
「これは失礼……いえね、こんな皮肉なことがあろうかと思いましてね」
「なに?」
「神は信仰を以って人から力を吸い取り、存在する力を得る。それは神であることを忘れた貴女も例外ではない。
貴女を信仰――いえ、愛していた鳥羽天皇はより多くの力を貴女に捧げていたのでしょう」
「ということは……」
「ええ。貴女は知らず知らずのうちに愛する者の命を奪っていたのです。
事件の張本人がどの口を叩いて話し合いたいと?」
「私はただ、人と一緒に……」
「人と人外が分かり合うことなどありませんよ」
そう言うと、晴明の背後から光る矢が現れて、私の胸を射抜いた。
「それは破魔の矢、それも神をも殺す特製品だ。
本当は私の手で始末をつけたかったが、宮廷にも面子があるからな。しかし、天皇に恩を売れただけでも良しとするか」
晴明は私のことなど興味もないような素振りで背を向ける。
そう、人と神では初めから物の見方が違ったのだ。そんなことも気付かずに、私は……愚かだった。
無駄なことだった。どれだけ努力しても、どんな力を尽くしても――神が人になれる筈がなかったのだ。
――でも、もう一度、もう一度だけやり直せる機会を与えられたのなら――今度こそ最期まで大切な人に仕えよう
「そろそろ話してくれないか」
マイルームでユリウスはキャットに訊ねる。
「ご主人はアスパラベーコンだと思っていたが、実はロールキャベツ(キャベツなし)だったのだな。
うむ。教えるとしよう! 上から86、57、84、だ」
キャットが赤面して答える。
「茶化すな……真名のことだ」
この6日間、キャットに関する夢を見ていた。
「ん? キャットはキャットであると……」
「タマモキャットなどと云う英霊は存在しない。
お前は何者だ? 玉藻の前なのか?」
だが、それはとある妖狐——玉藻の前の生前のことである。
玉藻とキャットは存在に違いがあると考え、ユリウスは質問したのである。
「あれはアタシのオリジナルだ。まぁ知らぬのも無理はない、キャットはここより少し未来で生まれたのだからな」
「未来……?」
「うむ。かるく千年くらい先のな」
「玉藻の前がオリジナルというのは?」
「……こことは違う
紆余曲折が捻じ曲がり、マスターに恋をしたオリジナルはマスターを救うために修行し、九尾に戻った。そして、404光年を全力ダッシュで時をかける少女し、八次元の防壁をライダーキックでブチ破ってご主人を助けたのだ!
……だが、婚期を逃すと思ったオリジナルは八本の尾を切ったのだ! 切られた尻尾がタマモナインとなり、その一本がキャットとなったという訳だ! 分かったか、ご主人?」
「?……ああ」
正直半分も分からなかったが、これがキャットの限界だと感じたので、これ以上の詳細は問わなかった。
「……もう一ついいか」
「ん?」
「何故、お前はオレに従う」
「一度『主人』として仕えた者には最後まで忠誠を尽くす。それが野生の獣の矜持よ」
「ならば、オレがマスターでなくともいいのか」
「そうだな、ぶっちゃけ誰でもよかった!」
キャットは悪びれる様子もなく答える。
「だが、ご主人がご主人で良かったと思う気持ちに嘘はない」
キャットは頬を染めて答える。この想いはブレはしないと――
つづく