new record   作:朱月望

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決戦開幕

 巨大な月桂樹は都を見守り続ける。

 月日は流れ、季節が巡る。

 皇帝が代替わりする度に国は色合いを変え、多種多様な姿を見せる。

 ある皇帝の代に民衆が喜色満面になった。

 その皇帝は人を愛し、人のためにその身を尽くして、民の笑顔の絶えない街を造った。

『我が子よ。(ローマ)はお前を愛そう……例えお前の内なる獣により、悲劇を迎えたとしても……お前は、実に良きローマ皇帝であるのだから』

()はより一層、生い茂る。この先にある未来を期待するように――

 

 

 

「そうか……あいつセイバーのこと知ってたんだな」

 目を覚ました慎二がポツリと呟く。

「それじゃあ、行くとするか」

 そして二人は闘技場に向かう。

 

「なんだ、逃げずにちゃんと来たんだ」

 エレベーターから降りた白野に対し、慎二はいつものように憎まれ口を叩く。

「ああ、俺にはまだ戦う理由とかはないけど、セイバーのために戦うって決めたから」

 それに対し、白野は慎二の目を真っ直ぐ見て、言葉を返す。

「ふん、後悔しても遅いからな」

「大丈夫。そうならないために努力はしたから」

 二人は決戦前の言葉を交わした。

「神祖よ……」

 セイバーがロムルスに声をかける。

「私は貴方と戦いたくなかった。今でも貴方に付き従いたいと思っておる」

「…………」

 ロムルスは目を閉じ、その言葉を受け取る。

「しかし、そんな私を貴方は受け入れてはくれぬのだろう。

 だから、私……いや、余は貴方に打ち勝つことで、貴方に認めてもらいたい……余はローマ皇帝なのだから!」

 セイバーは強い意志をその目に宿し、声高らかに宣言する。

「よい、よいぞ! それでこそ我が子に相応しい。さあ、見せてくれお前のローマを! その有り様を!」

 ロムルスは目を見開き、それに応える。

「余は第5代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス! ロムルス、貴方を倒して前に進む!」

 ネロは剣を構え、走り出す。

「来い! 我が子ネロよ。(ローマ)はその全てを受け入れ、応えよう!」

 ロムルスも樹槍を構えて、それに応じる。

 そして剣と槍がぶつかり合う。

 

「はっ!」

「セプテム!」

 二人の戦いは拮抗しているように見える。

「たあっ!」

「マグヌス!」

 しかし、ロムルスの方が確実に押していた。

「『花散る天幕(ロサ・イクティス)』!」

「ローマ!」

 地の筋力では押し負け、魔力を回した攻撃も弾かれてしまう。

 これはマスターの未熟さからではない。

 確かに白野は魔術師(ウィザード)としての格は劣るが、アリーナでの戦いによる成長と魂の改竄により、ネロは生前に近いステータスを取り戻している。

 しかし、たとえネロが全盛期の力を取り戻したとしてもロムルスには勝てない。

 それほどまでの力量差が両者にはあるのだ。

「セイバー! 『heal』!」

 白野は傷ついたネロに回復のコードキャストをかける。

「そうはさせないよ『shock』!」

 それに対して慎二はダメージとスタンを付与させるコードキャストを放つ。

「くっ」

 セイバーは苦悶の声を上げ、その場に固まる。

「ローマ!」

 隙だらけの横っ腹にロムルスは樹槍を振り回す。

「かはっ」

 ネロはそのまま吹き飛び、白野の前まで転がる。

「大丈夫かセイバー!?」

「心配するな奏者よ」

 ネロは立ち上がる。

「しかし、このままでは勝てない……奏者よアレを使うぞ」

「分かった。でも、今のままでは使えない。だから……」

 白野は左手を掲げる。

「令呪を以て命ずる……セイバーに力を!」

 白野の令呪の1角が欠け、それと同時にネロの霊基が満ちる。

「ありがとう。奏者よ」

 この戦いに3角しかない令呪を使ってくれたことに礼を言い、ネロは宣言する。

「我が才を見よ……万雷の喝采を聞け……座して称えるがよい! 黄金の劇場を!! 」

 ネロの呼び声に応え、闘技場は赤と黄金で装飾された劇場に生まれ変わった。

「美しい。それがお前の宝具か」

 ロムルスは驚嘆の声を上げる。

「ランサー、こっちも宝具を使うぞ」

「うむ。……む?」

 宝具を使おうとしたロムルスの様子がおかしい。

招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)……余の宝具の前では、いかな神祖の宝具とはいえ発動できまい。

 では、反撃の時だ!」

 ネロの宝具は固有結界に似て非なる大魔術―――この空間はネロに有利に働きかける。

「(でも、それでもロムルスの宝具なら発動できるはずなんだ)」

 マスターである慎二はロムルスの本当の力を知っている。

「(それでも発動できないってことは……僕が未熟だから?)」

 慎二はその考えを否定しようとする。だが、ネロに押されはじめたロムルスを見て、考えを改める。

「(だったら、どうすればいい? どうすればロムルスは勝てる?)」

 慎二は一生懸命、頭を働かせる。

「足りないものは余所から持ってくればいい」

 不意に凛の言葉を思い出す。

「(いいのか? 少なくとも一回戦で使うようなものじゃない)」

 ロムルスがネロの猛攻に膝をつく。

「悩んでる場合じゃない! 令呪を以て命ずる……ロムルス、その力を示せ!」

 慎二の右手の令呪の1角が欠け、ロムルスは力を取り戻す。

「よい、ならば応えよう」

「すべて、すべて、我が槍にこそ通ずる!」

 黄金劇場の床を突き破り、何本もの樹木がロムルスの足元に現れる。

「これが国造りの槍か!」

「さあ、ネロよ。どちらが真にローマか競おうではないか!」

 二人は改めて向かい合う。

「『童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)』!」

「『すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌス)』!」

 原初の火を纏いし宝剣と国造りの樹槍がぶつかる。

 

「これで終わりか……」

 樹槍を降り下ろしたロムルスが呟く。

「ええ、これでおしまいです」

 最後の一合、ロムルスの槍は空を切り、ネロの剣がロムルスの胸を貫いた。

「よい……輝きだった……ネロ、お前はどのの時代のローマより美しい」

 ロムルスは槍を落とす。

「ありがとうございます」

 ネロは剣を引き抜く。

「シンジよ、最後に頼みたいことがある」

「分かってるよ」

 ロムルスの敗北は決まっている。それなのに終了のゴングが鳴らないのは、ロムルスが皇帝特権により戦闘続行のスキルを使っているためだろう。

 それも、あと一分ともたない。

「令呪を以て命ずる……岸波白野に僕の残りの令呪を与えろ」

 サーヴァントが消えてしまうと令呪も消える。だからその前に令呪を譲渡しておきたかったのだ。

 そして、慎二の令呪が二画消え、白野の令呪は三画に戻る。一つは令呪を移植する行為に消費され、最後の一つが白野に譲渡された。

「慎二、なんで」

 白野が訊ねる。

「お前はさ、まぐれで僕に勝ったんだ。でも、次からはそうはいかない。それなのに大事な令呪が一個なくなってちゃさ、勝ち抜けるワケないだろ。だから、僕が助けてやろうってワケ」

 慎二はいつものような憎まれ口で言う。

「だから、お前が優勝したらさ。みんなに言ってよ、僕に助けられたから勝ったんだって」

「慎二……」

「じゃないとさ、ここで死ぬに死ねないからさ」

 慎二は涙を流して訴えかける。

「分かった。俺は慎二のことを忘れない」

「よかった」

 そして二人の間に勝者と敗者を分ける壁が立ちはだかる。

「本当に死んじゃうんだな」

 慎二の身体が黒く染まっていく。

「でも、思ったほど後悔はないな」

「シンジ、そなたも理解したのだな。守りたいものと残していく想いが」

「そっか……お前もこういう気持ちだったのか」

「うむ、それが(ローマ)だ。そして、お前もローマだ」

「ははは、だから分かんないって」

 慎二は笑う。

「でも、やっぱり死ぬのは嫌だな」

「安心しろ。(ローマ)の目が黒いうちはローマを死なせるものか」

「え?」

 ロムルスは手を慎二の頭に乗せる。

「これよりシンジ(ローマ)は大地に戻る! たとえ、月がそれを赦さなくとも、(ローマ)の言葉は絶対である!」

 すると慎二の身体は白い光に包まれ、消失した部位も元通りになる。

「なんで!?」

(ローマ)に不可能などない」

 皇帝特権が成せる(わざ)か、慎二はセラフによる消失を免れた。

「慎二よ、暫しの別れだ」

「おい、お前はどうすんだよ!?」

「元より(ローマ)の肉体は彼の地球(ほし)にない。だから、帰るのは一人だけだ」

「そんな、ロムルス!」

「案ずる必要はない。寂しくなれば空を見よ。大地を見よ。それこそがローマである」

「ロムルス!」

「だから、また会おう」

 ロムルスは優しく微笑み慎二を送り出す。

 そして、慎二の視界が白く塗りつぶされていく。

 

 

 




 エピローグ


「ロムルス!?」
 目を開けると慎二は霊子ダイブ用のポットにいた。
「帰ってきたのか?」
 身体中を触って異常がないか確める。
「地球に戻ってきたんだな」
 アバターではなく、元の8歳の姿に戻っていることを確認し安堵する。
「生存者は……今のとこ僕だけみたいだな」
 ネットで月の聖杯戦争に参加して脱落した者たちの末路を知る。
「うっ、眩し!?」
 一通り調べた後、遮光カーテンを開ける。
 空を見て、少し前まで共にいた男の姿を思い出す。
「僕に出来ることはなんだろうか……どうしたら、あいつを見返すくらいのことが出来るだろう?」
 慎二は今の世界情勢について調べる。
 世界の平和のために人々を管理し、より平等に資源を配給しようとする西欧財閥
 それに対抗するレジスタンス
 さらには無秩序で無軌道な破壊を撒き散らすテロリスト
「僕が知らない間に世界は大変なことになっていたんだな……よし!」
 そして、慎二は決意する。
「あいつが造り出した世界(ローマ)をこれ以上、好き勝手にさせるもんか。西欧財閥とレジスタンスを相手取るのは、かなりキツイけど、レオも遠坂も当分こっちに戻ってこれないなら勝機はある!
それに、何故かあいつが全員倒しそうな気がするしね」
 慎二は友の顔を思い出す。
「さ~て、それじゃ世界に挑んでみますかね!」
 そして少年は新たな記録(レコード)を打ち立てるために行動する。
 (ローマ)が生み出した世界を守るため――
 そして、その想いを受け継ぐために――


 おわり
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