イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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12・お前の覚悟を見せてみろ

 

 

 

 

 

 グラズヘイム1にてガエリオより事の詳細を聞き出したカルタは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「こちらが調べたのと大体同じね。……全く、不正を放っておいたツケを我々が払わされるはめになるなんて」

「そう言うな。ランディール・マーカスがいなかったとしても、火星植民地から直接交渉など前代未聞だ。下手をすれば独立運動の名目でテロの活性化を招きかねん。最悪……紛争ということもあり得る」

「確かに地球へ向かうだけでこれほどの騒動を起こしているというのは問題だわ。望むと望まざると関わらず、ね。……そしてどちらにしろ、あの男を放っておくわけにはいかない」

 

 ぎしりと歯ぎしりのような音が聞こえた気がしたが、ガエリオは敢えて無視する。

 

「圏外圏に逃げ込んで三年……衰えるどころか益々化け物じみてきた感すらある。まともに相手取って勝てるものじゃないぞ」

「分かっているわ。けれども、決して引くわけにはいかない相手よ」

 

 その目には、爛々と燃え盛る闘志が感じられる。やはりこうなるかと、ガエリオは諦めにも似た心境を抱いた。

 士官学校時代に出会ってから、カルタは先輩であるにもかかわらず、破天荒な行動を繰り返すランディに対し度々食って掛かって物申していた。

 しかしながら。

 

「あん? お前の銃は相手見て殺傷能力変わんの?」

「馬鹿かお前。法(ルール)守らないから無法者(アウトロー)ってんだろが」

「戦闘中に格好付けて名乗り上げなんかしてっからボコられんだろうに。その変な眉は飾りか」

 

 常に正論ではあるがむかつく言いざまで叩き返されて完封されていた。相手が例えセブンスターズが第一席の跡取り娘であろうと容赦なく叩き潰すランディの様子は、むしろ周囲をはらはらさせ恐れさせる。カルタの方は持ち前の負けん気と正義感、そして己の立場から生じる気負いもあって、叩き潰されるたびにむきになってさらに突っかかるという悪循環が生じていた。ガエリオやマクギリスはその様子を見て苦笑いしたものだ。(たまに巻き込まれるのだけは勘弁して欲しかったが)

 その後ランディが標的艦隊に配属され、カルタは暫く後に地球外縁軌道統制統合艦隊司令として任に就く事になる。そして行われた演習。恐らくカルタはかなりの自信があったはずだ。大した任務もこなさず自堕落な生活を送っているランディに、鍛練を重ね錬度を上げた自分と部下が負けるはずはないと。

 だが、結果は実質的な全滅。実際ガエリオの目から見ても、カルタの指揮は形式や名誉を重んじる部分が大分控えめになり実戦的なものに仕上がっていた。しかしそれはあくまで正攻法。真正面から戦ってもただでさえとんでもない技量を持つランディは、自身と同僚部下を鍛え抜き、さらなる強者として立ち塞がったのだ。

 その惨敗とも言える戦いが終わった後、ガエリオより先にランディの下を訪れたカルタはまたまた食って掛かっていた。流石にあれはやりすぎだと思ったガエリオも参戦し、二人して責め立てたのだが暖簾に腕押し糠に釘。まるで堪えた様子はなかった。

 それ以降だろう。カルタが本格的に変わり始めたのは。ただ貪欲に力を求めるだけでなく、己に足らない部分を埋め、より高みに至ろうとするその姿は鬼気迫るものにすら見えた。元々完璧主義者であったが同時に潔癖であり、卑劣な手段や裏工作、根回しや情報収集と言った事は苦手どころか思いつきもしない人間であったのに、己が手を汚すほどではなくともそう言った方面にも気を配る、よく言えば柔軟性、悪く言えば小賢しさが身に付いてきたようだ。

 彼女にとってランディ打倒の思いは最早執念である。当然ながら彼が死亡した等という話を全く信じていなかった。生きて必ず現れると確信し、己を鍛えることを怠っていない。

 逆にそれが、危うさを感じさせるとガエリオは思う。ランディを打倒することに拘るあまり目的を見失うのではないか。ついそのように邪推した彼は、釘を刺そうと口を開く。

 

「カルタ、分かっていると思うが目的はあくまで……」

「クーデターなんちゃらとかいう小娘が身柄の確保、と言いたいのでしょう? 心配しなくてもそれを忘れるつもりはないわ」

「クーデリア・藍那・バーンスタインだ」

 

 すでにもうこの時点で不安が増した。

 やはり彼女はどこまで行ってもカルタ・イシューなのか。ガエリオはちょっと頭を抱えたい気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団に接触してきた仮面の男。即座に正体が看破されたその人物に対し皆の警戒は全力。

 しかし敵も然る者というか、敵意の視線が突き刺さる中、その男は悠々と応接室のソファーに身を沈めている。部屋の端に控えているトドの方がよほど普通に思えるあまりにも堂々とした有り様であった。

 

「そう構えることはない。……と言っても無理だろうね」

 

 ざっくばらんと言うか妙に馴れ馴れしい言葉を放つ。対面に座っているオルガは腕組みしたまま仏頂面だ。

 

「おふざけにしても、随分と舐められた話だ。これ以上戯れ言に付き合うつもりはねえ。だから単刀直入に聞かせて貰う。……なんの真似だ?」

 

 噛み殺したいとでもいうような喧嘩腰の言葉に、まるで意に介した風もなく男――モンタークは応える。

 

「最初に言ったとおりだよ。地球に降下する手段を提供するので、その見返りに火星のハーフメタルの取り扱いに関する利権に我が商会を参入させて欲しい。と言う話だ。……この交渉自体は『GHと関わりのない話だと思って欲しい』」

「は? それこそふざけた話だろうが」

 

 何を言っているのかさっぱり読めないが故に、言葉にはっきりと苛立ちがでる。相手がそう言う反応をすると分かっているだろうに、モンタークは余裕を崩さない。

 

「信じては貰えないだろうが、実の所私個人としては君たち……というかクーデリア嬢に『無事交渉を終えて欲しい』のだよ。その方が都合が良いという事情がある」

「確かに信じられねえな。今まで散々俺らの邪魔をしてきた連中の一味であるあんたが、組織の意に反する事を申し出るってのが不可解すぎる。何らかの企みがあると考えるのは当然だろう」

「無論企みはある。それが今回『君たちの意向と合致した』、そう言うことなのだよ。言い方を変えれば君たちが目的を果たすことは私の企みに都合よく利用できると言うことさ」

 

 その態度から真意は読めない。真摯には見えないがさりとてふざけている様子でもなかった。

 罠だと疑えばいくらでも疑える。というか全面的に怪しい。それは自身も分かっていることなのだろう。モンタークは仕方がないなとばかりに息を吐いた。

 

「もう少し踏み込んだことを言おう。『私はGHを牛耳りたい』。そのために排除しなければならない存在がいくつかある。……後は大体分かると思うが」

「……なるほど。俺たちが地球に降りるついでに始末して貰おう、って腹か」

「そこまでしなくとも、『出し抜くだけで十分だ』。不穏分子を地球に侵入させた。その失策は幾人かを引きずり下ろすに足る十分な理由となる。後は私の仕事さ」

 

 もっとも、とモンタークは続ける。

 

「この話を断ったとしても、私は君たちの行動を阻害しないと誓おう。君たちの存在は渡りに船というやつだが、いないならいないで何とかするさ。元々そのつもりだったんだ、気にする事はない」

 

 一応話の辻褄は合う。GHとて一枚板ではないだろう、であれば内部で色々と権力争いがあってもおかしくはない。それに利用できる存在――『己の手を汚さずに事をなしてくれそうな存在』があれば利用しようと考えるのは当然の流れだ。

 

(どうにも気にくわない話だが……)

 

 オルガはいつもの癖で片目を瞑り、考える。

 地球に降りる手段を模索しようとした矢先に接触を図ったと言うことは、こちらの動向が完全に把握されていると言うことだ。その上で、目の前の男は邪魔をしないとは言ったが、『情報をリークしないとは言っていない』。話を断り地球に降りたら、GHがこぞってお出迎えなんて事もあり得る。

 つまりは乗るのも断るのもリスクのある話だ。ではどちらの方がGHを、そして『目の前の男をも出し抜ける』? 暫し黙考し、オルガは溜息を吐いた。

 ちらりと視線を左右に走らせる。参謀役のビスケットは苦い顔をしながらも頷き、ユージンも眉間に皺を寄せつつ否定的な態度は取っていない。そしてランディは壁際で状況を見守りながら黙したままだ。三人とも意見を求められないうちから口を挟むつもりはなく、全面的に自分の意向に任せると言うことだろう。そして。

 三日月はいつもの通り、ただ黙って視線を向けているだけだった。その視線は「次はどうするの」と、いつもの通り訴えてくる。

 腹は決まった。

 

「……分かった。あんたの話に乗ろう。ただしいくつか条件がある」

 

 踏み込む。罠はあるかも知れないが、障害があるのはいつものことだ。踏み込んで食い破っていく。ただ食い物にされるだけの存在ではないぞと、そのような意志を込めてオルガは真っ向からモンタークに対峙する。

 果たしてモンタークは、すました態度のままで応えた。

 

「そうか、こちらとしても助かる話だ。それで条件とは?」

「まず降下で使う船だが……」

 

 こうして、モンターク商会との交渉は成立する運びとなった。勿論不安はある。ある程度の思惑は聞けたが、それが全てとは思えない。体よく利用されているという感はあったが。

 こちらも向こうを利用するだけだ。オルガは『全力で無茶振りすること』を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいんですかい旦那、あいつらの要望を全部飲んじまって」

「確かに想定以上の要求だったが、応えられないほどの無茶ではない。むしろ彼らにはこれから死地に飛び込んで貰わなければならないんだ。そう考えれば安い投資さ」

 

 交渉を終え格納庫に向かう通路の中、トドを従えたモンタークは言葉を交わしながら歩いていた。交渉と言っても一方的な要求を突きつけられただけではないかとトドなどは思うのだが、主にとってはそうでもないらしい。むしろ気のせいか、機嫌がよいようにすら思えた。

 と、通路の先、壁により掛かって腕組みしている人物の姿がある。それを確認したモンタークの笑みが深まった。

 

「お元気なようで」

「おう、死んでる暇はないからな」

 

 だれあろうランディである。彼は皮肉めいた笑みを浮かべたまま、語りかける。

 

「モンターク商会が『GHのマネーロンダリングを受け持つ組織』だったとはな。いや、ファリド家のか?」

「ご名答。モンタークの長は代々ファリド家の者が務めていた。今は私がというわけですよ」

「道理で裏に伝手があると思ったよ。そっちのおっさんだけじゃ名だたる海賊は動かせねえだろうからな」

「裏取引に人身売買、その他後ろ暗いことも数多く手がけていますので。話を持ち込むくらいは出来るわけでして」

 

 暗にこのあいだ海賊をけしかけたのはお前だろうと問いかけられ、それを否定しないモンターク。だがランディはそれを咎めるつもりはない。

 

「まあいいさ、結果的にありゃこっちの戦力強化に繋がった。差し引きゼロって事にしておいてやる」

「感謝を。あなたに睨まれたら生きた心地がしませんのでね」

「ふん、言ってくれる。……まあそれはそれとして、だ」

 

 ランディの目が、鋭く細められる。

 

「お前さん、『俺の敵』か?」

 

 その言葉に、モンタークは笑みを崩さずこう返す。

 

「願わくばそうなりたくはありませんね。かといって己の手の内に引き入れたいとも思えませんが」

 

 そう言って再び歩き出す。おいおい良いのかと言いたげなトドを率いて、彼はランディの前を通り過ぎていく。そうしながらも言葉は続いた。

 

「我々は互いに利用し合う。それくらいが丁度良いとは思いませんか?」

「は、お互い背中にナイフを隠してか?」

「そうでなければ、逆に利用し合う価値もない」

 

 そこまで言って背中を向けたまま、モンタークは立ち止まる。

 

「ただ、私は『あなたを越えたい』。私のやり方で、ね」

 

 そうしてから再び歩み出すモンターク。その背中にランディは声を投げかけた。

 

「お手並み拝見と行こうじゃないか。小僧」

 

 『挑戦状』は叩き付けられ、それは受け取られた。

 それがどのような形で果たされることになるのかは、まだ見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラズヘイム1近海。地球外縁軌道統制統合艦隊は軌道上に広く展開し、警戒を強めている。旗艦【ヴァナディース】にて構えるカルタは、今や遅しと鉄華団の……いや、ランディール・マーカスの襲来を待ちかまえていた。

 

「持ち上げられてのぼせ上がった挙げ句、わざわざ地球まで強引にやってくるとか。シャンデリアとかいう小娘、世間知らずにもほどがあるわね」

「あの、司令。クーデリア・藍那・バーンスタインです」

「覚えにくい名前ね。まあいい、ともかく度胸だけは買うわ。容易く通らせるつもりはないけれど」

 

 彼女はランディを、彼に率いられた集団を舐めてはいない。いや、そもそも正面切って勝てるなどとうぬぼれていなかった。

 かつて受けた屈辱。それから彼女は自分に何が足らないのか、どうすればランディを打倒できるのか。それだけを考え貪欲に鍛え、模索し、知ろうとした。しかしながらどうにも……いささか『知りすぎてしまった』かも知れなかった。

 基本的にカルタが情報を集めたり知識を得ようとすると、まず自分より先に部下が動く。彼らはそもそもがイシュー家に長年仕えてきた家の者が多い。その目から見て不要と思われる情報は先に排除されてしまうため、結局は当たり障りのない、フィルター越しのものしか手に入れられなかった。戦術関係からして正統的で王道的なものしか上がってこない。 これでは話にならないと、カルタは考えた。そんなもので勝てるのであればとうの昔に勝っている。ここで彼女は自分の周囲のものが戦い方に『凝り固まっている』事に気付く。

 『見せるだけの戦い』であればそれで良い。だがそれは『勝つための戦い』ではない。彼女は部下に頼らず、暇を見て独自に情報を集め出した。元々家人を出し抜き散々『おてんば』をやらかしてきた経歴がある。四角四面な周囲を出し抜くなど、やろうと思えば不可能ではなかった。主に覗き込んだのはGHのデータバンク。イシュー家の権限を使えば、相応の情報を得ることが出来るのだ。

 そして彼女は知ることとなる。GHの『闇』を。それは実態に比べればほんのさわりでしかなかったが、カルタにとってはショックを受けるには十分な内容であった。

 それは自身の足下が崩れたような衝撃を彼女に与える。しかしそこで彼女は踏み堪えた。事前に何も知らなければ、GHの誰彼構わず当たり散らし、下手をすれば精神を病んだものとされて病院にでも叩き込まれていただろう。だが、ここで『ランディとの交流が生きる』。

 『世の中は自分の思い通りにはいかず、また真正面から馬鹿みたいにぶち当たっていても目的は果たせない』。彼との交流から、カルタは我知らずそれを学んでいた。勿論全てを飲み込めたわけではないが、吠えたくるのを堪え、我慢し黙するくらいの事は出来た。

 彼女は才に溢れた人間ではないかも知れないが、決して無能でも愚かでもない。そこから目線を変えて周りを見れば、今まで分からなかったこと、気付かなかったことも見えてくる。部下や周囲の思惑、後見人を請け負ったイズナリオの野望。そして……決して自分に真っ向から目線を向けようとしない『友人』マクギリス。

 それらに対して何が出来るのか。そう考えたときに驚くほどに自分が無力であったことに気付いた。部下や身近な周囲はまだ良い、己は無力であってもイシュー家の威光には従い、忠誠を誓うものが多い。だがそれ以外には――自分と同等、あるいは立場が上のものには何の影響力もないと肌で感じたのだ。

 セブンスターズの第一席。イシュー家はそのような立場にあるが、己はその後継者ではなく『名代』にすぎず、職務もお飾りと称されている有り様だ。そのような立場に置いた周囲の考えは分かる。兄弟のいない自分に取り敢えず名代を務めさせ、いずれは7家のうちから伴侶を迎え入れさせ家を継がせる腹なのだろう。

 それは己が認められていないことだと、カルタは判断する。屈辱であった。ランディに敗北したことよりもよほど屈辱であった。

 であるならば、『覆す』。彼女の中に生まれたのは反骨心だ。名代などではなく真にイシュー家の後継者として万人に認めさせる。そうすることで自力で家を建て直し、確たる地位をGHに築いて……その上で、何かを抱えているマクギリスと対等に向かい合うと、そういった結論に至ったのだ。

 そのためには実績が必要となる。誰にも文句を言わせない実績が。どうすればそれを得られるか……それを考えたときに真っ先に浮かんだのが、やはりランディの事であった。

 彼女が足掻き始めるとほぼ同時に姿を消した男。勿論彼女もそれに関して情報を集め、彼が死んでいないと言う結論に達した。そして策略にて放逐されたのであれば、必ず逆襲のために戻ってくると確信していた。

 GHの敵となった彼を打倒することが出来れば、またとない実績となろう。何よりもGH最大勢力であるアリアンロッドに対し優位を取ることが出来る。無論容易い話ではない。昼行灯に成り下がったと見せかけて己を鍛え上げた男だ。圏外圏で研ぎ上げた牙がどれほどのものか想像に難くない。

 だが、是が非でも勝たなければならない。真正面から戦って倒すのではなく、『彼の目的を阻害する』。それが適えば光明は見えると彼女は絵図面を描いている。

 今のカルタにとってランディは最早ただの怨敵ではない。己の人生に置いて、絶対に越えなければならない『壁』となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンターク商会の船と再度合流し補給物資や降下船の手配をすませた鉄華団は、いよいよ地球近海へと向かう事と相成った。

 準備がほぼ整い、モンタークとオルガたちは最後の通信を交わしている。

 

「残念ながら降下時、そして地球に降りてからも、GHの襲撃を全て押さえることも情報をそちらに流すことも難しいだろう。あまり動けば私のことも露見してしまう危険があるからな。しかし可能な限り襲撃の回数や規模を押さえるように動いてみよう。あとは君たち次第だ」

「こっちの無茶を聞いてくれただけでもありがたいさ。あんたの思惑は別として、感謝する」

 

 社交辞令ばかりでない礼の言葉をオルガは口にする。実際モンタークはオルガの無茶振りに良く応えてくれた。例え何らかの裏があったとしても、そのことには素直に頭が下がった。

 

「さて、名残惜しいが我々はこのあたりでお暇させて貰おう。もしなにか助けが必要となれば先に教えた連絡法で頼む。可能な限り力になろう」

「何から何まで世話になる。借りを返せる宛が確実じゃないのが申し訳ないところだ」

「そのあたりは君たちを信じているさ。悪魔を操り、悪魔が背後に立つ、君たちをな」

 

 その台詞にオルガは複雑な気持ちになる。確かに多くの部分を未だランディに頼っていると思う。彼がもし地球に降りられなかったら……そう考えると不安が残った。

 らしくないと心の中で自分を叱咤。自分たちもただひよこのようにランディの後を付いてきたわけじゃない。それなりに場数を踏んで、やりこなせるようになってきたはずだ。後はぶちかますのみと、弱気な部分をふるい落とす。

 

「期待には応えられるよう、努力はするさ。……所で、つまらないことなんだが」

 

 気分を変えるように、気になっていたことを問うてみる。

 

「あんたの『本当の名前』はなんてんだ? GHの将官でもない、裏の商会を牛耳るものでもない、あんたをなんて呼べばいい」

 

 どうしてそれが気になったのか、オルガ自身にも分からない。ただ底の知れないこの男の本質、それに少しでも触れてみるべきだと思ったのか。

 オルガの問いに、モンタークは微かに目を見開いたかに思われた。しかしすぐに元のすました顔に戻り、応える。

 

「そうだな、今は……いや、『未だにまだ、私は本当の名を持っていない』」

「名前を、持っていない……?」

 

 その言葉の意味を計りかね、オルガは眉を寄せる。

 続けるモンタークの様子は穏やかで。

 

「お互いが首尾良く目的を果たせたならば、いずれそれを語ることもあるだろう。……では武運を祈る」

 

 そうして通信は終えられた。

 踵を返し去っていくモンターク商会の船団。それを見送る最中、ここまで随伴してきたハンマーヘッドから通信が入った。

 

「俺たちが付いてやれるのもここまでだ。さすがにテイワズ直系のタービンズが堂々とやらかすわけにはいかないからな」

 

 モニターに映る名瀬の言葉に、オルガは頭を下げる。

 

「ありがとうございます。兄貴には迷惑をかけっぱなしで申し訳ありません」

「気にするな。むしろお前らは良くやってる。ここまで乗り切れたのは決してリボン付きの力だけじゃねえ。胸を張れ」

 

 そう言いながらも、だがなと釘を刺しておくのを忘れない。

 

「ここから先は完全にアウェイだ。一瞬の油断が命取りになりかねない。手抜かりなくやれよ、兄弟」

「肝に銘じます」

 

 深々と頭を下げる。本当に出会ってからこっち、名瀬には世話になりっぱなしだった。いつかは恩を返さなくてはならないと深く心に刻む。そのためには。

 

「……よしお前ら! いよいよ地球に降りるぞ! 手筈通り降りる組と残る組、それぞれ準備を始めてくれ!」

 

 果たすべき事を果たす。オルガの言葉を受け、鉄華団の少年達は慌ただしく動き出す。その様子を見ながら、クーデリアはオルガに言った。

 

「ありがとうございます団長さん。ここまで連れてきて頂いて」

「……その言葉はまだ早えェ。あんたを地球に下ろすまでが俺たちの仕事だ」

「そうでしたね。ですがこの先お礼を言える暇があるかどうか」

 

 クーデリアの言葉に、オルガは片目を瞑って応えた。

 

「ここに来て合流地点の変更ってのは確かに気にはなる。【蒔苗 東護ノ介】だったか、アーヴラウの代表、病養でオセアニアのほうにいるってことらしいが」

「何かがあると考えておいた方が良さそうですね」

「いずれにせよ、俺たちは俺たちの仕事を果たすだけだ。必ずあんたを送り届ける」

「どうか、よしなに」

 

 地球に降りても簡単には終わらない。漠然ではあるが、そのような予感を二人は感じている。

 彼らの旅、その終わりはまだ見えず、先行きは不透明であった。

 だが、それでも歩みは止まらない。それが運命であるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警戒網に捉えられた艦影。 その通達を聞いたカルタの反応は早かった。

 

「敵艦の進路を特定! 正面に当艦から6番艦までを展開、対艦戦闘用意! 7番艦と8番艦、9番艦と10番艦でそれぞれ組み軌道上の警戒に当たれ! 地球に降りるのであれば降下船を出す。定期便以外のものでタイミングを合わせてくるならばそれだ! 見逃すな!」

 

 的確と思える指示を飛ばし、部下もそれに合わせて整然と動く。この数年間、実戦を想定した訓練に明け暮れていたのは伊達ではない。続いて回線を開いたカルタは、モニターに映るガエリオに向かって言葉を放つ。

 

「来たわよ。予定通り降下船の確認を待って先行した艦に合流なさい。こちらからもMS部隊を出すわ」

「了解した。協力に感謝する」

「ここまでお膳立てを整えたのだから、しくじったら折檻よ」

「おいちょっとまて折檻ってなんだ折檻て――」

 

 何かまだ言いつのろうとしたガエリオの通信を遮断する。実の所カルタはガエリオに期待はしていない。昔から彼はどうにもお人好しで詰めの甘い部分があった。その本質は今でも変わっていないと思う。重要なところでしくじる、という可能性もある。

 

(まあそれは、私自身にも言えることだけど)

 

 内心で自嘲。周りが見えていなかった自分の空回りは、周囲から見ればさぞや滑稽に映っていただろう。いまでもそれが、全て払拭されたとは思っていない。まだ何も、結果を出していないのだから。

 最善を尽くしたとは言わない。だが出来ることはやってきた。たとえ準備が整っていなかったとしても、敵がこっちの都合を鑑みてくれるわけではない。今発揮できる力を最大限に絞り出す。ここが正念場だ。

 

「さあ来なさいランディール・マーカス! 箸にも棒にもかからなかった小娘がどれだけ出来るようになったか、目にもの見せてくれるわ!」

 

 カルタは壮絶な笑みでもって、怨敵を迎える。

 果たして。

 

「敵艦進路、真っ直ぐこちらに……グラズヘイム1に向かってきます!」

「降下進路を取る船舶複数! すべて船籍不明です!」

「降下軌道付近よりエイハブウェーブ反応、MS数機を確認!」

 

 早速相手も動きを見せる。今のところは想定内、しかしここからどのような動きを見せるのか予想も付かない。

 だがカルタは一筋の汗を流しながらも、その笑みを崩すことはなかった。

 軌道上会戦、その火ぶたは切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「騎士道大原則ひとーつ!」

『違っ! カルタ様違います!』

 

 カルタ様が何かを大幅に間違えたようです。

 

 

 

 

 

 続くのでせうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ヒャッハー某所で鉄血キットが投げ売りされてたぜえええ!!
 たまには模型屋巡りもしてみるもんです捻れ骨子です。

 はいお約束通りカルタ様登場~! 誰これ言うな魔改造しすぎたんは分かっとる。まともに成長してたらカルタ様こんなんなってたんとちゃうかな~という思考実験の果てがこれです。原作のキャラも好きは好きなんで、端っこに痕跡を残せないかとやってみましたがいかがだったでしょうか。
 ……えぬじいのんが一番近いかもしれん。

 そして地味にモンターク仮面も魔改造。と言うよりモンターク商会あたりの設定が大幅に変わっております。放送終了後の後出し設定? 知らんなあ。果たして彼は原作の後半脳筋から脱することが出来るのか!? 脱出できたはいいが妙な方向に舵取りしたりするのか!? 乞うご期待っていうかそこまで続くのかどうなのか。

 とにもかくにも今回はこんな感じで。これから暑さが増してきます。皆様お体には十分ご注意を。
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