エドモントン市街、アーヴラウ議会議事堂。
代表選挙直前の最中、控え室のアンリはぎりぎりと歯ぎしりしながら忙しなく部屋の中を往復している。
蒔苗さえいなければ勝てる選挙だと、彼女は『妄信』している。出来うることならば蒔苗本人を『病死』にでもさせたかったが、そうするわけにもいかない事情があった。
それは蒔苗の『人脈』。国内外に広く伝手を持つ彼を謀殺したとなれば、政治的な混乱が生じるだけでなく、そういった関連の人間がどう行動するか読み切れない。下手をすればつけ込まれ、状況が悪化することも十分あり得る。ゆえに現段階では蒔苗を始末するわけにはいかなかった。
現在蒔苗は雇った傭兵に連れられてエドモントン近郊まで至っているらしい。GHの警備を簡単に抜けられるとは思えないが、彼がここにたどり着く前に選挙を終わらせておきたい。しかし
「……蒔苗がいなければ十把一絡げの有象無象どもが……っ!」
ことはアンリの思うとおりには進んでいなかった。
「アレジ代表代行、蒔苗先生が市街地に入ったとの情報が」
「ふむ、後もう一息と言うところか」
ラスカーの元に蒔苗の現状が伝えられる。あとは蒔苗が議事堂にたどり着くまで持たせればいい。ラスカーは頷いて指示を出した。
彼らが今行っているのは議会の遅延工作。とは言っても大したことはしていない。野党議員を挑発してわざと騒ぎを起こしたり、議会での質疑応答を引き延ばしたりと、『議会が中止されないぎりぎりの』引き延ばし工作を行っているだけだ。
焼け石に水なのは百も承知。幾度か休憩を挟んでいるが、実際そろそろ限界に近い。だが何事もなければ間に合うはずだと、ラスカーは信じるしかなかった。
(蒔苗先生、頼みましたぞ)
エドモントン攻防戦。その終盤は混迷を極めた。
最後の勝負に打って出た鉄華団。オルガたち突入班と撤退するメンバーの援護を兼ねて行われた襲撃。それを敢行したランディたちの前に立ちはだかったのは。
「はん、監察局ってのはいつから女の尻おっかけるほど暇になった?」
地面を滑るように機体をホバリングさせながら、ランディは小馬鹿にしたような言葉を投げかけた。
対するはガエリオの駆るキマリストルーパー。ランディの機体を上回る速度で大地を駆け、長大なランスによる突撃(チャージ)を果敢に仕掛けてくる。
「今の俺は監察局の者ではない! 一人の人間として、全力で貴様を止めるためにここにいる!」
ガエリオは、憤りの中にあった。彼はアインの思いに感化され、その怒りを己の物のように感じている。尊敬する人物の仇討ちを誓い、己を人でなくしてまでもそれを遂行せんとする『正しき心を持つ者』が報われない。そんな理不尽を許容することなど出来るものかと、義憤に駆られているのだ。
2機のMSが戦いは、まるで太古の騎兵と戦士の一騎打ちがごとき様相を見せていた。地上での機動力、リーチ。その他多くの面でキマリストルーパーはシュヴァルベ・グレイズを上回る。事実果敢な攻めで、一方的にランディを嬲っているように見えるが。
「くっ、『弾かれる』か!」
ガエリオは歯噛みする。大重量のランスに加速の勢いを乗せた突撃は、並の乗り手ならろくに回避も許さず一撃で串刺しに出来ただろう。しかしランディは突き込まれるランスをすんでの所で見切り、幅広剣を打ち付けて軌道を逸らすと同時に反動で回避を行っている。それをなすのにどれだけの繊細さと大胆さが必要か、それがわからないガエリオではなかった。
「だが、その集中力いつまでも保つものではあるまい!」
已然として状況は有利。この優位を保つことが出来れば最低でも時間稼ぎは出来る。己が勝利することに拘る必要はない。この男を仲間と合流させなければそれでいい。
(アイン、こちらは任せろ。お前は存分に敵討ちをなすがいい!)
濃紺と紫の巨人が鎬を削る最中、土煙舞う戦場ではそれぞれの戦いが繰り広げられている。
散開したおりに、昭弘のグシオンは運悪く仲間と分断されてしまった。
しかし彼はそれを悲観しない。
「は、『敵の真ん前』とはツイてる」
爆煙に紛れた形で移動した先は、鉄華団を迎え撃たんとしていた地上部隊大隊の眼前であった。急な援軍の登場に判断を迷ったコーリスは一旦部隊の前進を止めていたのだが、突然目の前に現れた敵の姿に、彼は瞬時に判断を下す。
「奇襲か! 第1第2小隊で応戦するぞ! 第3小隊はフォローに回り、敵の増援に注意を払え!」
即座に体勢を整えグシオンへと殺到するグレイズ。左右の腕にバトルアックスとシールド、サブアームにアサルトライフルを2丁構え、昭弘は咆吼を上げて迎え撃つ。
「おおおおおおお!」
力任せに見えて鋭く大斧が振るわれる。それは打ちかかってきたグレイズの剣を数本纏めて吹き飛ばし、盾で殴りつけるように剣を受け止めいなす。アサルトライフルは的確に下がった機体を捉え、そして自身は射撃を喰らっても一歩たりとも引かない。
正しく阿修羅のごとき戦いぶり。コーリスは戦くなと己を叱咤し部下に発破をかける。
「怯むな! 相手は1機、凌げば勝機はある!」
確かに凄まじいまでの戦いぶりだが、しかしこちらも今のところ致命傷を負ったものはなく、凌ぎきっている。恐らく敵はこちらの援軍に釘付けとなっているのだろう。であるならば今のうちに目の前の敵だけでも仕留める。数少ない機会だと、コーリスは奮起した。
だがそうは問屋が卸さなかったようで。
「昭弘!」
未だ舞う土煙の中から飛び出してきたMSが、横合いから奇襲をかけてきた。
「ちっ、もう1機抜けてきたか! そうそう上手いことはいかないと!」
歯噛みし後退しながらの遅延戦闘を命じる。敵の実力はこの2日間でいやと言うほど思い知らされていた。2機もいれば圧倒されるとは言わないが、引っかき回されるには十分な数だ。援軍の戦力も不確定だし、ここで無駄に戦力を消耗するつもりはない。しかし予測していたことではある。コーリスは気持ちを切り替え、冷静な対処を心がける。
一方昭弘は突然現れた援軍に戸惑いながら口を開く。
「ラフタさん!? 三日月達は!?」
その問いに、GH部隊へ牽制の射撃を行いつつ漏影を駆るラフタは応えた。
「3機も居れば大丈夫でしょ! それより1人で連中纏めて相手にしようとしてる馬鹿の方が危ないじゃない!」
ラフタの言いざまに、ぐっと詰まる昭弘。彼から言わせればこうなったのは偶然の産物で、別に狙ってやったわけではないのだが。
「どっちみちこいつら放っておくわけにはいかねえだろう」
「だからって1人で仕掛けることはないでしょ。……ちょっと心配しちゃったじゃない」
ラフタの台詞の後半は小声で、昭弘に耳には届いていなかった。そもそも彼女は自分が何を呟いたのか自覚してなかったりする。
「ともかく! こっち押さえ込むわよ! あんたとあたしが居れば2機でもなんとか……」
そうラフタが言いかけた時。
「!? 新手の反応!? ……これは!」
上空より降下してくるMSが2機。それは上空からGHの部隊に向かって威嚇射撃を行いながら降り立つ。
「兄貴! 助太刀に来たぜ!」
「昌弘!? その機体は!」
響く弟の声と降り立った機体を見て目を丸くするしかない昭弘。その機体はマン・ロディではあるが、脚部が換装され地上でも運用できるようされたもののようだ。塗装も間に合わせであるその機体のもう一方から、また別の声が響く。
「タービンズの人らが突貫工事で仕上げたんだよ。……ったく、とっとと逃げりゃいいものを、めんどくせえ真似しやがって」
半ば文句と化したその台詞を吐いたのはビトー。ぶつくさ言いながらもきっちり威嚇を続けているのは、なんだかんだ言って律儀だからなのだろう。
「俺達にも手助けさせてくれ兄貴。受けた恩、少しでも返す!」
「……ああ! 背中は任せたぜ昌弘!」
千人の援軍を得た。まるでそのような心境となった昭弘は、再び敵に対し突貫する。予想外のことに呆気にとられていたラフタだが、我を取り戻しぷう、と頬を膨らませた。
「む~、なんかこう、良いところを邪魔された的な感じでムカつく~」
ともあれ援軍に現れた少年達を怒鳴り散らすわけにもいかず、彼女は前に向き直ってスロットルを開けた。
「覚悟しなさい、ちょっと八つ当たるわよ!」
コーリスの部隊は、さらなる苦戦を強いられることとなった。
降り立った巨大なMS。対する三日月たちは戸惑いながらも応戦を開始する。
「ただのでかぶつじゃなさそうだけど!」
アジーの漏影がグレネードランチャーを放つ。それが命中する直前で、黒き巨体が『かき消えた』。
「なっ!?」
「後ろだアジーさん!」
シノの声を聞くやいなや、アジーは機体を横っ飛びに投げ出すがごとく操作。転げ回りながら回避を行ったその直後、背面から振り下ろされた大振りのマチェットが地面を穿つ。
「こいつ、速い!」
「この動き、阿頼耶識なのか!?」
その巨体からは想像もつかない機動性、そして有機的な動き。機体性能だけでは決して成すことが出来ないはずのそれを行えると言うことは、ほぼ間違いなく阿頼耶識システムを搭載していると言うこと。人体に手を入れることを禁じているGHがそれを行ったなどとは俄には信じられないが。
「出てきたって事は、やったってことだろ。どっちみち倒すだけだ」
迷わず言い放ち駆けるのは三日月。迎え撃つ巨体は土煙を上げ信じられない速度で真正面から挑みかかる。
「ふっ!」
横薙ぎに鋭く打ちかかったレンチメイスは、右のマチェットで受け止められ、間髪入れず左からの反撃が来る。それを横っ飛びに回避し、バルバトスは得物を振り回してから構え直す。
そうしたところでマチェットを振りかざす相手からの広域通信が入る。
「咎人どもよ! 特務三佐が与えて下さったこの力を持って俺は貴様らを駆逐する! その背負った罪諸共冥府の旅路にいかせてくれよう!」
芝居がかったと言うか、どこか熱に浮かされたような言葉。もちろんそんなものを三日月は歯牙にもかけない。嵐のような勢いで振り回されるマチェットを的確に受け止め、受け流し、弾き飛ばす。
「バルバトスよりもパワーがあるのか、こいつ」
グレイズ系のシングルリアクターではあり得ないほどの出力。黒い機体――【グレイズアイン】と称されるそれは、巨大化した機体を高速で振り回すために、専用調整されたリアクターを搭載している。その出力は通常出力のガンダムフレームと互角以上。そしてリーチも速度も普通のMSを上回るとなれば。
「三日月が押される!?」
全ての攻撃をいなしてはいるが、高速で動き回れぬよう押さえ込まれ、徐々に後退を余儀なくされている。それがどれだけのことか、三日月の強さをよく知っているシノには理解できた。
だが。
「……つってもてめえだってよそ見できねえだろうが!」
そう、三日月を倒そうと躍起になったのか、グレイズアインは脇目もふらずにバルバトスへとマチェットを叩き込み続けていた。ゆえに余所への注意が疎かになったと見たシノとアジーは左右から銃撃を仕掛ける。
しかしそれは、さくりと回避された。『全く攻撃を認識していない様子』にもかかわらず、である。
「な!?」
例え阿頼耶識を備えていたにしても、いや『備えていればこそ』確認しようとすれば頭を振るなど人間的な挙動が現れるはずだ。一瞬呆気にとられたシノの機体が背後に、グレイズアインは回り込む。
「見える、見えるぞ。貴様らの矮小な動きが手に取るように見える! 我が眼はこれ全てセンサーであり我が肉体はこの機体そのもの! この身は断罪の剣となり決して貴様らを逃しはしない!」
振り上げたマチェットが叩き込まれる――直前で横合いから打ち込まれたレンチメイスが受け止められた。
「お前の相手はこっちだよ」
どこまでも淡々と、しかしながらその眼には闘志をみなぎらせ、三日月は立ちふさがる。
「おいおい、阿頼耶識搭載機だと?」
通信の内容は傍受していないが、横目で見える戦闘の様子から現状を把握したランディが呆れた声を上げる。応戦しているガエリオが、それに応えた。
「そうとも! あれこそが阿頼耶識の本来の姿! MSと一体となったアインの覚悟は、まがい物の宇宙ネズミなど凌駕する!」
その言葉に、ランディは眉を顰める。
「はあ? 『逆恨み』もここまでくるとあれだな。……ぶっちゃけバカだろお前」
ランスを弾かれながらも、ガエリオはその言葉に反論を行う。
「逆恨みだと!? アインの命を賭けた意志をそんな陳腐な言葉で片付けられると思うな!」
「陳腐だろうが高尚だろうが言い方変えられただけで逆恨みは逆恨みだろうが。てめえから襲いかかってきて寝言ほざくなバカ」
左足を軸に旋回しながらシュヴァルベ・グレイズが打ち込む。それをシールドで受け流しながら、ガエリオはさらに激昂した。
「あの無法者どもが! アインの上官の心情を汲んでさえいればこんな事にはならなかった! 全ては奴らの自業自得! 因果応報だ!」
「上官? 心情? ……おいまさかその上官ってのは、火星で鉄華団に決闘仕掛けてきたアホの事じゃあなかろうな」
その言葉に、かっとガエリオの頭に血が上った。
「クランク2尉の高潔な意志を愚弄するか!」
「するわあほんだら!」
渾身の勢いで突き込まれたランスを飛び越えて、ランディは勢いのままキマリスに跳び蹴りを食らわせた。
転倒しそうになって何とか体勢を立て直すキマリスに、びしすと指さしてランディは言い放つ。
「なんで『決闘後に遺恨が残ってる』んだよ! 決闘ってのはそもそも『遺恨を残さないためにするもの』だろうが! 根回ししてなかったあのアホもアレだが、仮にもGHの上級士官であるてめえはむしろ諫める立場じゃねえかこのどバカ!」
決闘とは諍いを収め解決するためにある。結果の是非はともかくとして、それを後に引かないのが大前提だ。仮に決闘の結果が不服であったとしてもそれなりの作法という物がある。でなければ復讐が復讐を呼び、きりがなくなってしまう。決闘という物の本質、ガエリオとアインの行動はそれを無視したものだ。
これはクランクの生真面目さと、ガエリオのお人好しさが招いたものであろう。上からの命令に忠実であり同時に人格者であったクランクは、任務と情との間で板挟みになり、結果鉄華団に決闘を挑むという行動に出た。この時彼がしっかりとアインに釘を刺しておけば恨みを募らせることはなかったかも知れないし、そうでなくとも多少悪知恵が働けば行動の引き延ばしを計り解決策を模索する事も可能だったはずだ。
ガエリオはガエリオでアインの意志と彼から伝え聞いたクランクの人格、そして二人の関係に感銘を受け、任務に乗じてアインの手助けをすることに決めた。だがそれは多分に感情的な物で、本来の役目からは逸脱した部分も多い。その執念深いと言える行動が、この結果を招いたと言えよう。
双方共に基本的に善人であり、その行動は善意からの物であった。だが善意からの行動が良き結果を招くものではない。そしてそれは、ランディール・マーカスという男に知られた時点で最悪を導く。
ガエリオが反論しようとしたタイミングを見計らったように、シュヴァルベ・グレイズは打ちかかった。
「そもそもが! 火星本部長のぼんくらが不正バレにビビってクーデリア嬢ちゃんの命(タマ)狙ってきたのが悪いんだろうがよ! 相手がGHなら黙って殺されろってのかてめえは! ああン!?」
岩をも砕くような一撃をかろうじて凌ぎながら、ガエリオはむきになって声を張り上げようとする。
「それは! しかしクランク2尉を殺す必要などなかったはずだ!」
「エース級相手に整備もろくにしてねえぽんこつMSで手加減出来る余裕なんざあるかバカ! 第一決闘での生死は互いに恨みっこなしって不文律があるだろうが! まるっきり無視してるてめえらのほうが決闘仕掛けたヤツの意志をないがしろにしてんじゃねえかよ!」
その言葉に怯んだか、キマリスの動きにぎこちなさが生じる。その隙を見逃すランディではない。肩口から体を当て、キマリスを弾き飛ばす。
「ドルトにしたってアリアンロッドのど腐れどもが仕込んだってのは見え見えなんだよ! ってか仕事しろって言ったよな監察局! 目の前の不正見逃して逆恨み敢行してんじゃねえよ素バカがァ!」
たたらを踏んで体勢を立て直そうとしたキマリスを、シュヴァルベ・グレイズが『左の盾で』ぶん殴る。予想外の攻撃だったようで、それは機体の顔面に入って仰け反らせた。
「がっ! ぐ、か、カルタが! カルタの地球外縁軌道統制統合艦隊を真っ向から粉砕したのは明らかな犯罪行為……」
「んなモンに今更ビビるかボケェ! それにてめえらがドルトで余計な事しなきゃ俺ら普通に地球に降りられてたんだよ! どっちかって言ったら迷惑被ったなァこっちだろうが!」
何とか反撃しようとしながら言うガエリオの言葉を切って捨てるランディ。同時に下から斬り上げた幅広剣がランスを強かに打ち上げ、手から弾き飛ばす。
「この戦いも! 金髪ン所の強欲オヤジが色気出してアーヴラウの実権握ろうとしてっから起こってるんだろうよ! それに便乗した挙げ句禁じ手の阿頼耶識だァ!? どの面下げて恥ずかしげもなく上から目線で物言えたモンだなァ坊や!」
言葉と共にさらに激しく打ち込み(ラッシュ)、打ち込み、打ち込み! 何とか剣を引き抜いたキマリスは、その乱打を凌ぐので精一杯だ。
「てめえらGHが真面目に仕事して余計なことしなきゃなァ! この件は前代未聞ではあっても『アーヴラウとクリュセ自治区の政治的な取引ですんだ話』なんだよ! 基本から最終形まで全部、全部! ぜ・ん・ぶ! 『GHのせい』だろうが! あ゛ァ!?」
「それは……っ! 俺達は……っ!」
言いよどむ。ランディの言葉は、目を背けていた現実を刃と共に叩き付けていく。首根っこをひっつかみ、逃げてるんじゃねえと無理矢理見せつけているがごとく。
そしてランディは『とどめ』を放った。。
「そのGHが不正を見逃すだけでなく、便乗してるてめえはなんだ!? その機体、その立場! 与えられたのは身勝手を通すためだってか! とことんどこまでも、『骨の髄まで腐ったGHだなてめえは』!」
「…………っ!」
違う、と叫ぼうとした。自分は腐敗し堕落したものたちとは違うと、それを正そうとして――
『権力を振りかざし、我を押し通した』。
その事実に気付いた時、ガエリオは絶望にも似た虚脱感を覚える。
目に見えて挙動が乱れるキマリスの様子に、ランディはほくそ笑んだ。
彼は実の所、『怒りに駆られたりしていない』。激情のまま言葉を叩き付けているように見えるのは全て演技。はっきり言ってこいつのやっていることの方がGHよりなんぼか酷いし、その自覚もある。
ここでガエリオを責めているのは、『その心をへし折るため』だ。殺そうとまでは思っていない。むしろここでガエリオを亡き者にしてしまえば、それを理由にしてGHは全面的に対策を取るであろう。『まだ準備が整っていない』現段階でそれは少々面倒くさい。ここは心理的に叩き潰して、『GHの内部疾患となって貰う』。そういった算段があった。
徹底的にど畜生であるこの男。
(他人の影響をほいほい受けるからなあこの坊やは。実にいいカモだぜ)
ランディから見れば、ガエリオ・ボードウィンと言う人物は実に『ヌルい』。根本的に善人でお人好し。目に見える邪悪には憤るが、隠された悪意にはとことん鈍感だ。同じくランディと接したマクギリスやカルタとは根本的に違う。マクギリスには出生などを根幹とした『飢え』があり、カルタは置かれた立場から『危機感』とがむしゃらな『向上心』を抱いている。ガエリオにはそういったものがない。恵まれた立場に置かれたゆえに、そこからの目線『しか』持てないのだ。
だからランディにとって、どこまでも彼は『坊や』でしかない。鍛え上げはしても、それは決してランディを脅かすものにはなれなかった。技量の問題ではなく、基本的な心構えからして全く『足りていない』のだから。
ともかくそろそろ仕上げだ。いい加減三日月たちが相手をしているでかぶつを放っておくわけにもいくまい。あっちのほうがよほど面倒な存在だ。
「いい加減邪魔だ。とっとと失せろや三下(さんぴん)の坊や!」
シュヴァルベ・グレイズが、幅広剣を高々と振り上げる。
そこで新たに状況が動いた。
「三日月! もうすぐ団長とクーデリアさんたちが議事堂に着く。それまで保たせてくれ!」
団員からの通信が、鍔迫り合いを行っている三日月の耳に飛び込む。そこまでは良かった。だがその通信は、接触回線にてグレイズアインにも伝わってしまう。
コクピット内がアインの表情は動かない。いや、『特殊溶液に浸された』彼は、もはや表情を動かすどころか身じろぎすることも叶わない。だがその感情は猛り狂い、それは機体の行動に反映される。
許さぬと、彼は憤っている。敬愛する上官を殺害した宇宙ネズミたちを一匹残らず駆除しなければならないと、ただそれだけを目的に彼は生きながらえている。だがしかし現状はどうだ。特務三佐に与えられた無双の力を持ってしても、奴らはしぶとく生き延びている。なぜだ、何がおかしい。何が原因でやつらを殺せない!?
徐々に狂気に塗りつぶされる彼の耳(センサー)が、鉄華団の通信を傍受する。これは、そうだ。そもそもこうなった原因は――
「そうだ……そうです! 忘れていました! 申し訳ありませんクランク2尉! クーデリア! ああ、クーデリア・藍那・バーンスタインっ!!」
どん、と衝撃が奔り土煙が舞い上がる。それに乗じて死角に回り込むつもりかと、三日月やシノたちは後退し相手の出方に反応しようとするが。
「……!? 逃げやがった?」
レーダーで確認される敵の機影は、高速でこの場を離れているようだ。何かトラブルでも起きたのかと、アジーなどは訝しむが。
「……ここ、任せる」
三日月は即座に動き出す。
「二人は昭弘やランディを手伝って。俺はやつを追う」
「お、おい、三日月!?」
シノの声に応えず、三日月はスロットルを全開。彼は敵が消えた方角と、そして本能的な勘で敵の目的を察していた。
『オルガが危ない』。
「市街地で重火器だと!?」
MWの30㎜砲で時折現れる警備兵たちを蹴散らしながら、オルガたちは目的地へと急ぐ。このままなら予定通り、いや少し早めにたどり着けるなと思案している最中、通信機にノイズが走り、街頭のテレビ画面がこぞって砂嵐を映すようになる。
「電波障害!? これは、まさか!」
市街地全体に影響が及ぶような電波障害。それを引き起こせる物はこの状況では一つ。『MSに搭載されているレベルのエイハブリアクター』だ。
「連中、市街地にMSを突入させやがったのか!? 正気か!?」
無法者の自分たちですら使うことを躊躇した手段。それを堂々と使ったことに憤る間もなく日が陰った。
「散開しろ! アトラは車を路地に――」
オルガの指示は間に合わない。衝撃が奔り、MWが、装甲車が、為す術もなく吹き飛ばされた。
噴煙の中、ゆらりと身を起こすのはグレイズアイン。ひっくり返った装甲車から這い出したアトラとクーデリアの姿を、そのモニターアイがぎろりと睨み付ける。
「そうでしたクランク2尉、俺は貴方の命令に従ってクーデリア・藍那・バーンスタインを捕らえなければならなかったっ!」
その声を耳にしたクーデリアは、庇おうとするアトラを押さえて前に出る。
「わたくしがクーデリア・藍那・バーンスタインです! 何かわたくしにご用がおありですか!」
「ああ、クーデリア・藍那・バーンスタイン殿。以前CGSにお迎えに上がりましたときに貴女が来て下されば、クランク2尉は……。そも、貴女が独立運動などと……ああそうか、貴女が、お前が! クランク2尉を!」
正気を失った言葉。しかし言いたいことを察しながらも、クーデリアは堂々と一歩も引かない。
「確かにわたくしの行動で、多くの命が犠牲となりました。……しかしなればこそ、わたくしは立ち止まるわけには参りません! 多くの犠牲を無駄にせぬために、世界を変えるために!」
「その傲慢! 我が手で終止符を打つ!」
咆吼と共に振り上げられた凶刃が振り下ろされんとする。
疾風(かぜ)が奔った。
轟音、衝撃。目を背けぬクーデリアを、その彼女の前に立ち刹那の間であっても盾になろうとしたアトラを、強き風が嬲る。
立ちふさがるのは、白き鬼神。渾身の一撃をレンチメイスで受け止めたバルバトスのモニターアイが、力強い光を放つ。
「お前の相手は俺だって、言ったはずだ」
静かに、だが然りと、三日月・オーガスは宣った。
突然の銃撃が、シュヴァルベ・グレイズとキマリスを分かつ。
後退しだらりと構えた機体の中、ランディは不満げに声を上げた。
「……何のつもりだ、小僧」
応えるのは、天空から降り立った赤い機体。
「ご不満はありましょうが、ここは私に譲って頂きたい」
グリムゲルデのコクピットで、微笑を浮かべながらも真剣な眼差しのモンタークが、そう告げる。
事態は終盤。しかしながらまだ波乱は終わりを見せない。
※今回のえぬじい
冴えた議会の伸ばし方。
「フリュウ議員、その……ずれてますよ?」
「誰がヅラだって証拠だよやるならやんぞ表でない!」
デリケートな部分に攻撃するのはやめておいた方が良い。お互い様だから。
ハゲてないぞ? いやマジで。(切実)
かいぢゅうわくせいを見に行った。
野心作ではあると思う捻れ骨子です。
ということでガリガリ君いぢめの回であります。なぜ彼は魔改造されていないのか。1人だけ満たされてるからだよ! っていうオチでした。クランクにー共々独自設定もりもりでヘイト酷いことになってますが、彼らは嫌いではありませんし「良いヤツ」だとも思います。だからといってその行動と結果が適切であったのかと言えば、違うと言わざるを得ないんですよね。それは鉄血キャラのほぼ全てに言える事なんですが、彼らは後々までの影響を考えると非常に「やっちまった感」が強すぎると思います個人的に。異論は認める。
しかし自分で書いててなんですが、ランディさん人をこき下ろすときは実に生き生きしてんなあ。この部分だけすらすら進んだのはヤツが勝手に動いたからです。(言い逃れ)
そして地味に技量が上がってたせいで助かったアジーさん&シノ。そして地味にプロトランドマン・ロディにて颯爽登場昌弘&ビトー。等々地味に原作から剥離していますが、はてさて次はどうなるのでしょうか。
……取り敢えず今年中に一期を終わらせたいな~とか思いつつ今回はこの辺で。