イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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24・さてもたのしく海賊退治……といけばいいけど

 

 

 歳星。テイワズの本拠地たるそこに、一隻の改装戦闘輸送艦が停泊していた。【サカリビ】と名付けられたその船は、中央ブロックを装甲強襲艦本体と交換した、鉄華団2番艦【ホタルビ】との同型艦であった。違うのはデブリ帯での航行を考慮しハンマーヘッドと同じようなシールドを備え、そして各種作業用のアームがいくつか備えられているところである。

 地球との往復と訓練を兼ねた航海を終えたサカリビは、補給と修復のためにドックに収納されている。それを仕切る人物――ランディはと言うと、現在『とあるモノ』を前に歳星の整備長と言葉を交わしていた。

 

「【モビルアーマー・ザドキエル】ねえ。……厄祭戦の元凶。人類の過半数を死に追いやった狂気の産物。ってのもこうなると、ただの休眠リアクター、か」

 

 ぽりぽりと頭を掻きながら言う整備長。彼らの目の前には、ほぼ大破したフレームとリアクターだけになった殺人機械の残滓があった。

 

「むしろGH以外にMAの記録が微かでも残ってるところがあったとはな」

「テイワズ、と言うか圏外圏は厄祭戦の被害が比較的少なかったからね。だからMS技術が残ってたりしたんだよ。……もっともMAのことなんか、洗いざらい資料をひっくり返さなきゃ出てこなかったけれど」

 

 肩をすくめた整備長は、それでとランディに問うた。

 

「これ、どうするつもり? いや、大体予想はついてるけど」

「ああ、このリアクター、『例の機体』に乗せてみようと思ってな」

「【エウロパフレーム】をベースに君が設計させてる、『アレ』にかい」

 

 イオフレームとは逆に『機体の性能を追求した』試作フレーム。獅電開発の副産物と言えるそれを原型としてランディはある機体をテイワズに発注していた。だがそれは――

 

「これまでの標準型リアクターじゃ、あの機体の要求出力に足らねえ。だがこいつなら一回りでかい分ガンダムフレームのツインリアクターともタメを張る。幸いにしてエウロパフレームはロディ系と同じくバックパックにリアクターを搭載するタイプだ。加工すりゃいけるさ」

「機体バランスとか機動特性とか、無茶苦茶になると思うんだけど。……ま、君だったらなんとかしちゃうんだろうね。……そんで、名前とかどうする? なんだったら僕が格好良いのを……」

「ああ、もう決まってる」

 

 しゃらりと言ってのける。えーそう、とか残念そうな整備長を余所に、ランディはにぃ、と凶悪な笑みを浮かべた。

 

「【ラーズグリーズ】。全てを終演に導く、死の女神さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火星、鉄華団本部。

 先の騒動も冷めやらぬまま、新江が宣言したとおりマクギリスから直接の依頼の申し込みが舞い込んでいた。

 

「夜明けの地平線団の掃討、可能ならば首魁である【サンドバル・ロイター】の捕縛、か。それに協力しろってことだな?」

「その通りだ。これまでも君たちには海賊や犯罪組織などの討伐に協力して貰っていたが、今回はこれまでにない大規模なモノとなる。これはただのGHが示威行動ではなく、私が提唱した新設部隊の試験運用でもあるんだ。可能であれば成功させたい」

「いいのかよ、そんなんだったら自分たちだけの手柄にしときたいモンだろう」

「いままでのGHがやり方とは違う方向性、現地勢力との協力関係を築くことによってよりよい関係性と問題の解決力を持たせる。そういった事を考えているからね。まあ理想論だが、実際GHの独力だけでは限界が来ているのも事実だよ。功を焦って目的を果たせないでは、片手落ちも良いところだ」

 

 揶揄するように言うマクギリス。どうにも本気で今までとは違うやり方を模索しているようだが、いまいち信頼しきれないのはやはりどうしても胡散臭さを感じてしまうからか。

 しかしながら、夜明けの地平線団を放っておくわけにはいかない。海賊とはマフィアと同等かそれ以上に面子に拘る存在だ。一度その襲撃を凌いだからには、鉄華団を滅ぼすか、自分たちが滅びるまで付け狙い続けるだろう。出来るだけ早く決着を付けておかなければ、延々と付け狙われる事となる。マクギリスの依頼は、絶好の機会であることには違いなかった。

 

「そう言うわけでこちらとしても是非もない話だ。航路の安全を図ることは、テイワズにとっても願ったり叶ったりの話だしな。……問題は、戦力だろう」

「こちらは新設部隊の動かせる全戦力、改装ハーフビーク級三隻とMS部隊1個大隊を出す。数は心許ないように思えるだろうが、船も機体も、そして人員も選りすぐりだ。多少の戦力差であっても後れは取らないと自負している」

「そうか。……こっちはイサリビ……装甲強襲艦と、装甲強襲艦ベースの戦闘輸送艦が2隻……いや、1隻は地球から帰還したばかりで、歳星で整備中。MS部隊は動かせる機体とパイロット合わせて1個中隊ってところか。……そんで多分、『うちの最大戦力』は間に合うかどうか微妙だ」

「むしろ彼の力ばかりを頼るわけにはいかないだろうね。情報によると、火星近隣の海賊や犯罪組織は、君たちのことを彼の威を借りた狐だと見ている節がある。テイワズの1配下としても、そう見られているのは面白いことにはなるまい」

「その通りだ。教官なしでもやれるってのを見せるのは、これから先の事を考えても必要になる。……だがそうなると、数だけでも連中の半分程度って事になるな」

「そして連中の首魁、【月輪(がちりん)のサンドバル】か……」

 

 通信の向こうで、マクギリスの目が細められたように思えた。

 

「名付きのエースでもある彼の実力と人望、強力なカリスマによって纏まっているのが夜明けの地平線団だ。だが逆に言えば、彼を討ち取ることさえ出来れば幾ばくかを取り逃がしたとしてもその勢いは失速する」

「奴の首狙いの電撃戦。勝機があるとすれば、それだな」

 

 勝ち目は、ある。であればこの流れを逃すのは、逆に因縁を払う機会を失う事となる。オルガは決断した。

 

「……了承した。鉄華団はそちらの依頼を受ける方向で行く。テイワズ本部に伺いを立てるが、恐らくうちの親父はGOサインを出すだろう。正式な沙汰が出たらすぐにでも連絡をさせて貰う」

「ありがたい。こちらはすでに部隊を動かしている。問題がなければ、2週間ほどで合流できるだろう」

「2週間!? 早いな」

「それが出来る部隊ということさ。では、良い返事を待っているよ」

 

 通信が切られ、オルガは面を上げる。彼の前には、副団長であるユージンと、お目付にして事務を取り仕切っているメリビットの姿がある。オルガの視線を受け、二人は大きく頷いた。

 

「名瀬の兄貴経由でテイワズに繋ぎを取る。忙しくなるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名瀬からの報告に、マクマードはくっと笑みを浮かべてみせた。

 

「良いタイミングで依頼が飛び込んできたな。こっちとしてもありがたい話だ」

 

 夜明けの地平線団。テイワズとしても少し目障りになってきていたところだった。丁度鉄華団が喧嘩を売られたと言うこともあり、対処を任せようかと考えていた矢先であったのだ。

 確かにタイミングは良かった。しかしながら。

 

「だが、いささか都合が良すぎる話でもある。モンタークを通じてりゃ、こっちの動きは読めてるだろうがな」

 

 やはり都合を合わせてきたと見る方が自然であろう。ハーフメタルの利権関係で食い込んできたモンタークは、地球方面の流通にて大きくシェアを占める形となった。商売相手としては持ちつ持たれつ。悪くない関係を構築していると言える。その上でGH火星支部に支援を行い、治安の維持にも協力を惜しまない彼らの評判は相応に高いものだ。今は敵に回すよりも味方に付けていた方が良いと言える。

 鉄華団を通じて彼らの裏の事情にもある程度理解は及んでいる。何かを企んでいるようだが、それが自分たちにとって吉となるものか。マクマードは目の前の名瀬に問うた。

 

「モンターク――マクギリスという男と顔を合わせていたな? お前さんは奴をどう見るよ名瀬」

「油断のならない男ですね。今のところはまだ利用価値がある……って感じですが、隙を見せたら喰われかねない底の深さがあるかと。オルガの奴もそのあたりは気にしているようです」

「ふん、一筋ならねえ食わせ者ってことかい。だがまあ、敵に回すのは上手くねえ。それに都合が良いことには違いない」

 

 葉巻を一吹かし。今回のことは鉄華団を山車にマクギリスの、GHの反応を見る良い機会でもある。それに鉄華団にもそろそろでかい仕事を回す切っ掛けになるだろう。なんだかんだ言って彼らはよく働いてくれていた。勤勉で、しかも相応の結果を出しているというのであれば、見返りはあってしかるべきだ。少年たちを気に入っている好々爺としてではなく、企業人としての計算から、マクマードは結論を出した。

 

「鉄華団に依頼を受けさせてやれ。……それなりにでかいヤマ、油断のならねえ相手だ。褌を締めてかかるように言っておけよ?」

「はい。しかと伝えておきます」

 

 名瀬は深々と頭を下げた。

 暫く後、テイワズ本部の廊下で名瀬はアミダと落ち合っていた。

 

「親父の許可が出た。早速オルガに伝えるとするさ」

「根回しもそんなにいらなかったねえ。最初(はな)からあの子らにやらせる腹だったんだろうけど」

「向こうさんの思惑に乗ってるってのは気がかりではあるが……今回はお手並み拝見というところだな」

 

 二人は話しつつ連れだって立ち去ろうとする。がそこに声をかけるものがあった。

 

「よう色男(ロメロ)、また親父のご機嫌伺いかよ」

 

 妙に嫌らしげな調子の声。見れば幾人かを引き連れた、濃い顔と雰囲気の男だ。

 【ジャスレイ・ドノミコルス】。テイワズの専務取締役であり、商業部門であるJPTトラストを仕切る組織の実質的なナンバー2と目されている男であった。

 趣味の悪い毛皮のコートを肩に引っかけたジャスレイは、にやにやと嫌らしい笑みを顔に貼り付けて名瀬に絡む。

 

「女の尻に敷かれているだけじゃあきたらず、今度はガキどものおもりかい? いやはや物好きにもほどがあるなァ」

 

 その嫌味に対し、名瀬は済ました顔で返す。

 

「そのガキどもがでかい仕事を任されることになりましてね。ケツ持ちでてんてこ舞いってところですよ。まあ、叔父貴みたく暇を持てあまして悠々自適というわけにはいきませんや」

 

 ここ最近大きな仕事を任されていないジャスレイに対する揶揄が込められていた。ジャスレイの笑顔が凍り、取

り巻きが「野郎……」といきり立つ。

 一触即発の嫌な空気が流れるが、まるでそれを読んでいないかのような声がさらに響いた。

 

「おうおうおそろいだねェ。みんな商売繁盛してっかァ? ん?」

 

 へらへらとした軽薄な声。現れたのは――

 小太りでスダレ禿げで千鳥足。へろへろのスーツを身に纏った、どう見ても酔っぱらいの中年サラリーマンにしか見えないおっさんである。

 それに対する反応は、ジャスレイと名瀬で覿面に差があった。

 

「ちっ、うぜえのが来た」

 

 声こそ小声であるが、明らかに嫌悪感を露わにするジャスレイ。

 

「おおっと、『お目付』の叔父貴じゃないですか」

 

 もみ手をせんばかりに愛想良く声をかける名瀬。

 【ジョニー・マクラーレン】……と『自称する』男。最近になってテイワズの内部監査室長という名目であちこちに顔を出すようになった人物だ。

 しかしながらその実情は、内部監査の名の下に接待という名目の呑み歩きを繰り広げる名ばかりの役立たずというもっぱらの評判で、事実出向先で集っているだけの人物だと見られていた。ジャスレイもまた彼の『洗礼』を受けており、しかしマクマードの旧知らしく邪険にも出来ない相手である。

 へらへらとした態度のまま、ジョニーは二人に絡む。

 

「またちょっと寄らせて貰う気だったんだが、丁度良いやね。お前さんらのどっちかんトコに顔出させてもらおうかね?」

「だったらウチんとこに是非とも立ち寄って下さいよ。良い酒も揃えてますぜ?」

 

 間髪入れず名瀬が誘う。ジョニーは相好を崩して応えた。

 

「おう、お前さん所の綺麗所で酌してくれんだろうな?」

「勿論。そのあたりは任せてもらいましょう」

 

 馴れ馴れしく名瀬と肩を組むジョニー。そんな二人を呆れた様子で見ながらもついていくアミダ。

 その姿を見送って、ジャスレイは唾を吐いた。

 

「親父の腰巾着風情が。調子にのりやがって」

 

 いずれ痛い目に遭わせると心に誓い、肩を怒らせながら彼もまた立ち去る。

 テイワズの中にも、不穏な空気は確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明けの地平線団を討伐すると鉄華団が決めた後、クーデリアの身柄は密かにあるところで匿われていた。

 【桜農園】。ビスケットの祖母である【桜・プレッツェル】経営する農場だ。鉄華団とはビスケットとの縁で提携し、元の規模を拡大して孤児院の経営なども行うようになった。その孤児院はクーデリアも経営に携わっており、時折顔を出しているのでこの場にいること事態は別段不自然なこともない。

 ともかくフミタンと共に彼女は桜農園を訪れた。そしてその裏庭で、あるものを目にしている。

 

「ここでも何か作っているのですね三日月は」

 

 小さな畑である。そこには多種多様の作物が植わっていたが……その多くが収穫の時を待たず、枯れ込んだりしなびたりしているようだった。少し残念とばかりに肩を落とすクーデリアの両脇から、ひょこりと顔を出した少女たちが口を開く。

 

「食べられるものをどうにかして作れないかって、色々試しているみたい」

「でも沢山作ろうとすると、なんか上手くいかなくて枯れちゃったりするんだって」

 

 【クッキー・グリフォン】、【クラッカ・グリフォン】。ビスケットの妹たちだ。鉄華団とアイゼン・ブルーメ商会が合同で創設した学校に通う学生だが、休日にはこの農場に顔を出し作業を手伝ったりしている。三日月にも懐きその畑の手伝いも積極的に行っていた。

 

「……どうして上手くいかないのでしょうね」

「水だよ」

 

 クーデリアの疑問に、背後から現れた桜が応えた。

 

「火星は元々土壌が良くない。その上で雨がほとんど降らないからね。水が土壌に十分に循環しないのさ。農業プラントなんかだと水を極冠から引っ張ってきて、用土自体を火星の土壌から切り離してるから作物を育てられる。でもそれだとコストがかかりすぎるんだよ。結局の所この土地でまともに育つのは、品種改良されて元々食用に向かないバイオ燃料用のトウモロコシくらいさ」

 

 桜の言葉に、クーデリアは眉を寄せる。

 

「水……ですか」

 

 彼女は暫く考え込んで、傍らのフミタンに向き直った。

 

「フミタン、時間があるときで良いですから少し調べて欲しいことがあります」

「はい、何なりと」

 

 なにかがもやりと、クーデリアの中で形を取り始めた。

 それがどのような形になるかは、まだ見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアンロッド艦隊旗艦、スキップジャック級ネームシップスキップジャック。全長800メートルを超え、数百とも言われるMSの搭載量を誇る巨大戦艦である。

 その格納庫の一角に、ジュリエッタの姿はあった。

 彼女の視線の先には、1体のMS。鋭角的なデザインのその機体は、ガンダムフレームの特徴的なツインリアクターの他に、もう1基リアクターを背負っている。何か理由があるのだろうがジュリエッタには予想もつかない。

 まあそのようなことはどうでも良い。彼女が気にしているのは、この機体の『乗り手』の事だった。

 

(ぽっと出でラスタル様の副官的な位置に抜擢される。……実績があるのならば納得も出来るけれど、経歴も明らかではないあのような怪しげな男が……)

 

 彼女自身が自覚しているのかどうかは分からないが、それは嫉妬じみた感情であった。

 市井からラスタルに才能を見出され子飼いの部下となった彼女は、ラスタルに対し信仰にも似た全幅の信頼を寄せている。だが今は突然現れた人間が自分以上にラスタルと近い位置にいる。それが気にくわない。子供じみた感情であるが、それを押し隠すには彼女はまだ若かった。

 と、そんな彼女の背後からかけられる声があった。

 

「調整中の機体など見ても、特に面白いことなどないだろう?」

 

 振り返ればそこには一人の男の姿。いや、『多分男性であろう』人物。不確定なのは、その人物が頭部を丸ごと覆う金属製のマスクを付けているからだった。

 最近になってラスタルの側近として召し抱えられたその人物――自称【ヴィダール】は、件の機体にかかりきりで仕事らしい仕事も行っていない。なぜそんな人物が召し抱えられたのか、ジュリエッタならずとも疑問に思うものは少なくなかったが、ラスタルに物言える人間などアリアンロッドには存在しない。なりゆきのまま受け入れられているのが現状であった。

 その人物の登場に、ジュリエッタはむっとした表情で応える。

 

「いつになったらこの機体が使えるようになるのか気になっただけです。『今回の作戦』にも不参加と聞きました」

 

 マクギリスの行動に対し、ラスタルはアリアンロッド第2艦隊を率いるイオクに『様子見』を命じていた。表向きは火星方面への哨戒任務だが、事実上の『横槍』である。手柄を横取りできれば御の字、マクギリスの出方如何によっては今後の方策を決める切っ掛けとなるだろう。そういった目論見があった。ジュリエッタは自らその任務に志願したが、目の前の人物は何ら動きを見せない。それに対して妙な苛立ちを感じているのだった。

 ヴィダールの表情はマスクに隠され分からない。だが特に何かを気にした様子は、その態度からは見受けられなかった。

 

「この機体はシステム周りが少々特殊でね。まだ暫く調整に時間がかかるんだ」

「随分と悠長なことで」

「何事も焦りは禁物ということさ。物事をなすにはタイミングというものがある」

 

 己の機体を見上げ、ヴィダールは言葉を紡ぐ。

 

「周りを見ずにただがむしゃらに突っ走っているだけでは、足下に開いた落とし穴にさえ気付かぬものだよ。……今になって、それが分かる」

 

 最後の言葉は小さく呟くようで、ジュリエッタの耳には届かなかった。

 

「それは私の事を言っているのですか?」

「いや、自戒のようなものさ。気に障ったのであれば謝罪する」

 

 言いながら、ヴィダールは思考を巡らせている。

 

(俺やこの娘、そして『彼女』。ラスタルは本格的な武力衝突を前提に駒を集め始めている。……やはりマクギリスと雌雄を決せねばならないと考えているのか)

 

 彼はこの場にいない、『もう一つの駒』について思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアンロッドのMS整備主任【ヤマジン・トーカ】は、1隻のハーフビーク級と共にどことも知れない宙域へと赴いていた。

 『ある機体』のテストのためである。一通りのタスクを終えたその機体が帰還し、彼女は早速整備班に檄を飛ばしていた。

 

「冷却を急いで! 問題の洗い出しに入る、各班は冷却終了と同時に解析作業を始めて!」

 

 作業員が忙しく動く中、件の機体のコクピットが開き、パイロットスーツの人物が飛び出してヤマジンの元へと向かって来る。

 

「どうだい、この子の様子は」

 

 動じることなく問うヤマジン。問われた方は折りたたみのヘルメットをパイロットスーツに収納しながら応えた。

 

「反応は素直だねえ。けど、アタシとしちゃあ物足りない」

 

 ショートカットの端正な美人と言える人物である。だがその目は深く澱み、おぞましいような凄みを感じさせる。

 

「あと3割反応を上げられないかい? そうすりゃもう少し良い感じになると思うんだけど」

「並の人間ならとうの昔に限界を超えてる、最大で15Gを超える領域でも物足りないって? あんたテストってこと忘れてるだろ」

「こいつの限界を洗い出すってのがアタシの役目じゃないか。その後の『ご褒美』のために頑張ってるのに酷い言いざまさ」

 

 呆れたようなヤマジンの言葉もどこ吹く風だ。どうにもこの女性、常識の範疇にないらしい。澱んだ目のまま、どこか夢見がちな様子で己の機体に目を向ける。

 

「ああ、待ち遠しい。リボン付きの悪魔と熱く思いを交わせる時がさ」

 

 血のような深紅に染め上げられた機体。後に【レギンレイズ・ジュリア】と名付けられる機体の同型機。いや、魔改造された原型機は、猛りながらその時を待つ。

 それを駆る女の名は【マリィ・フォルク】。かつての演習でランディに敗北を喫しながらも、最後まで食らいついた女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束通り2週間でマクギリスが派遣した部隊は火星圏に到達した。

 だがそのまますぐに海賊討伐とはいかない。

 

「今回この作戦の指揮を執らせて貰う、石動・カミーチェ三佐だ。よろしく頼む」

「こちらこそ。……ようこそ火星圏へ。大した歓迎も出来ないが、そこは勘弁してくれ」

 

 火星軌道上宇宙港箱船。イサリビを筆頭に鉄華団の船が収納された一角に、部隊の指揮を執る石動本人がわざわざ顔を出しに来た。すぐには出陣できないと伝えに来たのだ。

 

「用意を急がせておいて申し訳ないが、出立は暫く待って欲しい」

「どういう事だ? 電撃戦を仕掛けるって話だったが」

 

 眉を寄せて問うオルガに、石動は状況を説明した。

 

「まず夜明けの地平線団の動きが予想以上に鈍い。これを見てくれ」

 

 言いながらタブレットの画面を示す。そこに映るのは広域の戦術マップであった。それを見るオルガの目が鋭いものとなる。

 

「火星支部とうちの諜報部、それと捕らえた敵の構成員の証言から割り出した大まかな現在位置だ」

「連中、大分広範囲にバラけてるな」

「恐らくはこちらの動きが早すぎて、集結が間に合っていないのだろう。このまま打って出れば各個撃破は出来るかもしれないが、サンドバルを取り逃がす可能性も高い。ある程度奴らの集結を待った方が良いだろう」

「確かに。しかしこの様子だと結局は通常の航海と大して変わらない時間まで待たなきゃならねえか」

「その分『色々と用意が出来る』。当然『君たちも』な」

「……なるほど」

 

 得たりとばかりに頷くオルガ。早すぎると言うことが逆に徒になるとは思わなかったが、その分準備や情報収集に余裕が出来る。悪いことばかりではないと考え直した。

 

「そしてこれはこちらの都合だが……『送り狼』が遅まきながらもついてきているようでね。恐らくはこちらが動けばかち合うはずだ」

「それは……」

 

 大体の状況をマクギリスから聞いているオルガは何となく察した。恐らくはアリアンロッドあたりが横槍を入れようとしているのだろうと。

 

「下らない足の引っ張り合いさ。だがこれは利用できる。数の差は依然あるからな、『先にぶつかって貰う』というのも悪くない」

「なかなかえげつない事を考えるじゃないか」

 

 考えていることを見透かしたか、オルガがにやりと笑う。それに石動はすまして応える。

 

「ランディール一尉にしごかれれば、これくらいは思いつくさ」

「……あんたも『犠牲者』ってわけか」

 

 ちょっとだけ渋い表情になるオルガ。そうしてから彼は石動に右手を差し出す。

 

「あんたとは仲良くやれそうだよ、石動さん」

「そうだな。……改めて、よろしく頼む」

 

 決して友情ではない、同病相憐れむ的ななにかで彼らの協力関係は成った。

 まあそれはともかくとして、彼らは改めて打ち合わせや準備を行う。

 出立したのは石動たちが到着してから4日後。ほぼ通常航海で合流するのと変わらぬ時間が過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明けの地平線団の正確な位置が戦術ディスプレイに映し出される。それを見た一同の感想は見事に一致していた。

 

『罠だな』

 

 オルガ、ユージン、石動はおろか普段は戦術に口を出さない昭弘や三日月までもが口を揃えてこれだ。あからさま過ぎるのもほどがある。

 

「旗艦を含めた3隻だけが合流してアステロイドベルト近海で速度を落とす。そんで他の船の姿は影も形もない。これが罠でなくてなんだつーの」

 

 ユージンの言葉が全てを表していた。夜明けの地平線団が艦隊の総数は10隻を越える。旗艦と少数のみを残してあちこちに散らばり神出鬼没の海賊行為を繰り返すのは常套手段であったが、集結する時間はあったはずだ。鉄華団がGHと組んで討伐に赴くという情報が流れるには十分な時間が経っている。こんな隙だらけの行動を取るような連中であれば、とうの昔に討伐されていただろう。

 

「だからといって手をこまねいているわけにもいかない……と、普通であれば焦りが出るところだが。……上手いこと『送り狼』が間に合ったようだ」

 

 無表情に見えて、微かな笑みが口の端に浮かぶ石動。その目は戦術ディスプレイに現れた『新たな艦影』に向けられていた。

 

「そう上手いこと仕掛けるか? 連中」

「まず間違いなく仕掛ける。『あの艦隊司令』ならほぼ確実だ。……無能なワンマン、と言えば理解できるか? 明らかにああいう罠には引っかかるタイプさ」

 

 馬鹿にして言っているわけではない。ただ淡々と事実を述べているだけだ。最低でも石動にとってはそうであった。

しかしオルガにとっては微妙に納得できない部分である。彼が相対してきたGHの上位――セブンスターズクラスの者は、食わせ者(マクギリス)であったり気合いの入った強者(カルタ)であったりしたのだから無理もなかった。まさか本物の馬鹿がその同格に位置しているなどと思えるものではない。

 まあ目の当たりにすれば嫌でも理解するだろう。納得させる徒労を諦めて、石動は話を進めた。

 

「ともかくアリアンロッド艦隊が仕掛けると同時にこちらは動く。狙うはサンドバル・ロイターが首一つ。君たちはそれに集中してくれ」

「アリアンロッドがこっちに仕掛けてきた場合は?」

「可能な限り無視だ。どうしようもない場合交戦は許可するが、一応こちらで用意した警告は全域通信で流してくれ。そして交戦記録も最初から最後まで録っておいて欲しい」

「被害を受けたら保証はあるんだろうな?」

「勿論だ。当面はこちらで立て替えるが、やらかしてくれたのであれば奴らの尻の毛まで毟ってやるさ」

 

 最初から全開でやる気満々である。むしろどうやってイオク率いる第2艦隊をやりこめるか。作戦の成否はそこにかかっていると、石動はそこまで考えていた。

 

「ともかく奴らは味方じゃない。せいぜい夜明けの地平線団に対する盾にしてやるしかない障害物だと心得てくれ」

「酷い扱いだが……まあ了解した。向かってきたら死なない程度に蹴散らせばいいんだな?」

「そう言うことだ。面倒だろうがよろしく頼む」

 

 こうして、大体の作戦概要は決定した。後はタイミングを待つばかりである。

 果たしてイオク率いるアリアンロッド第2艦隊は想定通りに動くのか。そして混戦が見込まれる中、オルガたちは目的を果たせるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その問題のたわけ……もといアリアンロッド第2艦隊司令、イオクであるが。

 

「ふん、賊どもの集結を待って一網打尽にするつもりか。よほど新設部隊の戦力に自信があるらしい」

 

 戦術ディスプレイを見ながら、訳知り顔でそう言った。

 画面はオルガや石動たちが見ていたものとほぼ同じ。ただ第2艦隊からの視点で展開しているという違いがある。しかし得られる情報に差はない。そこから彼が下した判断は。

 

「詰めが甘いな。旗艦が特定され、なおかつ向こうの戦力が集結していない今こそが絶好の機会ではないか。……だがこちらとしては都合が良い。奴らに先んじて賊どもに仕掛けるぞ」

 

 あっさりと引っかかってる。彼は第2艦隊の司令官を拝命してまだ日が浅いが、それなりの教育は受けてきたはずだ。だが才覚云々よりも性格的なところに問題がありそうだった。

 まあ本人はともかく部下にはそれなりに優秀なものもいる。恐る恐るながら具申しようとする兵があった。

 

「イオク様、敵の配置はあまりにも不用心なものです。場合によっては罠が仕掛けられている可能性も……」

 

 しかしながらイオクは聞く耳を持たない。

 

「浅はかな賊が巡らす奸計など、取るに足らないものだろう。それに例え罠が張ってあったとしても、我等アリアンロッドが精鋭。真正面から食い破ってくれるわ!」

 

 確かにアリアンロッドは実戦経験も豊富で錬度も高い。現在イオクが引き連れているのは第2艦隊の半数、5隻であるが、普通の海賊であれば十分に過ぎる戦力だ。イオクの言葉はあながち過信とも言い難い。

 その上で、彼に従う部下たちもそれなりに自負があった。側近の多くはイオクと近い世代のもので固められていたが、多くのものは先代から仕える錬度の高い兵だ。その自尊心を刺激されるようなことを言われれば奮起もしよう。

 まあそもそもが、クジャン家の御曹司たるイオクに強く出られる人間が周囲に配されていないというのが一番の問題であった。例えば経験豊富で、イオクを諫められるような人間を副官として配していれば、まだ状況は違ったであろう。だが現状は、恐る恐る具申する程度で彼の方針を曲げるところまでは行かない。今回も部下は戸惑いこそしたものの、結局誰一人反対意見を述べることはなかった。

 確かにイオクが率いる兵は強い。だが……敵を過小評価したことが、この先の苦闘を招くことになると、彼は想像もしていない。

 そして、この戦いから己の運命が大きくねじ曲がってしまうことも、神ならぬイオクには知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「イオク・クジャンの戦い方を見せてやろう。これが……ガチャを回すと言うことだ!」

 

 おい中の人出てんぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 研いでも研いでも終わらねえ。
 仕事用の道具のメンテナンスが俺一人に回ってきたよ誰か手入れ覚えてー。悪戦苦闘中の捻れ骨子です。

 さて冒頭からオリ展開が暴走しております。オリフレームにオリMAのリアクターを載せるというと言う暴挙……しかも名前がアレ……っ! そう、正しく『ラーズグリーズの悪魔』というわけですよ。このネタがやりたかった。
 なおどんな姿になるかはまだ秘密。もう暫く出てこないので少々お待ち下さい。
 そして増えるオリキャラ。彼らは一体どのように物語へと関わってくるのか。流石に既存なおキャラを喰ってしまうことはないと思いますが、はてさて。

 マクギリスや石動も、なんか微妙に原作と違う動きを見せています。彼らの動きにも注目ですが、それより何よりお待たせ致しました。ぺしゃん公いよいよ本格的に動きます。のっけからいきなり不穏な空気が流れていますがどうなるのか!? ダメか!? その結果は次回!

 ということで今回はこの辺で。
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