イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 さて、久しぶりに【激戦の果てに】行ってみようか




26・楽しませてくれるじゃねえか

 

 

 

 

 海賊との戦闘は激しく、鉄華団の少年たちも疲労したり機体に損傷を受けたりする。イサリビの格納庫では、その対処に追われていた。

 損傷したマン・ロディが格納庫に上がり、コクピットからパイロットが這い出してくる。

 

「左肩をやられました! パーツの交換お願いします!」

「おう! 各部のチェックを怠るなよ! おかしな所気になるところがあればすぐに報告しろ!」

 

 雪之丞の声が響き、整備班が一斉に機体へと取り付き作業を開始する。そしてパイロットの少年は……ちょっとマッドな医者に取り付かれていた。

 

「いいや、俺は大丈夫っすから!」

「おんしが大丈夫かどうかはええんじゃ。戦闘における負荷とか疲労とかそのあたりのデータを取らせんかい!」

 

 キシワダは半ば押さえつけるようにして各種機器や阿頼耶識端末を貼り付けていく。至極迷惑そうな少年を、バスケット持ったアトラがまあまあと宥める。

 

「簡単な検査だと思って、ね? 取り敢えずご飯持ってきたからこれ食べておいて」

 

 そう言って携帯食のパックとドリンクを押しつける。そんな光景が繰り広げられる最中、借り出された新人たちも作業に追われていた。

 

「63番コンテナ出してくれ! そっとだぞ!」

「う、うっす!」

 

 船内作業用にコクピットが露出したMWを指示に従って操るハッシュは、そうしながらも頭の片隅で愚痴をこぼしていた。

 

(くそ、あの人の戦いぶりが見たいってのに!)

 

 戦闘班に配属となったハッシュだが、まだ実戦に耐えうる技量ではないために、今回は整備班の手伝いに回されていた。勿論彼としては大いに不満である。

 功を焦っている、と言う面も確かにあった。しかしそれ以上に、三日月の戦いぶりをもう一度この目で見届けたいという思いが強い。先の鉄華団本部に対する襲撃のおり、三日月の戦いを目の当たりにした彼は大いに衝撃を受けた。心に焼き付いたと言っても良い。自分が阿頼耶識を付けたとしてもあのように戦えるのか。あの領域までたどり着けるのか。とてもではないがそんな自信は持てなかった。

 あの人の、三日月・オーガスの強さ。その源を知りたい。少しでもあの人に近づきたい。ハッシュはそのような思いに囚われていた。だから実戦に出たいと申し出たのだが、結果はご覧の通り。まあ自分でも無理だろうとは思ってはいた。が、やはり口惜しさのような、焦りのような気持ちが募る。

 そんなことばかり考えていたせいだろうか、MWの操作を僅かに誤り、運んでいたコンテナががこんと音を立てて揺れた。

 

「馬鹿野郎! そっとって言ったじゃねえか!」

「す、すんません!」

 

 戦いを支えるものたち。彼らもまた戦場さながらの修羅場にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蹴り飛ばされたジュリエッタは、衝撃を堪えながら驚愕の言葉を吐く。

 

「この私が、虚をつかれた!?」

 

 決して油断などしていなかった。だがただの一撃を避けることが出来なかった。

 まるで意識の間隙を突かれたかのように繰り出された攻撃。これが命を刈り取るものであれば、今こんな事を考えることすら出来なかっただろう。手加減、と言うよりはただ『邪魔を払いのけただけ』。相手にすらされていないという事実は、ジュリエッタのプライドをいたく傷つけていた。

 己を鍛えてくれた『師とも呼べる人物』、その人物からお墨付きを貰い、実際配属されたアリアンロッドでは頭一つ抜け出た技量を誇っていた。これまで従事した任務は滞りなくこなし、相応の自信を持つに至っている。だが、それがまるで通じない。一瞬の邂逅にしてそれを見抜けるだけの目があったことは、果たして彼女にとって幸運であったのだろうか。

 

「これが、名付きか!」

 

 隔絶した怪物たち。それが分かっていてなお、彼女は何とか追いすがり介入せんと化け物たちの舞踏を油断なく見据える。

 

「ランディやアミダほどじゃないけど、こいつも強い! 全力だな」

 

 1、2合打ち合っただけで相手の力量を見て取った三日月は、シースメイスから太刀を抜刀。全力を持ってサンドバルと相対する。

 

「まだ速度が上がるか! 餓鬼の勢いだけじゃない。リボン付きめ、とんでもないのを仕込みやがったな」

 

 戦慄を覚えながらも、どこか楽しそうにも見える様相でサンドバルは受けて立つ。

 疾風と言うよりも、嵐のような勢いで打ち込むバルバトス。それを受けるユーゴーは防戦一方に見える。しかし。

 

「!? 打ち込みが、受け流される? 太刀筋が見切られてる……だけじゃない」

 

 柳に風。正しくそのような手応えに三日月は眉を顰める。確かに全ての打撃は受け流されていた。しかしただ攻撃が読まれ、的確な対処を行っているだけではない『なにか』が三日月の太刀を弾く。

 

「ふん、流石に『これ』と打ち合うのは始めてか?」

 

 ユーゴーが持つ円月刀。ほぼ半円の刃を持つそれは、実の所攻撃より防御に適した武器だ。通常の刃物より極端に曲線で構成された刀身は、斬撃に対し被弾経始を考慮した装甲のような効果を発揮する。苦労して刀身の角度を考慮しなくとも、受け流しやすい構造であるのだ。

 サンドバルの強さ、その理由の一つがこれである。ナノラミネート装甲の発展により、この時代では銃器の効果は薄い。相手に有効な打撃を与えようとすれば、接近戦となるのは必至であった。となればその接近戦にて優位を取るにはどうすればいいか、サンドバルなりの創意工夫の果てがこの得物である。

 勿論、ただ得物に頼るだけならば名を轟かせることなどできはしない。

 

「こいつはな、こんな風にも使える!」

 

 間隙を突いて、ユーゴーが始めて反撃の一打を繰り出す。それはバルバトスの太刀にて容易く受け止められた――

 はずだった。

 

「っ! こいつ!」

 

 受け止めたはずの刃の切っ先が、バルバトスの肩装甲を削り、火花を散らす。

 刀身をひっくり返し、湾曲した背中の方で斬りつけたのだ。古代ギリシャの刀剣ハルパーがごとく、鎌のような刀身の中程を受け止めても切っ先は相手に届く寸法だ。これもまた、サンドバルが工夫の一つである。

 このような得物を自在に使いこなす、粗暴に見えて技巧派。その上でサンドバルはこの戦いを楽に勝てると思うほど、楽天家ではない。

 

(こいつを倒せれば御の字だが……そう簡単にはいきそうにないか。だが、連中の主力は上手いこと戦場に釘づけた。そろそろ『仕掛け時』か)

 

 斬り結びながらにい、とほくそ笑む。戦いはまだ彼の予想範囲内にあった。百戦錬磨の海賊は己の武威に酔わず、ただ勝つための算段を巡らせる。

 

(何よりも『リボン付きが動いていない』この好機、逃せないからな)

 

 彼が何よりも恐れたのはランディの介入である。ゆえにわざわざ人員を割いて彼の動向を監視していた。流石にテイワズのお膝元である歳星で身辺を詳しく張るというわけにはいかなかったが、彼が指揮を執っていた船は動いておらず、また小型艇やMSを用いた形跡もない。どういう理由からか彼は歳星から動くつもりが無いと見た。だからこそ戦力を整えこの戦いに全力を投じたのだ。

 勝てる。いや勝つ。その気迫を持って、彼は次なる札を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 艦隊後方に新たなエイハブウェーブ! 数は3!」

「何!? ど、どこから現れた!?」

 

 第2艦隊の士官に動揺が走る。突如現れた艦影は、背後から容赦なく艦隊に砲撃を加え、MSを吐き出して襲いかかる。

 

「馬鹿な、まだ戦力を温存していただと!? 一体どこに!?」

 

 驚愕の声を上げるイオク。無論タネも仕掛けもある。

 この戦いに備え、新たに落ち目の海賊たちに声をかけ配下として加えていたのだ。そして前もってアステロイドベルトの周辺にて、船の動力を落とし、小惑星を模したバルーンで船体を包んで偽装を施し待機させていた。MSを前面に出し艦隊が手薄になったところで奇襲をかける。その策は成った。 

 その中の1隻、その艦長席ででっぷりと太った男が嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「まったく、こんな機会に恵まれるとは世の中捨てたモンじゃねえな。たっぷりとお返しさせて貰おうかガキども」

 

 かつてブルワーズと名乗っていた海賊の頭領、ブルック・カバヤンである。鉄華団とタービンズに敗北してこっち、すっかりと落ちぶれていた彼であったが、サンドバルの勧誘を受け夜明けの地平団の傘下に収まっていた。絶好の復讐の機会を得た彼は、暗き恩讐の炎を燃やしている。

 完全なる奇襲。これで戦いの流れは大きく夜明けの地平線団に傾くかと思われた。

 しかし。

 

「データ通り3隻、出てきたぜ石動さん!」

 

 ヒューマンデブリの機体から吸い出していた情報から伏兵の存在を察知していたオルガは、慌てず騒がず石動へ回線を繋ぐ。前線にて戦いながら指揮を執っていた石動は、ワイヤーアンカーで敵機を弾き飛ばしながら応えた。

 

「第2艦隊の背後を突いたか。こちらの軌道を離しておいて正解だったな」

 

 敵ながら見事。これだけの戦力を集め、使う手腕。それだけであれば海賊にしておくのは惜しいとすら思う。

 だがその手腕を犯罪行為にしか使わず、各方面に根回しも行っていないのであれば底が知れている。ここで倒れなくともいつかは躓いていただろう。それに関しては別に残念とも思わないが。

 それはさておき未だ自分たちと鉄華団に大きな被害は出ていないとは言え、状況は芳しくない。手薄になった艦隊に奇襲を受けたことで、第2艦隊は戦力を引き戻さざるを得ない。そうなればこちらで交戦している戦力は減り、ただでさえ押されている戦況が寄り苦しいものとなるのは目に見えていた。なるほど上手い手だ。どこを突けば崩れるのかよく分かっている。

 

「横合いからぶん殴る。実に効果的な手段だ」

「俺達もデータを吸い出していなかったらヤバかったかもな」

 

 だが、と二人の男は同時ににやりと牙を剥く。

 

『ならば殴り返させてもらおうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗がりの中、モニターアイが灯る。

 

「全機スリープ解除。……さあて、おっ始めようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルックが率いる海賊艦のブリッジで、オペレーターがそれに気付いた。

 

「直上にエイハブウェーブ! 数は4! MSです!」

「奴らも伏兵か増援か? だがたった4機とはな」

 

 かつて敗北したときとは違う、GHが精鋭アリアンロッドとすら互角の戦いを繰り広げる夜明けの地平線団の傘下に加わったブルックは、以前とは違う過信を抱いていた。かの頭目、サンドバルに従っている限り敗北はないと。

 彼の不幸は、『相手が悪すぎた』事だろう。

 交戦している艦隊から見て上方、目視できるぎりぎりの位置。よく目をこらせばそこに黒い影が浮かんでいる。

 一見小型の輸送船のようにも見える。が、それは花開くように船体を展開させた。

 MS輸送大型ブースターユニット【クタン五型】。クタンタイプの最新鋭機であり、一度に1個小隊4機のMSを運搬することが出来る。その開いたカーゴベイから次々とMSが飛び出す。

 

「ガット、クタンはホタルビに合流、ユージンの指揮を仰げ。昌弘、ビトー、エルガー。お前らは新手の艦隊に仕掛けろ。連中のMSは俺がやる」

『了解!』

 

 先陣を切るのは濃紺のシュヴァルベ・グレイズ。それを駆るのは勿論この男だ。

 

「んじゃ、派手にいくぜェ!」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、ランディはスロットルを開ける。

 歳星から動いていないと見られていた彼がなぜここにいるのか。まあタネは単純なことで、歳星でこっそりタービンズの輸送船に便乗させて貰い、適当なところでスリープモードのMSを積んだクタンで離脱。航路から少し離れた位置で鉄華団を追跡していたのだ。(当然ながら監視には気付いていた) 何もなければ彼は待機したままであっただろうが、いざというときは来てしまった。あまり頼るのはよろしくないけど、いざというときの保険はかけておこうと考えたオルガの読みは、大当たりだったわけだ。

 ランディの機体に次ぐのはそれぞればらばらな機種。

 

「兄貴たちの前で、格好悪いとこ見せられないよな!」

 

 昌弘・アルトランド駆る【グレイズ改・参式】。かつてグレイズ改二式、いや二代目流星号と呼ばれた機体をさらに改修したものだ。

 

「は、豚野郎(ブルック)の船かよ! こんなところでお礼参りたあな!」

 

 高機動仕様に改装された【ランドマン・ロディ強襲型】を駆るのはビトー・アルトランド。

 

「なんで俺ん時にこんな派手な仕事になるかなー、って」

 

 双子の兄弟であるエンビと交代で【獅電汎用試験タイプ】を任されていたエルガーが、思わず愚痴をこぼす。

 ランディの教練ついでに各種テストや実機訓練、仮想敵機として用いる……という名目で魔改造された3機が、その全力(※なおパイロットはベリーハードまで経験済み)を持って増援の艦隊に襲いかかる。ただの4機。しかしそれは戦況の天秤を五分以上にしてしまう一手。

 

「な、リボン付きの悪魔だとォ!? 馬鹿なっ!?」

 

 その意味が分からぬサンドバルではない。というか目端の利く人間がそれを理解出来ぬはずもないだろう。

 が、『その意味が分からぬどころではない』人間が存在した。

 

「ランディール・マーカスだと!? おのれ、この私の前で臆面もなく!」

 

 イカレポンチの出現を耳にしたイオクは、なぜか激昂した。激昂してこう宣った。

 

「『GHの理念に殉じ散った勇士の名を騙る不届きもの』が! この私が引導を渡してくれる!」

 

 その言葉は全域通信を通じて戦場全体に響き渡る。

 それを聞いたオルガが、石動が、三日月が、昭弘が……ってかランディを知るイオク以外の全員が、声にならない叫びを上げた。

 

(((((こいつ馬鹿だああああああ!!??)))))

 

 イオクの弁護をするつもりはないが、彼がこんな壮絶なる勘違いをしているのは訳がある。彼はランディが逐電した後に士官学校に入っており、その実情を知らない。かてて加えて朴訥というか人の言うことを表面上だけしか聞かないイオクは、公式的な情報――『ランディ含む部隊が任務の果てに行方不明となった』、『現在のランディは本人の名を騙るだけの傭兵』という話を真に受けており、一方的な正義感しか持たないこともあって『実情のランディに敵愾心を抱いている』。本人大真面目だが、端から見れば馬鹿以外の何者でもなかった。

 そして彼の配下にとっては災厄以外の何者でもなかった。

 

「っっっっっ~~~~~!!!」

 

 側近の全員がムンクの叫びがごとき表情となったのは至極当然のことだろう。

 で、さらに最悪なことに、イオクの言葉は腐れど外道の耳にも届いちゃったりしてしまったわけで。

 

「くっ……」

 

 呼気を吐いて顔を伏せるランディ。そして次の瞬間には。

 

「くははははははは! げーっははははははは!」

 

 大爆笑である。その目は新しいオモチャを見つけた子供のように歓喜に輝いていた。どす黒いけど。

 で、そんなランディの反応に笑われたと思ったのか、イオクがいきり立つ。

 

「何がおかしい……何がおかしい!」

「お前の存在そのもの」

 

 一瞬で真顔になってガチの答えを返すランディ。その間にも海賊のMSを蹴散らしていくのは流石だった。

 それはそれとして、予想外でストレートすぎる返しに「な……」とか言葉に詰まるイオク。そんな彼にランディの口撃が容赦なく放たれる。

 

「上級士官が表面上の情報丸飲みにするとか笑うしかねえだろ。それを高らかに宣伝するとか、自分は馬鹿でございと宣伝してるようなモンじゃねえか。なにそれ新手の自慢?」

「な、きっ、きっさまあああああああ!!」

 

 顔を真っ赤にして吠えるイオク。彼の人生の中ここまで面と向かって馬鹿にされたことはない。影ではどうだか知らないけど。

 

「ゆるさん! この私の名誉にかけて貴様に決闘をもうしこ……」

『お止め下さいいいいいいい!!』

 

 速攻で側近の機体が寄って集ってイオクのレギンレイズを羽交い締めにして押さえ込む。当然だろう。絶対に関わっちゃいけないアンタッチャブルなキチ(ピー)と、このアレでナニな主が絡んだらどのような惨劇が起こるか、日の目を見るより明らかである。それが本人だけ酷い目に遭うのですむのならまだしも、絶対第2艦隊、いやアリアンロッド全体に何らかの影響が及ぶ。そんなことはなんとしてでも食い止めなければならない。彼らは全力で必死だった。

 

「あれに関わってはなりません! あれは、あれは人智を越えたおぞましいなにかです!」

「奴の言うことに耳を傾けてはなりません! あれの言葉は悪魔の諫言でしかありません!」

「決してイオク様が関わってはいけないアレでナニで最低最悪の生き物です! どうか、どうかここはご辛抱を!」

 

 えらい言われようであった。事実だが。

 もみくちゃになってるイオク機。その様子を見てランディはプゲラと笑う。

 

「プププ殿中でござる~ってヤツみてえプププ」

「ぬがあああああああ! どこまでも愚弄するかああああああ!!」

『だからやめてとめてアレの言葉聞かないで下さいいいいいい!!』

 

 ああもうだめだおしまいだあの男完全にオモチャ扱いだ。オルガや石動、その他大勢は哀れみの視線を向けざるを得ない。

 得ないけど。

 

「……まあ、矛先があっち向いてるうちは俺らに被害はないか」

「……そうだな。貴い犠牲と言うことで」

 

 即座に見捨て意識を切り替えた。こいつらも結構酷いが、助けてやる理由などないしそんな余裕などない。戦況は予断を許さないのだから。

 そういったごちゃごちゃをやってる間にも、やるべき事をやってる人間はいる。

 

「わりい昌弘、豚野郎は俺が貰う」

「ああ、俺達の分まで存分に喰らわせてやれ!」

 

 一直線にブルックの船へと向かうビトーのマン・ロディを見送って、昌弘は機体を別の船に向ける。

 腰部からフレームを介して保持される300㎜滑空砲を両手に構え、敵艦の砲撃を避けつつ砲弾を叩き込んでいく。

 

「試作の徹甲焼夷弾だ。遠慮なく喰らいな!」

 

 テイワズ工廠謹製の新型弾頭。試験運用を兼ねて遠慮なしに大盤振る舞いされるそれは、艦に致命傷を与えるほどではないが、少しずつ確実に装甲を削っていく。

 一方昌弘と別れたビトーはブルックの艦に執拗な攻撃を行っている。

 

「く、くそうあのガキ! ブリッジ周辺をしつこく狙ってきやがる!」

 

 衝撃により発生する振動で揺さぶられる艦長席に必死でしがみつきながら、ブルックが悲鳴のような声を上げた。

 収納され装甲版に覆われたブリッジはそう簡単に破壊できないが、それでも近接の着弾はクルーにプレッシャーと恐怖を与える。対空砲火を巧みに回避し、ビトーはブリッジ周辺を集中的に叩いていた。

 

「お前らにゃあ世話になったからな! たっぷりと礼を返させてもらうぜ!」

 

 貫通力よりも着弾で与える衝撃を重視したグレネードランチャーをこれでもかとばかりに打ち込む。さらに。

 

「おら懐かしいだろ!」

 

 機体の両肩に備えられた砲が火を噴き、グレネード弾とは比べものにならない爆発と衝撃がブルックの船を揺るがす。

 

「ば、バスターアンカーだとお!」

 

 かつてブルワーズ所属であったグシオンに備えられていた砲。改めて強襲型として改装されたマン・ロディに備えられたそれは、戦艦に対しても有効な打撃を与える。致命傷にはならなくとも、ブルックたちの肝を冷やすには十分なものであった。

 そして獅電を駆るエルガーであるが。

 

「あいつらみたいに派手な真似はできねえなあ」

 

 ぶつぶつ言いながらも、艦の砲撃をひらひらと避けている。彼の機体が持つのはMS用のバズーカーとショットガン。対艦装備としては心許ないように思えるが、MS部隊がランディに押さえられている状態であれば、十分に対応可能だと踏んだのだ。

 

「下手な鉄砲も使いようってね」

 

 艦の砲塔が己の方に向けられるのが分かる。タイミングを合わせて、バズーカーの引き金を引いた。

 装填されているのは拡散弾頭、つまりはでっかい散弾である。それは砲塔が吠える寸前で、その周辺に火花を散らす。

 例えば発射される寸前、砲口の中に小さな破片の一つも飛び込んだとしよう。それは砲弾を阻害し、大概の場合腔発と呼ばれる砲身の破裂という事故を招く。技術が進んだこの時代の火器とてそれは免れない。そして大口径の砲に対し散弾であれば、それを生じさせるのは難しいことではなかった。

 爆発。それは砲身を破裂されることこそなかったが、黒煙を吹き最低でもしばらくの間は使用不能な損傷を与えた。地獄一歩手前の教練で、双子の兄弟が見出した対艦戦術。『艦に直接的なダメージを与えられない状態でもその戦力を削ぐ』。射撃がそれほど上手くなくとも、タイミングさえ合わせられれば砲塔を黙らせるその技術を惜しみなく披露したエルガーは、にひひと笑う。

 

「ブートキャンプに比べりゃヌルヌルだぜ。油断は出来ないけど、なっ!」

 

 対空機関砲の弾丸をかわしつつ、エルガーは再びバズーカーの引き金を引いた。

 ランディによってMS部隊が引きつけられているからこその優位であったが、それを十全に活かせる技量を彼らは持っている。

 勝負を決めるはずだった増援の艦隊は出オチ……もといその動きをほぼ完全に封じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 増援が完全に押さえ込まれている。その事態にサンドバルは己の失策と見通しの甘さを感じ取っていた。

 

「リボン付きの悪魔に頼っているのではない……『あの男すら使いこなす』か鉄華団!」

 

 最初からランディの武威を持って圧するのではなく、あくまで彼を札の一つとして扱い伏せる。恐らくはこちらが警戒し逃亡するのを防ぐためであろう。が、そうであってもなかなか出来ることではない。

 ランディの所在を誤魔化し、こちらの策を上回った。確かにGHとの協力関係があってこそのことだ。だがそれを十全に活かし、アリアンロッドすら利用してみせる。認めざるを得ないだろう。鉄華団――オルガ・イツカという男は、若輩ながらも自分と互角以上の策士、『怪物』であると。

 このままでは泥沼の上、こちらが敗北する目は十二分にあった。であればこそ、戦力がまだ残っているうちに撤退するべきだろう。

 

「……そう簡単には引かせてくれそうにないがな!」

 

 思考している間にも、剣戟は続いている。今のところは互角だが、それゆえに離脱する隙がうかがえない。自分にこの相手を当てたのも、対処できると確信してのことだろう。部下たちもこちらに助力する余裕はない。共に出陣したはずの側近たちは、それぞれ別の戦力に引きつけられている。目の前の敵だけでもなんとかしなければ、詰みだ。

 ならばやむを得ない。

 

「俺に『こいつ』を使わせるとはな。地獄の番犬……褒めてやるぞ、よくぞ俺をここまで追い込んだ!」

 

 コンソールの横に備えられたボックスから取りだしたもの。それは金属製の筒――無針注射器。それをサンドバルは躊躇なく剥き出した首筋に押し当てた。

 

「くっ……」

 

 苦悶のような声。それと同時にユーゴーの動きが鈍る。

 

「なんだ?」

 

 訝しげに眉を顰める三日月は攻撃を躊躇する。絶好の機会だった。だが何かが引っかかる。己の勘に従い剣を引いたその状況を、千載一遇の機会と捉えたものがいる。

 

「好機! もらった!」

 

 周囲の海賊たちを蹴散らしながら三日月たちの様子を伺っていたジュリエッタだ。動きの止まったユーゴーの背後から、最速で襲いかかる。

 ユーゴーのモニターアイが不気味に光った。

 ゆらり。そうとしか表現できない緩やかな動きで振り返るように見えたユーゴー。しかしその動きで、フルパワーで放たれたレギンレイズの一撃を弾いた。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の声を上げる間にも鋭い蹴りがレギンレイズの腹に叩き込まれ、ジュリエッタは吹き飛ばされる。明らかに先程までと『なにか』が違う。一連の動きで三日月はそれを見て取った。

 

「頭目があれを使ったか!」

「可能な者は後退しろ、潮時だ!」

 

 サンドバルの変化に気付いた側近の双子が、戦いながらも部下に指示を飛ばす。流れが変化していく中、サンドバルはゆっくりと面を上げた。

 

「くくく……見える。見えるぞ」

 

 その両目は充血し、真っ赤に染まっている。鬼気迫る表情の彼は、今度は自らバルバトスに向かって斬り込んでいく。

 その速度は決して速いものではない。だというのに。

 

「こいつ、『動きが読めなくなった』!?」

 

 打ち込みが予想よりも『ずれる』。その上で、先程までより見切りが格段に正確な物となった。結果、三日月はユーゴーの円月刀を完全に捌ききれない。くるくると表裏を変えて打ち込まれる刃は致命傷こそ与えないものの、バルバトスの装甲を僅かながらも削っていく。

 

「はははは! 貴様の動きが手に取るように分かるわ!」

 

 狂ったように哄笑するサンドバル。彼が使用したのは通称【レッドアイ】と呼ばれる古い麻薬だ。基本的に精神高揚(アッパー)系の薬物だが、その最大の特徴は使用者の動体視力と反応速度を格段に向上させるところにある。ただでさえ技量に長けるものが使えば、その効果は推して知るべし。今この時サンドバルは、阿頼耶識込みの三日月が技量を凌駕していた。

 しかしながら、三日月もただ者ではない。

 

「そうか、『機体そのものと四肢の動きが合ってない』んだ」

 

 受ける一方でありながら、サンドバルの攻撃を凌ぎきれない理由を理解する。機体本体の動きと四肢の動き。それぞれの速度とタイミングが微妙にずれているのだ。阿頼耶識システムを用いていないからこその技術。見切りに長けていればいるほど感覚が狂うそれは、サンドバルほどの技量を持つものでも薬の力に頼らねばこなすことの出来ない妙技であった。

 

「分かったからといって、見切れるものでもないか」

 

 装甲が火花を散らし悲鳴を上げる。このままではじり貧だが、さしものの三日月もすぐさまに見切れる技ではない。こちらの動きもほぼ読まれているし、阿頼耶識を使っているが故に向こうの動きを真似することも出来ない。無かったからといって出来るものでもないのだが。

 考えろ、刃を振るいながら考えろ。力押しなんかが通用する相手じゃない。必要なのは相手を出し抜く一手。『相手の予想を上回り、見切ることの出来ない一手』。

 

「っ! これなら」

 

 三日月の眦が鋭く光る。

 が、とユーゴーの蹴りを膝で受け、その反動を利用し距離を取るバルバトス。そして太刀を大上段に振り上げた。

 

「馬鹿め! 破れかぶれになって大振りか!」

 

 勝機と見て取ったサンドバルは大胆に、しかして油断なく機体を真正面から突っこませる。僅かにタイミングを変え振るわれる左右の円月刀。あの大振りでは太刀で防ぐことは出来ない。とどめを刺すとまでは行かなくとも、深手は負わせられる――

 はずだった。

 がぎゅり、と金切り音を立てて、『打ち込んだ円月刀が、バルバトスの両腕に食い込んだ』。両腕を犠牲にして円月刀を止めた……『のではない』。

 

「『太刀はどこにいった』……ぐうわっ!?」

 

 その疑問が晴らされぬうちに衝撃が奔る。胴体に大きな損傷。それを生じさせたのは、バルバトスの『左脇から突き込まれた太刀の切っ先』。大上段に振り上げたように見せかけて、『背中に回した太刀を左のサブアームに持ち替えて脇から突き込んだ』のだ。

 空いた手腕を円月刀に『叩き付ける』動き。完全に視覚範囲外の背面のサブアームの動き。それはサンドバルの慮外、『阿頼耶識を使いこなせる者でしか為し得ないもの』。それを認識するより先に、バルバトスのスラスターが全開で吠えた。同時に円月刀が食い込んだままの両腕で、バルバトスがユーゴーの肩を掴み押さえ込む。

 

「しまっ……」

 

 丸ごと背中から旗艦に叩き込まれるユーゴー。肺から空気が全て吐き出されるような衝撃から冷める間もなく、モニターに映るバルバトスがサブアームから持ち替えた太刀を逆手に構え、容赦なく突き込んだ。

 どがむ、と叩き込まれる切っ先は、ユーゴーの喉元を貫きその機能を停止させる。

 イジェクトが働いて頭部コクピットからシートごと排出されるサンドバル。完全に敗北を喫し、薬が切れかけ感じられるようになった全身の痛みを堪えながらも、彼は眼前の白き鬼神に対し怨嗟の声を上げずにいられなかった。

 

「おのれ鉄華団! おのれ地獄の番犬っ!」

 

 対する三日月は、大きく溜息を吐いてこう零した。

 

「……あぶな。生け捕りっての忘れるとこだっった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、サンドバルを筆頭に夜明けの地平線団の主要な幹部は捕らえられ、多くの構成員が降伏し戦いは終結した。

 少数の者は逃れたが、旗印でありまた艦隊規模を維持する手腕を持っていたサンドバルが捕らえられたことによって、組織の継続は困難なものとなる。すなわち夜明けの地平線団は事実上壊滅したと言っても良い。

 しかし……この戦いですら、後に鉄華団の前に立ちはだかる困難の前菜にしか過ぎなかったのだと、この時の私は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

『団長! 団長! 団長! 団長!』

「え、あの、喜んで良いところかここ?」

 

 某所で2位獲得おめでとうオルガ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またまたおまけ

 

 EB-06/tc3 グレイズ改・参式

 

 グレイズ改弐・流星号をさらに改装した機体。

 イオフレーム開発のためのデータ取りから装備のテスト、さらに仮想敵機までこなすようにいぢりまくられている。基本的な性能は変わらないが、耐久性と航続距離は向上しており、また間に合わせであった阿頼耶識システムが本格的に調整され操作性、反応も良好となった。

 教練を受けるメンバーが持ち回りで運用しているが、現在は主に昌弘が使用している。

 なおシノが乗らなくなったため流星号とは呼ばれず、参式が通称。カラーリングも地味なグレー。

 

 

 

 

 

 

 UGY-R41 ランドマン・ロディ強襲型

 

 ランドマン・ロディの機能向上を目指して試験的に改修された機体。

 フレームには手を加えていないので基本性能は同じだが、腰回りにスラスターを、背中にプロペラントタンクを増設し、機動性と航続距離が向上している。また肩装甲にオプションラッチを備え、様々な装備を追加し火力や機動力を向上させることも可能。

 現在は主にビトーが使用している。

 

 

 

 

 

 STH-16T 獅電汎用試験タイプ。

 

 獅電のチューニングや拡張性を追求するために改装された機体。様々な装備、パーツを次から次へと組み込まれるためそのたびに性能が変わるが、基本シュヴァルベ・グレイズ並。その分操作性も悪くなってはいるものの、どっかのあほうみたいな狂ったセッティングを施させているわけではないため、教練受けた人間は大概動かせる。

 様々な試験を行う関係上ランディを筆頭に多くの人間が乗るが、主に担当しているのはエンビ、エルガーの兄弟。

 試験機のはずなのになんかあっちゃあ実戦に放り込まれる割と不憫な機体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最近知ったんですが、グレイズってラーズグリーズから名前来てるんですって。
 ……見なかったことにして適当に言い訳考えよう捻れ骨子です。

 さてガンダムビルドダイバーズも始まったところで皆様いかがお過ごしでしょうか。私は適当に元気ですので今回更新は割と早めです。そういうことで海賊戦決着の巻いかがでござったろうか。(なぜ武士風)
 強く当たってからの伏兵の出し合い。出し抜いたと思ったらやり返されたサンドバル涙目。(ついでに結構高性能だったのにやられる)イオクやっぱりオモチャ。扱いの悪いジュリエッタ。の3本でお送り致しました。しかし……かなり強めに設定してたんですがねうちのサンドバル。まあかませだからしかたがないね。
 なおおっさんが使った薬は元ネタあり。果たして何人が覚えていますやら。

 というわけで今回はこんな感じで。次回は後かたづけと地球編導入になるはずです。さあ、髭おじは何話保つのでしょうか。
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