最初に言っておく! 今回の理屈は全部出鱈目理論だ!
リボンの4:そう言う顛末でしたがどうですかこれ
ひよこの4:あかん笑うw
わんわん4:相変わらずかいあの人
ひよこの4:むしろ変わっとったら驚くわ。何企んでるのかって疑うわ
リボンの4:ですよね~
わんわん4:つーか常になにか企んでるだろあの人
ひよこの4:いや企んどるんとちゃうねん。ナチュラルに性格悪いだけで
リボンの4:おまいう
わんわん4:おまいう
ひよこの4:わし扱い酷くない!?
※しれぇさんが入室しました
しれぇ:やっほぉ、しれぇだよぉ
ひよこの4:キモい
わんわん4:ウザい
リボンの4:他の二人ほど外道ではないので控えめに言いますが、歳考えて下さい
しれぇ:貴様ら仮にも元上官に向かって容赦ねえな
ひよこの4:何をいまさら
わんわん4:だが俺は謝らない(キリッ)
リボンの4:日頃の行いのせいでしょう。まあそれはそれとして、ちょっと面白い話があるんですが聞きますかってか聞けそして聞いたら逃がしません
ひよこの4:やっぱこいつがウチらの中じゃ一番タチ悪いわ
わんわん4:同感
しれぇ:同上
リボンの4:褒めてもなにも出ませんよ?
ひよこの4:ほめてねえ
わんわん4:ほめてねえ
しれぇ:ほめてねえから話せ、はよ
とあるチャットの会話。
現在大忙しの鉄華団。採掘場の受け渡しの手続き、そしてその後に控える試掘と、さらには状況が落ち着けば獅電の輸送という仕事が控えている。どれもこれも手は抜けないし、時間はいくらあっても足りない。
使えるものは猫の手でも使う。例えこの男でもだ。
「正直あなたをこういう感じで使うのは不本意なんですけれど」
脇目もふらず事務処理を行いながら、メリビットが零す。同じように対面でキーボードを叩いているのは。
「ちゃっちゃと済ませなきゃいかんことが多いからな。大将からすりゃあ藁にも縋る思いだろうさ。……おっと、イーサン、こっちの提出書類確認してくれ」
「はい、分かりました」
机仕事が似合わなすぎる男、ランディ。意外というかそこそこ事務処理をこなしており、任せられそうなものは団員たちに振るような気の使い方すら見せる。戦闘に比べ一騎当千というわけにはいかないが、十分な戦力となっていた。
「そりゃ士官ともなりゃ尻で椅子拭う仕事も増える。この程度はこなせなきゃ話にならん」
「正直納得はいきませんが助かります。……それにしても『思い切ったこと』を考えましたね」
「前々から考えていたことさ。丁度『弟子』も出来たようだし、ものは試しってやつよ」
さて、ランディが何を考えて実行に移したのかと言えば。
「んと、それじゃあ暫くランディの代わりに俺と昭弘が戦闘班の教練を受け持つことになった」
『はいっ!』
直立不動で気合いの入った返事を返す団員たちを前に、三日月は困ったような顔で頭を掻いた。
そう、ランディは自分が事務仕事を請け負い従事している間、教練を三日月たちに任せたのだ。勿論手が回らないという理由もある。それ以上に『そろそろ次の段階に進ませよう』と考えたのだ。
他人に教える、という行為は自分が学ぶという以上に神経を使う。そして自身を鑑みる機会でもある。三日月たちにはまだ伸びしろがあるが、己の意欲だけでは至れない領域にたどり着かせるためには必要だとランディは考えたのだ。
さらには『自分だっていつまでも教えていられるか』という問題もある。いつ死ぬか分からない仕事であるし、それでなくても倒れることだってあるのだ。これからのことを考えれば教育できる人間がいるに越したことはない。という思いもあった。
で、ランディが三日月たちに言い渡したことは。
「とりあえず俺が教えたことをそのまま教えて、後は『自分が最初出来なかったことを思い出しながら』やってみな」
それだけであった。三日月と昭弘はそれでいいのかよとか思いながら取り敢えず順番に団員たちをシミュレーターにぶち込む所から始めてみた。
「ほひょおおおおおお!?」
三日月に弟子入りを志願して「……まあいいけど」と適当なノリで受け入れられたハッシュの悲鳴が響く。その様子を外部モニターで見ながら、三日月と昭弘は言葉を交わしている。
「ああ、セッティングがわかんない状態でスロットル全開にしたのか」
「そういやMWに最初乗ってたときも、たまにああいうヤツがいたな」
今でこそあんな間抜けなと思うが、自分たちだって最初から上手くできたわけではない。なるほど、そのあたりから思い出せば突飛とも思える結果が生じるのも分かる。何となくではあるが、ランディの言いたいことがちょっと理解できるような二人であった。
そんな様子を予測し、ランディはくっ、っと口元を歪める。
「俺の言ったことが分かるんなら、それなりに教えられるだろうさ」
「スパルタというか、無責任ですね」
「むしろあいつらもそろそろ責任ってヤツを覚えても良い頃じゃねえかな。それなりの成長はしてるんだしよ」
もっと先のことを見据えて物考えているような人間もいることだしなと、ランディは思い返していた。
「ふうん? ……お嬢さんの事業関係かい?」
意外に思える問いかけに対し、ランディはそう尋ね返した。
「ええ。今すぐというわけではありませんが、将来的に必要になる知識かと」
「……テラフォーミングとの関係が見えねえんだが」
どういうことだかいまいち予測しかねているランディの表情を見て、フミタンはある程度の思惑を伝えることにした。
「……『雨』です」
「火星に降らせる、ってことか?」
ますます分からない。疑問符を浮かべるランディに対し、この人でも分からないことがあるのだなとなんだか少し愉快な気分になるフミタンだが、勿論顔には出さずに彼女は説明する。
「火星の経済と生活を長期的に安定させるには、食料の増産が必須となります。ですが農業プラントの増設はコストがかかり、また限定されたフィールドでしか食料生産が出来ません。となれば火星の土壌を改善するしかないのですが、そのためには大規模な水の循環が必要となる。理想的なのが火星の天候を変化させ、定期的に雨が降るようになることなのです」
現在の火星ではほとんど雨が降らないゆえに、土壌そのものを改善することが難しい。しかしそれをなんとかさせようとなれば、どうしてもテラフォーミング並の大規模な改善法が必要となるだろう。
なるほど、これはまたとんでもないことを考えた物だとランディは舌を巻く。それほどの大それた事をするのであれば、確かにそれを知る必要があるだろう。それは理解した。
「まあ、火星で行われたテラフォーミングに関する知識はあるんだけどな……」
うーむと腕を組む。GH時代、なんか役に立つだろうと組織に死蔵された技術的なデータや資料を漁ったせいで、そう言ったことに関する知識も大まかな概要ながら頭に入れている。
だが――
「技術的には可能だが、『現在では絶対に不可能な手段』だぞ?」
「どういうことです?」
眉を顰めるフミタンに対し、これまた難しい顔のランディが告げる。
「まず『火星にこれでもかって小惑星を叩き込んだ』のさ」
厄祭戦のさらに前、増えすぎて地球やコロニーでは賄いきれなくなってきた人口を、無理矢理火星へ送り込むために強行された手段。
マスドライバーにて火星の極冠地帯を中心に火星全土に二酸化マンガン鉱石を多く含む小惑星をこれでもかと打ち込む。そうすれば地表は砕かれ多量の粉塵が火星全土に舞い上がるが、極冠では溶けた氷が水蒸気となり、また二酸化マンガン鉱石は火星の地中に多く含まれる過酸化水素水と反応して酸素を産む。それと同時に粉塵となった土壌を分解して窒素など大気成分を吐き出すよう改良されたバクテリアを火星全域に散布。こうすることにより数年で粉塵は地表に戻るが、水分や軽い分子は大気となって残る。
さらに火星の高軌道上に磁気を含んだ鉱石を粉砕して散布。目視しにくいが土星の輪のような空域を人工的に作り、擬似的な電磁域――バン・アレン帯を形成、産み出した大気が太陽風などから吹き飛ばされるのを防ぐ。
そうしてから大気製造バクテリアの定期的な散布と、人工的な光合成を行う大規模なプラントを火星各地に建設。大気成分と密度を安定させてから入植が始まったのだ。
「……こうやって100年足らずのうちに、基本的なテラフォーミングは一応の完了を見た。勿論その後色々行われるはずだったんだが……厄祭戦がおきちまって、結局は最終的な完結を迎えずしてほったらかしにされてるってのが現状さ。今のままなら雨が降らないどころか、疑似電磁帯の欠損に従い1000年単位で火星の大気は徐々に失われ、いずれは人が住めなくなるかもな。もちろん俺達が生きてる間は大丈夫だろうが……」
そう言う問題じゃないんだろう? とランディが言う。予想以上に原始的というか、問題だらけ。当然数千万とも億とも言われる人間が住まうこの状態で地表に小惑星など叩き込めば大惨事どころではない話であり、火星の現状を改善する手段には決してならない。想像以上の困難に、フミタンは苦虫を噛み砕いたような表情で押し黙るしかなかった。
ランディだって好きこのんで絶望を叩き付けたのではなかったが、流石に気が悪い思いであった。だからというわけではないが、『自分でも無理があると分かっていること』を、つい口に出してしまう。
「机上の空論に近いが、『極冠の氷を融かして大気に放出し、なおかつ火星の大気の飛散を押さえる手段』がないわけでもないんだけど……」
「詳しく」
「OK分かった落ち着け近い近い迫るなのし掛かるな」
「……確かに、無理難題と言うしかありませんね」
フミタンから話を聞いたクーデリアは、残念そうに溜息を吐いた。ランディが提唱した『机上の空論』、それも『技術的には不可能ではないが、現状不可能に近い』手段である。結局話は振り出しに戻ったわけだ。
「やはり以前専門の技術者が提唱した『極冠部から運河を掘り、火星の各地に水資源を域渡させる』というプランがもっとも現実的かと。それも火星の大気が失われていくという問題を解決できるわけではありませんが」
心なしか残念そうな様子でフミタンが言う。火星の再開発。以前の桜農場での出来事から思いついたそれは、困難どころか火星の大気の損失という新たな問題を浮き彫りにした。前途は多難。しかし。
「……それでもやらなければ、火星の未来はないのです。まずは出来ることから少しずつ手を付けていくしかありませんね」
鋭い目線で虚空を睨み付けるクーデリア。戦場とは違う、しかし絶望的な戦いに、彼女は臆することはない。
鉄華団の少年たち――三日月に、あなた達を幸せにすると誓った。その思いを決して裏切らないと言う意志と矜持がある。燃え盛る思いを胸に秘め、彼女は歩き続ける。
えらい人に弟子入りしてしまった。改めてそう思う。ハッシュは汗だくになりながら己の浅はかさを噛みしめていた。
三日月の部下として遊撃隊(とは言っても実質2人だけである)の配属となり、彼から些細なことでも学ぼうと同様の生活を始めてみたのだが、これがまたとんでもなかった。
まず日が昇る遙か前。団員でも1、2を争う早さで起きる。そこからまず怒濤のごとき基礎トレーニング。やりはじめれば昭弘やシノ、その他戦闘班のエース組や、時折オルガやユージンなどが合流し大体1~2時間ほど続けられる。
続いてシミュレーター訓練だ。こんな早朝になぜと思って聞いてみたらば。
「昼間の教練は、ほかの団員たちに使わせなきゃいけないだろ?」
とのこと。彼ら自身がそういった訓練しているところを見たことがないと思っていたが、こういうからくりだったのかと納得すると同時に、この人らホントなんなのという思いが湧き上がってくる。
何しろ彼らの訓練、密度が濃い。基礎トレーニングからして馬鹿みたいな負担をかけ短時間で効率よく鍛えている。昭弘に至っては世界記録にでも挑戦するのかってくらいの有り様だ。シミュレータープログラムも一般の隊員たちが使っているものに比べ難易度が桁違いだ。試しにやらせて貰ったら3秒で撃墜された。なんでこの人たち平気な顔してこなすのか。日頃の積み重ねの賜物だと分かっていても、どこか納得できない自分がいた。
ともかく訓練を終えた三日月らはシャワーで汗を流し、朝食。ここらで一般団員と合流し、その後普通の戦闘訓練や職業技能訓練に移る。三日月は農業班の班長も兼ねているため、大体は桜農場の手伝いに赴いたり、中庭の畑をいじったりしている。
これがまた和気藹々にのんべんだらりと作業していると思いきや。
「新入り! もうちょっと深く素早く鍬を振るうんだよ!」
「は、はい! こうすか!?」
ガチの農作業であった。桜農場はまだ大型作業機などを投入して大雑把に行う部分が多いが、中庭や農場端っこの試験農園はほぼ全て手作業である。様々な農法を試行している関係で、大型機械を投入できないのだ。そして一つ一つの作物に気を使わねばならない。作業に従事している班員たちは、戦場と同等かそれ以上に気を配って作業していた。
そうでありながら班員たちは交代でこまめに休息を取るようにしている。大概はそこらに寝っ転がっているのだが、どうやらそれも訓練の一環らしい。
「いざって時に、少しでも休めるよう慣れておくのさ」
日陰に丸まって即座に寝息を立てる三日月を示して班員の一人がそう説明した。修羅場をくぐり抜け、さらにランディの教練を受けた彼らが学んだことだ。どれほど忙しなくともちょっとの隙に5分でも10分でも睡眠を取れれば効率は変わる。しかし神経が高ぶっている状態でそれを行うのは難しい。だから普段からその癖を付けていれば修羅場でも習慣的に休めるとのことだった。
道理でしょっちゅう寝ているように見えるわけだ。逆に大事なときに寝てないかという疑問は湧くが、最低でも班員たちはそれを問題と認識していないようである。
ともかく昼間の作業を終えれば夕食。その後は各々自己鍛錬に励んだり資格や技能の勉強などをして過ごす。三日月を含む幹部は時折、戦術などの勉強会やそれぞれの仕事の報告会などを行うことがあり、そうなった場合は大体が夜遅く、下手すると明け方近くまで額を付き合わせている。その間ハッシュも先に休む気にはなれずトレーニングなどして過ごし、それが終わってやっとシャワーを浴び就寝となる。
はっきり言ってついていくだけで一苦労であった。あの小柄な体のどこにそんな体力があるのか。理解も気力も追いつかない。
もっとも自分の訓練を終えた後平気な顔で団員たちの基礎訓練を指導するシノや、代表者として寝る間も惜しんで事務仕事をしたりあちこち跳び回っているオルガやユージンなど、他の幹部たちもおかしいいや相当にタフなのだが、やはり共に行動している以上三日月の行動を主として見てしまう。
しかし実の所、別に仕事以外の訓練とかで三日月と行動を共にする必要は全くないのだが、ハッシュは弟子とはそういうものだと思い込んでいるようであった。
(慣れなきゃ辛いってのに、いきなり行動を真似するとか、へんなヤツ)
三日月は三日月で、そう言った指導を全く行うどころか思いつきもしていないようだった。まあ彼自身鍛錬は自分から進んでやり始めた方だし、指導のやり方などランディの真似事くらいしかできない。普通の教練以上にやりたいんだったら好きにしたら? というスタンスだ。ゆえにハッシュは思いこみのまま必死で三日月に食らいつこうとする。確かに鍛えられはするかも知れないが、その前にぶっ倒れるのが先ではなかろうか。
とまあハッシュがひいひい言ってる頃、オルガのもとには朗報が届いていた。
「本当ですか、兄貴」
「ああ、伝手を辿って鉱山関係者を何人か引っ張ってこれた。暫くはクーデリア嬢の下について貰うことになるが、採掘場の管理を任せられる人らだ。諸々の手続きが終わり次第お前らに預かって貰う。それと同時に獅電の輸送スケジュールが正式に決定した。いよいよアーヴラウとの取引に一歩前進ってわけだ」
採掘場の管理要員。名瀬が引き抜き紹介した人材は、鉄華団の欠けているところを補うためのものであった。同時に採掘場の方に目処がつけば、獅電の輸送も引き受けられる。手を尽くしてくれた名瀬に感謝し、オルガは頭を下げた。
「ありがとうございます、助かりました! これで採掘場の稼働に目処がつく」
「まだまだやらなきゃならないことも多いがな。それでも任せられりゃ一息付けるはずだ。そろそろ団員たちにも休暇くらいは取らせてやってもいいだろう?」
「はい、みんなも喜びます。重ね重ねありがとうございました!」
連絡を終えたオルガは、喜色を隠さず拳を握りしめガッツポーズを取った。
「っしゃ! これでなんとかなりそうだ。まだ油断ならねえが、ちったあ仕事が回せるようになるぞ!」
「ビスケットも半年待たせずに済む。名瀬さんにゃあ頭が上がらねえな」
安堵の溜息を吐いてユージンが言う。オルガと揃って連日てんてこ舞いだった彼も相当に喜んでいる。
「さすがに防衛組織の発足式典にゃあ間に合わなかったが、むしろ時期がずれて丁度良い案配かもな。……確かそろそろだろ式典は」
「ああ、ビスケットたちには俺らの名代として顔を出して貰う事になっていたが……あいつならそつなくこなしてくれるだろう」
「蒔苗のじいさんも、火星のハーフメタル増産にゃあ期待してるっていうし、獅電の事も合わせて張り切らないとだな」
笑顔を見合わせ軽く拳をぶつけ合う2人。やっと堅気の仕事が軌道に乗ってきた。その手応えに希望を感じている。
その希望に水が差される……どころではない事態になろうとは、さしものの彼らも予想していなかった。
アーヴラウ防衛組織発足式典会場。式典を直前にしてその準備にスタッフは追われている。勿論彼らも。
「外のMWは?」
「すでにキャリアで裏の方に。展開は予定通り当日早朝で」
「警備のシフトを確認して穴の無いように。担当の人たちとは連絡をこまめに取るようにしてくれ」
「支部長、ラディーチェさんからシフトなど警備計画に変更はないかと問い合わせが来ていますけど」
「ああ、『一切変更は無し』って伝えてくれる?」
「え? でも……あ、いいえ、分かりました。そう伝えておきます」
「警察から連絡来ました! 予定通りに市内の警戒に入るとのことです!」
「防衛組織の警邏隊に確認を取って。LCSの回線は常時繋がってる?」
「はい、通信レベルも安定しています」
「レベルは常に意識しておくように。通信のログも取っておいて。様子がおかしかったらすぐ報告を」
仮設の警備詰め所で指揮を執るビスケット。ここ何日かろくに寝ていないが、まだまだ活力に満ちあふれていた。
そこに、部下を伴ってマニングスが姿を現す。
「取り込み中にすまないな。こちらのほうの進行状況とのすりあわせを相談に来た。そして『例の話』も」
「こちらこそ忙しなくてすいません。……タカキ、少し頼む」
「了解です、任せて下さい」
その場の面子に状況を任せ、マニングスを伴い奥の会議室へ向かうビスケット。席に着いた彼らは早速話し合いを開始する。
「こちらはスケジュール通りだ。……が、やはり緊張や高揚している者が多く、全体ではないが浮き足立っているところがあるな。やはり君たちを警備の中核に据えたいところだが……」
「こればかりは。我々は元々『外様』ですし。主役を差し置いて真ん中に居座るのはやはり問題になるでしょうから」
今回の式典では、鉄華団はあくまで式典警備の補佐という形を取り、会場のメインから一歩離れた外側の警備を担当している。防衛組織発足の式典で重要な箇所を任されるのはその影響力が大きいと内外に示すことになってしまう。それは防衛組織としても鉄華団としても望むところではない。まあほとんど表向きの話で、警備プランの構築など重要なところで関わっているのだが。
「どこに行くにもSPがついていて窮屈だと、蒔苗代表はぼやいておられたがな」
「行く先々を細かくチェックされるのも神経質だと思われるでしょうけど、念には念を入れておかないといけませんからね」
く、と交わされる苦笑。そうしてからマニングスは真剣な表情となった。
「それで、『警備情報の漏洩』については?」
「……まだ確証には至っていません。色々と泳がせて、『増援』なども頼んではいますが尻尾は掴んでませんね」
「すまないな、後ろ暗いことをさせている」
「いえ、『身内』を疑わなくてはならない僕たちの不徳です。お気になさらずに」
なにやら不穏な空気が流れる会話であった。
「何事もなければそれに越したことはないが。……まずは式典を無事に済ませることだな」
「はい。大概のことには対応できるはずですが、油断は禁物ですね」
会場には監視カメラも多いが全ての死角をカバーできるわけでもなく、また警備もまったく穴が無いというわけではない。侵入者が何か事を起こすという可能性は0ではなかった。
その可能性を少しでも潰すべく、男たちは知恵を絞り、策を練る。式典を乗り越えれば、新たに状況を動かせると見越して。
だが式典そのものが潰えるどころか新たな国家の危機を迎える事態になるとは、流石に予測していなかった。
市街の住宅地。夜遅くになって2人の少年が家路に急ぐ。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「ああ、大詰めだから仕方がない」
タカキとアストンである。彼らは住宅地の一角に部屋を借り、共同生活を行っていた。
彼らのように複数で部屋や家を借りて暮らしている団員は多い。家賃を安く上げるためという理由が大半だが、彼らの場合一人暮らしをしようとしていたアストンをタカキが迎え入れたという形だ。アストンは昭弘からアルトランドの姓を貰い、元ヒューマンデブリの少年たちの中にも『兄弟』となった者も多くいる。が、なぜだか彼はそんな仲間と一歩引いた位置にあろうとしていた。
何となく見かねたタカキが誘ったのだが、未だにアストンはどこか戸惑っているような様子を見せる。それでも大分慣れてきたなと、タカキは内心安堵を覚えていた。
「ただいま~っと。……寝てるだろうから静かに……」
「あ、お兄ちゃんにアストンさん、お帰りなさい」
そっと部屋のドアを開けた少年たちを迎えるのは、タカキによく似た容姿の少女。
【フウカ・ウノ】。タカキの妹であり、鉄華団地球支部開設後に火星から呼び寄せられ、現地の学校に入学している。兄以外身寄りが無く、またタカキが良い教育を受けさせたいと望んだためであったが、早くも馴染んできているようだ。
「起きてたのか。先に休んでいても良かったのに」
「放っておいたらお兄ちゃんたちご飯も食べずに寝ちゃうでしょ? 駄目だよ体力勝負の仕事で無精してちゃ。ほらほら順番にシャワー浴びて。その間にご飯暖めとくから」
歳の割にはかなりしっかりした妹に急かされ風呂場に消えるタカキの姿を見て、アストンはいたたまれないような、くすぐったいような気持ちを抱えていた。
海賊に買い取られ消耗品として扱われ、死と隣り合わせの生活を送る内にすっかりと心がすり減っていった。そして鉄華団に救われ、少しずつ『何かを』取り戻してきているような、そんな気がする。
だが、今一歩踏み入ることが出来ない。どうにも仲間と距離を置いてしまうのは、『また失ってしまうのではないか』という本能的な恐れからの物であった。本人はそれを自覚していないが、今の生活に暖かさを感じると同時に胸が締め付けられるような思いを抱いている。穏やかな生活が大切になってきていて、それが恐ろしい。矛盾した思いを胸に秘め、それでも恐る恐る歩んでいる。それが今のアストン・アルトランドという少年であった。
タカキとフウカのやりとりは微笑ましく、暖かい。この光景を大切にしたいと心の底から思う。それが失われることを想像するだけで胸が張り裂けそうになる。
護りたい。アストンはそんな想いを持ちつつあった。この光景を護る。そのためならば……。
ぐっと、胸元の拳が力強く握りしめられる。
「待たせましたか?」
「いや、時間通りだ。流石にしっかりしているな」
エドモントン某所。繁華街の隅にある酒場にて、ラディーチェはある人物と待ち合わせをしていた。
髭面の、鋭い目をした男。気楽な様子に見えるが、密やかに油断なく周囲に気を配っているところから、どうにもただ者ではなさそうだ。
「それで、状況は?」
「予定通りというところですね。詳細はこちらに」
す、とテーブルの上に差し出されるメモリーカード。男はそれを受け取り己のタブレットで中身を確認する。
「……十分だ。これならこちらでなんとでもなる。……しかし『荷物』が間に合わなかったのは少々残念だったな」
「せっついてみたのですが、どうにもいい加減な対応でこのざまです。まったく呆れた物で」
「慎重なんだろうさ。……あとは事が起こってからだ。手筈通りに頼むぞ」
「ええ、任せて下さい」
その後暫く会話を交わし、幾度か杯をを重ねてから2人は別れを告げる。
さして酔ってもいないラディーチェは、家路を急ぐ。と、路地の曲がり角の所で軽く人とぶつかってしまった。
「これは失礼。申し訳ない」
「……いえ、こちらこそ」
さくりと謝罪する相手に軽く会釈して立ち去るラディーチェ。彼と別れてしばらくの後、ぶつかった人物は『己の手中にある物』を確かめている。
それは『マイクロレコーダー』であった。
レコーダーに記録された会話を確認して、ビスケットは溜息を吐く。
「核心をつく会話はしていませんか……」
「メモリーカードを回収出来れば良かったのだが……どうにも向こうもそれなりの手練れのようだ。警戒域には踏み込めないね」
夜半を過ぎた支部の一室でビスケットが対峙しているのはラディーチェとぶつかった人物――ランディの伝手で紹介して貰った『興信所の調査員』である。
行動が怪しいラディーチェを調べて貰っていたのだが、十二分に怪しくはあっても確たる証拠がない。頻繁に特定の人物と会っているのだが、その人物もどうやら『その手のプロ』らしくなかなか尻尾を掴めないでいた。
「しかし全く収穫がなかったわけじゃない。相手の素性が一応分かった」
「どのような人物で?」
調査員はテーブルの上に資料を広げる。
「【ガラン・モッサ】。各地の紛争などに顔を出している傭兵――戦争屋だ」
※今回のえぬじい
「そう言えば重力の事はどうなっているのです?」
「エイハブ粒子とかリアクターとかでなんとかしてんじゃねーの?」
そう言うことになった。(理屈を考えつかなかった訳ではない。決して)
グリモアレッドベレーをレッショルスコタコ風味にしようとするヤツが必ず居る。
俺だよ捻れ骨子です。
はいそういうわけで地球編導入部&屁理屈のお話~。土壌の改善に水が要る? 雨を降らせればいいじゃないと思いついたお嬢様でしたが、いきなり頓挫。しかしながら言うまでもありませんがこんなテラフォーミング嘘っぱちですから。そも火星の土には過酸化水素はあっても過酸化水素水があるかどうか分からないしマンガン鉱石ぶっこんだところで酸素発生するかどうか分からないしこんなんで大気が形成できてたまるかだしそもそも火星の土壌ではバクテリア繁殖できねーしとツッコミどころ満載です。こいよツッコミ! 武器なんか捨ててかかってこい! 逃げるから。
まあともかくなんかすっごい問題ありの手段だと思っていただければいいかと。果たしてクーさんはどうやって解決法を見出すのか。
そして地球支部の方も暗雲が立ちこめております。ラディーチェの方に。果たして彼は生き延びることが出来るのか。
そんなこんなで今回はこのあたりで。