イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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31・狐狩りといこうじゃないか

 

 

 国境へと赴いたビスケットたちが襲撃を受けた。その『予定通りの知らせ』を受けた鉄華団地球支部はにわかに慌ただしさを増す。

 そんな中、密かにほくそ笑むラディーチェ。事は上手く推移していると、彼は信じ切っている。と、そこで彼にかかる声があった。

 

「ラディーチェさん、ちょっといいですか?」

 

 ビスケットの留守を預かるチャドだ。深刻な表情を『作っている』彼に応えて、ラディーチェは内心の嘲りを押し隠し振り向く。

 

「なんでしょう副支部長」

「ええ、この状況でなんですが、ラディーチェさんに渡しておくものがありまして」

「?」

 

 なんだと首を傾げるラディーチェに向かって、チャドはにっこり笑って見せた。

 

「『これ』です」

 

 不意打ちで放たれたチャド全力の右フックが、ラディーチェの顔面に突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おるァ! ナメた真似しれくれたじゃねえかゴミ屑がァ!」

「カスがふざけてんじゃねえぞコラァ!」

「ぶべら!べらっ!べらァっ!?」

 

 第一回ラディーチェタコ殴り大会が開催されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発に吹き飛ばされながらもなんとか機体を立て直したガランは、瞬時に状況を把握する。

 嵌められた。ここにきてやっと彼はそれに気付いた。全ては自分達を一網打尽にするための策。指名手配も情報のリークも全てはその伏線だったと。

 不覚である。あまりにも前例のない状況であったとはいえ、我知らず冷静さを失っていた。疑うべき所はいくらでもあったというのに、裏工作で自分を上回るはずがないと高を括ってこのざまだ。優位であった戦力差ですら逆転されている。最早この場で勝ち目はない。

 そう判断してこの場を切り捨てる判断を行えるのは流石ではあった。

 

「状況破棄、総員散開! それぞれ独自に各ポイントへ向かえ!」

 

 そう命じながらスモーク弾をばらまきこの場から離脱しようとする。慣れない降下の影響でふらつきながらもそれを察知したハッシュが、あとを追おうとするが。

 

「追わなくていいよ」

 

 淡々とした三日月の声が、それを押し止める。

 

「け、けど!」

 

 離脱するテロリストたちの機体とバルバトスを交互に見ながらハッシュが戸惑った声を上げる。応える三日月はどこまでも冷静であった。

 

「どっちみち、あいつらに逃げ場はないんだ」

 

 淡々としながらもどこか凄みを感じさせるその言葉に、ハッシュは背筋が総毛立つような感覚を覚えた。と、そこにビスケットからの通信が入る。

 

「良いタイミングだったよ。流石だね三日月」

「俺は言われたとおりに降りてきただけだから。……それで、どうするのこの先」

 

 その言葉にビスケットは凄絶な笑みを浮かべる。

 

「さっき三日月も言ったろ? 逃げ場の無くなった獲物を追い立てて、狩るのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラディーチェの個人端末に記録されていたデータの中には、ガランたちが用意していた拠点に関する情報も含まれていた。それを基に鉄華団と防衛組織は手分けして追跡を始める。

 そうとは知らないが、最早作戦は失敗し拠点を割り出されるのも時間の問題だと判断したガランは、幾人かの部下と共に拠点の一つでこれまでのデータや資料を処分していた。

 

「全てのデータは破棄だ。紙の一片も残すなよ!」

 

 紙の資料はドラム缶に突っこんで燃やし、端末や機器内のデータは一度完全に初期化したあと記録媒体そのものを物理的に破壊する。ともかく自分達が存在したという痕跡を根こそぎ消し去らねばならない。

 当然のことなのだが、ガランたちの表情にはこれまでにない焦りがある。それはただ追い立てられているからではなかった。

 

(全てのルートでラスタルとの繋ぎが取れなくなった。切り捨てにかかったか)

 

 遠回しに間接的なものではあったが、ラスタルと関係するコネクションとの繋がりが断たれた。ガランももちろん覚悟していたことであったが、実際にそうなるとやはり動揺を感じずにはいられない。それは心のどこかに暗い澱みを生じさせるようであった。

 覚悟のあったガランでさえそうなのだから、配下も当然同等以上の動揺があるに違いない。今は考えさせる余裕を与えず、窮地を脱する事のみに集中させていた。

 と、そこで周辺に仕掛けていたセンサーに感。

 

「! 見つかったか。総員MSで脱出だ! 残りはこの場ごとナパームで焼き払う!」

 

 慌ただしく資料の残骸や空き缶などを踏み散らかしつつ、ガランたちは外に飛び出して待機させていたMSに飛び乗る。モニターが灯れば、木々の隙間から砲火の花火が上がり、周囲に着弾する。しかしこちらの正確な位置はまだ特定できていないようだ。

 

「ナパームの時限発火は?」

「仕掛けました。5分で起爆します」

「よし、離脱するぞ。ポイント2方面へ移動。可能であればそちらの資材も処分する」

 

 散発的な砲撃が続く中、敗走者たちは密やかに密林を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、だから私は鉄華団を護るために……」

「鉄華団どころかテイワズからアーヴラウまでどすげえ迷惑じゃねえか。どこが何を護るってんだコラ」

 

 顔に青アザ作って椅子に縛り付けられたラディーチェが呻くように言い訳してるが、団員の少年たちは鼻で笑ってこづき回してる。

 最早ラディーチェに隠す必要もなくなったので、現在チャドを筆頭に事務系とIT系の技能を持った者総出で事務所のデーターを総ざらいしている最中だ。ラディーチェがやったことの証拠を集めるだけでなく、出来ればガランの背後関係を少しでも洗い出したいという目論見からの作業であったが、どうにも芳しくなさそうだ。

 と、作業を行っていた一人の手が止まる。

 

「……副支部長、今会計関係のデータ調べてたんですが……なんか微妙に収支の合ってないところがあるんですけど。主にっていうか全部このおっさんがやったところで」

 

 ぎん、と全員の殺気だった目が一斉にラディーチェの方を向き、彼は青い顔ですくみ上がりながらぶるぶると首を振る。

 

「し、知らない! 会計を誤魔化して差額を懐に収めたりなんかしていないぞ私は!」

 

 がたり、と全員が椅子から立ち上がる音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い度胸じゃねえかこのゲロ虫がァ!」

「汚物は消毒すんぞごらァ!」

「あべしたわばひでぶっ!?」

 

 ラディーチェタコ殴り大会セカンドステージが開催されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小隊規模に別れたガランたち。だがその一つ一つが執拗な追跡に絡め取られ追いすがられる。

 エンビを小隊長として構成された通称【ごちゃまぜ隊】もまた、逃走中の小隊を捕捉し、交戦を開始していた。

 

「ビトー、突っこみすぎるな!」

「好きで突っこんでんじゃねえよ! 『こいつ』が速すぎるんだ!」

 

 蒼き機体が、まるで嵐のように戦場を駆けめぐる。それを操っているビトーは、唸るように愚痴をこぼした。

 

「8割まで反応落としてこれかよ! あのおっさん本当に人間か!?」

 

 ランディに合わせたセッティングでは、ビトー位の技量だと阿頼耶識を使用してもコントロールしにくいことこの上ない。仕方なく可能な限り性能を維持したままで制御しやすいようデチューンしたのだが、それでもフルスロットルに近い領域では手に余りそうになる。

 が、流石に見込まれただけはあって、実戦の最中ビトーは徐々にコツを掴みつつあった。

 

「FCSが間に合わねえ。レティクルだけ表示、阿頼耶識とマニュアルで合わせる。正面から打ち合ってちゃこいつの機動性が死ぬ。今の俺じゃあ一撃離脱しかねえか」

 

 微調整しながら戦い方を組み上げていく。自分の出来ること、出来ないこと。それと機体の特性を寄り合わせていくように。

 

「昌弘、ヒット&ウェイで連中の鼻っ柱を叩く! 援護してくれ!」

「行けるのか?」

「大体分かった! 何とかする!」

「了解、でかいのかますから当たるなよ!」

 

 グレイズ改・参式が放つ300㎜が吠え砲弾が降り注ぐ中、ビトーのシュヴァルベ・グレイズが稲妻のごとき機動で迫る。

 

「リボン付きの悪魔……じゃない!? ばかな、奴と同レベルのパイロットがいるとでも!?」

 

 蒼き機体の左肩に特徴的なエンブレムが無い事を確認した兵の一人が驚愕の声を上げる。ガランの部下の中にもランディの事を知っている人間はいた。直接見知っている者こそ居ないが、流石に工作員。かなり正確な情報を持っていたようだ。その知識を持つ者からすれば、シュヴァルベ・グレイズの機動はランディそのものに近いと感じられる。

 もっともランディであればもっと『えげつないこと』になっているのだが、そこまでの実態を知るものはいない。どちらにしろ、翻弄され一方的に攻められることには変わりがないのだから。

 

「は、やるねえうちの成長株は」

「んじゃあこちらは地味に的確な仕事しようか」

 

 獅電とランドマン・ロディという見た目は凸凹だが双子ならではの息のあったコンビネーションで、ビトーと昌弘のバディをフォローするエンビとエルガー。結果ゲイレールの小隊は離脱を許されず、その場に釘付けとなる。

 ほどなくして、4体のMSが沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防衛組織のフレックグレイズを引き連れた三日月の遊撃隊もまた、追いついた敵部隊と交戦を開始していた。その中で、ハッシュは狼狽している。

 

「くそ、なんで、こんな!」

 

 思ったように機体が動かせない。まるで学んだことがすっぽりと頭から抜け出てしまったかのようだ。訓練とはまるで違う。いや、やることは同じはずなのに頭と体が動いてくれない。

 実戦の空気に飲まれたのだ。なんだかんだ言って、ハッシュは殺し合いに慣れていない。自分が育った路地裏であれば、そのような場面になったらばまず逃げていた。だがこの場では逃げ出すわけにはいかないと腹をくくるくらいには生真面目な少年である。そのことが余計に緊張と硬直を産む要因なのだが。

 例えもっと訓練を積んでいたとしてもスムーズに動けたかどうか。自己判断するまでもなく状況は動く。

 打ちかかってきたゲイレールの打撃を真正面から受けたハッシュの獅電は弾き飛ばされ、たたらを踏んで体勢を崩す。そこが好機とばかりに相手はさらなる追撃を敢行しようとした。

 

「しま……」

「言う前に動く」

 

 ハッシュが声を上げようとしたところで、横合いからの衝撃がハッシュの機体を吹っ飛ばす。

 すでに何機か仕留めてきた三日月のバルバトスが、獅電を蹴り飛ばしたのだ。そのまま打ち込んできたゲイレールの一撃を受け流し、すり抜けざまに太刀を一閃。機体を上下に両断するまでを流れるような動きでこなしながら、三日月は淡々と言葉を投げかけた。

 

「無理にこっちについてくるな。防衛組織の人らの方がお前より慣れてる。一緒に動け」

 

 言うが早いか白き機体は密林の間を駆け抜けあっという間に消える。その先で響く衝撃音からまた即座に交戦を開始したのだろう。尻餅をついた機体を立て直すことすら忘れ、ハッシュは唖然と見送るしかなかった。

 

「大丈夫か? 動けるのであれば……」

「あ!? え、ええ、大丈夫っす」

 

 押っ取り刀で現れた防衛組織の隊員がハッシュの機体を助け起こす。体勢を立て直し三日月の援護に向かおうかと考えたが、どうにもその必要はなさそうだ。

 次々と消えるレーダー上の敵機。全く環境の違う地球上だというのに、バルバトスの動きは全く衰えない。いや火星だろうが宇宙だろうがどこでも同じだ。まるで環境の差など関係ないとばかりに、常時その時点での最高を叩き出す。機体ではない、技量だけでもない。格の差というものをまじまじと見せつけられていた。

 

「凄まじいものだな。あれが地獄の番犬か」

 

 我知らずと言った様子で隊員の零した言葉がハッシュの耳に届く。彼らとて訓練を積み鍛え上げられてきた。しかしその目から見ても到底真似できるようなものではないと映る。

 ハッシュもまた、我知らず言葉を零していた。

 

「やっぱすげえぜ、三日月さんは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資材や天幕を展開し、装甲車を中核にした臨時の前線司令部が構築されている。その傍らに跪いた電子戦仕様の獅電がバックパックから、大出力レーザー発信器とパラボナアンテナが展開した。

 

「角度調整……捉えた! ビスケット、イサリビとの直通回線が繋がった! そっちに回す!」

 

 通信回線を調節していたダンテの言葉を受け、天幕下のビスケットは回線を開く。

 

「こちら地球支部ビスケット。イサリビ、聞こえる?」

「おう、副団長ユージンだ。感度は良好。GPS、エイハブセンサーも同調した。連中のケツが丸見えだぜ」

 

 軌道上から戦艦の索敵機能を使って地表を観測しオペレートを行う。これにより捜索範囲は爆発的に拡大し、追撃はさらに精度を増す。統制統合艦隊が用いる手段であるが、少年たちは己の創意工夫でその手段にたどり着いていた。

 

「テロリストどもの動きは随時ヘイムダルの方にも伝えて。国境越えをさせる気はないけれど、自棄になったら何をやらかすか分からない連中だ。確実に追い込む」

「統制統合艦隊と共闘ってのはなんだか複雑な気分だが……敵じゃねえ分心強いと思っておくか。ともかくこっちの追尾は抜かりねえ。存分にやってくれ」

「了解。もう長々と付き合ってやるつもりはないさ。ここでケリをつける」

 

 不敵に笑むビスケットの横顔を見ながら、イアンナは思う。

 

(MSを通信設備として使うなんて。……いえ、これも一つの運用法なんでしょうね)

 

 想像もしなかったMSの使い方に驚きながらも得心する。既存の運用法にこだわらない、そういった所も彼らの躍進が要因であろう。学ばなければならない部分は多いと感じる。 そこでなにやら新たな通信が入ってきた。

 

「支部長、1番小隊……流星隊からの報告です。『パターン12』の状況が発生。指示を仰ぐとのこと」

「っ! ……そうか。シノには『回収物』をもって帰投するように伝えて。それとファリド准将に連絡を」

「了解」

(……?)

 

 漂う妙な緊張感に、イアンナは首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガランの部下が一人。その男は非合法工作員らしからぬ感情に支配されている。

 

「なぜだ、なぜこんなことに……」

 

 仲間と共に移動中追いすがられ交戦。だが奮戦虚しく仲間は次々と打ち倒された。こんな事が起こるはずはない。自分達は工作員に身をやつしてはいるが、GHでそれなりにならし、修羅場も潜ってきた。だというのになぜこうも一方的に圧倒される!?

 彼は自覚していなかったが、これまでにないプレッシャーのかかった工作活動は、心身に想像以上の負担を強いられていた。特にガランの指名手配による犯罪者扱い、これが意外にも効いている。

 彼らとて自分達が後ろ暗い事をしているという自覚はある。だがそれはGHのために、ひいては秩序の維持に必要なことだという矜持のようなものも同時にあった。それがはっきりと明言されたわけではないが犯罪者――『秩序の敵』として扱われることによって、揺るがされたのだ。

 自分達のやってきたことは間違いではないはずだ。正しいはずだ。そう己に言い聞かせても、無言の圧力がじりじりと心を削る。かてて加えてラスタルからの完全な『拒絶』がひび割れた心に楔を打つ。

 ガランに付き従うものたちは、GHというよりラスタルに忠誠を誓い、その意志に殉ずる覚悟はあった。だが一部のものたちは、己が任務の果てに朽ち果ててもなんらかの形で報いてくれるという期待が心のどこかにある。あるいは最後の最後まで見捨てず『逃げ口』を用意してくれるだろうという楽観的な甘さがあったろう。これまで――『ろくにまともな対策も行えなかった相手に対する任務』であれば、それは間違いではない。

 だがこの状況は、『ラスタルにとっても前代未聞』であったのだ。いや、彼としては想定の範疇であり、いざとなれば工作員は切り捨てるという当たり前の行動を取ったに過ぎないのかも知れない。ガランを含む多くの工作員は何やら心の中にわだかまることがあってもそれを飲み込んだ。しかし『全員が全員そうではない』。 この場に残った工作員は最後の最後で何かを惜しむくらいには『人間であった』。そう言うことなのだろう。

 

「撃つな! 降伏する!」

 

 機体の武器を投げ捨て、両手を上げながら全域通信で訴える。『ここで討ち取られ、そして名も知れぬ犯罪者として歴史に残る』。そうなってしまうことに恐れを抱いてしまったのだ。良心の呵責ではない、功名心じみたものではない。己の存在が汚物のようなものとして後世まで伝えられる、その事実に耐えきれないと思ってしまった。微かに残った人間としての感情が、男にその道を選ばせた。

 

「シノさん、これって……」

「そのまま機体を跪かせろ! コクピットを開いて、リアクターをスリープ。武器を全部捨てて出てこい!」

 

 包囲してきたMSの隊長格らしき機体が、銃口を向けて命じてくる。それに素直に従って男は両手を上げながらコクピットから身を現した。

 

「ようし、妙な真似はするなよ? こっちの手の上に乗って横に寝そべれ。こっちが良いって言うまで動くんじゃない。動いたら撃つ」

 

 銃口を向けられたまま、差し出されたMSの掌に寝そべる。機械の指に締め付けられる感覚に顔を顰めながら、男は苦笑を浮かべた。

 

(ぶざまなものだ。……こうなっては是非もない、せいぜい俺が知りうることを高く売りつけてやるさ)

 

 綻びが裏切り者を産んだ。打ち込まれた楔は、ことのほか大きな亀裂を生じさせたようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テロリストの掃討は順調に進んでいるようだったが、支部事務方は殺気立っていた。

 有り体に言えば作業が増えた。微々たるものではあるがラディーチェが横領などを行ったことによって、事務関係の資料を全部洗い直す必要が出てきたのだ。一応まがりなりにも企業としての形がある以上、税金関係など不備が生じれば色々と問題がある。いくら対処をテイワズに任せる事になるとはいえ、そういったところをはっきりとさせておかなければ信用に関わる。まだまだ未熟なれど、そのあたりメリビットからきっちり叩き込まれていた。

 

「副支部長ー、おっさんの部屋から洗いざらいもって来ましたー」

「おう、そっちの机の上に置いてくれ」

 

 ラディーチェの個室から押収した資料はダンボールで3つほど。その中には事務関係と関係ないものも混ざっているが、横領した金の使い道なども調べておかなければならなかった。事務処理もまだ十分な域に達していない少年たちにとって、凄まじく面倒な作業である。そりゃストレスもたまって来るってモンだ。

 部屋の端っこで顔に青タン作って呻いているおっさんに殺気を向けながら、ダンボールを運んできた少年が荒々しく荷物をテーブルに置いた。

 と、閉まりきっていなかったダンボールの上面の端から、何やら小さな紙切れがふわりと床に落ちた。

 

「? なんだこれ?」

 

 拾ってみれば、それは安っぽい名刺。それは――

 いわゆるキャバクラ嬢の名刺であった。

 これがユージンやシノのように信頼関係を構築していてなおかつネタに出来るような人間であれば、後々までいぢくりまわす材料になったのであろうが、この状況では殺意を盛り増す着火材にしかならない。

 名刺を回覧した少年たちが、眼窩に紅く光を灯しながらゆらりと立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラァ!」

「ナリナリナリナリナリナリナリナリナリィ!」

「オボロメタタヤダッパァ!?」

 

 ラディーチェタコ殴り大会Ⅲ ~そして伝説へ~ が開催されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 可能な限りの物的証拠を処分したガランは、残った少数の部下を引き連れて逃亡を再開していた。

 行く当ては、ない。正確に言えばアーヴラウを脱出する当てはあるが、そこから先の見通しが立っていない。ラスタルはもう自分達と完全に手を切るつもりだろう。この窮地を切り抜けることが出来ればまた接触があるかも知れないが、望みは薄い。ともかく国外に脱出し整形で顔を変え身を偽ればとりあえずは凌げる。しかしそれこそ本物の傭兵にでもなるしか道はなかった。

 ラスタルの対応に思うところがないとは言わない。だが元々覚悟の上であったことだ。これはまんまと罠にかかった自分達が自業自得。ゆえに己の力だけで切り抜けなければならない。それが叶わなかったときには……。

 思考を巡らせていたその時、レーダーに感。

 

「散開! 各機はそれぞれ独自に脱出を計れ!」

 

 全機がばらばらにその場を飛び退く。一瞬遅れて砲火が大地を抉った。

 

「もう追いついてきたか! ラディーチェめ、こちらの情報を吐いたな!?」

 

 恐らく身柄を拘束されたであろう男に毒づく。確かにラディーチェから得た情報にてガランたちの拠点は大まかに割り出されていたが、衛星軌道上からの索敵を駆使した追跡網にてどのみち長いことなく追い込まれていただろう。そんなことを知るよしもないガランは、目の前に降り立ったMSに対して足を止めざるを得なかった。

 

「アジーさん、ラフタ。残りの連中は頼む。俺はこいつを仕留める!」

 

 重々しく大地にハルバードを叩き付けるグシオン。それを駆る昭弘は牙を剥いて唸るように言った。

 

「兄弟たちが世話になったみてえだな。たっぷりと礼をさせて貰おうか!」

「ちっ!」

 

 逃れられないと悟ったガランは機体の腰から棍棒のような武器を引き抜く。攻めて一人でも道連れに、と思ったかどうか定かではないが、まだ諦めるつもりはないようだ。

 が、と耳障りな金属音が響く。重量で劣る棍棒で、ハルバードを受け流したのだ。そのまま2度、3度と力任せの打撃を弾き飛ばす。

 

「はっ、力んでいるなァ。それでは俺を殺せんぞ!」

 

 嘲り嗤うように挑発する。実際技量だけならガランは昭弘を上回るどころかランディに迫るほどであったかも知れない。だが潜伏しながらの工作と、ほとんど休みのない逃亡劇は、ガランの心身に少なくない疲労を与えていた。早々に決着を付けなければ拙いと、焦っているのは彼の方であったのだ。

 この期に及んでまだ生きることにしがみついている。それに対して自嘲している余裕はなかった。

 

「やってみなけりゃ分からねえさ!」

 

 挑発に対し、昭弘はむきになることもなくハルバードを振るい続ける。若さと勢いがああり、そして迷いがない。今のところは均衡を保っているが、長引けば不利と見たガランはさらに挑発を続ける。

 

「使い捨ての傭兵が勤勉なことだ! お前たちもこの国が自力で防衛可能となれば、用済みとなるのは目に見えているだろうに! いや、所詮は余所者と疎まれるやも知れぬなあ!」

 

 言いながら無理を押して攻め込む。動揺を誘うと同時にイニシアチブを握ろうと企む。そうしながら言葉を止めない。

 

「無駄なのだよ! お前たちのやっていることは! 力を持っても争いの火種は消えん! いや、力を持てばこそそれを巡ってまた争いが起きる! どこまでも終わることはない蟻地獄よ!」

 

 ここぞとばかりに攻勢を増す。無理を押した甲斐があったか攻守が入れ替わり、今度はガランが攻め手となった。こうなると大物のハルバードが仇となり、昭弘は受けるので手一杯となる。

 

「結局俺とお前は『同じ者』だ! 力に縋り、乱の中でしか生きられない! いや、お前だけではない! 鉄華団そのものが! アーヴラウに、テイワズに! 力ある者に使い潰される運命よ! 俺のようになあ!」

 

 咆吼と共に放たれた一撃が、ハルバードを弾き飛ばした。重々しく大地に突き刺さるそれを残し、グシオンが後退する。

 

「昭弘!」

 

 ガランの部下をいち早く片づけたラフタの獅電が、助太刀をしようと駆け寄るが、それをグシオンは手で制した。

 そこから唸るような昭弘の言葉が響く。

 

「……おれは馬鹿だからな、てめえの言ってる事は半分も分からねえ。……だが!」

 

 がきん、と後ろ腰から外れたマルチシザーをグシオンは手に取った。そしてそのままガランのゲイレールに殴りかかる。

 

「てめえは畑を耕したことがあるか!?」

「っ!?」

 

 重い一撃が、ゲイレールの獲物を弾き飛ばす。

 

「寝る間も惜しんでどうやって仲間を食わせるか、頭を悩ませたことはあるか!?」

 

 高周波ノコが予備の武器を手に取ろうとした左手首に食い込む。

 

「右も左も分からねえガキに根気よく付き合って、仕事を回してくれたことはあるか!?」

 

 ノコを振り払って後退した機体の右肩に、パイルバンカーが突き刺さった。

 

「自分の国を護るために、俺達みたいなガキに頭を下げたことはあるか!?」

 

 肩の装甲をパージ。さらに後退したところでグシオンの得物が変形し、巨大な鋏となる。

 

「てめえごとき外道風情が!」

「があっ!?」

 

 フルスロットルで一気に間合いを詰めたグシオンの振るう鋏が、顎(あぎと)のごとくゲイレールの胴体を捕らえた。

 

「何ができるか必死に探している連中を! 俺たちみたいなガキを信頼してくれた人たちを!」

 

 もがくゲイレールを無理矢理天高く持ち上げ――

 

「訳知り顔でこきおろしてんじゃねえ!!」

「ぐがあっ!!」

 

 強かに地面に叩き付けた。

 己のことを言われただけなら昭弘はこうも激昂しなかっただろう。だが己と兄弟たちを人として扱ってくれる仲間を、そしてそんな仲間と己を信用してくれる恩ある人たちを、目の前の外道に侮辱されるのだけは我慢ならなかった。

 虎の尻尾を踏んづけた。動揺どころか激怒させてしまったことを悟るがすでに遅い。地面にクレーターを穿つ勢いで叩き付けられた衝撃で全身の骨が何カ所か砕け、折れた肋骨が肺に突き刺さったようだ。もはやこれまでかと、ガランはごぼりと血を吐きながら、震える手を伸ばす。

 

「ラスタル……俺は……」

 

 一瞬の迷い。それを経て、自爆のスイッチは押された。

 とどめを刺そうとしていたグシオンを巻き込んで、ゲイレールが爆発四散する。炎と爆煙がグシオンの姿を覆い隠し、見守っていたラフタは悲鳴のような声を上げた。

 

「昭弘!」

「……大丈夫だ」

 

 燃え盛る炎の中から、悠然と姿を現すグシオン。ラフタはほっと胸をなで下ろす。

 

「もう、一瞬しんぱ……びっくりしちゃったじゃない。馬鹿」

「この程度じゃ、俺は死なねえ。……こんな奴なんぞに、殺されてやらねえ」

 

 静かな怒りが込められた声。始めて目の当たりにした少年の怒気に、ラフタはきゅう、と胸が締め付けられるような思いを感じていた。

 戦いはテロリスト集団壊滅という結果をもって幕を閉じる。だが、それで全てが解決するわけではなかった。

 少年たちの苦難は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

『どうぞ支部長! 煮るなり焼くなりお好きなように!』

 

 ↑すっきりした顔で、原形を留めぬ有り様となりモザイクかかったラディーチェを示す団員たち。

 

「俺のやるとこ残ってないじゃない」

 

 ↑がっかりビスケット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 鉄血の新作!? 新たなバルバトス!?
 期待は大ですが監督と脚本は変えれよし(まだ怨んでる)捻れ骨子です。

 そういことでヒゲモッサ&グブツーチェボコられるの巻でした。大体予想通りの結果でありつつ筆者は割とすっきりしましたけれど、読者の方々はいかがだったでしょうか。
 これでアーヴラウの騒動は片づいたわけですが、まだ全てが終わったわけではございません。後かたづけと、そして火星の王への道が示される……かも知れず。 そしてラディーチェはどう料理されるのか。色々ありますが次回を待たれよ。

 そんなこんなで今回はこんな所で。    
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