イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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32・あとの始末が大変だ

 

 

 

 

 嵐のような一夜が明け、それでも前線の人間は目まぐるしく動いていた。

 撃破したテロリストたちの機体。そのほとんどが証拠を残さぬよう自爆していたが、何らかの情報が得られるかも知れないと回収されることになっている。

 

「敵ながら見事……とも言えんね。ただ騒ぎを起こし、失敗した。哀れなものだよ」

 

 ガランのゲイレール。その残骸を見ながらマクギリスは言う。その傍らの三日月は興味なさげに火星ヤシの実を口に放り込もうとして……ポケットの中に残っていないことに気付く。どうやらうっかり入れ忘れてきたようだ。

 ジャンパーのあちこちを探る三日月の様子にくすりと笑みを浮かべて、マクギリスは懐から包みを取り出した。その中には一口サイズのチョコレートがいくつか包まれている。

 

「良ければどうかな?」

「ん、あんがと」

 

 遠慮無く一つつまみ、包みを解いて口に頬張る三日月。視線を前に戻したマクギリスは再び口を開く。

 

「君たちのおかげで騒動を収めることが出来た。ありがとう」

「仕事だから。礼ならオルガやビスケットに言ってよ」

「はは、そうだな。……あるいはアグニカも、君たちのような人間だったのかも知れないな」

「あぐにか……誰?」

「【アグニカ・カイエル】。最初にガンダムフレームを駆り、厄祭戦を戦い抜いた男。GHでは英雄視……ほとんど崇拝されている人物さ」

「ふーん」

 

 ぴんと来ない話だった。そも昔の人間なんぞに興味のない三日月である。まあそんな反応だろうとマクギリスも気に留めない。

 

「それはいいとして、ともかく回収した機体や僅かに残った遺留品、そして確保した生き残りからの情報を集め分析し、裏を取らなければならない。君たちにも協力を仰ぐこととなるだろう。あとで私から話をするが、君の方からもよろしく言っておいてくれ」

「ん、分かった」

 

 戦いは終わったが、まだ全てが終わったわけではない。いや、ここからが始まりである。

 少なくともマクギリスはそう感じていた。

 もっとも、彼が画策していた展開とは少々違う方向に事態は推移していくのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーヴラウを襲った前代未聞のテロ事件。それはテロリスト一味の壊滅にて一応の終結となった。

 マクギリスが引き連れてきたGH技術陣によりアリアドネ通信網が回復した直後、蒔苗は全世界に事件の終息を宣言すると同時に、テロリストの背後関係を徹底的に追及すると表明した。これにマクギリスも同意。限定的ながらGH警務局との協力を確約する。

 このことが、各方面に様々な影響を与えていく。

 

「……以上が報告となります。テロリスト関係の捜査は警務局に引き継ぎ、地球外縁軌道統制統合艦隊とヘイムダルは通常任務へと復帰しました」

 

 ヴィーンゴールヴ、セブンスターズ会議室にて、マクギリスはアーヴラウ騒動の報告を行っていた。本来であれば事件解決を喜ぶべき場なのだが、満足げに頷いているガルス以外の反応は芳しくない。

 今回の件で『アーヴラウの勢力が全く衰えなかった』からだ。表立っては言わないが、半数は目の上のたんこぶであるアーヴラウが弱体化するのを望んでた節がある。その一角においては黒幕だ。面白いはずも無かろう。

 

「ふむ……しかし今回の件は不自然な点が多いのお。特にアリアドネ通信網の断絶などというあり得ない事態。あるいはアーヴラウの自作自演だったという可能性も考えられるのではないか?」

「左様。報告にあったガランなにがしというテロリスト首魁の存在もあやしいものだ。果たして実在していたのかどうか」

 

 ネモとエレクがそう口にするが、マクギリスは動じる様子もなく。

 

「ガラン・モッサについては、アーヴラウ入国管理局においてその存在が確認されております。そして防衛組織の一部と接触を図っていたという確たる証拠もありました。……確かにGHが秘匿であるアリアドネに干渉するなどということは俄に信じがたいことでありますが」

 

 すう、とマクギリスの目が細くなる。

 

「最低でもアーヴラウにアリアドネへ干渉する技術はありません。百歩譲って彼らの主導であったとしても、『アリアドネに干渉することの出来る存在が、GH以外にあった』。この事実はゆゆしき事態だと愚考致します」

 

 白々しいとも言える言いざまであった。分からないのはガルスとイオクだけだ。『GH以外に出来ないのであれば、GHが関わっているしかない』と言うことを。

 正道という建前を纏ったマクギリスは、言葉という駒を盤上に差す。

 

「幸いにして、というわけではありませんが、警務局だけでもアーヴラウに介入させることが可能となりました。これを奇貨として事の真相を探るべく尽力するべきかと」

 

 捕虜を捕らえ裏取りしていることなどおくびにも出さず言う。あるいはラスタルも察している事なのかも知れないが、そう簡単には動けまい。下手をすれば自分が黒幕だと露見してしまうのだから。

 しかしラスタルもまた、臆面もなく。

 

「確かにアリアドネに干渉できる存在があるとすれば、GHの沽券に関わることだ。この件に関して、我々に出来ることがあれば協力するとしよう」

 

 堂々と言ってのける。己とガランたちとの関係が露見しないと言う自信からか。あるいは『露見しても構わない』と考えているのか。マクギリスにはまだ判断は付かない。が、これで大人しくしているような人間でないことは確かだ。

 

「感謝致します。それでは今後の活動方針についてですが……」

 

 上辺だけのやりとり。水面下で交わされる見えざる刃。

 野心を持つもの。それに対抗しようとするもの。己の安寧だけを願うもの。安泰であると過信するもの。ただ己が信奉する存在に従うだけのもの。様々な思惑が、今のセブンスターズを形作っている。

 とうの昔に亀裂は入っていた。砕け散る時は、そう先のことではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラスタルの執務室。深々と椅子に腰掛けて、ラスタルは深く息を吐いた。

 

「こうも見事にしてやられるとはな。やつらの力量、甘く見すぎたか」

 

 やつらとはマクギリスであり、アーヴラウであり、鉄華団であった。一つ一つが相手であれば、出し抜けただろうという確信がある。だが彼らはアリアドネの断絶という状況の中で互いに手を取り合い、協力し合って窮地を切り抜けた。相応の信頼関係がなければできないことだ。そしてそこまでの信頼関係を構築していることを読み切れなかった。敗因はそこであるとラスタルは考える。

 正直、マクギリスが他者と強い信頼関係を結べるとは思っていなかった。彼は他人を信じない。『根本的にそう言う人間だと、思い込んでいた』。

 始めての接触はまだマクギリスがイズナリオに引き取られて間もない頃で、己も若い時分の頃である。木陰で本を広げていた痩せっぽっちの子供。その襟元に『殴りつけられたような青痣』があるのを見て取ったラスタルは、親切を装ってなにか欲しい物はあるかと問うた。少年の答えは『バエル』。GHが支配者たるものの証……『と思い込まれている』存在であった。それを宣った少年の目。暗く澱んだその瞳。他者を拒絶し絶対的な力を欲するその色は時を経て色褪せたように見せて、その本質は変わっていないと思っていたのだが。

 

「時を経たことで変わったとは思えないものだが、認めざるをえんな」

 

 かつての少年とは違う。時を経た変化ではなく『何か』が劇的に違う。ここにきてやっとラスタルはそれを認識した。

 切り札の一つである旧友を用いてアーヴラウの通信網を叩き斬った策。アーヴラウ首脳陣とマクギリスの排除を狙った大がかりなそれを乗り切られたからには、最早生半可な小細工は通じまい。やもすれば想定よりも早く『正面切っての武力衝突』を考慮に入れる必要があるだろう。彼はまだ逆転の機会があると睨んでおり、諦めてなどいなかった。

 ラスタルにも現状を憂う危機感と、理想を追い求める意志はある。それ自体は間違いでなく、むしろGHを改革するにふさわしい理念であった。だが『それに至る道筋の是非を問われる』。そんな事が起こるとは、この時点で予想もしていない。

 ここから先の策謀が己の首を絞めることとなると、さしものの彼も見通すことは出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガランの死を伝えられてから、ジュリエッタはシミュレータルームにほぼ籠もりっぱなしとなっていた。

 師として、あるいは育ての親として慕っていた男の死は、彼女の心に悲しみと憤りをもたらしている。確かにアーヴラウのものたちからしてみれば、彼はただのテロリストで犯罪者であったのかも知れない。だがジュリエッタにとっては、かけがえのない存在であり恩人であったのだ。

 そして彼は大儀のために密やかな戦いを続けていた。たとえ世界が罪人と咎めようとも、秩序を保つため戦い抜いて散ったのだ。それを世に知らしめることが許されないのが悲しく、口惜しい。そういった鬱屈を晴らさんとするかのように、彼女は自己鍛錬に没頭していた。

 とは言っても、今までのやり方ではいくら鍛錬しても劇的な技量の向上は望めない。それぐらいは判断できる理性は残っていた。であればどうするべきかと考えたところで思い出す。

 マリィに示唆された演習データ。資料室のデータバンクから捜し出したそれは他でもない、地球外縁軌道統制統合艦隊と標的艦隊の演習記録であった。

 まず映像記録をみたジュリエッタは唖然とするしかなかった。僅か1個中隊が、数倍の相手を蹴散らしていく。それを成す最先鋒は濃紺に染められた1機のグレイズ。まるで電光のように戦場を駆けめぐり、有象無象を寄せ付けない。追いすがれたのは数機のみで、それも次々と脱落していく。

 見ただけで理解できた。格が違う。あるいは以前戦った海賊や民兵組織のガンダムフレームよりも上。何もかもが自分なんぞの手が届く範囲にない。正真正銘の怪物だと、ジュリエッタは戦慄を覚えずにはいられない。

 興奮冷めやらぬまま、ジュリエッタ演習のデータをシミュレーターに落とし込み、実際に体感してみることを試みる。

 瞬殺であった。データ上の敵機はパイロットの技量を含む全てのスペックを発揮できるわけではない。だというのにまるで歯が立たなかった。まるであざ笑うかのように攻撃を避け、スリのように懐に潜り込み、雷のような打撃を喰らわせて消える。その一連の流れが分かっていても、回避も反撃も許されない。瞬きの一瞬すら隙になるような、でたらめな強さ。それは本来反応が間に合わないような高速域で機体を自在に制御しているからこそのものだ。

 恐らくは相手の動きを全て予測しているからこその事。かのパイロットから見れば一般兵の動きなど止まっているも同然なのだろう。再現データでこれなのだ、実物はもっととんでもないだろう事は容易く予想できる。

 今の自分の戦い方では逆立ちしても敵わない。嫌でもそれが分かってしまう。それでもどこかに打開策を見いだせないかとシミュレーションを繰り返し、演習記録を何度も見返す。そして。

 

「……この機体」

 

 彼女が注視したのは、最後まで蒼の魔人に食らいついた1機。アリアンロッド部隊所属であるその機体は、ランディール・マーカスほどではないにしろ確かに高い技量を持っていた。だがその機体が最後まで食らいつけたのはそこが理由ではない。

 一撃でパイロットを気絶に追い込む蹴りに対し、腕を、脚を、自らぶつけることによって相殺を計っている。もちろん損傷し、最後には達磨もかくやという姿になって結局は撃墜判定を受けていた。だがそれでも最後まで食らいついたことには変わりなく、何よりコクピットと主機さえ無事なら機体なんぞ磨り潰しても構わないとでも言うような気迫が感じ取られた。

 ランディール・マーカスとはまた違う、狂気じみた何かすら感じさせるその機体。パイロットデータまでは公開されていなかったが、その機体に印された『片翼の妖精』のエンブレム。そこから辿れば素性が分かるかも知れない。

 

(この機体と同じ事が出来るとは思えませんが、参照にすることは出来るでしょう。できれば本人に会って話を聞くことが出来れば……)

 

 眉を寄せ厳しい表情で考えるジュリエッタ。と、その傍ら、テーブルの上にことりと缶コーヒーが置かれた。

 

「精が出るのは結構だが、適度に休まなければいざというとき働けないぞ? それは君も望むところではあるまい」

 

 仮面の男、ヴィダール。ジュリエッタの鬼気迫る様相に誰もが近づく事を躊躇った領域にするりと入り込んだ男は、気安く言葉をかけてきた。その有り様になにか苛つく物を覚えて、ジュリエッタは刺々しく言葉を返す。

 

「そんなことは分かっています。己の限度をわきまえられない人間だと思われるのは心外ですね」

「ならばいいさ。……コロニーの独立運動過激派を鎮圧する任務が、近々第2艦隊に命じられる。丁度機体の調整が終わったから『慣らし』のついでに俺は参加するつもりだが……君はどうする?」

 

 ラスタル直下とされているジュリエッタは、アリアンロッドの権力下で自由裁量を持つ。だがその意志は、果たして『自由』であるのかどうか。

 

「勿論参加します。ラスタル様の大望がため、ひいてはGHの大儀のため、私は止まるわけにはいきませんから」

 

 缶コーヒーを無造作に飲み干すジュリエッタ。そんな彼女の様子を見ながら、ヴィダールは声に出さずに呟いた。

 

(『GHの大儀』、か。……果たしてそれは『本当に大儀と言える物』なのかね)

 

 仮面の男にも、思うところはある。全てを押し隠してラスタルに従う彼の目的は、果たしていかなるものなのか。

 無表情な仮面に隠された感情は、やはり無機質に覆い隠されたまま。その意志は、ようと知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 争乱の終結直後、地球に降り立ったユージンたちがまず行ったのは、ラディーチェの『引き渡し』であった。

 鉄華団団員がこぞって殺気を向ける中、へらへらと現れたジョニーは、縛り上げられた上監禁され床に転がされていたラディーチェの顔を覗き込む形でしゃがみ、にい、と笑う。

 

「おーおーお。随分とまあ男前になって。欲かきすぎた挙げ句がこれとは、ざまあねえな」

 

 最早原形を留めない形となったラディーチェは「た……たすけ……」などと呻いているが、もちろんジョニーはにたにた笑っているだけだ。

 そこに、紙媒体とメモリ媒体の双方を持ったビスケットが現れる。

 

「お待たせしました。こちらが鉄華団地球支部開設以降の各資料。およびラディーチェ・リトロの背任及び横領の証拠です。ご確認下さい」

「おう、あんがとさん。後で確認させてもらうわ」

 

 そう言いながら懐に資料をしまい込む。その様子を見てビスケットは眉を顰めた。

 

「すぐに確認されなくてもよろしいので?」

「その辺はお前さんらを信用してるってことよ。テイワズ相手に下手な誤魔化しするほど馬鹿じゃねえってな」

 

 ちらりと転がってる馬鹿(ラディーチェ)に視線を向ける。たしかにこれと一緒にされるのは不愉快だけどと、ビスケットは微妙に納得できない様子であった。それに構わずジョニーは続ける。

 

「ま、こいつに関して後はおいちゃんに任せてくれや。鉄華団にはちいと泥被って貰うことになるが、ケツ持ちは全部こっちで責任もってやらさせてもらう。後にゃあなるが損失の補填も考えるってマクマード会長直々の言葉だ。信じちゃくれねえかね?」

「……いえ、自分達のような若輩者には過分な言葉です。後のことはお任せしますので、よろしくお願いします」

 

 ビスケットが頭を下げ、周りの団員たちも慌ててそれに習う。皆納得したわけではないようだが、ビスケットの決定に反論するつもりもいようで、大人しく退室していく。

 少年たちが去った後、「さてと」とか呟いてジョニーは再びラディーチェの顔を覗き込む。

 

「お前さんにゃあまだ色々と歌ってもらわにゃならんことが山ほどある。テイワズの看板に泥塗った馬鹿の末路、じっくり味わってもらうぜぇ」

 

 ぬたりとジョニーの口元が歪む。意識が朦朧としているラディーチェがそれを認識できなかったのは果たして幸運だったのか。

 その表情は、地獄の鬼もかくやというほどの凄絶な笑みであった。

 この後、ラディーチェ・リロトは背任と横領の責任を問われ、解雇された……というのが公式記録である。

 それ以降の行方は、ようとして知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の顛末を知ったジャスレイは、内心浮き足立つ気持ちを押さえマクマードの元に向かった。今回の件は明らかなる鉄華団の失点になると、彼は見ていた。いや、『屁理屈であったとしても失点としてねじ込む』算段であったのだ。彼とて伊達や酔狂で№2に居座っているのではない。特に他人を引きずり下ろす手管に関しては一流といっていいだろう。鉄華団の失点を理由にタービンズごと蹴落としてみせると、意気揚々としてマクマードの元にはせ参じたのだが。

 その勢いは、マクマードと面会した途端にしぼむ。

 何しろ親分さん、『ごっつい機嫌が悪かった』。

 

「あン? つまらなねえ用事だと八つ当たるぞジャスレイ。俺ァ今腹だたしくて仕方ねェんだよ」

 

 忙しなく出入りする側近。そしてテーブルに山と積まれた資料。複数のタブレットと睨みっこしているマクマードは、射殺しかねない視線をジャスレイに向けた。口調がいつもより乱雑になっているのを自覚しているのかどうか。とっとと出て行けでなきゃ殴るとでも言いたげな親分の様子に腰が引けながらも、ジャスレイはなんとか言葉を紡ぐ。

 

「お、お忙しい中申し訳ありませんが、アーヴラウの顛末について言いてえことが……」

「今『それ』をやってる真っ最中だよ。お前さんは直接なんの関係もねえだろうが。なんか口出しする事があるってェのか?」

「いや、組織の重鎮として、知らぬ存ぜぬじゃあいられねえと……」

「資料は回したろうが。よりにもよって『テイワズ直々に選出したお目付役が、裏切りやがった』。クソが俺達の顔に泥塗るだけじゃなく、『アーヴラウとの商売も台無しにしやがった』んだよ。鉄華団のおかげで首の皮一枚繋がったが、暫くは商談をねじ込むのも難しい事になっちまった。それが全部『あのクソがやってたようなちっちぇえ横領なんかを見逃してた』せいよ。手前の甘さに腹が立つわ!」

 

 ラディーチェがテイワズを甘く見ていたのは、『能力的に優秀な人間が些少の不正を行う事を見逃していたテイワズの方針』にある。要するにあの男、以前から不正をしていた上で見逃されていたため、調子に乗っていたようだ。

 これは元々テイワズがマフィア的組織から成り上がった事に起因する。そういう組織なものだから臑に傷を持つ連中が多いというか、マクマードを筆頭とした経歴のやばい人間が幹部を占めているような状態だ。そういったものだから倫理的な感覚が世間一般とはちょっとずれている。ゆえにか能力があれば多少の不正は見逃しておく、などと言うことも一部では横行していた。

 もっともマクマードはそのあたりが問題になっていると考えており、少々手荒いくらいに引き締めを計っていた……矢先にこれだ。しかもやらかしがやたらとどでかい。そりゃあキレる。これ以上ないってくらいにキレる。

 

「ともかくあのクソは豚の餌だが、話はそれじゃ済まねえ。商談は暫く凍結、鉄華団の地球支部も規模を縮小しなきゃならんだろうな。結局骨折り損のくたびれもうけよ。黒幕を捻り殺してやりてえくれえだ」

 

 想像の中でどこぞの陰険ヒゲを締め上げながら毒づくマクマード。滅多にない怒りを露わにした様は、ジャスレイに冷や汗をだらだら流させるには十二分であった。

 

「しゅ、縮小ですかい」

「ああ、あいつらに責はねえとはいえ、まがりなりにも所属している人間がやらかしたんだ。アーヴラウに対して誠意を示す必要もある。形だけでも何らかの処罰は下さにゃならん」

 

 それにとマクマードは続けた。

 

「どのみち商談が凍結するんだ。今のアーヴラウじゃ奴ら防衛組織の教練と再編成の手助けくらいしか出来ねえだろうよ。暫くは地球じゃ大人しくさせとくしかあるまいさ」

「さ、さいですか」

 

 処罰があって勢力が弱まるというのであれば、ジャスレイとしてもそれ以上の難癖を付けるわけにはいかなかった。何より今のマクマードをあまり刺激したら自分に矛先が向くかも知れない。ジャスレイは薄氷の上を歩む思いで、マクマード前からそそくさと消えた。

 とにもかくにも、地球での騒動は圏外圏にあるテイワズ本体にも影響を及ぼした。おかげでマクマードを始めとした多くの人間が忙殺され、あほとヒゲ2人に対して怨嗟の声を上げたとか上げなかったとか。

 なおしばらくの後、テイワズ内でこそこそ不正を行っている者たちの元に、あるデータが送られた。なんのことはない、『豚の餌の製造過程が、懇切丁寧に記録された動画』である。

 不正は格段に減った。

 あとなぜかミンチマシンを見たら発狂する人間が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態の終結から一月。ようやくオルガはアーヴラウへと足を踏み入れた。彼がまず行ったことは、蒔苗との面会である。

 

「この度のことは、誠に申し訳ございませんでした。鉄華団代表として謝罪させて下さい」

 

 直立不動から深々と頭を下げる。その様子を見て蒔苗はぱたぱたと手を振った。

 

「お前さんに神妙な態度をされると調子が狂うわい。……謝罪は確かに受け取った。これ以上お前さん方に責は問わぬよ」

 

 まあ座ってくれと向かいの席を勧め、オルガが座したところで改めて話を進める。

 

「正直鉄華団には救われた。状況が状況でなければ盛大に礼をしたいところじゃが……流石にうるさいのが多くてのお。すまんが『テイワズの決定に便乗させて貰う形』となった。悪く思わんでくれ」

「いや、形だけでも地球支部を残してくれるのはありがてえ事です。そちらも大変でしょうに」

 

 表沙汰にはならなかったが、ラディーチェを抱え込んでいた鉄華団になんのペナルティもないという事を納得できない人間だっている。責任を取るという形は必要だった。

 それに今回のことでアーヴラウも相当の痛手を喰らった。人的損害はほぼ負傷者だけで済んだが、テロで受けた損害はそれなりに大きく、またアリアドネを一月近くに渡って停止された事による損失も馬鹿にならない。そう言った事情もあって、獅電の大量購入という商談は白紙に戻すしかなかったのである。

 結果鉄華団は軍事オブサーバーを外され、規模の縮小を余儀なくされる。具体的には支部長であるビスケットと副支部長のチャドを解任、駐留する戦力を減らし、一介の傭兵団としてアーブラウ政府に雇われる形に変更されることとなった。

 これによりアーヴラウ政府に首根っこを掴まれ、その影響力は減退した形だ。実質的には蒔苗が直接の支配下に置かれ庇護されているのであるが。

 アーヴラウとしてもテイワズとの繋がりが断たれるのは避けたいし、テイワズの方でも大口の商売相手となるアーヴラウとの関係を保ちたい。そんな両者の思惑から鉄華団地球支部の存続は決定された。状況が落ち着けばテイワズとの商談は再開されるだろうが、鉄華団が元の規模になるかどうかは不明瞭である。

 

「今回の件で防衛組織が十分に機能すると証明されましたからね。俺らの役目も果たされたと言っていい。解雇されないだけでも御の字ですよ」

「恩人たちを早々簡単には放り出せんて。……それで、ビスケット君の後任は決まっているのかね?」

「ええ、暫くは支部長代理という形になりますが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ!? 俺……僕が支部長代理!?」

 

 素っ頓狂な声を上げるのはタカキ。言いつけたユージンは「そうだ」と頷いた。

 

「団長やビスケットとの協議の結果だ。全員一致の意見だったぞ、地球支部を任せられるのはタカキしかいねえってな」

「いや、そんな……僕なんて……」

 

 狼狽えるタカキに対し、ユージン以下幹部たちはにやりと笑みを浮かべた。

 

「じゃあみんなの意見を聞くが、どうよ?」

 

 そうやって話を振れば、地球支部に携わった団員たちが口々に言い始める。

 

「え? 普通にありっしょ」

「ビスケット支部長あちこち跳び回ってて、よく代理してたじゃん」

「訓練とか演習とか仕切ってたのタカキだし、問題ねえな」

「防衛組織の人たちとも仲良いしさ」

「俺らん中じゃ擬音じゃなくて理屈で戦術とか説明できるのタカキだけだしねえ」

「なんだかんだ言って、一番地球支部の事分かっていて貢献してるんじゃね?」

 

 否定する意見が無いどころか全員が推してるようだ。ますます狼狽えるタカキだが、ビスケットがにっこりと告げた。

 

「見ている人は見ているし、評価もするさ。君の働きは十分信頼に価する。みんなそう感じているからこそだよ。勿論俺もね」

「それは……ありがたいことですけど」

 

 まだどうにも吹っ切れないタカキ。その肩にぽんと手を置く者がある。

 アストンだ。彼はタカキの目を見つめて頷いた。

 

「タカキならやれるさ。俺が保証する」

 

 ぶっきらぼうだが信のこもった言葉。タカキはそれを受け、諦めたかのように大きな溜息を吐く。そうして面を上げれば、彼の目には決意の光が灯っていた。

 

「分かりました。どこまで出来るかは分かりませんが……支部長代理、慎んでお受けします」

 

 おお、と団員たちが歓声を上げる。喧噪の中にっと笑ったアストンと、しょうがないなあといった笑みを浮かべたタカキが、軽くこつんと拳をぶつけ合った。

 

「あ、それと支部長代理補佐はアストンな」

「なにい!?」

「あ、それも問題ないっすね」

「タカキアストンコンビなら安心して支部預けられるってもんよ」

「実質地上支部のエースだしなあ」

「色々資格取るために勉強してんだろ? フウカちゃんが言ってたぞ」

「ちょっと待てお前ら俺に補佐押しつけようとしてない!?」

 

 まあそんなこんなで、地球支部の再スタートは滞りなく進みそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。確かにタカキ君であればそつなくこなすであろうよ。……暫くはアリアンロッドも、ファリド准将の相手でこちらにちょっかいを出す余裕はなさそうじゃしのう」

「……あの男が、何か?」

 

 すう、とオルガの目が細められる。蒔苗が返してきたのは、意外な言葉で。

 

「非公式で詫びを入れてきよった。今時GHでは珍しい男よ。テイワズの会長も同じ事をしてきたが、立場が違う。何よりGHで詫びを入れるという発想が出来る者が何人おる事やら。律儀ではあるようじゃが……」

 

 蒔苗の眼光もまた鋭いものとなる。

 

「オルガ団長、あの男どう見る」

「確かに律儀なところはあります。だが未だに何を考えているのかが読めねえ。単純に覇権を掴みてえのか、それとも他の目的があるのか。……ただ言えるのは、GHの内部抗争を平穏無事に済ますつもりはねえって事ですね。まず間違いなく武力衝突を前提として動いている」

「そのための利用価値が、我々にはあるということかの。鉄華団の戦力とアーヴラウからの政治的圧力。そのあたりを当てにしていると言うところか。そしてその先に何を成すか。……ふむ、やはり油断のならぬ男のようだ」

 

 蒔苗は鼻を鳴らして髭をしごいた。

 

「どうにも鉄華団にはまだまだ苦難が待ちかまえているようじゃの。君たちには世話になっておるし、アーヴラウの中にも恩義を感じている者は多い。助けが欲しいときにはいつでも言うてくれ。可能な限りの力を貸そう」

「ありがとうございます、代表」

 

 深々と頭を下げるオルガ。蒔苗はうむうむ頷いていたが、不意に何かを思い出したように手を打った。

 

「そうそう、その話とは別じゃが、一つお前さん方に頼まれて欲しい事があってのう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火星での研修。経験を積ませると言うことですか」

「そうじゃ。今激動の時を迎えている火星。その実態を目の当たりにしたいと本人も言うておる。そして地球圏外から俯瞰の目でアーヴラウを見る視点も得られるじゃろうて」

 

 オルガに次いで蒔苗と面会したクーデリアもまた、鉄華団と同じ事を頼まれていた。

 『とある人物を火星で学ばせて欲しい』。その人物はいずれアーヴラウの将来を担う……かも知れないとのことであったが。

 

「儂の後継者……と言うにはまだまだ未熟なひよっこよ。その目はあるかも知れぬという程度さ。どちらかと言えば、お前さんの方がまだ儂の跡を継ぐのに向いておるだろうよ」

「……それは過分な評価であるかと」

「そうでもないと思うがの……まあお前さんは火星の発展に全力を尽くすことが本懐じゃろうから、振られることは当然なのだがな」

 

 くく、と蒔苗は笑む。

 

「いずれにせよ国の中核を成す人材を育成することは急務じゃ。彼女だけではない、儂がおらんようになってからも国を滞りなく動かせる人間を育てるため、色々手を尽くさねばならん。協力してくれればありがたい」

「勿論お受け致します。蒔苗代表から受けた恩、少しでも返せれば幸いかと」

「こちらはこちらで恩を受けっぱなしだと思っておるのじゃがな。……特に鉄華団には足を向けて寝られんわい。儂だけではない、防衛組織の面々など今回の処置で具申してきた者が多かったわ。2度も国を救ってくれた恩人たちをすげなく扱うのはいかがなものか、とな」

 

 鉄華団を擁護する声は意外に多かった。彼らがそれだけアーヴラウに溶け込み、信用されていた証だろう。地球支部の残留でもっとも喜んだのはそういったものたちであるかも知れない。

 そんな鉄華団との関係を維持していきたいと思っているのは蒔苗だけではない。何か事があれば、アーヴラウは総力を挙げて鉄華団の援護を惜しまない体制であると言っても過言ではなかった。

 それを理解しているのかどうなのか、クーデリアはくすりと意味ありげな笑みを浮かべた。

 

「その彼らの手助けになるかも知れない話があるのですが、聞いてみますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒動の後始末と支部の縮小による整理などで、オルガたちは暫く忙しい日々を送ることとなる。

 そんな中、オルガの元を尋ねてきた者がいた。

 

「忙しいところをすまないね。君が地球にいるうちに話をしたかったんだ」

 

 仮面の男モンターク。しかし商談を口実に現れた彼は、仮面と鬘を折り払いマクギリス・ファリドとしての素顔を露わにしてオルガの前に立った。

 

「君たちには……いや、アーヴラウ、テイワズ。先の件に関わった全ての者に迷惑をかけた。謝罪してすむものではないが、ひとまず頭を下げさせて貰いたい」

「そいつはもういいさ。蒔苗代表、そして『うちの親父にも』詫びを入れたんだろう? 十分に過ぎる。……本題を聞かせてもらおうか」

 

 マクギリスの謝罪を遮って話を促す。急いていると自分でも思うが、目の前の男相手に悠長なことをしている余裕はないと危機感じみた物があった。その反応に何を思ったか、マクギリスは薄く笑みを浮かべる。

 

「この間の件で実感したと思うが、アリアンロッドの、いやGHの横暴は留まるところを知らない。己の目的を果たすためであれば形振り構わず何者をも巻き込む有り様だ。もはやGHをこのままにしておく訳にはいかないだろう。血を流し痛みを伴ってでもGHにメスを入れる。それは私自身の目的のためにも必要なことだ」

 

 薄い笑みが消える。鋭い眼差しに真剣な色を載せ、マクギリスは言葉を紡ぐ。

 

「鉄華団にその手伝いを依頼したい。具体的にはアリアンロッドとの武力衝突のおり、援軍として参戦して貰いたいんだ。GH最大戦力である彼らを打倒することが出来れば、私が頂点に立つことに反する者はいなくなる。ただその一戦を勝ち抜くため、力を貸して貰えないだろうか」

 

 深々と頭を下げる。その態度は真摯なものであったが、未だその内面を計りかねているオルガは渋面のままだ。

 

「……それだけの大仕事となれば、報酬も生半可なものじゃ済まねえ。何を差し出すつもりだアンタは」

「相応の金銭、そして私が全てを掌握したならば、『GH火星支部の権限全てを譲渡しよう』」

「っ!?」

 

 流石にオルガも面食らった。予想外に過ぎる提案であったからだ。

 

「勿論一度に全てというわけではなく、段階的に民間委託からという形になるだろうが、火星支部の権限を受け継ぐと言うことは実質的な火星の支配者……火星の王とでも言う存在となるだろう」

 

 そこまで言ってマクギリスは、にやりとした笑みを見せる。

 

「その権限を君たちがどう使おうと自由だ。『誰かに権利を譲る』も良し、『交渉の材料として使う』も良し。報酬として悪くないと自負しているがどうかな?」

 

 悪く無いどころではない。破格と言ってもよかった。それ以前に辺境とは言えGHの権限を他者に譲るなどと言い出すとは。GHの全てを掌握したいのではなかったのかこの男は。

 内心軽く混乱しているオルガ。マクギリスはさらに話を続けた。

 

「とは言ってもこの段階では口約束にしかならない。だから手付け……と言うわけでもないが、これを渡しておこう」

 

 そう言って彼は懐から取りだしたものをテーブルの上に置く。それは大容量のメモリーカードであった。

 

「……これは?」

「GHで密かに研究されている阿頼耶識システムの研究データだ。これを使えばより安全に阿頼耶識の施術を行うことも可能であろうし、『阿頼耶識手術によって障害を得たものの治療』にも役立つだろう。地球よりサイバネティクスの技術が進んだ圏外圏や火星であれば、使いこなせる組織や人間があるはずだ」

「そいつは! それこそ秘匿技術じゃねえのか!?」

 

 思わず立ち上がって言うオルガ。地球圏で禁忌とされている技術を取引材料に使うなど、正気すら疑わしい話だ。

 だがマクギリスはすました顔で。

 

「私は阿頼耶識を『禁忌の技術だと思っていない』。人の命に関わることだから慎重でなければならないと思うが、あくまで技術の一つとしか見ていないよ。安全性さえ確保できればどれだけの恩恵があるか、君たちはよく理解しているはずだ」

 

 そう言われると黙るしかない。確かに自分達はその恩恵でここまでやってこられた部分があるし、便利なものであることには違いがない。自分達は人には勧めないが、安全であるならば自ら望んで施術を受けたいと思うものも多いだろう。確かにこのデータ、その価値は計り知れないものであった。

 

「そのデータは依頼を受ける受けないにかかわらず君たちに進呈しよう。好きに使ってくれ。依頼の方も今すぐ返事というのは難しいだろう。有り余るほど時間があるわけではないが、じっくり考えて欲しい」

「……分かった。すぐにとは言わないが、必ず返事をさせて貰う」

 

 相変わらず目の前の男が何を考えているのか分からない。分からないが、生半可な覚悟ではないと、それだけは伝わった。

 果たしてオルガの判断は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団施設会議室にて、オルガは鉄華団の主立った面子とクーデリアを集め、事の次第を説明した。そして。

 

「正直うさんくさい。……だがこの話、乗ってみてもいいんじゃねえかと思う」

「は? マジか?」

 

 ユージンが眉を顰めて問う。次いでビスケットが口を開いた。

 

「火星の王なんて言葉に惹かれた……わけじゃないよね?」

「ああ、そも事が成ったからと言って言うとおりに権限を譲渡してくれるかどうか。疑いだしたらきりはないが……」

 

 ことりとテーブルの上にメモリーカードを置く。

 

「覚悟と信用、それを見せられた。このデータは使いようによっちゃあ、あの男を破滅させることだって出来るだろう。それを理解していて俺達に預けた。なまなかな覚悟じゃねえ」

 

 禁忌のはずの阿頼耶識システム研究データを、さらに持ち出して漏洩させる。その意味が理解できない男ではない。よほど鉄華団を信用していなければ出来ないことだ。

 

「そしてあの男の言うとおり、GHを……アリアンロッドをこのままにしておくわけにはいかねえ。あいつらは国一つ、『全く関係ない無数の人間まで巻き込んで』マクギリス一人を始末しようとしやがった。放っておけばこの先どれだけの人間が奴らの身勝手に振り回されるか。それに俺達が巻き込まれる可能性は高い」

 

 何しろ再三GHの策謀を叩き潰してきたのだ。ことあるごとに何らかのちょっかいをかけてくることは間違いないだろう。

 

「だからあの男の話は渡りに船とも言える。この際火星の権限云々よりも、GHの勢力と権限を削ること。それが今後のためには必要だと思う。そのために奴の話に乗ってみるってことだ」

 

 オルガの言葉に、団員たちは理解の色を見せた。

 

「なるほど、確かにな」

「こっちにちょっかいを出せないようにしたいってことか」

「戦力的なことは考える必要があるけど……うん、勝算はありそうだ」

「オルガが決めたんなら、やるだけさ」

 

 前向きな言葉を放つ団員たち。しかし難色を示すものもいた。

 

「そんな重要なことを勝手に決めていいのでしょうか。タービンズにも話を通さずに……」

 

 眉を顰めたままなのは、事務手続きを仕切るため同行してきたメリビット。そんな彼女にオルガは頷いてみせる。

 

「もちろん兄貴には話を通す。いや、兄貴だけじゃねえ。テイワズ、火星の各勢力。そういった沢山の人間を関わらせたい。その中心になるのは……お嬢、あんただ」

「わたくし、ですか?」

 

 突如話を振られて目を丸くするクーデリア。語るオルガの目には力強い光が宿っている。

 

「これまで俺は、鉄華団をでかくすればいいと思っていた。だがきっと『それだけじゃ足らない』。今回の騒動だって、ただ俺達がでかくて強ければ解決したってモンじゃないだろう。多くの人たちと手を取り合って、力を合わせたからこそ成し遂げられたことだ。」

 

 その言葉にタカキとアストンが頷く。オルガは皆を見回しながら、強く言葉を紡いでいく。

 

「だから多くの力を寄り合わせる。言い方は悪いが、火星の王とやらの権限を餌に、多くの人間を巻き込むんだ。それを取りまとめ牽引できるのはクーデリア・藍那・バーンスタイン、あんただけだろう。あんたが進む道を、俺達が造る。目指す先は――」

 

 ぐ、とオルガの拳が力強く握りしめられた。

 

「『火星を中心とし、GHに対抗するだけの力を持った一大勢力』。四大経済圏、圏外圏に次ぐ『第六の経済圏』」

「第六の――」

「――経済圏」

 

 ごくりと誰かが唾を飲んだ。それは突拍子もないように見えて、実現可能ではないかという光明が確かに伺えた。

 決意と覇気をみなぎらせ、男は未来に鋭い眼差しを向ける。

 

「それが、俺達の目指す道だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜遅くになって、オルガは自室で通信回線を開いていた。

 

「そういう結論になった。……アンタのお眼鏡には適ったかい? 教官」

 

 通信の相手は勿論ランディである。スピーカーからはくく、と男の忍び笑いが漏れた。

 

「その様子だと、気付いてたみてえだな」

「アンタが『事務仕事を言い訳にわざと地球に来なかった』ってんなら、最初からな」

 

 考えてみれば当然で、その気になったら事務員ではランディを止められない。意図的に出張らなかったと考えるのが自然だ。

 

「俺達とアーヴラウだけで乗り切ることが出来るのか。それを見たかったんだろう?」

「その通りだ。その上でどう判断するか。今後どうするか。……思った以上だよ、お前さんら」

 

 どうやらお眼鏡には適ったようである。オルガはふう、と息を吐いた。

 

「その上で、『アンタが何を考えていたか、大体分かった』。『俺が今回提唱したようなことを、誰かにやらせようとしていた』んだな」

「ま、薄ぼんやりとだがな。ここまで早く事が進むとは思ってなかったさ」

「で、そう言った勢力がGHとにらみ合いを始めたところで……『横合いからぶん殴る』、と。やっぱえげつねえなホント」

 

 こんな事理解したくはなかったがと、溜息を吐くオルガ。大分ランディに染められているという自覚は、なんというか悲しいものがあった。

 対するランディはくつくつと笑う。

 

「上等上等。お前らはもう『いっぱし』さ。がむしゃらに進むだけじゃねえ、『石橋を叩いて壊して新しく架ける』くらいのことは出来るだろうよ」

「褒められている気がしねえんだが」

「事実を言ってるだけだからな」

 

 笑いを含んだ声が、引き締まる。

 

「『ここからだ』団長。アリアンロッドはなまなかじゃねえぞ?」

「ああ、勝ち取りに行くさ。……俺達自身のためにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

 そう言って彼は懐から取りだしたものをテーブルの上に置く。

 それはチョコが沢山詰まった袋だった。

 

「あわわわ間違えたァ!」

「アンタいつもそれ懐に入れてんのかよ」(呆れ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 暑いよ!
 干涸らびそうです皆様無事ですか私は駄目そうです捻れ骨子です。

 後始末だけで何で長々と話が続くの! ということで後かたづけだけで済んでしまいました今回。
 ラディーチェが横領の挙げ句裏切りなんかした理由ー、元からやってて調子に乗ってた&テイワズにその土壌があったからー、ということにしました。だってそうでもなきゃヤクザ裏切ることなんかしねえでしょう普通。そのあたりの腐敗にむかついて親分さん粛正に走っていたというわけです。ああやっと話が繋がった。さてラディーチェはこの後永遠に姿をくらましますが、一体どうしちゃったんでしょうねー。(棒)

 そしてやっと方針が定まる鉄華団……って原作よりスケール大きくなってないかこれ? こうふわっとした目標じゃなくなったけどさあ。どうすんだよ俺。

 とにもかくにも、なんか筆者自身が危機感を覚えつつ今回はこの辺で。
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