イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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34・空気読めよ、いやマジで

 

 

 

 

 歳星の工房にて、ランディは整備長と意見を交わしている。

 

「【スラスターバインダー】と【イナーシャーコントローラー】って代物がなければここまで手こずることはなかったんだけれどねえ」

 

 可動式シールドユニットと大出力エイハブスラスターを組み合わせた4基のスラスターバインダー、そしてグレイズ系のコクピット左右に備えられている慣性制御装置【エイハブコンデンサー】を機体各所に配して、機体そのものの慣性を制御し機動性を向上させる機構イナーシャーコントローラー。他のMSにはないその装備を備えることによって、ラーズグリーズの要求出力は並のリアクターでは賄えないほどのものとなった。

 

「こいつらがなけりゃあ、ただの『頑丈なシュヴァルベ・グレイズ』ってところでしかねえからなこの機体は。ノーマルリアクターの中身にまで手が出せりゃあ話は別だったんだが」

 

 機体性能を追求したエウロパフレームではあるが、ノーマルなリアクターを搭載した状態では耐久性こそ図抜けるものの、それ以外はシュヴァルベ・グレイズと大差はない。そもそもが『テイワズの技術でガンダムフレームに匹敵するMSを構成する』というコンセプトであったのだが、技術的にツインリアクターの再現が不可能であったことと、リアクターそのものが改造できないことが要因でこの程度の性能に収まっている。

 現時点ではリアクターの調整は可能でも、中身にまで手を出すことは出来ない。車のエンジンで言えば吸気系や排気系を弄ったり交換したりすることである程度の能力向上は見込めるものの、エンジンを解体しボアアップなどの根本的な大出力化は出来ないと言ったところだろう。それが出来るのは、製造技術を持つGHだけだ。

 

「MAのリアクターなんてわけの分からないものを搭載することで解決したけどねそのあたりは。けど予想通りバランスが滅茶苦茶さ。それだけならまだいいけど……」

 

 整備長は溜息を吐いた。

 

「こいつが最大出力を出したら、エイハブスラスターは完全に粒子だけで推進力を得られる。つまり『ガスがいらなくなって無制限に加速できる』わけだ。理論上だけで言えば亜光速までいけるかもね」

 

 エイハブスラスターが推進剤を必要とするのは、『粒子だけでは推力が足らない』からだ。勿論理論上出力が足りれば粒子だけでも推進力を得られるのだが、十分な推進力を得ようとすれば、今度は『機体に回せる出力が足らなくなってしまう』。スラスターバインダーとかイナーシャーコントローラーなんて代物を搭載すれば余計にだ。例え今回のように馬鹿みたいな出力のリアクターを備えそれが解決したとしても、今度は『別な問題』が生じる。

 

「しかしそうなると、『コクピット周辺の慣性制御が許容量を超える』。亜光速までもっていこうものなら即座にぺしゃんこさ。そこまで行かなくても君がお得意の3次元機動を全力でやったりしたら、ざっと20G以上が四方八方からかかることになるね。機体は十分な耐久力があるから保つけど、君さすがにそれ無理でしょ」

「……3分くらいなら、保つかな」

「だからやめときなさいって。……悪いけどこれリミッターかけさせてもらうからね。そうすれば機体のバランスも落ち着くし。それでもシュヴァルベ・グレイズよりよほどじゃじゃ馬になる……」

「ランディさん! 大変です!」

 

 突如手伝いでランディと共に歳星を訪れていたヤマギが声をかけてくる。泡を食った彼の様子に、ランディは眉を顰めた。

 

「何があった?」

「それが、うちの採掘場で、MSとわけの分からない代物が発掘されたようなんです! そのわけの分からないものってのは、もしかしたらランディさんの言っていたMAかも知れません! しかもスリープモードで『まだ生きてます』!」

「……はァ!?」

 

 ランディの悪魔じみた推測能力は、現状の様々な状況を鑑みてあらゆる展開を想定するからこそのものだ。

 その彼をもってしても、生きているMAが偶然発掘されるなんて状況は、想定外どころの騒ぎではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘より1日が経過。

 

「……確かにMA――正確には、その端末である【プルーマー】と呼ばれる機動兵器だな。まさかこの時代まで生き残っている個体があろうとは」

 

 火星から緊急の連絡を受けたマクギリスは、深くため息を吐いた。

 

「それで、採掘場の地下に本体らしき反応があるのは間違いないのだね?」

「ああ、土壌に含まれているハーフメタルのおかげで走査は手こずったが、大出力エイハブリアクターを持つ何かが埋まっているのは間違いねえ。反応を見る限り生きていることもな」

 

 スリープモードのままでほぼ完全体のMAが確認されたとい状況を、オルガはごまかし無くマクギリスに伝えていた。

 

「採掘場の技術者は全員クリュセに避難させて採掘場の周囲は封鎖した。今は鉄華団(うち)の団員だけで監視と、いざというときのための準備を整えている。火星支部の方も協力してくれるそうだ」

「懸命な判断だ。軽率にMSを投入しないことも含めてね」

「ランディ教官に嫌と言うほど叩き込まれたからな、MAの恐ろしさは。あの人が手を出すのを躊躇する代物を相手取るってのはぞっとしねえ」

「状況は理解した。すぐにでも対策チームを組みそちらに行かせる。……いや、私も出よう」

「おいおい良いのかよ。そっちはそっちで立て込んでいるだろうに」

「万が一のことがあって君たちに被害が及べば、計画が水の泡だ。それにそちらで色々用意するにしても、私が直接指示を取った方が通りがいいだろう。なによりGHの端くれとして、生きているMAと言う存在を感知しながら他人任せなどやっていいことではない」

「……分かった。可能な限り現状の維持に努めさせて貰う。だが万が一が起きたら、全力で対処させて貰うぞ?」

「それはもちろんだ。願わくばそうならないように祈っているよ」

 

 その日のうちに、マクギリスは火星でMAらしきものが発掘されたという事実を、セブンスターズ各位に緊急会議にて知らしめ、調査の名目で火星に赴くと宣言した。

 マクギリスにとっても予想外であったこのアクシデントは、状況を濁流のごとく変化させることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクギリスが宣言してしばらくの後。

 

「どうやらマクギリスの報告、本物のようだな」

「はっ、『圏外圏の協力者』からの情報によれば、間違いないことかと」

 

 リークされた情報をラスタルに提示したイオクは、しゃちほこばった態度で頷いた。そうMA発見の報はマクギリスとほぼ同時にイオクの元に届いていた。その情報源は言うまでもなく。

 

「ジャスレイ・ドノミコルスか、気の利く男のようだ。覚えておこう」

 

 テイワズも一枚岩ではなく、崩しかけられる隙があると分かったのは僥倖であった。ラスタルにも伝手はあったが、その相手は油断ならない人物で駆け引きが面倒な相手だ。与しやすい相手と取引が出来るのであればそれに越したことはない。

 と、イオクがラスタルに問いかけた。

 

「ところでラスタル様、そのMAというのは……?」

 

 その質問に、同席していたジュリエッタが呆れたような声を上げた。

 

「まさかGHの上級士官ともあろうものが、MAの事を知らないなど」

「も、勿論知っている! 確認のためだ!」

 

 むきになって言い返すイオク。GHの士官教育の過程で、MAに関する基本的な知識は教えられるし、その情報を閲覧することも推奨されている。艦隊司令ともなれば詳細を知っていて当然のことであった。

 まさかイオクが所詮は過去の遺物などと侮って、ろくに話も聞いていなかったことなどつゆ知らず、ラスタルはMAの種類を問うているのだと判断して語り出す。

 

「タイプ【ハシュマル】。オーソドックスな殲滅型のMAだな。子機の生産能力と、それを利用した自己修復能力を持ち、場所を問わない広域での活動を可能とする。まさか生き残りが存在していたとはな」

「そのようなものを、マクギリスはどうしようというのでしょうか。今更そんなものを直接赴き破壊したところでどうなると?」

「……【七星勲章】」

 

 その言葉を発したのは、腕を組んで部屋の壁により掛かかっていたヴィダール。

 

「MAを撃墜したものに授与される勲章。その授与数に応じてセブンスターズの次席は決定されたと言う。当然ながらこの300年間授与されたものはいないが……」

「なるほど、現在でそれを授与されるような殊勲を上げれば、GHの頂点に立つ足がかりとなるか」

 

 得心したラスタルが頷く。その様子を見て、イオクが声を張り上げた。

 

「ラスタル様! 私を火星に行かせて下さい! マクギリスの野望、この手で阻止して見せましょう!」

「ふむ……」

 

 ラスタルは考える。このところマクギリス陣営にしてやられてばかりで、風向きが悪い。この上で奴に手柄を立てられてしまったらさらに状況は悪化するだろう。横槍を入れるのは悪い手ではないが、イオクの能力だと若干不安が残る。

 

「ジュリエッタ、ヴィダール。イオクについていけ。己の目でMAを確かめることは今後のためにもなろう」

「はっ、了解致しました!」

「了解した。……よろしく頼む、クジャン公」

「ラスタル様! 感謝致します!」

 

 感極まって最敬礼を行うイオク。己の意見を取り立てて貰ったことがよほど嬉しかったのか、目を輝かせてやる気に満ちあふれている彼の様子に、ラスタルは内心嘆息する。

 彼の能力は全く信用していない。だが部下たちはイエスマンばかりとはいえ優秀であるし、万が一を考えジュリエッタとヴィダールを付けた。よほどのことがない限り、失態を演じる事はないはずだ。そう自分に言い聞かせた。親友の息子であり、幼い頃から可愛がってきた手前もあって、どうにもイオクには若干甘くなってしまうことを自覚してはいたのだが。

 この時ラスタルは最低でも確認を取るべきであった。繰り返して言うが、イオクがGH士官として必須である、MAの基礎知識すら記憶していないとは思いもよらなかったのだ。

 当然それが余計な騒動を招く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MA発掘より18日目。

 火星に降り立ったマクギリスは、石動と技術スタッフを率いてMAが発掘された採掘場へと向かっていた。

 

「軌道上における艦隊の配置は滞りなく。……しかしよろしいのですか? 1個中隊とはいえ『彼ら』を投入して」

「あくまでいざというときの切り札さ。出番がないに越したことはない。……MS部隊の備えに手抜かりはないな?」

「はっ、全機に滞空装備及び対艦レールガンを用意しました。いつでも出撃可能です」

「できれば【ダインスレイヴ】を用意したかったのだがな。……さすがに条約禁止兵器を持ち出す許可までは出なかったか」

「例えMAが動き出したとしても、お偉方は自分の尻に火が付けられるまで許可を出さないでしょうね。もっとも己の都合で条約などいつでも踏みにじるでしょうが」

「違いない」

 

 皮肉めいた上層部批判に、マクギリスは苦笑を浮かべる。そうこうしている間に、一行を乗せた車は採掘場へとたどり着いた。

 

「お待ちしておりましたマクギリス准将、ようこそ火星へ。……っと、挨拶はこんなモンで、早速本題といこうか」

 

 採掘場で待ちかまえていた鉄華団。その代表であるオルガは挨拶もそこそこに、掘り進められた大地の大穴が縁へとマクギリスたちを案内した。

 

「あんたと教官の指示通り、採掘場から半径20㎞四方は局地災害の危険性と言う名目で関係者以外退去させた。本体の周囲に爆薬をセットしていつでも起爆できるようにしてあるが……情報通りなら、こいつも気休めなんだろう?」

「それでも足止めの効果ぐらいはある……と思いたいがね。それで、ランディール先輩は?」

 

 姿の見あたらない狂人。その所在を尋ねてみれば。

 

「歳星の方で回収したプルーマーの解体の指揮を執ってる。それも終わったそうだから、てめえの機体の調整が終わり次第こっちに向かうってよ。あの人の出番なんざ来ないほうがいいんだが」

「同感だな。……ともかくまずは我々の技術者による調査と、可能ならば早々に解体作業に移りたい。中枢部とリアクターの切り離しができればあとはこっちのものだ。奴を刺激しないよう慎重に……」

 

 そうやって話し合っていたその時、石動のタブレットにどこからか連絡が入った。

 

「私だ。……なに? ……そうか、分かった。臨戦状態を維持したまま指示があるまで待機。こちらからの連絡が途絶えたら、独自の判断で行動しろ」

 

 通信を終えた石動は、緊迫した様子でマクギリスに声をかける。

 

「准将! アーレスから緊急の連絡が入りました。先程火星圏内に突如GH艦隊が侵入。火星支部に何の許しもなくMSの射出体制に入ったとのことです。艦はブースター付きのハーフビーク級が3。所属は第2艦隊です!」

「なんだと?」

 

 マクギリスが眉を顰めるその上空、火星軌道上に許可無く陣取った艦隊から、次々とMSが射出される。それらはシールドグライダーを用いて一気に大気圏に突入。目指す先は――

 

「……ホントに来た」

 

 慌ただしく採掘場から撤収作業が進む中、オルガの護衛で共をしていた三日月が、空を見上げて呆れたように呟く。

 空にきらめく光。それは徐々に大きさを増し、やがて人に酷似した姿を取る。

 乗り捨てられたシールドグライダーが大地に刺さる中、次々と降り立つのはGH最新鋭機レギンレイズ。その先鋒を務めるのは、試作大型レールガンを備えた黄土色の機体。

 

「イオク・クジャン……なんのつもりだ」

 

 万が一のためにと人員を避難させながら、マクギリスは苦虫を噛み潰したような面持ちで呟いた。そんな彼の姿をモニターに捉えたイオクは、意気揚々と声を張り上げた。

 

「そこまでだマクギリス・ファリド! 貴様の野望、ここで潰えると知れ!」

「何のことだクジャン公! それよりも現状が分かっているのか!」

 

 イオクの注意を惹くためにあえて応えるマクギリス。そんな彼の思惑に気付くことなく、イオクは言いつのった。

 

「ええいしらばっくれるな! 貴様がMAの殲滅を名目に、七星勲章を得ようとしていることは明白! 潔く縛につくが良い!」

「七星勲章……? そうか、それでか……」

 

 別に犯罪行為を起こしていないのに頓珍漢な事を言い出すイオクの事を放っておいて、マクギリスは一瞬考え込む。

 その態度が勘に障ったのか、イオクは――

 

「どこまでもしらばっくれると……」

 

 言いながら機体を一歩踏み出させようとした。

 

「っ! そこから動くな!」

 

 気付いたマクギリスが警告の声を放つが遅い。ずしゃりと機械の脚が大地に踏み込み、そして。

 地中に埋まった何かのモニターアイが不気味な光を放った。

 ずず、と僅かに大地が震え、その次の瞬間轟音と共に採掘場そのものに激震が走った。

 

「っ!? な、なんだ!?」

「いかんっ!」

 

 突如揺れ始めた地面に驚くイオク。 歯噛みし人員の退避を急がせるマクギリス。

 大地が揺れる中、それでも彼らは冷静さを失わず。

 

「オルガ団長!」

「ああ! 一斉起爆しろ!」

 

 マクギリスの言葉を受け、オルガが団員に命じる。

 掘り広げられた採掘場の壁面。その一角が轟音と共に吹き跳ぶ。

 爆煙と共に大きく崩れる岩肌。その様子を見たユージンが嘆く。

 

「ああくそ、折角あそこまで掘り進んだってのに……」

「だがこれで時間は稼げるはずだ、いまのうちに後退を……」

 

 その時、再び轟音が響き、そして。

 閃光が、天を貫いた。

 大地から湧き上がる光の奔流。それは崩れ落ちた岩塊を『溶解させながら』吹き飛ばす。

 

「な、なんだありゃあ!」

「ビーム兵器か! あれほどの威力とは……」

 

戦慄の空気の中、三日月は眦を鋭くし呟いた。

 

「……来る」

 

 どう、と一際大きな轟音が響き、噴火のように土煙が吹き飛ぶ。

 その中から悠々と姿を現すもの。白を基調とした機体、左右に広がる翼のようなバインダーユニット、長く伸びた鳥類を思わせる脚部。

 鳥の嘴のような頭部をゆっくりと巡らせて、それは怪鳥のような咆吼を上げる。

 きゅいいいいい、と耳障りな音が響く中、トラックに分譲した鉄華団とマクギリス率いる調査団は脇目もふらず採掘場を後にする。その背後で、姿を現したMA――ハシュマルに対し、イオクはさらなる思慮のない行動に出ようとしていた。

 

「くっ、これがMAか……だが相手にとって不足はない!」

 

 彼は果敢にMAへと挑むつもりであった。無謀に過ぎるどころではないその行動は。

 

「お止め下さいイオク様!」

「今の装備ではあれに対抗することなど叶いません! ここは撤退を!」

 

 配下の機体がイオクのレギンレイズを羽交い締めにし、残ったものが前に出て主君の盾ににならんとする。

 

「ここは我等が! イオクさまはお下がりを……ぐわあっ!?」

 

 殿に立とうとした機体が、横殴りに吹っ飛ばされた。それを成したのは蛇のごとくのたうつ何か。【テイルブレード】と称される、特殊ワイヤーによって自在に動く遠隔兵装であったが、それを認識する間もなくまた1機レギンレイズがコクピットを貫かれ犠牲となる。

 

「き、貴様ァ! 私の部下をよくも!」

 

 激昂したイオクは配下の機体を無理矢理引き剥がすと、機体を前に出しレールガンを構えて――

 テイルブレードに吹っ飛ばされた。

 

「うぐわァ!!」

 

 しかし機体は左腕がちぎれ飛んだだけで、致命傷は受けていない。くそ、妙なところで運の良い奴……ごほんごほん。吹き飛ばされたイオクの機体は、為す術もなく地面に叩き付けられる。

 

「ぐおっ! ま、まだ……」

 

 軋む機体を起こそうとすれば、イオクを護ろうとして配下の機体が前に立つ。

 

「ここは我等が食い止めます! イオク様、撤退を!」

「貴方様が倒れれば、クジャン家はどうなるのです! 今はまず生き延びることをお考え下さい!」

 

 命がけの訴えに、さすがのイオクも我を押し通すことはできなかった。一瞬の迷いの後――

 

「すまぬ、ここは任せるぞ!」

 

 機体を翻して脱兎のごとく逃げ出すイオク。その背後で、絶望的な戦い――いや、蹂躙劇が繰り広げられる。

 

「ここは通さ……があっ!」

「足を止めるな! 的になるぞ!」

 

 大蛇のようにのたうつテイルブレードに1機、また1機と数を減らされるレギンレイズ部隊。最新鋭機がまるで子供扱いであった。

 しかしながら立ち向かう兵たちも無能ではない。今回イオクのお守り……じゃなくて率いてきたのは1個中隊。全員が第2艦隊の選りすぐりだ。圧倒されながらも勝機を諦めはしなかった。

 やがて何人かの犠牲を経て、ついにハシュマルの猛攻をくぐり抜けた1機がその背中に飛び乗る。

 

「ここならばあの武器も使えまい!」

 

 頭部と背中の合間。自身も傷つけかねないこの位置ならばテイルブレードは使えないと踏んだのだ。それは当たりだったようで大蛇の牙は襲いかかってこない。貰ったと確信した兵は機体の獲物を振り上げた。

 そしてそれは、四方から飛びかかってきた影に押さえ込まれる。

 

「な、なんだこいつらは!」

 

 土煙から飛び出してきたのはハシュマルの端末兵器であるプルーマー。昆虫を思わせるそれは、レギンレイズに組み付いてトーチの火花を散らせた。

 

「こ、この、離れろ……うわあ!」

 

 プルーマーを引き剥がそうとした機体はバランスを崩し、地面へと落下する。そこへあっという間にプルーマーの群れが殺到し、飲み込まれた。

 

「ばかな、端末兵器がこれほどとは! 一体どこに……」

「イオク様が安全圏に逃れるまでは……うわあ!」

 

 怒号と悲鳴が響く中、僚機のシグナルが一つ、また一つと消えていく。

 

「私の部下たちが……おのれ、おのれェ!」

 

 イオクは涙を流しながら怨嗟の籠もった声で呻く。

 その目には危険な光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団とマクギリス一行は、あらかじめ設営されていた仮拠点へと移動していた。

 

「状況はどうだ?」

「乱入してきたMS部隊は全滅。現在採掘基地でプルーマーとかいうのが好き勝手やってます」

 

 仕掛けておいたカメラやドローンの映像からは、採掘施設の給油設備や燃料タンクを破壊し集っているプルーマーの姿が映し出されている。それを見てユージンが天を仰いだ。

 

「あ~あ……折角の設備が全部台無しじゃねえか……」

 

 採掘場を担当していた身としては嘆くどころではない光景であった。その横で映像を見ていたマクギリスは鋭い眼差しのままで解説する。

 

「推進剤と駆動油を補給しているのだな。……これほどの数が存在していたと言うことは、恐らくあの採掘場は奴の『巣』だったのだろう」

 

 ハシュマル自身の修復や補給を行う拠点であったと、そう分析するマクギリスは、内心の緊張を押し隠して言葉を紡ぐ。

 

「多分一緒に埋まっていたガンダムフレームを囮にして、飽和攻撃を叩き込み地中に埋めたのだろうな。それで仕留めきれなかったということだ。……だがまだ奴は完全ではない」

「そうなのか?」

「ああ、完調であれば自力で大気圏を脱することが出来るほどの化け物だ。自在な飛行もまま成らずろくな移動速度も出ないということは、全力を出せない状況にあると言っていい。叩くなら、今しかない」

 

 マクギリスの言葉を受け、オルガは頷いた。

 

「だったらパターン4で対処しよう。奴が近場の人口密集地を襲うってんなら、間違いなくクリュセに向かう。空を飛べない今なら絶対このあたりの渓谷を通過するしかねえ。いくつか谷を潰して進路を誘導。こっちの有利な地点で迎え撃つ。准将、そっちの戦力は?」

「対応装備を調えた2個中隊を下ろし、1個中隊を予備として軌道上の艦に待機させる。降下させた戦力と空港に下ろしていた私たちの機体で対処しよう。合流ポイントはここだ。渓谷なら、空中からの制圧で優位を取れる。そのあたりをこちらが受け持とう」

「分かった。俺達は渓谷で迎え撃つ戦力と、出口で防衛線を敷く部隊に分ける。奴をクリュセに向かわせるわけにはいかねえ。ここで仕留めるぞ」

「団長、例のガンダムフレームも使うんですか?」

 

 オペレーターが一人の問いに、オルガは応えた。

 

「今は少しでも戦力がいる。出せるなら出すさ。……シノからは?」

「調整に手間取っているようです。なんでも『今までのフレームにない機能』がついているってことらしくて」

「無理はさせるなと伝えてくれ。……ミカ、昭弘。聞いての通りだ、後方で待機している連中と合流して戦闘準備。こんな下らねえどんぱちはとっととケリ付けるぞ」

「ん」

「了解!」

「では私も準備に入る。作戦ポイントで会おう」

 

 男たちは動き出す。鼻を鳴らして高揚する気持ちを抑えるオルガ。その彼に同行していたメリビットが声をかけた。

 

「気負いすぎないようにして下さいね。はい、お忘れですよ団長」

 

 そう言う彼女の手には、丁寧に折りたたまれた鉄華団ジャンパーがあった。その気遣いにふ、と一瞬目尻を下げてから、オルガは不敵に笑んだ。

 

「ありがとな。これで気合いが入るってモンだ」

 

 ばさりと、男の背中に鉄の華が翻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリュセ郊外の宇宙港にて、マクギリスたちは用意していたMSを受け取る。

 マクギリスは蒼いスタークグレイズ。そして石動に用意されたのは。

 

「【ヘルムヴィーゲ・リンカー】。私のグリムゲルデを改装し、対MA用に設計された機体ヘルムヴィーゲを再現したものだ。君なら使いこなせよう」

 

 騎士の甲冑を思わせるその機体。機体の出力を膂力に振り、パワー重視にセッティングを変更されたその機体を見上げながら石動は問うた。

 

「よろしいのですか?」

「この機体のセッティングは私には向かない。ならばより使いこなせそうな人間に任せるがいいのさ。当てにしているよ、メビウス4」

「はっ、微力を尽くします」

 

 細かい調整を終え、2人は早々に合流ポイントへ向かう。その途中で会話が交わされる。それは愚痴の言い合いのようで。

 

「まさかイオク・クジャンがあれほどの愚物とはな」

「予想外に過ぎますな。悪い方の意味で」

「これ以上状況が悪化しないことを祈るしかないな。……それにしても、七星勲章、か」

 

 くく、とマクギリスは忍び笑う。

 

「そんなものに、今更何の意味があるというのかね」

 

 それは明らかに、嘲笑であった。

 と、そこでレーダーに反応が生じる。

 

「データにない周波数? GHのもののようだが……」

 

 その機体はマクギリスたちが進む先、小高い岩の上に姿を現した。

 水色のMS――ガンダムヴィダール。訝しげに眉を顰めるマクギリスの機体を庇うように、ヘルムヴィーゲが前に出る。

 

「こちらはGH特殊機動遊撃艦隊ヘイムダルである。そちらの所属と目的を聞かせて貰いたい」

 

 いつでも腰の前面に装備されている大型バスターソードを抜けるようにしながら石動が問うた。その言葉にヴィダールは応えない。僅かな沈黙の後、彼は呟くようにこう口にした。

 

「……分からない。友と信じていたものを謀殺しようとしたお前と、火星のために命を賭けようとするお前。どちらがお前の本当の顔なのか……」

(この声? ……まさか)

 

 仮面と通信機越しではあったが確かに聞き覚えのある声に、マクギリスは表情を厳しいものとする。「何を……」と石動が問いただそうとする前に、ヴィダールは機体を翻して姿を消した。

 

「……追いますか?」

「いや、今はそれどころではない。合流ポイントに急ごう」

 

 気になるどころではない。だがこの場を乗り切らねば、それを追求することもできないのだ。

 僅かに後ろ髪引かれる思いを押し殺し、マクギリスは目の前の脅威を排除することに意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 300年の眠りから蘇ったMAハシュマル。かつて世界を地獄に陥れたその存在は、再び猛威を振るわんとしていた。

 対するは鉄の華を背負った少年たちと、若き野心家。

 火星を舞台に、厄祭戦の残り火が燃え盛る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「七星勲章って何の意味があったんじゃー!」

「あったんじゃー!」

「あったんじゃー!」

「あったんじゃー!」

「あったんじゃああああああ!」(なぜか泣き崩れるマッキー)

 

 ごっつは面白かったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 いつの間にか高校野球が終わっていた。見てないけど。
 そんなことよりお目当ての水着キャラが引けたことの方が重要捻れ骨子です。

 さてハシュマル戦開幕の巻~ですが、いや本当なんやったんやサンティンバン……もとい七星勲章。このあたり話は面白かったのに捨て設定が多すぎると思います。MA自体も他の機体出すとかさあ、どっちかの陣営の切り札するとかさあ、最後のあたりで火星に埋まっていたのをマッキーが起こして逆転のきっかけにするとかさあ、もっとこう、あるだろ!? しかしこの話でも多分ほかの機体は出てこない。だが私は謝らない。
 そしてちょっとだけその能力が露わになったラーズグリーズ。慣性制御機構とかエイハブスラスターあたりとか独自設定の名目で好き勝手やってますが、やっぱり私は謝らない。

 ともかく次回は死闘が繰り広げられる予定です。はたしてイオクは原作通りに邪魔するのか。そしてその結果はいかに!? このチャンスに捻れ骨子は始末しちゃうのか!? しちゃ駄目か!?
 ……大分本音がだだ漏れになっていますが、一体どうなってしまうかは次回のお楽しみと言うことで。

 なお次回は帰省とかの関係で、更新が凄く遅れると思いますすんません。
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