イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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38・殴り返すぞ? 答えは聞いてない。

 

 

 

 

  アリアンロッド第2艦隊旗艦。その作戦司令室で、イオクはふんぞりかえってモニターを眺めていた。

 モニターに映るのは運搬されていく『何か』。MSの全高ほどもあるそれは、GHにて秘蔵されていた『兵器』であった。

 それが運び出される様子を見守っていた部下の一人が、恐る恐る具申を行う。

 

「よろしいのですかイオク様。条約禁止兵器を許可無く持ち出すなど……」

 

 その言葉に対して、イオクはふんぞり返ったまま応える。

 

「正義を執行するためには、時に法を超越した判断を下さなければならないのだ! これはそう……政治だ!」

 

 宣うイオク。部下たちはなにか言いたげに顔を見合わせるが、結局それ以上彼に物申す人間は現れなかった。

 この時――いや、最初からイオクに意見し、あるいは諫めることが出来る人材を彼の傍に置いておけば、運命は変えられたかも知れない。

 それが無かったが故に、イオクは己の死刑執行書に我知らずサインを記してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う~ん、扱いやすいんだけど、特徴が無さ過ぎっていうか、特徴がないのが特徴って感じよね」

 

 タービンズ本拠に帰還したラフタたちは、早速新たな仕事に従事していた。獅電に次ぐテイワズの新型MS『辟邪』そのテストを請け負ったのだ。

 獅電よりも高性能の量産機として位置づけられた機体だが、性能が向上した分開発に時間がかかってた。阿頼耶識システム搭載機に対抗すべく高い操縦性と追従性を兼ね備えるが、テストパイロットを受け持ったラフタには、少々物足りなく感じられている。

 

「全体的に獅電より性能が一回り上なのは分かるよ? だけどなんかそれだけって言うか……う~ん、なんだろ」

 

 自分でもよく分からない感覚に、ラフタは首を捻る。そんな彼女に向かって、アジーは声をかけた。

 

「そりゃあんたが『じゃじゃ馬に慣れてる』からだよ。調整もしていないフラットな機体だと、『物足りない』のさ」

 

 ラフタは百里を始めとした癖の強い機体を好んで使っている。鉄華団の教練及びカスタマイズのテストのために供給された獅電も彼女用に調整されたものだ。かてて加えて鉄華団幹部連中ほどではないにしろ、ランディのシミュレーションに挑み続け技量が向上している。そんな彼女にとって扱いやすさを重要視した辟邪は、逆に違和感を感じさせるものとなっていた。

 

「あんまり自覚無いんだけどなあ。ランディのシミュレーション、成績横這いに近いし」

(あのシミュレーションプログラム、技量に合わせて難易度がちょっとずつ向上してるって気付いてないんだね)

 

 バラしたら多分ラフタが荒れるだろうから、黙っておこうと堅く心に誓うアジーであった。

 と、そこに泡を食った様子でエーコが飛び込んでくる。

 

「大変なことになったわ! うちの輸送船がGHの臨検受けて、条約禁止兵器を積んでたって検挙されたって! コロニーの事務所もガサ入れを受けてるらしいわ!」

 

 突如降って湧いた凶報。それはタービンズを窮地に陥れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タービンズ船検挙の報は、各所に大きな影響と衝撃を与えた。特に直下組織である鉄華団は天地をひっくり返したような大騒ぎである。

 オルガたち幹部は、団員たちの動揺を抑えて回ると同時に、各関係機関と連絡を取り合って状況を把握し対策を練ろうとした。しかし。

 

「いいか、お前たちは動くんじゃねえ」

「ですが兄貴!」

 

 彼らが動くことは、当の名瀬から封じられた。

 専用の回線から放たれた名瀬の言葉に、オルガは歯噛みする。

 

「言うまでもないがこいつはあからさまな罠だ。今お前たちが動けばテイワズはおろか、一から積み上げてきた物が全部おじゃんだ。それは分かっているだろう」

「けど! タービンズになにかあれば!」

「テイワズはある程度の痛手を受ける。だが『それだけだ』。ここで手を出して大やけどをするよりは、俺達を切り捨てた方がましだし、『そうあるべき』なんだ。……まあお前たちのケツ持ちが出来なくなっちまうっていう心配はあるが、そこのあたりは親父が上手くやってくれるだろう」

「そう言う事じゃなくて!」

「いいから聞き分けろ。この大事なときにこういう事を仕掛けてくるって事は、向こうさんは焦っているってことだ。この機会を逃せば、それこそ今までやってきたことが無駄になっちまうかも知れねえ。……なに心配すんな。そう簡単にこの首をやつらに取らしてはやらねえよ。精々やつらを一部なりとも引きつけておくさ。……じゃ、達者でやれよ」

「兄貴! まってくださ……」

 

 通信が切られる。その後は着否されたようで、うんともすんとも反応がない。

 がんっ! と拳がデスクに叩き付けられる。ぎしりと歯をを噛み鳴らすオルガの口から、唸るような言葉が漏れ出た。

 

「……このままで、済ますかよ!」

 

 その目は燃え上がるような光を湛え、虚空を睨み付ける。

 それは決して諦めた者がするような目つきではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日月はマクマードの屋敷にて彼と面会していた。タービンズの件でどうするのかと尋ねに来たのである。

 マクマードは忙しい最中でありながら、三日月と対面した。その答えは。

 

「俺は動かねえ。そしてお前たちが動くのも許さねえ」

 

 仏頂面で言い放つその言葉に対し、三日月は「あっそ」とあっさり席を立った。

 

「え!? ちょっと三日月さん!? いいんですか!?」

 

 泡を食ったのは一緒について来たハッシュだ。そんな彼に構わず、三日月はマクマードをただ真っ直ぐに見つめながら言う。

 

「目を見てたら分かる。あんたは梃子でも動かない。いや『動けない』。今動けば全部ご破算だって分かってるから」

 

 その言葉に、眉をぴくりと動かしてマクマードは答えた。

 

「その通りだ。テイワズの全部を危険にはさらせねえ。責任ってのはそういうモンだ」

「分かってる。邪魔したね。……ハッシュ、行くよ」

「三日月さん!? ま、待って下さいってば!」

 

 あっさりと退出する三日月を、慌ただしくハッシュが追う。その姿を見送ってマクマードは溜息を吐いた。

 

「……見透かされてるねえ」

「ああ全く、子供の成長ってのは早いモンよ」

 

 突然かけられた声に、マクマードは慌てず応える。物陰から現れたのはジョニー。いつものようにへらへらした態度で気安く言葉を紡ぐ。

 

「『裏は取れた』ぜ。まったくあの間抜け、自分が使ってる通信機器が『どこの製品』だかすっかり頭から抜けてると見える」

「やはり、か。タービンズの裏航路がどっから漏れたのかと思ってたら、面白くもねえオチだな」

 

 そこまで言葉を交わして、ジョニーの目がすう、と細められた。

 

「で? 『どうする』?」

 

 それに応える言葉は迷い無く。

 

「決まってる。『いかなる者でも裏切りは許さねえ』。そいつが俺らの不文律(ルール)だ」

 

 一方退出した三日月たちだが。

 

「いいんですか三日月さん! マクマード会長を説得しなくて!」

 

 ハッシュの言葉に、三日月はきょとんとした表情を見せる。

 

「え? なんで説得すんの」

「は!? そのために会長の所に行ったんじゃ!?」

「おっちゃんがどういうつもりか確認しに行っただけだけど」

「はい!?」

 

 間抜けな表情を晒すハッシュに向き直ることもなく、三日月は言う。

 

「テイワズが動くんなら俺達もそれなりのことをしなけりゃならない。けどそうじゃないってことは、今やってることをやり遂げろってことだ」

「け、けどタービンズを放っておく訳には……」

「オルガが何も考えていないわけがないだろ。おっちゃんは自分達は動けないし、俺達にも動くなって言った。けど……『それ以外なら、問題はない』。オルガならやるさ」

 

 その言葉には絶対的な信頼がある。気圧されたハッシュは、納得しきれないまでも黙るしかなかった。

 三日月は迷わず前を向いて歩く。

 今はただ、己が成すべきを成すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアンロッド基地内MS格納庫。そこは俄に活気づいていた。タービンズの摘発。その名目の元、第2艦隊が大規模な作戦行動を起こそうとしているのだ。

 喧噪の最中、格納庫の一角で、ハンガーに固定されたMSのコクピットハッチが開いた。

 

「再調整をお願いします! 反応を0.3、出力を2.8まで上げて下さい!」

 

 飛び出してきたのは、パイロットスーツ姿のジュリエッタ。疲労の色も濃く汗だくの彼女は、それでもぎらぎらとした色を瞳に乗せ、休む様子を見せない。

 と、キャットウォークに身を寄せた彼女の元に、歩み寄る影がある。

 

「精が出るな。だが少々無理をしているように見える」

 

 かけられた言葉に、むっとした表情でジュリエッタは返す。

 

「多少の無理を押さねばこの機体は使いこなせません。むしろこの程度を無理と言っているようでは、これから先の戦いに立ち向かうことは出来ないでしょう」

 

 見上げる機体は、レギンレイズを核として、大型のシールドスラスターユニットなどを増設し一回り巨大化したもの。正式名称『レギンレイズ・ハイムーバー2号機』、乗り手の名前になぞらえて『レギンレイズ・ジュリア』と銘づけられたその機体を見上げるジュリエッタの瞳に迷いはない。

 その様子から見て取れる、盲目的に身を削る意志。それを懐かしむかのように、声をかけた仮面の人物――ヴィダールは言葉を零す。

 

「……君と似た男がいたよ」

「貴方の知り合いにそのような人物がいたとは予想外ですが……その方は?」

「……もういない」

「……戦死、されたのですか」

「まあ、そのようなものさ」

 

 俺が殺したようなものだがな、という言葉をヴィダールは飲み込んだ。かてて加えて『その怨念を利用するような真似をしている』などと、今は言うべきではないだろう。

 

「ともかく気を付けるに越したことはない。第2艦隊の任務についていくのであれば、ランディール・マーカスとかち合う可能性がある。あれとまともに戦おうなどとは思わないことだ」

「だから楽しいんじゃないのさ」

 

 不意にかけられた言葉に、ジュリエッタとヴィダールは振り向く。そこにはパイロットスーツを胸元も露わに着崩した女――マリィの姿があった。

 

「君も、行くのか」

「ああ、『あの子』も良い感じで仕上がってきた。まだ『本命』の調整は残っているけど、折角の機会だろう?」

 

 彼女の背後。格納庫の奥に鎮座しているのは真紅に塗り上げられた機体。ジュリアの原型、『レギンレイズ・ハイムーバー1号機』。

 改めて銘づけられた名を『レギンレイズ・モルガン』と言う。

 マリィはくつくつと嗤いを零しながら、ヴィダールに語りかける。

 

「あんたも来ればもっと楽しめたかもねえ? 機体の徹底的な再調整とか、良い言い訳が出来たじゃないか」

 

 それに応えるヴィダールは、迷いも動揺もない。

 

「俺は臆病者だからな。万全の状態でなければ、いや、そうであったとしてもランディール・マーカスとかち合うのは避けたいよ。彼とやるとすれば、最後の最後。雌雄を決するときだけだ。……その前に、『先約』もあることだしな」

「は、だったらあたしが先に『食っちまってもいい』ってことだね?」

「好きにすればいい。喰えるものならば」

 

 挑発的なマリィの物言いを、ヴィダールは柳のごとく受け流す。そのやりとりに妙な苛立ちを覚えるジュリエッタであるが、それを口に出すと何か負けたような気がして押し黙った。

 とにもかくにも、第2艦隊は出立する。その報告を受けたラスタルは苦虫を噛み潰したような表情であった。

 

「目の付け所は悪くない。だが……イオクを『諦める』ことも覚悟しなければならないか」

 

 その言葉に、ヴィダールは動揺した様子も見せない。もっとも仮面に隠れてその表情は分からないのだが。

 

「手塩にかけておいて、冷酷だと思うか?」

「……俺には何も言う資格がないだろう。貴方よりはよほど残酷な判断を下し、それでも臆面もなく生き延びている」

「それでも果たさなければならないと思ってのことではないか。その意志を利用しているのは我々だ。……ともかくこれで少しは時間が稼げよう。艦隊の再編成と『新規兵』の慣熟を急がせる」

「俺の機体は間もなく再調整が終わる。この間のようなことは起こらないはずだ」

「期待している。……それにしても、未だマクギリスの真意が見えてこんな」

 

 現段階で普通に考えるのであれば、マクギリスはクーデターを起こしGHの『象徴』を手中に収め、己を正当なGHの支配者だと宣うのだろうと推測されよう。しかし、彼が主張するであろう『正当性』は、『容易くひっくり返せる札』でしかない。今の彼がそれに気付いていないはずはないのだが。

 GHの支配が最終目的ではないと疑うところが、そういった不安要素である。いくらアーヴラウなどの外部勢力の賛同を得たからと言っても、GH内部の支持がなければ意味はない。ただ瓦解するだけで終わる。そのような砂上の楼閣が頂点に立って良しとするようには、とても思えなかった。

 

「いずれにせよ、もはや衝突は避けられまい。お互い備えようではないか」

「分かっている。全ての決着をつける、そのために」

 

 いかなる事情があろうとも、もはや相容れない。ヴィダールの拳が固く握りしめられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、やり口はともかく彼らの行動は正当な手順を踏んだ物だ。こちらから手を出すのは難しい」

「やっぱりそうか」

 

 オルガからの連絡を受けたマクギリスは、現状を告げていた。

 

「恐らくはフラウロスのレールガンが条約禁止兵器であったという体に持っていきたかったのだろうが、それについてはこちらで手を打っているので君たちに類は及ぶまい。だがタービンズに関しては、どうにも出来そうにないな。済まない」

「いや、無理を言ったのはこっちだ。出来るだけのことはやってみるさ。ただそっちの計画に支障が出る可能性はある。なるべく影響がないように持っていくつもりだが……」

「分かっている。こちらのことより、まずはそちらを優先してくれ。可能な限りの情報は流す」

「済まねえ。片が付いたらまた連絡する」

「ああ、健闘を祈るよ」

 

 通信を切り、マクギリスは溜息を吐いた。傍らの石動が口を開く。

 

「窮鼠に噛まれましたな」

「油断したよ。路傍の石と馬鹿にした挙げ句がこれだ。腐ってもセブンスターズの一角であったか」

 

 マクギリスの目が細められた。

 

「だがこれで、イオク・クジャンの命脈は断たれた。『現在のテイワズの危険性』を、彼は理解していない」

 

 少し前――鉄華団を傘下におさめる前であれば、マクマード・バリストンはタービンズを切り捨て、水面下の交渉にてGHと手打ちを行い事を荒立たせずに終わらせただろう。

 だが今の彼はかつての気性を取り戻したかのように組織の粛正と立て直しを積極的に行っていると聞く。そして最盛期の彼であれば、立ちはだかる者に容赦はしない。例え今動かなくとも、必ず敵対者に対し報復行動に出る。たとえGHの一角であったとしてもそれを免れるとは思えない。

 かてて加えてイオクが手を出したのは鉄華団の、『ランディール・マーカスが荷担している組織の』後ろ盾である。地雷を踏んだどころではない。核弾頭で自殺を図るようなものだ。状況からしてテイワズの内通者から手引きがあったのだろうが、まず確実に内通者ごと破滅する。賭けても良い。

 

「それすらもラスタルは利用するだろうな。楽に勝たせてはくれまいが」

 

 お互い猶予はないと、マクギリスは判断する。

 

「『彼ら』に伝達を。少々急ぎになるが、幕を上げる用意をしよう」

「はっ!」

 

 予想以上に早く展開する状況。だが男たちは腹を据えて前へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。マクマードの元へ密かに連絡が入った。

 

「申し訳ありません、親父。ヘマ打っちまいました」

「気にすんな。後ろから撃たれりゃだれだってそうなる」

 

 通信の向こうには名瀬。彼はマクマードに謝罪するために繋ぎを取っていた。そして。

 

「親父、預けていた杯を割って下さい」

 

 態度を改めて、マクマードに『縁切り』を願い出る。その言葉にマクマードは眉をぴくりと動かした。

 

「随分と諦めが早いな?」

「今テイワズと鉄華団は大事な時です。俺が足を引っ張るわけにはいきません。ただ……俺の女房たちはなんとか助けてやって下さい。俺の首一つGHに差し出せば、言い訳は聞くはずです。我が儘言ってすいませんが」

「はん、俺が今までどれだけお前の我が儘を聞いてきたと思ってる。……嫁さんたちの事は引き受けた。任せろ」

「ありがとうございます。面倒をかけますが、親父も達者で……」

「まあ待て。このままはいおさらばってのは、ちょいと面白くねえ」

 

 今生の別れを告げようとする名瀬。それをマクマードは押し止めた。

 彼の口元は、なんだか悪戯げに歪んでいる。

 

「名瀬よ、一つ賭けをしようじゃないか。……もし万が一お前さんがこの窮地を乗り切ることが出来たら、『俺の我が儘を一つ聞く』。ってのはどうだ」

「親父、それは……」

「もちろん俺は手を出さないし、鉄華団にも動くなと言い含めてある。お前さんはお前さんで嫁さん逃がすので手一杯だろう。普通に考えりゃ、十中八九どん詰まりだ。……だが、世の中はどう動くか分かったモンじゃねえ。それに……」

 

 マクマードは忍び笑う。

 

「一度くらいは俺の我が儘を聞いてくれても、バチは当たらねえんじゃねえか?」

 

 この言葉を、名瀬はマクマードなりの気遣いだと判断した。最後まで諦めるなと、そう言っているのだと。

 

「……生き延びられたら、何でも聞きますよ。俺に出来る範疇であれば」

「おう、確かに聞いたぜ」

 

 当然名瀬はこの状況をひっくり返せるとは思っていなかった。例えオルガたちが言いつけを聞かず何らかの行動をとっても、それが決定打にはならないと考える。

 しかしまあ、思ってもみないことと言うのは、結構容易く起こったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団本部。打てるだけの手を打ったオルガは、焦燥の中それでも静かに待っていた。

 やがて、時が来る。

 

「団長! 上手くいったぜ! 手続きが通った!」

 

 ドアを蹴倒すような勢いで飛び込んできたのはシノ。次いで慣れない運動をしたおかげで息も絶え絶えとなったデクスターが現れる。

 ぜーぜー言いながら疲労困憊といった様子を見せながらも、彼は笑ってみせた。

 

「だ、『ダミーの輸送会社をでっち上げてきました』。クタン参型と五型を高速輸送船として登録してあります。ついでに依頼と言う形でMSの輸送をねじ込んでおきましたから、いつでも出せますよ」

 

 オルガが打った手の一つ。鉄華団という組織が動けないのであれば別な組織を作ればいいじゃない。という屁理屈。だが屁理屈でも何でも貫き通せれば理屈たり得る。そして――恐らくは『マクマードもそれを期待している』。

 多分自分達の動きに合わせて何か事を起こすつもりなのだろう。それが何かは分からない。言い方は悪いが自分達は目くらましとしての役割も望まれているのではないか。

 まあそこまで考える必要はない。ともかく今は動ける理由が出来た。オルガは早速指示を飛ばす。

 

「シノ、お前の隊と昭弘ので出てくれ。装備は好きな物を持っていけ」

「おう! 俺の流星隊と筋肉隊にまかせな!」

「……人の部隊に勝手な名前付けるなよ」

 

 シノたちに次いで姿を現した昭弘がぼやくように言うが、もちろんシノは聞いていない。

 

「後はランディ教官の方だが……」

「おう大将! こっちも繋ぎが取れたぜ! ご注文の傭兵部隊、運び屋付きで出血大サービスってよ」

 

 さらに現れたランディが、手に持ったタブレットをひらひらと振ってみせる。オルガが用意させたもう一つの手段。外部の傭兵を雇いタービンズの救助に向かわせるという策を任されていたのだ。

 

「運び屋のほうは……まあちいと『条件』をつけてきたが、何とかなる話だろ。ともかく腕は保証できる連中だ。あとは間に合うかどうかさ」

「ああ、時間の勝負になる。教官、あんたにも出て貰うぜ」

「おうとも。俺達は早速方舟に上がる。特急便で駆けつけるさ」

「……兄貴たちを、頼んだ」

 

 深々と頭を下げるオルガに頷き、ランディたちは駆け出す。それを見送ったデクスターは、オルガに向かって笑いかけた。

 

「では我々は我々の仕事を。まずはダミー会社にて『ハンマーヘッドの船籍をでっち上げましょうか』」

 

 事が上手くいって逃れることが出来たハンマーヘッドの行く先を誤魔化す一手。ダミー会社を含む複数の船籍を用意することによって、データ上からの追跡を困難にさせる、海賊がよく使う手段を彼らは行おうとしていた。

 当然ながら違法である。だがタービンズを救うために、オルガは迷い無く危ない橋を渡る。

 

「悪いな、無茶をさせる」

「なに、前線で戦うよりはよほど気楽な仕事ですよ。ばれても精々が牢獄だ」

「はは、そうさせないように努力させて貰うぜ」

 

 不敵に笑みながら、今できる全てを彼らは尽くす。

 『家族』を救わんがために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火星軌道上の方舟。その鉄華団が借り受けている一角にて、急ピッチで出撃の用意は調えられていた。

 

「ブースターの接続完了! レールガンはグシオンに!」

「五型のウェイトバランスに注意しろ。この間とは違うぞ」

「流星号の固定を急げ! 途中で落っことされたらかなわん、チェックはしっかりな!」

「グシオンとラーズグリーズのブースターは新型だ、念入りに見ておいてくれ」

 

 4機のMSを積んだクタン五型。そしてその隣には上半身だけを砲撃形態に変形させた流星号(フラウロス)を乗せているクタン参型が並ぶ。

 流星号のコクピットで最終調整を行っているシノが、参型にMSごと乗り込んでいるライドの通信を繋いだ。

 

「どうだ、その機体には慣れたか?」

「大体癖は掴みました。いけるっす」

 

 現在ライドが乗っているのは、シノから譲り受けた三代目流星号ことカスタム獅電。彼はそれに自分用の装備を搭載して調整し、カラーリングを黄色系統に塗り替えて【雷電号】と名付けていた。

 元々がシノ用にちょいとじゃじゃ馬に仕立て上げられた機体だ。扱える人間も限られている。結局一番相性の良かったライドが乗り換える事となったのであった。

 

「クタンは任せた。頼りにしてるぜ」

「乗り心地は保証しねえっすよ。……おっと、ししょーたちも出てきましたね」

 

 ハンガーからグシオンとラーズグリーズが姿を現す。グシオンは外装型のブースターを備え、一見小型宇宙艇のような様相に変わっている。一方ラーズグリーズは腰の背部に大型ブースターを尻尾のごとく備える形だ。

 機体のチェックを行いながら、ランディが告げる。

 

「全員聞いているな? 俺達は新型ブースターのテストを請け負っている最中、『偶然』タービンズへの襲撃に遭遇し、非戦闘員の救助を行うこととなった『善意の第三者』ってことになる。まあ建前だが、積極的に艦隊を狙うのは止めろ。あくまで防戦に徹するんだ」

「教官、連中は本当にタービンズの本拠に来るのか? あそこはテイワズの企業機密でもある。正確な位置は公表されていないはずだ」

 

 昭弘の問いに、ランディは頷いた。

 

「来る。間違いなくな。裏航路がバレてんだ。本拠の位置も割れてて、速攻で艦隊送り込んでるだろうよ」

 

 言葉の裏に内通者の存在を匂わせている。まあうすうす誰だか察してはいるが、それは後回しだ。今は一刻も早くタービンズのもとへ向かわなければならない。準備を整えながらランディは思考を巡らす。

 

(どうにもやな予感がするぜ。……あの陰険ヒゲが俺の存在を知ってていつまでも放っておくはずがねえ。そろそろ対抗策を突きつけてくる頃合いだろう。それとかち合うかもだな。……と、準備が出来たか)

「全機スタンバイ、カウント入ります。ご武運を!」

 

 オペレーターの声が響き、カウンターの数字が減り始めた。

 それがゼロに至ったとき、ランディは咆吼する。

 

「Here we go!」

 

 全てのブースターが一斉に炎を吐き出し、2機のMSと2体の輸送ブースターは、矢のごとく方舟を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歳星では、バルバトスの最終調整が行われようとしていた。

 

「よいか、これより新しいシステムを通しておんしとバルバトスを接続する。身体に影響が出ないよう細心の注意を払っておるが、もし何か異常を感じ取ったらすぐに言え。即座に作業を中断する」

 

 改装されたバルバトスのコクピットには、新たにセーフティを兼ねた制御システムが搭載されている。これを触媒とし、さらに三日月の体内にある余剰のナノマシンに新たな制御プログラムを打ち込むことでフィードバックによるダメージを無くそうとしているのだった。

 これが上手くいけば、リミッター解放時に三日月へダメージが及ぶことはなく、さらには任意でリミッターを解除できるようにもなる。応用すればグシオンやフラウロスにも同様の処置をすることが出来るはずだ。

三日月は特に緊張することもなく、頷いてみせる。

 

「いつでもいいよ、やって」

「うむ、ではいくぞい。……3、2、1、コンタクト」

 

 接続した瞬間、三日月の意志は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「おう! 俺の流星隊と筋肉少女隊に任せな!」

「少女どっから出てきた」

 

 まあふざけんじゃねえと立ち向かってるしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最近になって、誤字報告という機能に気がつきました。確認してみたら凄い量の報告が来てます。
 見なかったことにしたい捻れ骨子です。

 さて、お待たせして申し訳ない。遅ればせながら今年最初の更新です。原作では悲劇の連鎖が始まりでしたが、この作品ではどうなるのか。今回はランディさんがいるから楽勝とはいかないかも知れないぞ? どうするどうなる?
 そして最後の最後で三日月君にも何かが起こった? 一体何が始まったのか!? 緊迫の次回を待て!

 ……誤字脱字は多分そのうち修正されるときが来るんじゃないですかね。(目逸らし)
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