イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

45 / 65
41・万倍にして返してやんよ

 

 

 

 

 

 惨敗。そうとしか言えない状況のイオクの元に、個人回線で通信が入ってきた。

 

「面倒なことになりましたな。こちらとしても予定が狂ってしまい困っております」

 

 画面にはジャスレイ・ドノミコルスの名。苛立ちを隠せないイオクは恨み言を叩き付けるように返答する。

 

「他人事のように! 貴様の根回しが十分でなかったから介入を許したのであろうが!」

「申し訳ない。こちらもテイワズの全てを掌握しているわけではございませんで」

「言い訳はいい! この始末どう付けるつもりだ!」

「もちろん挽回の目はあります。……『タービンズ首魁の行く先』。追わせております」

 

 通信の向こうの声に、イオクは眉を顰める。

 

「それはまことか? だがまた横槍が入るのであれば……」

「鉄華団とて危ない橋を渡ったのは一緒。これ以上の誤魔化しは難しいでしょう。何よりタービンズの首魁が逃げ込んだのは【サルガッソー】。デブリ空域の最奥、並の艦隊であれば寄りつくことすら難しい領域です。勇猛なるアリアンロッド艦隊であればなんとかなるでしょうが、向こうが過剰戦力を投入できるとは思えませんな」

 

 ますます渋い顔になるイオクであったが。

 

「むう、し、しかしだな……」

「そちらも成果無く帰還できぬでしょう? こちらもこのままであれば立場が危うい。……先導はうちから出します。この機を逃せば、我々も厳しい立場に置かれるんですよ。これが最後の機会だと思って頂きたいのですが」

 

 判断は下され、通信は切られた。ジャスレイの執務室であった部屋で、男が溜息を吐く。

 

「……追い込まれているとは言え、『ボイスチェンジャーごときで誤魔化される』かねえ」

 

 言葉を発した男は勿論ジャスレイではない。ただ『物真似に秀でただけの人物』だ。声質ではなく、真似する人物の語り口や細かい癖を模倣することに特化した人物。『ボイスチェンジャーを通して通信越しに会話したらば、当人と全く聞き分けが付かないレベル』の。そんな『部下』に向けて、ジョニーは親指を立てて見せた。

 

「上等上等。上手くいったらなんでも御の字よ。……さて、あとの『悪巧み』に勤しもうかね」

 

 へーいとか、うい~とかいう気の抜けた返事と裏腹に、ジョニーの部下たちは弛まず己の仕事をこなしていく。

 『アリアンロッドの一角を崩す』。今までにない大仕事に対し、誰もが緊張の欠片もない。

 この時点ですでに『結果が見えていた』から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガは密かに歳星を訪れていた。マクマードからの呼び出しがあったからだ。

 すでに歳星にて待ち受けていたビスケット。(※三日月はまだ意識を失っている最中)そして伴ってきたユージン、シノ、昭弘という中核幹部を一同に、オルガはマクマードと対面する。

 その場で口火を切ったマクマードの言葉は、オルガの度肝を抜く。

 

「テイワズはアリアンロッドと正面切って事を構えることにした。これからはお前らを全面的に支援する」

 

 は? と声を漏らしたのは誰だったのか全員だったのか。唖然とするオルガたちを前に、マクマードは獰猛な笑みを見せる。

 

「いい加減堪忍袋の緒が切れたってことよ。今回の件は見逃せねえ。きっちりと落とし前を付けなきゃ示しがつかないと考えるのは、俺だけじゃねえのさ」

 

 マクマード個人の考えではなく、テイワズ幹部全体の方針だと匂わせる。実情はどうだか分からないが、最低でもそう言う方向に舵を取っていくと、そういう決断が下されたのだとオルガは理解できた。

 これまでとは掌を返したような反応であるが、恐らく『それだけの理由』が出来たのだろう。それは多分、タービンズが襲撃を受けたからではない。何か別の、『アリアンロッドに対する勝算』ができたのだろう。そう言った思考を巡らせている間にも、マクマードは次の言葉を紡ぐ。

 

「その上で、お前さんら――鉄華団に頼みたい『仕事』がある。こいつは断っちまっても構わねえ。良く考えて判断しな」

 

 マクマードから依頼されたのは、確かにオルガたちを悩ませるものであった。

 即座に判断出来なかったオルガは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、親分さんそうきたか」

 

 相談されたランディは、さして驚く様子も見せずに応える。先の戦いからこっち、彼は暇を見てはラーズグリーズの調整を兼ねてシミュレーターを走らせ鍛練を重ねていた。現在は小休止を兼ねてオルガの話を聞いている。

 

「親父の思惑は理解できる。……だが、どう言いつくろっても『汚れ仕事』には違いねえ。親父は断ってくれても構わないと言ったが、『もっとも適任なのは俺達だ』。それが分かっていて、言ってるんだと思う」

 

 オルガの言葉に、ランディはふむ、と頷いてこう言った。

 

「なあ大将。なんだったらいっそ、『俺に全部預けてみる』か?」

「それは……」

 

 ランディは不敵に口元を歪める。

 

「俺なら『できる』。容赦なく、徹底的に。親分さんも『誰がやれ』とは言っていなかったろう? そういう手もありだってことさ」

 

 その言葉に、オルガは暫く黙って考え込む。ややあって。

 

「……いや、そいつはダメだ。教官に手伝って貰うにしても、俺がいかなきゃ片手落ちだろう。こいつは『鉄華団に依頼された仕事』なんだ。誰かに丸投げってのは筋が通らねえ」

 

 彼なりに責任というものについて考え方がある。任されたものを誰か一人に押しつけるのは抵抗があった。迷ったのは汚れ仕事であったからで、それも「だからといって丸投げして良いはずがない」と、すぐさま思い直すくらいには真面目で真摯に考えていた。

 

「そうか。じゃあどうする?」

「断るのはなしだな。俺達以外にも戦力は捻出できるだろうが、確実性がねえ。この機会を逃せば手札が一つ潰れちまう。俺達がいくしかないが……行きたくねえ奴まで巻き込むことはない、か」

 

 少しずつ考えが纏まってきているようだ。そんなオルガを見守るランディは、いつものにやにや嗤いながらも、どことなく満足げに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団との話を終えた後、マクマードは一人酒杯を傾けていた。

 

「リボン付きめ、面白い連中を紹介してくれたもんだ」

 

 鉄華団を呼び出すより先、『ランディからの紹介』という名目でマクマードの元を訪れたのは一人の男。ランディが依頼した『運び屋』、その営業だと名乗る男は、一見どこにでもいるサラリーマンのように見えた。

 

「で、危ない橋を渡った引き替えに俺と交渉したいって話だが……なにが望みだ?」

 

 正面には威圧感を漂わせたマクマード。そして周囲には強面の黒服が居並んでいる。そんな中でも男は微笑を浮かべ、話を切り出す。

 

「現在そちら(テイワズ)では、タービンズが業務を停止せざるを得ない状況下と思いますが、そうなると運輸関係は手が不足しているのでは? もしよろしければ、我々が運輸業務を一部なりとも『代行』いたします。いかがでしょうか」

「ほう?」

 

 確かに現状でタービンズは活動することができない。運輸関係は大きなダメージを受けているのは確かである。しかし。

 

「……生憎と、輸送をやってるのはタービンズだけじゃねえ。それに他の会社にも伝手がある。お前さんらの出番はないんじゃなかろうかね」

 

 余裕はないが、ぎりぎりなんとか業務を回すことは出来る。仮にも圏外圏最大の企業だ。配下の一つが動けなくともカバーできるだけの力はあった。

 それが分かっていてなお、男は余裕を崩さない。

 

「そうですか? まだ手が足りていないところがあるでしょう。例えば……『大っぴらに出来ない商品』とか」

 

 その言葉に黒服たちは一斉に懐に手を突っこもうとしたが、マクマードはそれを手で制す。

 やはりか、という思いがあった。『裏社会の人間』であれば、この『商機』を逃すはずはない。あるいはこの状況、ランディが画策したものではなく『目の前の男がこの機に割り込んだ』のかも知れない。

 そうだとしても、乗ってみる価値はあるかも知れないと感じる。

 

(あのリボン付きが、欲に乗じただけの盆暗を紹介するはずはねえ)

 

 信頼とは違う確信がある。マクマードは話の続きを促した。

 

「今アリアンロッドに睨まれている状況で、後ろ暗い運輸は滞っている。実の所この状況、『我々の後ろ盾』も困っていましてね。圏外圏や火星産の『安いお薬』なんかが回ってこなくなった。商売あがったりどころじゃない、というのは理解して頂けるでしょう」

 

 マクマードに許しを得てから煙草に火を付ける男。話は分かる。圏外圏や火星の貧困層などを利用して製造される『特殊なお薬』などは、確かに地球圏で製造されるものより原価が安く仕入れられるだろう。そしてテイワズの暗部にとって間接的ながらも資金源の一部となっている。流通が滞っているのは、テイワズと地球圏の裏組織、双方にとって損失となるのは間違いない。

 かてて加えて。

 

「その上で、そちらは『表と裏の切り離しを考えている』。具体的には再起させたタービンズには裏の業務から全面的に引かせ、表の看板にしたいと思っているのでは?」

「ふん、なんでそう思う」

「名瀬・タービン。後釜に据えるんなら『汚れを落としておいた方が都合が良い』。でしょう?」

 

 そこまで読んでいるかと内心舌を巻く。確かに今回のことで、表も裏も同様に扱うのは危険ではないかとマクマード以下幹部たちは判断し、業務の分断を考えていた。そして女性を積極的に雇い入れ、福利厚生などもしっかりしたタービンズは、後ろ暗いことから足を洗わせれば十分に看板としての役割を果たせる。確かにそのような目論見があった。

 

「改めて雇い入れる裏の方も、出来れば『尻尾切り』しやすい方が良い。その上でそれなりの信用……と言うよりは損得勘定で裏切らないような相手ならベター。丁度我々のような、ね」

「お前らが裏切らねえ、って保証は?」

「そりゃあ、裏切りなんてしようものなら地球圏の裏組織とテイワズ双方を敵に回すって事になります。そこまでの度胸なんてとてもとても」

 

 わざとらしく両手を広げて宣う男。理には適っている。だがその言葉の全てを信じるにはまだ足りない。それを理解しているだろう男は、『次の手を打ってきた』。

 

「それに……もはやアリアンロッドは『脅威に値しない』んですよ」

 

 胸のポケットから取り出したメモリーを、ことりとテーブルに置く。それはなんだと言いたげなマクマードの視線を受け、男は言う。

 

「『アリアンロッドが編成の詳細と、行動の予定』。そのデータです。ご入り用ならリアルタイムのものも提出できますよ?」

「おいおい、どっからそんなもの持ってきやがった」

 

 とんでもない手みやげであった。内心の驚愕を押し殺して問うマクマードに、男は笑みを深めて応える。

 

「人間3人もいれば派閥が出来る。ましてや万人も集まれば、1人や2人心底性根の腐った奴も混ざる。アリアンロッドも例外じゃないってことですよ」

 

 それでなくともGHには、モンターク商会を始めとした後ろ暗い伝手があった。さらには現在権威そのものが揺るがされ、組織の秩序自体が崩れ始めている。隙を突くのは容易いことではなかったが、不可能でもない。

 

「今度の武力衝突。アリアンロッドが勝っても負けてもGHの権限が低下することは避けられない。表と裏の切り離しが出来ていれば、後ろ暗い仕事も切り抜けやすくなる。ましてやアリアンロッドの動きが完全に読めていれば……言うまでもありませんね?」

 

 これはなるほどぐうの音も出ない。十分な勝算があって、なおかつ男の組織にはテイワズや裏組織を裏切る旨みがないときている。勝ち馬に乗るのではなく『勝ち馬が負けたときのことを考慮した商談』を持ちかけてきた。ただの博打打ちに出来ることではない。

 そんな交渉の様子を思い出して、マクマードはくく、と忍び笑う。

 

「どうしてどうして、まだまだこれから面白くなりそうじゃねえか」

 

 後10年若ければ。そのように己の老いを嘆きながらも、老獪なる男は未来に期待を寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 方舟にて、鉄華団は出撃の準備を整えている。

 今回の仕事でオルガは『志願制』を執った。いかなる事をするのか団員たちに説明し、参加を希望する者だけを率いることにしたのだ。しかし蓋を開けてみれば、どうしても残らなければならない人員と、ごく一部の例外を除いたほぼ全員が参加を望んでいた。

 アリアンロッドのやり方に、ただ反感を覚えただけではない。先の件で、タービンズの人員に少数ながら犠牲者が生じていた。公私共々恩あった彼女たちの仇を討つ。古参のメンバーにはそういった気持ちもある。

 まだ入団して日の浅いものたちにはそこまでの思いはない。しかし危機感を覚えている者は多い。これ以上アリアンロッドを好きにさせていたら、今度は何をされるか分からない、と。

 結局予想以上の大所帯となり、改装中のサカリビを除いた全戦力を持って鉄華団は発つこととなった。正直皆に手を汚させたくないと言う気持ちもあったが、腹に据えかねるものがあるのは自分も一緒だ。ならば嫌な仕事は早々に片を付けようと、オルガは準備を急がせている。

 当然ながら、復帰したばかりの三日月も用意を調えていた。

 

「よう、どうだ調子は」

 

 MSハンガーで機体の様子を確かめていた三日月に、オルガは声をかけた。コクピットから出てきた三日月がそれに応える。

 

「うん、良い感じだよ。俺も、こいつもね」

 

 そっかと一安心し、オルガは機体を見上げる。

 

「しっかし、なんか厳つくなったなあ」

 

 今までより一回り大きくなった体躯に、背中に追加された尻尾のようなパーツと4基の可動スラスターユニットがドラゴンのごとき異形のイメージを与えている。造り直され生まれ変わったバルバトス。その名を――

 

「【ガンダムバルバトス・ゲブリュルヴィント】、ねえ。長い上によく分からねえ名前だな」

「『吠える風』って意味だって」

「……吠えんの?」

「らしいよ?」 

 

 ああそういうものなんだと、深く問いただすのを諦めて――ついでにバルバトスの隣で鎮座する、刀身だけで機体の全高を超えるばかでかい鉄塊を見なかったことにして、オルガは三日月に言う。

 

「……すまねえな。病み上がりだってのに」

 

 それに返すのは、いつも通りに飄々とした言葉で。

 

「別に病気じゃないし。それに相手は待っちゃくれないよ。やれるときにやれるんなら、やるだけさ。……それで、『どこまでやればいい』?」

 

 改めて問われ、オルガは迷い無く応える。

 

「完膚無きまで容赦なく、徹底的にだ。イオク・クジャンはここで『終わらせる』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告を聞いたラスタルは、深々と溜息をついた。

 

「帰還するつもりはなさそうだな。……あからさまな罠だと言うことも分からんか」

「それで、どうします閣下。貴方のご命令ならクジャン司令も思いとどまるかも知れませんが」

 

 通信向こうから響くからかうような声。密かにラスタルへ報告を行っているのはマリィであった。彼女の言葉にラスタルは頭を振る。

 

「いや、そのまま行かせてやれ。お前は艦隊の補給に乗じ、ジュリエッタと共に帰投せよ」

「多分クジャン司令は艦隊ごと『消失しますが』、よろしいんですね?」

「……たかだか6隻だ。だがお前たちは失うわけにはいかん。ランディール・マーカスに対抗するためにはな」

「さすが分かっていらっしゃる。では」

 

 通信が切られ、ラスタルはこめかみに指を当てる。

 

「こうも使えんとは。……いや、敵の方が一枚上手だったということか」

 

 これがもし、タービンズの首魁を始末、あるいは捕縛していれば話は違っていた。任務を達成したという口実が作れるし、テイワズ、ひいては圏外圏にプレッシャーをかけられただろう。だが蓋を開ければこのざまだ。このままイオクが帰還すれば、マクギリス派やその他の派閥にとって絶好の攻撃材料になる。それよりはいっそ……と考えても致し方あるまい。

 それに第2艦隊は、実の所『イオクという人間がいない方が扱いやすい』。先代のクジャン公が尽力により艦隊人員の忠誠心と士気は高いのだが、肝心のイオクがあれである。それでもこれまでなら制御は出来ていたのだが、このところの不手際続きでイオク自身が焦りだし、勝手な行動を取り始めた。彼に対しイエスマンしかいない第2艦隊はそれに逆らえない。このままだとアリアンロッドの運用そのものに支障が生じる……などと考えていた矢先の事であった。都合がよいとも言える。

 もはやイオクが死んだものとして、今後の対策を練るラスタル。こうしてまた彼は一人切り捨てた。そして彼はまだ気付かない。今のアリアンロッド――ラスタル派は、己以外にはものを考える人間も、決定権を持つ人間もいないことを。

 そしてそれが、どのような結果を招くことになるのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 補給を受け、イオク率いる艦隊はジャスレイの部下との合流地点に向かっていた。

 

「肝心なときに機体の不調とは……やはり機能だけを追求した試作機など信用ならんな」

 

 機体の損傷と不調を理由に、マリィとジュリエッタは補給艦隊と共に帰投した。そのことに関して何の疑いも持たないイオクは、迫り来る危機の存在など知るよしもないし予想すらしていない。

 

「イオク様、予定通り案内の船が現れました。船籍を照合、ジャスレイ・ドノミコルス所有のものに間違いありません」

 

 デブリの合間を縫うように現れたのは、金色の塗装が施されたハーフビーク級の改装艦。【黄金のジャスレイ号】と名付けられたそれは、重装甲が施され艦橋の収納機能がオミットされた……控えめに言って趣味の悪い船であった。

 しかしそれを見たイオクは、なぜか感心した様子でうんうんと頷いてみせる。

 

「艦橋を収納するなどと言う女々しい機能を殺し、不退転の意志を見せるか。上に立つものはかくあらねばならん」

 

 我が艦隊でも見習うべきかなどと、そら恐ろしいことを考える。ともかく件の船との通信が繋がった。

 

「お待たせしましたクジャン公。ドノミコルス専務の代理として参りました」

「ふむ? 彼はどうした」

「歳星にて色々と手続きを。先にお待ちしているとのことです」

「なるほど、タービンズの次は本丸を……と言うことか。なかなか用意が良いな」

「なにしろ叩けばいくらでも埃の出てくる組織ですので。……では早速ですが案内を。ここから先はデブリの間隔が狭まります。ご注意下さい」

 

 黄金のジャスレイ号を先導に、イオクの艦隊はデブリ帯へと足を踏み入れる。先に進めばなるほど、デブリがかなり密集している。おまけにレーダーも効きづらい。

 

「こういう空域ですので、海賊や裏社会のものが一時的に身を隠すにはもってこいというわけですよ」

「追いつめられた鼠どもが考えそうなことだ。だがそれゆえに己の逃げ場を失うこととなる」

「まったくもってその通りで」

 

 進むうちに益々航行しにくくなってくる。ややあって。

 

「この先です。流石に当方が真っ先に姿を現すと問題になりますので、案内はここまでとさせて頂きますが」

「む、だが案内がないのでは……」

「この先はどん詰まりのようなものです。逃げられはしませんよ」

「そうか、ご苦労だった。吉報を待つが良い」

「はい、ご武運を」

 

 何一つ疑うことなく、イオクは艦隊を先に進める。まあ確かに、案内人は『何一つ嘘は言っていない』のだが。

 なんとか戦闘が出来る程度の間隔を空け、艦隊は進む。さすればデブリが折り重なるその先、古ぼけた浮きドックのようなものが見えてきた。

 

「エイハブウェーブを確認します。この状況ですので少し時間がかかりますが」

「急げよ。さすがにここで逃げ切れると思うほど愚かではなかろうが……ん?」

 

 拡大された強襲装甲艦の映像。よく見ればブリッジ付近から発光信号を放っているように見える。

 

「あれは……救難信号? 今更命乞いのつもりか?」

「イオク様、目標のエイハブウェーブを確認致しましたが……」

「どうした。はっきりと報告せよ」

「は、登録されていた目標のものと、微妙に違うようなのですが」

「なに?」

 

 どういうことだと首を捻るが、深く考えることなくイオクは答えを出した。

 

「周波数に細工をしたか。みみっちい真似を。……MS部隊出撃用意! 私が陣頭指揮を執る!」

「イオク様! それは……」

「この空域であれば、敵も機動力を活かせん。であればMSの数が多いこちらが圧倒的に優位となる! まさかこの程度で怖じ気づくような人間はおるまい?」

 

 この前は自分が陣頭指揮を執っていなかったから不覚を取ったのだと、イオクは信じて疑わない。事実をねじ曲げて己の都合良いように認識しているのだろう。だがその思いこみからの行動を強くを留める人間がいないため、結局は彼の無謀を許してしまう。

 次々と発艦しフォーメーションを取るレギンレイズの群れ。その中央に位置する黄土色の機体から、イオクが命じる。

 

「各艦砲撃を開始せよ! 奴らの逃げ場を封じ一気に制圧するぞ!」

 

 ゆっくりと距離を詰めながら、艦隊が砲撃を始める。目標のハンマーヘッドと思わしき艦は反撃することもなく一方的に攻撃を受け続けるのみだ。いくら何でもここまで来れば、部下たちにもおかしいという疑念が沸いてくる。イオクに具申しようかどうか、彼らが迷いだしたその時に、異変は起こった。

 

「目標が所定の位置に入った。起爆しろ」

 

 どっ、と一斉に『艦隊の周囲のデブリが爆発した』。

 砕けたデブリは、雪崩のように艦隊へと襲いかかる。突然のことに反応が遅れたMSが押しつぶされ、艦は回避行動を思うように取れず慌てふためく。

 

「なんだ! 何が起こった!」

「イオク様、お下がり下さい! これは罠です!」

 

 今更ながら部下が声を上げるが遅い。完全に体勢を崩された艦隊の周辺から、次々とエイハブウェーブの反応が立ち上がる。

 スリープモードから目覚めたMS、そして2隻の改装型装甲強襲艦がデブリの影から姿を現した。

 

「総員、手加減も容赦もなしだ。叩き潰せ!」

 

 イサリビの艦長席でオルガが命じ、鉄華団は一斉にイオクの艦隊へと襲いかかった。

 

「敵討ち、なんて殊勝なことは言わねえが、姉さん方に喰らわせてくれた分は返すぜ!」

「徹底的に潰す。もう二度と、タービンズに手出し出来ないようにな」

 

 砲撃形態になった流星号とレールガンを2丁構えたグシオンを筆頭に、四方八方から銃撃が叩き込まれていく。まずは射撃戦で相手の足を止める腹だ。

 大口径の砲撃が雨霰と叩き込まれる中、駆け抜ける影が二つ。

 

「悪いが今回お遊びは無しだ。一から十まで悉く、屠殺場の家畜のように死ね」

 

 一つは闇夜のごとき濃紺。右手に巨大なランスらしきものを備えたラーズグリーズ。

 

「それじゃ、試し切りといこうか。バルバトス」

 

 一つは鮮烈なる白。機体の倍ほどもある長大な得物、【対艦ソードメイス】を担ぎ宙を駆けるのは、バルバトス・ゲブリュルヴィント。

 腐った果実が落ちるがごとく、斜陽が沈むがごとく。当然の結果として、イオクの命運はここに尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「ガンダムバルバトスルプスレクスイクスアクスオックスソックスバックス……」

「長っ! ホントに長っ!」

 

 奇をてらいすぎるとよくある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 ASW-G-08RR ガンダムバルバトス・ゲブリュルヴィント

 

 

【挿絵表示】

 

 ※イメージ画

 

 

 ハシュマル戦にて破損したバルバトスを改修した機体。

 フレームの約6割がラーズグリーズの設計を元に新造され、残りの部分も補強が入っており、全体的に一回り大きくなった。そして両肩、両肘、両膝の部分に強制冷却機構が備えられ、リアクターのオーバードライブにも十分耐えられる強度を得た。

 背部のバックパックにはハシュマルの残骸から移植されたテイルブレードを備え、その両側に可動スラスターユニットが2対4基追加された。サブアームは腰のサイドアーマーに位置変更された。胸部には新型のリアクティブアーマーが追加され、防御力も向上している。

 また阿頼耶識システムに安全機構を兼ねた触媒が追加され、さらに改装を担当したものたちにも予想外の同調現象が起こったおかげで、システムは安全性を確保しつつも大幅に性能が向上し、本来のものと同等以上の能力を発揮できるようになった。加えて当然ながらラーズグリーズと同様にイナーシャーコントローラーを備えているため、機動性、反応速度は格段に向上しているようだ。

 武装はシースメイスを始めとした基本的なものは変更されていないが、刀身だけで機体の全高を超える巨大兵装、対艦ソードメイスが追加されている。当然MS1機分は軽くありそうなこの巨大な武器を振るってなお有り余るほどのパワーを持つ。

 テイワズがもつ技術をつぎ込んで生まれ変わったこの機体は、性能的に現存する全てのガンダムフレームを凌駕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 平成最後の更新っ!
 しかしイオクはまだ生き残っている模様どういうことだよ捻れ骨子です。

 いや本当に今回でけり付けるつもりだったんですけどね? 予想外に前準備が長引いてしまって特に親分さんのところ。なお運び屋の営業さんは某港町で海賊やってるドロップアウトリーマンをイメージして頂いたら大体あってる。
 そしてやっぱり冷酷な扱いのラスタル。私の右腕はここにあるではないかムーブかましてますが、それがどういう影響を及ぼすのか。
 とにもかくにも、この次で本当にイオク戦決着。のはずです。多分。きっと。恐らく。(自信なし)心配なんでフラグ立てておこう。次回イオク死す! デュエルスタンバイ! これで大丈夫だな。

 そんなこんなで今回はこの辺で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。