イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 今回出撃シーン推奨BGM、エースコンバットZEROオープニングテーマ【ZERO】





46・『せいぎのみかた』なんてどこにもいない

 

 

 

 彼方へ消えゆくシャトルを見送って、タカキとアストンは言葉を交わす。

 

「行っちまったな」

「彼らが団長たちの力になってくれればいいんだけど」

「大丈夫だろ。あの人らはなんて言うか……」

 

 アストンは眉を寄せた。

 

「教官と同じにおいがする」

「あ~、うん。何となく分かる」

 

 そりゃそうだあの人の知り合いなんだから。只人でないのは間違いないと苦笑を交わす。

 

「さて、それじゃあ議事堂に戻るか」

「今こっちに手を出す余裕があるとは思えないけれどね。用心はしとかなきゃ、だ」

 

 言いながら空港を後にする。アーヴラウは厳戒態勢を取りつつ彼方の戦いに注視している。この戦いで世界は大きく動くと、誰もが確信していた。

 月軌道上。そこでは二つの勢力が真っ向から激突しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対峙する艦隊。片や月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド。ハーフビーク級戦艦だけで40隻を越える大艦隊は威風堂々と構える。

 片や特殊機動遊撃艦隊ヘイムダルを中核とした反逆軍。その数は鉄華団の艦艇を合わせても20と数隻。アリアンロッドの半数である。しかしながらアリアンロッドから見て地球を背に構える彼らの偉容は勝るとも劣らない。

 そして、その彼らに僅かながらとはいえ合流するものたちがあった。

 

「正直、我々は貴方の行った行為を許し難いものだと思っている」

 

 乗艦から内火艇にてヘイムダル旗艦【ヒミンビョルグ】に乗り込み、マクギリスに対して挨拶もそこそこにいきなりぶちまけたのはコーリス・ステンジャ。

 彼は明らかに憤懣やるかたないが我慢していると言った様子を見せながら続ける。

 

「だが、現状を捨て置けぬという志は分かる。そして出血を強いてでも改革しなければならないと言う覚悟も分かる」

 

 そう言ってコーリス息を吐いた。

 

「ゆえに我々はこの一戦においてのみ、貴方たちに助力しよう」

「……了解した。信念を曲げてまでの助力、感謝する」

 

 す、と握手のために右手を差し出すマクギリス。しかしコーリスは頭を振った。

 

「勘違いをして貰っては困る。この戦いが終われば、我々は貴方の罪を徹底的に糾弾する所存だ。……最低でも、地球外縁軌道統制統合艦隊の全員から決闘を申し込まれるくらいは覚悟して貰おう」

 

 その言葉に、マクギリスは苦笑を浮かべる。

 

「肝に銘じておく。……私が生きて帰れたならば、受けて立とう」

 

 こうして、コーリス率いるMS中隊、【クロウ隊】の参戦が決定した。そしてこのような増援があったのは反逆軍だけではなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――我等中隊とハーフビーク級一隻、参戦のお許しを願いたくまかり越しました。なにとぞ許可を!」

 

 画面の向こうで懇願する士官の様子に、ラスタルは内心で苦笑を浮かべる。

 

「貴官らの申し出を受けよう。配置はおって知らせる、奮闘を期待するぞ」

「はっ! 感謝致します!」

 

 通信を切り、息を吐くラスタル。傍らのガエリオは僅かに眉を顰めて問うた。

 

「良いのか? 彼らは……」

「ああ、我々に賛同したわけではないだろうな。だが、『この状況で我々に味方するものが現れた』。その事実は士気を高める効果がある。そして彼らの性質からして裏切りなどはすまいよ。最大限に利用させて貰おう」

 

 まずはこの戦いを勝ち抜かねばならない。それしか拠り所のないラスタルにとって、一部とはいえども『地球外縁軌道統制統合艦隊からの援軍』は、蜘蛛の糸にも見えたことだろう。

 『その思惑が、いかなるものだったとしても』。

 

(彼らのような者を『真の忠臣』と言うのだろうな。分かっていてもラスタルに真似はできないか)

 

 盲目的な忠誠と、己の真意を押し殺してつくす忠義。己の行動と配下に対する気遣いの差。ラスタルとカルタの違いが明確なものとなった。

 ガエリオは安堵を覚える。例えこの戦いがどのような結果を迎えても、彼女になら後を任せられると。

 

(何もかもを押しつけてしまうことになる。すまないな、カルタ)

 

 いささかの罪悪感を胸の底に押し込め、ガエリオは戦いのことに意識を向ける。

 元々の戦力差でも倍ほど。しかしながら銃後を狙ったラスタルの策はどうやら空振りに終わり、これ以上優位を確保することは出来なさそうだ。マクギリスと鉄華団は戦力差だけで圧倒できる相手ではない。ラスタルもまだ切り札を伏せているが、それは向こうも同じ事。決定打と言うほどではないだろう。

 しかし結局の所、ガエリオにとってはマクギリスとどう相対するかが問題だった。もちろんラスタルには命を救われた恩がある。力を貸すつもりではあるが、マクギリスが目の前に現れればそちらを優先してしまうだろう。

 だがまあ、マクギリスを討てばラスタルの意にも添うだろうと開き直る。そのためだけに生き恥をさらしてきた。最早今更善人ぶりなどしない。

 これは正義の戦いでは断じてないと、ガエリオは思っている。

 自分にとっては、ただの私怨による私闘だ。

 ぎしりと拳が固く握りしめられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反逆軍に参陣したコーリスは、単身イサリビのオルガの元へと足を運んでいた。

 

「わざわざ話をしに来た? なんでまた俺達に」

 

 訝しがるオルガだったが、コーリスは襟を正して口を開く。

 

「これだけは言っておかなければならないと思ったのだよ。……君たち鉄華団が設立される原因となったCGS襲撃事件。あの時GH側の指揮を執っていたのは、私の弟だ」

 

 ざわりと、ブリッジに詰めていた面々が動揺を見せる。それを手で制して、オルガはコーリスに問うた。

 

「なぜわざわざそれを言う? 謝罪でも求めるつもりか?」

「まさかだ。わが弟は君たちの同胞の命を奪い、結果返り討ちにされた。それは自業自得に過ぎないし、戦場の習いでもある」

 

 ただまあと、コーリスは続ける。

 

「後で露見して気まずくなるより、先に言っておいた方がよいと判断したのだ。この一時だけとはいえ背中を預ける身。余計な不信感を抱かせるような真似は避けたい。それに、言わずにおくのは不誠実だと思う。個人的な拘りだが」

 

 幾度か鉄華団と関わり、彼らが若輩ながら敬意を払うべき戦士たちだと見て取ったコーリスが下した判断。 自己満足に過ぎないことだがと、彼は不器用な律儀さを見せた。

 オルガはいつものように片目を瞑り、頭を掻いた。

 

「……あんた、変わってるな」

「変わっている、と言うより『変わった』のだろうな。……昔の私であれば、このようなことはしなかった」

「まあいいさ。これがあんたなりの『筋の通し方』だっていうのは理解した。頼りにさせて貰う」

 

 差し出された手を、今度はしっかりと握り返すコーリスであった。(そしてそのシーンは、ちゃっかりブリッジに居座っていたアヤにしっかりと撮られているのであった)

 

 そして帰路につこうとするコーリスだったが。

 

「よう、久しぶりじゃねえか双子の兄」

「貴様か」

 

 チェシャ猫を思わせる笑みを浮かべたランディに対し、コーリスは渋面で応えた。

 士官学校時代に散々凹まされ、数年後の演習やアーヴラウでの戦いにてしてやられた。苦手意識どころではない、天敵にも等しい相手。そんな相手を前に内心では若干引き気味になるコーリスだったが、表向きにはそれを出さずに相対する。

 

「不要な絡みはいらんぞ。最低でも今、貴様を敵に回すつもりはない」

「別にそんなつもりはねえよ。昔の知り合いに声をかけちゃいかんのか」

「貴様の場合声をかけるイコールおちょくるだろうが」

「なんだ、分かってんじゃねえか」

 

 くつくつと笑うランディ。コーリスの顔は益々渋いものとなる。

 

「なに、良い面構えになったと思ってな。……カルタ・イシュー、仕え甲斐があるようだ」

「……その様子だと、我等の思惑なんぞお見通しか」

 

 溜息を吐く。コーリスたち、『アリアンロッドに降ったものたちを含めた』地球外縁軌道統制統合艦隊の一部士官たちの思惑。『どちらが勝ったとしても、自分達が助力したという事実を持って戦後カルタの立場を少しでも有利なものとする』という考えは、この男に見破られていたようだ。

 いや、恐らくはマクギリスやラスタルも理解しているだろう。浅はかな考えだとからかわれるかと思ったのだが。

 

「俺には出来ん覚悟だ。お前さんらのような人間を、本物の忠義者と言うんだろうさ」

「き、貴様が人を褒めるとか、どういう風の吹き回しだ!? 何が目的だ!?」

 

 思わず動揺して声を上げるコーリス。ランディの言葉は、あまりにも予想外すぎた。

 

「別に褒めたんじゃねえが。……まあいい、気合いを入れるのは結構だが、ちょいと力みすぎてやしないかとな。ま、その分ならそう心配することもねえか」

 

 そう言ってランディは踵を返す。

 

「つまらねえ死に方をすんなよ『コーリス・ステンジャ』。死んだら一人分、カルタ・イシューが苦労すんだからよ」

 

 言いながら手をひらひらと振り去っていく。残されたコーリスは唖然とした顔をさらしていたが、やがて再び渋面となった。

 

「あの男……発破をかけたつもりか」

 

 どうにも妙に気に入られたようだ。あるいはおちょくりがいのある人間が死んでしまってはつまらないと思ってのことかも知れなかったが。

 

「やはり奴めは、腹が立つ」

 

 こうなれば意地でも生き残って一泡吹かせてやると、コーリスは改めて誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラスタルから指示された配置に艦を就かせ、【シュネー中隊】隊長イッヒ一尉は息を吐きながら席に身を沈めた。

 そうしてから、ブリッジに詰めたものたち――いや、己に従った全員に向かって懺悔するように告げる。

 

「すまないな皆。自分の我が儘に付き合わせてしまった」

 

 彼はコーリスたちと同じくカルタのためにラスタルに降った……というのは表向きの理由だ。実の所『ランディと再戦したくてマクギリスと敵対した』という部分が多くを占める。

 イッヒはカルタと共に雪原で鉄華団を襲撃した部隊の生き残りだ。命を賭けて事を成した、そう思った直後に逆転された一部始終を目にしている。そして重傷であったところを治療され、途中で解放された。

 屈辱であった。カルタに勝利を捧げるため全てをかけ、敗北した上に情けをかけられた。いっそのこと戦死した方がよかったと思えるほどに身を震わせる自分達に向かって、ランディはこう言い放つ。

 

「悔しかったらいつでもかかって来な。お礼参りは随時受け付け中だぜ」

 

 歯牙にもかけていない言いざまだと、憤りを覚えた。いずれ目にもの見せてやる。その思いを胸に恥を忍んで生き延びた末に訪れたのがこの機会だ。

 この機を逃せば、もう奴と相対する事はあるまい。そう思ってしまったらもう自分を止められなかった。だから状況を利用しこの場に赴いた。たとえ奴と直接戦えぬ結果に終わる事になってもだ。

 カルタへの忠誠心が無くなったわけではない。だが意地が上回ってしまった。それに自分達が奮戦すれば、ラスタルが勝利した場合にカルタへ配慮してくれるよう進言することも出来るだろうと言い訳じみた打算もある。

 後悔はない。ただ、一部とはいえ同胞を巻き込んでしまったのは済まなく思う。結局自分もつまらぬプライドを捨てられない人間なのだと自嘲するイッヒであったが。

 

「なんの、我々も奴に一矢報いたいのは同じ事」

「ランディール・マーカスが鍛え上げた戦士ならば、相手にとって不足無し。目にもの見せましょう」

 

 次々と告げるイッヒに付き従うものたちもまた、覚悟を決めて事に臨んでいる。あの男に一泡吹かせたい。只そのために集った大馬鹿野郎どもであった。

 まったく愚かなことだ。ならば愚か者は愚か者らしく腹を据えて往くとしよう。イッヒは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ならば、皆の命を貰うぞ。シュネー中隊ここにありと、奴に、いや世界に示せ!」

 

 おお! と鬨の声が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いを前に、マクギリスは各部署を周り兵を激励していた。

 各部のコンディションを確認するという目的もあったが、まめな行動である。彼は多くの兵をスカウトするときも大概自身が顔を出し直接相対することを好んだ。

 そして今、彼はあるMS大隊を前に言葉を放つ。

 

「皆良くここまで来てくれた。感謝する。……IDの返還は確認したな? この戦いが終われば……いや、『もう君たちは自由だ』。戦果を上げてくれれば、後は好きにしてくれて良い」

 

 兵たちがざわめく。何やら戸惑っているかのようだ。

 と、その中の一人が意を決した表情でマクギリスに語りかける。

 

「代表、貴方……『あんた』には恩がある。俺達を『人間にしてくれた』恩が。戦える者には軍属を与え、そうでない者には手に職を与え仕事先まで紹介してくれた。体をやったった者には治療まで施してくれるありさまだ。自由になったからと言ってはいさよなら、ってやるには、あまりにもでかすぎる恩だ」

 

 その言葉にマクギリスは苦笑した。

 

「それもこれも、俺の目的のためだよ。……言っただろう? 『俺は君たちを利用する。だから君たちも俺を存分に利用すればいい』と。妙に義理立てする必要はない」

「義理立てってわけでもないさ。自由にしていいんだろう? だったら最後まで付き合わせて貰う。それぐらいの恩は返させてくれ」

 

 男の言葉に、兵たちの多くが頷いてみせる。全く、変わり者ばかりだと妙なくすぐったさを覚えるマクギリスだが、ある種自業自得だ。

 彼らに対してだけではない。マクギリスは味方に引き入れる者や協力関係になれそうな相手には誠実で律儀な対応を貫いていた。彼自身は他人を信用することが出来ないと思っているが、『他人に信用されるように行動することは出来る』。己の目的のため信頼されるべき者には相応に心を砕いて接していた。

 それは何も演技というばかりではない。彼は自覚していないことだが、養父であるイズナリオを始めとするセブンスターズの重鎮のような、『唾棄すべき大人』と同じような人間になりたくないという思いが心のどこかにあった。ガエリオやカルタに対して冷徹さを捨てきれない部分があるのは、情だけでなくそのような思いがあるからなのだろう。

 ともかく彼の行動は結果的に人望を集めることとなる。当然だろう、信用されるように行動すれば信用されるのは当たり前だ。味方に対し互いに利用し合う立場、などと嘯いてはいるが、そう思って彼の味方についている人間は少数派と言っていい。

 

「分かった。君たちの厚意に改めて感謝する。この戦を勝ち抜くため、力を貸してくれ」

 

 また自覚無く人望を上げていることにも気付かず、マクギリスは頭を下げた。

 ヘイムダル特殊大隊【スカーフェイス】。マクギリスの忠臣と言っても良い戦士たちもまた、戦いに身を投じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュリエッタは荒れていた。機体をシミュレーションエンジンに繋ぎ、闇雲に己を痛めつけるがごとく鍛錬を続ける。

 しかし流石に疲労を感じたのか、シミュレーションを中断しコクピットから、はい出てきた。汗まみれで荒々しく息を吐き、殺気だった目で乱暴にドリンクチューブの封を引きちぎり一気にあおる。その鬼気迫る様子に、彼女に近づく者はだれも――

 

「おやおや、精が出るねえ」

 

 何事にも例外はあると言わんばかりにナレーションを無視して、ジュリエッタに語りかけるのはマリィ。チェシャ猫のような笑みを浮かべ歩み寄る彼女を、ジュリエッタはぎろりと睨み付ける。

 

「何用ですか。見ての通り今忙しいのですけれど」

 

 その態度に、マリィは笑みを深めた。

 

「『自分達の大儀が、世界に否定された』。それで気持ちがぐしゃぐしゃになってる、ってところかい?」

「っ!」

 

 言葉に詰まるジュリエッタ。マリィは邪悪な笑みを湛えたまま、続ける。

 

「足下がいきなり崩されたら、そうなるだろうねえ。純粋で真っ直ぐってのも考えモンさ」

 

 その言葉に、かっと血が上った。

 

「あなたに! あなたに何が分かるのです! 私は……」

「正義の味方の『つもり』、だったんだろう? そのつもりで戦ってきた」

 

 けどねえと、からかうような調子の言葉は続く。

 

「アタシらに『殺された』人間からすりゃ、そんなことは全く関係ないだろうねえ。むしろ『自分達が正義』だと思ってたんだろう。……今だって同じ。マクギリスは『自分の正義のために立った』。どっちも正義を背負ってるのさ」

 

 その言葉に息を飲むジュリエッタ。ややあって彼女はこう問うた。

 

「……あなたにも、正義があるのですか?」

 

 返す言葉はあっけらかんとしたもので。

 

「ん? 強いて言うならランディール・マーカスと戦うってのが、アタシの正義だねえ」

「そんなものが正義だというのですか!?」

「その程度のモンなんだよ。正義ってのは」

 

 冗談めかしていたマリィのトーンが、不意に真剣なものに変わった。

 

「命を賭けて戦いに赴くものは、大なり小なり『自分の正義』ってものを背負ってる。それは大儀ってやつだったり、命令だったり、金だったり、ただ生き延びるためだったり、色々さ。それは大きさじゃない、その人間にとって『命を賭けるだけの価値があるか』、それだけだよ。『戦場では誰もが等価値』。あとは運と実力。正義で弾は当たっちゃくれないのさ」

 

 気圧されたのか、押し黙るジュリエッタ。やがて彼女は俯いたまま、ぽつりと言葉を零した。

 

「……ならば私は、どうすればいいのですか」

 

 迷い子のような声。マリィはいつもの調子に戻り、肩をすくめて何でもないように言った。

 

「好きにすりゃいい。なんたって隠していた情報が大っぴらになっただけで、『状況は何も変わっちゃいない』。やることはいつも通り。ただまあ、勝っても負けても面倒なことになるとは思うけどね」

 

 にい、と再び笑みを浮かべる。

 

「しかし勝たなきゃにっちもさっちもいかない。ならば勝つしかないだろう? そこでふさぎ込んでるか奮戦するかは……アンタ次第さ。ま、精々後悔しないようにするんだね」

 

 そう言って踵を返す。ジュリエッタは俯いたまま。その手がぎゅっと握りしめられる。

 去ったマリィの方はと言えば、歩きながらぽりぽりと頭を掻き、溜息を吐いている。

 

「やれやれ、らしくない事しちまったねえ……」

 

 説教など自分のキャラではないと、自嘲する。気まぐれにしても余分すぎる行動であった。

 なぜそんなことをしたのだろうと自問自答しているうちに、ふと思い当たる。

 

「……ああ、『これで最後だから』か」

 

 進む先は格納庫の最奥。バリケードでふさがれたブロックの中に足を踏み入れる。

 そこに鎮座しているのは、レギンレイズ・モルガン『だった物』。頭部とボディフレームだけが原形を残し、それが増加されたパーツ群に埋め込まれるような形で配されている。

 未だ最終調整最中の機体。その姿はまるで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホタルビの格納庫。その一角で少年たちが集っている。

 

「アストンたちは貧乏くじ引いたな」

「ああ、折角の稼ぎ時に勿体ないって、今頃臍を噛んでるさ」

 

 彼らはブルワーズ戦で鉄華団に受け入れられた元ヒューマンデブリたち。アルトランドの姓を貰い受けた『兄弟』だ。

 円陣を組み、リーダー格である昌弘が言う。

 

「みんな、ここが恩の返し時だ。けど団長は俺達の無駄死にを喜ばない。だったらどうすればいいか、分かるな?」

 

 その言葉に応えるのはビトー。

 

「ああ、石にかじりついてでも生き延びる。生きて勝って、未来を掴む!」

 

 不敵な笑みでもって断言する。かつて絶望の中惰性で生きてきた奴隷はもうここに居ない。希望を抱き、夢を持って、未来を見据えて歩く少年たちが在った。

 力強く頷くのはデルマ。

 

「そうだ。生きてこそ恩が返せる。団長が、鉄華団のみんなが。……ランディ教官が教えてくれた。だから、ここで死ねねえ!」

 

 昌弘が拳を突き出す。全員が合わせて拳を突き出し、がつりとぶつけ合う。

 

「生きて帰るぞ! 俺達の夢を、明日を! ここで終わらせないために!」

『応っ!!』

 

 その様子を見ていたシノが、からかうように傍らの昭弘に向かって言う。

 

「気合い入ってんじゃねえか。流石だな」

 

 返す答えは至極真面目な調子で、しかしどこか誇らしげで。

 

「ああ、自慢の兄弟たちさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第7艦隊の一部は再編成され、新たに加えられた部隊が参入している。

 その母艦となっているフェアラートのブリッジ。乗員が一新され、雰囲気が変わったようだ。どことなく荒んだ空気の中、艦長席に座った男が通信を開いている。

 

「どうよ、調子は」

「ああ、悪くはない。機体にもなれた」

「そいつは重畳。準備は万端って訳だ」

 

 椅子に座っていると言うより埋め込まれたような肥満体を揺らし、男はくつくつと笑う。

 

「こうやって機会を与えてくれるたあ、ラスタル・エリオンも剛毅なこった。感謝しねえとなあ」

「まあ、『俺達のような者』を取り立てなきゃならないほど追い込まれているとも言えるがな。その分恩を売りやすい」

「そういうこった。しっかり頼むぜサン……おっと、『エイロー隊長』殿」

 

 新設部隊【エイロー隊】。どうやら訳ありらしいこの部隊の参戦は、戦いにどのような影響を与えるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々な人間が、様々な思いを胸に秘め決戦に挑む。

 誰もが正義を背負っており、そして誰かの正義を踏みつぶさんとする悪を背負っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いの準備が整い、一色触発という状況の中、ラスタルは己の艦隊に向けて檄を飛ばしていた。

 

「アリアンロッドの勇士諸君! 今我々はかつて無い窮地に追い込まれている!」

 

 それは己の不利を認める言葉から始まった。ラスタルにしては珍しいと言うか、今までになかったことである。

 しかしながら当然、これで終わらせる男ではない。

 

「マクギリスは我々を悪と断じ、その暗部をさらけ出した。確かに我々は法の目をくぐり抜け、悪事と呼べる策も採った。それは認めよう。……だがそれらは、『誰かがやらねばならないこと』であった!」

 

 堂々と、そう宣う。

 

「誰かがやらなければ、秩序と平和を守ることなど出来なかったであろう! 例え泥にまみれてでも、平和という花を咲かせてきた。それは我々の誇るところである! 我々はただ題目を唱えるのではなく、行動で今現在を築き上げた! それをただ表面上の正義とやらで否定されて良いのか! 良いはずがない!」

 

 あくまで自分達に義があると吠える。その言葉は迷いを持っていたものたちの士気を確かに向上させていく。

 あるいは『その言葉に縋りたかった』だけなのかも知れなかったが。

 

「我々は示さなければならない! GHの大儀は決して間違いではないと! そしてそれを支えてきた我々は正しいのだと! 総員、不義を正義と偽るものたちを打ち倒し、それを証明してみせるのだ!」

 

 今更の、お為ごかしである。

 だがそれは確かに、アリアンロッドのものたちを沸き立たせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此方反逆軍。その旗艦となったヒミンビョルグの甲板上に、マクギリス駆るバエルの姿があった。

 備えられている双剣の片方を甲板に突き立て、その柄尻に両手をおいた姿勢。純白の機体はほぼオリジナルのままだが、ただ左肩に記されたギャラルホルンの紋章が、紅い塗料でべっとりと×に塗り潰されている。

 コクピットでラスタルの宣言を聞いたマクギリスは、ふっ、と鼻で嗤った。

 

「総員、今の言葉を聞いていたと思うが……面白くもない言い訳だと思わないか?」

 

 静かに、だが然りと揶揄する。

 

「ああ確かに、この300年は表面上平和を保ってきた。……だがその裏側で、どれほどの悲劇が起こってきたか、どれほどの人間が踏みつけにされてきたか、我々はそれを知った。その上で黙っていることなどできようか」

 

 大きく張り上げた声ではない。だがそれにはぐろぐろと様々な思いを込めた『熱さ』が乗っている。

 

「そして我々がそれぞれ個々に抱いた思いを、願いを、貫くためには目の前に立ちふさがる者を打倒しなければならない。でなければ歴史の繰り返しだ」

 

 眦が力強く引き締められる。

 

「戦おう。どれほどに目の前の敵が強固であろうとも、戦わなければ道は切り開けない。命を賭けて、我々は前へと進む!」

 

 引き抜かれた剣が、真っ直ぐにアリアンロッド艦隊へと突きつけられた。

 

「力を貸してくれ、集いし戦士たちよ! 傲慢なる過去の遺物を叩きのめし、世界の目を覚まさせよう! 未来を勝ち取るために!」

 

 アリアンロッドほどの熱狂はない。しかし同等以上の覚悟を持って、反逆の戦士たちは応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イサリビのブリッジ。双方の言い分を聞いたオルガは、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「なんにも知らなきゃ、ラスタルの言い分も正しく聞こえるが、な」

 

 何も関わりがなかったなら、後ろ暗いところのある自分達が物言う資格はないように思う。だが、彼らに散々ちょっかいを出された身としてはふざけるなと言いたいところだ。

 世間の荒波に揉まれ、様々なことを学び成長した今なら分かる。ラスタルの言う秩序や平和とは、枕詞に『自分に都合の良い』と付くものだと。

 例えばドルトの件。何も武装デモを誘発しなくても、アリアンロッドの武威を背景に労働組合とカンパニーの仲裁をすることも出来たはずだ。あるいはアーヴラウの件。マクギリスの命を狙うだけであれば、通信インフラを止め国に甚大な被害を与えなくても、首脳陣の何人かと内通し彼を罠に嵌めればよかった。

 配下に実戦を経験させ武功を得るため。アーヴラウの国力を削りあわよくば蒔苗の命を奪うため。自分達の都合のために人を陥れ戦乱を招く。その上で築き上げた秩序や平和? クソ食らえと吐き捨てたくなる。

 むやみやたらとそんな思いを口にしなくなっただけ分別が付くようになったオルガであるが、胸にわだかまる憤りはどうにも気分が悪い。マクギリスの言葉で少しだけ溜飲が下がったが、許されるのであれば直接ラスタルを一発ぶん殴りたいくらいには腹が立つ。(なお『鉄華団全員で一発ずつ』、である)

 と、そこにブリッジ内で撮影と記録を続けていたアヤが声をかけてくる。

 

「おや団長さん、これから大勝負って時にしかめっ面なのはいただけませんねえ。絵になりませんよ?」

 

 からかうようなその言葉に、少しむっとした様子を見せるオルガ。

 

「……緊張してんだよ。それこそここ一番の大勝負だからな」

 

 その言葉にふむふむと頷くアヤだったが、意味ありげににやりと笑いこう告げる。

 

「であれば緊張をほぐすためにも、ここで一発団員さんたちに檄を飛ばすというのはどうです?」

「そんなモンで緊張が解けるかよ」

「緊張をため込んでいるよりは発散した方が幾分かマシですよ。それにラスタルの宣言に皆さんも思うところがあるでしょう。気分の良いことを言えばすっきりと戦いに赴けるのでは?」

 

 実はオルガの心境などお見通しであるアヤの唆し。微妙に納得はいかないが、一理はあるかと、片目を瞑り頭を掻いたオルガはマイクを手に取る。

 

「団長のオルガだ。皆聞いてくれ」

 

 機体のチェックをしていたヤマギとザックが耳を傾ける。

 

「俺達に大したお題目はねえ。この戦いも、依頼されたから参戦しているだけのこと……ただの仕事だ」

 

 打ち合わせをしていたごちゃ混ぜ隊の面々が顔を上げる。

 

「けどな、この仕事は世界を変える大仕事だ。いろんな人たちが、色々な思いを、預けて、託して、任して、俺達はここにいる」

 

 エーコとラフタが顔を見合わせる。

 語っているうちに、オルガの中で何かが纏まっていく。それは怒りではない。今まで積み上げてきた物が何かの形を取りつつある。そんな感覚だ。

 

「……俺は、『俺達の居場所』が欲しかった。いつかどこか、たどり着いて、みんなで馬鹿みたいに笑っていたい。そう思ってた」

 

 シノとライド、ダンテの3人が頷いた。

 

「気付いたんだ。今の俺達は目の回るように忙しくて、やることが多すぎて、厄介ごとばかりが押し寄せてきてる。だけど……飯は腹一杯食えるようになった。給料も十分出せるしボーナスだってある。こんな俺達を信用してくれる人も増えたし、信用できる人も増えた。……そしてなにより、みんな笑えるようになった」

 

 昭弘が、チャドが、デルマが、顔を見合わせ頷き合う。

 

「『ここ』なんだ。今居るこの場所が、俺達の目指していたどこか。たどり着いていたんだと、そう思う」

 

 山ほどの戦闘食を調理しながら、アトラが得心したような表情を浮かべる。

 

「だが、これで終わりじゃない。まだ『これから先がある』。俺達は生きていく。そのためには飯も食わなきゃならないし、金も稼がなきゃならない。仕事をしなきゃ生きてはいけない」

 

 ホタルビのブリッジで、ユージンが「そりゃそうだ」と呟いて笑みを漏らす。

 

「『歩き続けていくんだ』。今この場所に満足するんじゃなくて、もっと良くなるように、もっと笑えるように。俺達の居場所を護って、もっと良い場所にするように」

 

 サカリビの指揮を執っているビスケットは、うんうんと頷いてみせた。

 すう、とオルガは息を吸い込んだ。

 

「だからお前ら……『止まるんじゃねえぞ』!」

 

 最終調整する手を休めずに、ランディはくっ、と唇の端をつり上げる。

 

「この仕事は多分これまでの中で一番きつい仕事だ。だがそんなモンで俺達は止まらねえ! てめえの事しか考えてない骨董品なんぞに止められてたまるか! だから、勝ちに行くぞ!」

 

 コクピットの中で、三日月は「……ああ、そうだね」と呟き、微かに微笑んだ。

 

「俺達は生きる! 連中はただの障害物だ! 踏みつけて乗り越えて前に進む! 気合い入れていけよ!」

 

 どっと、咆吼のような歓声が上がった。

 なおこの演説はアヤの手によってリアルタイムで動画配信されており、後にその事実を知ったオルガは、羞恥のあまりのたうち回ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各艦、砲雷撃戦用意! ウェポンズフリー!」

「MSは順次発進! 進路を開けろ!」

「空域が狭くなる! 味方に当たるなよ!」

 

 一気に双方の艦隊が動き出す。砲撃が散発的に開始される中、次々とMSが発つ。

 

「ここで少しでも戦力を削れれば、カルタ様に有利となろう。……シュネー1、イッヒ。出陣する!」

 

 グレイズリッターで構成されたシュネー中隊が斬り込む。

 次にカタパルトへ上がるのは、両肩を黄色く塗装された部隊。

 

「ふん、妙に気合いの入っているのが居るが、手柄はくれてやれんな。……エイロー1、レギンレイズハイムーバーで出る!」

 

 両腰に半月剣を提げたレギンレイズハイムーバー3号機に率いられたレギンレイズの部隊が駆ける。

 そして。

 

(私は、なぜ戦うのかまだ分からない)

 

 カタパルトに上げられる機体の中で、ジュリエッタは自問自答していた。

 

(けれど、答えを出すまで戦場は待ってくれない。答えを出すなどと、悠長なことを言っている暇はないんだ)

 

 だから。

 

「今は、まず戦う! ジュリエッタ・ジュリス、レギンレイズジュリア! 行きます!」

 

 ジュリアが発った後、カタパルトに上がる機体。

 巨大なランスを備えた、騎士を思わせるその機体は【ガンダム・キマリスヴィダール】。

 厄祭戦で使われた仕様を再現し、さらにこの戦いのため再調整されたキマリスの決戦仕様。それを駆るガエリオは、落ち着いた物だ。

 

「これで、全ての決着をつける。キマリスヴィダール、出るぞ!」

 

 次々と発進するアリアンロッドのMS。対する反逆軍も同様に。

 

「恨みはないが、許せよ。……クロウ隊、続け!」

 

 コーリス率いるクロウ隊が飛び出す。

 

「メビウス4、ヘルムヴィーゲ・リンカー。出る」

 

 口数少なく告げた石動のヘルムヴィーゲが発艦する。

 そして鉄華団も。

 

「へっ、派手なパーティになりそうだ。……メビウス1、デイモン。ラーズグリーズ出るぞ!」

 

 かつてのコールサインとTACネームを名乗り、ランディの機体が駆ける。

 

「数は多いが、みんなビビるなよ。やる事ァいつもと同じだ。流星隊、行くぜェ!」

 

 シノの流星号を筆頭に、ライドの雷電号とダンテの獅電が続く。

 

「無理はするな。機体の損傷が3割を越えたらサカリビに退避。俺達はこんな所で死ねないんだからな! 昭弘・アルトランド、グシオンリベイク明王丸。出撃する!」

 

 飛び出す2番隊……の背後から追いすがる1機。

 

「ちょっとお、置いていかないでよ!」

「ラフタか」

 

 辟邪を駆るラフタはちょっと膨れている。

 

「アンタの背中を――」

「分かってる。護ってくれるんだろう? 頼りにしてるぜ」

 

 突然の不意打ち(自覚無し)に、ラフタは赤くなって「分かってりゃいいのよ分かってりゃ」とか言いつつそっぽを向き、チャドとデルマは砂を吐いていた。

 最後にカタパルトへと上がるのは、バルバトス。

 そのコクピットの中で、三日月は静かに目を伏せている。

 

「ミカ、俺達の予想が当たってんなら、連中は必ず『でかいの』をカマしに来る。そいつを乗り越えてからが本番だ、頼むぜ!」

「分かってるよ、オルガ」

 

 伏せていた目を開ける。その眦には闘志が宿っていた。

 

「オルガは約束を守ってくれた。今度は俺の番だ。……三日月・オーガス。バルバトス出るよ」

 

 巨大な剣を携え、白き鬼神が飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正義の味方なんかどこにも居ない。

 ただ人間だけが、戦場(そこ)に在る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 ラスタルは己の艦隊に向けて檄を飛ばしていた。

 

「諸君、私は戦争が好きだ」

『!?』ガビビーン!

 

 だいなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 果たしてガンブレモバイルは1年保つのか。
 怖いので課金できない捻れ骨子です。

 さーてやっとこさ決戦です。まさかコーリスたちがこう出るとは思うまい。参考は真田さんちです。爆裂する忠義を見よ。なんちて。
 で、無理矢理ねじ込まれるエスコン要素。もうここでねじ込んどかないと後がないんだよ。意味はちっともありませんが。ありませんが。
 なお当てはめた隊名は適当極まりないです。エイロー隊長、一体何ドバルなのか。(言ってる)
 そして出ました止まるんじゃねえぞ。これが捻れ骨子流よ! まあ追い込まれてもいないオルガ君ならこんな感じではないでしょうか。なお彼の宣言は後々の世まで語りぐさになることでしょう。やったねオルガ君、伝説(と書いてさらし者)になるよ。(酷)

 次回は敵味方入り乱れての大バトルが始まります。戦場の中で、一体どのようなドラマが生まれるのでしょうか。そして戦いの行く末は。
 刮目して待たれよ。
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