イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 今回推奨戦闘BGM 映画トップガンテーマ【Danger Zone 】



47・チップは命の賭博場

 

 

 

 

 

 火星、鉄華団本部。そこでは事務を預かるデクスターを中心に、裏方の人間が各種作業に追われていた。

 前面で戦うことだけがやることではない。テイワズに任された採掘場の再建など、少しずつでも進めなけれっばならないし、そうでなくても各種事務手続きや根回しなど、やることは山とあった。

 だからといって、24時間働きづめという訳にもいかない。大きな作業が一区切り付いたところで、共に作業していたメリビットが「そろそろ休憩しませんか」と提案し、皆が手を休めた。

 

「どうぞ。インスタントですけれど」

「ありがとうございます」

 

 メリビットが入れたコーヒーのマグカップを受け取り一口。そうしてからデクスターはふふ、と小さく笑みを浮かべた。

 

「その様子だと、上手くいっているようですね」

「ええ、鉄華団の資産の3割を隠し財産として、テイワズ系の金融機関に分散しました。これでいざというとき通常の口座を凍結されても、『引っ越し』くらいはできるでしょう」

 

 それだけではなく、鉄華団所有の船舶登録に複数のダミーを用意したり、圏外圏に団員たちのIDを用意したりと、『敗北したときの用意』を彼は整えていた。それらをすべて『自分の責任となるよう細工した』上で。

 

「でも少し気負いすぎではないですか? なにも全部の責任を被る必要はないでしょうに」

 

 少し眉を寄せてメリビットが言う。応えるデクスターは微笑むままで。

 

「なに、罪に問われても精々終身刑くらいですよ。戦場で命を張っている皆に比べればなんということはない」

 

 それにねと、彼は続ける。

 

「団長たちは、全てを私に任せてくれた。CGS時代、社長たちに怯えてろくに手助けも出来なかった私を信用して。それに応えたいんです」

 

 かつて無力であった自分を引き入れたのは、他に事務仕事が出来る人間が居なかったからだろう。だが日々を積み重ねるうちに、確かな信頼関係が出来上がっていった――仲間だと、家族だと認めてくれた。それを嬉しく思う。

 

「勝っても負けても、戻ってきた彼らに『おかえり』と言ってあげたい。そのための苦労ならいくらだってしますよ。家族なんですから」

 

 戦えない自分の、せめてもの責任だと、デクスターは談じる。この場所を護るのが自分の仕事だと胸を張って。

 

(まったく、男の人ってみんな変なプライド持ってるんだから)

 

 メリビットは心の中で嘆息。 どいつもこいつも困ったものだ。自ら好きこのんで苦労を背負い込んでいく。見守っているものの気持ちも考えて欲しい。

 

(言って止まるような人たちではないって、分かっているのだけれど)

 

 彼方でオルガが止まるんじゃねえぞと檄を飛ばしていることなどつゆ知らず、どうしたものだかと呆れつつ悩む。人のことを何のかんの言っているが、テイワズを退職し鉄華団に入り直してとことんまで付き合う腹を決めた時点で、同じ穴の狢では無かろうか。

 

(雪之丞さん、ちゃんと手綱を取って上げて下さいね)

 

 遠く離れた交際相手に祈る。もっともブレーキになるどころか下手するとアクセルになりかねないとは分かっていたのだけれど。

 心配しているようで実は煽っているのかも知れないメリビットであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦力が展開すると同時に、オルガは指示を下す。

 

「『コンテナ』の放出を開始。サカリビは放出と同時に所定の位置へ後退だ。連中の動きから目を離すなよ」

 

 鉄華団艦隊それぞれのカーゴブロックから、多量のコンテナが放出されていく。それはワンから大量に買い付けた急造ミサイルランチャーもどき。アポジモーターで微妙に進路を変更しながら、それらは漂っていく。

 その存在は、アリアンロッド艦隊にも捉えられていた。

 

「ふむ、何やら小細工か。……観測班、あの漂流物に留意しておけ。何をしてくるか分からん」

 

 ラスタルは油断を見せずに指示を飛ばす。そうしてから「しかし」と呟く。

 

「一つ艦を後退させた。損傷した機体や負傷兵を収容し、いざとなれば離脱するためのものか。先に落としておくべきかも知れんが、位置が悪いな」

 

 艦隊の射程距離外。MSで襲撃しようにも鉄華団は十重二十重と防衛陣を築いている。彼らの技量は嘗めてかかれるものではないし、そこにだけ戦力を集中させるべきではないと理解しているラスタルは、即座にサカリビを狙うのを諦めた。

 その代わりというわけではないが。

 

「ヘイムダル艦隊に合流した艦に攻撃を集中させろ。やつらはまだ連携が取りにくい。いまのうちに叩く」

 

 各所から反逆軍に合流した艦。寄せ集めとも言える彼らはまだ連携が取れていないと見たラスタルは、そう指示を下す。

 

「団長、敵は合流した艦の方に攻撃を集中させ始めました」

「そのパターンできたか。……反逆軍艦隊に通告。『例の仕掛け』を使う。索敵管制に注意しろとな」

 

 万全ではないが、対策はある。オルガは即座に動いた。

 アリアンロッド艦の砲座が敵艦を捉える。自動制御によりセンサーで捉えた艦影に照準を合わせ砲弾を吐き出す――

 寸前で、『突如センサーが別の艦影を捉えた』。

 いきなり現れた複数の反応。それにより火器管制システムは一時的に混乱する。

 

「何が起こった?」

「さ、先程放出されたコンテナです! あれからいきなり艦船のエイハブウェーブ反応が!」

 

 オペレーターの言葉に、ラスタルはすぐさま状況を察知する。

 

「『エイハブコンデンサ』か! 艦船の周波数で粒子を一気に放出し、ダミーとして使ったと」

 

 MSの慣性制御に使われるコンデンサは、一時的にエイハブ粒子を蓄積しておくことが出来る。それに細工して、艦船の周波数で粒子を一気に放出できるようにしたものを、コンテナに詰めて放出していたのだ。

 短時間しか効果のないダミーだが、これにより自動制御される火器管制システムは混乱し、一時的にフリーズしてしまう。それを悟ったラスタルは対策を講じた。

 

「火器管制をマニュアルと光学照準に切り替えろ! 命中精度の低下は数で補え!」

「コンテナにはどう対処しますか?」

「放っておくしかあるまい。所詮はダミーだ。それに一々潰して回ったのでは手間になる。この状況で余計な戦力は割けん」

 

 コンテナを放置するという判断を下したラスタル。その選択はオルガたちも見て取った。

 

「『上手いこと判断してくれた』か。油断はならねえが、まず第一段階はクリア。……MS戦はどうなってる」

「1番、2番、3番隊。遊撃部隊。そしてランディ教官。それぞれ敵と交戦中。残りも順次交戦に入ります」

「長丁場になる、無理はさせるな。3割以上の損傷を受けたら即座に後退だ。焦らず粘るぞ」

 

 まだ始まったばかりだ。これからは積み木を一つずつ積み重ねていくような慎重さと、敵の虚を突く大胆さが同時に求められる。オルガの肩には多くの命が乗っていた。その重みに負けぬよう神経を研ぎ澄ませる。

 

「艦の足を止めるなよ。装甲が増加された分ちょっと動きが鈍ってる。当たらないことより受け流すことを意識するんだ」

 

 決戦に赴くに当たって、鉄華団の各艦は前面の装甲を増加している。それにより機動にも幾ばくかの影響が出ていた。火星からの航行中に慣らしはしたが、油断はするべきではない。

 

「団長、合流艦にヘイムダルからフォローが入りました。部隊名はスカーフェイス。敵MS部隊と交戦に入ります」

「例の部隊か。話は聞いているが……どうにも妙な気持ちだ」

「『俺達と同じ』って事ですからね。マクギリス代表は信用できますけど、気持ちは分かります」

「あいつらが自分から望んでここにいる、って言葉を信じるしかないか。……ともかく合流部隊のフォローはやつらに任せる。俺達は迎撃に集中するぞ」 

 

 壮絶とも言える叩き合いは続く。戦場に秩序など無い。誰もが必死、誰もが命がけの綱渡りだ。

 そこでは冷静さを失ったものから墜ちていく。

 

「イオク様の仇をおおお!」

「く、こいつら、後先考えずに突っこんでくる!」

 

 合流艦隊と真っ先に接敵したのは、 第2艦隊の残存部隊であった。本来先陣を切るのは彼らではなかったはずだが、イオクの仇を討つと血気に逸っており、戦術を半ば無視する形で突出していた。

 上官を失う、などということを彼らは今まで経験したことがない。それどころか想定すらしていなかった。イオクさえ居れば『自分の立場は盤石』、そう考えていた節がある。

 だがイオクは討たれ、第2艦隊はラスタル預かりとなった。ここで彼らは危機感を覚える。これから先自分達はどうなってしまうのだろうかと。

 真っ当な忠誠心を持っているものは本気で敵討ちを狙っていたが、そうでないものはラスタルに取り入るため、功を焦る。そう言ったものたちが真っ先に斬り込み、まともなものたちもそれに引きずられ、飛び出す。結果彼らは先陣を切って交戦を開始することとなったのだ。

 彼らの士気は高い、というか死に物狂いだ。忠誠心の高いものたちは、なんとしてでもイオクの仇を討つと息巻いているし、そうでないものは少しでも手柄をと貪欲だ。その勢いは反逆軍の兵たちを圧していく。

 だが勢いだけで勝てるほど、戦場は甘くない。

 横合いからの奇襲。銃弾の雨が第2艦隊のMSたちに降り注いだ。

 

「無事か? こちらはスカーフェイス隊だ。ここは俺達に任せて引き、体勢を立て直してくれ」

「おお、代表直下の。援護を感謝する」

「お互い様だ。後で返してくれよ」

「了解した。生きて帰れたら一杯おごろう」

 

 損傷を受けた機体が後退し、代わりにスカーフェイス隊が交戦を始める。明らかに通常の機体と違う動きをするスタークグレイズ。その動きを見た第2艦隊の兵は目を見開いた。

 

「あの動きは、まさか『阿頼耶識』!?」

 

 そう。スカーフェイス隊とは、マクギリスが保護したヒューマンデブリから希望者を集い、訓練を施して兵としたものたちの部隊だ。

 元々が戦場を生き抜いた経験のあるものも多く、そして戦い以外に自分の道を見つけられなかったものも多い。マクギリスはそう言ったものたちを正規のGH兵として採用し、訓練と教育――人としての生き様を与えた。自分たちを価値ある人間だと認め、力を貸してくれと請われた。彼らはそれに多大なる恩義を感じ、忠誠を誓っている。そしてマクギリスの力になるため、この日のため、己を磨き続けてきたのだ。

 

「我等が命、今日この日のために在り、ってな! 総員、死力を尽くすぞ!」

「「「「「了解っ!」」」」」

 

 第2艦隊の兵をやもすれば上回る気迫。そして並の兵を凌駕する技量を持って、スカーフェイス隊は挑みかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘイムダル旗艦ヒミンビョルグ。艦隊の指揮を執っているライザは、戦況を示すディスプレイを見ながら呟いた。

 

「見事な物だな。阿頼耶識付きの兵、味方にすればこれほど頼もしい」

 

 反逆軍では阿頼耶識システムに対する拒否感などはほぼ無い。流石に自分が施術される立場になれば躊躇するだろうが、ヒューマンデブリや少年兵に対する偏見は無と言ってよかった。

 元々身分の低いものや、後ろ暗い出自のものも多く、阿頼耶識を備えたものたちを実地で知っているものもあった。実態を知り、そして共に同じ目標に向かって切磋琢磨すれば理解も出来る。

 彼らにとって阿頼耶識を持つものは敵か味方かが重要であって、備えていることそれ自体は何の問題もない。鉄華団がすんなりと受け入れられたのもそれゆえのことであった。

 

「ともあれあまり彼らに任せる訳にもいかないか。体力や精神力は我々と差があるわけではないのだから。……合流艦隊はヘイムダルと鉄華団のフォローに回るよう通達してくれ。向こうに突き崩す隙を与えるな」

「エンザ1尉。こちらのMS部隊に損害が出始めています。……これは!?」

「どうした。報告は正確に頼む」

 

 オペレーターは、焦りのようなものを見せつつ報告を行う。

 

「敵部隊の中に、『阿頼耶識を備えたものが多数確認されたようです』! こちらのMS隊が圧されている模様!」

「なんだと!?」

 

 ライザは驚愕の声を上げたが、すぐさま眦を鋭い物に変える。

 

「ラスタル・エリオンも『代表と同じ事』を考えたか! 鉄華団に通達。余力が在ればこちらに回してくれるよう要請してくれ」

 

 その時前線では、暴虐の嵐が吹き荒れていた。

 

「はっはっはァ! 脆い、脆いぞ!」

 

 電光のような速度で戦場を駆けめぐり、二つの半月刀を振り回して刈るように反逆軍を蹴散らしていくのはレギンレイズハイムーバー。それを駆る男――エイロー隊長は上機嫌で哄笑する。

 

「阿頼耶識! 馬鹿にしていたものだが、こうまで使えるとはなァ!」

 

 ラスタルが切り札の一つとして取った手段。それは『海賊などのMS戦闘になれているものに阿頼耶識手術を施し、兵にする』といったものだった。

 一般に流布している阿頼耶識ナノマシンと違い、成人に施すものはそれぞれ個人用に専用調整する必要があると言う手間はあったが、実戦経験豊富な人間をより強化することが出来ると言う利点があった。裏から手を回し収監されていた犯罪者たちをかき集めるという危険を冒してまで成し遂げた策は、想定通りの効果を生みつつある。

 

「このまま一気に防衛網を突破する! 旗艦を沈めればさしもののやつらも……」

 

 エイロー隊長の皮算用は途中で寸断された。

 レーダーに感。それを感覚として感じたと同時に、本能に従ってエイロー隊長は回避行動を取る。

 

「……そう容易くは行かせてくれないようだな」

 

 寸前まで己の存在した空間をぶち抜いたのは白と黒。

 

「ちっ、勘が良いな」

「はっはァ、なかなか面白い趣向じゃねえか!」

 

 三日月のバルバトスとランディのラーズグリーズである。それに次いで鉄華団の主立った戦力が敵を蹴散らし駆けつけてきた。

 眼前の敵を睨め付けながら三日月は言う。

 

「ランディ。こいつは俺が相手をする」

「ほう? 珍しいなお前が敵を選ぶなんぞ」

「あんたは『もっとヤバイの』相手にしなきゃ、だろ? それに……」

 

 三日月は鋭い眼差しを向けたまま続けた。

 

「こいつは多分、『俺が仕留め損なったヤツ』だ。てめえのケツはてめえで拭う。そうでなきゃって言ってたよね」

 

 その言葉に、ランディはニイっと満足げな笑みを浮かべた。

 

「OK任した。……そいつは強ェぞ、しくじんなよ」

「分かってる。油断も容赦も手加減もなし、だろ」

 

 ラーズグリーズはその場から飛び去る。対艦ソードメイスを構えたバルバトスの姿を見て、エイロー隊長は獣のように笑む。

 

「早速のリベンジマッチとはな。……『以前』のようにはいかんぞ地獄の番犬!」

 

 エイロー隊長――かつて夜明けの地平線団を率いていた男サンドバル・ロイターは、電光のような速度で斬り込む。

 円月刀の連撃をソードメイスで器用に捌きながら、三日月は淡々と言う。

 

「前の時は生け捕りにしなきゃならなかったけど……今回は縛り無しだ。ここでケリをつける」

 

 激しい剣戟が、火花を散らして果てなく続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェアラートのブリッジ。この場だけでなく艦のスタッフはほぼ全て元海賊や元犯罪者である。それを取り仕切っているのは。

 

「三度目の正直、ってわけでもねえが、纏めて借りを返させて貰うぜェ」

 

 肥満体をGH仕官服に押し込んだブルック・カバヤン。艦隊指揮能力を買われて、サンドバルらと共に第7艦隊にねじ込まれたのだ。

 いくら何でも今度こそ、という慢心がある。反逆軍の倍はある戦力。そしてただでさえ高い技量を阿頼耶識によって嵩ましされたエイロー隊。確かにラスタル――アリアンロッドは苦しい立場だ。しかし腐っても鯛、戦力自体は維持しているし、苦しい立場ならばなおのこと手柄の稼ぎ時だとも言える。ここでラスタルの覚えめでたければ、成り上がることも……そのように考えていた。

 捕らぬ狸のなんとやらを地でいっているブルックは、自分達が採用された『もう一つの理由』に気付けずにいる。それがどのような結末を導くのか、まだ定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイロー隊に便乗する形で、ジュリエッタは反逆軍艦隊に肉薄せんとしていた。

 

「指揮の要を叩く! 倒せなくとも足止めが出来れば!」

 

 MS隊の指揮を執るものを優先的に相手取る。自身の腕がトップエースに及ばないと自覚を覚えた彼女は、ともかく相手の行動を妨害することで活路を開こうと目論んでいる。

 しかしそれすらも、上手くいかないようで。

 

「あれは、鉄華団のガンダムフレーム」

 

 エイロー隊と交戦を始めたグシオンと流星号。 その姿を確認した彼女は一瞬迷う。

 彼らは指揮の要とは言えない。しかしながらグシオンは遠距離から正確無比な射撃を行う能力があり、流星号はダインスレイブタイプのレールガンを備えた機体だ。どちらも条件さえ整えば『スキップジャックに一撃を加えることが可能』であった。

 いまのうちに討つべきか。彼らならまだ自分が相手取ることも出来る。そして目の前の敵に集中しており上手くすれば隙を突くことが出来るかも知れない。

 思考の末彼女は。

 

「賭けてみる!」

 

 不意打ちを選択した。最大加速でグシオンの背後を取らんと――

 

「させない!」

 

 横合いからの銃撃が、ジュリアの行動を阻害する。それを成したのはラフタの駆る辟邪。そのまま辟邪はジュリアへと肉薄し、ブレードを引き抜いて斬りかかった。

 

「この機体、タービンズの! 邪魔をして!」

 

 ジュリアも蛇腹剣を展開し、迎え打つ。 のたうつ刃を捌き、辟邪は一度後退して仕切直す。

 

「生憎と、あいつの背中までは通行止めよ! あたしが居る限りここを通れると思わないでよね!」

 

 見得を切る。半分ははったりだ。レギンレイズジュリアの性能は、タービンズの騒動で見知っている。乗り手はまだ未熟だが、その機体性能でもって『アミダと互角に至っていた』。未だアミダの域まで至っていない自分では、辟邪の性能を加味しても五分まで持っていけるかどうか。

 だが、『それがどうした』。

 未来を見据えて夢を見る男がいる。その夢は苦労が多くて、あるいは命がけのものだ。

 でも暖かくて、関わる皆が希望を持って従事できる。そんな夢だ。

 命を張って護るに価する、小さくて大きな夢。その夢を邪魔はさせない。

 だから――

 

「あんたごときに! あいつの夢を止めさせるもんか!」

 

 脚部を展開しスラスターユニットを全開にして、ラフタの辟邪は果敢にジュリアへと挑みかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、やっぱいい女だよなァ!」

 

 襲いくるエイロー隊のMSを捌きながら、シノが言う。

 それに応える昭弘はどこか誇らしげで。

 

「ああ。存分に背中を任せられるっ!」

 

 ハルバードを構え、サブアームには2丁のレールガン。さらに展開した隠し腕の先にレーザートーチの光を宿らせて、グシオンは展開したカメラアイの輝きを強め敵の群れを睥睨する。

 

「応えるしかねえだろう! でなきゃ男が廃るってモンさ!」

 

 己の思いも、向けられた女の思いも自覚しないまま。しかして昭弘は明王のごとく威風堂々吠える。

 

「さあ! 解体されたい奴からかかってきな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MS戦は本格的な激突を見せ始めた。

 敵味方入り交じる中、ガエリオのキマリスヴィダールが接敵したのは、大剣を担いだMS、石動のヘルムヴィーゲであった。

 

「墜しておきたいところだが……機体も乗り手も随分と手が入っているな」

「マクギリスの側近か! 相応の技量がある!」

 

 淡々とした石動の様子に、ガエリオは苛立ちのようなものを覚えた。マクギリスへの妄信のようなものを抱いているからこその不動。そのように感じたのだ。

 だからこのような言葉が口をついて出る。

 

「分かっているのか! マクギリスはお前たちをただ利用するだけなんだぞ!」

 

 その言葉を鼻で嗤う石動。何を言うか、『分かっていないのはお前の方』だと。

 

「その通りだ。そして『我々も代表を利用している』」

「なにっ!?」

 

 大剣が、回転して襲いくるドリルランスを弾き飛ばす。

 

「互いにそうだと割り切った関係。我々はそういったものだ。中には本物の忠誠心を抱くものもいるが……最低でも私は、忠義や義理立てなどであの方に付き従っているのではない」

「ならば、なぜっ!」

 

 斬り結びながら、石動は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「貴方には分かるまい。……いや、『分かっていないふりをしている』のか? どちらにしろ、私の答えなど聞いても意味はないだろう」

 

 石動は、コロニーの下級市民の出である。ゆえにそれなりの才能を持ちながらも、血統がものを言うGHでは冷遇され、挙げ句に標的艦隊に押し込まれた。

 そこでランディと出会ったのは幸運だったのか不幸だったのか。ともかく彼の部下として小突かれおちょくられ鍛え上げられるうちに、随分と図太い性格となった。そして標的艦隊が解体されランディが逐電した後、知り合いを誘ってGHを辞め、一旗揚げようかなどと考えていった矢先、マクギリスに声をかけられたのだ。

 マクギリスの誘いに乗ったのはなんということはない。彼がランディのことを『楽しそうに』話題にしたからだった。そう言う人間は大概ろくなものではない。つまり『自分達の同類』だ。話に乗って悪巧みするのも面白いと思ってしまった。

 それにマクギリスの成すことに便乗し、自分がどこまでやれるのか試したいという気持ちもある。GHの力が減退し、迎えるであろう波乱の時代。そこで何を成し遂げられるのか。限界に挑戦し自分が世界の未来を作り上げていくのだと、そう言った野心のようなものを抱いている。

 が、と一際大きく火花が散って、ヘルムヴィーゲは後退した。『この相手には勝てないと、石動は理解している』。彼とてランディの直弟子と言える男だ。相応の技量を誇るが、阿頼耶識TypeEを備えフルスペックが出せるキマリスヴィダールに勝てるほどではない。

 しかし。

 

「こんなものか。『時間は稼いだ』」

 

 その言葉の意味をガエリオが問いただす前に、レーダーに感。高速で飛来してくるMSが1機。マクギリス駆るバエルだ。

 

「待たせたな石動。後は俺の仕事だ」

「了解しました。ご武運を」

 

 場所を譲る形でヘルムヴィーゲは撤退していく。バエル右手の剣を突きつけ、マクギリスは言う。

 

「さて、出てきてやったぞガエリオ。相手をしてやるから、かかってくると良い」

 

 からかうような、挑発的な物言い。ぎり、とガエリオは歯噛む。

 

「どこまでも見下して……っ!」

「お前は一度俺に敗れている。これはいわば敗者復活戦だ。であれば相応の態度で臨むものだろう?」

 

 余裕を崩さないマクギリスに、ガエリオは激昂した。

 

「マクギリスうううう!!」

 

 咆吼と共にキマリスが打ちかかる。

 大重量のドリルランスを豪快ながら巧みな槍捌きで扱うガエリオに対し、2刀でもって華麗に凌ぐマクギリス。斬り結びながら彼らは論戦を繰り広げる。

 

「知力、腕力、魅力、暴力! お前は『力』と名の付くものしか信じていない! それゆえに人として大切な何かを投げ捨てた!」

「そう言うお前は人情、愛情、友情、感情……『情』に流され、大局を見ることを怠った。だから破滅を招いたのだ」

 

 厄祭戦当時の性能を維持しているバエル。最新鋭の阿頼耶識システムを搭載し現状最強ランクの性能を誇るキマリス。

 互いにまだ様子見レベルの交錯。しかしながら場の空気は溶鉱炉のごとく熱く、ぐろぐろと渦巻いている。

 

「人としての情を捨てた大局など! それこそ破滅を呼ぶものだろうが!」

「GHとて、人の情けのない大儀に踊らされているだろう。……それに俺は人として全てを捨てたわけではない」

「なんだと!?」

「『憎悪と憤怒』。GH、イズナリオ。いや世界の有り様に対する憎しみと怒り。それが俺の始まりであり、今もって貫き通す原動力だ。お前にも、いや誰であろうと否定させはしない」

「怒りと憎しみだけで、この世界を破壊しつくすつもりか! マクギリス!」

「そうだとも。そしてお前にも否定させないと言ったぞガエリオ。なぜならお前は俺に対する憎しみと怒りを持ってこの場に在るのだから」

 

 火花が一際派手に散り、双方は一瞬の間合いを取った。

 

「敗北し、全てを奪われ、形振り構わず足掻こうとするほどの憎悪と憤怒を抱いた。ここでやっとお前は俺と相対する資格を持ったんだよ。『我が宿敵』よ!」

「戯れ言をほざくな! どうであろうと人として許されない行いをしたことは間違いないだろうが!!」

 

 相容れない二人は、再び激しく火花を散らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「酒ないっちゃあ暴れる。女いないっちゃあ暴れる。機嫌の良いときでも人ぶん殴るからなああの人は」

「分かります分かります。あと無茶振り酷いし」

 

 ヤンキーの先輩を語るときの後輩の会話ってこんな感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 誰だ祝日に仕事入れようって言い出した奴。
 その余波を喰らって暫く土日休みねえよふぁっきん捻れ骨子です。

 さ、仕事の愚痴はさておいて更新です。いよいよ始まりました最終決戦。ですがまだまだ序盤。オードブル程度です。ここから先切り札の応酬となってあと数話くらいは引っ張る事となるでしょう。エンディングはいつなのか。来年中にはケリを付けたい。(今年中は諦めた)
 なにしろまだまだ伏線とかネタとか昇華してませんのでね。何よりマリィさんの出番がまだ来てませんし。果たして数話で収まるのか。来年中もあやしいぞこりゃ。

 とにもかくにも今回はこのあたりで幕とさせて頂きます。次回もお楽しみに。

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