イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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今回推奨BGM、ガンダム0083より【ASSAULT WAVES 】




50・反則技で、勝てると思うなよ?

 

 

 

 

 アリアンロッドと反逆軍の決戦、その様子は圏外圏や火星圏を含む全世界に向けて、様々な手段で中継されている。

 もちろんラスタルは方々に手を回し、報道関係を抑え自分たちに都合のいい情報しか出回らぬよう細工していた。しかし報道に細工したのはマクギリス側も同様。と言うより彼は手を回したマスコミ関係者に対し、「好きなように報道してくれ」と許可を出している。

 この戦場で起こるあるがままを。後に支配者になるつもりのないマクギリスは、『自分たちの戦いを見るすべての者に、この世界のいく末を考えさせるべきだ』と考えていた。ゆえに『隠し立てなどしない』。自分たちによって脚色されたものではない『真実』を見せつけようとしていた。

 そして戦いの様子を彼方から見守っている者たちはと言うと。

 

「なるほど、ダインスレイブをあのように完封するとは。これでラスタル司令の切り札が一枚減らされたわけですか」

 

 卓に肘をつき、戦いの様子を見守っていた新江がつぶやくように言う。この火星支部本部長執務室だけではなく、様々な場所で多くの人間がこの戦いを見守っているのだろうと、彼は頭の隅で考える。

 まあそれはさておいてと、新江は意識を切り替えた。

 

「ですがまだ手札を残しているのでしょうねラスタル・エリオンは」

 

 映像から目を離さずにクーデリアが言う。これまでの鉄華団とのやりとり、そして集めた情報から彼女はラスタルの人となりをそれなりに掴んでいた。

 彼は尊大だが用心深く、戦うときは必ず『勝てる状況』に持ち込んでから戦端を開く。しかし今回において彼の工作は、その多くが覆されている。

 それは相手――マクギリスや鉄華団が彼と同等以上の策を持って相対しているからであった。実のところラスタルは、知力、政治力、武力、そのほか諸々を含めて『自身と互角以上のものを相手取ったことはほとんどない』。今回の戦いは、彼にとっても未知の領域であり、苦戦するのもやむかたない事だった。

 だがそれでも、勝てるとは断言できない。未だ戦力差は大きく、アリアンロッドはまだ余力を残している。なにより未知の領域である、それだけで優位に立てるほどかの男は甘くないだろう。彼の用心深さは折り紙付きだ。『切り札が一枚だけなど、ありえない』。そう断言してもいいと、クーデリアは思っている。

 

「では、どのような手段に打って出ると思われます?」

 

 モニターと言うよりも、それに見入っているクーデリアを興味深そうに見つつ、イアンナが問う。クーデリアは振り向くことなく、思考しながら答えた。

 

「ダインスレイブは恐ろしい武器です。一度放てばMSはおろか戦艦ですら瞬く間に轟沈させるほどの。切り札として用いるのは当然でしょう」

 

 すう、とクーデリアの目が細まる。

 

「であれば、次に用意されているのはダインスレイブと同等以上の威力を持つか、同等以上に『やっかいな代物』ではないでしょうか。一見では対処が難しい、そのようなものではないかと」

 

 その言葉を聞いた新江とイアンナは同じ感想を抱く。

 

((やはりこの人は末恐ろしい))

 

 と。

 クーデリアに軍事的な知識はほとんどないはずだ。いままで鉄華団などから聞きかじり、そして自分の目にしたこと耳にしたことだけで戦術的な判断が下せている。そしてそれは的外れどころか大分正鵠に近いものだと思われた。

 このセンスを保ったまま成長を続ければ……その未来予想に新江は戦慄し、絶対に敵に回すべきではないと改めて誓う。一方イアンナは内心でほくそ笑んでいた。この人は益々面白くなっていく、と。

 その様子を見守っているフミタンは、表面上すました顔ながらも、内心では暮雨の涙を流している。

 

(お嬢様があの男の影響を受けすぎているぅ……)

 

 クーデリアの戦略眼は、間違いなくどっかのキチピーの影響であると確信している彼女自身も、かなり影響を受けていると思うがそれはさておいて。

 ともかく図太くアーレスに居座っている(もうこの時点で誰かさんの影響バリバリだと思われ)彼女らを含めた、あらゆる者たちが戦いを注視している。

 そんな中、戦場は新たな動きを見せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナノミラーチャフが叩き込まれ、陣形をを崩したアリアンロッド。この隙にと反逆軍の主力は補給を行い、残りは反撃に出るであろう敵に対して迎撃網をしく。

 

「……来た。全然数が減ってるようには見えねえや」

 

 イサリビの近くで迎撃のため待機していたハッシュは、ゴクリとつばを飲む。

 先ほどまでは視界に三日月の存在があった。ついて行くことはできないにしても、その存在が側にあるだけで随分と支えられてきたのだと、今になって思う。

 バルバトスが補給を行うわずかな間。それだけだというのに、まるで真っ裸で宇宙空間に放り出されたような心細さを覚える。依存していたのだと、自分の甘さを突きつけられたようだった。

 だが。

 

「落ち着け……落ち着けよ、俺。あの訓練(ランディ数人)を受けたのは伊達じゃねえんだ。落ち着けば、やれるさ」

 

 ハッシュとてこれまで生き抜いてこられたのは運や偶然だけでもない。最初はそうだったかもしれないが、鍛え上げ、経験を重ね、それらを確かに己の糧として成長してきたのだ。今の彼は、三日月の金魚の糞などではない。

 

「当たらなけりゃ、死にはしない! 俺とこいつならできる!」

 

 辟邪の脚部が展開し、ブースターユニットが炎を吐き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアンロッドの反応を見て、マクギリスはふむ、と考える。

 

「艦隊が徐々にだが後退している? 残っているのは相変わらず阿頼耶識付きを中核とした部隊だけ、か」

 

 そのことに罠の存在を感じ取った彼は、石動に通信をつなぐ。

 

「石動、1艦だけ『タイマーを繰り上げすぐに出せ』。何か仕掛けがある」

「様子見ということですか? こちらの手が露見しますが」

「それで種が割れれば帳尻は合うさ。それにラスタルも予想している事だろう」

 

 もう少し、戦場が混迷してから打つつもりであった札。それを切る判断を迷いなく下す。切り札とは最後までとっておくものではない、出すべき時に出すものだ。そう考えているマクギリスは、ラスタルがどのような手を繰り出すか、冷静に見極めんとする。

 その彼をしても、予想外の札が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵改装型ハーフビーク級1、突出してきます!」

「様子見のつもりか。しかし放っておけるものではない。……全艦、突出してくる艦に砲撃を集中! エクスカリバーの準備はできているな?」

「はっ、いつでも照射可能です!」

「臨界で待機。敵艦が止まらず艦隊に突っ込んでくるようであれば、使うぞ」

 

 陣形が整い本格的に反撃へ、としたところで敵艦が一隻、飛び出してくる。ブリッジを収納したそれはおそらく自動操艦。ミサイル代わりに特攻させようというのだろう。その手段自体は予想していたことである。

 アリアンロッドは大艦隊が逆に徒となり、機敏な回避行動をとりにくい。それを見据えての策と見た。だが艦の数に限りがあり、そう何度も使える手段ではないはずだ。様子見のためだけにこれを行ったマクギリスの度胸には呆れるやら感心するやらだ。

 しかし油断もしなければ容赦もしない。次々と自軍のMSが飛び出していく中、砲弾の雨が特攻してくる艦に降り注ぐ。が、元々ナノラミネート装甲を持ち耐久性の高い艦艇は、少々の打撃では墜ちない。ましてやブースターを追加され通常のハーフビーク級より速度の出る改装型だと、当てることそのものが難しくなってくる。

 となれば。

 

「敵艦、速度落ちません! 本艦に向かって進路を調整している模様!」

「やはり自動誘導くらいはしてくるか。……タイミングを合わせ、エクスカリバーを照射せよ」

「はっ! ……目標、有効範囲まであと7秒。有効範囲から友軍機は待避。……エクスカリバー第一射、照射開始せよ!」

 

 割合静かにラスタルが命を下す。それを受けた部下は、緊張を隠せないままそれを遂行した。

 

「砲撃が止んだ? それにMSが散開してる」

 

 電子妨害と索敵を担当していたダンテがそれに気づく。特攻していく艦に対するアクションをやめた……いや。

 

「回避じゃない、あの艦から『離れてる』、のか? ……なんかヤバいぞ。……団長、ダンテだ! MS部隊に後退を――」

 

 直感で危険を察した彼が進言するより早く――

 『光の壁が、眼前に立ちはだかった』。

 

「な、なんだ!? うわっ!」

 

 何が起こったか把握する前に、レッドアラートが鳴り響く。電子戦用ユニットのいくつかが、過負荷を受けダウンしたのだ。

 そしてそれにとどまらない。光の奔流はアリアンロッド艦隊に飛び込もうとしていた特攻艦を飲み込み、そして。

 爆発。推進剤と積み込んでいたプラスチック爆薬が一気に発火したのだ。

 双方ともに簡単に爆発するような代物ではない。それが一瞬でなどとはにわかには信じられなかった。皆があっけにとられる中、マクギリスと反逆軍の幾人かが光の正体に気づいた。

 

「『ガンマ線レーザー』! 月衛星基地の実験施設か! 完成していたとは」

 

 核反応からエネルギーを得て放たれる大出力レーザー兵器。外惑星進出などに用いる比較的安価な推進システムとして応用できないか研究する、と言う名目で開発が進められているとは聞いていた。しかしどうやら手に入れた情報は虚偽のものだったらしい。ここに来てやってくれるとマクギリスは舌を打った。

 

「総員、むやみに敵艦隊へ踏み込むな! あれを食らえば機体はともかくパイロットは一瞬で蒸し焼きだ! 残った特攻艦のタイマーを解除。戦術を立て直す!」

 

 その声を聞いて機敏に反応する反乱軍。しかし多くのものが動揺を隠せない。そんな中でも、オルガは鋭いまなざしのまま冷静さを保ちマクギリスに問う。

 

「代表、あれがこっちの艦隊を直接狙ってこないってことは、『撃つのには条件がある』ってこったな?」

「ああ、恐らく。強力な兵器であるが、磁気や重力の影響を受けやすいものでもある。角度が0.1度でも違えばどこに飛んでいくかわからない代物だろうさ」

 

 その推測は当たっていた。地球や月、コロニー間の位置関係。さらに重力や磁気帯の影響もあって、このレーザー兵器――エクスカリバーは展開したアリアンロッド艦隊前面の限られた空域にしか撃ち込めない。もちろん地球やコロニーに与える被害や影響などを度外視すればその限りではないが、『今のところ』各勢力を真っ向から相手取るつもりのないアリアンロッドは、それを行わないだろう。

 だが制限はあるとはいえ、強力無比な兵器であることには違いない。これによって反逆軍は攻勢に出ることが難しくなった。

 

「照射後の影響はどうか」

「核ジェネレーター、および照射システムに問題なし。現在急速冷却中。次射まで280秒」

「旧世代の遺物であるが、故に対処法も限られる。……それに、『二の太刀を放つまでの隙など与えん』」

 

 ここでたたみかける。ラスタルの口元が、獰猛に歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出鼻をくじかれた形となった反逆軍は、打開策が生じるまで防戦に努めざるを得ない。

 

「こっちが攻め込めないからと調子に乗って!」

 

 しかし士気は下がっていない。ラスタルが札を隠し持っていたのは百も承知だ。ただ予想外であった、それだけだと自分たちに言い聞かせる。

 何より代表であるマクギリスが欠片も諦めておらず、逆襲の時を伺っている。盲信ではなく信用した上で、彼らは己の役目を果たさんとしていた。

 しかし。

 

「レーダーに……なんだ、これは!? は、速い!」

 

 不可思議な反応――同一座標に固まっている『3つ』のリアクター反応が、とてつもない速度で向かってくる。そしてその方向から雨霰と弾丸がうち放たれてきた。

 

「ブースターをつけた敵の部隊がいるとでも……」

 

 1機のグレイズが回避しつつ反撃しようとライフルを構えたところで。

 赤い閃光が奔った。

 瞬時に伸びてきたそれは、反撃しようとしたグレイズの頭部に命中する。だが目に見えて損傷はない……ように見えた。

 

「な、なに!? モニターが!? センサーも! さ、サブシステムに切り替え……がぁっ!?」

 

 突如衝撃が機体を揺さぶる。目視では到底追いつけない速度で飛び込んできた巨大な影。その側面にある巨大なカニのハサミを思わせる何かに捕らえられたのだ。そして次の瞬間。

 『粉砕された』。

 比喩抜きで、リアクター以外の上半身が粉みじんに吹き飛んだのだ。それをなしたもの――巨大な杭が収納され、紅き巨体は身を翻す。

 

「はっはっはァ、ご機嫌だねェ!」

 

 絶好調で哄笑するのは紅き怪物を駆る女、マリィ。そんな彼女が駆る機体の画像がやっとの事で捉えられる。不鮮明ながらもそれは艦隊と主要なMS乗りたちに送られた。

 それを見たオルガが唸るように声を漏らす。

 

「こいつは……っ!」

 

 マクギリスも同様で。

 

「コアとなっているのはレギンレイズのようだが、これはまるで……」

 

 機体の半分以上を占めるスラスター群。両サイドのハサミのごとき武装の他にリニアガンやグレネードカノン、ガトリングガンなどをこれでもかと備えたそれは、テイルユニットを振り回し、竜の頭部にも嘴のようにも見える上部ユニットを巡らせる。

 

「さあてもういっちょ行ってみようかア!」

 

 上部ユニットの先端、そこから先ほどの閃光が再び放たれた。そしてまた、1機のMSが先ほどと同じ流れで犠牲となる。その光景を見て、オルガは吠えた。

 

「ビーム兵器だと! じゃあやっぱあれは!」

「いや、小規模なものだがレーザー兵器だな。だがオルガ団長の見立て通りだろう」

 

 努めて冷静さを保とうとするマクギリス。そう、現れたのはもうMSと呼べる代物ではない。

 レギンレイズ・モルガン・ブライド。モルガンを中核にし、『有人型でMAを再現した機動兵器』である。

 さすがに自己修復能力やプルーマーのような子機を生産し従える能力はないが、その機動力、攻撃力は本来のMAに勝るとも劣らないものだ。その上で阿頼耶識システムを備え、マリィという超級のパイロットを得たことで、その戦闘能力は凶悪の一言に尽きる。正しく死を呼ぶ天使、いや死神と言っても過言ではない。

 

「お次はこいつだよ!」

 

 もはや備えられているだけのように見える脚部。その先端からジャックナイフのように刃が飛び出す。

 大型の高周波ブレード。それはすり抜けざまにまた1体MSを屠った。MSの数倍はある巨体でありながら、その機動力は目で追いきれないほどのもの。そのからくりを見抜いた者たちがいる。

 

「エイハブスラスター! あの機体、あの規模のスラスターをガスなしでドライブしてやがる!」

「本当に複数のリアクターを積み込んでいるのか。ガンダムフレームのように同調しているんじゃない。機動、機体そのものと武装、慣性制御に振り分けて運用してるんだな」

 

 ロッソとスノーウィンド。彼らはモルガンの機能を正確に推測し、味方に伝える。

 

「阿頼耶識付き以外は下がれ。アレは正攻法じゃどうにもならん。ガルーダ、ウォードッグを中心に迎撃のフォーメーションを……」

 

 眦を鋭くし真剣な表情となったアンダーセンがMS部隊に指示を出そうとする。と、それを遮るように声が響いた。

 

「おーっと司令、アイツぁ俺の獲物だぜ?」

「ふん、やっとお出ましか」

 

 レーダーには、モルガン・ブライドに劣らぬ速度で戦場に飛び込む反応があった。もちろんフル装備のラーズグリーズである。苦笑を浮かべるアンダーセン。

 

「総員、指示を変更する。あの化け物から全力で離れろ。特大の馬鹿が食らいつくぞ。巻き込まれたら粉みじんじゃすまん」

 

 それを聞き入れ即座に散開する元標的艦隊の面々。

 

「任せたぜ。そいつはしゃれにならんぞ、気をつけな」

「武運を祈る。……勝てよ、隊長」

 

 ロッソとスノーウィンドの二人がそう声をかけ後退した。

 

「ああ、任された。……さあてお待ちかねだ、メインディッシュを食らわせてやんよ!」

 

 獰猛な笑み。応える女もまた、鏡に映したかのように同様の表情を浮かべている。

 

「……待ったよ。本当に待ったよ。この日を、この時を……この瞬間をぉ!」

 

 がうお、とスラスターが吠える。残像を残す勢いで、モルガン・ブライドはただ一直線に加速した。

 並の人間であれば、何が起こったか分からぬうちに餌食となるであろう速度。だがそれをラーズグリーズはひらりと回避――

 

「っ!」

 

 ――しない。盾で受け流しはしたものの、確かに一撃を食らってしまう。ランディの口元から唸るような声が漏れた。

 

「てんめェ……『俺が避けたら、艦隊蹂躙するつもりだったな』?」

 

 当たって弾かなければ、反逆軍艦隊のど真ん中に飛び込むコースだった。

 答えは悪びれることなく、楽しそうに。

 

「ははははは、そうさぁ。こうでもしないとまともに当たってくれないだろう? ……さあさあ、避けるとお仲間が死んじまうよぉ」

 

 ランディと正面切って戦うためなら手段を選ばない。その悪逆さに対し――

 

「……くか」

 

 悪魔は、嗤う。

 

「くかかかか。おもしれェ。情熱的じゃねエかよ。……いいぜ乗ってやる。乗ってやるから……楽しませろよ?

 

 ぞう、と総毛立つような狂気が漏れ出した。マリィに負けず劣らず、いや、それ以上に闘争に飢えた男が、その本性をさらけ出す。

 相対する女は、歓喜に震えた。

 

「そうだよ、そうでなきゃあ! come on!(かかってきな!)

 

 狂乱の舞踏が、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「システムの一部がダウン! 戦闘に支障はないが、やばいぞこれ!」

「くそ、なんなんださっきのは! オレぁ聞いてねえぞ!」

 

 アリアンロッド艦隊から突出した形になっているフェアラート。指揮を執っているブルックは焦り、混乱していた。

 エクスカリバーの直撃こそ食らわなかったものの、照射域に近いところに位置していたフェアラートは結構な影響を受けていた。すぐさま戦闘に影響するようなものではないものの、最前線での機能低下などしゃれにならない。

 加えて彼ら犯罪者上がり組は、エクスカリバーはおろかダインスレイブの存在すら知らされていない。完全に捨て駒にする気満々の配慮であった。

 

「ど、どうする。どうすりゃいいんだ」

 

 頭を抱えるブルック。下がれば先ほどの『何か』に巻き込まれるかもしれない。しかし前に出れば袋だたきだ。進退窮まった彼はただ狼狽え怯えるしかなかった。

 

「そのままそこを動くな。頃合いを見なきゃ逃げることも出来ん」

 

 突然入ってきた通信。その言葉に、ブルックはすがりつく。

 

「さ、サンドバル! 助けてくれるのか!?」

「逃げるにしても足があったほうがいいからな。ブリッジを収納したまま適当に反撃してろ。離脱のタイミングは追って知らせる」

「本当か!? 本当だな!?」

「ああ、任せろ」

 

 涙と鼻水でぐしょぐしょになったブルックがモニターから消える。サンドバルは苦笑を浮かべた。

 

「まあ多少なりとも目を引きつけておいてくれりゃあ、それでいい」

 

 彼は最初からブルックに期待などしていなかった。運がよければ沈まないだろうくらいの感覚でしかない。

 自身も逃げ出す方向で考えているが、それにはタイミングというものがある。この戦場でどちらが優位となるか。はっきりとどちらかの勝ちが見える状況にならなければ逃げるに逃げられない。それがはっきりするようになれば戦場も大分混乱してくるはずだ。そのときまで粘れば。

 そのように算段していると、レーダーに感。

 

「……ちっ、奴か」

 

 やはり因縁はついて回るようだ。特徴的なツインリアクターの反応の主は、すぐさまモニターに捉えられる。

 

「見つけた。きっちりと始末はつけさせてもらう」

 

 腰にシースメイスを提げ、両腕に砲を追加したバルバトス。それを駆る三日月はサンドバルのレギンレイズ・ハイムーバーを射貫くように見ていた。

 この男――サンドバルは危険だと、三日月は判断している。技量だけではない。その生き汚さ、阿頼耶識を受け入れ使いこなす柔軟性。そして人を従えるカリスマ。ここで取り逃がせば、いずれ力を蓄え再び自分たちの前に立ちはだかってくる。そういう予感があった。

 いい加減ここでこの因縁は断ち切っておかなければならない。本人は気づいていないが、三日月は恐らく初めて『自発的に』殺意を抱いていた。

 その覚悟を見て取ったのか、サンドバルは苦虫を噛み潰したような表情だ。

 

「そう何度も逃げ切れるものでもなさそうだ。年貢の納め時、という奴かも知れんな」

 

 それは一見諦めたかのような台詞に思える。だが、次の瞬間に彼は歯をかみ鳴らしていた。

 

「ふざけるなよガキ。ここで終わらせる? 嘗められたものだ」

 

 プライドなどドブに捨てたつもりだった。使えるものは何でも使い、生き残ってのし上がる。そのためにはラスタルの靴だって舐めて見せよう。そこまで墜ちたはずの男が憤っている。

 結局割り切ったつもりでも、心の中に火種は残っていたのだ。子供にしてやられたという事実は、存外根深い恨みとなって澱のようにこびりついていたらしい。そして、彼もまた鉄華団を将来的な障害だと見ていた。

 ここで逃げ延びても彼らが存在する限りいずれ衝突することになるだろう。どうにかこの戦いを利用して彼らを始末せねばなるまい。いや、その前にこの目の前の敵を退けなければにっちもさっちもいかない。

 このままでは逃げ切れないと理解したからこそ、サンドバルの中にあった『甘え』は払拭された。飼い慣らされた犬ではない、かつて猛者たちを率いていた獰猛な野獣の本性が目を覚ます。

 

「まともな勝負になど拘るか! なんとしてでもここで叩く!」

「本気……いや、開き直ったか」

 

 目に見えて挙動を変えたレギンレイズ・ハイムーバー。対する三日月は淡々と、しかし瞳に力をみなぎらせてスロットルを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一端補給を受けたジュリエッタは、再度出撃し戦場に向かっていた。

 

「エクスカリバーまで使うことになるとは。だがこれで、こちらは優位を取り戻した。ここで押し切る!」

 

 エクスカリバーは本来、地球外軌道に向けて使用する兵器だ。月軌道以内で使用することは想定されていない。(と言う建前)故に使用は限定されているものの、その威力は反逆軍の攻勢を押しとどめるに十分すぎた。

 この機会こそ乾坤一擲。反逆軍を駆逐するチャンスだと彼女は闘志をみなぎらせている。

 

「フォルク3尉は交戦中。相手はランディール・マーカスか。あの砲撃能力を持つ2体のガンダムは見当たらない。補給中なのか。今のうちに叩いておきたいが」

 

 倒せずとも、砲さえ使えないようにしてしまえばラスタルに被害は及ぶまい、などという考えがあった。しかしそれがかなわぬとなれば。

 

「この機体は対艦戦闘に不向き。ならば兵力を削っていく!」

 

 下手にエース級に関われば時間を食われるだけだと、先の戦闘で痛感したジュリエッタは、比較的戦力の薄い部分を探していた。とりあえず己の中の迷いを棚上げしている彼女は戦うことに集中し、堅実に戦果を上げようとしていた。

 と、そのとき。

 

「……あの機体は」

 

 レーダーが捉えた反応をモニターで拡大してみる。そこにはダンテの獅電電子戦仕様機の姿があった。

 かの機体には以前、散々攪乱された。直接的な打撃力はないが支援機としてはかなり優秀な機体だ。倒しておけば少しでも貢献できるだろう。

 見れば何やらトラブルを起こし、立ち往生しているようにも見える。周囲に護衛機の姿はあるが、ガンダムフレームや先に戦ったタービンズ機などの姿は見えない。これならば。

 

「トラブルだろうが情けは無用! ここで墜とす!」

 

 そのわずかに前。

 

「システムチェック、再起動。……よし、なんとか動いたが……電子兵装の半分以上がおしゃかか。こりゃここでリタイヤだな」

 

 機体の機能を回復しようとしていたダンテはため息をはく。

 エクスカリバー照射のおり、索敵機能を全開で使っていたダンテの機体はもろに影響を受け多くの機能が失われた。電子偵察機が至近距離でEMPを食らったようなものである。

 通常の機体であればそこまで影響受けなかったのであるが、強力であるが繊細な部分を持つ電子機器類を多数搭載していた分、ダメージも大きかった。何しろ本来であればシールドされている本体機能も一部ダウンしてしまったのである。おかげで機能回復に今まで手間取っていたのだ。

 しかしながら、とりあえず機能を立て直したものの、援護は出来そうになかった。戦闘力も低いことであるし、これ以上とどまるは不可能であると判断せざるを得ない。以前のダンテであれば意地を張って残ろうとしたかもしれないが。

 

「すまない、俺はここまでだ。サカリビに向かう」

「分かった。エスコートはいるか?」

「そうだな。ここで後ろから撃たれちゃかなわん。悪いが補給ついでに安全圏まで送ってくれや」

「応よ。まあ大船に乗った気で――」

 

 チャドと言葉を交わしている途中でレーダーに感。

 

「くそっ、言ってる間にか! チャド! デルマ!」

「奴はこの前の! ダンテ、おまえは……」

「逃げろってのはなしだ。こいつは奴より大分足が遅い。逃げるより反撃した方がまだ分がある」

「……分かった。無理だと思ったら蹴飛ばしてでも逃がすぞ。デルマ」

「分かってる。やらせるかよ」

 

 獅電とマン・ロディがダンテの機体をかばうように前に出る。そこに襲いかかるレギンレイズ・ジュリア。

 機体の性能差などものともせず、少年たちは強敵に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況を見ながら、マクギリスはふうむと考える。

 

「膠着状態に陥ったな。あんなものがあればうかつに攻め込めなくなる。上手いことやったものだ」

 

 エクスカリバー。その存在は彼にとっても予想外であった。何よりもそのスペック、全貌を推測できないというのが痛い。

 最大の威力はどれほどのものなのか。効果範囲は? 射程距離は? どれくらいの時間連続照射できる? 次の照射が可能となる時間は? 命じてから照射に至るまでのタイムラグは? 本体の耐久性は? ただの一撃では、その性能を把握することは出来なかった。

 おそらくはカウンターでしか使えないものだ。なりふり構わなくなればそのかぎりではないが。逆に言えばなりふり構わなくなる前に決着をつけなければならない。そのためには。

 マクギリスはしばし時を待つ。『打った手がどう転ぶか』、それを確かめるまで。

 ややあって。

 

「代表。タントテンポ代表より返信です。「依頼を遂行する。条件を忘れるな」と」

 

 どうやら風はこちらに吹いた。石動の言葉を受けたマクギリスは、ふっと微笑む。

 

「条件はすべて飲んでやれ。……これ以降、全権限を君とライザに預ける」

「了解しました。……ご武運を」

 

 後顧の憂いはもはやない。あとは、雌雄を決するだけだ。

 鋭い視線を眼前に向ければ、まっすぐにこちらへと突っ込んでくるMSの姿がある。

 

「そろそろ終わらそう。この戦いも、おまえとの因縁も」

 

 両手にランス、両の腰に剣を提げたキマリスヴィダール。ただマクギリスを討つためだけにすべてを捨てた男は、ただバエルだけしか見ていない。

 

「マクギリス! これで最後にする! 俺は俺のすべてを持っておまえに挑もう!」

 

 もはや勝ち負けすらどうでもいいのかもしれない。ただ全身全霊をぶつけ、雌雄を決する。確かにそれは八つ当たり。大義名分もへったくれもない、エゴをぶつけるだけの『わがまま』でしかないのだろう。

 それで良いのか悪いのかすらも、男たちには関係ない。ただ目の前に立つ『こいつ』をたたきのめさなければ気が済まない。それだけの、実につまらなくてくだらない『喧嘩』だ。

 それすらも自覚しているのかいないのか。ただ二人は死力を尽くしてぶつかり合った。

 甲高い音を立て、火花が散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「え? ボツ台本? ……結婚を申し込む!? 花束買ってある!? なにこれ!?」

 

 ↑実は某PJ的な立場と顛末にされるところだったハッシュくん。セーフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 豚肉かつ味噌仕立てで肉じゃがを作るのはいかんのか。
 そりゃ豚汁だろうって違うのだ! いや本当に美味いんだって捻れ骨子です。

 はいやっと登場モルガンブライドとベールを脱ぐエクスカリバーの話。
 それだけだよ! もう話進まない進まない。何しろ書きたいシーンが多いもので。それも上手く表現できているのかどうなのか。ともかくしばらく最終決戦で引っ張ります。マジで今年中に終わるのか。神よ文才と執筆速度を私にください。ついでに大きなイチモツ。(どぶろっく風味)

 そんなこんなで今回はこんなものです。いい加減アリアンロッド陣営の誰かがしめやかに爆発四散しそうな気がしますが、果たしてどう転びますやら。それでは次回。
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