イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 今回推奨戦闘BGM、ビトー君のところゲームMURAKUMO、OP。三日月君のところガンダム00より【FINAL MISSION~QUANTUM BURST】




52 まずは桂馬。それともナイトかな?

 

 

 

 

「エクスカリバーが攻撃を受けただと!? 被害は!?」

 

 エクスカリバーに直接攻撃を受けたという知らせを聞いたラスタルは声を荒げる。

 さしものの彼もこれは予想外であった。戦闘の混乱の中、艦隊から離れてエクスカリバー施設を強襲した2機の存在は感知できなかったのだ。想定を遙かに超える速度で隠蔽していたはずの施設を奇襲するなど予測は難しかろう。ミスと言うよりは相手が想像を上回ったのだ。

 

「正体不明の襲撃者により施設に攻撃が加えられた模様です! 損害は……損害は軽微! 軽微です!」

 

 緊迫したブリッジの空気がわずかに和らいだ。内心で安堵のため息をはいたラスタルは、部下の不安を払拭することもかねて新たな命を下す。

 

「よし、充填を続けよ。いつでも撃てる態勢に……」

「し、司令、それが」

 

 ラスタルの言葉を遮った通信士の顔が青ざめている。

 通信の向こう、エクスカリバーを擁する衛星基地は今、修羅場の真っ最中であった。

 通信機に向かってスタッフは告げる。

 

「確かに損傷は軽微ですが、その損傷がどれほどの影響を与えるかがまだ判別できません。完全な復旧には時間をいただくしか」

 

 エクスカリバーは頑強な施設である。が、同時に繊細な代物でもあった。先にも言ったが0.1度でも角度が違えばどこに飛んでいくか分からない。わずかな損傷でも、それが甚大な影響を与えることだって考えられるのだ。ゆえにすぐさま使うというわけにはいかなかった。

 その上『事実上試射ができない』という問題もある。どこに飛んでいくか分からないものをそう簡単に試し撃ちできるものか。下手をすればスキップジャックに直撃なんて事もありうる。

 

「各部をチェックし直してシミュレーションしなければ正確な射撃は不可能です。下手をすれば核動力の暴走などと言うこともあり得ますので」

 

 エクスカリバーを管理する者たちは冷静であった。それは危険な施設を運用する者たちとしては適切なのだろうが、前線で戦っている者たちには何の救いにもならない。

 ラスタルは再びこみ上げてきた焦燥を押し殺して、新たに命じる。

 

「……ならば一刻も早く復旧するよう努めよ。基幹にダメージを食らっていないのであれば、照射は可能なはずだ。持ちこたえれば必ず挽回の目はある」

 

 部下たちはその言葉を信じた。『信じるしかなかった』。正義を背負い、苦難を乗り越えてきた自分たちが敗北するはずはないと。

 その思いに応える義務がある、と思ったかどうかは分からないが、ラスタルは背筋を伸ばしたまま、次なる命を下した。

 

「艦隊の前衛を進める。敵の攻勢を押しとどめよ」

 

 さすがにブリッジがざわめいた。艦隊を前進させると言うことはつまり、『味方がエクスカリバーの射撃範囲に入る』ということである。まさか味方を犠牲にして……などという考えが頭をよぎったのは一人や二人ではない。

 それをなだめるかのように、ラスタルは続けた。

 

「エクスカリバーが復旧するまでだ。恐らく奴らは行った攻撃が有効かどうかまだ分かるまい。こちらが前に出ることによって攻撃が成功したと思わせ、エクスカリバーが復旧したところで前線を下げ奴らを射撃範囲に引き込む」

 

 おお、と先ほどとは違った意味でブリッジがざわついた。さすがはラスタル様、この状況すら利用してみせるかと隊員たちは活気を取り戻す。

 士気を上げることに成功したとみたラスタルは内心で安堵する。まるっきりの嘘ではないが、いざというときは味方を犠牲にすることを躊躇うつもりはなかった。

 勝たなければならない。勝ちさえすれば何とでもなる。ラスタルの視野は狭められていく。

 詰め将棋のように追い込まれていく自分を、ラスタルは認められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 味方の艦隊が前進するのを見て、ブルックは安堵の息を吐いた。

 

「やっと攻め込む気になったのかよ。あんだけのでかぶつ持っておいて悠長が過ぎるぜ」

 

 ブルックはエクスカリバー周りの事情など何も知らないし聞かされていない。元が使い捨てのデコイと見られていたのだ。最初の命令以降「現状を維持せよ」という指示しか受けておらず、サンドバルの言葉にすがるしかない状況だった。

 それがここに来てやっと味方が動き出した。先の訳の分からない攻撃――エクスカリバーの威力に戦意を向上させたのだろう。現金なことだとブルックは勝手に結論づける。

 ともかくこれで生き延びる目が出てきた。便乗する形で手柄の一つもとれれば後のためにもなると、捕らぬ狸のなんとやらで算段。先ほどまでの怯え方が嘘のように調子づく。

 

「よし、敵の防御が厚いところに適当に撃ち込め。MS部隊はどうなっている」

「大半が優勢になったとみて戻ってきたぜボス……艦長。反撃に出てる」

「エイロー1は?」

「例の番犬と交戦中だ。敵艦隊の方でやらかしてる」

「そうか……このままヤツが番犬を討ち取ってくれれば……」

 

 皮算用は皮算用でしかない。ブルックは薄氷の下に地獄が待っていることを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2機のMSが高速で切り結ぶ。

 速度ではレギンレイズハイムーバー。機動性ではバルバトス。総合力では今のところ互角である。

 しかし。

 

「こいつ……っ!」

 

 三日月はわずかながらも焦りのような気配を見せる。

 現在2機が切り結んでいるのは、反逆軍艦隊の間近。サンドバルは反逆軍を巻き込もうとし、三日月はそれを妨げる形だ。まんまと策に乗せられたわけである。

 

「味方を見捨てない。感動的だ。だが無意味だ!」

 

 挑発の言葉を口にしながら一撃を入れ、離脱。これを繰り返す。三日月はそれを受けざるを得ない。

 抜かれれば、艦隊に被害が及ぶのは目に見えている。以前の三日月であれば鉄華団の仲間以外は放置していたかもしれないが、彼も成長している。反逆軍の戦力低下は自分たちの首を絞めるようなことになると、そういう戦術的な見方をすることが出来た。

 故に手こずる。背中に注意を払いながら圧倒できるような、生やさしい相手ではないのだから。

 サンドバルはほくそ笑む。このまま押し切れるとは思えないが、最低でもこの強敵を押さえ込んでおくことは出来る。そして仲間を気にし続けるようであれば、必ず隙が生まれるだろう。馬鹿なことだ。情や義理などに縛られるから、全力を出せないでいる。それは弱さだと、サンドバルは思っていた。

 人は結局のところ一人だ。他者は利用するべきもので、情など信用できるものではない。あくまで損得勘定の元に、あるいは飴と鞭を使い分け、あるいは媚びへつらい、己のためだけに使いこなす。そうやって生き延びてきた。そしてこの戦いも生き延びて、のし上がる。目の前の敵はそのための踏み台でしかない。そう自分に言い聞かせている。

 だが、『世の中そんなに上手くいかない』。

 突然の砲撃。それがハイムーバーの機動を揺るがす。

 

「なに!? 近接信管!」

 

 次々と叩き込まれる弾雨に、一端距離を取らざるを得なくなる。その攻撃を放ったのは。

 

「こちらクロウ隊、可能な限り援護する! 艦隊の方は任せてもらおう!」

 

 コーリスを筆頭とするクロウ隊だ。ハイムーバーの機動域に対して艦隊を護るように布陣を敷き、ありったけの弾丸をばらまいている。

 

「出し惜しみなく弾幕を張れ! ヤツを近づけるな!」

 

 倒すことなど最初から念頭になく、艦隊を防衛し強敵を寄せ付けないための戦い。功に焦るものには出来ない、己の役割を果たさんとする男の戦い方だった。

 それを理解した三日月は微かに笑みを浮かべる。味方とも仲間とも言えない間柄。この戦いの後何かあれば敵対するかもしれない連中だ。だがそれを見据え戦力を温存するような真似をせず、『とりあえずの味方』の盾となる。なかなか出来る真似ではないと、素直に感服したのだ。

 ならば――

 

「助かる、任せるよ。……だからこいつは俺が仕留める」

 

 応えよう。ただ仲間のためだけではなく、もう一つ『何か』を背負った三日月の眦が鋭さを増す。

 気配が変わった。援護を受け、攻め手に転じるかと判断したサンドバルは、ついに『出し惜しみをやめる』。

 

「終わるものかよ、終わらせるものかよ! 貴様らはまとめて俺の踏み台だ! 蹴散らしてくれる!」

 

 吠えながら無針注射器を取り出し首筋に押し当てる。躊躇いなくトリガーを引けば、すぐさま効果が現れた。

 

「お、あ……あ」

 

 見開かれる目は瞳孔までもが赤く充血しているように見える。レッドアイの最上級品『ブラッディ・アイ』。ラスタルの伝で手に入れたそれは、期待通りかそれ以上の効果をサンドバルにもたらす。

 

「く、おおおおお! これで俺は、貴様を、駆逐する!」

 

 レッドアイよりもさらなる反応速度と動体視力がもたらされるが、同時に体に相当の負担がかかり精神にも変調を来す、諸刃の剣。禁断の刃を抜いたサンドバルは、後先かまわずに襲いかかろうとする。

 同時に、三日月も。

 

「阿頼耶識システム、フルコンタクト。全リミッター解除。……往こうか、バルバトス」

 

 全力で、迎え撃つ。目の前の相手は死んで良い奴じゃない。『絶対に倒さなければならない敵だ』。ここで勝負を決める。

 白き悪魔の両眼が、力強く紅い光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 活気づいたエイロー隊は、反撃に移る。しかしながら反乱軍艦隊の防御は厚く、なかなか出し抜くことが出来なかった。

 鉄華団とスカーフェイス。阿頼耶識を備え高い練度を誇る彼らが中心となって迎撃態勢を整えていた。基本的な性能が同等であれば、後は数がものを言う。勢いに乗ったからと言ってそれはたやすく覆されない。

 

「とは言っても、こっちもなかなか攻め込めないんだけど、なっ!」

 

 敵のレギンレイズに一発入れながら、ライドは苦笑する。

 敵も然る者。生き馬の目を抜く裏社会で生き抜き阿頼耶識の適性を勝ち取ったのは伊達ではない。協調性こそなかったが個人の技量では決して引けを取るものではなかった。

 実際今ライドが殴りつけた相手も、上手いこと攻撃を受け流してダメージを最小限に抑えていた。守れはするが攻め込めない。千日手と言うほどでもないが手こずっているのは間違いなかった。

 それに相手にも頭一つ抜け出た技量を持つものだっている。

 

「こいつら、強えェ!」

「俺ら以上に連携が上手い!」

 

 エンビとエルガーの二人は2機のレギンレイズを相手取っている。色違いのその2機は、双子のお株を取るようなコンビネーションを見せつけ果敢な攻めを行っている。負ける、とは言わないが機体の性能差もあり押され気味になっているのが現状だ。

 二人だって準エース級だ。阿頼耶識をつけただけの『インスタント』に後れを取るはずはない。当然ながら相手は――

 

「こいつらもしぶとい!」

「正規兵よりも練度があるとはな」

 

 サンドバルの副官を務めている双子だった。頭目であったサンドバルの影に隠れていたが、彼らもも海千山千の海賊を束ねていた男の懐刀。相当の技量を持つ。

 偶然にも同じ双子を相手取っているとは互いに気づかず鎬を削る。エイロー隊は突出している(させられた)フェアラートを中核に陣形を取っており、全体的に見れば攻勢に出た他の艦隊の先頭となって反乱軍艦隊に楔を撃ち込んだような形であった。結果的にそうなっているというだけだが、反乱軍側からすればこの状態に持って行くために踏みとどまったようにも見える。

 ここでフェアラートを沈めることが出来れば流れを変えるきっかけにもなるが、エイロー隊の奮戦もあってなかなか難しい。勢いを突き崩す何かがあれば……とライドが思案していたそのとき。

 

「悪い遅れた!」

 

 大口径の砲火が降り注ぐ。両手に滑空砲を備えた昌弘の参式だ。エンビたちと同時に補給を受けていたのだが、少し手間取っていたのだ。

 昌弘は援護射撃を行いながら、皆に言う。

 

「遅れた分の仕事はするぜ。ビトーが『いいモン』借りてきた!」

 

 昌弘は長物の補給に手間取られ、そしてビトーは『あるもの』を引っ張り出すのに手間取られた。それは。

 

「バランス無茶苦茶じゃねえかこれ! あのおっさんよく使いこなせたな!?」

 

 全速力で戦場に駆けつけたビトーのシュヴァルベ・グレイズが携えているのは、以前ランディが使用したでっち上げランス。扱いの難しいそれをもって、彼は敵艦に挑むつもりだった。

 それを確認したライドはヒュウ、と口笛を鳴らす。

 

「あれを使うかよ。良い度胸してる。……こちら筋肉……鉄華団2番隊ライド! ウチのが一人敵艦に突っ込む! いまやり合ってる相手を押さえてくれ! 手の空いてるのは援護を!」

 

 付近で戦っている僚機に全域で告げた。三日月をはじめとするエース陣は今ここにいない。しかし年少組の取りまとめ役の一人であった彼は、地道に指揮の才能を得つつあった。彼らがいなければ代わりに指示を出すこともする。 

 そして仲間もそれに応えられるだけの柔軟性があった。

 

「いかせる……ぐうっ!?」

「こいつら、邪魔を!」

「横やりは入れさせねえよ!」

「勝てないかもしれないが、負けもしねえぜ!」

 

 双子のレギンレイズを妨害するエンビたちを筆頭に、攻勢に移る鉄華団と反逆軍。その合間を縫って蒼いシュヴァルベ・グレイズが駆ける。

 

「道は空ける! 往け、ビトー!」

 

 蒼き機体が取るであろう予想進路上へ矢継ぎ早に砲弾をぶちまける昌弘。応えようとするビトーはしかし、苦心していた。

 

「重量バランスが、まっすぐ飛ばねェ!」

 

 本来ラーズグリーズが使用することを前提としたでっち上げランスは、シュヴァルベ・グレイズでは持て余しそうになる。何しろ機体出力も推進力も違いすぎた。このままでは有効な打撃を与えることが出来るかどうか。

 だが、さすがというかランディ直々に機体を預けられたビトーは、とっさの機転を利かせた。

 

「こいつが重くて振り回されるってんなら……『こいつを軸にする』!」

 

 機体ではなくランスを重心の真ん中に置いた機動に切り替えた。同時に8割ほどに落としていた機体の反応を全開に。さすればピンポールのような無茶苦茶な機動が生じる。

 

「うおっ! とっ! こなくそ!」

 

 とんでもない方向に飛んでいこうとする機体を強引にねじ伏せる。無茶をやった甲斐あって、敵機も艦の砲台も反応が追いつかない。阿頼耶識を使ってなおレッドアウトした視界の中、収納されたブリッジ上の装甲を捉えた。

 

「いっ、けえええええ!」

 

 フルスロットル。肺の中の空気がすべて押し出されるような感覚。歯を食いしばり、機体のブレを押さえ込んで、螺旋を描きつつ突貫。

 それはフェアラートにも捕捉されるが。

 

「艦の直上! 1機突っ込んでくる!」

「対空砲火は何をしてる! 早くヤツを……」

 

 間に合わない。

 ブルックが最後に見た光景は、ブリッジの天井を貫き己に迫る鋭い鉄塊の姿だった。

 分厚いナノラミネート装甲を貫き深々と突き刺さったランスの引き金を引く。放たれたサーモバリック弾は内部を引き裂き炸裂。シュヴァルベ・グレイズが離脱すると同時にフェアラート中枢部分で大規模な爆発が発生、轟沈する。

 

「『してやった』ぜ! ざまあ見さらせ!」

 

 少しクラクラする意識を気力で支えつつ、ビトーは中指をおっ立てた。

 彼は気づいていなかったが、かつての仲間の仇――ブルックを討ち取り座艦を沈めるという大金星を見事果たしたのである。

 その事実はエイロー隊に衝撃をもたらす。

 

「ば、かな……ブルックの大将が……」

「戦艦を、一撃だとぉ!?」

 

 エイロー隊の面子は、イオクの艦隊が壊滅した顛末を知らない。ゆえにブリッジを収納した戦艦がただの一撃で沈んだという事実に、驚愕と動揺を隠せないでいた。自然とその動きが鈍り出す。

 それに活を入れようとしたか、双子の副官が声を張り上げた。

 

「落ち着け! まだだ、まだ終わっちゃいない!」

「俺たちには頭目……隊長が、サンドバルがいる!」

 

 エンビとエルガーの攻撃を弾き飛ばしながら吠える彼ら。その言葉にエイロー隊は活気を取り戻していく。

 

「そうだ、サンドバルなら」

「あの頭目なら、やってくれる!」

 

 一度敗北したとは言え、エイロー隊の中では未だサンドバルの雷名は陰りを見せない。図抜けた実力とカリスマは未だ健在であり、かてて加えて阿頼耶識を備えた今の彼はパイロットとして以前より遙かな高みにいる。

 であるならば、彼が再び敗北することなどあり得ない。その信仰にも似た信頼が、活力と気力を取り戻させていた。

 これならまだいける。双子はそう確信を得る。母艦は落とされたが勢いはまだ死んでいない。この流れに乗れば勝てる戦いだという手応えがあった。

 二人はサブモニターに目を走らせる。そこには敵を圧倒するサンドバルの姿があるはずだ。

 映像を認識し理解した二人の目が見開かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……」

 

 ヲヲヲヲヲヲ……。

 

「なんなんだ……」

 

 ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ……。

 

「なんなんだこいつはあああああ!!」

 

 文字通り血走った目でサンドバルは叫び声を上げる。

 技量では負けていない。反応速度と動体視力でもだ。機体だって最新型、性能では劣らないと思っていた。

 だのに何で『追いつけない』!?

 確かに目と体の反応は追いついている。だが機体が間に合わない。いや、『己の行動、機体の機動の先に割り込まれている』ように感じた。自分の先読みのさらに先を行っているとでも言うのか。

 それに。

 

 ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!

 

「さっきからなんなんだってんだ、この『音』はぁ!!」

 

 コクピットに響く音。明らかに自機のものでないそれは、バルバトスが全力機動を始めたときから響きだした。それはまるで咆吼のようにも聞こえる。

 宇宙空間で音が伝わるはずがない。バルバトスのエイハブウェーブがかなりの変化を見せているが、それと関係があるのかもしれなかった。しかしそれを考察している余裕など有るはずもなく。

 

「このぉ!」

 

 半月刀を振るう。今までなら相手を翻弄してきたはずの太刀筋。それはたやすく弾き飛ばされ、あるいは回避された。その原因はバルバトスの機動が『先ほどと全く違う』からだ。

 全開出力で稼働している機体各所のイナーシャーコントローラー。それを十全に使いこなせれば、『足場なしでランディのけたぐり機動を再現できる』。つまり全く予測のつかない軌道偏向が可能となると言うことだ。

 事実バルバトスの機動は、すでに常人では追い切れない。エイハブスラスターの推進炎と機体の残像だけがかろうじて確認できる程度だ。動体視力と反応速度が桁違いに向上しているサンドバルだからこそ目で追える。しかしいくら高性能でも通常の機体の延長線上の機動しか出来ないレギンレイズ・ハイムーバーでは、追従するのは無理がありすぎた。

 まるで宇宙(そら)に吹き荒れる嵐。濁流の中に飲み込まれた木の葉のように、サンドバルは弄ばれる。

 

「あんな、でかい得物でっ!」

 

 MS1機分はあろうかという巨大な対艦ソードメイスも重荷にはなっていない。そしてそれが十全に振り回せると言うことは。

 

「がっ!?」

 

 予想外の方向から反応できない勢いで一撃。左肩のシールドユニットが歪む。ほとんど勘だけで取った回避行動で致命傷こそ逃れたものの、攻撃そのものは避けられない。

 そして次々と矢継ぎ早に攻撃が叩き込まれる。防戦一辺倒とはいえ、一撃でMSを粉砕するソードメイスの打撃を緩和しているだけでもとんでもない技量であるが、反撃できないのであればいずれ墜とされる。状況は手詰まりに近い。

 しかしながら、サンドバルは諦めが悪かった。絶え間ない衝撃に揺るがされる中、その血走った目は鋭く機会を窺う。

 

「ヤツとて、無敵でも不死身でもない。必ず隙が出来る」

 

 どれだけ集中していても、意識の間隙というものは必ず生じる。それこそが勝機だと耐え凌ぐ。

 そして、機会は訪れた。

 幾度めかの打ち込み。それを行ったバルバトスがソードメイスを持ち替えようとする。それは恐らく、まともな有効打が撃ち込めないと見てやり方を変えるためなのだろうと踏む。

 持ち手がわずかに緩もうとするその瞬間。それこそが待ち望んでいた好機であった。

 

「おぉっ!」

 

 裂帛の気合いとともに全力で打ち込む。狙いはソードメイスの柄。わずかに力が緩んだそこを強打すれば。

 がぎぃ、と火花が散る。狙い違わず、バルバトスはソードメイスを手放した。そしてそれだけでは終わらせない。

 

「次の得物など用意させるものかよ!」

 

 きしむ機体を無理矢理駆動させ全力機動。バルバトスが他の武器を準備する前に攻勢に出れば優位をとれると勢い込んだ。

 バルバトスのお株を奪うような変速機動で迫るハイムーバー。その腕が半月刀を振り上げ――

『何かに絡め取られた』。

 

「なにっ!?」

 

 動きを阻害され驚愕するサンドバル。ハイムーバーの右腕に絡みついたのは、バルバトスの背後から伸ばされたワイヤー――テイルブレード。そう、サンドバルが三日月を出し抜こうとしたように。

 

「こっちもそれくらい考えてるさ」

 

 三日月もまた、同じ事を考えていた。確実にサンドバルを討ち果たすために。

 間髪入れず、バルバトス左腕に備えられた200㎜迫撃砲が吠える。装填された炸裂弾は有効なダメージこそ与えられなかったが、ハイムーバーの体勢を崩すには十分。

 

「お、おのれェ! 地獄の番犬っっっっっ!!!」

 

 怨嗟の声が響く中、シースメイスから大太刀が引き抜かれる。

 銘打たれた名の通り、月光に輝く牙を思わせるそれは、目にもとまらぬ速度で振るわれた。

 一閃。太刀を振り抜きハイムーバーの背後に抜けるバルバトス。

 振り抜いたまま残心。バルバトスの周囲を推進剤の残滓が花吹雪のように舞う。

 そして、レギンレイズ・ハイムーバーは炎に包まれる。機体に残った推進剤が発火したのだ。

 一太刀でコクピットごと斬り捨てられたサンドバルは即死であっただろう。爆発四散する機体を振り返ったバルバトスの両目が、通常の色に戻る。撃破を確認した三日月は、ふう、と息を吐いた。

 

「分かってたけど、疲れるな、これ」

 

 強敵を討ち取った事に何の感慨も抱かず、三日月は次の敵を探すべく機体を翻した。

 戦いはまだ終わらない。倒した敵に意識を割っている暇など、今はないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サンドバルが討たれた。その事実は今度こそエイロー隊に絶望をもたらした。

 

「ば、かな……頭目が……」

「嘘だろ……」

 

 唖然とするもの。

 

「うわああああ! もうおしまいだあああ!」

「冗談じゃねえ、頭目倒すような連中とこれ以上やり合えるかってんだ!」

 

 我先に逃げ出すもの。

 そういった絶望に支配され我を見失ったものから次々と撃破されていく。

 本来エイロー隊は犯罪者の寄せ集めだ。ラスタルから提示された餌と、サンドバルの統率力によってかろうじて部隊として成り立っていた。母艦を沈められ、その上彼が討たれたとなれば、当然のように瓦解する。

 それでもなお戦おうとするのはごく少数で。

 

「おまえら! 下がるな! 下がればやられるぞ!」

「ここは押し込むんだ! 後続が来れば立て直せる!」

 

 サンドバルが討たれたことに動揺しているのは双子も同じだ。だが逃げ出せば余計に命が危ないと、それくらいの判断力は残っている。

 ゆえに彼らは攻め込むことで打開を試みた。しかしすでに流れは反逆軍にあり、そして彼らだけで状況が変えられるほどの力はない。

 

「隙あり! もらった!」

「ぐあっ!」

 

 集中力が欠けていた双子の片割れに、エンビの獅電試験タイプが組み付く。

 

「貴様! この……」

「てめえはこっちだよ!」

 

 もう一方にはエルガーのマン・ロディが打ちかかった。引き剥がされれば双子得意の連携はとれなくなる。そして、数の優位はすでに鉄華団のほうにあった。

 

「助太刀するぜエンビ!」

 

 援軍に雷電号が現れ。

 

「こっちはこいつだ! たっぷりくらいな!」

 

 昌弘の駆る参式が極至近距離で300㎜をぶっ放す。

 抵抗はしばらく続いたが、程なくして双子の機体は沈む。

 それはエイロー隊の壊滅を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ、フェアラート轟沈! エイロー隊も壊滅状態です!」

 

 オペレーターが悲鳴のような声で報告する。その言葉に、ぐ、と歯を食いしばって声高らかに告げる。

 

「狼狽えるな! 彼らは劣勢の中、敵軍を押しとどめるという大任を果たした! その彼らの意思を無駄にするな! 彼らの働きによって敵軍も幾ばくか消耗している。期を逃さずに押し込め!」

 

 下がりかけた士気が持ち直す。ラスタル自身もお為ごかしだと分かってはいるが、ここで士気を下げるわけにはいかない。

 

(まだだ。彼らは元々捨て駒として考えていた。これは予定通りのことに過ぎない。戦力はまだこちらが上。それにエクスカリバーもある。この程度で勝利は揺るがん!)

 

 言い訳するような思考。己が焦っていると薄々理解しているラスタルだが、まだ勝負は決まっていないと自分に言い聞かす。

 たしかに戦力そのものは未だ差が埋まってはいない。

 『それがひっくり返る要素』は、まだ表に姿を現してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「ちょっと!? アタシら最後まで名前でなかったわよ!?」

「どういうことなのよ責任者出てきなさいよ!」

 

 あの、なんでお●ぎとピ●コの真似……?

 

「「いやせめてキャラ立てておこうかと思って……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 MSパイロットねらってたら大量に出てきたキュケオーン。
 てめ嫌がらせかこの恋愛クソ雑魚ミジンコ。捻れ骨子です。

 はいそんなわけでエクスカリバー使用不能&エイロー隊壊滅の巻~。今回珍しく予定通りに話が進みました。やりたかった展開がほぼできて筆者は一安心しております。……でもこの後まだ本命が控えてるんだよな~。結局いつになったら終われるのかまだ目処が立ちません。
 
とにもかくにもわずかに風穴は空きました。はたしてそこからどうねじ込むのか。次回以降をお楽しみにということで今回はここまで。
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