イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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5・いい男ってのは、それなりの過去があるものさ

 

 

 

 

 地球圏軌道上にあるGH基地【グラズヘイム2】の格納庫。そこに【アイン・ダルトン】三尉の姿はあった。

 彼が見上げているのは、改めて受領したシュヴァルベ・グレイズ。それは以前ガエリオが使用していた機体だ。

 

「俺のシュヴァルベを預けるんだ。しっかり使いこなしてくれよ?」

 

 傍らにいたガエリオが、アインの肩を叩く。彼自身は背後に佇む機体、【ガンダム・キマリス】を実家から持ち出し、使用する腹積もりであった。

 火星支部に属していたアインは、敬愛していた上司であるクランクを鉄華団に討たれ、その仇を討つことを誓っていた。しかし火星軌道上の戦いに置いて名実共に一蹴され、それでも諦めきれずにガエリオたちに同行し鉄華団と戦いたいと願い出た。クーデリアの身柄を確保したいガエリオたちの思惑とも一致したためそれは認められて、ガエリオ直属の部下として迎え入れられたわけだが。

 そんな彼に、ガエリオは真剣な表情で言う。

 

「お前は本懐を遂げる事だけ考えろ。まかり間違ってもリボン付きの悪魔を相手にしようなどと思うなよ?」

 

 その言葉に思い出す。敬愛する上司の機体を奪い運用していた敵。それに挑みかかった直後に襲った衝撃。意識を取り戻せば仇は遙か彼方で、何も出来なかったという無力感だけが残った戦いとも言えぬ無様。仇と己に対する憎悪と憤怒だけが積み重なって、それを与えた相手に対し挑むなと言われれば反感を覚えても仕方が無かろう。

 それを飲み込んで、アインはガエリオに問うた。

 

「いかなる人物なのですか、リボン付きの悪魔……ランディール・マーカスとは」

 

 それに応えるガエリオは、苦虫を噛みしめたような表情であった。

 

「有り体に言えば『化け物』だ。あの男より強い人間を、俺は知らない」

「隔絶したパイロットであると?」

「それもある。が、問題はそこじゃない」

 

 言いながらガエリオは過去を思い起こす。

 

「出会ったのは士官学校で、もうその時点で色々やらかしてくれていたが、その後に比べれば温いものさ」

 

 士官学校卒業後ランディが最初に配属されていたのは、広域パトロール艦隊。だがその実態は、一般からの入隊だったり出自の怪しい者、コロニー出身者などの被差別者達ばかりで構成された通称『標的艦隊』。演習の名目で引っ張り出されては一方的に叩き潰されるのが主な役目と考えられていた掃きだめであった。

 配属されてから二年。彼は表立った動きは見せなかった。流石の彼もあまりの環境に凹まされたかと、ガエリオたちは思っていたのだが。

 ある演習で、彼は虎視眈々と研いでいた牙をむき出す。

 【月外縁軌道統合艦隊・アリアンロッド】と【地球外縁軌道統制統合艦隊】による合同演習。とはいってもアリアンロッドが出してきたのは1艦隊6隻。地球外縁軌道統制統合艦隊も旗艦を含む少数であった。対する広域パトロール艦隊は二世代は前の旧式艦である旗艦【ケストレル】を含む3隻のみ。そもそもこの演習は地球外縁軌道統制統合艦隊指令【カルタ・イシュー】の伯付けのためだけに行われたのだ。最初から勝負の決まっている出来レースである。

 そこでランディが行ったことは。

 

「合わせてMS72機、2個大隊規模の半数以上を『あの男は一人で撃墜判定に追い込んだ』」

 

 しかもほぼノーマルの、満足な整備も行われていないはずのグレイズで、である。当時監察局に入ったばかりで模擬戦の視察に参加していたガエリオは度肝を抜かれた。士官学校時代から図抜けた技量を誇っていたランディであったが、それが衰えるどころか気狂いの領域に達していたのだから。

 彼独特の攻撃と機動が一体化したテクニック。こういった演習、いや何もかも足りない現状で多数の敵を相手取るために編み出されたのがそれだ。『弾丸や推進剤の消費を可能な限り押さえ、かつ有効打撃を効率よく与える』それが日の目を見たのがこの演習であったのだ。飼い殺しにも等しい二年間、目に物見せるため彼はただひたすら己を鍛え続けていたようである。

 それだけではない。これまでただ一方的に嬲られるだけであったパトロール艦隊全体――と言ってもMSで言えば1個中隊12機だけだが――が、まるで中身が歴戦の強者に入れ替わったかのように錬度が上がっていたのだ。

 後で分かった話だが、どうやらランディは配属からこっち、同僚や上司を煽てたり扇動したり脅したり物理的に説得したりしてケツをひっぱたき、自分と同様に鍛え上げたらしい。最低でも、準エース級の猛者にまで達している有り様だった。

 最終的に、一応アリアンロッドと地球外縁軌道統制統合艦隊の連合は勝利判定を得た物の、MS部隊は壊滅状態。艦隊もほぼ全滅に近い状態にまで追い込まれたという、実質的に敗北に等しい結果となった。

 演習後、標的艦隊の主立った面子は査問じみた聴取を受けたのだが、一様にへらへらとした態度で。

 

「いやそちらが勝ったじゃないですか、何か問題でも?」

「そもそも勝っちゃいけないとかいうルールないでしょ?」

 

 などと微妙に腹の立つ態度で正論を展開しながらのらりくらりと対応した。(どうやら人格面でもランディの影響を多大に受けてしまったらしい)実際PTSDを発症したりする人間が結構な数出たりしているので問題はあるのだが、相手側のプライドと面子がそれを理由に責めることを許さず、結局の所有耶無耶な形で幕が引かれる。

 その後、状況から誰が原因なのか察しが付いたガエリオと、納得のいかなかったカルタ――彼女もランディの後輩に当たる――が直々にランディの元を訪れ詰め寄ったのだが、彼は小馬鹿にしたような態度で「敵が自分の都合通りに動くかどあほう(意訳)」とけんもほろろに言ってのけるだけであった。暴論だが同時に正論であり、結果を出した以上ぐうの音も出ない二人は言い負かされて退散するしかなかったのだ。

 

「そこからだ、彼がリボン付きの悪魔と呼ばれるようになったのは。メビウスのリボンは恐怖の象徴と、あの演習を知るものは震え上がったものさ」

 

 だがその結果が不評を招いたらしく、広域パトロール艦隊は一旦解体され再編成されることとなった。当時のメンバーはばらばらに各所へ配属され、病原体もとい演習の主犯であるランディは重い処分を受ける……かと思いきや。

 

「そこで何をまかり間違ったのか、アリアンロッド指令【ラスタル・エリオン】の直属に引き抜かれたんだ。なんでもエリオン公直々の抜擢だったらしい。普通なら大出世だったんだろうが……」

 

 ガエリオは、頭痛を堪えるように人差し指で額を抑えた。

 

「あの男、なにをやらかしたんだか『配属後たった一週間で』不興を買い、辺境哨戒任務なんていう閑職に回されたんだ」

 

 最後に彼と会ったのはその任務に赴く直前、ちゃっかり先に受領していたシュヴァルベ・グレイズをもって移動しようとしていた矢先であった。

 じゃ、達者でなと手を振りながら向けられた背中。その三日後、彼は所属していたMS小隊と共にMIAとなった。

 

「今思えば、彼は理解していたのだろう。自分の属していた小隊が『己を快く思わない者ばかりで構成され』、『人目の届かない任務であるのをいいことに、命を狙っていた』のだと。逆にそれを利用して、行方を眩ませたに違いない」

 

 

 

 

 

「いえっくしィ!」

 

 ↑普通に退職できないだろうしできたところで大して退職金貰えないだろうから、奸計を利用してこれ幸いと逃げ出すついでにシュヴァルベ・グレイズをパクったど外道。

 

 

 

 

 

「所属部隊の母艦は、彼らが海賊の奇襲を受けたおり殿となって民間船を逃がして栄誉の戦死を遂げたのだとか報告していたが、あれは部隊を丸ごと置いてきぼりにして逃げ出したんじゃなかろうか。運良く生き延びられたにしても、デブリ帯なんかにMSだけでは生き延びることすら難しいからな。そこからどうやって生きながらえたのやら」

 

 

 

 

 

「いえっくしィ!」

 

 ↑前もって手配していた廃品回収業者に救助を頼んでおいた。そんで報酬代わりにぶちのめしたグレイズを山分けし、うっぱらったまさにゲスの極み。

 

 

 

 

 

 ともかく彼は生きていた。生きて、帰ってきた。それがどれほどの混乱を呼ぶのか想像も付かないとガエリオは言う。

 

「パイロット、サバイバー。そして扇動家として超一流。敵に回せばあれほど恐ろしい男はいない。まともに相手取るのは愚の骨頂だろうが……それでも我々は、彼を出し抜かなければならないんだ」

 

 そのための、ガンダムフレーム。骨董品ではあるが、厄祭戦時代の技術で製造されたその性能は、大量生産を前提とした現在のMSとは比較にならない物だ。その性能を引き出し、さらに有利な条件が整うのであれば勝ち目はある。ガエリオはそう睨んでいた。

 もっとも鉄華団を討ち、クーデリアの身柄を押さえるだけであれば彼と正面切って戦う必要はない。キマリスはあくまで保険。彼と直接戦わないか、戦っても時間稼ぎに徹することこそが、自分たちの『勝利』への道筋だろう。彼さえ押さえられれば鉄華団など単なる無法者の集団。容易に事を為し遂げられるとガエリオは信じている。

 

「しかしそれにしても……あの男は本当、士官学校時代から悪い意味で変わってないな……」

 

 そう言う顔が昔を懐かしがる物ならば、アインも複雑な思いを抱いただろうが。

 ガエリオの顔は、道ばたの犬の糞を踏みつけたような苦々しいものだった。

 一体どんな目に遭わされたのだろうか。アインは別な意味で不安になるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪かなんかですかランディさん?」

「いや、いきなり鼻がむずむずしてな。……誰か噂でもしたか?」

 

 整備班の【ヤマギ・ギルマトン】に問われ、ランディは首を傾げながら答える。

 歳星での用事を済ませ補給や新たな仕事を受けた鉄華団は、ハンマーヘッドの先導の元地球圏への進路を取っていた。彼らが行くのは宇宙灯台を基点とした航行管制機構【アリアドネ】を利用する正規航路ではなく、タービンズの航行士が長年の勘と技術でもって切り開いた独自の裏航路である。GHに目を付けられている以上、航行記録の残る正規航路を行くのは危険だと判断したオルガたちは、輸送業務にてタービンズが良く使用するそれに便乗させてもらうことにしたのであった。

 その間も彼らは忙しなく動いている。特に正規パイロットである昭弘と適正があると見込まれた連中は、イサリビとハンマーヘッドを往復し、アミダ指導による対人シミュレートとランディの教練を受け続けていた。

 どちらか片方だけでも結構ハードな教育だが、合わせると地獄の特訓と言っても過言ではない。特にランディは僅か二年で底辺部隊を歴戦の強者に変えた手腕の持ち主だ。当然ながら生半可なものではない。後に『ランディ・ブートキャンプ』と称されるようになる訓練を容赦なく施していた。それは大の大人でも音を上げそうなものであったが、鉄華団の少年達はよく食らいついてきている。

 

「なかなか良いガッツだ。お嬢さんが教えてる勉強も真面目に取り組んでいるようだし、こりゃ化けるかも知れんぞ?」

 

 ランディはそうオルガや名瀬に零していた。年少組を中心に文盲なものたちへ文字の書き方から教えているクーデリアと共に、人に物を教えることに向いているのかも知れない。大分厳しめというかスパルタではあるが。

 

「一番受けて欲しいのは三日月なんだがな。あいつはわりと無茶しいだし」

「バルバトスの改修は終わったって連絡入りましたから、程なく合流できると思いますよ」

「長距離ブースターまでサービスとは、大分親分さんに気に入られたな。それまでは今のメンバーで回すと。……次の哨戒は昭弘か。デブリが増えてきたが、機体の方は問題ないな?」

「はい。それとタカキが一緒に出たいって言ってますけど」

「タカキが? そりゃグレイズにMWを曳航してもらえば航続距離は問題ないだろうが」

 

 ヤマギと話していたランディは眉を寄せる。【タカキ・ウノ】は年少組のリーダー格で、パイロットの適正があると見込まれた一人だ。早々出しゃばる性格ではないのでそのようなことを自ら言い出すのは珍しいことであったが。

 

「妹さんからメールが届いて張り切っているんですよ。あいつ常々妹さんを良い学校に行かせたいって行ってましたから」

「なるほどな。……報告があるから、ついでに大将には俺から言っておく。大将はブリッジだな?」

「えっと、多分?」

「まあいいさ、いなきゃ捜せば済むことよ」

 

 ヤマギと別れ、ブリッジに向かうランディ。しかしそこにはオルガの姿はなく。

 

「ん? あんただけかフミタンさん」

 

 ブリッジのオペレーター席に座しているクーデリアのメイド【フミタン・アドモス】一人。通常航行中なので問題はないだろうが、少々不用心だなとランディは眉を顰めた。

 

「ええ、オルガ団長は13時間近く休息を取っていなかったのでメリビット女史が休息を取るようにと。ダンテさんはチャドさんと交代。チャドさんはトイレですのですぐ戻ってくるかと。他の子たちはメリビット女史にオペレーティングの基礎を習っているようです」

「そういうことか。まーた寝てなかったんだなあの大将」

 

 淀みなく答えるフミタン。納得したランディは、報告は後にするかと考えながらふとあることに気付いた。

 

「ん? どこかから通信でも入ったのか?」

 

 フミタンが操作していたコンソールのモニター画面を目に入れたランディ。ほんの僅か、フミタンはぴくりと身じろぎしたように見えた。

 

「いえ、火星の知り合いに連絡を取って、現状の確認をと」

「なるほど、邪魔したな。……大将への伝言があるから、ちとチャドを待たせてもらうぜ」

 

 言って壁に背中を預けるランディ。その視線はフミタンの後頭部に注がれていた。

 なんというか、この女『匂う』。態度は真面目、鉄華団の面子にも柔らかく接しているし、クーデリアを見つめる目には確かな慈しみがある。だが、ランディの勘が警笛を鳴らしていた。

 

(何かがあるとは思うが、ね)

 

 恐らくはどこぞの間諜で、クーデリアの監視をしているか情報を流しているかだろうと当たりをつける。しかし確たる証拠がない以上、無理にそれを暴くつもりもない。

 

(ある程度相手の動きが予想しやすくなるしな)

 

 情報が流れているという前提があるのならば、それを元に相手も動くと推測できる。であればそれを逆手に取ることも可能だ。まあ現状で考えるのであれば。

 

(この先で襲撃がある。ってところか)

 

 そう結論づけた。確証はないが、まあ大体そんなところであろう。それとなく大将(オルガ)に具申しておくかと、ランディは思考を巡らす。

 彼の予想が当たったのは、数時間後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「医療用のナノマシンを! 急いで!」

「それと再生ポッドの準備だ! 2、3人ついてこい!」

 

 二つの声が格納庫に響く。昭弘のグレイズ改と共にMWで哨戒に赴いたタカキであったが、謎のMS部隊に強襲され、MWごと捕らえられそうになったのだ。丁度イサリビに合流しようとしていた三日月が偶然参戦した事によりそれは防がれたが、攻撃を受けたタカキは重傷を負ったのであった。

 狼狽える団員達をよそのてきぱきと処置を施したのはランディと、テイワズから鉄華団のお目付役として派遣された【メリビット・ステープルトン】である。軍属であったランディはともかく銀行部門で働いていたというメリビットの処置も手際よく、タカキは一命を取り留めた。

 

「才女ってのか? フミタンさんといい最近の女ってのは芸達者なこった」

 

 タカキを再生医療ポッドに放り込んで一息吐いたランディが零す。アリアドネを利用した通信ネットワークの構築をこともなくやってのけた――本人曰く、メイドの嗜みらしい――フミタン。並の女性なら目を背けるような重傷を目の前に冷静に対処したメリビット。それぞれが多彩な人間を見てきたランディも舌を巻くような技術の持ち主である。

 まあ技術を持つ人間がいるってのはありがたいことだと、さほど深刻になっていないランディであるが、団長であるオルガはそうもいかないようだ。

 

「ランディさんに忠告されてたってのにこの様か。……情けねえ」

 

 俯いてぎり、と歯噛みするオルガ。しかしこの場合全てが彼の責任というわけではない。襲撃があると予想されていてもそれがいつあるか、どのような形かまでは予測が付かないし、四六時中気を張っているわけにもいかない。何より彼らはまだ経験不足の少年。全てを無難に乗り切れるよう対処するなど出来ようはずがなかった。

 

「そうね。……最低でも、船医は用意しておくべきだったかしら」

 

 オルガの様子にあまり厳しい言葉をかけるわけにもいかないが、それでも一つ言っておくべきだろうと思ったメリビットがそう言葉をかけた。オルガはぐうの音も出ないと肩を落とす。ランディはしょうがないなといった態度で口を開いた。

 

「まあそのあたりは気を配れなくても当然だな。大将たちゃ『治療を受けるって発想自体がなかった』だろうし」

「え?」

 

 ランディの言葉に、メリビットは目を丸くする。実際オルガたちは幼少のころから病気や怪我があっても医者にかかるほどの金はなく、CGS時代だって命に関わる重傷を負っても大人達からは放置されていた。そのまま死んでしまうと言うことも珍しいことではなかったのだ。簡単な手当ぐらいなら出来るがそれも応急処置程度で、本格的な治療など想像もしたことがない。

 ストリートマフィアなど、似たような状況を知っているランディは容易く想像が付いたが、流石にメリビットはそう言ったことを思いもしなかったらしい。慌ててオルガに頭を下げていた。

 

「その、ごめんなさい。無神経なことを言ったわ」

「いえ、あの、俺らが至らないのは確かだし……」

 

 メリビットの態度に少し狼狽えるオルガ。このように素直に謝られるのはどうにも困る。そう顔に書いてあった。それをフォローするわけでもないだろうが、ランディが頭を掻きながら言う。

 

「むしろ船医に関しちゃ気を配れなかった俺らのミスだ。自分が医者と縁遠いと、どうにもそのあたりが雑になっていけねえ」

 

 その様子にオルガとメリビットは顔を見合わせ、どちらからともなくくすりと笑った。

 空気を変えるつもりか、メリビットは茶化すようにランディに向かって言う。

 

「前から思ってたんですけれど、ランディさんって団長さんや団員の子たちに甘くありません?」

「え゛!?」

 

 彼女の言葉に、オルガとランディはおろか、医務室で作業に従事していた団員達も含めた全員が、ぎょっと目を剥いた。

 

「……なにこの反応」

 

 メリビットの後頭部に、でっかい汗が一筋流れた。

 ランディ・ブートキャンプの現状を知り、彼女が納得するのはもう少し後のことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事後、落ち込んでいたのはオルガだけではない。

 

「俺が……俺の、責任だ……」

 

 タカキを引き連れて哨戒に出向いた昭弘。彼はタカキを護りきれなかったことを後悔していた。

 そして。

 

「……昌弘……」

 

 ぽつりと、名前を口にする。自分たちを襲撃してきたMS部隊。その中に、生き別れた自分の弟【昌弘・アルトランド】がいることを知ったのだ。

 元々輸送船団生まれで、海賊の襲撃により攫われた挙げ句ヒューマンデブリにさせられた彼ら。必ず助けにいくと告げたものの、生きて再会することは絶望的であると思っていた。それがこんな形で再会することになるとは。

 勘違いしていたと、昭弘は思う。鉄華団の一員として迎えられ、『自分たちは人間であると思い上がっていた』と。

 

「姐さんたちや、ランディさんにしごかれて、辛かったがそれが楽しくて。……そんなことを思っていたから罰が当たったんだ。ヒューマンデブリなんかが、人並みの生活をしようなんて……っ!」

 

 血を吐くような言葉。激しい自責が昭弘の心中を埋める。

 だが、彼はそうやって落ち込むことを許されなかった。

 

「一人で勝手に結論付けてんなあほう」

 

 ぼこん、と結構景気のいい音を立てて昭弘の頭に拳が叩き込まれた。「ぐお!?」とか呻いてたたらを踏んだ彼が振り返るとそこには。

 

「ら、ランディさんに団長? それにみんなも……」

 

 鉄華団の主要なメンバーが勢揃いしていた。狼狽える昭弘に向かって、オルガは真っ直ぐな視線を向けて言う。

 

「話は聞いた、水くさいぜ昭弘。お前の兄弟なら俺たちにとっても家族同然だ。一人で抱え込むんじゃねえよ」

「そうそう、みんなで助けてやりゃいいじゃんよ。俺らなら上手くいくって」

 

 オルガの言葉にシノが便乗する。傍らのビスケットも頷いた。

 

「みんなで考えようよ。昭弘の弟を救い出す方法をさ」

 

 そしてこういうことに関心がなさそうに見えた三日月も、素っ気なくではあるが言葉をかけてくる。

 

「オルガが助けるって言ってるんだ。だから助ける。絶対に」

 

 彼らしい、オルガに対する信頼と、同時によせられる信頼に応えようとする静かな気迫が感じられる言葉だった。彼らの背後から、ユージンが呆れた様子で言う。

 

「こいつらこうなったら梃子でも考え曲げねえぞ? だから大人しく助けられとけ」

「お前ら……」

 

 言葉を失う昭弘。ランディはそんな彼の胸元に人差し指を突きつけた。

 

「ヒューマンデブリだとかそんなんは関係ねえ。お前さんは今ここで生きてるし、お前さんの弟も生きてる。生きてる以上、『死んでるよりは何かが出来る』んだ。みっともなかろうが何だろうが、足掻いてみな」

 

 ぽかんと呆ける昭弘だったが、みるみる生気をみなぎらせ、勢いよく皆に向かって頭を下げる。

 

「すまねえみんな! 恩に着る!」

 

 がやがやと騒がしく策を練る少年達。そんな彼らを見ながらランディもまた考えを巡らせていた。

 話を聞くところによると、敵は恐らく【ブルワーズ】と称する宇宙海賊だ。武闘派として名高いと言うことだったが蓋を開けてみればなんと言うことはない、ヒューマンデブリの兵を前面に押し出して使い潰し、疲弊したところを叩くという戦術を用いるくされ外道だったというだけだ。

 気にくわない。実に気にくわない。しかし。

 

(だからこそ、叩き潰しがいってのがあるよなあ)

 

 ランディが浮かべるのは凄絶で底意地悪い、正しく悪魔のごとき笑み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※こんかいのえぬじい

 

「ん? あんただけかフミたん」

「なんですかその微妙に齟齬がある呼びかけは」

 

 だれもが思った事だと思う。

 

 

 

 

 

 終われ下さい。

 

 

 

 

 

 




 最終回、色々言いたいことはあるが一つだけ。
 何でこの内容をガンダムでやろうと思ったし。
 最初からヤクザものだったら受けてたかもよ捻れ骨子です。

 はいそういうことでランディさんの過去の一部が露わになりましたとさ。自分で作っておいて何ですが、やっぱろくなモンじゃねえなこの男。GH内の被害者は数に暇がありません。きっと胃薬とか売れまくってる。
 そしてブルワース編に突入ですが、ランディさんフミタンを微妙に勘違いしてます。彼女襲撃とは関係ないですし。さてこっからどうなるのか。フミタン逃げたほうが良いんじゃなかろうか。よくある彼女ヒロイン化なのか。だったら本当に全力で逃げた方がいいぞフミタン。
 彼女は悪魔から逃れられるのか。緊迫の次回を待て!(嘘)

 そんなこんなで今回はこの辺にて幕とさせて頂きます。  
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