イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 待たせたな!

 いやホントお待たせしてすんません。後編です。どうぞ。




58・明日は未来(あした)の風が吹く 後編

 

 

『火星を取り巻く環境の変化、その要因は鉄華団の活躍によるもの……GH管轄権限の譲渡を含めた自治権利の向上だけではない。『火星の価値そのものが上がったから』だ。『エイハブリアクターの技術公開と、経済圏および企業の共同開発研究』。大々的に行われるそのプロジェクトがハーフメタルの価値を高め、必然的に最大の産出地である火星の存在価値は向上した。そしてそんな火星の処遇を巡り、企業や経済圏の動きは活発化していく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイワズの本拠地歳星。次々と入港する輸送船を見ながら、マクマードと名瀬は言葉を交わす。

 

「ハーフメタルを掘り出すだけ掘り出して、精製はこっちでやる、か。間に合わせの策にしちゃ上出来だ」

「本当に間に合わせですがね。とりあえずは地球圏(向こうさん)の要求量を確保できそうです。早いところ鉄華団に預けた採掘施設が再建できりゃいいんですが」

「報告じゃ予想より早く再建できそうだがな。上物はぶっ壊されたが、用立てた土地はそのまま使える。それにあのMA(バケモン)のおかげで上手いこと鉱脈が露出したようだしな」

 

 壊滅的な被害を受けた鉄華団採掘施設であったが、怪我の功名というか、MAハシュマルの足を止めるために行った発破に加え、ハシュマル自身が地下を脱するために瓦礫を吹き飛ばしたおかげで大きく土地が掘り返された。その跡にハーフメタル鉱脈が露出したのである。恐らくハシュマルは己の修理やプルーマーの製造に使うため、ハーフメタルを採掘できる地を選んで拠点としたのだろう。これは関係者にとってうれしい誤算であった。

 このことによって採掘施設の再建は想定した以上の早さで進んでいくこととなる。それは同時に、火星の再開発への追い風となるだろう。

 

「これからハーフメタルの消費量は増えていく。今の段階でも鉄華団が持ち込んでくるあがりだけでうちは丸儲けさ。つくづく良い拾いものをしたじゃねえか名瀬よ」

「全くです。……しかし親父、いいんですか? 折角オルガが譲ってくれた権限を、『クーデリア嬢を代表とする火星の独立勢力に預けちまう』なんて」

 

 GH火星支部の権限は、約束通り鉄華団へ段階的に譲渡される運びとなった。そしてその権限を、これまた約束通りオルガはマクマードに預けようとしたのだが、マクマードはその権限を経済圏の後押しで設立されることとなった火星の暫定自治機構に譲ると言い出した。

 これには名瀬を含むテイワズ幹部、オルガ、そして自治機構の代表に推薦されたクーデリアも驚いた。もちろん反対の声は上がったが、マクマードは悪いようにはならねえと、なだめすかして押し通した。その真意を名瀬は改めて問うている。

 

「確かにありゃあ一見俺たちが火星を支配して総取りできるように見えるがな、同時に火星が抱えるだろう莫大な『借金』も背負っちまう」

「借金? ……ああ、なるほど」

 

 名瀬も合点がいったようだ。火星はこれからまずハーフメタルの産地として発展し、その利益を開発に回していくことになる。その事業のために各方面から莫大な融資を受けなければならないわけだが……これは言わば借金。事業が発展していくにつれ様々な形で返済していかなければならない物だ。火星の実権を握るということは、そういった負債も背負わないといけないという事である。

 テイワズがいくら巨大な企業だとは言え、そのような負債を抱え込むには大きなリスクが伴う。各経済圏もそう考えたのだろう。言い方は悪いが借金を背負う立場になるより貸し付ける立場の方がいい、ということだ。経済圏が火星の独立を推したのはそういった事情もある。

 

「元々火星の統治は、経済圏の持ち出しで保っている部分も多かった。余計な金食い虫のGHが衰退し、火星自体も利益が出る見込みは出来たが、それにしたって形になるのは先の話だ。自分たちでリスク背負うってんなら是非ともやってくれって考えるのも無理はなかろうさ」

 

 それとは別に、マクマードには火星の権利を自治機構に譲る理由があった。

 

「……オルガが提唱した第六経済圏の構想、クーデリア嬢の火星再開発計画。俺にゃあそんなこと思いつきもしなかった。絵に描いた餅にも思えるが、あいつらにはそれを成し遂げられると思わせちまうバイタリティがある。何よりも、『夢』があるじゃねえか」

「夢、ですか?」

「応よ。夢ってのは大事だぜ。自分たちの目標にもなるし、魅力的かつ現実的なら多くの人間を呼び込める。高けりゃ良いってモンでもねえが、生きるのに張り合いが出てくるだろうよ」

 

 自分はもうやりきった感があり、名瀬も家族第一で冒険をしない部分がある。そんな自分たちより若い者に任せた方が上手く回る。長年生き馬の目を抜く世の中を渡ってきた企業人として、そして一人の人間としてもマクマードはそう判断した。まあひいき目という部分があるのは否めなかったが。

 

「これから先があいつらの人生の本番さ。ドンパチやるのとは違う、世間の荒波ってヤツが待ち構えてる。それをどうやって乗り切るか……そいつもまた楽しみよ」

 

 無論舐めたことをしてとち狂ったら遠慮なく『喰わせてもらう』がな、と悪い大人のようなことを言いながらも、その顔は子供が巣立ったような感じで実に楽しそうである。自分も同じような顔をしているのだろうなあと、名瀬は苦笑いを浮かべた。

 

「さあて、これからまだまだ忙しくなる。ハーフメタルの取引だけじゃねえ、エイハブリアクターの共同開発もでかい商売だ。ぬかるなよ?」

「ええ、最終的な目標はインフラに使える大型リアクターですが……まずはMSサイズの物からですね。テストベッドとしてエウロパフレームのガラ(骨格のみ)を提供する予定です」

「次世代機の開発も見越してか。良い判断だ。その調子で頼むぜ」

「心得て」

 

 発想では若い者に抜かれたが、まだまだ簡単に道を譲ってやれない。男たちは夢ではなく、積み上げてきた実績と経験で未来の礎となる覚悟を持っている。

 まあ要するにおっさんどもの意地であるが、彼らは悲壮感もなく子供のように目を輝かせていた。

 男ってのはいくつになってもこんなもんだねえと、二人の背後で着物姿のアミダが肩をすくめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 活気づいているのはテイワズだけではない。火星に根付いた多くの組織、企業がてんてこ舞いの最中にあった。

 その中で最も多忙であるのがアイゼン・ブルーメ商会であろう。

 

「こっちの資料とサンプルデータを比較して確認を!」

「は、その件は自治機構の方に移行しまして。はい、はいそうです。お手数ですがよろしくお願いします」

「7番の棚にあった記録簿は全部詰めました。段ボールに書いてありますから」

「ここからここまでを一週間で。時間に余裕はありますけど出来れば早めに」

「オリンポス社とエリュシュオングループからの打診ですけど、例の件と絡めて……」

 

 ひっきりなしに電話が鳴り響き、バイトも含めた社員たちがせわしなく行き来している。

 ただ事業が活性化したのではない。クーデリアが暫定自治機構の代表として起つ事が決定された時点で、商会が手がける事業の多くが自治機構預かりとなる事となり、その移行作業に追われているのであった。

 元々商会が手がけていた事業は、本来公共でやるべきであった物も多い。これまでは人手の足りていないクリュセ自治区から委託されるような形で事業を回してきたが、経済圏の自治区を一纏めにし、本格的な独立を前提とした組織作りが始まったことで、本来の形に戻そうと言うことになったのだ。

 商会そのものは残るが、その事業形態はかなり変わるだろう。そしてクーデリア自身も自治機構の代表となることで商会からは距離を置くこととなる。そしてククビータが商会を預かる事となった。

 

(とは言っても社長に比べれば大分楽な仕事になると思うけれどね)

 

 仕事をさばきながらククビータは苦笑した。商会を立ち上げてからこっち、クーデリアがどれだけの仕事をこなしてきたか彼女はよく知っている。それがごっそりお役所に持って行かれることは、むしろありがたいとすら思う。ただでさえクーデリアは抱え込みすぎな上、これから先は自治機構代表として働かなければならないのだ。誰かが代わりに請け負ってくれるのであれば、少しは負担も減るだろう。

 そう、これからは『誰かに任せるだけではいけない』。クーデリアにしろ鉄華団にしろ、負担が過ぎていると思う。彼女らに頼るだけではなく、自分たちで歩まなければ。オルガが止まるんじゃないと言ったように。それが出来てこそ、火星は本当に自立したと言えるのではないだろうか。

 これからだ。世界は変わり始めたばかりで先行きは不透明。今上手くいっているからと言ってこれから先も上手くいくとは限らない。上手くいかないどころか大きな障害が待ち受けていることもあるだろう。

 それでも、諦めずに歩いて行けば、きっと。

 ククビータは窓の外を見上げる。空は青く、高く、そして果てがない。クーデリアの、そして自分たちの未来も、この空のようであれば良いと彼女は願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、上手くいっているところもあれば、上手くいっていないところもある。

 

「ええい、どいつもこいつも役立たずが!」

 

 がん、と分厚いテーブルを叩いて不機嫌な声を上げるのはノブリス・ゴルトン。彼は現在、己の事業を立て直すことで手一杯であった。

 GHに改革のメスが入るまで上手く回っていた事業が不調となったのは、『旧ラスタル派閥と通じ私腹を肥やしていた』という噂がまことしやかに流れ、一気に信用を落としたから……というのは『理由の一つ』。全体的に大まかな感じで言ってしまえば、『取引相手の多くがノブリスを見限った』のだ。

 ラスタルに内通したり、クーデリアや鉄華団関係者を拉致しようとした行動は、それとなく匂わす形で様々な場所に伝えられる。気の回るところは裏を取り、その話が事実であると確証を得ていた。

 彼らも慈善事業ではない。天秤にかけ、ノブリスの行いが利になるとなれば彼に協力するのもやぶさかではなかっただろう。しかし彼に協力しても自分たちの利は薄いと判断せざるを得なかった。

 火星支部がマクギリスの派閥で再編成されてから、横暴はなりを潜め火星周辺の治安維持とそれに伴う経済の活性化に力を入れ、そして相応の成果を上げてきた。ここでまたラスタル派閥に取って代わられたりすれば、以前と同じとまでは言わなくとも景気の好調に歯止めがかかるかも知れない。是が非でも反逆軍には勝ってもらわねば。多くの有力者がそう考えたのだ。

 加えて経済の発展に尽力してきたクーデリアを売るような真似をしてみせる。これが致命的だった。彼女は火星周辺の経済界にて重要なキーマンであり、そして火星独立の旗印でもある。ここで彼女が失われるような事があればどうなるか。それで得するのは『ほぼノブリスのみであろう』。

 彼はそもそもが武器商人だ。治安の悪化は飯の種である。その上介入理由をでっち上げてでも武力投入を厭わないラスタル派と繋がりがあるとなれば、世情が不安定な状態であったほうが都合が良い。そう見られるし事実だ。

 彼に協力することは、平穏が遠のき健全な商売がしにくくなることにつながる。GHが過去のままであったなら致し方なしと判断する者も多かっただろうが、情勢は変わりつつあった。反逆軍と鉄華団という勝ち目のある馬に乗った方が分が良いと多勢は判断し、結果ノブリスの周辺から離れていく。アリアンロッドとの戦いが終わり、GHの改革が始まった頃には、彼と商売を行おうとする者は格段に減ることとなった。

 潮時と見て取ったのか、彼の側近も幾人か職を辞している。そして人手が足らなくなって事業が回らなくなり、その影響で労働条件が悪化しさらに人が離れていくという悪循環が生じ始めていた。ノブリスは落ち目だと、経済界の人間はそう判断しはじめている。

 時勢を見誤り、人を見誤った。もっとも彼の自業自得と言うばかりではない。クーデリアが己を手玉に取るほどの傑物となるなど予想の範疇外であっただろうし、鉄華団がこれほどに勢力を拡大させようなどは思っても見なかった。ぶっちゃけ大体は各所に影響を与えまくったランディのせいなのだが、それこそ予想など出来るものか。たった一人の存在が、碁盤をひっくり返すような事態になるなどと。

 ともかく彼は坂道を転がり落ちるかのように勢いをなくしていく。クーデリア辺りにでも泣きつけば、歯止めはきくかも知れなかったが……彼女がどこまで知っているのか、そしてどこまでが彼女の手によるものなのか。それが分からなければ手を結べない。下手に手を組めば途端に身ぐるみ剥がされるどころか、命の危険もあった。それだけのことをしてきたという自覚はある。むしろどうやって鉄華団、ひいてはその背後にいるテイワズの手が届かぬところに逃れるか。そういった算段をした方が良さそうであった。

 こうしてノブリスは身を持ち崩していく。火星に残っていられるかどうかすらも怪しく、先行きは暗い。果たして別の世界線で暗殺されるような結末とどちらが良かったのか。それは誰にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして世界を大きく変える立役者となった鉄華団自体はどうなったのかというと……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が差すなか、土埃が舞い張り上げた声が響く。

 

「よーし、ほんじゃあ今日も安全第一ではりきっていってみようか!」

『うぃーっす!』

 

 ヘルメットを被ったユージンの号令の元、作業を司る者たちが一斉に仕事を始めた。

 鉄華団採掘場。破壊された施設の復旧と同時に、露出した鉱脈の採掘が並行して行われていく。それは大分手間のかかることであったが、作業に従事している者は皆不服をいうでもなく、むしろ積極的に仕事を進めていた。張り切りすぎるのを注意しなければならないほどである。

 

「今のところ掘れば掘るだけ金になるからなあ。そりゃ張り切るってモンさ」

「問題はこの先安定して採掘できるか、ですがね」

 

 予算関係で各部を飛び回っているデクスターと状況を話し合うユージン。鉱脈が露出したことにより施設の再建と同時に採掘が始められたわけだが、こんな状況が今後も続くわけではない。一通り表面が片付けば、また地面を掘り進んでいく作業が待っている。鉱脈自体はまだかなりの埋蔵量があると推測されるが、それを上手く採掘できるかはまた別問題だ。そのことはユージンも理解している。

 

「鉱脈が表に出てるうちに作業用MWの操作に慣れさせる。丁度良いトレーニングになるはずさ。そっから改めて掘り返すんなら大分安定して作業できるだろう。……万が一ここがダメになっても、よそに出向させられる技量はつく」

「なるほど、施設の再建で建築作業の経験も積める、と」

 

 技術や資格。そういった物を身につけておけば、これから先食うには困らない。この採掘場だけでなく火星全土でハーフメタルは採掘が始まっており、この先技術者は引く手あまたとなろう。団員にここで経験を積ませ、ゆくゆくは技術者として各所へ派遣する業務に就かせることも……などと、ユージンは事業戦略のようなものまで考え始めていた。

 

「教官がよく言ってた、技術を身につければ食うに困らねえって言葉の意味が、やっと分かったような気がするぜ」

「良いことです。これからハーフメタル事業はしばらく右肩上がり。今のうちに経験を蓄積しておくのは、きっと役立つ」

 

 二人は笑い合う。やっと地に足のついた仕事をこなしていけそうだ。ここで経験と資産を稼ぎ、次の糧としていく。真っ当な仕事が軌道に乗ってきたことに、安堵と喜びを覚えていた。

 

「こういった仕事が安定して出来るように、『上』も頑張ってもらいたいモンさ」

「今のところは上手くいっているようですよ。体制も整ってきたようで」

 

 見上げる空は、高く青い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火星軌道上。GH火星支部本拠アーレスは、いくつかの船舶が停泊し活気づいていた。

 火星支部の警察権、それを代行する事業が本格化し、賞金稼ぎや契約保安官などが認可を得て活動を開始したのである。

 その業務で鉄華団の責任者となったのがビスケットだ。彼の他には補佐としてチャドとダンテ、実働人員としてビトーやライドが従事している。

 

「何とか形になっていましたね。やっと本格的に動けそうだ」

 

 一息ついて椅子に体重を預け、ぐるぐると肩を回すビスケット。同じく休息に入った新江が口を開く。

 

「事前に大まかな運営方針を決めていたのもあるが、『助っ人』の働きも大きい。ありがたいことだよ」

 

 多くの権限を委託する形になったとは言え、それを取りまとめ仕切るのは未だ火星支部の仕事であった。いずれはそれも自治機構に譲渡していくことになるのだろうが、しばらくはこの形であろう。GH、自治機構、そして鉄華団に代表される民間組織。この三つが共働し治安維持事業は新たなスタートを切った。もちろん試行錯誤の部分も多く、対立や諍いなどが起こる可能性もあったが。

 

「ビスケット主任、パトロールと慣熟訓練のスケジュール、シフトの見積もりが上がってきた。目を通してくれないか?」

 

 入室しながら声をかけてきたのは、ウォードック隊隊長ブレイズこと【シャイアン】一尉相当官。彼らは自治機構に雇われる形で、火星の治安維持事業に参加していた。

 彼らだけではない。賞金稼ぎや契約保安官の幾ばくかはGHから『天下り』してきた者たちだ。縮小していくGHに見切りをつけ、希望退職が募られたのをこれ幸いと職を辞し、火星に赴いてきたのだ。

 一旗揚げようという者から責任感を覚えた者まで理由は様々だが、元々GHの所属であったので、それなりに統率はとれている。また荒くれ者の多い賞金稼ぎたちにそれとなく目を光らせ、諍いなどが起こらないよう気を配っている。

 

「お疲れ様です。……助かりますよ。本来シャイアンさんは裏方じゃないっていうのに手伝ってもらって」

「なに、昔取った杵柄というヤツさ。それに賞金稼ぎに慣れてるやつもいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころアーレスのMS格納庫では。

 

「結局標的艦隊の半分がこっち(火星)に来ちまったな」

 

 苦笑するのは、固太りした壮年の男、ロッソ。トレードマークの丸グラサンを押し上げながら、傍らの相棒にいう。

 

「ま、しばらくはこっちで稼ぐとするかね」

「確かに地球圏よりも治安は不安定だろう。稼げはするが、忙しいぞ?」

 

 痩躯の男、スノーウィンドが肩をすくめる。彼らはGHを辞してから、賞金稼ぎや傭兵として身を立ててきた。そっち方面ではそこそこ名が売れ、相当の腕利きとみられているせいか、いつの間にかアーレスに集った賞金稼ぎたちのとりまとめ役のような形に収まっている。

 

「なあに、若いモン働かせりゃいいだろ。オヤジがいつまでも出しゃばるこたあねえ」

「そう言いつつ面白そうな賞金首いたら、真っ先に狩りにいくでしょこのおぢさん」

 

 半眼でいうのはウォードッグ隊エッジ。一見少女のようにも見える容姿で、最初は賞金稼ぎたちに嘗められていたが、実力でたたき伏せ黙らせた女傑だ。

 

「わりと戦力過多になってない?火星支部。下手すりゃGH改革前より充実してるわよ」

「前から火星支部の手が回ってないのは分かってたんだ。投資家や企業が金ぶっ込んで大々的に人集めりゃこんなモンだろ」

 

 ロッソのの言葉にスノーウィンドは頷く。エッジは微妙に不安よねと眉を寄せているが、残りの同僚も気楽な様子で。

 

「ガラの悪い連中ばかりだから不安になるのも分かるけど、なんかあったら私らでシメりゃいいじゃない」

「そーそ。それによ、デイモン(ランディ)が来る前の俺たちよかマシじゃね?」

 

 チョッパーとアーチャー。気があってる様子の二人だが、実はこの間籍を入れたばっかりだったりする。このリア充どもめがとじと目で睨むエッジだが、もちろん二人は堪えない。

 

「そんな目で見るくらいなら、はよブレイズにこく……」

「おいそれ以上言うと戦争やぞ」

「OK謝るからそのホルスターに伸ばした手を引っこめくださりやがれ」

 

 余計なことを言って地雷を踏んだアーチャーが、両手を挙げて降参の意を示す。

 

「若いねえ」

 

 ロッソはくく、と笑い声を上げ、スノーウィンドは肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愉快な仲間たちの様子を思い返しながら、シャイアンは茶目っ気を乗せて言う。

 

「それにこわーい『お目付』もいることだしな。良い印象を与えておくに越したことはない」

 

 火星支部、いや再編成されたアリアンロッドなど地球圏外を活動範囲とするGHとその管理下にある勢力には、経済圏からの監察が付けられている。不正行為を防ぐためだ。

 そして、この場で監察を受け持っているのは……。

 

「あら、何も悪いことをしなければ、私も目くじらを立てたりはしませんよ」

 

 執務室に居座り紅茶のカップを傾けているのは、スーツ姿のイアンナ。なんかすごく既視感のある光景なんだけど、と新江は思っているが、口には出さない賢明さがあった。

 ともかくコネを使いまくって彼女は火星支部監察官の席をぶんどって居座っている。何がこの人をそうさせているんだろうとビスケットは不思議に思っているが、新江やシャイアンには大体その理由は理解できていた。

 

((……狙われてるなあ))

 

 色恋の意味でか人材的な意味でかは分からないが、どうにもイアンナはビスケットにご執心だと感づいている。知らぬは当人ばかりなり。周囲では密かにトトカルチョの対象にされていたりする。

 とにもかくにも、心の中で舌なめずりしながら、イアンナはビスケットに誘いをかけていた。

 

「どうですビスケット主任、仕事が引けたら食事にでも……」

「あ、すいません。今日は早めに上がりたいのでまた今度にでも」

「……あら、何か用事が?」

 

 心なしかちょっと不機嫌になったようなイアンナの様子に気づくことなく、ビスケットはうれしそうな様子で応えた。

 

「ええ、兄がこっちに来ているんですよ。仕事の都合で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリュセ市街から少し離れたところにある墓地。そこにグリフォン家の墓はある。

 サヴァランは、祖母である桜と妹二人を伴い、そこを訪れていた。

 

「親父、お袋。遅くなってすまない。けれど……二人が果たしたかったことが、やっと実を結びそうだよ」

 

 優しい眼差しで、墓に向かって語りかける。ドルトでもハーフメタルの精製、加工を請け負う目処が立ち、エイハブリアクター開発に参入できる下地が整った。各勢力にそれを売り込むため、サヴァランを含む多くの人間が各方面に働きかけを始めている。

 参入できれば、いや、その技術力があると示すだけでも多くの事業と関わることが出来るだろう。それはドルト労働者の生活環境向上にもつながる。サヴァランはそのために方々を飛び回っていた。今回火星に赴いたのはその一環であるが……めったにない機会だからと、時間を取って身内の元に赴いたのだった。

 一通り墓参りを終え、連れだって帰路につく。疲労の色はあるが、穏やかに見えるサヴァランの様子に、桜は安堵の息を吐いた。

 

「何とか上手くやってるようだね」

「ビスケットたちのおかげさ。GHの横やりがなくなって、随分と風通しが良くなった。俺の仕事もやりやすくなったよ」

 

 労働者とカンパニーの軋轢は、徐々になくなりつつある。もちろん全てが円満に、とは行かないが、武力衝突が起こるような事態は最早訪れまい。

 状況は、良くなってきている。それが下り坂にならないよう努めるのが自分の仕事だ。少しでも良い明日になるように。父も母もこのような思いだったのだろうか。自分のやっていることが手向けになれば良いのだがと、サヴァランは思いをはせる。

 

「それでね、下級生に地球から転校してきた子がいてね」

「なんていうかこう、お嬢様って感じの子。クーデリアさんみたいな上品っていうか、そんな感じで」

「そうか。きっと分からないことばかりなんだろうな」

「うん。でも一生懸命みんなに話しかけてる。周りも分からないことは教えてあげてるみたい」

「すごく良い子だよ。早く火星になれてくれると良いな」

 

 分かれていた時間を埋めようとするかのように双子の妹は語りかけてくる。つないでいる小さな手。それでも別れたときに比べれば随分と大きくなった。桜とビスケットがここまで育ててきたのだ。この二人が、いやこのような子供たちがこれから先、健やかに暮らしていける世界。そういう物を作っていく一端にでもなれれば良いと、サヴァランは思う。

 

「帰ったら、おばあちゃんがシチュー作ってくれるって」

「大兄ちゃんが来てくれたからね。私たちも手伝ってたくさん作るよ」

「はは、そいつはごちそうだな」

 

 今は仕事のことは忘れよう。ともかく腹が減ってきたと、サヴァランは屈託無く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デブリベルトでのサルベージ事業。それは鉄華団が火星に帰還し、状況が落ち着いた頃を見計らって本格的に始動し始めた。

 とは言ってもまだ手探り状態の物。デブリベルトに詳しいタービンズの監督下で、まずは手頃なリアクターをサルベージするところから始めている。

 

「よーし、この辺りからバラしてくぞ。まずは邪魔なデブリを取っ払う。デルマとエルガー、手伝ってくれ」

「はいよ」

「まずはでかいのか? 順番の指示をくれ」

 

 マルチシザーを担いだグシオン、それに乗る昭弘が指示を出し、団員たちは作業を開始する。

 彼らが駆るのは作業用に装備を変えた獅電。グシオンと同じくレーザートーチを備えたサブアームを両肩に持ち、機体各所にワイヤーアンカーを備えたその仕様は、グシオンで得られたデータを元に開発された。

 MSを戦闘のためではなく、大型の作業重機として扱う。ロディフレームやヘキサフレームなどそういった目的を考慮に入れて開発されたものはある。獅電もまた、そういった換装も行えるようになっていた。その上でデブリ作業に慣れた阿頼耶識付きの人間が駆使すれば、その作業効率はMWなどとは比較にならない。

 サルベージ業務に就いたのは、主にアルトランドの名をもらった者――昭弘の『兄弟』と、元ヒューマンデブリたち。それに加えて幾人か『デブリベルトでの作業に慣れた人員』が加わっている。皆昭弘の夢に賛同し、力になりたいと申し出てきた者たちだった。もちろん当然のようについてきている人物もいる。

 作業にかかる彼らの背後、待機しているサカリビの前で指揮を執っているのは、ラフタの辟邪だ。

 

「昭弘たちがでかいの掘り出すから、針路上の邪魔になるデブリを片付けるわよ。下手な方向に流すと予想外の進路取っちゃうかも知れないから、サカリビの作業アームで一旦回収させるように。いいわね?」

「「「「「はい姐さん!」」」」」

「誰が姐さんか。……アタシにはまだ早いわよ」

 

 時折茶目っ気めいた会話も入れつつテキパキと指揮を執るラフタの顔は生き生きとした物だった。仲間と一緒にデブリの除去作業を行いながら、昌弘は思う。

 

(とうちゃん、かあちゃん。もしかしたら近々、家族が一人増えるかも知れないぜ)

 

 そうなったらきっと、もっと騒々しくなるだろうなと、彼は自分の想像に対し笑みを浮かべる。

 そのような感じで鉄華団の面子が作業している様子を、新たにレストアされた【ハンマーヘッドⅡ世】のブリッジでアジーたちが見守っていた。

 

「大分様になっているじゃないか。ランディのヤツ、かなり本格的に仕込んでたね」

 

 かつての名瀬と同じように帽子の端を指で弾きながらアジーは言う。そういう彼女自身も名瀬の真似をした格好と仕草が様になっているというかハマってるが、多分指摘すると恥ずかしがるので誰も口にしない。目の保養になるし。

 後で写真焼き増ししてタービンズ内で売りさばこうとか考えてるエーコは、すました顔で応えた。

 

「ジャンク屋があの人の実家だからねえ。一番教えやすかったんじゃない? それに阿頼耶識付けた人間に向いてる作業だろうし」

 

 多分現状みたいに上手くいかなくても、何とか食べていけるだけの仕事になるから教え込んだのだろうと見た。頭おかしいくせに妙なところでリアリストだと、感心しているのか呆れているのかよく分からない評価をエーコは下している。

 

「ま、ともかく仕事自体は問題なさそうね。艦船級のリアクターは、まだ引く手あまただろうし」

 

 GHの技術公開によってリアクターの製造技術自体は広まったが、まだ本格的に生産するノウハウを積み立てている最中だ。新規製造のリアクター、それを搭載した船舶が民間に出回るのはかなり先のことになる。出回りだしたとしてもそのコストが引き下げられるのはさらに先のことだ。それまでは大型リアクターのサルベージ事業が廃れることはないだろう。

 出回りだしたとしてもコストを低く抑えられるレストアリアクターの需要がなくなることはあるまい。リアクターの需要がなくなる頃には昭弘たちも技術を蓄積し、新たな事業に乗り出すことも出来るはずだ。もっとも一生かけてもレストアリアクターの需要がなくなるかどうか怪しいところではある。要するに当分この事業で食いっぱぐれることはない。

 それに――

 

「今稼げるうちに稼いで経験を積み上げれば、サルベージの需要がなくなっても他の事業に転換しやすい、か。あれで色々考えてるじゃない、昭弘」

 

 おぼろげながらではあるが先のことまで考えられるようになっている。アリアンロッドとの戦いが終わり余裕が出来てきたからだろう。昭弘だけでなく鉄華団の少年たちは未来を見据え歩き出しているようだ。

 

「もう少ししたら、良い甲斐性持ちになるね。嫁をもらえるくらいには」

 

 そう言ってエーコは、いたずらげに笑みを浮かべる。

 

「ね、昭弘とラフタがいつくっつくか、賭けない?」

 

 その台詞に、ブリッジに詰めている面子が乗った。

 

「半年以内に100」

「早すぎるって。2年に150」

「甘いね、結構引っ張ると見た。5年に100」

 

 キャイキャイと騒ぐ面子に、アジーは呆れたような様子でため息をはいた。

 

「だからあんまり人をおもちゃにするんじゃないって。……3年以内に200」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変わったところもあれば変わらないところもある。

 

「しばらくはドンパチもねえだろうが……その分作業用のMS、MWの整備がよそからも回ってきやがる」

「整備事業でも立ち上げてみますか? GHとテイワズ以外ならここが一番技術を持っているでしょうし」

 

 格納庫で作業の間に言葉を交わす雪之丞とメリビット。恋人同士と言うよりは夫婦の貫禄があった。

 

「そいつはオルガの采配一つだろうが……しばらくは事業の拡大もなかろうさ。十二分に忙しすぎる」

「だと良いのですけれど。あの子たちは無茶をするから」

 

 少し沈んだ表情になるメリビット。雪之丞はその頭をぽんぽん、となでる。

 

「そう心配すんな。命を張る仕事は格段に少なくなるんだ。あいつらが過労で倒れない程度に見張ってりゃいい」

「本当、困った子供たちです」

 

 二人は笑い合う。何のかんの言っても、戦いとかけ離れた仕事が軌道に乗っているのは安堵している。子供たちの未来が少しでも良い物になればいい。彼らのスタンスはほとんど変わっていない。

 

「さて、あいつらに負けちゃいられねえ。続きだ続き」

「もう若くないんですから、雪之丞さんこそ無理しないでくださいね」

「おうさ、気を付けるとするぜ」

 

 ひらひらと手を振る雪之丞を見送るメリビット。

 整備班はちょっと砂を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GHが開示した技術は、リアクターなどの大規模なものだけではない。様々な遺失技術が限定的ではあるが公表され、各勢力はそれを解析し物にしようと研究を重ねる。

 そんな中でも、あまり力を入れられていない物はあった。あえてそれを研究しようとするのは変わり者と言えよう。

 

「まあ現状でも問題は無いと思う者は多いじゃろうし、今まで忌避されていた技術じゃ。深く研究しようと考えるのは儂くらいじゃろう」

「それ自慢になるんすか先生」

 

 新たに造られた病院兼研究施設。キシワダはその主として勤めることとなった。ついでにザックとデインが引きずり込まれた。

 彼が主に研究しているのは当然ながら阿頼耶識に関することだが、他のところが成人に施術できる阿頼耶識システムの研究開発を行っているのには目もくれず、『現状の阿頼耶識の施術成功率を引き上げる』事と、『同等以上の確率で安全に阿頼耶識の除去が行える技法の確立』。そして『阿頼耶識手術の失敗によって生じた障害の治療法』を研究開発していた。

 

「しかし地味というかなんというか……先生だったらもっとすごい阿頼耶識とかの開発もできるんじゃねえすか?」

 

 マッドがやるにしては地味というか真っ当というか真面目というか。ともかくキシワダらしくないように思える研究内容を疑問に思ってザックは問うた。

 

「ふん、なんか勘違いしておるようじゃがのう……そもそも儂が目指しているのは阿頼耶識が眼鏡や入れ歯のごとく『当たり前の拡張機能』として流布する事よ。その上で技術としての研鑽、発展を進めていければと、そう思うておる」

 

 GHの働きのせいで、阿頼耶識は禁忌として忌避されており、アンダーグランドで流布する物となっていた。だがキシワダはこのシステムを『使いこなせればこの上なく便利な物』と見ており、そしてまだまだ発展の余地があると考えていた。

 すぐに忌避感が取り払われるわけではないが、『容易く安全につけ外しが出来、何かあってもリカバリーが効く環境が整えば』、徐々に広まっていくだろうという手応えがある。そういった土台を作ることがまず先決だとキシワダは考え、阿頼耶識システムの安全性を向上させようとしているのだ。

 

「『誰でも危険無く簡単に恩恵を受けられる技術』。儂は阿頼耶識をそういう物にしたい。そしてその先……もっと便利な形、例えばピアスを介した接続型ではなく、非有線の接触型になれば使いやすくもなろうさ。まだまだ先のことになるじゃろうが、ゆくゆくはそういった方向で開発していきたいのう」

「一体何歳まで生きる気なんすか先生」

 

 老いてなお未来に夢を見る男。まともに見えるが実は大概狂っているその様子に、ザックは呆れるしかなかった。まあ下手をすれば自分たちより長生きしそうな気がするのは間違いないが。

 ところで、キシワダが研究しているのは阿頼耶識ばかりではない。その他のサイバネティクスや医療技術など、多岐にわたっている。GHから開示された技術の中、医療関係総ざらいといった感じでデータを集め解析、習得せんとしていた。

 そういった多岐にわたるデータの整理のため、鉄華団から何人か得手な人間をかり出していたのだが。

 

「うふふふふふふふふ……」

 

 かり出された人間の一人、ヤマギがモニターを見据え不気味な笑い声を上げている。

 

(な、なんですかヤマギさん、明らかにおかしいんですが)

(俺に聞くな俺は知らん)

(目を合わせるなよ。なんか知らんがアレはヤバい)

 

 怯えるデインが臨時で手伝ってるダンテとチャドに相談してるが、二人は触らぬ神になんとやらで、あらぬ方向を向いている。

 ヤマギが注視しているのは、再生治療や遺伝子チューニングなどを応用した『ほぼ完全な性転換技術』。多くは言わないが孕める。以上。

 

「うふふふふ待っててねシノうふふふふふ……」

 

 陰った眼窩にぎゅぴいんと光を点して、ヤマギは一心不乱にキーボードを叩き続けていた。

 こえーよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえっくしぃ!」

 

 晴れ渡った空に、豪快なくしゃみの音が響く。

 鉄華団の訓練場。多くの新人たちを前にして、シノは鼻をこすった。

 

「誰か噂してんのかぁ? ったく、モテる男はつれーぜ」

「また夜の店出禁になったからそれじゃねえすか?」

「なんで知ってるの誰から聞いたの」

 

 訓練の補佐をするライドが茶々を入れる。鉄華団の基礎訓練はシノが教官役として定着しているが、時折自主鍛錬を兼ねて他の団員たちが手伝いに赴く。今回はライドとビトーの番であった。

 鉄華団を取り巻く環境は変わったが、入団してきた団員たちが最初に行うことは変わらない。

 

「んじゃ、気を取り直してっと。……お前らにははこれからしばらく、体力作りをやってもらう! まずは走り込み、そして各種トレーニングを一通りやってから、各自の疲労具合とか見てそれぞれ個別にトレーニングメニューを組む! この基礎訓練で最初の適正とか図るから、戦闘班目指してるヤツは気合い入れろよ!」

 

 活を入れるシノ。そこで新人の一人がおずおずと手を上げた。

 

「あ、あの~、俺、事務仕事希望なんですけど……」

 

 実に珍しい、かつ貴重な人材だった。ライドとビトーは密かにガッツポーズし、絶対確保せなと勢い込んでいるが、シノは構わず告げた。

 

「何をするにせよ、体力はいるからな。最初はみんなと同じ事をやってもらう。安心しろ、どんだけ出来るか見て、そんで希望の仕事に合わせてトレーニングと訓練のメニューを組む。体力付けるだけじゃなく、机仕事のも、な」

 

 にッと笑って、シノは声を張り上げた。

 

「戦闘班希望のヤツも戦う訓練だけじゃねえ。希望すりゃ事務仕事や、その他の資格免許の勉強も出来る! やりたいことがあるんならばしばし言ってくれ! いっぱしになるまで俺らが責任もって鍛えてやる!」

 

 おお、と幾人かがやる気のありそうな反応を見せた。恐らくは手っ取り早く稼げそうな戦闘班で稼いでから、他の道に進もうと考えていた、と言ったところか。随分とやる気のありそうなヤツもいるじゃねえかと、シノは内心でほくそ笑んでから、ぱん、と手を叩く。

 

「とにもかくにも、まずは走るぞ! 一に体力二に体力! 三つ以降は走り抜いてからだ!」

 

 ランニングが開始される。新人たちの先頭に立って、追いすがれる程度の速度を保ちつつ駆けるシノ。最後尾からついて行くライドとビトーはその様子を見ながら言葉を交わす。

 

「シノさんも結構張り切ってるよなあ」

「張り切りすぎてやり過ぎる……って心配もなさそうだ。新人にきっちり気を配ってるし」

「そういう気の配り方を女の前ですりゃモテんのに」

「気ぃ抜くと調子に乗るからだろ。ありゃもう治らねえ」

 

 走る彼らの足取りは軽い。足掻いて、倒れて、それでも這い上がって走り続けてきた彼らは、試行錯誤しながらも人を導き育てられるくらいには成長した。

 彼らは走って行く。これまでよりはペースを落として。それでもしっかりと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち上がったばかりの暫定自治機構であるが、地球の経済圏や様々な資本の後押しを受け、ハーフメタル採掘権の管理をはじめとする大規模な公共事業に着手している。

 その中の一つ、クーデリアが最も推していた火星再開発事業は、鉄華団の協力を得て開始された。 

 火星極冠近く。遠くに氷の平原を臨む辺境の地にて、大地に轟音が響く。

 MSの両腕が振り下ろされ、手に持つ得物が大地を砕いた。それは巨大なツルハシ。MSサイズであつらえられたそれを用いて大地を拓き、道筋を作る。火星再開発の初期計画、極冠から各所に水資源を行き渡らせるために運河を築く。その建設作業にMSを導入しているのだ。

 とはいっても、いきなり本格的な施工を始めたわけではない。何しろ大規模な工事だ、それをいきなり築き上げるノウハウなど鉄華団はおろか火星のどのような勢力も持ってはいなかった。

 地球から関連技術を持つ人間を招くと言う話もあるが、さすがに遠方過ぎて難航しているらしい。それに地球とは環境の違う火星でどれ位違いがあるのか、それがどれだけ影響を及ぼすのか、そういった不安要素はいくらでもあった。

 ゆえにまず試しで小規模な運河と、そこから水を流入する農地を整備し、技術の蓄積と問題点の洗い出しを図ることにしたのだ。

 元々鉄華団にはCGS時代からMWで陣地を築くノウハウはあった。そして火星にも大規模ではないが潅漑工事の経験を持つ者はいる。それにMSを導入すれば、人が行うような細かいことを大規模で再現ことが出来る。前例のないやり方でもあることだし、一から試行錯誤で技術を組み上げて行く方が、地球の技術を応用するより効率的なのでは。そのような意見もあり試行が開始された。

 MSの作業を指揮し率先してツルハシを振るっているのは三日月のバルバトス。CGSや農作業で培った経験を元に、迷い無く作業を進めていく。

 

「深さはこれくらい? ……分かった。掘削した土を運び出してMSで踏み固めるから水平出して。その後でMWを入れてみよう」

 

 技術者たちと連絡を取り合い、細かく作業を切り替えながら様子を見る。大まかなところはMSで出来るが、精度を必要とする作業や仕上げは人の手やMWを入れる必要があった。

 手探りで、少しずつ。先の見えない作業ではあったが、従事している者たちは気力に満ちあふれ、笑顔すら浮かべている者もいる。己の力で土地を拓き、未来を拓く。それを実感し、希望を抱いている。自分たちの手で火星の将来を作っていくのが楽しい。そういった心境なのだろう。

 その様子を、SPを引き連れたクーデリアは見ている。

 忙しい最中ではあったが、この計画は彼女自身が発案し、推したものだ。責任者として現場は見ておかなければならないと、時間を作って訪れたのだ。

 

「順調に見えますね」

「うん、今のところ大きな問題はないみたい。この辺りは土壌が硬いからしっかりした溝が掘れるんだって。その分農地にするには手間がかかりそうだって、三日月言ってた」

 

 エプロンを着けたアトラが、工事の状況を簡単に説明した。少しずつだが確かに技術が上がっていると、三日月たちは手応えを感じているようだ。

 そのような説明を聞き、一通り視察してから関係者たちと昼食を共にする。クーデリア手ずから配膳を手伝い、技術者たちは恐縮しまくっていたが、三日月たちは慣れた物だ。思い思いに彼女の周りで腰掛け、話に花を咲かせている。

 

「極冠部に試設するリアクターの手はずが整いました。昭弘たちがサルベージした物を回してもらったのですが、まずはそれで極冠の氷をどれだけ処理できるか、ですね」

「うん、聞いてる。そっちには別口で氷を砕いたり運んだりするスタッフが要るね。うちから回すか、改めて雇うか、オルガと相談しなきゃ」

 

 言葉を交わしながらクーデリアは思う。三日月も少し変わった、と。

 これまで彼は、己の考えを積極的に話すことは少なかった。しかし今は、自分の思ったことを他者に伝え、コミュニケーションをとろうとしているように見える。考え方が変わったのではない、人との接し方を変え始めたのだ。

  それは彼の世界が変わってきたからだろう。オルガを中心とした鉄華団だけの世界から、多くのものが関わる世界へと踏み出した。それを理解し成長しているのだと。いや、もしかしたらこのように己の思いを拙いながらも一生懸命に話す姿こそが、三日月の『本当の姿』なのかもしれない。クーデリアはそのようにも感じていた。

 この少年がもっと色々なことを感じて、もっと色々な表情を見せられるようになって欲しい。そう願う。そのためには、三日月が穏やかに暮らせるような環境が、世界が必要だと思う。戦いに明け暮れる必要の無い世界。そういう物を作っていくのが己の使命なのだと。

 だが焦る必要は無い。それこそ作物を育てるように、少しずつ、一歩一歩。手の届くところから世界を変えていく。クーデリアはそう心得ている。

 

「……じゃあいきなり何か食えるモン作るんじゃないんすね?」

 

 三日月と共に食事を取っていたハッシュの言葉。それに応える三日月は。

 

「うん、最初は土を耕起して水を流す。それを繰り返すと土がこなれてくるらしい。そこから肥料や有機物を投入して、また耕起してから土の毒素を吸い上げる植物を植える。土の成分が安定してから本格的な畑作りを始めるんだ。多分1年2年の仕事じゃないな」

「やっぱ農業って、手間っすねえ」

「楽な仕事なんて早々無いさ。それに弾が飛んでこないだけ、農業の方が万倍はマシだろ?」

「……言われてみりゃあ、確かに」

 

 ど、と三日月以外の少年たちが笑う。クーデリアが見たいと望んでいた光景が、そこにはあった。三日月が表情を変えないのは、少し残念ではあったが。

 そこで、アトラが口を挟む。

 

「ねえ三日月、その毒を吸い上げる植物って、何を植えるか決まっているの?」

「ん? いや、いくつか種類はあるみたいだけど、まだどれにするか迷っているところ」

「じゃあさ、お花の咲くのにしようよ!」

 

 突飛なことを主張する。きょとんとする少年たちに対し、アトラは力説した。

 

「折角植えるんなら、ただ生やしてるだけじゃ勿体ないよ! それに畑いっぱいに咲く花なんて火星じゃ見られる事なんてないし! きっとすっごいきれいだよ!」

 

 それこそひまわりのような笑顔で両手を広げるアトラ。その背後に、満面の花畑が見えるような気がした。

 と、ぽそりと三日月が呟く。

 

「……いいね、それ」

 

 彼もまた、広がる花畑を幻視したのか、その顔は――

 『優しく、微笑んでいた』。

 しん、と場が静まりかえる。目を丸くして皆が注視していることに気づいた三日月は、いつもの顔に戻って問う。

 

「なに? どうしたの」

 

 信じられない物を見た、と言った様子の少年たち。アトラは震える声で三日月に言う。

 

「み、三日月……今、笑ってたよね?」

 

 言われてきょとんと目を丸くする。

 

「……俺、笑ってた?」

「笑ってたよ!? え!? なに初めて見た!」

 

 ぺたぺたと自分の顔を触る三日月。興奮状態で騒ぐアトラ。虚を突かれ唖然としていたクーデリアもまた、我知らず笑みを浮かべる。

 アトラはすごいと、そう思う。突飛で、それでいて夢のある発想もそうだが、その発想で三日月の笑顔を引き出して見せた。自分には簡単にできないことだ。それは小さな事だけど、きっと大切な、大事なことだと感じる。

 ……まあその、一緒に三日月のお嫁さんになろうとか子供たくさん産もうとか、そういった突飛なことも提案してくれたりするのだが決していやというわけでなく心の準備とか育児環境とか色々と考えなきゃいけないことがあるわけで諸々クリアされればばっちこいというかええなんかそういう感じで。

 なんか勝手に熱暴走を起こして茹で上がるクーデリア。それをよそにアトラが三日月に詰め寄ってる。

 

「もう一回、もう一回笑って見せて!」

「えと……どうしたら良いの?」

「ハッシュ君! 手本!」

「は? え、その……ゲ~ッハッハッハ!」

「それランディさんの真似でしょやっちゃいけないヤツでしょ!」

「……げ~っはっはっは?」

「真似しちゃダメぇ!」

 

 なんかカオスになってきた。しばらく収拾がつきそうにない。

 しかし内容はともかく、その光景は少年少女たちの年相応であろう、優しく温かい物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとまず纏まった草稿に目を通していたオルガは、ふう、と息をはく。

 

「特に問題はねえ、と思う。自分たちのやってることだとは思えないような、面白い文章だ。文才ってのはこういうのを言うのかね」

「お褒めにあずかり恐悦至極……と言いたいところですけれど、まだまだ未熟な物ですよ。元の題材が良かったからこそです」

 

 謙遜しながらも、えへんと豊かな胸を張ってみせるアヤ。己の未熟さはともかく、人心を引く書き物は出来たという自負がある。

 

「でも大分調子が良いようですね。火星の発展、青写真が見えてきたのでは?」

 

 いたずらっぽく言うアヤに対し、オルガはまだまださとかぶりを振った。

 

「道筋が見えて来たってだけだ。そも今作ろうとしている運河は計画の前段階。本格的な大規模リアクターの建造はまだまだ先のことだし、オービタルリングについちゃ未だ絵に描いた餅だよ」

 

 ひょっとしたら俺たちが生きてるうちには終わらねえかも知れないなあと、オルガは遠い目になる。自分で言ったことだが、第六経済圏などとよくもまあ大風呂敷を広げた物だ。生涯をかけて悔いは無い、と思える大風呂敷ではあるが。

 

「ともかく、これで今までのことは纏まったわけだが、この記事はどうするんだ? もう匿名でネットに上げる必要も無いよな」

「ええ、ですからどこかに持ち込んで、本にまとめられたらな~って。伝を使って出版できれば良いんですけど、上手くいかなかったら自費出版でも良いか、と」

 

 そう言ってアヤは、片目を瞑って人差し指を立てる。

 

「題名は、【鉄血のオルフェンズ】なんてどうですかね。で、これから先の続編は【希望の花】、とか」

「おいおい、まだここに居座る気なのかよ」

「ええ、一生をかけてもいい価値が、あなたの側にはあると思っていますから」

 

 呆れた様子のオルガ。彼には済まして答えるアヤの内心なんか見通せるはずもない。気がついたら外堀が完全に埋められている、なんてことにならなければ良いが。

 

「……まあ、好きにしてくれりゃいいさ。あんまり派手なことをしなけりゃな」

「ん? 例えば格好良い台詞を言っているところを生配信するとか?」

「それやめてホントやめて」

 

 思わずキャラクターを崩して止めに入るオルガ。アリアンロッドとの決戦のおりぶちかました演説。それが全世界に配信されたおかげで、彼は一躍有名人となった。何かとおりにつけ話題にされ、本人としては穴があったら入りたいどころかブラックホールに閉じこもりたいような心境になることが時折ある。

 しかし、かの演説が多くの人間に感銘を与えたのは間違いなく、そしてそのおかげで様々な事業の話が進みやすくなったという事実もある。だから関係者や取引相手から演説の話が出るのをオルガは顔から火が出る思いで耐えていた。そういうのがこれ以上増えるのは勘弁して欲しい。

 

「格好良かったのに。……はいはい許可なくそう言うことはしませんから、そんな恨みがましい目で見ないでください」

 

 嫌われたくはありませんからね~と、アヤは冗談めかして言う。いまいち信用できないなあその辺りはと、オルガはため息をはくしかなかった。どうにも困った人物だが、嫌いになれないくらいには絆されているのだと、自分で気づいているのかいないのか。

 と、壁に掛けてある時計に目をやったオルガは、「そろそろ時間か」と話を切り上げて席を立つ。

 

「もうそんな時間ですか。……いなくなると分かれば、妙に寂しい物ですね」

「いつかか来る日だとは分かっていたんだが、な。どうにも落ち着かないモンだ」

 

 片目を瞑り頭をかくオルガ。ひとつ息を吐いてから、しゃんと背中を伸ばし前を向く。

 

「湿っぽい雰囲気漂わせても仕方がねえ。しっかりと見送ってやるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団本部の正門前。普段は各所に散っている団員たちだが、今日この日ばかりは地球組を除く全員が勢揃いしていた。

『契約が切れ、鉄華団を去るランディを見送るため』である。

 これまで再三契約を更新し居座っていたランディだったが、鉄華団がアリアンロッドとの戦いを終え火星再開発事業に着手した頃合いを見計らって、契約を更新しない意向を示した。

 

「もう俺のやれることは全部お前ら自身で回せるだろうからな。これ以上居座ったらただの穀潰しになっちまう」

 

 仕込めることは全て仕込み、そして相応のレベルになった。己が教えるべき事は最早無いと、彼はそう主張する。

 正直引き留めたかった。まだまだ教えて欲しいことは山ほどある。少年たちは振り回されつつも、彼を慕っていることには違いない。それだけの恩があった。

 同時に引き留めても止まらないだろうという確信がある。そういう人間だと言うことはいやというほど分かっていた。

 ならば胸張って堂々と見送ろう。ランディがそれを望むかどうかは知らないが、自分たちの『けじめ』だ。

 

「また大仰にしてくれるな」

「それだけのことだってことさ。アンタが俺たちにしてくれたのはな」

 

 荷物の入ったバッグを肩にかけたランディが片眉を動かす。オルガは頬をかきながら、どこか照れくさそうに言葉を紡いだ。

 

「……教官、アンタには感謝してる。箸にも棒にもかからねえガキだった俺たちを、ここまで鍛えてくれた。もしアンタがいなかったら、俺たちはどこかで野垂れ死にしていたかも知れねえ」

 

 ランディはただ仕事のやり方や戦い方を教えてくれたのではない。人との接し方、世の中の渡り方、大人と上手く付き合う方法。そういった様々なことを学ばせてくれた。だからこそこの結果がある。いくら感謝しても足らないと思う。

 金銭や完璧に仕上げ直したラーズグリーズ、その他諸々渡せるだけの物理的な礼は渡した。後はいくら言葉で言っても蛇足ではある。しかしながらせめて、全身全霊の感謝の意は述べておくべきだ。オルガは居住まいを正し、直立不動で声を張り上げた。

 

「鉄華団総員、傾注!」

 

 ざ、と団員たちがオルガに倣い整列する。そして。

 

「ランディール・マーカス教官に、礼っ!」

『ありがとうございましたっ!』

 

 一斉に、頭を下げる。ランディは目を丸くしてから――

 

「……はっ、最高だよ、お前ら」

 

 いつものいやらしいものではない、邪気のない笑顔を浮かべる。

 頭を上げた少年たちは、次々と彼に声をかけた。

 

「ししょー! 体には気を付けてくださいよ!」

「妙なところでくたばるんじゃねーぞ」

 

 ライドやビトーをはじめとする年少組。

 

「船が欲しかったらいつでも言ってくれ。良いリアクターを都合させてもらう」

 

 昭弘たちサルベージ組。

 

「たまにゃ顔出してくれよ。訓練の成果ってのも見てもらいてえからな」

「おっと、ブートキャンプは勘弁な」

 

 肩を組んだシノとユージン。シノの傍らに隠れるようにして、ヤマギが黙礼している。

 

「傭兵を続けるんだったら、また僕らと関わり合いになるかも知れませんね。そのときはよろしくお願いします」

 

 ビスケットとダンテ、チャドが揃って頭を下げた。

 

「今度来たときは、美味い野菜をごちそうするよ」

 

 うっすらとだが笑みを浮かべて三日月が言う。それに「期待してるぜ」と応えてから、ランディはオルガに向き直った。

 

「じゃあな団長、達者でやれよ」

「ああ、アンタもな」

 

 ごつ、と拳と拳が打ち合わされる。そうしてランディは後ろ髪引かれる様子もなく身を翻した。

 歓声が響く中、背中越しにひらひらと手を振りつつ男は往く。その背中を見送りながら、オルガの隣に立つアヤは口を開いた。

 

「行っちゃいましたねえ」

「ああ。人と別れるのは初めてじゃねえが、やっぱりどうにも寂しいもんだ」

 

 頭をかくオルガ。アヤの反対側に立つ三日月は、ランディの背中に視線を向けたまま言葉を放つ。

 

「また会えるよ。死に別れてるわけじゃないんだ、会おうと思えばいつでも、ね」

「そうか……そうだな。俺たちは生きてるんだ。生きてりゃいつかは道が交わることもあるだろうさ」

 

 穏やかな笑みを浮かべるオルガ。その顔を満足げに見てから、アヤはランディの背中にカメラを向けた。

 ぱしゃり、とシャッター音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『男と、少年たちの物語はここでひとまず幕を閉じる。

 しかし、その歩みは止まらない。彼らが前を向く限り、彼らが停滞を選択しない限り。

 彼らは進んでいく。まだ見ぬ未来に向かって。

 その先に希望が花開いていることを、私は切に願う』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のえぬじぃ……じゃなくて、多分エンディングテーマとスタッフロールが流れ終わってからの話。

 

 

 

 

 

 

 荒野を進むランディの足が止まった。

 

「……で、お前さんなんでついてくんの」

 

 頭だけ振り返れば、そこには動きやすい格好でボストンバッグ一つだけを持ったフミタンの姿があった。

 彼女はいつも通りの表情を取り繕って、宣う。

 

「お嬢様にはお暇をいただきました。ノブリス氏を挑発して裏切った形になったので、火星にとどまるのは危険かと思いまして。落ち目とはいえ彼はまだそれなりの勢力を保っています。報復行動に出る可能性を考慮すれば、お嬢様に危機が及ぶかも知れませんので」

 

 ぶっちゃけ建前である。鉄華団やテイワズ、その他各勢力から警護の人員が送り込まれているクーデリアの周囲は、下手な国家元首よりもガチガチの警備体制が整っている。彼女の側を離れる方がむしろ危険であった。

 

「それで何で俺んとこに来るのか、そこが分からない」

「あら、好き好んであなたにちょっかいを出す人間は大概返り討ちにされるでしょう? 世界で最強の『虫除け』だと思いますけれど」

 

 えらい言い様であるが大体合っている。しかし好き好んでランディの側にいようとするフミタンもかなり道を誤っているような気がするが。

 分かっているのかいないのか。いや分かっていても態度変わらないだろうランディは、呆れたような様子で言う。

 

「お前さん、大分図太くなったなあ」

「誰かさんのおかげです。ですので責任は取っていただかないと」

「……ま、色々と芸達者な人間がいれば、俺も少しゃ楽できるか。ついてくんなら好きにしな」

 

 言って歩き出す。それを追うフミタンは、ランディに問うた。

 

「それで、これからどうするのです? 世界は平穏に向かっていますから、傭兵の仕事は減るのでは」

「そうでもねえさ。火星や圏外圏、経済圏の手が届くところは落ち着いてくるだろうが、『それ以外』はむしろ騒がしくなる」

 

 GHはたしかに腐敗していたが、それでも世界を管理してきた。その影響力が低下すれば押さえつけられていた勢力がうごめき始める。裏社会や辺境では政治的にも物理的にも抗争が激しさを増すだろう。そして各勢力もそれとは無関係ではいられない。

 ランディは不敵に笑んだ。

 

「まだまだこの世界は『遊べる』ぜ」

 

 どうしようもないわこの人。呆れるフミタンだが、自分の顔が小さく笑みを浮かべているとは気づいていない。

 

「まずは月か、あの辺りはタントテンポがなんか面倒抱えているらしいからな」

「金星の方も何やら不穏な気配があるようですが……」

 

 男と女は歩いて行く。その足取りに迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は平穏を目指しながらも、その裏で争いは続いていく。

 そしていくつかの闘争の最中、炎渦巻く鉄火場にて、濃紺のMSの姿を確かに見た者がいるという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  完っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はいお待たせしました。最終話後編、やっとの事でお届けです。
 いつもより時間がかかった? いつもの倍くらい話があんだよ! ということで今回大増量。話の切りどころがなかったんですよう。
 ともかく出来るだけのキャラを出して話を纏めたかったのでこのようなことに。やはり最後は笑顔で〆、にしたかった。これが捻れ骨子式最終話じゃァ! いかがでしたでしょうか。

 これで本編は終了となります。あとは2期に出てきたオリキャラの紹介と、総合的な後書きという名の言い訳ですかね。短編とかも書ければかきたいけれど、そんな余裕があるのやら。
 あと怒濤の誤字修正。誤字を報告してくださった皆様、大変お待たせして申し訳ありません。後回しにしていましたがゴリゴリ修正していく予定ですのでもうしばらくのご辛抱を。

 それではこの辺りでひとまずの幕とさせていただきます。長い間、ありがとうございました。
 
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