ハンマーヘッドのブリッジにて、名瀬はある通信を受けていた。
モニターに映っているのは、艦長席に埋まっている――と表現したくなるほどの――肥満体な男と、その傍らの気持ち悪いメイクをしたマッチョ。宇宙海賊ブルワーズの首領【ブルック・カバヤン】と、組織のナンバー2【クダル・カデル】である。
彼らは名瀬に対し、クーデリアの身柄の引き渡しを要求してきた。
「テイワズの下でいい気になっているようだが、こっちにもでかいバックがあるんでなあ」
などとブルックは自信満々であったが、当然名瀬は彼らの要求を蹴り、交渉とも言えない会話は打ち切られる。
「わざわざ待ちかまえてるって教えてくれるとは、サービス旺盛だな」
くく、と笑みを漏らしながら名瀬は言う。確かに戦艦2隻に中隊規模を越えるMSの数は脅威ではある。が、種が割れているのであれば打つ手はあった。
「そんで、その弟ってのを助けなきゃならないってんだな? となれば全力で潰しまくるってわけにもいかないか」
「すいません、ご面倒をかけます」
居合わせたオルガが頭を下げるが、名瀬は気にするなと返した。
「だがどうしても、ってなると手加減は出来ない。分かってるな?」
「昭弘もそれは覚悟の上です。優先しなきゃいけないことを、間違えるつもりはありません」
「ならいい。で、こっちも考えてるが、お前も無策ってわけじゃないんだろ、オルガ」
こうして、ブルワーズとの激突は決定づけられる。しかし。
「? どうしたリボン付き」
やはりブリッジに居合わせたランディの様子に違和感を覚え、名瀬は彼に声をかけた。 ランディは、腕組みしてなんだか妙に渋い顔してる。
「……真正面から宣戦布告とか、なんなのあいつら馬鹿なの? おまけに簡単にバック匂わすとか、世の中ナメてんのいたぶり尽くしてほしいの?」
「「いやいや適度なところでやめてさしあげて」」
名瀬とオルガは声を揃えてランディを止めにかかる。放っておいたら勝手にブルワーズ壊滅してくれるかもだが、多分見てたら心臓に悪いレベルの酷い事になるだろう。確証はないが確信はあった。
と、いきなりランディが表情を元に戻す。
「まあかなり本気の混ざった冗談はさておき、これではっきりしたな」
「なにがだランディさん?」
オルガの問いに、ランディはこう答えた。
「やつらのバックさ。お嬢さんの身柄を欲しがってる奴らなんぞ、一つしかねえだろ」
「……ギャラルホルン!」
「裏家業にも手が伸びてる、ってこった。行く先々でちょっかい出してくんぞこりゃ」
「そこまでして……」
オルガにはまだ政治的な話はよく分からない。ただ火星の独立が面白くないから邪魔をする程度のことではないのは理解できるが、法の番人が自ら法を犯してまで止めねばならぬほどのことなのか。いや、そういったことは前々からあったのかも知れない。しかし火星からこっち、彼らは形振り構っていないように思える。クーデリアは、『そんなに悪いことをしているのか』? どう考えてもそうは思えなかった。
自分でもよく分からないが、なにかこう胸にもやりとするいやな感覚抱えるオルガは小さく唸った。その様子を見て、名瀬はくすりと笑みを零す。
「ま、連中にも都合があるってことだ。だがそいつはこっちにゃ関係ない。やるべき事をやる、だろ?」
「は、はい」
気にはなるが、いつまでもそれに拘っているわけにもいかない。オルガは気持ちを切り替えて名瀬らとともに策を練る。
デブリ帯で待ちかまえているブルワーズに対し、長距離巡航が可能な百里と、大型ブースターを兼ねた輸送用ユニット【クタン参型】を用いたバルバトス。そしてそれに便乗したシュヴァルベ・グレイズの3機による奇襲をかけイニシアチブを取る。その後ハンマーヘッドとイサリビの全戦力で追撃。それがオルガたちの立てた作戦であった。
それを実行する準備が、今急ピッチで進められている。
「……それでバルバトスなんだがな」
三日月と共に歳星に居残ってバルバトスの改修に従事していた雪之丞が、ランディに向かって言いにくそうに頭を掻く。
「結局コクピット周りも入れ替えて新規にして、マニュアルも使えるよう調整してもらったが、阿頼耶識を三日月に合わせたら他の人間に使えねえってのは変わらなかった。おまけにあいつ、マニュアルのセッティングもお前さんのに準じてやたらピーキーに仕上げさせやがったぞ」
「阿頼耶識は俺にゃよく分からねえから仕方ないが……マニュアルは、なんとか使えんこともない。俺はともかく他の連中鍛えまくらにゃいかんが」
「おいおいそっち方向に話行くのかよ」
ともかく現状では、バルバトスは三日月の専用機と言える。交代要員がいないのは少々きついが、それは後の課題として今はやれるようにやるだけだ。
「あと、マクマードの親分から追加の武装が送られてきた。なんでも太刀とかいうブレードなんだが」
「太刀……カタナソードか。高硬度レアアロイ製なら、使いようによっちゃあMSもぶった切るらしいけどな」
使いこなせればMS戦で有効な武器だが、そのためには相応の技術が必要となる。主にメイスをぶん回す戦い方をする三日月では、まだ使いこなすことは出来ないだろう。
「ま、積むだけ積んでおけばいいんじゃねえか? 一度使ってみれば相性ってのも分かるだろ」
「確かにメイスよりもウェイトバランスは取りやすしな。背中に背負わせとくぜ」
三日月がすでに一度使用して使いにくいなどと文句を言っている事などつゆ知らず、二人は作業を開始した。
そして作戦決行の時は訪れる。
デブリ帯の狂った重力場の影響で、高速で接近する3機のMSの発見は遅れた。泡を食ったブルワーズは急ぎ迎撃のためのMS部隊を出撃させる。
クダルが駆る濃緑の重装甲MS【ガンダム・グシオン】を筆頭に、同じく丸っこいデザインをした量産型MS【マン・ロディ】の部隊が続く。
その中で、ヒューマンデブリの少年【ビトー】は憤っていた。
彼らはブルワーズで消耗品として扱われ、生きるために最低限のものしか与えられず使い潰され死んでいく。そのような存在であった。そんな中で心のよりどころは同じヒューマンデブリの仲間達しかなく、中でもビトーは一層仲間思いである。先のグレイズを襲った戦いの時、バルバトスによって仲間の一人が殺された。それに対して怒り憤っているのであった。
「ペドロの仇を討ってやる!」
操縦桿を握る手にも力がこもる。そんな彼、いやブルワーズ全体に対し、突然広域のLCS通信が入る。
「ブルワーズのみんなァ~、ゥあ~そォ~ぶォ~!」
なんかとてつもなくヤバいの来た。
一瞬にして怒りの代わりに悪寒を覚えるビトーであった。
「ラフタ、お前さんは相手の艦に一撃離脱でプレッシャーをかけろ! 三日月は頭張ってるあのごっついガマガエルをやれ! 俺は残りの相手をやる!」
戯けた通信を入れた人間とは別人かと思わせるような鋭い指示を出し、ランディは己の機体をクタン参型から離脱させ、一気に加速し戦場へと向かう。
「勝手に仕切るな! もー!」
「一人でいけるの?」
文句を言いながらも指示に従うラフタ。クタン参型から機体を出した三日月は、バルバトスにメイスを担がせながら尋ねる。
「お前らじゃ手加減は難しいだろ? ここはおぢさんに任せな!」
にい、と凶悪な笑みを浮かべ、彼は獰猛にマン・ロディの部隊へと襲いかかる。
そして三日月は、クダルのグシオンと相対していた。
「奇襲とは味な真似してくれんじゃねえか! 小生意気なガキが、ぷちィって潰してやんよォ!」
独特のテンションで迫るクダル。彼が駆るグシオンの得物は巨大なハンマーだ。バルバトスのメイスよりさらに高い打撃力を持つが、その分重く取り回しが難しい。それを遠心力を利用して振り回し、バルバトスに向かって打ちかかる。
それを回避しながら、三日月はぼそりと呟いた。
「頭はこいつでいいんだろうけど……ガマガエルってなんだろ?」
戦闘中にもかかわらず、彼は非常にマイペースであった。と言うより、緊張して戦う相手ではないと見ている。
「うん、機体もリアクターの調子も悪くない。なによりこいつ、『トロい』」
阿頼耶識からの感覚。同時に操縦桿を通じての感触が機体の状態を知らしめていた。以前の調整不足の時とは比べものにならないほど出力も反応も向上している。そしてタービンズとの合流からこっち、暇を見ては鍛錬とランディ謹製シミュレーションに明け暮れていた三日月の技量も、相応に上がっていた。そんな彼の目から見るとグシオンは、「腕は悪くないけど機体の動きが遅く鈍い」という評価になる。
はっきり言って倒せない相手ではない。
「ま、こいつには手加減しなくて良いみたいだし」
大振りのハンマーをするりと回避して、三日月はメイスを思いっきりグシオンに向かって叩き込んだ。
ハンマーヘッドとイサリビがはせ参じ、戦場はさらに混迷を極める。
というか、ほぼ一方的にブルワーズが翻弄されていた。勿論原因はこの男である。
「ヒャッハー! 向かってくる奴は小僧だ! 逃げる奴は訓練された小僧だ!」
「なんだよ! なんだよこいつなんで当たらないんだよォ! 阿頼耶識もな……ぐァっ!?」
縦横無尽に戦場を駆け、一方的にマン・ロディへと打撃を叩き込む。その攻撃は全てコクピットを外され、今のところ死人は一人も出ていない。しかしそのことが逆に、ヒューマンデブリ達の恐怖を煽っていた。
阿頼耶識を備える自分たちは高い反応速度と機体と一体化したような操縦技能があるはずだ。だというのにあの黒い機体を捕らえることが出来ない。数では圧倒的に有利なはずだ。相手は阿頼耶識を備えていないはずだ。だというのになぜ、なんで、一方的に嬲られる!? 歯牙にもかけられていないという事実が、無力感が、徐々に心を犯していった。
種明かしと言うほどのものではないが、ランディが圧倒的な強さを見せているのには理由がある。
まず第一に、ランディはマン・ロディのスペックを『ほぼ全て見切っている』。ジャンク屋で生まれ、MWやMSの実物をオモチャにしてシミュレーターをゲーム代わりに育った彼は、MSに造詣が深いどころか一見しただけで大体の性能が分かるほどだ。例え阿頼耶識を備えていたとしても『その能力は機体のスペックを決して超えない』。相手の動きなど、手に取るように予測できた。
さらにヒューマンデブリの少年達は、『まともな訓練を受けていない』。使い捨ての駒である彼らにそんなものを施すブルワーズではなく、結果彼らは『基本能力は高いが素人に毛が生えたほどの技量』しか持たないのだ。阿頼耶識と数に頼った拙い戦術では、ランディを捉えられるはずもなかった。
かてて加えて、このデブリ帯というシチュエーションは、『ランディの技術を最大限に発揮できる』。ただでさえ彼の蹴りつけ機動は本来の想定以上の動きを発揮させるものだ。その上で散乱するデブリという『足場』が無数にあるこの状況となれば、最早FCS(ファイヤーコントロールシステム)すらも追尾できない機動力をもたらし手が付けられない。
「さあさあさあさあ! 『生き延びたい奴』からかかってきな!」
とはいっても、欠点が全くないわけじゃなかった。
「……あいつ、なんか全然銃を使ってないね?」
ラフタの援護に回ったアジーが、それに気付いた。実の所、ランディの銃の腕前は人並み程度しかない。全くのど下手と言うわけではないが、高機動域で目標に当てられるほどのものではなかった。つまり彼は『自分の機動で銃が当てられない』という欠点を抱えているのだ。
彼が銃を使うのは、『絶対に当てられる状況下』にある時のみ。その上殺さないように手加減しなければならないとなれば、現状で銃はデッドウェイト以外の何者でもなかった。もはや万が一の時のためのお守りと同等である。まあ銃を使わずとも圧倒できるのだからいいのだろう。多分。
ともかく戦況は鉄華団とタービンズに有利であった。なにしろブルワーズが主力であるマン・ロディの部隊はランディ一人に押さえ込まれている。それを指揮するクダルは三日月のバルバトスと交戦中。残りの戦力はブルワーズの艦に集中することができた。ゆえに余裕が生じる。
「昭弘! 行け!」
機会を伺っていたオルガが吠える。それに応えて待機していたグレイズ改が、一直線に飛び出していく。
目標は一機のマン・ロディ。それを駆っていた昌弘は、『敵』の接近に気付き慌てて反応しようとして。
「この機体は!?」
誰が乗っているものかを思い出し、一瞬動きが止まる。その隙にグレイズ改は武器をかなぐり捨て、体当たりするようにマン・ロディに組み付いた。
そして通信機からずっと聞きたかった、しかし今一番聞きたくなかった声が響く。
「昌弘! 迎えに来たぞ!」
その様子は他のマン・ロディも確認していた。しかし救助に向かうことなど出来そうにない。
「昌弘! くそ、がァっ!?」
「はいはい邪魔すんなよ~。お前らはおぢさんが遊んでやっからな~」
ランディのシュヴァルベ・グレイズにボールのように蹴り飛ばされ、弄ばれる。連携することも隙を突くこともさせてくれない。さらに仲間が捕らえられたと言う事実が焦りを生み、それがまた自身の隙を大きくしてランディに付け入れられる。彼らは悪循環に陥っていた。
このまま何も邪魔がなければ……と言うときに限って、空気の読めない馬鹿が現れる。
「くそ! くそ! くそがああああ!! なんなんだよこいつはああああ!!」
バルバトスと交戦していたクダルのグシオンだ。見れば機体の各部の装甲が凹まされ、ぼろぼろにされている。その原因は。
「堅いししぶとい。面倒くさいな」
グシオンの後を追うバルバトス。泳ぐように宇宙を駆けるそれはグシオンの攻撃を完全に回避し、一方的にメイスを叩き込んでくる。そもデブリ対策で重装甲にしたところを大出力のスラスターを増設して無理矢理機動力を上げたグシオンとバルバトスでは小回りの効きが違う。その上三日月はデブリを利用し、見よう見まねとはいえランディの蹴りつけ機動をそれなりに再現していた。かなりの技量を持つとはいえ阿頼耶識もないクダルでは、とてもではないが反応しきれない。
結果彼は半ば逃げ回る状態に陥っていた。プライドが高く同時にヒステリックな彼にとって屈辱の極みである。ハンマーを振り回しても当たらない。内装火器はかすりもしない。今まで圧倒的な暴力で全てを屈服させてきたクダルは悪夢を見ているような気分だった。
「殺す殺す殺す殺す殺すううううううァ! 絶対にこいつ殺してやるううううううァ!!」
もはや半狂乱となって打開策を見出そうとするクダル。血走ったその目が、グレイズ改と組み合っているマン・ロディを捉えた。
昌弘を説得しようとする昭弘であったが。
「俺が、俺たちが死にそうな目に遭ってる最中にも! あんたは新しい家族を作って! ぬくぬくと過ごしていたんだろ!」
「違う! それは!」
鉄華団という新たな家族に迎え入れられた昭弘。思い出の家族に縋るしかなかった昌弘。その差が齟齬を生み、話はこじれていた。
元々昭弘は口べたな方で、説得などは不向きである。そんな彼の拙い言葉に昌弘は頑なになっていく一方だ。昌弘だって分かってはいる。同じヒューマンデブリだ、昭弘だって相応の地獄を見てきたのだと。だが心が追いつかない。妬ましさ、悔恨、怨み。様々な感情がぐるぐると渦を巻き、それは拒絶という形で現れる。
それでもこのまま根気よく続ければ……と言うところで。
「昌弘ォ! そいつそのまま捕まえてろおおお!!」
ハンマーを振りかぶったグシオンが迫る。昌弘ごとグレイズ改を葬り、三日月の動揺を誘う腹積もりであった。
しかし生憎ながら、『話はすでに歪んでいる』。
「邪魔すんなっつってんだろがこのイボガエル」
「おごォっ!?」
横合いからの衝撃がグシオンを吹っ飛ばす。やらかしたのはもうおなじみ、ランディのシュヴァルベ・グレイズだ。
続けて彼は援護か昌弘を救おうとしたのか寄ってきたマン・ロディを蹴っ飛ばしつつ跳び回る。そこにグシオンを追っていたバルバトスが飛び込んできた。
「ありがと。あいつしぶとくってさ」
「装甲分厚いもんな~。背中の得物で隙間狙ったらどうよ」
「これ使いにくいんだけど」
言いながらも素直にメイスを離し、三日月は背中の太刀を引き抜く。目にも止まらぬ高機動の最中、交わされる会話は妙にのんきなものに思えた。クダルには理解できない。こいつらは、こいつらは一体『なんなのだ』?
混乱と、自覚してはいないが恐怖に支配される中、クダルは喚くように吠えた。
「お前ら……お前ら楽しんでるだろ! 殺すのをよォ!!」
「……はあ? 何言ってんのこいつ?」
三日月は言葉通りの表情を見せる。そして。
くく、と笑い声が響いた。
「ああ……楽しんでいるさ。楽しんでいるとも」
その声は、総毛立つような怖気を感じさせる。
にい、と愉悦感満載のサディスティックな笑みを浮かべるランディ。
「お前みてえなどクズを、おちょくりコケにしいたぶり尽くしてなぶり殺しにするのは実に楽しい」
どきっぱりと言い切りやがったこの男。ほらみろ、周り一瞬戦い忘れてどん引いてんじゃねえか。
「おら隙見せてんじゃねえよ、もうちょっと楽しませやがれ!」
一瞬入ったギャグシーンすらも見逃さず、グシオンを蹴りつけるランディ。悪魔というかど鬼畜である。
さしものの三日月も、ぽかんとした表情を見せるが。
「……まあいいか」
いち早く我を取り戻して流し、グシオンを追う。結構大物かも知れない。
そんな状況も、この二人の目には入っていなかった。
「ヒューマンデブリなんかが! まともな生き方を! 家族を! そんなものを掴めるわけがないんだ!」
吠える昌弘。彼は猛っていた。猛りながら泣いていた。
怒りのままに、あるいはだだっ子のように、彼は吠え(泣き)続ける。
「ゴミのように死ぬんだよォ! 俺も! あんたも!」
「死なねえ!」
切り裂くように、昭弘の言葉が放たれる。
「俺は死なねえ! 死なねえし、お前も死なさねえ! 掴んだものを離さないためにも、お前に明日を見せるためにも! 俺は、俺たちは死ぬわけにはいかねえんだ!!」
野獣のような、魂の咆吼であった。
一瞬唖然とする昌弘であったが、すぐに憤怒が彼の心を塗りつぶす。
「んなわけねえだろうが! 死ぬんだよ俺たちは!」
怒りのまま機体を操り、無理矢理拘束を解いてグレイズ改を殴りつける。しかし強かにコクピット近辺へと衝撃を受けても、昭弘は怯まない。己は手を出さず、殴られるままに吠え続ける。
「死なねえ!」
「まだ言うか!」
再びがつんと衝撃。
「死なねえ!」
「死ぬんだ!」
がつん。
「死なねえ!」
「死ぬ!」
がつん。
「死なねえ!」
「死ねよ!」
がつん。
繰り返し拳が打ち込まれ、繰り返し言葉が交わされる。意地と意地の張り合い。そして恐らくは気付いていないだろうが、彼らにとって久々の『兄弟喧嘩』であった。
「お前らあああ! 俺を――」
「助けなんか来るわきゃねえだろぶわァ~か!」
クダルはすでに、哀れな贄でしかなかった。
逃げようとすればその行く先から蹴り飛ばされ、斬りつけられる。助けを求めようとすれば、その先の僚機が蹴り飛ばされてまた自分が斬りつけられその後に蹴り飛ばされる。
何も出来ない。いや、『なにもさせてくれない』。全ての行動が、事前に潰される。恐るべき牢獄に落とし込まれていた。
ランディからしてみればマン・ロディ部隊を押さえ込むついででしかなく、三日月からしてみれば太刀が使いにくくて有効打撃を叩き込めないだけなのであるが、そんなことが分かるはずもなかった。分かったところで何の慰めにもならないのだが。
ともかくクダルは足掻く。足掻いて足掻いて足掻き続けたつもりであった。
そんな幻想を、ランディは打ち砕いていく。
「駒にしてきたんだろ足蹴にしてきたんだろ踏みつけてきたんだろ? 助けようと思うかよそんなどクズをよォ!」
因果応報でしかないのだと、打撃と共に刻み込む。この言葉ですらついでだ。ランディにとってクダルとは『その程度の価値しかない』。遊べるオモチャ。足掻いて苦悶して絶望するところを指さして笑う存在でしかない。
三日月はもっと残酷だ。
「……うまいこといかないなあ」
彼にとってクダルの駆るグシオンは『据えもの斬りの藁束と同等の存在』でしかなかった。オルガの願いを叶え、共に往く。それ以外のことは些末。三日月は基本そう言う人間である。その課程の努力――『折角もらった太刀を、上手く使えるようになる』ための試し斬りの材料としか見ていない。
だからどれだけ喚こうが訴えようが、クダルの言葉など響かない。
「ん~、斬るのは後の課題としてだ。装甲の隙間からさくっとぶっ刺す感じでやってみな」
「やっぱそっちの方がいいか。……分かった。やってみる」
どこまでものんきに見えて。それ故に残酷さが際だつ。
「て、てめえらあ! どこまでもナメくさりやがってええええええ!!」
死にものぐるいでハンマーが振りかぶられる。
それも無駄に終わった。
どがりと無造作に太刀が振るわれる。それはグシオンの右手首に深々と食い込み、ハンマーを離させ彼方へ飛ばしていく。
「やっぱり斬れないや」
「おま、おま、お前ええええェええ!!」
唯一のよりどころと言っても良いハンマーを失ったクダルの言葉は、もはや意味を成さない。「うわうっざ」と嫌悪感を露わにする三日月であったが。
「まあいいや。こいつ死んでも良いヤツだし」
そう淡々と呟いて、するりとバルバトスをグシオンの懐に潜り込ませ、逆手に持った太刀を胸元装甲の隙間に突き込んだ。
「ぎィえああああああああああ!」
断末魔の声が響く。
停戦信号がブルワーズの艦から発せられた。
全面降伏。実質的な主力であるクダルが討たれ、ブルックの乗る艦が制圧されてしまったら彼らはもう抵抗は出来ない。ヒューマンデブリたちも次々と投降し、戦いは終わった。
そして。
……ごん。
「なんでだよ……なんで死なないんだよ……」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、昌弘は呻くように言う。
マン・ロディの拳はぐしゃぐしゃに潰れ、グレイズ改のコクピット周辺もボコボコに凹んでいる。
だが、それでも。
「……言ったろ、死なねえって」
各部がスパークし、警告灯が紅く照らす中。額から流血してる昭弘は荒い息の元、苦しいながらも笑って見せた。
ごん、と再び力無く装甲表面が殴られ……そこでマン・ロディの動きは止まった。
「うあ……」
涙で視界が見えない。溢れそうなものを必死で堪える中、昭弘の声が届く。
「『お帰り』、昌弘」
もう、堪えることは叶わない。
「あ……あああああああああああああああ!!」
昌弘は泣いた。
その声は、染み渡るように宇宙(そら)へと響き渡っていく。
※こんかいのえぬじい
「よし銃の腕前は勝った!!」(ガッポ)←メインキャラクター一同
「お前ら全員そこ並べ」(怒)
弱点があるとここぞとばかりに突かれるぞ! みんなも気を付けよう。
おわれよし。
オルフェンズ二期に足りないものそれはっ! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてなによりもっ!
爽快感。
だと思うのですよわてくしは捻れ骨子です。
さて今回は。
ランディさん意外な欠点。クダルいたぶられる。昌弘含めたマン・ロディ乗り全員生存。
の3本でお送り致しました。
どれもこれも予定通りではあるのです。特にランディさんの欠点はあまりにもチート過ぎるのはどうよと、リミッターをかける意味でも設定してみたわけなんですが……銃撃が致命打にならない鉄血世界ではあまり意味がないのではとさっき気が付きました。駄目じゃん俺。
それよりも何よりも本当鬼畜外道も良いところですなこの男。三日月さんもどん引き……かと思いきやなんか気があってるぞおい。もしかしたら鉄華団で一番順応してるかも。しゃらっとランディさんの技術学習してるし、やはりさすミカと言うことか。
そんなこんなで今回はこの辺でお開き。続いたら次回はブルワース編後始末とかじゃないでしょうか。