それはそうとクライン系のエネミーは動きがうざい。迫ってこなくなると自分から当たる必要があるんだけど、動きがあれだからなかなか接触できないんですよね。
え、空気撃ち? なにそれ美味しいの?
――身体が重い。総身を侵す毒もそうだが、式の悩みに気づけなかったという纏わりつく自責の念が鎖のように全身を縛り付けてくる。躊躇いの理由は分からないが、少なくとも式が悩みを抱えているのは確実だろう。
悩みとは、おそらく決戦でのことだろう。あの夜の式は寝付けが悪かったし、眠りの深い式が自分がいなくなっていることに気付いた――つまり途中で起きたことから余程のことのはずだ。それに内で溜め込むであろうタイプの式が外界に、自分に目を向けたということは、それは自分にも関係があるはずだ。本当なら自分に聞きたい――あるいは言いたい――ことがあるのだろう。
それをしないということは、まだ纏めきれていないからか、自分に気を遣ったからだろう。どちらにしろ、心の内に溜めこんでいるのは確かだ。
「大丈夫か? なんか、調子悪くないか?」
そしてそんな様子をおくびにも出さず、平素の振る舞いをしているのは、やはり先ほど思った通り自分に気を遣ってのことだろう。今もだが、最近やけに自分に心配してくれたのはそういう理由からなのか。何にしろ、式が弱音を吐いてないのに、自分が吐くわけにはいかない。
――いや、なんでもない。
「ならいいけど……」
いつも通りの振る舞いで、式に返事を返す。式はやや訝しんではいたが、宙に漂うエネミーを見つけると、すぐさまそちらに意識を集中させる。クラインの色違いといっていいエネミーの名は
ライダーとは比較にもならないくらい弱いが、それでも初見で的も小さく、多少は手古摺るかと思ったが式は三度ほど動き方を眺めるだけでメビウスの動きを見切ると、あっさりと両断して撃破してみせた。普段ならその見事な一撃に感嘆の息を洩らしていたであろうが、今の自分は素直に称賛できなかった。
自分の見解では式は、二度目で既にメビウスの動きを見抜いていたように見えた。だというのに、何故かさらに一度見に徹した。不自然な待ち。式の戸惑いが如実に表れた瞬間だった。
なるほど、確かにこれは重傷かもしれない。英霊との勝負では刹那の隙が勝敗を分ける。これではエネミーは兎も角、サーヴァントと戦うのは無理だ。
サーヴァントと戦闘にならないことを祈りながら進んでいく。そうしてしばらく歩いていくと、ふと話し声が聞こえた。大きな声ではないが、確かに聞こえることからすぐ近くにいるのだろう。
このアリーナに入れるのは二組。一組は自分たちだ。そしてもう一組は……。
式と一度顔を見合わせて声が聞こえる方角へと進んでいく。声の主は二人、ダンと彼のサーヴァントだ。先ほど廊下では見えなかったサーヴァントの姿も、今ははっきりと見ることができた。
彼のサーヴァントはやや煤けたように見えるオレンジの髪に、森を思わせるフードの付いた緑色の外套を羽織っていた。その姿を隠すような衣服から自分は思わずゲリラ兵をイメージした。戦闘法から考えても、間違いではないだろう。
「さっきの廊下に次いでまただな。情報でも零してもらうか」
好戦的な式が即座に戦闘を選ばなかったことに違和感を感じたが、今は気にするべきではない。集中するべきことは、情報に関することだろう。通路の先からの話し声に耳を向ける。壁が透明なので、決して見つからないため、這う様に身を屈め、呼吸を少なく、声を潜めて二人の口論に意識を集中させる。
「これはどういうことだ?」
開口一番、ダンが怒気を隠さずにそう詰め寄った。
「へ? どうもこうも。旦那を勝たせるために、結界を張ったんですが」
対して彼のサーヴァントは、飄々とした口ぶりで、何ら悪びれることなくそういってのけた。宝具の種類からある程度予想は付いていたが、その様子からあのサーヴァントが余程この手の工作に手慣れていることが窺える。
「決戦まで待ってるとか正気じゃねーし? 奴らが勝手におっちぬんなら、俺等も楽で来て万々歳でしょ」
「……誰が、そのような真似をしろと命じた。死肉を漁る禿鷹にも、一握りの矜持はあるのだぞ」
反省のない発言に、ダンの怒気が一段強くなる。どうにも作戦の方針、というより両者の
「イチイの毒はこの戦いには不要だ。決して使うなと命じたはずだが……どうにも、おまえには、誇りというものが欠落している」
「誇り、ねえ……。俺にそんなもん求められても困るんすよね。っていうか、それで勝てるんならいいですけど? ほーんと、誇りで敵が倒れてくれるならそりゃ最強だ!」
嘆息と、僅かな落胆と共に放たれたダンの言葉にも、サーヴァントは気にした様子は無く、軽い口調と嘲笑で策士としては真っ当な意見を言い放つ。
確かにそうなのだろう。結局のところ、理想にとっての最大の敵は現実であり、何より最終的には決闘という体裁にはなるが、これはあくまで戦争なのだ。彼の行いは卑劣なものだが、それ自体は決して間違いではないのだ。
「だが悪いね。俺ゃその域の達人じゃねえわけで。きちんと毒を盛って殺すリアリストなんすよ」
「……ふむ、なるほどな。条約違反。奇襲。裏切り。そう言った策に頼るのがお前の戦いか」
ダンの声のトーンが一段低くなる。その言葉には侮蔑も蔑みあったが、拒絶や否定は無かった。
――結界を張ったのはサーヴァントの独断、しかしダンに結界を解く気はない、か……。
「あいつも一応軍人って話だし、心象的なところはどうであれ、有効打ってことくらいは分かってるだろ」
「今更結界を解け、とはいわぬ。だが、次に信義にもとることがあった時は――」
「へいへい、分かってますよ」
「ならいいがな」
疑念の籠った視線を向けたまま、ダンとそのサーヴァントは退出した。二人の気配が完全に消えたところで無意識に服を払い、立ち上がる。
マスターとサーヴァントの不仲。マスター同士の実力差は如何ともしがたいが、これが自分たちにとって2回戦の鍵かもしれない。しかし――、
「一先ずあの樹を破壊するか。もう目の前だしな」
あちらにも鍵が――式の躊躇いがある。差し当たって行うべきことは、式の迷いを晴らすことだろう。
※※※
それから十数分、樹を破壊した後は探索もそこそこに打ち切って帰ることにした。順調ではあったが、迷いを抱えたままでは相手が例えエネミーとは言えど、見ている自分としては危なっかしく感じたからだ。
「あっ」
――っと。
マイルームへ帰ろうと数歩足を進め曲がり角を曲がると、ちょうど同じように曲がろうとしていた一人の少女とぶつかってしまった。不意をつかれたことで思わず倒れそうになったが、すぐ傍にいた式が支えてくれたことで何とか体勢を立て直す。見れば相手も同じようで、先ほどまではいなかった武人風のサーヴァントが受け止めていた。
――いきなりごめん。大丈夫?
「いえ、こちらこそ考え事をして……」
すぐさま謝罪をする。相手も自分と同様に謝罪を口にし――、
「あ……」
あ……。
互いの顔を確認した瞬間、示し合せたわけでもなく言葉が重なる。覚えがある、つい最近出会った少女だ。藤色の長い髪に、黒い礼服に制服を合わせたような衣装、そして淑やかな雰囲気――そう、浅上藤乃である。
※※※
(…………何この空気……)
積もりつつある苛立ちに似た感情を膨らせながら、静かに事の推移を見守りつつあるが、それもそろそろ限界を迎えそうだった。
「それで、足はもう大丈夫なの?」
「ええ、桜さんのおかげで。あの時は送って下さってありがとうございます」
あの後、彼はともかく浅上という礼園の女の方は積もる話があるようで、場所を廊下から食堂へと移動した。いつもより早めに探索に向かったこともあって、食堂の閉店時間まで結構な時間があった、が――。
「のう……、いつまで話すつもりだ。もう三時間だぞ。この調子ではアリーナも閉まるぞ」
「
私の隣りに座る武人のサーヴァントが退屈そうに欠伸を零しながら苦言を呈すが、すぐさま切って落とされる。サーヴァントを鍛えるのは当然として、相手の情報を手に入れることができるアリーナを逃すなど通常ありえないことだが、それが単なる楽観視や慢心に思えないのは彼女の実力が確かなものだからだろう。
魔術師としての腕はカスタムアバターであることから疑う余地はないだろう。そして肝心のサーヴァントの実力も、こうして隣りに座っている今、まさしく肌で感じ取っている。
すっと、横に座るサーヴァントに視線を向ける。
正体不明のこのサーヴァントは、凛のランサーや私が対峙したあの侍と同等、或いはそれ以上の実力を誇っていることが窺える。そしてそれは彼女が優勝候補に上がるほどの実力があるということでもある。
まあ、今はそんなことはともかく、彼女のサーヴァントが言ったようにもう三時間も経過しているのだ。時刻は九時をとうに過ぎている状態で、営業終了までもう三十分もないだろう。当初は決して少なく無かった群衆も、今となっては見る影もない。
その間ずっと彼女は喋り続けており、最初に持って来た紅茶には一度も口を付けていない。そしてそれにずっと付き合っていた白野も同様である。傍から見ているだけの私たちは既に飲み終えてしまい、私たちサーヴァントは大変暇なのだ。それはもう隣りのサーヴァントが欠伸を零したりするくらいには。
なお私はただ待つだけなら耐えられないわけでは無い。退屈な時間は礼園で多々あったことだ。今更この程度、苦にはならない。では、一体何が私を苛立たせているのかというと――、
(……近すぎでしょう。明らかに)
二人――岸波白野と、浅上藤乃の距離だ。彼女は笑顔で彼に寄りかかるようにして腕を組んで――というより抱きしめるようにしているのだ。それに対して彼は困ったように視線を迷わせるだけで、決して止めようとはしないのだ。ただそれだけなのに、なぜかひどく癪に障る。
傍から見れば二人は…………とても仲睦まじい関係に思えるだろう。事実、一部の逞しいマスター達は悔しそうに歯ぎしりをしながら二人を睨み、すれ違いざまに『リア充……いやセラ充爆発しろ』という呟きと舌打ちを零して去っていった。そのセラ充、という言葉の意味は分からないが、余人が羨ましがるほどに二人の空気は甘ったるいのだ。
そしてそんな空気を打ち切れるのは彼しかいないというのに、彼自身はただ普通にお喋りしているだけだ。時折気にしたようにこちらに視線を送っては来るが、彼女は目敏くそれに気づくと尚のこと距離を詰めていく。結果、二人の距離間は広がるどころか逆に縮まる始末。
自分の中の苛立ちに似た感情がさらに膨れ上がっていくのを感じる。恐らくは彼の煮え切らない態度の所為、なのだろう……。
再び視線が合った際に、ようやく彼も私の怒りを察したのか、時間を気にする素振りを見せ始め、申し訳なさそうに頬を掻きながら藤乃に別れの挨拶を告げ立ち上がろうとするが、
「ちょ、藤乃、さん? ……その、当たってるん、だけど……」
彼女はあろうことか、彼の腕を谷間で挟むようにして無理やりに抑えに来た。さすがに彼女自身、恥ずかしいことだと自覚しているのか、顔を真っ赤にして目を背けている。彼も紅潮しており、立ち上がることもできずその場で固まってしまう。
彼女の突然の行動に、思わず私たちも呆気にとられてしまう。しかし私は次の瞬間今まで以上に腹立たしい気分になる。さすがにそろそろ本気で我慢の限界で、いい加減私から切り出そうと腰を浮かせて――、
「い、いえこれは……、当ててるんです……」
――最後、蚊の鳴くような声を聴いてついに私の苛立ちが爆発した。荒々しく立ち上がり、彼の手を握ると乱暴に引っ張っていく。彼が突然のことに倒れそうになっていたが、今の私にそれを気遣う余裕は無く、振り返ることもせずに階段を上がっていった。
※※※
申し訳なさそうにこちらに頭を下げながら急速に遠ざかる白野を名残惜しげに眺めながら、藤乃は悲しげに目を伏せ、式を思い出して不機嫌そうに顔を顰める。
「あぁ……行ってしまいました。残念です……。それにしても、無粋な方……」
「わしにはお主の方が無粋に見えたがな」
「何か、言いましたか。ランサー?」
「なにも」
中華風の武人――ランサーの呟きに気づき、すぐさま冷たい視線を向ける。が、ランサーはそれを気にすることなく、何処吹く風と受け流す。
「それより早くアリーナへ行くとしようか」
「……ええ、そうですね」
ランサーの発言に賛同するように頭を振って、手前に置かれた紅茶に初めて口を付ける。そこで初めて喉の渇きを感じたのか、少し驚いたように眼を開くとカップの7分辺りまで注がれていた紅茶を一度で飲み干し、カップを再び元の位置に戻す。
そして残った3つの空いたカップを、もう一つの手付かずの紅茶を飲み干したランサーが足音も立てずに素早く返却口に返す。従者の心遣いに藤乃は短い言葉で謝辞を述べると立ちあがり、階段の方へと足を進める。
そして歩き始めて僅か数秒後、購買の電灯がふっ、と灯りを落とす。それにあら、と藤乃が言葉を零して端末の時刻表示を確認すると、其処にはちょうど購買の営業時間終了である『22:00』の表示があった。
「もうこんな時間ですか」
「だからわしはさっきから言ったであろう……」
示された時刻に藤乃は驚いたようで、再び同じ言葉を洩らし、ランサーはその藤乃の反応に思わず嘆息してしまう。
――恋は盲目、というがのう。まさかこやつがここまで変わるとは思わなんだわ。
ランサーが知る浅上藤乃とは、物静か物事に荒波を立てるような性格ではなく、普通の子になろうと、常に周りと同調するような少女だ。
そんな少女が、まさか自分から会話をするために誘う――というにはやや強引ではあったが――とは、限定的な状況下ではあるが十分に驚嘆に値するものであった。
個人的には背景になるという、愚痴の一つ二つは零したくなる展開であったものの、今回のことは、精々他者との逢瀬を楽しむことで周囲に溶け込み、自身の異常性を気にしなくなる程度でいいと思っていたランサーの期待を良い方向に裏切ってくれた。
弟子には異様なまでに厳しくしてきたが、子には優しくしてきた彼にとってこの変化は好ましく――同時に、悲しいものだった。
やや浮かれ気味の藤乃はともかく、ランサーはここが戦場であり、全てのマスターが敵であることを理解している。だから彼等もいずれ死ぬか、対峙する時が来ることを忘れていない。
生前善く学び、善く戦い、善く殺めたランサーは両儀式が濃厚な死の香りを引き連れていることを感じて取れた。運動能力こそ低いものの、技量や異常性も含んで力量を測れば、勝ち残る可能性は極めて高いと。それは遠くない未来、あの二人と相対することになるということでもある。無論、百戦錬磨の歴戦の闘士たるランサーには、まだ二十歳にも満たないひよっこ連中に負ける気などさらさらないし、躊躇などしない。
だが――藤乃はそうはいかない。恋した男と殺し合う。三文芝居のような展開だが、実際にあり得ることなのだ。もしそうなった時、藤乃は
薬が転じて毒になる。自分から話すようにと頼んでおいて身勝手な話だが、ランサーは自分たちと対峙する前に彼らには途中で倒れてほしいと思う。それなら藤乃の絶望は相手への怒りへと変わり、やがて深い悲しみへと変わる。無論、この場合でも多少差があるだけで、藤乃の心に大きなダメージが残るという点では変わらないが。
(生前は無縁の想いだったが…………人の生とは、ままならぬな)
※※※
夜が更けてくるにつれ、吹き付ける夜風も厳しくなり外は勿論、校舎の中でも寒さに身を震わせるほどになっていた。マイルーム以外で
そして、そんな無人の校舎の屋上で、冷めた自分の身体を抱き締めながら佇む少女がいた。
少し前まで苛立たしげにコツコツと床を叩いていた靴は、今は不安げに屋上を彷徨い歩きながら静かな音を立てており、気難しく顰めていた顔も不安そうなものに変わっており、探し物をするかのようにきょろきょろと周りに視線を向けては時折思い出したかのように屋上の扉を見ては落ち込むと、忙しない様子であった。
少女の名は遠坂凛――聖杯戦争優勝候補の一人である優秀なハッカーである。そんな少女が、何故こんなところにいるのかというと――、
「………………来ないわね」
(そりゃあ、な……)
――待ち人である。といっても、相手には日時や場所はおろか、待っていることすら伝えていない以上、来るはずないのだが。それは当人の凛とて十分に理解している。ならばなぜ、こんなことをしているのかというと――自分から行くと心配していたみたいで恥ずかしいのである。
とはいえ、当然だが理由はそれだけでない。他にも3つほどの理由がある。
遠坂凛が最後に待ち人――岸波白野と出会ったのは今から四日前で、図書室前で色々なカミングアウトをした後であるというのが一つ。いつも通り屋上に居たら教会へ向かう白野と式の姿を見かけ、ランサーが『一回戦』『世話』『お礼』という重要単語を耳ざとく聞き取っていたというのが一つ。そしてランサーがその際に零した『同年代の友人』という単語から、同年代との本当に他愛のない話をしたことが無い凛がそれを意識し始めたことが一つ。
面倒見がよい姉御肌な遠坂凛だが、実を言うと彼女の周りには
今まではその姉御肌な性格から何も知らない者に教授するという、年下みたいな扱いであったため弟みたいなものだと思っていたが、人間とは不便なもので、一度意識してしまうと以前のようには戻れなかったりする。
当初その件に関してランサーは『中東のオヤジ共は過保護だな』と笑って見せたが、今となっては乾いた笑みしか出ない。
「ねえ……ランサー」
(なんだ?)
ひゅうと冷たい風音が周囲に虚しく響くと同時に凛が足を止め、霊体化しているランサーに話しかける。それに対してランサーは、なんとなく嫌な予感がした。
「あなた確かに『一回戦でお世話になった人に』お礼を言いに行くって聞いたのよね」
(あ、ああ……。それは間違いねえ、はず)
「そう、それじゃあ……なんで私のところには来ないの?」
(……………………たぶん、時間の都合じゃねえのか。話によれば坊主の次の相手は有名な軍人なんだろう)
予感は的中した。当然の疑問だが、正直そう言われてもランサーは人の心が読めるわけでも、考えていることが分かるわけでもないので無難な意見しか出せない。一応、彼なりに気遣ってみたのだが……。
「噂によると式に浅上さんを囲って三時間近く談笑していたとか」
(……それ、出所誰だよ)
「言峰綺礼」
(…………あの野郎)
彼の手は読まれていた。ランサーの脳裏に愉悦に頬を歪ませ邪悪な笑みを刻む言峰の顔が思い浮かぶ。彼としては、何故あの外道神父を監督役に立てたのか、ムーンセルに小一時間問いただしたくなる心境ではあった。
なお、この際にムーンセルが愉悦に染まっているのでは、という想像に到ったが脳裏の奥底に封印されたりされなかったりしたのはご愛嬌。
「私、腑抜けてた彼に激励したし、色々レクチャーしてあげたし、真名を仄めかしたり色々したよね。教会のこと教えたのも私だし、一番世話してあげたの私よね」
(ああ、うん。そうだな)
「普通、こういうのって一番お世話になった人の所へ一番最初行くよね」
確かにそうかもしれないがそこは人によるのでは、と思ったがややこしくする必要はないのでただ肯定の意を示した。
「私、もしかして忘れられてる? それとも本当は鬱陶しがられてたとか? 友達って思ってたの、私だけ?」
(いやそれはねえから泣くなよ! あの坊主がそんな奴に見えるか!?)
「泣いてないわよ別にっ!」
とはいうが、実際凛の声は少し涙声になっており、瞳も僅かに朱く染まっている。ムーンセルの無駄な拘りに感心しつつ、どこかの少女と同じく我慢の限界に達した凛を宥めるという損な役回りとなったランサー。
結局その日、凛の機嫌が直ることは無く、酷く不機嫌な様子で彼女もマイルームへと帰還した。
※※※
教会前、花壇。昼には幾人かのマスターを見かけるセラフ内でも人気の高いスポットだが、さすがに深夜となれば来るものは誰もいない。
冷たい夜風が吹き付ける度に花壇の花が揺れ、互いに身を揺す振る音のみが聞こえる静かな空間。そんな中に、違和感なく混ざる一人の少女がいた。
日本人や西欧人にはない褐色肌に、やけに胸元をはだけさせた丈の短いガラベーヤ――エジプトの民族衣装――らしき上着を着たエキゾチックな少女で、まるで人形のように噴水の縁に腰を落ち着けて静止している。
視線は常に揺らぐ水面を捕えている。そこに映るのはわずかに反射して見える自分の顔だけにすぎない筈だが、少女の瞳はまるで別の者を見ているかのようにじっくりと観察しており、微動だにすることなくじっと見据えている。
「……師よ」
そしてそれまで人形のように止まっていた彼女が、ようやく言葉を発する。しかしそれにも感情という色はなく、むしろ人形らしさがより増したような錯覚すら感じさせるものだった。
「あなたの教えを守ってここまで来ました。彼が私が探し求めている星なのですね」
そういう彼女の瞳に映るのは、やはり彼女自身であり、断じて彼ではない。しかしそれでも彼女には見えているのだ。今は亡き、神秘の領域が。
水面が噴水から吹き上がる水しぶきで一段と波紋が揺らぐ。それと同時に先ほど見つめていた場所から右へ、彼女の視線がずれる。
「これは……森の中、息をひそめる狩人。新たな試練が……」
当然水面には森も狩人も存在しない。そこに見えるのは今は無い過去――少女、ラニ=Ⅷのみが見れる星の記憶。
突如として現れたその姿に、ラニは一考する。探し求める星と共に現れた狩人。彼が試練を乗り越えれば、より強く輝く星が見えると。
少女が腰かけていた噴水の縁から立ち上がる。師が言う心を知るために、その輝きを間近で見るために、少女は自ら歩み寄る。
凛は決戦時に同年代の友達いないって言ってたし、きっと機械関係が使える代わりにその辺ダメな気がする。
あと今回の式は理由を付けると単に『前に私が言ったことはガン無視かよコノヤロー』的な感情です。気づいていないのは作中言った通り、心のうちでため込んでいるから機微に気づいていないだけです。
それはそうと、外典の二巻読むので次も遅れます。それに読み終わったら俺アストルフォの粗チェックもしなければなりませんので。
まあ学校始まれば授業中に読んだり、もうそ……
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