やはり鬱以来どうにも気持ちがうまく落ち着かず執筆できずにいました。
十中八九強迫神経症だろうけれど、お金なくてイカベイも諦めたので病院には行きません。薬だけでも売っていればいいんですが。
皆さんも鬱病には気を付けましょう。荒縄買ってたけど我に返るとまるで使い道がない。
あと強迫神経症にも。些細なことにも不信感、不安を抱いてしまい我ながら超うざい。
『で、マスターを放り出してでも俺を狙うか? いいや、あんたには無理だよな』
声の主へはっとして振り返る。しかしその姿はもはや影も形も存在しない。宝具を使われたのだろう。だが、まだ近くにいるのは確かだ。気配も完全に消えていない。
『それじゃあ一足先に帰らせてもらうぜ。無駄撃ちはしない主義なんでな』
「……クソッ!」
だが嘲りを含んだ声を最後に、その気配すら消失する。
言いたいことだけいって去っていくその姿勢に、苛立ちを隠せない。
加えて言葉も傷も、何も返すことのできなかった。なんて情けないのだろうか。
行場のない怒りを、踵でもって床に叩き付ける。
しかし、いつまでも感情に振り回されている余裕はない。ささくれだった内心を胸の奥底にしまい込み、すぐさま横たわる白野の傍へ膝を突き、力を込めすぎない様に手を握る。
――なんて、冷たい。
真冬の風に晒され続けたかのようだった。先ほどまで走っていた人間の体温とはとても思えない。傷口は青白く変色し、顔色も土気色になっている。その手の知識に乏しい式からしても、一刻の猶予もないということが見て取れる。
「ねえ、しっかりして! ねえ!」
焦燥感に突き動かされ、やや乱暴に揺れ動かすが返事はない。相当朦朧としているのだろう。目は開いているが、視線は定まらず焦点もあっていない。毒を受けてまだ1分と経っていないにも関わらず、その効果は十分すぎるほどに発揮されていた。
毒を吸い出そうと思っていたが、ここまで強力だと自身の感染する可能性が高い。白野が一人で満足に歩くこともできない以上、自分までそんな状態に陥るわけにはいかない。
(リターンクリスタルっ!)
ならばと、今度は彼の懐から端末を取り出す。リターンクリスタルさえ出すことができれば、すぐさま校舎へ引き返すことができる。
だが、端末は何をどう押してもまるで反応を示さない。
「ああ、もうッ!」
マスターでなければ使えないのか、その設定に赫怒の念を抱きながらも、持っていたナイフと共に帯に押し込む。叩きつけたいほどの激情に駆られているが、今はそんな発露の暇すら惜しいのだ。
安静さを気にして引き連れていては間に合わないと判断し、白野を肩の上へと乗せて抱え込む。その際に一瞬、呻き声が漏れて申し訳ない気分になるが、謝罪している暇もない。放り出された手足は力なく、ふらふらと漂うように揺れている。
軽い、と思った。乗せた半身にほとんど負担はなく、持ち上げる際にも思わず力が空回りしかけたほどだ。改竄によって身体能力が相当向上しているのもあるが、やはりそれを含めても軽すぎる。
数値で定められた
いや、とそこで思考を切る。今はそんな思索にふけっている場合などではない。
一刻も早く帰還するべく、アリーナの最奥へ向けて走り出す。その速度は先ほど以上であり、しかし、なるべく抱えた体を揺らさないように留意して移動する。幸いにして帰り道は直線のみの一本道。十秒と経たずにアリーナの最奥へと辿り着き、帰るためのポータルを遠慮なく踏み込み、起動させる。
徐々に光が漏れ出し、視界一面に広がる。いつもはまるで気にしない転移までの時間と視界を潰す光が、この時ばかりは煩わしくて仕方がない。足で床を叩きながら、空間の入れ替わりを待つ。質感がアリーナのガラス染みたそれから校舎独特のリノリウムのそれに変化すると、視界が戻るのも待たずに記憶と感覚を頼りに走り出す。
行先は保健室――いつの間にか戻ってきたマスターやNPCを気配だけで察知し避けながら駆け抜ける。そして当たりを付けた扉に手を掛けるころには視界も大分戻り、表札を見ること用件も告げることなく開く。行儀が悪いのは百も承知であるが、そんなことを気にしていられるような状況下ではない。
荒々しく開いた扉の先には、突如響いた物音に対して驚きのあまり、可愛らしい声を漏らして背筋を伸ばす桜の姿。
何事かと顔を赤く染めてこちらへ振り替える彼女は用件も聞かず、肩の上の彼を見ると即座に平静さを取り戻して立ち上がり、脇のカーテンを素早く開く。
「こちらへ!」
指示に従い、白野をベッドに丁寧に降ろす。反対側では桜が既に傷口と症状を看破し、治療に移る所だった。
知識を持たない自分にできることはもはやない。あとは桜に任せるだけ。
……任せるだけ。当然の役割分担にあるにも関わらず、
※※※
――気が付くと、自分は漂っていた。
何の前触れもなく、突如として浮かんだ自分の意識と、その視界。そこには綺麗に透き通った青い世界と、0と1の二進数で構成された羅列、そして時折見える上方へと向かっていく泡。
ムーンセルの空に良く似た、それでいて見たことのない空間。そして現実味のない光景。
……何故だろう。本来、慌てるべきであろう場面であるはずなのに、まるでそんな気が起きないのは。
それどころか、むしろ自分はこの空間に心地よさすら感じている。ずっとこのままでいたい、と思えるほどに。
例えるならそう、揺り籠にいる赤子のような――いや、その表現は少々恥ずかしい。
訂正しよう。――夢心地、とでも。自分の存在すらあやふやになりそうなほどに重みや実感を感じられない、これまで一度として感じたことのない感覚。そしてこの空間。
それでも一切の不安を抱かないでいられるのは、この空間から害意を感じないからだろう。だからといって、優しさや慈しみ、といった好意的な感情が感じられるというわけでもないが。というより、感情そのものを感じることができない。
それでも、分かることはある。それはこの空間が、自分のためだけに存在するということだ。
だから一切の心配は不要。大丈夫、目が覚めたら、全ては元に戻っている。
根拠のない自身と信頼に身を委ね、もう一度自分は目を閉じる。――そして意識は溶けていく。
※※※
――照会中。
個体名:――閲覧制限――
役割:学生――個体情報不一致。情報修正実行――■■■権限による情報の上書きを確認――マスター。
――基■■報修正■。
サー■ァ■■:■ルジ■■、ネ■、■■タ、バベ■■、■田■時、■■■ール、ス■■ハ、■ーラ■■、■リ■■ヒ■デ、■■ク■リー■、■■■■テ、無■、エド■■■、ラ■マ、■■ルス、■■ド■ッ■、■■の前、■■■ラ、■オニ■■、■■ゥー■、■■ルル、セ■ラ■ス、エ■■■・■ンテス、etc……
――該当多数。最新情■を参照――両儀■。
破損データ多数。修正開始――
……
…………
………………
肉体損傷状況:物理損傷E、内部損傷A。
修正――外部治療行為により修正済み。
次期に物理損傷、内部損傷ともにFへ移行と判断。
日常行為及び戦闘行為における支障なし。修復次第デバックを終了。
状況達成につき、英霊の情報を送信します。
ムーンセルへの個体情報の送信――■■■権限によりブロックされています。
※※※
「――随分と彼に優しいんですね。桜さん」
「――それはどういう意味ですか。カレンさん」
明けて翌日。
朝もやに包まれた淡い燐光の下、二人の少女が教会の前で顔を合わせていた。彼我の距離はおよそ4メートルほど。その距離感からは親密さの類を感じることは出来ず、剣呑な空気が周囲を覆っていた。
相対する両者の内、片方は間桐桜。いつも通りの制服の上に白衣を纏った保健室を預かる、ムーンセルが配置した上級AIの一人。普段は保健室を訪れる者を柔和な笑みで迎え入れる彼女だが、今は硬い表情と口調を見せている。温和な彼女にしては珍しい雰囲気である。
対するもう一人はカレン・オルテンシア。こちらは普段の制服と店員のエプロンの組み合わせた恰好ではなく、キャミソールの上に白衣を纏った格好をしている。それは店員としてではない。彼女の本来の役目としての姿。
つまり彼女は、コンビニの店員としての
まして、この場で両者が相対したのは偶然ではない。カレンが呼び出し、桜がそれに応じて態々出向いたのである。
普段碌に会話を交わすことのない相手からの急な召喚。加えて桜にとっては時期も悪い。さらに開口一番の、意味深な一言。温和な桜といえど、平静ではいられない。自然、纏う雰囲気も僅かながらも険しくなる。
「いえ、言葉通りの意味ですよ」
しかしそんな桜の口調に対しても、カレンは一切動じることなく抑揚のない返事で答え、中空に指を走らせる。すると途端に、彼女の指先から1センチほど離れた所に半透明のウィンドウが現れる。そのサイズはさほど大きくはなく、一般的な用紙サイズの書類のようであり、事実それに類する物だった。
「昨日、先輩が保健室に来たようですね。それも、かなり危篤な状態で」
その言葉に一瞬、桜の動きが止まる。そしてカレンが開いた物の正体を察し、驚愕に目を見開く。
それは電子カルテ。桜が白野に対して行った所見および治療。そのすべてが記録されたものだ。
別に、隠しておいたというわけではない。そんなことをしなくともカルテの閲覧は桜の権限でなければ行えない。そしてムーンセルが定めた役割は絶対。目の前の相手が何をしようと閲覧をするのは不可能。そのはずであったから。
――なぜそれを!
咄嗟に口を開きそうになるが、口元を抑えて押し止める。
しかし、目の前の少女にとってはそれだけでも十分な反応だった。喜悦によってか、カレンはさらに笑みを深くし、一歩距離を詰める。
「ふふ、不思議そうですね。でも、何にも可笑しくはありませんよ。元々、私だって健康管理の上級AIだったんですから。それを独断で、それもコンビニ店員なんて、誰でもできるものを押し付けられただけで、権限までは失ってませんし」
そう、カレンの元の役割は桜と同じ健康管理の上級AI。コンビニ店員にしたのは監督役である言峰綺礼の独断に過ぎず、そうであるがゆえに、ムーンセルにとってはカレン・オルテンシアは未だに保健室の上級AIのままである。これまで大人しくしていたのは偏に権限を有効活用する機会がなかっただけに過ぎない。
そしてその権限も特に使い道がないがゆえに、そのまま埋もれていくはずであったが、しかし、来てしまったのだ。有効活用する機会が。そしてカレンという少女は、その成果を使わざるを得なかった。与えられた役割ではなく、
「保健室に訪れる方たちは皆、私にとって救命対象です。私はあくまで役割に従い、許された権限の限りを尽くして治療したまでです。あなたに咎められることは一切ありません」
「へぇ、それにしては随分と手厚い看護を施したそうですね。宝具データを解体してもまで救うなんて、中立というスタンスからずれているように思えますが」
カレンがいうことは尤もである。そもそもの話、彼女たちの役割はマスターたちの健康管理であり、主な業務内容はカウンセリングなど、精神面のサポートであって治療行為は役割に入っていないのだ。しかし禁止されているというわけでもないため、藤乃の様な患者が来たのであれば治療を施すことに問題はない。
だが、今回の白野の件は完全にそれとは別だ。藤乃のソレは自傷行為に近しい物であったが故に、治療したところで彼女に肩入れする行為とはならなかった。
対して今回の白野の怪我は相手のサーヴァントの行動によるもの――つまり戦闘による負傷だ。それも、体内に残留している宝具のデータすら分解してしまっている。ここまで完璧に治療してしまうと、一方の対戦相手に肩入れをしているのと見做されても文句は言えない。
「訪れるものは皆、ですか。明確に贔屓していなければ問題ない、とでもいうつもりですか? ムーンセルがアリーナでの戦闘を禁止しておきながら即座に介入しないのを何のためだと思っているんですか」
「それは……」
それは、キャスターやアサシンといった、直接的な戦闘に長けていないサーヴァントたちへの公平さを保つためである。特に
アリーナでの戦闘行為を全面的に禁止しては、この月の聖杯戦争においてアサシンや、彼らに似た戦法を取るサーヴァントたちの勝率が著しく下がってしまう。かといって一瞬だけ許しては今度は機会が増えすぎてアサシンたちに有利になり過ぎてしまう。
ムーンセルとしてはなるべく公平を期することで、より現実に即したデータが欲しいのだ。
だからこそ、禁止としながらも数ターンの猶予を与えたのだ。そうすることで暗殺の機会を与えながらも、反撃と情報の漏えいの恐れも生じさせた。
そして桜の行いはムーンセルにとっては――その公平さを乱した暴挙に過ぎない。中立の立場でなければならないNPC、それも上級AIが戦闘の結果を改ざんするなどあってはならない。このことがムーンセルに発覚すれば、桜はよくて
「まさか、あなた……!」
そこまで考えてようやく気付く。目の前の相手が何を考えているのか。
瞬間、カレン・オルテンシアは嘲笑うような視線を桜へと向けた。
長かった互いの距離は、いつの間にか手を伸ばせば届きそうなほどに埋まっていた。
――思わず桜は一歩、後ずさった。
※※※
――まるで時が止まったようだ、と。余人がこの光景を観たら、そう評すること間違いないだろう。
そこは礼拝堂。正面奥に簡素な祭壇に、乙女と天使をモチーフにしたステンドグラス。そして並ぶ椅子に座り、衣擦れの音一つ立てずに祈りを捧げる黒い礼服に身を包む少女たち。
では実態はどうなのかというと、知る者が見れば、あるいはより深く見れる者が見ればわかるだろう。彼女たちに信仰がないということに。
なまじ上辺がよいだけに、中身が伴っていないことが不釣り合いに見えて仕方がないのだ。無論、全員が全員そうだというわけではないが、その比率はあまりにも圧倒的すぎた。
とはいえど、無理もない。現代において神の存在は虚ろな物と化し、ただ親に言われるがままに入ったに過ぎないうら若き少女たちにとって宗教というのを心の底から受け入れるには、俗世に濡れすぎていた。
そんな彼女たちにとっては、むしろこの空間は牢獄か箱庭、あるいは無菌室に過ぎない。好意的に見れるはずがないのだ。退屈とは、魔女をも殺す毒なのだから。それを思えば、こうして形だけでも整っているだけでも十分称賛に値することだ。
十分に時が経ち、止め、とこの場において数少ない敬虔な信徒である老女が厳粛な声で終わりを告げると、ようやく皆が動き出す。そして老女が二、三言告げた後に解散を指示すると即座に少女たちは先ほどまでの静けさが嘘だったかのように、騒ぎ出す。この時ばかりは敬虔な者もそうでない者も関係ない。
その様に老女は思わず嘆息するが、仕方がないことだと考える。かつて自分にもそのような年頃があったのだ。眼前の少女たちにも、そんな時があってもいいだろう、と。いくつもの塊になって礼拝堂を去る少女たちを見送る。
そんな老女の目に、写ることない少女が一人。他者と談笑することなく、いち早く礼拝堂から立ち去ったがゆえに。俗世に染まることなく、また信仰に生きることもなく、そして周りに溶け込むことのない少女。
――名を、両儀式という。
セミラミスを見た後だと、どうも緑茶の毒は生温いと感じるんですよ。
具体的にいうと八等指定玻璃爛宮とタタリ征志郎くらい差がある。
つまり何が言いたいかというと、緑茶の毒もうちょっと強くしてもいいと思うんですよ。少なくともゴールデンカムイの毒矢くらいには。
要するに――500倍や(
セイバー曰く校舎では最低限の身体機能が保障され、紅茶曰く毒も悪化しないとのことでしたがこの作品ではそんなことないです。ついでに毒も放っておけば自然と明日に消えるとか、そんなのもないです。
もうちょっとリアル志向でもいいのよ、ムーンセル。