赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第15話「眷属は飼い主に似る」

 私はお爺様に手渡された立派な友禅に着替えた後、本殿から離れた小さな社の上座に鎮座させられていた。

 おかしい。これから私は、教会勢力との仁義無き抗争に身を投じるはず。

 にも関わらず、何故こうも動き難い時価な芸術品に身を包んでいるのでしょう。

 そして疑問はもう一つ。困惑する私を見つめる二人(?)組はいったい……

 目の前には正座を崩さず見事な姿勢で頭を垂れるポニテ和装の少女と、綺麗にとぐろを巻いて鎌首をもたげる蛇が一匹。

 一応、事前にお爺様の眷属だと言うことは聞いていますよ?

 ですが、どう繕っても初対面。私からアプローチしろと言われても困ります。

 そもそも前者はまだしも、後者に言葉が通じるやら。

 すると私の困惑を察したのか、少女の方から会話のキャッチボールを始めてくれた。

 

「お初にお目にかかります、姫様」

「その呼び方、止めて欲しいのですけれど……」

「何を仰いますか。お屋形さまの騎士たる私にとって、ご息女たる爰乃様は第二の主君も同じ。これ以上に相応しい敬称は御座いません」

 

 ああ、木場君相当ですか。

 騎士と言うよりも武士感全力ですけど、古風さが好ましいですね。

 

「ええと、武士、もとい騎士の人……お名前は?」

「申し遅れました、私は人だった頃の名を河上彦斎。今は転生悪魔の河上弦と名乗り、投資ファンド”アドラメレク・マネジメント”代表取締役を勤めさせて頂いています。以後、お見知りおきを」

「どこから突っ込んでいいやらって、何処かで聞いた名前。ひょっとして有名人でしょうか?」

「当時はそれなりに名を馳せていたかと。主に悪評でお恥かしい限り」

「と、とりあえず質問を変えます。悪魔は自由に姿かたちを変えると聞きますが、本物の女性ですよね? 実は男だったりします?」

「姫様と違いぺったんこでも、一応女で御座います。慣れ親しんだ生前の姿のまま故少々幼くはありますが、戦働きに不足は無いと自負しております。是非とも我が力、直接ご覧になられた上でご判断して頂きたく」

「よ、よきにはからえとか言えばいいですかね……」

 

 私はおろか、姫島先輩よりも見事な黒髪はまさに古き純潔の日本人の証。

 体格も華奢で、全体的に幼い容姿は頼もしいと言うより可愛らしい。

 一言で纏めるなら、避暑地に遊びに来た良家のお嬢様と言った風かな?

 ……腰にぶら下げた大小二振りの刀を除けばですが。

 

「次、我。我、姫様の側、居た。敵来たら食べる、お屋形さま言った。姫様、奇稲田より綺麗。姫様好き、我、守る」

「あ、ありがとう御座います」

 

 かなりの好意をお持ちのようですが、爬虫類独特の感情が見えない目が怖いです。

 蛇さんは何者なのかな?

 今の説明じゃさっぱり分からないので、自己紹介とか欲しい私です。

 

「宜しければ補足を?」

「お願いします」

「彼は戦車の鬼灯。先入観を持たずご自分の目で確かめて頂きたいので名は避けますが、純日本産で最強クラスの龍種とだけお伝えしましょう」

「国産の最強クラス?」

「奴めうっかり比較対象の名前も出しましたし、殆ど答えかと」

「まぁ、空気を読み口にするのは止めておきます。ちなみに守っていたというのは?」

「簡単なこと。そこの鬼灯は端末に過ぎません。本体はこの香千屋神社の地下深くで眠り、敵が領地に踏み込んだ時点で迎撃する任務を帯びています。これは姫様が生まれるずっと前、この場所にお屋形さまが居を構えた時から続く彼のライフワーク。姫様のように人外世界と交流を持つ御方は希少ですし、鬼灯としてもコミュニケーションが取れる分、やる気だとアピールしているのでしょう」

 

 言われてみれば、昔から敷地内で割と多くの蛇を見かけたような。

 遠巻きに見つめてくるだけだったので害はないと放置してましたが、まさか見守っていたとは驚き。

 

「羽根付き来た。我、あいつらまるかじり」

「ちょ」

 

 瞬きの間に姿を眩ませたことも驚きですですが、発言内容も割と危ない。

 羽付き=教会の天使でしょうけど、今回は手加減とか不要なのでしょうか?

 肝心のお爺様は根回しをしてくると消えたきり戻らないし、私が勝手に判断していいものやら。

 

「現在の状況をご説明いたしますと、香千屋神社を中心として鬼灯が広域展開した結界に敵を取り込んだ所でございます。まぁ、気配から察するに中級天使が僅かに混じっている程度。奴だけで十分とは思いますが、念の為に私も配置に付きます。後詰として女王も上空で待機しておりますので、姫様はごゆるりと我らの活躍を見物なさるのが宜しいかと」

「任せます。それで女王さんは、顔を出してくれないのかな?」

「杏はネームド天使が横槍を入れぬように目を光らせる役目と言いますか、鳥頭でアホの子に細かい指示は難しい為、自由にさせている現実が。つきましてはアドラメレク眷属プレゼンツの公演終了後に裏方含めてキャスト全員が挨拶します故、少々お待ちいただきたく」

「最強の手札がアホの子って……分かりました。さすがお爺様の眷属と、私を唸らせる仕事に期待します」

「御意」

 

 この時の私は、イリナちゃんが仲間を連れて殴りこんできた程度の認識しかなかった。

 実際は割と戦争級の規模で攻め入られているのに、軽く話す弦の言葉からそれを窺い知ることは出来ない。

 まさかこんな事になるなんて、と人生初のセリフを吐くまでのカウントダウンは短い。

 

 

 

 

 

 第十五話「眷属は飼い主に似る」

 

 

 

 

 

「……イッセー先輩!」

「お、おう、こりゃやべぇ……何が起きてるんだ!?」

「僕らの行動が読まれて、教会が本気を出したのかもね」

 

 いきなり結界に捕らわれ泡を食って空を見上げれば、十字架のエンブレムを施されたヘリと戦闘機が幾つも飛んでいた。

 それだけなら驚かなかったんだが、どー見ても天使が随伴してるんだよ。

 皆さん揃って必死感を漂わせてるし、これはただ事じゃないって俺でも分かる。

 遠くから聞える花火みたいな音も、その一環に違いない。

 

「んなアホな。俺達のやろうとしてる事って、結果的にはあいつらにプラスだろ? 何より赤龍帝の篭手、魔剣創造、危険物指定の猫又っつーアレなメンツでも所詮は下級悪魔。禁手とか使わずに加減したにしろ、イリナ達に負ける雑魚にアレは過剰戦力だろ」

「……ではコカビエルが発見された、とかはどうでしょう」

「違うんじゃないかな」

「その心は?」

「彼女達も言ってたじゃないか、我々だけでどうにかするって。僕らだけならともかく、魔王の妹である部長に嘘をつくメリットが感じられないよ」

「ってことは、連中が戦力をかき集めなきゃならねえレベルのイレギュラーが発生してるって事かよ」

「多分」

「……これは気のせいだと思いたいのですが、教会の人たちがこのまま真っ直ぐ飛んだ先は先輩の家では?」

「そう、だね。結界の中心もあの辺りだと思う」

「……俺、ちょっと電話してみる」

 

 一応今の状況を説明しとくと、教会からの使者……偶然にも幼馴染のイリナと連れが部長の元へ来た事が発端だった。

 何でも堕天使に盗まれたエクスカリバーが、この町に持ち込まれている事が分かった。

 頑張って探すから悪魔は邪魔をするなと警告され、大人しく了承しようとしたらアーシアを魔女と罵倒しやがった事で一悶着。

 手合わせの名目で一戦交え、まさかの大敗北する失態をやらかしてしまった。

 敗因は珍しく冷静さを欠いた木場。普段の俺みたいにがむしゃらに力でゴリ押した挙句、エクスカリバーの波動に魔剣を折られてゲームセットだった訳よ。

 理由を問い詰めたら、自分はエクスカリバーを使える人間を人為的に生み出す人体実験の生き残りだから怨みがあるとか言いやがった。

 強いっつたって、たかが剣一本の為に大勢を使い捨てるとか意味が分からん。

 天使の系譜じゃなく、悪魔でも優しくて聡明な部長に拾われてマジよかったと思う。

 マジでやってることは、教会の方がよっぽど外道だぜ。

 んで、何とか逃げた木場以外は失敗作と殺処分。

 残った唯一人としては、エクスカリバーの存在が許せないらしい。

 

「木場の力になってやらんと……爰乃か?」

 

 聖剣を葬り去らない限り、仲間の無念は消えない……か。

 その気持ち分かる。そんなもんが無きゃ実験自体生まれなかったんだからな。

 共感した俺は木場に協力を申し出たんだが、何故か小猫ちゃんも付いてきた。

 部長は静観を命じているから独断専行だってのに、ホント仲間意識の強い子だよ。

 かくしてグレモリー前衛部は、イリナに協力すると言う大義名分を得るべくシスターを探している。

 それなのに、気が付けばそれ以上の面倒毎が発生している気がしてならない。

 そして経験上、この手の厄介事の中心にはアイツが居るんだよなぁ。

 

『何の用かな? こちらはかなり立て込んでます。急ぎじゃなければ、後にして欲しい』

「それは……ハルマゲドンを引き起こしてる真っ最中っつー理解でいいのか?」

『大体正解。ほら、今もF22が謎のビームで落ちた』

 

 あってるのかよ!

 

「せ、説明を要求する」

『三行で纏めるね』

 

 教会の聖剣使いが、喧嘩を売ってきたので買った。

 とりあえずフルボッコにして、エクスカリバー奪って追い返したら逆ギレ。

 色々攻めてきたので、アドラメレク眷属が一部集まって全力ではしゃいでる最中。

 

「すげぇ分かりやすいな!」

『見物しに来ます? さすが聖書の国というべきか、米軍の戦闘機とかもガンガン飛んできては落される光景が何とも言えず愉快だよ』

「魔法は何処に!?」

『私に言われても……』

 

 ですよねー。

 って、あまりのインパクトに忘れそうになったが、エクスカリバーをどうしたって?

 

「ってことは、エクスカリバーが手元にあんの?」

『ある、と言ってもいいのか微妙』

「どゆことよ?」

『器は壊れて核の部分だけ残ってる感じ』

「……ちょいと現物を見せて貰っても?」

『誘ったのは私だから構わないけど、他に誰か連れてくる? 事前に知らせてくれないと、鬼灯に食べられちゃうから要注意』

「食われるって何だよ!? よく分からんが、木場と小猫ちゃんと一緒だ。三人で向かうわ」

『忠告。黒い大蛇、剣術小町、鳥のお化けは身内だから攻撃しないように』

「おう!」

『じゃあ待って―――ごめん、一つ追加』

「ん?」

『私自身何を言っているか分からないけど、ありのままを話すから聞いて』

「勿体つけるなよ」

『人型巨大ロボットも味方らしい?』

「お前が何を言っているか分からない」

『大丈夫、私も分かってない。まぁ、自分の目で確認するといいよ……切るね』

 

 リアリストの爰乃が世迷言を吐くとは思えないが、あまりにも話が荒唐無稽過ぎる。

 蛇やら鳥はまあいい。でも、人型巨大ロボって何だよ。

 ガンダムか? それともマジンガーか?

 俺達はファンタジー世界の住人で、SFの住人じゃないんだぜ?

 

「エクスカリバーを確保してるって聞えたけど……本当かい?」

「いやその、木場には残念なお知らせがある。俺達が見た教会のエクスカリバーな、二本とも破壊されたらしい」

「……ちょ、ちょっと待ってくれないか? 誰がそんな事を?」

「お前も薄々は状況分かってるだろうが、イリナとゼノヴィアだったか? あの二人が部長と同じ要求を爺さんにも突きつけたっぽい。後は香千屋の人間がどう反応するか、言わないでも察しろ」

「使い手も死んだね。いやぁ、いい気味だよ!」

「さり気なく黒いな」

「利己的なのが悪魔だから当然さ」

「……それはそれとしてエクスカリバーの破損状況も詳しく分からんし、今から直接確認に行こうと思う。お前も伝聞だけで納得出来ないだろ」

「まあね。それに残骸でも二振が神社に在るのなら、必然的に奪われた残りも集まってくるはず。わざわざ町を徘徊するよりも、拠点に陣取ったほうが効率的さ。そもそもこの状況で教会と手を組むとか、絶対に無理だと思うのは僕だけかい?」

「……私も同感です。下手に接触する方が問題になると思います」

「んじゃ決まりだな、爰乃んとこ行こうぜ!」

 

 こうして俺達は諸悪の根源へと向かうのだった。

 

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