赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第17話「真実の鏡」

 鬼灯の頭の上で大惨事の見物中、お爺様が呼んでいると言われたのがつい先ほど。

 推進器らしき翼を広げたロボットの手に掴まれ我が家まで戻ると、そこには知らない若い男が上がりこんでいた。

 

「……打ち合わせにない事は止めて下さい。どうして俺の仕事を取るんですか。今回のボスは俺って言いましたよね?」

「いやその、つい無礼者にイラっとしてなぁ」

「おかげで目ぼしい敵が全滅ですよ、全滅! 俺の生き甲斐を奪わないで頂きたい!」

「……ぬぅ、すまん」

 

 驚く事に、男はお爺様相手に謝罪を引き出す偉業を達成。

 心の中でその凄さに賛辞を送ると、向こうも私に気付きましたか。

 

「おや、これは爰乃さん。幼少のみぎり以来ですが、随分と大きくなりましたね」

「ええと、何方でしょう? 面識ありましたか?」

「出会ったのは物心着く前、覚えていなくても当然です。名乗り遅れましたが、私はアザゼルの部下のコカビエル。今は東京の小さな劇団の一員としてメジャーを目指し、日々を生きる都民です」

「はぁ」

「来月、ついに俺が主役の舞台が始まります。出来ればご友人を誘って来て頂けると助かるのですが……あ、これ宜しければどうぞ」

 

 受け取ったチケットに書かれているのは、聞いたことも無い劇団の公演予定。

 いや、それはいいんです。興味のある世界ではありませんし、知らなくて当然なので。

 私が突っ込みたいのは、何故に堕天使の幹部が俳優を夢見て上京してきた若者路線に全力投球なのかの一点。

 話を聞く限り魔力とかを使ってインチキせず地道に下積みから頑張ってる様なので、とやかくは言いたくないんですよ?

 でも、コレだけは言わせて欲しい。

 

「お爺様、控えめに言って堕天使という種族は種族全体がこのノリなんでしょうか?」

「うむ、下はともかく上は総じて頭がおかしいな。目ぼしい幹部だと、アルマロスは特撮被れで、サハリエルは改造マニア。そもそも神器を偏執的に弄ることに傾倒した総督が率いる種族じゃよ? 真っ当な精神を持つ上位の堕天使は一握りだけ、とわしは思うとる。おかげで数少ない真堕天使……副総督のシェムハザは胃薬が手放せない毎日を送っておる。奴め最近嫁を迎えたのに、まともに帰れて居ないらしいぞ」

「恐ろしい生き物ですね……そしてシェムハザさん強く生きて」

「これは手厳しい。ですが、欲望を抑えきれずに天から堕ちたのが堕天使です。その粋とも言える俺達が趣味に全力投球なのは必然じゃないでしょうかね」

「じゃな。わしに言わせれば、所帯を持って真面目に働くシェムハザがおかしいわ。そんな生活を望むなら最初から堕天するなと」

 

 いやはや、言われて見れば確かにその通り。

 これは完全に私の考えが足りませんでした。大変申し訳ない。

 品行方正なお坊ちゃんからドロップアウトした不良が堕天使。

 安定の公務員ライフを捨てて、夢に生きても何の不思議もありませんよね。

 

「ちなみに俺は演じると言う行為に取り憑かれた口。いやぁ、虚構を現実のものとしてお客に信じさせるのが楽しくて楽しくて。神は汝嘘つくことなかれと規定しているのに、人は嘘の物語を本物のように見せることで評価されるんですよ?」

「確かに」

「俺もそんなプロになりたい。その思いが結晶になったのが次の演目なんです。一世一代の晴れ舞台、これほど歓喜と恐怖を得られたのはいつ以来やら……」

「ひょっとして、今日は宣伝に来たのでしょうか?」

「違います」

「おや?」

「俺は仕事の傍ら、アザゼルに頼まれてエクスカリバーの回収を行っていました。やっとの事で三本集めて教会の連中を誘き出し”世界の安定を嫌い、総督に独断で戦火を望む狂気の堕天使幹部”を演じようとこの町でスタンバってたら、そこの悪魔がボスっぽい真似をするじゃないですか」

「はぁ」

「そもそも今回の一件は、爰乃さんに完全なエクスカリバーを見せるって理由だけで計画されたんですよ? なのにアポを取ってあるアドラメレク様が、美味しいところを持っていくとか理不尽すぎる! この日の為に用意したセリフの数々が無駄になるとか許せん!」

 

 ストーップ!

 今、露骨に私の名前が出ましたよね?

 まさか、この紛争を生み出したのは私ですか!?

 

「ほれ、前にアザゼルが神器とそれ以外の判別をする実例として”極力完全なエクスカリバー”を見せると言ったじゃろ?」

「……い、言いましたね」

「悪魔と天使を同じテーブルに着かせる為に、出来レースで事件を起こすプランがあったらしいんじゃが、約束を守るべく計画を一部改変してエクスカリバー紛争なるものをでっち上げたわけだ。内容は至ってシンプル。教会で研究されとるエクスカリバーの破片を盗み出して連中を挑発。同時に魔王の妹の管理地で問題を起こして全ての勢力を一箇所に集め、争いの無為さを実感させるというものよ」

「そして、その責任者が俺。本当ならぼちぼち再結合したエクスカリバーを派手に完全破壊させたと見せかけ、核だけこっそり手中に収める頃合でした。そして全て終ったときには、ラスボスとして責任を全部被る筈なのに……」

「そ、それでいいんですか? ブラック企業真っ青の尻尾切りですよ?」

「ところがどっこい。対外的にはアザゼルに独断で動いた処罰として地獄の底に凍結刑を受ける事にされつつ、その実無期限の休暇を人間界で過ごす権利を得る俺です。肝は本当に投獄されているか確認させないこと。ウチの管理下なら、バレる事はありませんし!」

 

 そして、舞台人として我が世の春を謳歌すると。

 なんというマッチポンプ。被害をこうむるのは他の種族だけとか賢すぎませんか。

 

「でも、悪役はお爺様が演じてしまった」

「……これだけ正面から暴れられると、後からのこのこ出て行っても二番煎じ感が酷い。これからどうしたものかとクレーム&相談中なわけで」

「役者が台本に無いからと、アドリブ出来ずに大成できるんですか……?」

「それを言われるとぐう根も出ない。頼りのアザゼルも、釣りに嵌って忙しいと助力を拒否した現実が。今頃はカワハギ狙いで釣針垂らしてるんじゃないですかね……」

「責任放棄して遊び呆けるトップとか……それでよく堕天使の組織が回りますね」

「副総督のストレスを代価に、我がグレゴリは安定を得ていますからなぁ。かれこれ何世紀を跨いで変わらない仕組みですとも、ええ」

「楽しそうな組織なことで……」

 

 しかし、恐ろしいことに責任の一端は私にもあることが判明してしまった。

 義理があるなら果たすのが人情。

 何とか新たに脚本を書き直して、滞りなく物語を終わらせないといけませんね。

 コカビエルさんは当てにならそうだし、私がしっかり完結させるしかない!

 武力ならともかく、文才を試されるのは人生初ですよ……。

 

「では、遺憾ながら私も協力しましょう。とりあえず状況を確認して、今一度シナリオを組み直しますか。お爺様は、現時点における各勢力の動きを調査して貰えます?」

「それは済んでおる。ミカエルは下の暴走をわしが見逃す代わりに何が起きようと黙認すると約束し、サーゼクスも内輪で済ませるのなら目を瞑ると確約した。様は事情を知らない下っ端連中を騙して、上手いことオチを着ければよいだけよ」

「それはナイスな情報です。ちなみにコカビエルさん、使える手駒とかあります?」

「一応、中ボス相当として引き込んだバルパーなる神父が。こいつは人造聖剣使いを生み出す為に人体実験で相当な数を殺している屑でしてね、それとなく勧誘しただけであっさり寝返った愚か者です」

「他には?」

「殺せれば幸せ、と豪語するエクソシスト崩れも一人。確かこれ幸いとバルパーが体を弄り、こちらの持つエクスカリバーを持たせてあったような気が。後は土壇場で俺を倒す役目を帯びた、白龍皇ってのも近々来訪予定」

「エンターテイナーなコカビエルさんに脱帽です。そうなると悪役の数は十分。問題は誰を正義の味方に据えるかですね」

「爰乃さんは如何です? 聞けば英雄として覚醒したと聞きましたよ?」

「動機が弱いかと。と言うか下手にお爺様の身内が片をつけると、いよいよそちらが空気になります。それを避けるためにも、誰もが納得する因縁を持つ人材が欲しい所」

「確かに難しいところですなぁ。主役予定だった聖剣使い二人はもう無理でしょうし……」

 

 済みません、片割れは私が仕留めました。

 そんな後悔をしていると、障子の向こうから声が聞える。

 

「兵藤様とそのお仲間をお連れした事を、アレイは報告します」

「む、意外と早かったな。母屋で適当にもてなし、眷族が離れに揃い次第連れて来い」

「マスターの命令受諾を、アレイは頷きをもって表現します」

 

 ん、また知らない声が。知らない身内がまた増えたのでしょうか。

 どうせこの後に控えた顔合わせで会えるので追求しませんけど、抑揚の無いフラットな感じが逆に印象的ですね。

 

「すまんが話は後じゃ。弟子の相手が終わり次第、また続きを検討しよう」

「俺が顔を出すと揉めそうですしねぇ。客間で待たせてもらいます」

「見つからんように気をつけるのだよ?」

「仮にも聖書に名を残す堕天使、それくらい朝飯前ですとも」

 

 フレンドリーな悪魔と堕天使を見てしまうと、私が何処に属すのかさっぱり分からない。

 祖父は大物悪魔で、魔王とも顔見知り。

 堕天使の総督には何故か気に入られ、たまに家庭教師の真似事をしてくれる間柄。

 ……あれ? ひょっとすると、敵対してるのは教会勢力だけなのかな?

 

「爰乃や、せっかくの艶姿を兵藤君達にも見せてやりなさい。弟子への我が眷属のお披露目も兼ね、離れにて一つ謁見と洒落込もうではないか」

「……私の役回りは、本当にお姫様なんですね」

「うむ。どうせ主と仰ぐならば、見目麗しい少女の方がやる気が出ると言うものよ。いずれはお前が引き継ぐ眷属に、初回くらいは応えてやるのも上の役目と覚えておくが良い」

「勉強になりますって、え? え?」

「落ち着いたら話そうと思っていたが、サーゼクスより余興の褒美として悪魔の駒ワンセットがお前に与えられた。レーティングゲームへの参加も特例として認められた故、移籍を同意した眷属から爰乃が選んだ者を順次譲っていこうと考えておったわ」

「初耳ですよ!?」

「この後のプレゼンを見て選ぶ参考にしなさい。ちなみに今回来なかった眷族は総じて配下というよりも友人故、譲ることは難しいぞ」

「……この話は、もう少し落ち着いた時に聞きたかった」

 

 完全に納得したわけじゃないけど、反論する意味も感じないので頷いておく。

 着物を汚さないようにお爺様の後を付いていく私は、突然の爆弾発言に驚きを隠せない。

 でも、魔王様も粋な事をする。

 これで私も王様。ゲームで遊べるのは大歓迎です。

 最強クラスのアドラメレク眷属から一部を受け継ぎつつ、残りを自分の目で見てスカウトして補強。考えただけでわくわくが止まりません。

 

「鬼灯と弦はお前に懐いている。意を汲み取るのだよ?」

「はい!」

 

 軽くコカビエルさんの事を忘れそうになる私は上機嫌。

 しかし気付く。

 イッセー君達に、過剰包装したかのような姿を見せるという事実に。

 笑われる可能性は十分。そう思うだけで憂鬱になる。

 羽のように軽かった足取りを鉛のように重くしつつ、社へ向かう私だった。

 

 

 

 

 

 第十七話「真実の鏡」

 

 

 

 

 

「こちらになります、とアレイは皆様を誘導します」

「は、はい」

 

 まるでガラス球のような目はどんな感情にも染まらず、言葉にも心が全く篭っていない。

 薄紫の髪をツーサイドアップに結わえ、全身から無機質っぽさを漂わせる人形の様な少女を前に俺達は困惑していた。

 本人曰く、アドラメレク眷属の僧侶で名はアレイ。

 小猫ちゃんの仙術探査では魔力を持たない一般人と判断されたが、さっきの化け物剣士と龍の仲間である以上そんな筈が無ぇ。

 きっと漫画でよくある、真の実力を隠している系列なんだろう。

 

「それでは60秒後に入室する様に、とアレイは告げます」

「分かった」

「アレイは所定の位置に戻ることを皆様に報告します」

 

 目の前でピシャリと閉められた障子の向こうにアレイさんが消えたのを見計らい、俺は仲間に疑問をぶつけることにする。

 

「ロボっぽくね?」

「そうだね。ひょっとすると歳を経た人形……例の機動兵器かもしれないよ」

「神社だしなぁ、そういうの祭られててもおかしくないか」

「……でも、少し気の流れがおかしいことを除けば間違いなく生き物です。ゴーレム等の無機物ではありません」

「上手く化けたのか、それとも僕らの想定外なのか。今は敵じゃないことに感謝して、流されるのが吉と僕は思う」

 

 ここに来るまでに起きた数多くの理不尽のお陰か、木場がいつもの冷静さを取り戻している。

 やっぱ、お前は熱くなるよりこっちが似合う。もう我を忘れるなよ?

 口には出さないが、小猫ちゃんも同じ考えに違いない。

 ほっと胸を撫で下ろし安堵しているのがその証拠だ。

 そんな事をしている内に、指定の時間は過ぎた。

 思えば幾度と無く遊びに来ているが、一度も入った事の無い場所だと今更気付く。

 若干の恐れと期待を抱きながら中に入ると、そこは時代劇で見たような感じ。

 窓一つない空間に蝋燭の明かりが灯され、ゆらゆらとした光が幻想的だ。

 奥の上座には神主っぽい服の爺さんと、見惚れそうなくらい着飾った爰乃。

 普段の活発さは形を潜め、代わりに発散するのは和の香り纏った凜とした可憐さ。

 こりゃ確かに姫様だ。でも100点じゃないのが爰乃らしい。

 外見をぶち壊すような死んだ魚の目が、不本意な本心を如実に語っている。

 

「皆様お揃いのようですし、姫様と兵藤様方に眷属をご紹介致しましょう。先ずはこの私、騎士にして眷属の纏め役を受け持つ河上弦。次は鳥、皆様に名乗りなさい」

「はーい」

 

 爰乃から少し離れて平伏するのは三人と一匹。

 いつのまに戻ったのか、弦さんが進行役を勤めるらしい。

 最初に発言を促されたのは、天使の様に愛らしい小学生くらいの少女だ。

 見るからに好奇心一杯の大きな瞳でキョロキョロそわそわと落ち着かない様子だったが、自己紹介を命じられて元気一杯に両手を挙げて返事をする辺りが実に子供っぽい。

 しかし、こんなに可愛い子を鳥って呼ぶって……弦さんと仲が悪いのだろうか?

 

「アンはね、アンズーって鳥でご主人様の女王なのー。姫様姫様、アンおなかへったー」

「良く分かりませんが、一段落したらお菓子をあげましょう。良く出来ましたね」

「わーい」

 

 爰乃め、まともな会話を諦めて妥協したな。

 鳥ってことは、雷の雨を降らせたのがこの子か。

 天真爛漫っぽいのに、あれだけの事をするなんてちょっと信じられないぜ。

 閑話休題、アンズーがどんな種族なのか分からん。

 木場も小猫ちゃんも首をかしげているので、俺が無知な訳じゃないらしい。

 

「次、我。我、戦車。八岐大蛇の鬼灯。猫、超旨そう」

「食べちゃ駄目ですよ」

「了承」

 

 唯一匹、人型を取らなかった黒い蛇が鬼灯さんか。

 あれだけデカ……って、八岐大蛇かよ! そりゃ強い!

 あまりのビックネームに木場に救いを求めれば、こっちもビックリしている様子。

 小猫ちゃんなんて餌を見るように品定めされて、超警戒してるよ!

 

「最後のシメは任せろと、僧侶のアレイはドヤ顔で立ち上がります」

 

 お、初めてまともそうなのが―――

 

「形式番号GP01X。次世代主力量産機試作一号”アレイオン”搭載、機体統括兼パイロット支援AI”AR-0”は、マスターに次ぐ優先順位第二位として香千屋爰乃、通称姫様を登録したことを報告します」

「……ひょっとして、さっき大暴れをしていたロボの人ですか?」

「この体は、パイロットの残した写真の人物を模して生み出した生体インターフェースユニット。円滑な交渉を行うための仮の姿です、とアレイは同意の意を示します」

「悪魔なんだよね?」

「魔力と呼ばれるエネルギーを宿した存在を悪魔と呼称するのであれば、悪魔カテゴリーに属することをアレイは断言します。次元の狭間より回収して両足に追加された二基の改ゴグマゴグ型魔力炉はその要件を満たし、悪魔の駒により確固たる人格を確立したAIは生物特有の”我思う故に我あり”をクリアした、とアレイは姫様に解説を実施します」

「そ、そうですか。悪魔の駒って万能ですね」

「詳細がグレモリーに漏れても対処不能な子ですので、今回ばかりは補足を。アレイはロードス島の巨人伝説や、戯曲で言うところの機械仕掛けの神の元にもなった、地球圏最古であろう科学の申し子です。何でも別の星団で試験運用中に事故に巻き込まれ、何の因果か古代ギリシアに漂着。パイロット存命の頃は人に協力していましたが、死亡後は自己保存を優先して海底にて休眠。紀元前より幾星霜の時を超えた結果、いわゆる付喪神に変貌を遂げた変り種だったりします」

 

 待て。

 

「……それはつまり、異星人の兵器」

「その通りです姫様。今だ使われている技術の多くはオーバーテクノロジーで、主動力に至っては科学者も匙を投げた原理も良く分からない永久機関。ウチの投資部門が電子取引で無双出来るのも、アレイの演算能力あってこそだったりします。何せ生体演算機とやらのお陰でサイバー戦なら既知世界最強ですから」

「それはすごいですねー」

 

 爰乃のどうにでもなーれがさらに強まった!

 いや、気持ちは分かる。

 長い年月を経た付喪神って割に、超絶新型じゃねえか。

 実はあれか。ガーゴイルの親友が使うような発掘戦艦やら、一万年と二千年前からオープンゲット出来るマシンとかもどっかに眠ってるのか?

 これでUFOの存在が証明されてしまった……本当に世界は広い。

 しかし、鳥の人も含めて化けるのが得意だな!

 後で正体を見せてください。巨大ロボットとか男心をくすぐるんです。

 

「以上が今回集まった女王、戦車、騎士、僧侶のプロフィールになります。如何にお屋形さまの客と言っても外部の人間に内情を開示出来ない為、簡単に名と役割しかお伝え出来ない事をお許しください。姫様が望まれるならばこの弦、何時如何なる時も馳せ参じます故、今はこの位で納得いただけると助かります」

「……忠誠が重たい」

「何か言われましたか?」

「了解しました、と呟いただけです。私はこれからイッセー君達の相手をします。皆さん席を外して貰えます?」

「アレイと弦はわしに続き、今後の経営戦略についての打ち合わせ。鬼灯と杏は、いつものように自由行動。妙なのが紛れ込んだら殺れ」

「我、了解。腹いっぱい、動きたくない。アン、任せた」

「いいよー、縄張りの散歩してくるー。変なのみんな、ばーらばら!」

 

 俺達グレモリー眷属を無視して、アドラメレク眷族は好き勝手に出て行ってしまう。

 あれだな、客として認識されても扱いは最低限。

 敵じゃないだけで、味方でもない感じなんだろう。

 てか、爺さんの発言が一番の驚きっす。経営って、何してるんすか。

 まぁ部長の家も人間界で事業展開しているらしいし、これも上級悪魔の嗜みか?

 

「さて、邪魔者も居なくなった所で話を聞きましょう。何でもエクスカリバーに用があるとか?」

「主に用事があるのは僕だ」

「具体的には?」

「一言で言ってしまえば、エクスカリバーをこの世から葬りたい」

「こちらで確保した分はお爺様が買い手を決めています。事情次第では譲ってもらう事も可能ですし、事情を説明して貰えますか?」

「……君相手じゃ力ずくは無理だね。恥かしい昔話になるよ?」

「人に歴史あり。聞かせてもらいましょう」

 

 今回ばかりは木場が主役で、俺と小猫ちゃんはサポート要因。

 思いつめた表情で過去を語る木場を黙って見守り、爰乃の様子を伺う。

 最初は陰惨な話に眉を潜めていたのに、ある瞬間を境に表情を変えたのは何故だ。

 他の連中は気付いていないが、俺の目は誤魔化せないぞ。

 人差し指を頬に当てるそのリアクションは、ろくでもないことを思いついた時の癖だよな?

 

「……暫く待っていて下さい」

 

 そう言って急に席を外した爰乃を流し見る俺は、経験則から来る嫌な予感が現実のものにならないよう祈るのみだった。


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