「長らく待たせてしまい悪かったね、そろそろ始めようか」
「構わんさ。私は夢の結晶を眺めるだけで、幾らでも時間を消費出来る。それに今生の別れを邪魔するほど野暮ではないのだよ」
「その慈悲があの頃に少しでも……感傷だね。改めて名乗ろう。僕は聖剣計画最後の生き残り、木場祐斗。同志たちを失敗作と処分したお前を絶対に許さない。その首と砕いたエクスカリバーを、皆の墓前に備えられる日を心待ちにしていた」
「私も同じ思いだとも。かつての駄作を人に見られる恥ずかしさがお前に分かるか? この国でいう所の黒歴史。消し去りたい過去の遺物を見つけられたのは、まさに福音。神は私が成した成果を認めてくださり、悪魔を滅ぼせと仰られているのだろう。さらなる忠誠を示すチャンスをお与えになった主よ、私は正義の代行者として必ずやご期待に沿いましょう!」
「……何事もポジティブな人だ」
危なかった。自制心を失って、同じ過ちを繰り返す所だったよ。
剣の鋼は冷たいもの。
どんな雑音が混じっても、冷徹に広い視野を失うな。
バルパーは僕以外が先へ進んでも無関心だが、いつ不意を打つか分かった物じゃない。
先ずは足止め。
囮から注意を逸らせないだけのプレッシャーを与え続けるのが今の仕事さ。
殺すだけなら何時でも出来る。物事の優先順位をしっかり考えろ。
「で、僕の相手は何処に? フリードは地獄でバカンスに忙しいと思うよ?」
「目の前にいるではないか」
「……お前が聖剣を扱えるはずがない」
「可能にしたのだよ。聖剣を扱う為に必要な因子の特定は貴様らのお陰で大きく進み、ついには抽出すらも可能となっている。ほれ、これが貴様の同志とやらの成れの果て。フリードと私でほぼ全てを使い切ったので、これが本当に最後の一つだがね。せっかくだ、記念品としてくれてやろう。優しい私に感謝したまえよ?」
「これが、皆の……因子だと?」
足元に転がされた光る球体を拾い上げ抱きしめる。
エクスカリバーに固執している以上、罠ではないと確信していた。
そして理屈を超えて分かった。これは苦楽を共にした仲間達の残滓だと。
体が勝手に涙を零し、胸に広がる喪失感がその証拠。
僕も部長に助けられなければ、ここに混ざっていたと思う。
「研究結果を報告する度に大喜びだった癖に、少し素材の補充を願い出ただけで私を異端指定して排除にかかった馬鹿共が何をやっているか知っているか? 連中め、研究を引き継ぎ、さらなる実験を続行中だぞ。まぁ、ミカエル主導との事だ。被験者から因子を取り出しても殺しはすまい。人道的を気取ろうが、結局搾取している事実は変わらぬのに実に偽善で滑稽。そうは思わないかね?」
「……そう、だね」
「そうかそうか、少しは頭が回るじゃないか取り零し君。褒美に聖剣でその身を消滅させる栄誉を与えよう!」
生気を失った僕へ迫る聖剣を、他人事のように感じる。
いつの間にか涙は枯れ、今だかつて無い静寂で心が満たされていた。
曇りない涙で満たされた鏡のように静寂なる泉。そんな言葉が相応しい。
手遅れになる前に魔剣で刃を受け止め、さらには切り払う。
不思議な事にフリードの不完全な聖剣にすら及ばなかった神器は、今や当たり前のように桁違いのエクスカリバーと拮抗している。
これは……この感覚は何だ?
「まだ生に未練があるのか、この悪魔めっ!」
「悪魔で結構。お前を葬るためなら何度だって地獄から帰って来るとも。僕は同じ過ちを繰り返さない為に、ここで怨嗟の輪を断つ。ああ、不本意ながら礼を言っておくよ。バルパー・ガリレイ、お前が居たからここまで生きて来られたのだから」
「狂ったか!?」
「極めて正常さ。どうも僕は自分で思っているよりも直情型らしくてね。怒りと悲しみが限界を突き破り、初めてこの感覚に至れた。師匠とアドラメレク様が真髄として伝授してくれたのに、どうしても掴めなかった境地……即ち明鏡止水」
そもそも研究者風情が、付け焼刃の拙い技で本職に勝てると思ったら大間違いだ。
聖剣の特殊能力でゴリ押そうと、御せない力には何の恐怖も感じない。
本来なら掠めるだけで並の悪魔を消滅させるハンデは絶大で、フリード戦と同じスペックなら成す術もなくなます切りにされていただろう。
しかし、僕は超えられなかった壁を一足飛びに数枚乗り越えている。
変化は心中だけ。身体的には何も変わらないのに、視力の悪い人が始めて眼鏡をかけた様な全能感が凄い。
「たかが擬似魔剣如きを何故折れぬ!?」
「たかが、じゃないから」
実際は二度受けるのが限界なんだけどね。
からくりは簡単。
二合目を受ける前に、手中の魔剣を新規に上書くだけ。
勘違いさせる為に試した小細工だけど、見た目が変わらないから上手く行ったよ。
ほら、威力を上げようとするから雑になる。
夢中になって、せっかくの多様性も忘れているよ?
”天閃”に頼らなければ僕について来れないのも分かるけど、”擬態”で剣先を割って手数を増やつつ”破壊”を利用した面制圧なんてのも一つの手じゃないかな。
単調過ぎると、パターンが読み易くなるって気付いてる?
「少し黙ろうか」
攻撃と攻撃の継ぎ目に割り込み、足を絡ませ尻餅をつかせる。
この辺が素人の悲しさ。
結局、ゼノヴィアと同じで武器に振り回されているからこうなるんだ。
少し前の僕も同じだったんだろうね。
炎の魔剣に氷の魔剣。果ては風に闇と多様性を売り物にしているのに、どれもこれも半端にしか扱えていなかった。思い出すだけで恥かしい。
使いこなすとは、武器の性能を100%引き出す事じゃない。
自分の力を上乗せして、120%の領域に足を踏み入れる事なんだ。
だから命を預けられる。
だから剣と一体化出来る。
そんな全幅の信頼を置ける一振りを、僕もこれから得ようと思う。
「ええい、最後の欠片さえ揃っていればこんな事にはっ!」
「負け惜しみは見苦しいよ?」
「負けてなどおらぬわ!」
「なら、その聖剣信仰に凝り固まった心を折る所から始めよう」
「何を……するつもりだ」
「お前が捨てた、僕の過去を受け入れるだけさ」
バルパーが立ち直る前に回収した球体を胸に押し付け語りかける。
僕一人では聖剣を扱うだけの力が足りなかった。
それは皆も同じだった。
だけど、力を集めればそれは叶う。
忌々しいことに、バルパーがその実例だからね。
頼む、もしも一片でも心が残っているなら力を貸してくれ。
僕達を物として扱った外道を一緒に討とう!。
「馬鹿め、因子を受け入れるには特殊な手順を踏まねば―――」
「それは君の理屈だ。親友は言ったよ、無茶を通せば道理が引っ込むと。意志の力は時に常識を凌駕すると!」
すると、僕の覇気に応じるようにして球体の輝きが増す。
そして聞えて来たのは―――
生き残ったから、逃げ延びてしまったからと罪悪感を感じる必要は無いよ。
君は僕達全員の代表だ。
たとえ神が居なくても。
たとえ神が人を見ていなくても。
僕達はここに居て。
わたし達があなたを見ている。
一時も同胞の事を忘れず、こうして宿願を叶える寸前まで来た君を恨む?
そんな仲間は何処にも居ないよ。
だから、気兼ねなく受け取って欲しい。
ほんの僅かな力だけど、きっと君の役に立つ。
代価が許されるなら一つだけ約束してくれないか?
この力で今度こそ仲間を守るって。
まぁ、聞くまでも無いだろうけどね。
命に代えても約束は果たそう。
わたし達が願い、誰もなれなかった素敵な騎士様になってね。
物語の主人公に負けない活躍をするとも。
なら、これでさよならだ。
こうして話すことは出来なくなるけど、心はいつも側に居る。
辛くなったら、それを思い出して頑張って。
残念ながら新しい仲間は陽気でね。
後ろ向きになることを許してくれないんだ。
それは頼もしい。さあ、覚醒の時間だ。
任せたよ、僕らの代わりに精一杯生きることを。
「ありえん、私の研究では絶対に出来ぬことだ!」
「奪った力を無理やり使うのと、託される事の違いをあの世で理解すると良い。今こそ見せよう、これが聖剣因子の本当の使い方だ!」
語らいが終わると同時、球体は僕の体に溶けて消えた。
さあ、ここからがショータイム。
左手に使い慣れた黒の魔剣。
右手には、魔剣と色違いの白い聖剣を生み出す。
「先ずはこのままお相手しよう。皆に託された神器”聖剣創造”その身で味わえ!」
「ははは、クズが集まっても結局は紛い物が限界ではないか。偽者では至れない本当の聖剣で打ち砕いてくれるわ!」
神器が通用すると見せ付ける為、あえて足を使わずにそのまま剣を交わす。
相性問題で不利だった魔剣創造と違い、聖剣創造は同属性の力を秘めている。
やはりと言うべきか、聖属性同士の激突は有利不利が存在しない。
勝てる、そう思ったのも束の間、軌道を変えようとした刃がふいに消えた。
透過現象、そんな力もあったんだね。
だけど悲しいかな、殺気が見え見え。
僕は目も向けず実体化した刀身を受け止め、火花を散らした。
「……研究者の君は、自分で剣を握ろうとした時点で終わっている」
「天に選ばれしこの身は負けんよ!」
目を血走らせ、しかし肩で息を始めているバルパーは僕から見ても限界だ。
その気になれば何時でも殺せるけど、絶望を味わって貰わなければ気が済まない。
「天に選ばれる? それはこう言う奇跡を起こせる存在の事さ」
聖と魔、対極に位置する力を今こそ一つに。左右の剣を両の手を合わせる事で合一させ、僕が魂をかけるに相応しい一本を創造する。
「これぞ聖剣創造と魔剣創造、二つの力を融合させて作り上げた神器”双覇の聖魔剣”。聖と魔の力を同時に併せ持つ聖魔剣を生み出せるこの力の誕生を、君は想像も出来なかっただろ? 想像力の欠如は研究者にとって底の浅さの証明だ。思うに、君は使えない底辺の研究者だったんじゃないかな?」
「ありえんありえんあえりえん」
「君は命を奪わない方法を見つけられず、後進は資料があったにせよ方法を見出した。とんだ道化だね、これでは無駄に消耗した資金と時間が勿体無い」
「黙れぇぇっ!」
それを待っていたよ。
逆上したバルパーが反射的に放ってきた技も何も無い大振り。
そこにカウンターを放つ。
エクスカリバーを覆うオーラは魔剣の波動で弱まり、聖剣は残る聖なる力を素通し。
二つの属性を併せ持つことで、こんな芸当も可能なんだ。
結果として彼の刃は、そこいらの剣と変わらない存在に成り下がっていた。
これが最後の一撃。
僕は全身全霊を振り絞り、人生最速の連撃を放つ。
「僕らの力はエクスカリバーを凌駕したよ」
キン、と儚い金属音が鳴り響く。
それは最強と謡われた聖剣が砕け散る最後の悲鳴だ。
同時にバルパーの首が落ち、残された体は鮮血を噴出しながら崩れ落ちる。
その顔は絶望に染まり、前衛芸術の様な表現に困る表情を浮かべている。
エクスカリバーを破壊する様を見せ付けた後に、それを理解させる時間を与えて斬ったんだ。これなら皆も満足してくれるよね?
「さて、次は今の仲間との約束を果たさないと。待っていてくれイッセー君」
敵を討つよりも先に心の整理が付いてしまったせいか、いまいちやり遂げた実感が無い。
僕にとって肉塊以上の価値を見出せないバルパーの亡骸は完全に放置。
新たに得た力を仲間のために振るうべく、僕は剣を掲げるのだった。
「……あの騎士、一皮向けましたね。もう少し育った暁にはこの私が遊んであげましょう。さて、お仕事済ませて見物に戻りませんと」
全速を出してその場を去った瞬間、ゆらりと現れた人影が居たことを僕は知らない。
第二十三話「聖剣伝説 -メインフェイズ2-」
「……やっと来たか、リアス・グレモリーとその郎党よ」
「ええ、約束通り私たちだけよ。人質は無事なのかしら?」
「ふっ、アレを見ろ」
コカビエルが顎で示した先、旧校舎の時計の辺りに浮かぶ爰乃の姿があった。
結婚式で見るような純白のドレス姿で逆さ十字に磔にされ、意識を失っているのかぐったりと動かない。
随分と高待遇じゃねぇか。
お前も負けないVIP待遇でもてなしてやるよ。
「俺を倒せれば娘は解放される。しかし、失敗すればこの学園を残して街が吹っ飛ぶぞ? 俺の仕掛けた術式はあの十字架を起点に設定してあるからな」
「なっ!?」
「これはゲームだ。但し、やり直しは効かんがね」
「コカビエル、貴方はそうまでして世界を掻き回したいの!」
「言っただろう、俺は戦争を望んでいると。ここまで暴れれば、最低でも火種は起こせる。どの道、貴様らの負けだ。この状況に持ち込まれた時点で俺の勝ちは揺るがん!」
「まだよ、ここで首魁を打てばまだ治められる。可愛い下僕達、行くわ―――」
「おおっと、気が早いぞ魔王の妹。俺もアザゼルに感化されたのか、お遊びが嫌いじゃない。このまま戦えば100%俺には勝てんぞ? だからチャンスをやろう。一服終えるまで俺からは手を出さない、時間内に倒せぬまでもダメージを与えて0を1に変える努力をして見せろ」
「ふざけないでっ!」
いやいや部長、舐められるって最高のアドバンテージっすよ。
せっかく譲歩してくれるなら、喜んでハンデ貰いましょう。
確かに部長の正々堂々を愛する姿勢は分かります。
でも、格上相手に綺麗ごとは通じません。
俺は勝つ為なら、泥水だって喜んで啜ります。
汚かろうと、卑怯だろうと、どんな手段だって選びます。
「まぁ、好きにしろ。もう話すこともあるまい。悪いが強者の余裕として一本吸わせてもらうぞ」
「……この私を舐めると、一体どうなるか教えてあげるわ」
この期に及んでまだ悠長な事を言っている部長に業を煮やした俺は、主に代わって最善を尽くすべく行動を開始する。
煙草に火をつけて、紫煙をくゆらせている今が好機なんだから。
「朱乃さん、後の事は考えずフェニックス戦みたいな一発をお願いします!」
「うふふ、任せて」
「小猫ちゃんはいつも通り!」
「……了解です」
俺のバランスブレイカー迄のカウントは残り十秒。
鎧を纏い次第、速攻で殴りに行く!
「え? その、イッセー?」
「部長もぼやっとしないで、大きいのを朱乃さんに合わせてぶつけて下さい!」
「わ、分かったわ」
「アーシアは―――」
「分かってます!」
「いい子だ!」
これで最低限の布陣は整った。後は―――
「わ、私は何をすればいいんだ?」
「小猫ちゃんの援護! 間違っても味方を攻撃すんなよ?」
「任せろ」
木場にはああ言ったが、コイツってマジに使い道無いな。
前衛部はお互い行動が読めるから三人同時に仕掛けても邪魔になんねえけど、阿吽の呼吸の取れないゼノヴィアが混ざるのは困る。
何をするか見えない分、逆に行動が制限されかねないんだよ。
今は小猫ちゃんしか前に出て無いから問題にってないかもしれんが、木場が合流して俺も混ざりだせばどうなるやら。
まぁ、いよいよになったら遠くにぶん投げよう、今そう決めた。
『相棒、お前も騎士に負けないリアリストの道を歩み始めたな』
今までが甘すぎたんだよ。
『良い兆候だ。よし、禁手が可能になったぞ』
おう!
『Welsh Dragon! Over Booster!!』
ライザーを潰した時よりも長く、そして有り余るパワーをより使いこなせる様になった俺の最強フォーム。爺さんには通じなかったが、コカビエルは比較対象として格下。そう思うだけで何とかなるような気がするから不思議。
恐竜を相手にした後に遭遇した鰐みたいな?
心意気は十分。
さあ、俺も混ぜろよ堕天使様!
「コカビエル、お前に一つだけ聞きたい事がある」
「何だね赤龍帝君」
まだ溜めの終わらない先輩ズの援護はまだにしても、小猫ちゃんとゼノヴィアの防御を考えない捨て身攻撃を受け流すコカビエルはさすがだ。
すぐにでも殴りに行くべきなんだろうが、その前に一番の疑問を解消しておきたい。
「―――やった」
「ん、聞えんぞ」
「爰乃の着替えは誰がやった!」
「は?」
「何だかんだ言ってアイツの正装は和服ばっかだから、フリル多目のドレス姿とか始めて見ました。本当にありがとうございます!」
「こ、これはご丁寧にどうも」
「じゃねえよ! 俺が言いたかったのはそんな事じゃねぇよ!」
「逆ギレとか、ゆとり世代超怖い」
「質問に答えろ!」
「あーうん、ならば、俺がやったと言うべきか。ぶっちゃけ女の乳を揉んで堕天した総督と違い、人の娘、それも年端も行かぬ小娘に興味は―――」
「年頃の娘でリアル着せ替え人形とか変態にも程があるわ!」
「落ち着けーっ!?」
何やら”ちゃうねん”とか聞えた気もするが、風の音に違いない。
「つ、つまり、おっぱいも見たり触ったりしたのか!?」
「前言撤回は出来ん……そりゃもう、貴様の想像以上の事を」
「チクショウ、もう殺す! 絶対に殺す!」
苦節十数年。未だに全裸を見た事も無い俺を、堕天使はあっさり超えやがった。
これが格差社会、現実ってのは非常過ぎる……。
「よ、よく分からんが、女が欲しいのか?」
「俺はハーレム王になる男!」
「ならば俺と一緒に来い。選り取り見取り、様々な美女を見繕ってお前に与えてやろう。顔の効く俺ならば、堕天使に限らず様々な種族から選びたい放題だぞ?」
「……詳しく」
あれ、こいついい奴じゃね?
「イッセー、涎を拭きなさい! こんな時にどうして貴方はそうなの!?」
「す、すみません。あまりの好条件に一瞬だけ心が揺れまして」
「そもそも私とアーシアが居るでしょう! 堕天使を倒せば何でもしてあげるから、本気で戦いなさい!」
「マ、マジですか!? おっぱい吸ったりしてもいいですか!?」
「それでやる気を出してくれるなら、安い買い物よ」
譲れない物がベットされている時点で交渉は絶対に成立しないのに、断るだけで勝利ボーナスが追加されたぜイヤッホウ!
小猫ちゃんの蛆虫を見るような目も、アーシアの非難がましい涙目も怖くない。
だって俺は今、男として次のステージへ登る権利を得たんだからな!
「ふふふふ、今の俺なら爺さんにすら一発いいのを入れられるだろう。夢を叶えるためにさっくり死んでくれコカビエル御大!」
鎧になって左右一対となった篭手の宝玉が放つ眩い赤の光は、俺の闘志の高まり応えるようにとてつもない力を俺に供給してくれている。
相棒、お前も応援してくれているんだな!
『……全力で否定したいのだが』
ははっ、この素直になれないドラゴンさんめ。
『もうやだこの使い手』
ドライグがどーにでもなーれ、と匙を投げた。
それでも強化が止まらない辺り、真性のツンデレだと思う。
「……赤龍帝とは過去に何度もやりあっているが、女の乳をモチベーションにする話は聞いたこともない。お前はいったい何者なんだ? 本当に赤龍帝なんだよな?」
何故か恐怖の目を向けられる不思議。
「俺はリアス・グレモリー眷属の兵士、兵藤一誠! もう会うことも無いだろうが覚えておけ、おっぱいは世界を救う。乳神様は最高だとなっ!」
「まったくわけがわからないよ」
とっくに煙草は灰になり、猶予を終えているのにコカビエルは動こうともしない。
まぁ、それは俺の身内もみんなそうなんだけどさ……
『真面目で努力家だと思っていた俺の純情を返せっ!』
相棒が無機質な声で訴えてくるが、ツンデレの言葉を真に受けてはいけないことを俺はギャルゲーから学んでいる。
つまりドライグの罵声は勝算の裏返し。ちゃんと分かってるから安心しろ。
「行くぜコカビエル、おっぱいの偉大さをその身に刻み込んでやるぜ!」
朱乃さん以外、全員から異常者を見るような目で見られたのは気のせいだよな。
うん、多分きっとそうだ。そう思いたい。