赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第28話「災禍の訪れ」

 最近、爰乃とすれ違うことが増えた気がする。

 何が忙しいのか学校が終わると部室にも寄らずに帰ってしまうので、休み時間しか話すチャンスが無いんだよなぁ。

 俺は俺で会議の件で、何故か家に泊まってる魔王様のお相手で手一杯。

 たまの休みも呼び出しが多くて、遊びに行く暇すらないんだぜ?

 前の日曜もミカエル様からアスカロンとか言うドラゴン殺しの聖剣貰って、その調整に丸一日を費やした。

 けど、これは俺的にOK。作業場所が姫島神社だったから、朱乃さんに甘えて膝枕をして貰えるご褒美を貰えたからな!

 毎回、あれくらいの役得があれば何処にでも行きます。

 悪魔をこき使うなら、それなりの代価を皆さん払って頂きたい。

 

「もう疲れましたぁぁぁっ、部屋に返して下さいよぉぉぉっ!」

「弱音を吐くな。これが爰乃だったら、全力で硬球を投げつけられているぞ」

「その人はセメント過ぎますぅぅ!」

「安心しろ。かなり厳しいが、何処にでも居る現役女子高生だ。口を開く余裕があるなら続けるぞ。どりゃっ」

「イッセー先輩の悪魔!」

「お前も悪魔だよ!」

 

 涙目で必死に訴えるのは、俺の純情を踏み躙った僧侶のギャスパー。

 見た目はスレンダー系金髪美少女の癖に、女装趣味の男だったよチクショウ!

 しかも見た物の時間を止めるレア神器持ち。

 それだけ聞くと凄い戦力なんだが、制御が出来ないときている。

 それは余りにも危険と言う事で、今まで謹慎させていたらしい。

 が、コカビエルの一件で戦力強化が急務と部長は判断。

 合流と同時に特訓を開始し、今に至っている。

 

「おいコラ、アーシア止めてどうする。ボールを止めろ、ボールを」

「急に出来るようになる程度なら、とっくに自由自在になっていますぅぅぅ」

 

 特訓の内容は簡単だ。投げつけたテニスボールだけをピンポイントに止め、投手や見物客には効果を及ぼさないと言うもの。

 ちなみにドライグの加護なのか、ギャー介の停止能力はチラ見程度じゃ俺には通じない。

 木場も聖魔剣を握れば防げるらしいが、アイツは魔王様のお供でやってきた本来の師匠に稽古をつけてもらってる真っ最中だ。

 その人も俺の家に泊まってるんだが、まさかの新撰組だぜ?

 その名もズバリ沖田総司。

 薄幸の天才剣士は、婦女子が騒ぐのも頷ける美形でして。

 弟子が弟子なら、師匠も師匠。イケメン死ねよ……。

 話は逸れたが、そんな訳で俺とアーシアの二人で面倒を見ていたりする。

 せめて朱乃さんが居ればなぁ。

 小猫ちゃんを伴って、ミカエルさんのお供に選ばれてしまったのが実に惜しい。

 あの人ならノリノリで、魅惑の体操服を見せ付けてくれた筈。

 きっと、動く度たゆんたゆんに揺れたんだぜ……。

 アーシアは可愛いけど、おっぱい分は少しばかり足りないんだ。

 

「ぐすっ、ど、どうせ僕なんて人間でもヴァンパイアでもない半端者だから、どんなに頑張ってもこのままなんじゃないかと……ご迷惑ばかりかけてごめんなさい」

「お前な、俺は歴史上最弱の赤龍帝と色んな奴に笑われるピエロだぞ? そんな蜥蜴野郎でも、死ぬ気で毎日鍛錬すりゃあ上位堕天使とだって殴り合えるようになったんだ。俺より恵まれた才能を持ってるギャー介なら、必ず同じ事が出来る。もっと自分を信じろよ」

「せ、先輩」

「後、同じ主に仕える眷属に気を使うな。仲間だろ、俺達」

「こ、こんなに優しくされたのは初めてです。がんばりますぅっ!」

「よーし、連続十球止められるまで続行するぞ。何があっても中断しないからな!」

「えうううううううっ!?」

 

 根性論は全ての基本だ。大よそ、これで超えられない壁は無い。

 でも、誰かこの手の分野に詳しい先生が欲しいところ。

 自分の神器すら未知の部分が多いのに、他のまで手が回らん。

 爺さんは能力こそ知ってても、使い方とか分からんだろうしなぁ。

 後で部長にでも陳情してみっかね。

 

「イッセーさん、次のボールです!」

「さんきゅ!」

 

 アーシアから手渡されるボールを握り締め、俺は指導者不在に悩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 第二十八話「災禍の訪れ」

 

 

 

 

 

 ゼノヴィアを拾ってからの一週間は、激動の七日間だった。

 

 月曜

 菓子折を持って現れた天使長の接待。

 皮肉を込めて、コカビエルさん直伝の小悪魔風チキンを提供。

 残念ながら普通に美味しいと言われてべっこり。

 

 火曜

 魔王様に高そうなお店で深酒を付き合わされた。

 一杯千円オーバーの大吟醸、とても美味しかったです。

 

 水曜

 深夜まで続く総督様の三大勢力講座受講。

 ノリは家庭教師にトライ。

 今後はアザゼルさんの事を、先生と呼ぶことにします。

 堕天使と天使の何とかエルが混ざり合って、何が何やら……。

 

 木曜

 セラフォルーと名乗った魔法少女にコスプレさせられてぐったり。

 しかも実は魔王少女。圧倒的な押しの強さに負けなければ……。

 

 金曜

 遊びに来たヴァーリの仲間らしき孫悟空に挑み、入院コースの大敗北。

 でも、キッチリ置き土産は渡した。

 徹底的に内臓を狙ったから、暫くは何も食べられず血尿が続く筈。

 棒術も何となく分かったので、次は最低でも引き分けたいところ。

 

 土曜

 ファイト一発、フェニックスの涙。

 無理やり回復して、ゼノヴィアの生活用品を買いに東京まで遠征。

 例の劇団に顔を出したところ、打ち上げに勧誘されてしまった。

 カジュアルな服に身を包んだコカビエルさんの顔を見たゼノヴィアが上げた、ムンクの叫びが印象的でした。

 

 日曜

 今日こそはと思っていたら、例の会議の当日と言う不思議。

 深夜に開催されるので、昼間はゆっくり出来たのが救いかな……。

 と言うか、私が出席する意味は何処に?

 しかも引率はアザゼル先生。

 私の陣営が何処なのか教えて頂きたい。

 

「先生、帰っちゃダメですか?」

「おいおい、ここまで来てそれは無理な相談だ。お前は何か聞かれたら”素直”に答えるだけでいい。そう硬くならずリラックスしようぜ」

「”素直”に答えればいいんですね?」

「爰乃は鳥と違って空気を読めるよな?」

「……戦闘に突入した場合、キッチリ守って下さいよ?」

「任せろ。な、ヴァーリ?」

「望ましい展開だな。俺は魔王をやる、ミカエルは任せるぞ」

「おいおい、本人達を前にしてそれを言うかよ」

 

 豪華絢爛なテーブルに座る話題の二人は表情を変えなかったが、それぞれのお供は露骨にこちらを睨んで居る。

 堕天使の護衛がヴァーリなら、天使側は凄い美人の天使さん。

 悪魔はグレイフィアさんが、お茶用台車の脇で待機中。

 完全に一触即発。火薬庫で煙草を吸っている気分ですね。

 

「失礼します」

 

 そんな中、扉のノックの後に部長達が入ってくる。

 イッセー君は私の姿を見て目を丸くして

 

 ”何で?”

 

 と訴えかけてくるけど、それは私が一番知りたい情報です。

 

「知っているかもしれないが、私の妹とその眷属達だ。先日のコカビエル騒動で活躍してくれてね、オブザーバーとして呼ばせて貰った」

「俺もアドラメレクの孫を連れてきている。構わんから会議を始めようぜ」

「そうしましょう。今更説明が必要な相手でもありません」

「それでは先ず―――」

 

 会議は順調に進み、ついにあの件へと議題が移り変わる。

 私に言わせれば、これも茶番だ。

 悪魔と堕天使はツーカーなのに、天使だけがコカビエルさんの戯言を信じる不思議。

 部長が魔王様に促され、一部始終を語り終える頃には眠くて眠くて……。

 ミカエルさんがキレ気味の発言をしていなかったら、コロッと落ちていたと思う。

 

「今回の一件は、俺や他の幹部にも黙ってコカビエルが単独で起こしたものだ。奴の処理は白龍皇が行い、コキュートスで永久冷凍刑を受けさせている。目的と諸々の説明は転送済みの資料を参照してくれ。これ以上の説明は必要か?」

「……本当にあなたは身勝手ですね。しかし、組織として大きな事件を起こしたくないと言う点については信じましょう」

「俺は戦争に興味が無いからな。コカビエルも、その辺りが不満だったんじゃないか?」

「ならば今はこれ以上問いません。私からは以上です」

「次は私だ。アザゼル、戦争を望まないと言うのであれば、どうして神器所有者をかき集める。矛盾しているように感じるのだが……」

「単なる趣味だよ。ここ百年は神器の研究に凝っていて、神が神器を作れんなら俺にも出来ないか模索している。例えば同じ神器でも、能力に差異があることをお前達は知っているか?」

「いや……」

「そんな訳で、平均と統計を取る為には数が居るんだよ。何なら一部の資料を侘びとして送ってもいいんだぜ?」

「ほう」

「それにお前達には言うまでも無い事だが、仮に他を制圧しても面倒事が増えるだけだ。天使の次は北欧か? それともギリシャか? 敵は無限に居るのに、まだ交渉可能なご近所と争うメリットはねぇよ」

 

 先生の言い分は尤もだ。

 単純な話なだけ、事情を良く知らない私でも納得出来る。

 

「それはそうだ」

「ですね」

 

 当然、理知的な首脳陣は首を縦に振る。

 

「んならよ、和平を結ぼうぜ。お前達もそのつもりでここに来たんだろ?」

「ええ、どうせ戦争の大本である神も魔王も消滅したのです。このままだらだらと消耗戦を繰り返すことに、何ら意味はありませんから」

「我らも同じだ。唯でさえ転生悪魔の血を入れなければ種の維持すら困難な現状で、もう一度戦争が起きれば本当に滅びかねん。そうなれば天使も堕天使も同等のダメージを受けて共倒れだ。後に残った焼け野原を、他の神話体系に奪われて全てが終わるだろう」

 

 私とヴァーリ以外のお供は目を丸くしているけど、とても当たり前の話だと思う。

 他の神話とやらが他国で、先生達は一つの国の中で争って居る。

 延々と戦って疲弊した所を狙われたら、そりゃ困ります。

 滅ぼされるにしろ、まだ同じ民族の方がマシ。

 最低限手を取り合えると分かっているなら、同盟くらい結びますよ。

 

「さて、同意も得られたなら細部を詰めよう―――」

 

 先生が事務的な話を始めようとした矢先だった。

 嫌な悪寒と同時、瞬きの間に世界が変わる。

 気がつけば足元には霧らしき物が広がり、私以外に誰も居なくなっていた。

 そんな中、槍を回しながら足音を立てて近づいてくる影がある。

 

「はじめまして、関帝の魂を受け継ぐ者よ」

 

 膝を付き平手に拳を当てる中国系の礼を向けてきたのは、私より少し年上の青年だった。

 学生服の上から漢服らしきものを羽織り、威風堂々としたその姿。

 気配には覚えがある。 

 だけど、何処で感じたのか……それだけが分からない。

 

「誰かと勘違いしてません?」

「俺の待ち人は香千屋爰乃だよ。俺の名は曹操、君と同じく英雄の名を受け継いだ初代曹操の子孫だ。以後お見知りおきを」

「それで要件は? わざわざ呼びつけた以上、内緒話なのでしょう?」

「単刀直入に言おう。香千屋爰乃、我が軍門に下れ」

「嫌です」

「最高の待遇を約束するが?」

「そうですか、貴方は初対面の男にホイホイ付いていく軽い女が好みと。尻軽女がお望みなら、他を当たりなさい」

「気高いその心に、フェニックスを圧倒する武力。それでこそ恋焦がれた運命の交差点。どれ程の黄金を積もうと、君の価値には及ばないだろう」

 

 俺格好良いオーラを放つ自称曹操さんは、おそらくストーカー。

 初めて遭遇するサイコパスに、思わず身震いする私です。

 

「確認になるが”今回”は、まだ誰の配下にもなってないだろ?」

「ええ」

「玄徳とて伏龍を従えるのに三度請うている。勝るとも劣らずの価値を持つ君を、一度で口説き落とせるとは思っていないさ。今日の所はこの顔と名を覚えてくれれば満足だ」

 

 配下になれと言いながら、完全に女として口説かれていますよね。

 顔も精悍で悪くなく、発する覇気は王者の風格。

 精神性を抜きにすれば、好ましい部類かな。

 

「おや、お帰りですか」

「立場上、ここに長居は出来ない。君が居ると聞いたので、無理を押して参上した次第」

「やはり歴史の心残りとして私が欲しいの?」

「魂の記憶に惹かれた可能性はある。しかし、一人の男としての一目惚れが主たる要因だ。この気持ちに偽りは無い」

「……私に寄って来る男はこんなのばかり。なら、一度だけテストをしてあげます。合格出来ない場合は素直に諦めなさい」

「御意」

 

 スタミナ配分は不要。一度の交錯に全てを込める。

 狙いは円熟しつつある縮地を用いた、ゼロ距離に肉薄してからの浸透掌。

 って、英雄モード全開の最速にも関わらず槍の柄に阻まれた!?

 で、でも大丈夫。まだリカバリーは可能!。

 ここ一番で頼ったのは、最も使い慣れた錬度の高い投げ技。

 目を瞑っていても放てる雷神落しに移行しようと腕を掴み―――損ねた!?

 

「なっ!?」

「悪いが君の事は研究済み。その技は何度も見たよ」

 

 思えば初めての経験だった。

 イッセー君と同じく、私もまた常にチャレンジャー。

 私を丸裸にした上で挑んでくる相手は、新鮮で驚きに満ちている。

 

「俺の本分は槍。君を相手に加減は出来そうにもないから、これで退散するよ。ゲオルク、もう十分だ、やってくれ」

「待って」

「呼ばれずともまた来るさ。さようなら、良い夢を」

 

 手を伸ばすも既に遅し。

 霧が濃くなったかと思えば、既に曹操の影も形も無い。

 

「全く、私をどこぞの攻略対象と間違えてませんか?」

 

 悪態をつくが、そこに嫌悪感は不思議と無い。

 悔しい事に彼は合格。最低限のボーダーを越えている。

 それに……正面から本気の愛を囁かれたのはこれが初めて。

 イッセー君は踏み込んで来ないし、学校でラブレターを貰ったことはあっても直接来る男はゼロ。

 自分の口で思いも伝えられないヘタレより、余程良い男かもしれない。

 さて、彼は伏龍を口説き落とす劉帝を気取っていた。

 つまり黙っていても、後二度は来る。

 次回までに、今日のデータを過去の物にしておかないと。

 好きとか嫌いの前に、やり返さないと気が済みません。

 

「……で、ここからどう出れば?」

 

 何も無い霧が満ちる空間に残された私は、思案に暮れるのだった。

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