赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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魔法使いはアニメ準拠です(


第29話「策謀の空」

 爰乃が姿を消したのと時を同じく、外の雑魚共が時間停止を受けて凍結。

 俺を含めこの部屋に居る連中には効かないが、邪魔が減るだけ有難―――訂正しよう。ライバル君の仲間の中に、何人か抵抗出来ていないのが混じっている。

 もしも兵藤一誠が無様な姿を晒すようなら、この場で殺していただろう。

 最低限の力を付けているようで何よりだ。

 

「平和が嫌いなのは、俺のダチだけじゃないわな。何時の世も勢力と勢力が手を結ぼうとすると、嫌がる連中は必ず湧いてくる。これは世の必然だ」

「あれは魔法使い……なのか?」

 

 驚愕するサーゼクスの視線の先。窓の向こうでは、無数の転送陣から黒いローブを着込んだ人間の尖兵が湧き出している。

 ちなみに連中の攻撃手段は、棒立ちの姿勢で頭から放つビーム。

 もしくは逆立ちからのビーム。

 誰一人として杖はおろか、武器を使う素振りすら見せない。

 何を言っているか分からないが、当たると問答無用で何処かに飛ばされるらしい。

 三大勢力の兵隊が釣瓶打ちにされる様を見て、俺は思う。

 香千屋爰乃といい、こちらの世界に絡む人間はどうして狂人ばかりなのかと。

 魔術とは何だったのかと。

 

「その通りだサーゼクス。コカビエルは口火を切ろうとしただけだが、コイツらは違う。敵が魔術師だけと思ってるなら大間違い。これはまだプロローグ、本番は始まったばかりだぞ」

「敵は何者だと言うのです」

「”禍の団”。名前くらいは知らんか?」

 

 つまらん話だ。今更な内容をこれ以上聞いていても意味が無い。

 聞かずとも俺はその一員。これから何が起こるか全て知っているからな。

 ちなみに俺が全部バラしたので、アザゼルも事態を把握済み。

 だから、俺の気掛かりは別にある。

 アザゼルは口にしなかったが、爰乃を攫ったのは”絶霧”の力。

 腰巾着のゲオルクが来ているなら、曹操も何処かに居る筈だ。

 連中の参加を、俺は聞いていない。

 

「アザゼル、俺は外で遊んでくる」

「おう、好きにしろ」

 

 奴が爰乃に向ける執着は、異常と言って差支えが無いレベル。

 あの女も唯ではやられんだろうが、約束を果たす前に死なれても困る。

 状況を把握するためにも、拾いに行かざるを得ないか。

 

「そ、それよりも爰乃は何処に消えたんだ!? 攫われ桃姫属性がついたとでも!?」

「おそらくは―――」

 

 赤龍帝、迎えに行くまで君は君で踊れ。

 俺は俺でやりたいように動く。

 そう決めた俺は光翼を広げ、空に上るのだった。

 

 

 

 

 

 第二十九話「策謀の空」

 

 

 

 

 

「―――ってな感じに色んなトコから集められたろくでなしの軍、それが禍の団だ。堕天使もいりゃ、悪魔も在籍。見ての通り、人間もかなりの数が合流した何でもアリのテロリストだわな。首領はさっき話した通りオーフィス。ぶっちゃけ俺ら総出でもキツイ相手だと思うぜ」

「そう”無限の龍神”こそ我らを束ねる者。旧魔王派もその軍門に下りましたの」

 

 この状況を作り出している僧侶をどうにかすべく、フリーで動ける下っ端ズ……赤龍帝、聖魔剣、猫妖怪を送り出し一息。

 俺が男塾宜しく説明してると、今回の責任者が転移してきやがった。

 慇懃無礼に会釈しながら出現したのは妙齢の女悪魔。

 かつてのオリジナル魔王の一人、レヴィアタンの血を受け継ぐ大貴族様だったか?

 

「カテレア・レヴィアタン、何故君が此処に居る。今の言葉はどういう意味かね?」

「聞いての通りです。手緩い現政権を見限り、古き高貴な血を持つ私達が冥界の舵を取る事に致しましたので、そのご挨拶をと」

「……本気か」

「貴方の考えは甘いのです。悪魔が数を減らすと危惧されている様ですが、殺し合った結果に残る最後の一人が悪魔ならばそれで良いではありませんか。プライドを捨て、不倶戴天の敵との共存? そんな真似をするなら滅んだ方が余程マシですとも」

 

 資料で読んではいたが、想像よりも確執は深いらしい。

 他勢力との徹底抗戦を訴え、現政権に表舞台から退場させられたのが旧魔王派だ。

 連中にすりゃ、今回の和平は腸が煮えくり返る思いだっただろう。

 唯でさえ現魔王は、全員過去の魔王の血を引かない家系から就任しているんだ。

 ここまで蔑ろにされりゃ、爆発してもしゃあない。

 なあサーゼクス。せめて一人は正当な血統を、魔王に組み込むべきだったんじゃないか?

 世の中は白か黒じゃない。清濁併せ呑んでこそ政治家だろうに。

 ある意味で先に喧嘩を売ったのは、お前ら現政権だと俺は思う。

 そりゃ勝てると踏んだなら、戦争続行も正解の一つだよな。

 戦略として間違ってるとは言わんよ。

 

「今回は我々の覚悟を見せるべく、この私が皆様のホストを務めさせて頂きます。偽者の魔王に偽善者の親玉。さらにはカラスの総督と、より取り見取り。逃がしませんよ」

「クーデターなら冥界でやりたまえ」

「お優しいことで」

 

 いいぞ、想定通りの展開だ。

 サーゼクスを相手に勝てるとは思わんが、腕の一本位はもぎ取ってくれ。

 俺が見たいのは、先代を超えると言う現魔王の本気。

 人の形すらも捨てると聞く、変異種のデータが是が比にも欲しい。

 そして天使長と護衛のセラフ殿はやはり静観。

 この為に情報差をつけたんだから、動かれては困る。

 コカビエルの奴も良い仕事をしたよ。

 俺とサーゼクスが仲良くなれば、当然ミカエルは外様扱い。

 そこで内ゲバとくりゃ、出来レースを疑うのも当然か。

 余りにも筋書き通りに進みすぎて、思わず笑っちまうぜ。

 

「アザゼル、何がおかしいのですか!」

 

 やっべ、超怒ってる。

 まさか矛先が変わるのか?

 あくどい笑みは俺の専売特許、一々目くじら立てるなよ。

 

「気にするな。優先度的に俺は後だろ? 身内同士でご自由にやり合ってくれ」

「その態度が気に入りませんね。そう言えば貴方もそれだけの力を有していながら、戦争反対の音頭を取る恥知らず。堕天使総督の首、最初に取るのも悪くはありません!」

「そうかい」

 

 土壇場でこの展開か。しかし、降りかかる火の粉は払わにゃならん。

 俺は翼を広げると、溜め無しで光槍をぶちかます。

 窓際全体が吹っ飛んだが、当然奴も無傷。

 どうせ狭苦しい室内から出る入り口を作っただけ、攻撃ですらねえからな。

 

「やれやれ、悪魔ってのは直情的過ぎる。もっと大局を見れないのか?」

「前々からその上から目線が気に入らなかった!」

「旧魔王レヴィアタンの末裔、終末の怪物に人語を解しろと言うのも酷か。いいぜ、俺と一丁プチハルマゲドンと洒落込もう!」

「望む所よ!」

 

 よし、久しぶりに本気を出せる相手だ。

 下を見ればサーゼクスとミカエルが、人界への被害を抑えるべく結界の展開に勤しんでいる。

 つまり周りへの影響を考えず、フルスロットルで遊べるらしい。

 

「くくく、戦争は嫌いだが実戦テストは大好きだ。俺が満足するまで死ぬなよ?」

 

 こんな事もあろうかと、サーゼクスが青くなるアレを持ち込んで正解だった。

 あの女がドーピングアイテムの”蛇”を使った時が勝負。

 自信満々の顔を絶望に歪めてやらないとなぁ。

 亜空間に収めたアレに触れ、感触を確かめる。

 かなりの代価を支払い、手に入れた最後のピース。

 さぞ素晴らしい結果を産んでくれ……おっと、剣で思い出した。

 俺が戦うことにはなったが、動かれるとヤバイ上層部は押さえ込んでいる格好だ。

 最低限の義務は果たしたから、問題にはならんだろう。

 お膳立ては済ませた以上、後はお前次第。

 相手は魔王が認めた最強クラスの騎士だが、それでも勝つんだろ?

 頑張れよ、爺の騎士様。

 

 

 

 

 

 私は高鳴る鼓動を抑え、じっとその時が来るのを待っていた。

 姫様が通われる学び舎の外、彼が異常を感じて飛び込んでくるその瞬間を。

 でも、焦りは禁物。

 先ずは生意気にも凍結を免れた人外、それに寄ってくる魔術師の排除から。

 戦いの舞台に踏み込みそうな者は、等しく皆殺しと決めています。

 だから何時も通り一人、また一人と斬って斬って斬りまくる。

 皆様大慌てですが、銘を持たない貴方達では察知すら無理です。

 そんなこんなで、ついに最後の一人を排除完了。

 これで条件は全てクリア。舞台は整いましたよね。

 

「ヴァーリ、足止めご苦労様です。後は私がやります、下がりなさい」

「ふん、好きにしろ」

 

 彼が来ると知った時から、事前工作に勤しんで来た私です。

 相応の代価を支払うことで、総督殿の協力は取り付け済み。

 お陰でヴァーリと言う、申し分の無い力を借り受けることが出来ました。

 一騎打ちの場を用意する間、しっかり時間を稼いでくれた事に感謝感謝。

 落ち着かない様子ですし、後は何処へなりとも行くが良いのです。

 

「私に御用ですか、黒の騎士殿」

「ええ、遠い過去に交わした約束を果たしに推参した次第」

「はて、私はあなたを知りませんが?」

「今に思い出しますよ」

 

 白龍皇が何処かへ消え、残されたのは剣士二人だけ。

 長い廊下の中央で対峙するのは、だんだら模様の羽織を来た一人の男性。

 私の知る彼よりも少しばかり齢を重ねていますが、間違いなくあの男です。

 かつて京の都で幾度も剣を交え、それでも決着を付けられなかった最強の敵。

 最後の最後まで互いに万全の状態で戦えなかった、唯一の無念。

 それを今なら果たすことが出来る。

 当時の私ならこんなお茶目はせず、即座に名乗りを上げていたと思う。

 でも、精神的に成長したのか退化したのか、彼を困らせたいという欲求が強い。

 だからこんな格好をしている。

 馬鹿鳥のせいでお蔵入りになりそうだった黒の鎧。

 無駄に性能の高い甲冑にあわせ、獲物も剣を選んだのは全てこの為。

 

「懐かしい、実に懐かしい剣筋です」

「……本当に何者ですか」

「一太刀頂ければ話しましょう」

「二言はありませんね?」

「応!」

 

 慣れない剣に苛苛しつつ、私は彼と刃を打ち合わせ続ける。

 さすが、と言うべきか。

 私が使う剣はアザゼルが作り上げた、量産型エクスカリバーの試作品。

 鎧と言うクッションが無ければ私でも触れたくない破魔の剣を向けられても、その表情に怯えや焦りの色は見られない。

 幾ら鎧の重みで技量が落ちているにしろ、一枚も二枚も上を行かれているから凄い。

 新撰組で強いのは近藤、怖いのは土方。他の隊長陣も皆がそれぞれ違うオンリーワンを持っていましたが、剣の才能の一点で彼―――沖田総司の天稟を越える男は居なかった。

 日ノ本の歴史でも最強の人斬集団で頂点、この意味はやはり大きい。

 でも、だからこそ再会出来た。

 沖田が転生悪魔になっていたと知って、どれほど歓喜したのか分かりますか?

 冥界の情勢も少しは知っておくべきだったと、凄まじい後悔をしたんですよ?

 

「その程度の腕で、この私に勝てると?」

 

 そして、ついに鎧を貫かれる。

 彼お得意の三段突。その二段目から先を、避け切ることが出来なかった。

 ですが大丈夫。咄嗟に体を捻り中身はかすり傷。

 追撃の袈裟斬りを際どく空振りさせ、やっと鋼の暴風が止まる。

 やはりこんな重い物を付けての回避は無理。西洋の武具は肌に合いません。

 

「いやはや、何と素晴らしい剣の冴え。柳生とも、剣聖とも違う、実利を重視した壬生狼の牙が健在で一安心。試すような真似をした事を、深く謝罪致します」

「……そう思っているなら本気を出して頂きたい。私も主の元へ急がねばならぬ身。遊戯に付き合う暇はありません」

「ふふ、その顔が見たかった。お互い様でしょうが、人の仕事を邪魔ばかりする貴方に散々困らされた私です。せっかくの機会、おちょくったって良いではありませんか」

「……チッ」

 

 嗚呼、そのイラっと来ている顔を見れただけで報われました。

 でも、もう十分。

 やはり武士の魂は刀、これ以上西洋刀を振るうのも無粋というもの。

 鎧をパージして身軽になった後に、悪魔的収納空間より愛刀を引っ張り出す。

 この重み、やはりコレじゃないと落ち着かない。

 兜を被る関係でアップにしていた髪を下ろし、勝負リボンで尻尾を作り準備完了。

 私の正体に余程驚いたのか、愕然としている彼にお茶目なウインクをしてみた。

 

「お久しぶりです、沖田総司。よもやこの顔、見忘れたとは言いませんよね?」

「え? はて?」

「ちょ、ちょっとその反応は何ですか!?」

 

 予想とは違う反応を返され思わず動揺。

 くっ、まさか沖田も精神を削る術を身に付けているとは。

 さすが結核に肺を蝕まれながらも、維新志士を退けてきた新撰組のエース。

 日々の精進を怠っていませんね!

 

「大変申し上げにくい事ですが、お会いするのは今日が始めてでは?」

「はぁ!?」

「私は貴方の様な女性を知りません。確かに何処かで聞いた声とは思いますけど、恨まれるような真似をした記憶が皆無。ひょっとすると、一時期狩って居たはぐれ悪魔の親類でしょうか……」

「待って下さい。冗談、そう、小粋なジョークですよね?」

「私は真面目が取り得、戯言は口にしない主義です」

「ヒ、ヒント、ヒントを与えましょう。人間だった頃、斉藤やら長倉と仲良く追い掛け回したり、囲んで殺そうとしても無理だった志士が居ましたよね」

 

 あ、コレって殆ど答え。

 

「……桂?」

「それ、逃げ回ってただけの人ですよね!?」

「な、中村半次郎」

「薩摩でもなくっ!」

「まさかの以蔵?」

「幕吏に捕まる、なんちゃって四天王でもありません!」

 

 わ、私は上役を信じて自主的に無抵抗だっただけだし……。

 お縄についてあげただけ、ででですよよっ。

 

「他ですか……」

「居たでしょう、いつも傘を被……た?」

「どうかしましたか?」

 

 致命傷に気付いてしまった。

 まさか、まさかですけど確認しないと。

 

「……ひょっとすると、居合いが得意で小柄な熊本藩士の顔を知らない?」

「ああ、河上彦斎ですか。お前は忍者かと言いたくなる、無口で身軽な剣士ですよね?」

「です」

「彼との出会いは常に夜。おまけにいつも傘を被っていたんですよ? 色白で小柄だったとことしか知りませんよ」

「思えば、今と違ってぼんやりとした明りしか無い時代でしたね。そして私は襲いやすく、逃げ易いからと、暗くなってから動き出す夜行性剣客」

「ははぁ、つまり貴方は彼の子孫か魂を受け継いだ何か。俗に言う英雄ですか」

「近くて果てしなく遠くなりました……」

「私の病が治り次第、真っ向勝負で剣を競うと言う約束を代理で果たしに来たと」

「いえその、本人」

「ご冗談を。あれほどの腕を持つ者が、貴方の様な女性な訳―――」

 

 私の中で何かがプチンと切れた。

 当てるつもりの無い顔を掠める居合いを一閃。油断したのか、見切ったのか、一歩も動かなかった沖田の喉元に刀を突きつけて言う。

 

「二度や三度じゃ済まない死闘を繰り広げた相手を、どうして思い出さないんですかっ! この剣、この技、病床の貴方を見舞って失意の内に投獄された彦斎が私です!」

「た、確かにその動きは河上彦斎! 果物と漢方薬の差し入れ有難うございました」

「それはどうも! それよりも各所に無理言ってこの場をセッティングしたのですから、尋常に勝負なさいっ。今なら万全のコンディションでしょうに!」

「落ち着けぇっ!?」

 

 何もかもどうでもよくなった私は、涙目で抜刀体勢を取る。

 こんな事なら、当時の姿で現れれば良かった。

 仮にも宿命の対決だからと、新調した大正小袖紬とブーツなのに……ぐすん。

 沖田許すまじ。

 そして弟子と判明した木場祐斗、連座制で彼もずんばらりんです!

 まさか姫様が姿を消したと知らない私は、怒りに打ち震えるのでした。


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