赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第31話「停止校庭の紅白龍」

「アルビオン、アレが何だか分かるか?」

『ドライグや私に近い、未知の神器の可能性が高い』

「そうか、お前でも知らないドラゴン系神器とは面白い」

 

 俺がアザゼルと合流を果たした場には、orzのポーズを取る完全武装の不審者が居た。

 甲冑の色は黄金で、デザインも俺や兵藤の親戚筋の様なフォルム。

 アルビオンの推測通り、神器の禁手と見るのが妥当なところだろう。

 さて、今日のメインディッシュはライバル君の予定だ。

 しかし、前菜に金色のスープも悪くない。

 少し腹ごなしに運動でもしておくか。

 そんな風に舌なめずりをしていると、アザゼルが思わぬ事を口にする。

 

「そりゃ、俺が作った人工神器だ」

「ほう」

「お前の鎧を真似てアルビオンの代わりにファーブニルを封じ、擬似的な禁手で赤龍帝に近い能力を再現している。本来なら俺専用に作ったんだが、今は爰乃が着込んでテスト中だ」

「……姿が見えないと思えば、コレがそうなのか」

「コレとか言わない」

「本人は脱ぎたいって騒いじゃいるが、残念ながらコイツは試作品。所詮は使い捨てで、代わりは無い訳だ。身の安全の為にも、解除させる訳にはいかん」

「それは分かった。結局、俺の要求はどう叶えてくれるんだ?」

 

 アザゼルへ禍の団の情報を売り渡した際に、俺は一つの代価を求めた。

 それは今日この場で、赤龍帝との一騎打ちを黙認する事。

 契約は絶対遵守。破るならば義父とて容赦はせん。

 で、幾ら探し回っても見つからなかった爰乃が何故ここに居る。

 途中で発見した曹操はシメたが、少なからず驚いたぞ。

 まぁ、無事ならば構わんさ。

 お前には、ルフェイに真っ当な料理を仕込む大仕事が待っている。

 俺の気に入った味を習得させるまで、断固として死なせない。

 

「カテレアがあっさり倒され、強制停止の下僕悪魔も奪い返された。おまけに白龍皇は姿を消し、今や司令官と切り札を失った禍の団は混乱状態か。さーて、どうすっか」

「俺の知ったことではない」

「そりゃそうだ。だから俺も気を利かせて場を掻き回すべく、念の為にスタンバらせたバラキエルを禍の団側で参戦させている。連中め、まさか味方してくれている相手が敵だと思っていないらしくてな? 拍手喝采で超面白れぇ」

「……あの趣味の悪い覆面堕天使はバラキエルか」

 

 いつの間にか混ざりこんだ堕天使には気が付いていたが、まさか奴とは。

 しかもあの堅物、嫌々かと思えば活き活きと縦横無尽に飛び回っている。

 茶番の嫌いな寡黙な武人が、どういった風の吹き回しだ?

 

「マスクは娘の手製だそうな。正体を隠すために雷光自主規制で光の槍しか使っていないが、あれでも本人は大喜びでマスクを見せびらかしているんだぜ? 気分はネクタイを貰った父親だな」

「知らん」

「そう言うなよ。やっと朱乃と和解して、たまに会える日を楽しみにしている父親だ。さり気なく俺の知らない所で情報漏洩させているのは気に入らんが、朱璃の娘が迂闊なことをするとも思えんから問題無い。器の大きさを見せて見逃すさ」

「前置きはもう十分。長話を続けるなら、俺は行くぞ」

「分かった、分かったから短気は止めろ。結論から言えば戦わせてやる」

「最初からそう言え」

 

 全く、コイツの前段は長過ぎる。

 香千屋爰乃も表情は伺えないが、肩を落して意気消沈の様子。

 さては、お前も色々あったのか……?。

 

「手始めに俺はバラキエルを抑えるフリして大暴れ。派手に流れ弾装って結界にぶちかまし続けりゃ、最強二人は維持で手一杯だろうよ」

「最大の邪魔は入らない、と」

「赤龍帝の取り巻きは、爰乃が引き剥がす。いいか、朱乃とリアスはスルーしても構わんから騎士と猫を押さえ込め。万が一を起こせるのはその二人だ」

「……面倒を見ている私が、彼らの脅威を一番知っていますよ」

 

 俺が一目置く女が、グレモリー眷属程度に負ける筈もあるまい。

 爰乃になら、安心して露払いを任せられる。

 

「んで、一人になった所をお前が美味しく頂くって寸法だ。異論は無いな?」

「ついでに兵藤の力を、極限まで引き出す手段を教えて欲しい」

「爰乃、お前の方が詳しいんじゃね?」

「ええと、彼は身内を狙われる方が辛いタイプ。両親を殺すとか、無事を知らない私を汚すとか挑発すれば、怒り狂って120%の力を出せると思います」

「それで行こう。適当に話をでっち上げるから、追従しろ香千屋爰乃」

「自分で自分を陥める行為は、今回が最初で最後と思いたい……」

 

 禍の団と三大勢力の一大戦場は、激しさを増し混沌を深めていく。

 知らん間にカテレアの配下も増援で来ている辺り、実に好都合。

 さすがの采配だなアザゼル。

 どうせお前の暗躍した結果なんだろう?

 

「爰乃、お前はコイツを持っていけ」

「ま、また厨二臭い剣を。これは光と闇ですか? 良く分かりませんけど、テンプレの如く相反する属性を混ぜたがるの止めましょう。基本的に単一属性特化の方が強く、扱いやすいことは歴史が証明してますし……」

「一周回って老獪すると、これ系の味がやっと分かる。実用性も大事だが、遊び心はもっと大切なんだぜ?」

「はぁ」

「コイツはβ版だが、性能は折り紙つきの実用品だ。どの道正体を隠すなら、拳法は封印せにゃならん。適当に剣でもぶん回してヒャッハーするしかないだろ」

「そーですとも。ええ、そーですとも!」

 

 一晩限りの相棒は、妙なテンションで士気が妙に高い。

 何処と無く自暴自棄を感じるが、特に問題にはなるまい。

 

「私のコードネームは、ミスターTT。忘れて本名呼んだらコロス」

「そうか、宜しく頼むぞ香千屋爰乃」

「……本番で同じセリフ吐いたら、噂のイギリス娘を悪化させますからね」

「了解した、TT」

「宜しい」

 

 おかしい。年齢は俺の方が上で、力も圧倒的な差の筈。

 なのに不思議と逆らえない。

 自然と風下に立ってしまうのは何故だ?

 

「面倒だから、仲違いだけはすんなよ?」

「手綱は私がしっかり握ります」

「任せた」

 

 俺が腹の底から信じられるのは、アザゼルだけだった。

 天涯孤独、親に捨てられ行く宛ての無かった悪魔と人間のハーフを拾ってくれた堕天使に対し、特別な感情を持つのも当然だろう。

 しかし、知識、戦術、この世の全てを与えてくれた義父に、ぽっと出の小娘が並びかけているのが不思議で堪らない。

 恋でも無く、愛でも無い。強いて言うなら親愛か?。

 一切の色眼鏡を通さず俺を見てくれる女は、アイツが始めてだ。

 思えば配下に女は居ても、所詮は部下。壁を何処かに作っている。

 つまり、俺と対等に向かい合ってくれる異性は香千屋爰乃だけ。

 無意識に特別な存在へ格上げしてしまうのも、必然なのかもしれない。

 

「貴方が主役なんだから、私を先に生かせちゃダメでしょ」

「すまん」

「イッセー君も、前に戦った時より相当成長しています。幾らヴァーリが格上だろうと、絶対に侮らないこと。お姉ちゃんと約束だからね?」

「いつから姉になった」

「何となく語呂が良かったので」

 

 嗚呼、それだ。

 掴みどころの無い奔放な姉に振り回される弟分。実にしっくり来る。

 絶対に口にはしないが、これだけは認めよう。

 俺はお前が、相当嫌いじゃないらしい。

 

「舐められない為にも、赤龍帝の次はお前とも決着を付けるとしよう」

「はいはい、また今度」

 

 命がけの”今度”が来ない事を願う俺だった。

 

 

 

 

 

 第三十一話「停止校庭の紅白龍」

 

 

 

 

 

 ギャー介救出後、自由を取り戻した朱乃さんから情報を得た俺は、木場と小猫ちゃんプラスαを連れて外へと全力ダッシュ中。

 部長とアーシアはグレイフィアさんが結界のデコードに手一杯なので、魔王様の護衛代わりと万が一の回復要因として会議室に残してきた。

 ちなみに朱乃さんは、他に借り出されてしまったので別行動。

 何でも強力な堕天使が止まらないとか何とか。

 無事を願っています、副部長!。

 

「またこの三人でカチコミかよ……」

「最近多いよね」

「これでコカビエル級がウエルカムだったら、今度こそ泣くぜ?」

「……その場合は時間稼ぎに徹しましょう」

「だな。手が空けば倒せそうな人材が豊富だし」

「って、ナチュラルに僕のことを居ないものとして扱わないで下さあぁぁぁあい!」

「黙れ便利アイテム一号。俺達の脚に追従出来ない貧弱な自分を呪え」

 

 何だかんだで通常時の腕力は、小猫ちゃんがナンバーワン。小脇に抱えたギャー介を無い物として、巡航速度を維持するボディバランスも素晴らしい。

 さすが空力にも優れた貧乳型。部長達には真似の出来ない芸当だよなぁ。

 それに対して、モヤシマンがマジ情けねぇ。

 ほんの少し走らせただけで息を上げ、女子の手を借りる姿勢が甘すぎる。

 古いと言われようと、女を守るのは男の仕事。

 そして、簡単に泣き言を吐かないのが男の矜持。

 俺達に合流した以上、その辺を叩き込んでやるから首を洗って待っていやがれ。

 べ、別に男の娘詐欺の逆恨みなんかじゃないんだからねっ!

 

「……ギャー君は明日から特訓です。初期のイッセー先輩と同等のメニューから初めて、最終的に現行のレベルに耐えうる肉体作りをさせましょう」

「えううううう!?」

「安心するんだギャスパー君。割と順応出来る、簡単な訓練だと思うよ?」

「き、木場先輩、本当……ですかぁ?」

「胃液を全部吐いてからが本番の走り込みとか温いし」

「ちょ」

「折れた肋骨を内臓に突き刺しながら上半身を動かす中級編はまだ先。ね、これに比べれば入門編は微温湯だろう?」

「だよなー。ランナーズハイって、慣れれば気持ちいよなー」

「病んでます、それ、精神が病んだ狂人の考えですからぁぁぁぁぁ!」

 

 違うぞボーイ。お前だけがそう捕らえていると何故分からん。

 修行は絶対に裏切らない。

 例え伸び悩んでも、常に体を苛めていれば能力低下だけは防げるんだ。

 大は小を兼ねる。力が欲しいと土壇場で願っても遅いんだぜ?

 だから強くなれ。

 前にも言ったが、落第生に出来た事を俺より優れる吸血鬼に出来ない筈が無い。

 まぁ、泣こうが喚こうがやらせるがな!。

 小猫ちゃんも乗り気だし、逃げられると思うなよ。

 

「話は後。ダンスパートナーのご登場だよ」

 

 玄関を走破し、ぽっかりと戦いの止んだ校庭中央に辿り着いた所で木場が剣を抜く。

 待ち受けていたのは、禁手状態の白龍皇と黄金鎧の番。

 コイツは味方じゃ無いのか?

 

「待っていたぞ兵藤一誠。白と赤、因縁の決着を付けようじゃないか」

「一つ確認をさせろ」

「良かろう」

「お前はアザゼルの護衛、つまり体制派じゃないのか?」

「同時に禍の団の一員でもある。だが、俺は政治に興味が無い。だから上で遊んでいる連中が何を囀ろうと知った事か。俺は俺のやりたい事をやるだけさ」

「もう一つ」

「一つでは?」

「伝説の白がケチケチすんなよ」

「……君こそ赤だろうに」

「OKと捕らえたから聞くぞ。ここに来れば会えると聞いたんだが、爰乃って女を知らないか? アレだ、前にコカビエルが捕まえていた―――」

「知っている」

「マジか!」

 

 既に嫌な予感が。

 

「実は君の事を少し調べた。血脈は幾ら遡ろうが、由緒正しい普通の人間。友人関係も、アドラメレクを除いて特別な存在は居ない。何処に出しても脅威と見なされない極普通の男子高校生、それが君と言う人間だった」

「それが、どうした」

「悪魔に転生した今ですら、赤龍帝の篭手以外に何も無い。こんな平凡な設定で、俺のライバルを名乗るのは如何なものだろう」

「何が言いたいんだ、この野郎」

「あまりにもつまらない。つまらな過ぎて笑ってしまったよ」

 

 奴は哀れむように嘲笑いながら言う。

 

「俺は旧魔王の血を色濃く引いている。これだけでも他者を圧倒できる魔力を持っているのに加え、母が残した人の血により偶然アルビオンを宿してしまった。つまり、魔王が神滅具を得た奇跡の事例と言えるだろう」

「マジかよ」

「バックボーンだけで物語が一本書けるとアザゼルに言わしめた、おそらく未来永劫最強の白龍皇。それがこの俺。釣り合いが取れないとは思わないか?」

 

 そ、そんな事言われても何が何やら。

 良く分からんけど最強か、超凄いっすね。

 

「つっても、生まれを今更捏造すんの無理じゃね」

「俺もそう思う。なら、付け加えるのはどうだろう。例えば手始めに君の親を殺す。そうすれば俺は晴れて親の敵。同時に君は復讐者の名を得る事も出来る」

「待て」

「我ながら悪くない考えだ。大切にしている娘だけでは何かが足りないと思っていたが、不足を補う手段が見つかって本当に良かった。ミックスすれば華やかじゃないか! 君もそう思うだろ?」

「待てってのが聞えないのか!」

 

 今、聞き逃せない何かをコイツは言った。

 親父とお袋の殺害予告も許せんが、大切な娘……だと?。

 

「む、悩んだ末の結論が不満か?」

「爰乃をどうした」

「わた、ゴホン、我が教えてやりましょう」

 

 終始無言を貫いていた金ぴかの声は、しゃがれた老人のもの。

 俺は言い表せないどす黒い感情を押えつけ、冷静を装いながら続きを待つ。

 

「小娘はアドラメレクの寵姫と聞きましてね。ちょっとした興味から面白半分に手を出した所、彼女は大変良い声で鳴いてくれましたよ」

「……」

「まぁ、ヴァーリが弄んだ後では少々面白みに欠けましたがね」

「聞いての通り近しい少女を失った君は、設定項目へ新たな一ページを加えられた訳だ。おめでとう、白紙の書物が僅かなりとも埋まって良かったじゃないか!」

 

 言葉の意味を理解した瞬間、真っ白になった頭を一つの感情が支配する。

 それは憎悪。超えちゃいけない一線を踏み越えた悪魔への殺意。

 

「しかしながら、俺も鬼じゃない。殺しては居ないから、万が一にも君が俺を倒せたなら返してやろう。優しいライバルに感謝してくれよ?」

「その口を閉じろ真っ白野郎。一分一秒でも早く死ね。望み通り殺してやる」

 

 口から零れた悪意に応じたのは相棒だった。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

 いつもとは違う、膨大なオーラが俺の全身を包み込んでいく。

 オーラは次々に鎧へと転化。より強固に、より強力な力を生み出す土台へ。

 鎧の色は、普段よりも鮮やかな鮮血の朱。

 人の形をしたものを、この手で縊り殺すと心に決めた決意の現れ。

 俺があの少女に、どんな想いを抱いていたいたのかを示す証。

 

「君の予想通り、兵藤一誠の力が桁違いに膨れ上がったぞ」

「思わず自らの手で傷物にしてしまった……」

「落ち着けTT。君の担当も怒り狂って何割か増しでお出ましだ。平静を取り戻せ」

「盛った私が言うのもアレですけど、これ以上余計な事は言わないように」

「それを言うなら、何故に俺が顔見知りを陵辱せねばならん……」

「ですよねー」

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 唯それだけに支配された俺は、背中の魔力噴出口からオーラを吹き出し加速。

 事実確認なんて片隅にも無い。

 悔しい事に奴の望み通りのリベンジャーとして飛び出すのだった。


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