赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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前章で空気だった紅悪魔さんを差し置き、ぽっと出のギャー介に脚光が。
彼にもまた別の成長が待っているような居ないような……


閑話 IFの代価の夏休み
番外編その一「夏の日差しとデイウォーカー」


 ごーおんだいん皆様、香千屋爰乃です。

 魔法建築界が誇る匠も、あまりの惨状に匙を投げました。

 結果、出資母体であるグレモリー家の圧力で夏休みが前倒しでスタート。

 しかし、冥界旅行の日取りはもう少し先。

 さて、どうしたものか。

 そう考えて得た結論は、旅費で吹き飛んだ貯金の再生です。

 

「ステファニー、ドラミングよ!」

「ホッキョォォォ!」

 

 すてふぁにーのこうげきりょくがあがった!

 

「えーと、アレイ……かえんほうしゃ」

「そのような武器は装備一覧にありません。こっそり近似値のプラズマ収束砲で代用。アレイは気の効く所を、さり気なくアピールします。汚物は消毒だー」

 

 あれいのりゅうしへいき。たいしょうはじょうはつする。

 

「ちょ、ちょっと貴方なんて事をしますの!? 雪分身を先に使っていなかったら、ステファニーが死んでしまう所だったじゃない!」

「まだ一ターン目なのに、バフを使用済みって……」

「事前に強化を禁止するルールは御座いませんわよ!」

「……もうそれでいいです。で、負けを認めないならもう一発撃たせますが」

 

 そんな私が何故ポケモント○ーナーの真似事をしているかと言うと、理由は至って簡単。

 バイト先は海の近くの神社です。

 なら、バカンスも兼ねたいじゃないですか。

 バーベキューに、花火。青春の一枚に収めたいイベントは幾つもあります。

 だけど、とにかくお金が無い。

 いっそテントでも張ろうかと悩んでいたその時、部長との会話を思い出して天啓走る。

 確かテニス部の部長はこちらの世界の住人で、魔物使いの家系とか。

 しかも賭け勝負が趣味のお金持ち。

 うろ覚えながら、これから向かう場所に別荘を持っていると言っていた気が。

 そこで駄目もとの交渉を行った所、以外にもあっさり勝負を受けてくれましたよ。

 ちなみに掛け金はイッセー君の身柄。

 さすがドラゴンタイプ。レアなんでしょう、多分。

 

「ぐぬぬ、陸の勝負はそちらの勝ちで結構!」

「さっさと次行きますよ、次」

 

 勝負方法は、魔物使い伝統(?)のポケ○ン三本勝負です。

 各々が陸、海、空の魔物を持ち寄り、二本先取した方の勝ち。

 私が勝てば夏休み終了まで、該当地域の別荘を自由に使う権利を。

 負けた場合はイッセー君を引き渡し、休み明け間で手持ちに加入。

 本人の与り知らぬ契約ですが、負けなければ無問題。

 とまあそんな訳で、第二ラウンド行きますか。

 

「これ、何です?」

「知りませんの? 歌で人を惑わす人魚でしてよ?」

「ゴリゴリとSAN値が削られる感じが何とも。盤外の精神攻撃止めてくれませんか」

「あまりの美しさに平伏したのね」

「完璧にクトゥルフの住人が人魚って……」

 

 先輩がプールに呼び出したのは、何と足のついた巨大なマグロ。

 産地は大間ですか? それとも養殖ですか? そんな質問を堪えた私は凄い。

 逞しい両足は分厚く太く、強そうな蹴り足はスイマーの理想系。

 で、ここだけの話、キロお幾らなんでしょう。

 展開が読めるからこそ、予防線を張っておきたい私です。

 例え築地の御祝儀相場の大物だろうと、御代は一切支払いませんよ。

 

「おっほっほっ、早く始めないと酸欠で死んでしまいますの。貴方も魔物を出しなさい!」

「その設定が継承されてるのに塩素水大丈夫とか……行け、鬼灯」

 

 腕に巻きつけていた鬼灯(端末)を、プールに投げ込んでスタンバイ完了。

 それと同時に遊戯王真っ青のお嬢様ルールが適用される。

 結果、またしても開始を待たず先輩が動いた。

 

「私のターンっ! エスカテリーナ、ハイドロカノンよ!」

「ギョギョギョ!」

 

 えすかてりーなのはいどろかのん、こうかはいまひとつのようだ。

 

「水遊び好き。我、川と鉄の龍。鮪美味、捕食良い?」

「美味しく召し上がりなさい。鬼灯、かみつく!」

 

 ほおずきのかみつく、こうかはばつぐんだ!

 

「エスカテーリナァァァァ!?」

「げっふー」

 

 先輩の金切り声も当然だと思う。

 騙し絵の様に大きく開かれた顎が、既にぐったりな鮪を一口でペロリ。

 スタッフが骨も残さず美味しく頂きました。

 

「ええと、二本先取した訳ですが……」

「三本目は倍率五倍よ! 何か文句あるかしらっ!?」

「被害が増えるだけだと思いますよ?」

「だまらっしゃい、手塩にかけて育てた愛魚の敵を次で討ちますの!」

「空だけはスルーしません?」

「あら、そんなに自信が無いのね。これは弱点と見ましたわ、少しお待ちなさい!」

 

 待つこと数分。先輩は巨大な怪鳥に乗って戻ってきた。

 お供に二匹同じものを連れて……。

 

「これぞ手持ち最強のダイバード×3! 恐れ慄きなさい!」

「つ、ついに禁手に手を染めるとは。ルール守ってくださいよルール!」

「勝てばいいんですの、勝てば。それに一匹しか出してはいけないと、誰が決めましたの? 論破完了、魔物ファイトレディーゴーですわ!」

 

 温厚な私も、これにはキレた。

 我慢に我慢を重ねたら、要求はエスカレートする一方。

 そろそろガツンとやらないと、先輩の為にもならないよね。

 そこでお絵かき中のアンを振り向かせ、初めて先手を打つ事にする。

 

「アン、鳥と一緒にあの辺のおうちをバーンしちゃって」

「はーい」

 

 あんのきょくしょたつまき、しゅういはめちゃくちゃだ!

 

「もっとする?」

「十分です。後はお話が終わるまで、そこで静かに遊んでいてね」

「アンね、頑張っておそらを書いたの。おうち帰ったら姫様にも見せてあげる!」

「楽しみにしてます」

 

 一瞬で形成されたのは、鋼鉄すら紙くずの様に引き裂く竜巻だった。

 巻き込まれた鳥ズはミンチにされ、風に乗って四散。

 器用に先輩は無事に下ろしてある辺り、アンも芸が細かい。

 ついでに家屋も吹っ飛んだけど、事故だから仕方が無いよね☆

 

「バトル中の被害は気にするな、と先輩が言いました。弁償しませんよ」

「え、いえ、その……さすがにやりすぎでは」

「四戦目行きます? まだまだ手駒は揃えてありますよ?」

 

 嘘ですけど。

 

「私の負けで構いませんわ!」

「それだけ?」

「ごめんなさい。素人に負けるなんてと、つい卑怯な手を……」

「分かっているなら何も言いません。では、約束通り鍵は頂きます」

 

 ちゃっちゃちゃららーん。

 てにすぶぶちょうをたおした。

 べっそうのかぎをてにいれた。

 けいけんちはてにはいらなかった。

 しょんぼり。

 

「アレイはマスターの眷属。指揮権を得た姫様でも無償で働かせられない事をアピールし、仕事の代価として旅のお供を要求します」

「アンも、アンも行くの!」

「別に構わないけど……鬼灯は?」

「我、コロッケ要求。皿一杯希望」

「了解、腕によりをかけて作りましょう」

 

 磨り潰された我が家をぼんやりと眺める先輩を放置して、社へと帰る私達だった。

 

 

 

 

 

 番外編その一「夏の日差しとデイウォーカー」

 

 

 

 

 

「僕とあなたの間に、どんな繋がりがあるんですかぁぁっ!?」

「黙りなさいインチキ吸血鬼。飼い主の許可を貰った以上、契約期間を過ぎるまで私が上司です。生かすも殺すも私次第、ぐだぐだと続けるならこの場で潰します」

「それもいやだぁぁぁ!?」

「ギャー子に与えられた選択肢は ”はい” か "YES” のみ。好きな方を選びなさい」

「ノォォォ!?」

 

 始発の電車に揺られてガタゴトと。有名な江ノ島等に比べると何歩も譲りますが、知る人ぞ知る海水浴場に到着した私たち。

 お供はアンとアレイ。それに加えてギャー子を引きずって来た。

 このモヤシ娘は、先の戦いで木場君と小猫に加勢せず逃げを選んだ根性なし。

 それは無いだろうと思い、性根を叩き直すべく旅に同行させた訳です。

 ちなみに本来は台風直撃だったお陰で人は少なめ。

 これなら人込みに辟易する事も無いでしょう。

 

「そもそも天気予報と違うのは何故!? 中止だと安心した僕の平穏は何処に!?」

「神様の采配じゃないかな」

「僕、悪魔でしたぁぁっ!」

 

 これは嘘。真実はアンによる気象操作が原因だったり。

 大気に関する事ならほぼ万能、低気圧なんてちょちょいのちょい。

 晴れも曇りも自由自在のてるてる幼女が付いている私に死角は無い。

 見て下さい、この雲ひとつ無い真夏の太陽を。

 照り付ける日差しで砂は熱く、潮風が適度に心地よいこの環境。

 吸血鬼の苦手を全て揃えた完璧な特訓場ですよね。

 

「光がっ、太陽がっ、流れる水がっ!?」

「出任せは止めなさいデイウォーカー。貴方が物語的な吸血鬼の弱点を全てクリアした、都合の良い化け物であることは調査済み。嘘はだめですよ、嘘は」

「耐えられても苦手は苦手なんですぅぅぅ」

「仕方が無いですね。初日は慣らし運転と言うことで、外で一日過ごすだけにしましょうか。少しは健康的に肌を焼き、見た目だけでも健康体になって来なさい」

「そ、それくらいなら……」

「では、アンの遊び相手を頼みます。私は別荘とやらの確認と下準備を済ませたら戻るので、引き篭りには出来ない夏を満喫するように」

「は、はい!」

 

 他所の子を預かった手前、五体満足で返さなければらない。

 その点、アンをくっつけておけば生き死にの問題は無し。

 ジョーズが乱入しようが、海賊がヒャッハーしようが全て返り討ちの安心感。

 しかもこの子、何気に創作活動が大好きだったりします。

 さっそく砂を固めて何かの建造を開始しているので、放っておいても大丈夫でしょう。

 そう考えた私はアレイを伴い、本日の宿へと向かう事にする。

 

「拠点の防衛力に不安を感じるアレイは、趣味の一環として監視端末及び侵入者撃退装置設置を姫様に上申すべく目で訴え中です」

 

 母屋は上品な建物で、手入れが十分に行き届いた庭は品の良い空間を演出。

 立地条件も海まで徒歩で行ける好立地で、これぞ別荘と言った風格が素敵です。

 しかし、私とは違う観点で別荘を眺める少女の感想は違った。

 

「機器を目立たない配置にするなら、好きにして良し」

「これは遣り甲斐のある仕事だと、アレイは大奮起。ここぞとばかりに買い揃えた電子機器を、踊りだすテンションで設置すると宣言します」

「アレイが冷静キャラなのか、熱血型なのか、未だに分からない……」

「ロボットだからマッシーンだからー」

「それは、自称マシーンな熱血漢」

 

 何処からか大量の機器を取り出した僧侶は、妙に活き活きとしている。

 出自が出自なのか、機械を愛する僧侶さんです。

 自らの手で電子の結界を作り上げたいお年頃なのでしょう、多分。

 

「掃除と寝床の準備を済ませちゃいますか」

 

 管理人が定期的に維持していたらしく、目立った汚れは無い。

 しかしながら食器の類は一度洗わないと嫌だし、布団やシーツが揃っているかも見て回る必要がある。他にも料理に必要な調味料のチェック等々、泊まる準備は地味に多い。

 どうせお仕事開始まで、日程的な余裕もあります。

 今日は移動日と割り切って、やる事を終えたら私も海に行こう。

 そう考えた私は、面倒事を片付けるべく腕まくり。

 手始めにキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「お城には、おほりが必要です」

「確かに」

「悪い人をほうりこむ、ろーやも必要なの」

「え、そんなことも想定するの!?」

「そして、すーぱーなろぼっとが地下からばーん!」

「せっかく作ったアートがぁぁぁぁっ!?」

 

 私が海水浴場に戻ると、別れた場所からそう離れていない所で二人を発見。

 タイミングが良いのか悪いのか、丁度立派なお城が砂粒に戻る所でしたよ。

 さすが芸術家。作った作品への執着心は皆無って、まさか今までずっと砂遊び!?

 

「何をやっているんですか」

「あ、姫様だ。見て見て、アレイ発進なの!」

「頑張りましたね」

「うん、お兄ちゃんとそうだんしながら頑張りました」

「僕も楽しかったよ!」

「泳ぐと言う発想は無いの?」

「泳げません」

「ほう、なら泳げる様に特訓メニューを追加しましょうか」

「薮蛇だったぁぁっ!」

 

 ほ、本当にインドアな子ですね。

 駄目過ぎて、逆にやる気が湧いて来ます。

 

「とりあえず、海の家で一息入れてから考えましょう」

「確かに喉がからからですぅ」

「それではレッツゴー。不味いラーメンでも頼むと良いでしょう」

「アン、おいしくないのやー」

「様式美と割り切り、雰囲気を味わうのが大人の証。それに実は美味しいかもだよ」

「ならたべるー!」

「僕は焼きもろこしが欲しいなぁ」

「私は焼きイカ派。でも、それはそれで気になる……半分トレードしません?」

「喜んで!」

 

 かくして、私達は遅めの昼食を取るべく移動を開始。

 途中で何組かのDQNに絡まれましたが、全員海へ放り込んでやりましたとも。

 一番人気はギャー子。唯でさえレアな金髪美少女なのに、白いワンピースが華奢な体の線を浮き彫りにして何ともいえない可憐さ。納得の人選です。

 二番手はパーカーを羽織った私。藍の水着はパレオの付いたビキニタイプで、選ぶのに時間をかけた分似合っていると思う。

 でも、被写体として人気なのはアンだった。

 可愛らしいセパレートの水着を着こなし、太陽に負けない笑顔が視線を誘う。

 アーシアが女神なら、アンは天使。男女を問わず、見惚れてカメラを向けられるから凄い。

 お陰で海の家では、頼んでいない品が差し入れされて嬉しいやら怖いやら。

 それでも平気な顔で全てを平らげ、天使は砂浜に舞い戻る。

 たまに休んで泳いでギャー子を海にぶち込んで、日はあっという間に暮れてしまった。

 

「めんどいので今日は大盤振る舞い。店で食べて帰りましょう」

「やったーっ!」

「わーい!」

 

 さすがの私も疲れました。

 食事不要のメールを送ってきた留守番には、気兼ねする必要も無し。

 着替えを済ませ、向かったのはこじんまりとした居酒屋っぽい店。

 部長からギャーの教育費を貰っていなければ、外食なんて不可能でした。

 喉が渇いたら公園で水を飲め、そんな修羅の世界を覚悟していた私です。

 当初の予定は自炊祭りだった事もあり、事前情報は一切無し。

 ここは直感を信じるのみ!

 

「価格も適正、普通に当たりですよねー」

「お魚が新鮮で最高ですぅ!」

 

 結果は、大変おいしゅうございました。

 気さくな親父さんが出してくれた地物の魚介に舌鼓を打ち、ついついアルコールを要求してこっぴどく怒られたのはご愛嬌。

 職業病なんです。

 インチキ神社のバイト巫女でも、神事でお神酒を飲まないと駄目なんです。

 味が分かるようになっても仕方がないじゃないですか。

 だからせめて麦が原料の炭酸ジュースを一杯だけ頂きたいなぁ……なんて。

 

「おさしみおかわり!」

「凄ぇ食いっぷり。これが噂のフードファイターとやらか……?」

「まだまだ食べられるよ?」

「子供だけで金は大丈夫なんだよな? 警察沙汰は勘弁してくれよ?」

「うんー、これがゆーろとどるで同じだけ分あるよー」

 

 ちなみにメニュー全制覇の勢いだったアンは、大変なお金持ちと判明。

 そういえばお爺様の女王ですもんねー。

 フィクションの産物、万札びっしりケースを現実でお目にかかるとは……。

 何気なく寄越したカードも、国際的に通用するブラックカードですよ?

 え、コイツら何処のお嬢様? 的な目を向けられた瞬間を一生忘れないと思う。

 とまあ、ここまでは良かった。

 

「ひぃ、幽霊!?」

「吸血鬼が幽霊に怯えるの!?」

 

 別荘に戻ると、真っ暗な庭から聞えてくるのは抑揚の無いメロディー。

 

「機械を幽霊に定義されたアレイは、デジタルを否定されたことに大変憤慨しています」

「まだ、やってたんだ」

「テストを含め、これからが本番である事をアレイは姫様に報告します」

「ご、ごゆっくりどうぞ」

「イエス、マム」

 

 軽くホラーな展開に身構えるも、犯人はアレイの口ずさむ歌でした。

 日が落ちても大絶賛作業中。徹夜で頑張るとか言われても困ります。

 ま、まあ、本人楽しんでいるので見なかった事にしようかな。

 そんなこんなで華麗にスルーを果たした私は、帰り際にスーパーで仕入れた食材を冷蔵庫に収納。明日の為に下拵えを完遂して、ようやく今日の業務を終える。

 そういえばブルジョワの証、掛け流し檜作り温泉が標準装備でしたね。

 そんな軽い気分で向かった所、どうも先客が居るじゃないですか。

 早寝早起きがライフスタイルのアンは、家に着くなりスヤスヤと夢の中。

 ギャー子と話すのも悪くないと入った訳ですが―――

 

「ええええ、な、なんで爰乃さんがっ!?」

「女しか居な……ほう」

 

 成る程、これは大きな勘違い。

 ギャー子ではなく、ギャー夫でしたか。

 シャンプーを取ろうとした彼と目が合い、ほんの一瞬だけ固まってしまう。

 それでもリカバリーを果たして掛け湯を流し、足を湯船に入れて告げておく。

 

「まぁ、細かい話はさておき明日の確認です。起床は五時、ランニングで体を温めてから基礎メニューを―――」

「へ、平然としてますけど、ぼ、ぼく男ですよ?」

「見れば分かりますよ。何をそんなに慌ててるんですか」

「はだっ、はだかですよね!?」

「巻いたタオルで防御は完璧です。あ、湯船には入れないのでご安心を」

「マナーじゃなくて普通は罵るとか、悲鳴をあげて逃げるところではっ!?」

「片手で捻り潰せる相手に怯えるとか意味が……」

「この人、頭おかしいですぅぅぅ」

 

 思い返すと、アンもお兄ちゃんと言っていた。

 イッセー君達もギャー介やら、ギャー君と呼んでいたのに迂闊。

 少しばかり洞察力不足ですね。

 

「私は女装趣味だからと軽蔑しません。それに、怒ってませんよ?」

「ほ、本当ですかぁ?」

「……イッセー君と長年付き合えている時点で普通の変態なんて」

「……お察ししますぅ。でも、さり気なく変態扱いしましたよね!?」

「事実は事実と受け止めなさい。とりあえずギャー介が性別を偽っていたならともかく、私が勝手に勘違いしただけ。だから、この状況も気にしなくてOK」

「いいんですか?」

「イッセー君の覗き趣味に対して”もっと上手くやれ”と忠告するのが私です。今回は私が悪いわけですし、見たいなら見せてあげようか?」

 

 ねずみ系の小心者と分かっているので、胸元を広げてちょっと遊んでみる。

 女装はカモフラージュなのか、それとも単純な趣味なのか。

 これでこの子の本性が分かる。

 

「ノーサンキュー!」

「そんなに私って魅力が無い?」

「大変お綺麗かとっ! でも、イッセー先輩に殺さるのはごめんですぅ!」

「別に彼女でも何でもないんだけどね。じゃあ、途中っぽいからお詫びとして頭でも洗ってあげましょう。ほら、ほら、おいで」

「じ、じゃあ、せっかくなのでお願いします……」

 

 判定はシロ。

 それに男が好きなわけでも無いとの事なので、ちょっと安心しました。

 可愛いものが好きで、自分に似合うと自覚しているから女装しているとのこと。

 そうだ、今度彼らに引き合わせよう。

 私の知る最強のステゴロ集団、現代の拳王ミルたんとその一味に。

 彼らはゴスロリがユニフォームだし、理念を共に出来る同好の士だよね。

 悪意はないよー、あるないあるよー。

 そんなこんなで会話で時間を潰し、一人になった所で天井を仰ぎながら思う。

 弟子三号の隠しても居ない秘密に偶然辿り着いてしまった。

 こんなにも完璧美少女が男。世界は理不尽に満ちています。

 さり気なく男にナンパの数で負けた敗北感に、その夜はアンを抱き枕に寝た私でした。

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