赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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今回の白と赤の会話を書きたかった為に仕込んでおいた布石をついに消化。
これが影響で二天龍の仲直りは早まる予感がします(


番外編その六「朱に交わった白龍王」

 ビーチバレーなる球技は、俺が思っていたよりも過酷なスポーツだった。

 

「そのボール、消えますよ」

「ありえん」

 

 何がどうなっているのやら、打ち返そうとした手は空を切り

 

「俺っちの波動スパイクは百八式まであるぜぃ」

「バレーに見せかけたテニヌとか、僕もうかえりますぅぅぅっ!」

 

 明らかに度を越えた打ち込みの破壊力は、両手で受けた悪魔が悲鳴をあげるほど。

 例えそれが女装趣味の貧弱君にしても、奴とて人外の端くれだ。

 たかがボールが衝突した程度でダメージを負う筈も無い。

 にも拘らず、バトル漫画なノリで吹っ飛ばされるとはこれ如何に。

 まぁ、この俺が二人分働けば済む。

 恨みはないが、潰させて貰うぞ爰乃。

 

「次で決めます、高めに上げて下さい!」

「おうさー」

 

 カウンター狙いでタイミングを計っていた俺の目に飛び込んで来たのは、コートを遮る網の向こうで躍動感のある大ジャンプを決めた少女の姿。

 そこから間髪居れずに捻りを……待て爰乃、何故に拳を握り締める?

 

「必殺、見よう見まねのサイクロンスマッシュ!」

「落ち着け!」

 

 その時、確かに猛烈な竜巻のエフェクトを見た気がする。

 お陰で得た一瞬の硬直。それを逃さず鼻っ柱にめり込んだ球体は、特効持ちのアスカロン、コカビエル最大の一撃すらも耐えた俺の意識を一撃で刈り取る殺意の塊。

 込められて居たのは、拳打の力を全て委譲された必殺の一撃である。

 つまる所、全力で殴られたと変わらないのだ。

 あえて言い訳をするならば、ハンデと繰り返し自身へ適用させていた半減が悪い。

 ええい、万全ならば耐えられたものを!

 

「大勝利!」

「お嬢ちゃんよぅ、対戦相手を倒すゲームじゃ無いんだぜ……?」

「ウチの変態を早々に沈めた美侯がそれを言いますか」

「そりゃそうだけども」

「まぁ、次からは普通にやりますよ。漫画再現遊びはもう十分堪能しました」

「つうかよぅ、流れ的にヴァーリと組むんじゃねぇの? 何で敵対してんの?」

「ジャンケンの公正な結果にイチャモンつけない」

「俺の王様って博打運ねぇなぁ……あいつだけカイジの住人かよ」

 

 よし、後で殴ろう。

 薄れ行く意識の中聞いた美侯の哀れむ様な声に復讐を誓う俺だった。

 

「ふはは、次はこの私とアンの無敵タッグが相手するぞ!」

「負けないの!」

「誰が相手だろうと全力を尽くすのみ。勝利を重ねますよ、相棒さん」

「……その前にちょいとダチを運んでくるわ」

「パラソルを立てたベースキャンプ放置推奨」

「吸血鬼が膝を丸めて丸くなってるトコな、了解了解」

 

 白龍皇史上初となる無様な無様な敗北は、生涯忘れられそうに無い。

 

 

 

 

 

 番外編その六「朱に交わった白龍王」

 

 

 

 

 

「おい変態」

「その呼び方止めて欲しいですぅ」

「分かった」

「物分りが良くて助かりま―――」

「それでだな変態」

「分かってない!?」

 

 大きな傘が作り出す日陰の下、広げられたシートに腰を下ろすのは敗者の二人。

 つまる所、先の闘争を強いられることになった俺とグレモリーの僧侶だ。

 毒にも薬にもならない会話を続けながらぼんやり眺めるのは、新たに迎えたチャレンジャーを相手取る爰乃と美侯の戦いぶり。

 認めたくないが、鳥と下女は俺達よりも爰乃を追い詰めている風に見える。

 

「見物もこれはこれで面白い、そう思わないか?」

「控えめに言ってプロより派手な超人技の応酬、見応え抜群だと思いますぅ」

「見所はそこじゃないだろう」

「え」

「お前では埒が明かないか。悪いが兵藤一誠に連絡を取りたい、さっさと取り次げ」

「悪いといいつつ、その実は超絶上から目線ですねぇ!」

「殺すぞ」

「コールまでしておきましたぁっ!」

「ご苦労」

 

 一睨みするだけで差し出された携帯を受け取り、呼び出し音が鳴る事数回。

 幸いにも電話に出られる状況だったらしく、ライバル君へと無事繋がった。

 

「久しいな兵藤」

『……はい?』

「実は貴様に火急の要件が」

『その声、ヴァーリかよ! ギャスパーをどうしやがった!」

「隣でポカリをちびちびやっているぞ?」

『そ、それならいいや。とりあえず話ってのを聞かせろ。事と次第では今度こそレフェリー無しでの潰し合いも辞さないぞ』

「安心しろ。これは謝罪と、俺なりに導き出した結論の報告だ。何せ人生初のバカンス中であり、わざわざ波風を荒立てるつもりは毛頭無い。当然、女装侶へも危害を加えないと白龍皇の名に誓って約束しよう」

『俺が家に引き篭もりなのに、そっちは夏のアバンチュールかよ! う、羨ましくなんてないからねっ!』

「まぁ、そんな訳で海へ来ている」

『海かー、俺もアーシア達を連れて行きたいわー。水着最高!』

「うむ、水着は素晴らしい。それで、だ。以前……コカビエル騒動の際に俺は君に乳よりも尻が優位と告げたことを覚えているだろうか」

『試験対策で覚えた公式は忘れても、理念を語ったあの日の事を忘れる訳がねぇ』

「水と空気に優劣をつけられない様に、女性のパーツにも貴賎は無い。この言葉は正しく真実とついに理解した」

『……え、ちょ、ヴァーリさん?』

「揺れて弾んで形を変えるおっぱいは素晴らしい」

『あ、うん?』

「今後は安易な決め付けを止め、常に目線を変えて新たな発見を続けようと思う。宿命のライバルに言うべき言葉ではないが、目を覚まさせてくれて感謝する。それだけを伝えたかった」

『……そちら、魔王の曾孫だかで白龍皇な感じのヴァーリさんですよね?』

「うむ」

『俺のイメージだと、戦闘狂いの硬派なキャラだったみたいな?』

「とある女との出会いが原因で変わった自覚はあ―――済まない、アルビオンがドライグに代わってくれと騒いでいる」

『ちょい待てよ』

 

 急にどうしたアルビオン。

 俺は大事な話の真っ最中なんだが……。

 

『どうした白いの』

『貴様の、貴様の宿主の影響でウチのヴァーリがぁぁぁ!』

『知らんがな』

『正道を歩み始めた満点の主がどうしてこうなった!』

『はっはっは、それこそ俺が達観するまで居た地獄よ。ウエルカム!』

『死にたい』

『先輩としてアドバイスだ。対抗策は二つ。一つは根気よく諦めずに説得を続ける事だが、イッセーは馬耳東風で聞く耳を持ってくれなかった。よって二つ目を俺は採用している』

『……それは?』

『全てを諦めろ』

『偉大なる……二天…龍が?』

『プライドは身を滅ぼす。受け入れると決めた俺ですら、想定外のストレスに心が砕けて錯乱する事が今でも多々ある位だ。個々の出来事に一々反応していると、身が持たないぞ』

『もうやだ』

『俺との決着を付ける前に病むなよ?』

『骨は拾ってくれ……』

 

 知らない間に赤と白の仲が改善されていて驚きだ。

 やはり宿主同士に因縁も無く、憎みあう要素を持たない事が原因だろうか。

 

「おーい、次はメンバーをシャッフルして仕切りなおしますよー!」

「よかろう、パートナーに恵まれなかった事が敗因だったと教えてやる」

 

 語り合いたい事は残っているが、優先度は現場が一番だ。

 両手を振って俺を呼ぶ声に応えつつ、俺は打ち切りの頃合と判断する。

 

『ちょ、今の声って』

「悪いが出番だ。さらば、兵藤一誠」

『何で爰乃が―――』

 

 何やら慌てていたが、構わず携帯の電源をオフ。

 呼ばれても居ない間男君に構っている暇は無いのだよ。

 男は美侯だけで十分。俺の楽園を汚す奴は誰であろうと敵だ!

 

『これは夢、そう、夢。あははははは』

 

 安心しろ、これは現実であると俺が保障する。

 何故に乾いた笑いを零すのか理解できないが、早く正気に戻って欲しい。

 確かに俺は本来歩むべき道を踏み外したかもしれない。

 しかし、だからこそ想定以上の成長を約束されていると確信している。

 例えば、やや気だるい体も―――

 

『DIVIDE!』

 

 今やこんな風に”疲労”だけを半減させて、擬似的に回復する事も出来る。

 特定の何かをピンポイントで狙う発想は、かつての俺に無かった物。

 全てを半減させるより汎用性も高く、一点集中の恩恵で魔力の消費も少なくて済むが、求められる繊細な神器操作と集中力を無意識下に落とし込むのは大変だった。

 

「この人、まさかのむっつりスケベだったぁぁぁっ!」

「口を慎めよ変態。そもそもにして水着とは、他者に見られる前提の装いだ。ならば鑑賞するのも紳士の嗜みではなかろうか」

「紳士は誇らしげにおっぱいとか言いませんよ……」

「洋の東西を問わず良い物は良い。美しい物を愛でて何が悪い」

「そうですねー、ちなみに聖剣使いさんを見て一言お願いしますぅ」

「貴様は足元の石ころに一々感想を抱くのか?」

「アンちゃんは?」

「俺より強いとか苛苛する」

「では爰乃さん」

「麗しい」

「……イッセー先輩といい、趣味の悪い人ばかりですぅ」

「遠まわしに馬鹿にされた事だけは理解した」

「え」

「兵藤との約束は守るが、競技を進める過程で不幸にも起きる事故は範疇外だ。偶然狙い打ってやるから覚悟しろ」

「死刑宣告入りましたぁぁぁ!」

「楽しいスポーツタイムの始まりだ、行くぞ」

「いやぁぁぁっ!?」

 

 パワーはこちらの方が上、抵抗しても無駄だ。

 俺は這ってでも逃げようとする僧侶の足を掴み取り、そのまま戦場へと帰参。

 さて、次のバディは誰になるのやら。

 そんな風に宝くじの当落を待つ気分で居ると、運命は俺に味方したらしい。

 

「俺っちは吸血鬼と組むぜー。チーム妖怪結成するぜー」

「アンはゼーちゃんと!」

 

 目配せをしてくる親友に親指を下に立てて応じるが、しかし心中では逆向き。

 偶然なのか、親類も別ルートを潰すナイスアシストっぷりだ。

 そう、これは消去法による必然。

 俺が望んで選んだ結果ではない。

 

「頑張ろっか」

「相手が誰であれ手は抜かん。呼吸する自然さで勝つぞ」

「頼もしい事で。でも、ここからは仲良くがメインだからね?」

「む?」

「美侯と協議した結果、相手を倒した場合は無条件で敗北となりました。目指すは健全で楽しいスポーツ! 趣旨を取り違えた闘球のお時間は終了です」

「なん……だと」

「作戦名”ルールを守って楽しくデュエル”。おーけ?」

「ぐぬぬ、了解した」

 

 そのフレーズを謡う決闘者は、デッキに無いカードを無限ドローするインチキ使い。

 暗に俺ルールを打ち出せと推奨しているのか?

 そんな細かい事はさておき、血で血を洗わないバトルに意味は在るのか分からん。

 しかし、この懸念は間違いだった事を俺は知る。

 結論だけ述べるなら、これはこれで楽しかった。

 またやっても良い、そう思わされた時点で負けを認めざるを得ない。

 その後もメンバーのシャッフルを繰り返し、太陽が頂点を越えた所でお開き。

 促されるままぞろぞろと移動した先で、昼食タイムを取る事に。

 バーベキューは美味だったが、特筆すべき事は特に無いな。

 強いて言うなら炭熾しで半減を使用すると、突然アルビオンが慟哭した件だろうか。

 最近の奴は情緒が不安定で心配だ。

 カウンセラーに見せる日も近い気がしてならん。

 

「そんなに姫様ばっか見て楽しい?」

「武を学びだした身として、あれは実に興味深い」

「ゆーっくりしたのが面白いの?」

「美侯曰く、見た目より余程ハードなトレーニングらしい。見ろ、二人とも汗が滴り落ちる程度には負荷がかかっている。邪魔をすれば怒られるぞ」

「つまんなーい」

「女装と下女の遊びにでも混ぜて貰え」

「うん!」

 

 ゆったりと、それで居て真剣な面差しで演舞を続ける美侯と爰乃。

 食後の運動にと修練を始めた二人は、素人目ではどちらが優位なのかさっぱりだ。

 大陸系の修行方法で高度な技量を持つもの同士でなければ成立しないらしいが、見物客視点ではつまらん。

 これが見知らぬ他人だったなら、即座に興味を失っていたに違いない。

 何せ誰が見ても興味を引くお笑いコンビが、すぐ傍にいるのだから。

 

「ほぅ、最低限の体捌きは物にしているのか。ならばペースを上げるぞ!」

「掠った! デュランダルが掠りましたっ!」

「当たらなければどうと言う事はない」

「あたってますぅぅっ!」

「安心しろ、峰打ちだ」

「両刃の西洋剣ですからぁぁぁっ!?」

「当たらなければどうry」

「もうやだぁぁぁぁ!?」

 

 感想としては猫と鼠の戯れ。縦横無尽に別荘を駆け回り、見物客を飽きさせないエンターテイメントの正体は腹ごなしと称したハンティングだ。

 聖剣使いが吸血鬼を追い掛け回しているだけなのに、動きが多彩で面白い。

 しかし、俺はここで満足しない。

 厄介払いをかねて送り出したアンズーの投入で更なる混沌を狙う。

 

「アンも混ぜてー!」

「よかろう、共に悪い吸血鬼を捕まえるぞ!」

「「合体」」

「はぁ!?」

「「完成、グレートゼノヴィアン!」」

 

 いやいや、肩車を合体扱いは如何な物か。

 

「ふふふ、グレートな能力を知り慄け」

「アンだけのときよりぜんぶがたくさんよわい!」

「機動力も低下、捕獲効率も半分。私は剣も振るえない」

「頭悪いですねぇ!」

「しかし、やる気は千倍だ」

「弱いほうのギャー君ならよゆーなの」

「私からはこの言葉を送ろう。後処理が面倒だから死ぬなよ?」

「まったくわけがわからないよ、これだから低脳はっ!」

 

 そこから先は当たるか当たらないか、ギリギリを狙った魔力攻撃の雨あられ。

 捕まれば命の無い、リアル鬼ごっこの開幕である。

 しかし、俺にとって阿鼻叫喚は子守唄。

 愉快で痛快なオーケストラを聴いていると珍しく瞼が重いので、座っていた折り畳みのリクライニングチェアに深く身を沈めて目を閉じる事にする。

 俺は悪魔、つまり欲求を我慢するのは体に毒だろ?

 

『DIVIDE!』

 

 降りかかる日差しを手頃に弱め、心地よい潮風に身を委ねよう。

 ここには寝込みを狙う不届き者も多分居ない……と思いたい。

 

「これが仲間を、臣下を信じて背中を預けられる王の道か。確かに一人で最強を目指す覇道よりも暖かく心地よい」

 

 何時の頃からか産まれた、自分以外の誰かを信じる心。

 それは新たなる力として脈動を始めた可能性の塊だ。

 俺はまだ変われる。変われると言う事は、未完成の証明だろう。

 完成してしまえばそこがゴールなのだから、喜ばしい事ではないか。

 まどろみに身を任せた俺は、表情が緩む事を実感しながら眠りにつくのだった。


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