赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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概ね当初の予定通りの布陣となった爰乃組。
回復担当としてアーシアが欲しい所ですが、いよいよ部長がマジ泣きするので諦めました。


番外編その八「結成、チーム香千屋」

 空に咲く、色とりどりの花。

 これぞ夏の風物詩。日本人は、一瞬の美に心奪われる民族だと思う。

 だからこそ桜は特別枠として愛されているし、花火を見る為だけに遠くまで足を延ばすことも厭わない。

 本当なら私も風流すべきところですが、残念な事にそうも行かないのが惜しい。

 何せ今は採用試験の真っ最中であり、私の役割は試験官。

 悲壮な顔で三歩進んで二歩下がるヴァーリが、交渉のテーブルに辿り着くのをイラッとしながら待っている最中ですので。

 

「予定を繰り上げます。五つ数える間に切り出さなければ不採用」

「話が違うぞ」

「どんな世界でも採用する側が正義です。どうしてもと言うなら待ちますよ?だけど、ストレスを募らせた私の心象は最悪。どれ程素晴らしいプレゼンを疲労しても、聞く耳を持たないと思う」

「悪魔めっ!」

「あいむひゅーまん、おーけー?」

「ぐぬぬ」

「ごー」

「俺は了承していな―――」

「よーん」

「分かった、分かったからカウントを止めろ!」

「はい、それでは答えを聞かせて貰いましょうか」

「……ああ」

 

 圧迫面接開始。

 

「では、志望動機を。確か私が心配とか?」

「そうだ」

「ひょっとして、私へ何か特別な感情を持っているの?」

「……中国武術では先に入門している者を師兄、或いは師姉と呼ぶと聞く」

「呼びますね」

「俺はアドラメレクに師事している。つまり、お前は師姉として敬うべき存在だ」

「ふむふむ、姉ネタをそう拾って来ましたか」

「奴隷も王も、賢者に物を教わる際には等しく頭を垂れる。その範疇には姉弟子への畏敬も含まれているのも道理」

「要約すると、師姉が戦いに身を投じるなら共をするのも弟弟子の義務と」

「そうだ」

「うん、不採用」

「何故っ!?」

「今の話は美猴の受け売りでしょ」

「その通りではあるが」

「内容は及第点。でも、致命的なミスを犯している事に気が付いてない」

「……自由意志の欠如か?」

「分かってるならやり直し。次がラストチャンス」

「……分かった」

 

 そう、欲しいのは是非とも傘下に加えてくれと望む人材。

 こちらからオファーを出した場合も、嫌々従うなら諦めるのが私です。

 内実はともかく、義務感で従うと言うのであれば首を横に振るのも道理ですよね。

 

「いいだろう、小細工は捨てる。例え爰乃がNOを突きつけるとしても、俺らしく真っ向から立ち向かう事にしよう」

「……最初からそうすればいいのに」

「何か言ったか?」

「いーえ?」

「では行くぞ」

「どんと来なさい」

「最初に宣言するが、俺は何としても爰乃の眷属になりたいと思っている」

「その心は?」

「お前の兵士になる事で得られるメリットは三っつ。一つ、ゲームを通じて冥界の強者と合法的に戦える事。二つ、王は下僕悪魔を養う義務がある為、大手を振り居候が許される点」

「ずっと余裕の入り浸りだった癖に、申し訳ないと思う心はあったんだ……」

「うむ」

 

 ご飯のお代わりも自重しない居候が、まさかのストレスを感じていましたか。

 意外と繊細でびっくりです。

 

「三つ目は?」

「嘘偽り無い話だが、内なる声が爰乃を守れと何故か騒ぐ」

「貴方は何処の小学生ですか……」

「欲求を我慢するなと言うのが義父の教え。必要なら立場も身分も投げ捨てるアザゼルの背中を見て来た俺だ。もしも俺の決定に不満を持つ臣下が居るのなら、斬り捨てるべきは王の表層しか見ていない愚か者となるだろう」

「目的の為に手段を選ばない考え方、嫌いじゃないです」

「それでこそ香千屋爰乃」

「アピール終わり?」

「……悩んだが、隠し立ては無用だろう。実はメリットには四つ目があってだな」

「?」

「お前は遊びと言う概念を。そして活動エネルギー摂取以外に、娯楽としての食事を俺に教えてくれた。これらはアザゼルにすら為しえなかった奇跡。闇雲に最強だけを目指すしか無かった俺に射した光だと思っている」

 

 珍しく熱の篭った口調のヴァーリは私の手を握り、真っ向から目を合わせて続けた。

 

「これからも傍に居て、新たな可能性を示して欲しい。認めたくないが、俺はお前の隣に立っていたい……と言う事なのだろうな」

 

 この男は自分が何を言っているのか、全然分かってないと思う。

 これがイッセー君なら中途半端に照れつつなのでしょうけど、ヴァーリは変化球が投げられない。真顔でデットボールを投げ込んで来るからタチが悪い。

 

「……ちゃんと私の命令を守れる?」

「白龍皇の名に掛けて。但し謙るつもりは無い」

「リアス部長みたいな好待遇出来ませんよ?」

「雨風が凌げて、飢える事がなければそれで構わん」

「人間の小娘如きの風下にって、馬鹿にされても?」

「爰乃なら実力で黙らせると信じている」

 

 想定していたパターンの中でも、一番厄介な攻略法を選ばれてしまった。

 純粋と言うか一途と言うか、断る理由の見つからない力技の突破ですよね。

 仕方が無い、及第点としましょう。

 そう決めた私は、握られたままの手を起点に柔を敢行。

 バランスを崩したヴァーリを抱きとめ、ちょっとした悪戯を試みる。

 

「……駒の消費は、イッセー君と同じく兵士全部でしょう。つまり、私の兵士は生涯ヴァーリ唯一人です。これは手付金代わりの良く出来ましたで賞。嫌ですか?」

「子ども扱いに物申したくはあるが……たまになら悪くない」

「ちなみにこれは、アンがとても喜ぶ定番のご褒美だったり」

「同レベル扱いなのか……」

 

 ブツブツ文句を言いつつ、頭を撫でるのを止めろと言わない兵士さん。

 多分ヴァーリは褒められて伸びるタイプ。褒められたくて頑張る子だと思う。

 私のモットーは信賞必罰、上手い事噛み合う未来に期待します。

 

「文句があるなら、男を磨いて見返して下さいな。師姉はその日が来るのを首を長くして待って居ますからね」

「ふん、今にお前から擦り寄ってくるさ」

「はいはい、私も新米キングとして精進の日々です。一緒に頑張ろうね」

「……ああ」

 

 そうこうしている間に花火も終わる。

 これが最後と、盛大な連発で闇を炎で染めあげる様は正に圧巻。

 人生五十年。誰よりも輝いて、残さず燃え尽きてこそ人生。

 

「見応えのあるラストだったと思わない?」

「一枚絵の様に美しかった」

「?」

「気にするな。俺が満足したのなら、それで構わないだろ」

 

 結局、残りのメンバーは誰一人来なかった。

 下界を見れば人の波が大移動を開始しているし、合流はもう難しい。

 仕方が無いので、美猴とギャーにメールを送付。

 別荘で落ち合う事にしています。

 さりとて私も人込みを泳ぐ趣味は無し。

 時間をどうやって潰そうか、悩んでいた時だった。

 

「さっさと帰るぞ」

「ちょ、ちょっと、まさか飛ぶ気ですか?」

「安心しろ、気配の消し方を美猴に教わっている」

「……それなら良し。これが初の命令です、私を別荘まで運んで下さい」

「任せろ」

 

 背中と膝の下から抱えられた私は、光となって空を翔る。

 しかし、私は失念していた。

 気配は消せても、闇夜を切り裂く白龍の翼は健在だと言う事を。

 後日に新聞とニュースでUFO飛来か!? と報道され盛大にむせる事になるのですが、この時の私には知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 番外編その八「結成、チーム香千屋」

 

 

 

 

 

「私の僕にならない?」

「いいよー」

「即決!? お爺様の許可は大丈夫なの?」

「うん、ご主人様もさそわれたらいけっていってた」

「……こうも簡単とは思いませんでした。特に関係は変わらないとは思いますが、宜しく頼みますよ小さな女王さん」

「姫様だーいすき、アンがんばる!」

「ほらほら、ご飯粒を飛ばさない」

 

 立つ鳥跡を濁さず。お昼からの掃除に備えてご飯をかきこむ私達のおかずは、ふらりと覗いた朝市で仕入れた鮮魚を大皿ドンしたお刺身祭り。

 好きなものを好きなだけ取り分けるセルフ海鮮丼が趣向です。

 何せ早朝トレーニング後の午前中は、ヴァーリに泳ぎを仕込んで終わり。

 片付けも楽な料理に逃げた私の選択は間違っていないと思う。

 そんな楽しい昼食の中、気軽にアンへお伺いを立てた私でした。

 結果は見ての通り。これぞ餌付け……もとい人徳の賜物でしょう。

 

「で、次はゼノヴィア」

「騎士か、騎士として拾ってくれるのか!?」

「色々考えた結果、お爺様に習い長所を伸ばすべきとの結論に至りました。なのでスピードは二の次、パワーだけを追求する戦車で引き取ろうかと」

「しかし速度がだな」

「腕力が上がる事で騎士に……私の知る最速の木場君にすら劣らないスピードを体現する術を教え込むから安心なさい」

「難しい事は分からん。が、お前が太鼓判を押すなら可能なんだろう」

「少しは疑う頭を持てないかなぁ」

「神を疑わず、司祭様の言葉は真理。それが私の人生だった。今や神はマスター、親友で尊敬する爰乃が司祭様に置き換わっている。そこに疑問を挟む余地は無い」

 

 まぁ、内弟子で何かと一緒に行動するゼノヴィアは大切な友人です。

 随分と評価されて居る事にびっくりですが、気持ちは良く分かりますよ。

 お互いこれから先も、背中を預けられる関係を維持していけたら幸いです。

 

「生涯一兵卒、上の命令は絶対。この生き方を貫くつもりだ」

「富も権力も望まず、剣士の頂を目指す……それだけが望みですか」

「うむ、場数を踏んでこそ人は成長する。だから存分に使い潰して欲しい」

「つくづく精神性が香千屋の流儀に近い子ですよ」

「私も水が合い過ぎると思っていた」

「ならば、改めて歓迎しましょう”戦車”のゼノヴィア。私の眷属となり、香千屋の剣技っぽい何かを冥界に知らしめなさい」

「御意!」

 

 これで三人目が確定。

 鬼灯と弦さんはお爺様からのプレゼントなので、喜んで付き従ってくれるはず。

 となれば、種類的に席が埋まっていないのは僧侶だけ。

 でも、そこに収まるべき一枠は既に決めてある。

 迫る試験の為にも戦力の拡充は急務ですが、口説き落としたい彼女と顔を合わせるのはもう少し未来の話。

 断られたとしても、現行のメンバーだけで勝てると予想する私です。

 何事も焦らず、ゆっくり進めますよ。

 

「爰乃、俺に比べて審査基準が緩くは無いだろうか……」

「可愛い女の子と、俺様系男子を同等に扱う方がおかしいと思いませんか?」

「ひゃっひゃっひゃ、それを言われちゃ御仕舞いだぜい。俺っちのアドバイスが無けりゃお嬢ちゃんにポイ捨て去れたであろうヴァーリに甘い評価は出来ないわなぁ」

「お前は大きな勘違いをしている」

「おう?」

「貴様に吹き込まれた中華思想は、何一つ役にはたたなかった。窮地を乗り越えたのは俺自身の機転だぞ」

「まじ?」

「お陰で危うく乙女ゲー世界に片足を突っ込みそうに……」

「え、まさか告ったの!? 好きの種類も分かってないお子様が!?」

「ノーコメント」

「おいヴァーリ、お前どうやって攻略したんよ」

「応える義理は無い。そもそも口に物を入れながら騒ぐな」

「ルール無用の残虐ファイターだったヴァーリが正論……だと」

 

 その辺のマナーは私が躾けました。

 

「あのぅ、グレモリー眷属の僕はとても場違い感が……」

「敵じゃねぇし、細けぇ事はいいんじゃね?」

「ですよねー。でもこの話は聞かなかった事にした方が面白そうですぅ。部長達にはチーム爰乃の結成と内情を教えませんっ!」

「分かってるじゃん」

「どうせ事前に情報を掴んでいても勝てません。なら、サプライズな颯爽登場が美味しいですぅ」

「お前さんの外様発言で思い出したけどよぅ、チームヴァーリはどうするんよ?」

「俺の個人戦力として現状を維持」

「あいよー。でも、俺っちは爰乃眷属に加入しないぜ。アウトローとして色んな世界をふらふらしようが仏は仏。悪魔にゃぁなりたくないわ」

「それで結構。美猴は友誼を結んでくれるだけで満足ですよ」

「朋友としてなら大歓迎だぜぃ!」

 

 私は買い物を吟味して決めるタイプです。なので如何に斉天大聖がビックネームでも、残り僅かな空きスペースを即決で埋めるのは避けたい。

 どうせこれから先も風来坊でしょうし、その時が来るまでキープさせて貰いますよ。

 

「時にチームヴァーリって、他にどんな人が?」

「うーとだな……舌と頭のおかしい英雄兄妹と、キャラ付け頑張り過ぎて微妙に痴女っぽい猫娘の三人。前者はアーサー王の末裔の剣士と、とんがり帽子がトレードマークな魔女娘で、後者はインチキ和服を着崩した仙術使いのトリックスター。今度連れてくから邪険にしないでやってくれぃ」

「お茶とお菓子で持て成す事を約束します」

「悪ぃな」

 

 ヴァーリに好んで従う以上、やはり奇人変人の巣窟でしたか……。

 とりあえずアーサー王の子孫とやらと一戦交え、力の差を見極めたい。

 他の英雄がどれ程の力を持っているのか、是非とも体感したいところ。

 

「さて皆さん、さくっと片付けてお家に帰りますよ」

「別に転移魔法で一瞬だ。何を焦る必要があるんだ?」

「移動時間も旅の醍醐味。暮した景色に別れを告げ、電車の揺れに身を任せるのも一興です。無駄を省いて最短距離を生きる人生はつまらない。回り道の最中に見つかる新発見も多いと私は思う」

「心の豊かさは、そんな積み重ねで産まれる物か」

「他の子も異論はありませんねー?」

「「はーい」」

「台所周りは私が担当します。後は各自分担してお掃除開始!」

 

 これがチーム香千屋にとって初の団体行動。

 訪れた時よりも綺麗に片付けるべく、私達は奮闘するのだった。

 

 

 

 

 

「見慣れた町並みを見ると、やはりほっとしますね」

「殆ど出歩かない僕には、逆に未知の景色ですぅ」

「……暇な時は無理やり連れ出すから覚悟しなさい」

「余計な事言っちゃったぁぁぁっ!?」

「不健康な奴め。明日からは、朝のランニングに付き合わせてやろう」

「朝日を浴びながら汗を流す吸血鬼になれとっ!?」

「変り種はどんな世界にも一人や二人居る。大丈夫だ、何も問題は無い」

「体育会系なんて大嫌いだぁぁぁっ!」

 

 駒王の地に再び足を踏み入れたのは、私達三人だけ。

 消えたのはアザゼル先生に会うと途中の駅で下車したヴァーリ&美猴と、謎のトラベラー気質を発揮して別路線で何処かに旅立ったアン。

 彼らは鎖に繋げないアンチェインな生き物だと、今更ながら理解しました。

 基本的にプライベートへ干渉しない放任主義が私のやり方ですが、あまりの暴れ馬っぷりに新米ジョッキーは乗りこなせるのか少しばかり不安です。

 

「ギャーは家に寄って行きます?」

「ではお言葉に甘え―――」

 

 お茶でもと声をかけた瞬間だった。

 ぽん、とギャー夫の言葉を遮るように肩に置かれたのは男の手。

 それは私も良く知る少年、とても良い笑顔を浮かべるイッセー君のもの。

 

「やぁ、ギャスパー君」

「なななな、なんでイッセー先輩がががが?」

「爺さんに帰りの便含めて全部聞いたよ。地獄の合宿とやらの正体もな」

「先輩、僕は何一つ嘘を言っていないと思います」

「認めよう」

「つまり僕に非はありませんっ!」

「話は署で聞こうか。爰乃、こいつは回収させて貰うぞ」

「元々そちらの人員です。ご自由にどうぞ」

「積もる話もあるから、明日お前んち行くわ。昼とか空いてるか?」

「大丈夫」

「んじゃ明日の昼―――って、何故にゼノヴィアが一緒に!?」

「気付くのが遅いぞ赤龍帝」

「また悪魔を狙ってる……のか?」

「むしろ悪魔に仕えている身だ。我が主はベノア・アドラメレク様。神も悪魔も楯突く者は等しく聖剣の錆にする所存」

「斜め上の回答に、頭の回転が追いつかねぇよ!」

 

 最近は疎遠でしたからねー。

 何気にこれが初の顔合わせでしたか。

 

「良く分からんが、さっさと行け。吸血鬼が逃げる素振りを見せているぞ」

「ほほう、良い度胸じゃないか後輩君。時間はたっぷりある、OHANASIしようか……」

「目が怖い、ハイライトの消えた瞳が怖いですぅぅぅっ!」

 

 傍目には仲良く肩を組んで歩いて行きましたが、アレは完全に連行ですね。

 あの様子じゃ、私と一緒だった事を知らなかったのかな?

 部長は知っている筈なのに、何処で情報が途絶えたのやら。

 まったく、告る勇気も無い分際で焼餅を焼くとか笑止千万。

 健気で可愛らしいアーシアの何処に不満が在るんでしょうねー。

 

「さ、私達も帰りましょう」

「うむ、マスターに報告もしなければいかんしな!」

 

 こうして私達のプレ夏休みは終わりを告げた。

 これから迎える冒険の日々を思うと胸が高鳴ります。

 冥界での武者修行と各種試験……必ず満足の行く結果を残してみせる。

 まだまだ夏は終わらない。私の青春はこれからだ!


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