赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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原作を確認したところ、三大勢力最弱は悪魔とのこと。
地味に弱いアザゼル率いる少数の堕天使軍団(増員無しと明記)より下って……
その辺の理由について、サイラオーグを縮図にでっち上げる予定です。
原作ルートでも放っておけば内ゲバで滅びそうですし、拡大解釈でもない気が(ぁ


第39話「獅子と猫」

 遠くから見えるのに、幾ら進んでも一向に足元に辿り着かない大きなお城。

 迎えの馬車に揺られながら外を眺めてみれば、見る者を退屈させない計算し尽くされた庭園が何時までも続いているから凄い。

 これぞお金に糸目をつけないガーデニングの極地。

 点在する施設すらも風景の一部として利用されていて、これを見物させるだけでお金を取れるレベルだと思う。

 この辺の優雅さと言うか伝統力が、名門の名門たる所以なのでしょう。

 

「ズバっと飛べば、当の昔に着いてるんだがなぁ……面倒くせぇ」

 

 私とレイヴェルが芸術に心奪われているのに対し、向かいの席に座る何千年生きているのか分からない年寄りはドライブに飽きた子供の発言を繰り返すばかり。

 やれやれ、少しはスローライフを理解して欲しいですね。

 先生は少年の心を失わない大人と常日頃から自称していますが、自覚している以上に精神年齢が幼いと思います。

 

「社会的に立場のある方の言葉とは思えませんわ」

「先生は、生まれた時から富と権力を持ったたちの悪い大人ですからね。我慢を知らないから堕天してますし、三つ子の魂百までを地で行くアレな人と認識した方が良いと思う」

「ですが悔しい事に悪魔側も働きたくない引き篭もり、アイドル系、はたまたシスコンを公言する魔王と癖の強い人事ですの。三大勢力の内二つまでが駄目なトップで占められている現状から予測するに、天界の指導者も頭の螺子が緩んでいるのではと邪推してしまいますわ」

「ミカエルさんは甘ちゃんだけど、割と普通でしたよ?」

「知人ですのね」

「以前に茶飲み話を少々。皮肉を言っても気付かない天然さんでした」

「三大勢力のトップ全員から可愛がられているマイロード……」

「ちょっと武術を嗜む、モブな現役女子高生ですが何か?」

「爰乃がその他大勢認定される人間社会って怖すぎですのっ!」

「ですよねー」

 

 でもねレイヴェル、皆さんの認識はベノア・アドラメレクの孫だよ。

 最初にその下地があるから友好的なだけ。

 香千屋爰乃が、自分の力だけで勝ち取った評価じゃ無い事をお忘れなく。

 

「お前らセメント過ぎるわ。せめてオブラートに包むか、本人の居ない所でディスれよ。仮にも一勢力の頭な俺だぜ? 小娘風情を無礼打ちしても問題にならんからな?」

「どうせやらない癖に」

「そりゃ機嫌を伺って心にも無いおべっかを使う奴より、誰が相手でも思った事を素直に口にする奴のが俺は好ましく思うからなぁ。その点で言えばウチの幹部より下は全員駄目だ。あいつら冤罪を押し付けようが喜んで受け入れるイエスマン集団で頭が痛い」

「わたくしとて、公の場であれば美辞麗句を並べますわ。しかし、今はプライベートな時間だとアザゼル様が仰られたではありませんか」

「フェニックスの娘はハートが強いこって。普通は無礼講を宣言されても、取引の有る他社の社長を酷評出来ないぞ」

「神鳥に白龍皇、果ては竜王の一角と、続け様に最強クラスと顔を合わせたわたくしです。すっかり大物慣れしてしましたの。何よりも―――」

 

 ちらりと私を一瞥。

 レイヴェルは様になった所作で頭を垂れて言う。

 

「わたくしが跪くのは我が王、香千屋爰乃唯一人。御身が居られる場で媚びへつらう訳には参りませんわ」

「何それ超格好良い」

「しかし、アザゼル様はやんごとなきお方。フランクさがお気に召さないのであれば、余所行きの顔を見せることも吝かではありません。如何致します?」

「冗談だよ冗談。爰乃と同じく敬意を忍ばせた上での発言ってのは、ちゃんと理解してるっつーの。どうせ嫌でも爺の家で顔を合わせる間柄だ。その調子で頼むわ」

「承りましたわ、堕天使総督のアザゼル様」

 

 あの兄に対して、この妹あり。

 この肝の太さは何処から来ているのでしょうか。

 以前にも脳裏をよぎったけど、やはり猫型ロボットの兄と妹の関係……?

 

「おい爰乃、コレは腕っ節と無関係な部分で貴重な駒。ともすればヴァーリを超える逸材かもしれんから大事にしろよ?」

「私の宰相なのですから当然です」

「その表現は正しい。爺は冥界に無関心で最新の動向に疎く、血筋だけは立派なヴァーリも我関せずだ。他の眷属も力はともかく政治は出来ん。今後もゲームだけだろうと冥界と関りを続ける気なら、家の格も十分、頭も回るお嬢ちゃんの力は必須となる」

「はい」

「サーゼクスの威を借りるだけでは不十分と、試験で分かったかと思う。本当の意味で嫌われ者の人間を悪魔社会から守れるのはお前の僧侶のみ。これ以上言わんでも分かるな?」

「心得ました」

 

 そこまで深く考えずに手に入れた駒が、まさかレーティングゲームに参加するに当たって必須条件だったとは夢にも思いませんでした。

 しかし人の巡り合せも実力の一つ。天の采配に今は感謝しておきましょう。

 

「マイロード、今のわたくしは戦闘能力で他の眷属に劣るかもしれません」

「うん」

「故に力をつけて並び立てる迄は、武官の皆様とは違う面で盛り立てたく思います」

「適材適所だね」

「目指せ文武両道、香千屋爰乃の片翼に不死鳥在りと周知させてみせますの!」

「至らぬなら至るだけ……その思想こそ私が求める精神。実に素晴らしい」

「しかしマイロード」

「何かな」

「お膳立てをした上で言う事では有りませんが、やはりサイラオーグに挑むには手順を飛ばし過ぎかと。例えるなら神滅具を有さない赤龍帝が兄に挑む様なもの。どう甘く見積もっても暴挙にしか思えませんの」

「レイヴェル、猫は犬から目を背ける事は許せても、同じ猫に道を譲る事は出来ないの。それが例えライオンであろうとね」

 

 そこに実力差は関係ないんだよ。

 同族と認めてしまった時点で、退くと言う選択肢は残されていないのです。

 何故なら拳を交えて勝敗をつけない限り、この胸に蠢く感情を消化出来ないから。

 勘違いして欲しくないのは、挑む事に意味のあるオリンピック精神ではないこと。

 私は当然勝利を掴み取るつもりですよ?

 お爺様であれ、ヴァーリであれ、負けても良いと思った事は一度も無いんだよ?

 この辺を理解出来ていないのが付き合いの浅さですね。

 多分、イッセー君なら頑張れと背中を押してくれたと思う。

 

「これが香千屋爰乃の生き様だ。フェニックスの娘、しっかり頭に入れとけよ」

「ああもう、どこまで恵まれた容姿を無視した男前さですのよ。もしも爰乃が男に生まれていたなら惚れていましたわ」

「一本気でブレない女も魅力的だと思うがね。どちらの性別で産まれるべきだったのか、最早存在しない神にでも聞いてみたいぜ」

「好き放題言いますね……」

 

 特に性別を意識せず生きて今の私が構築された様に、仮に男に産まれても似た様な性格の生き物になっていたんじゃないかな。

 と言うか、そもそも女の身に不満は有りませんよ。

 だって男性の特性として筋力と頑丈さを得られたとしても、代償に女性の持つ敏捷性としなやかさを失ってしまうと言う事。

 なら、それは等価。

 与えられたリソースの中で最善を目指す事に変わりはありません。

 何よりも、パラメータに僅かな変更を加えただけで壊せる壁ならとっくに超えています。

 全ては誤差の範疇に収まると思う私です。

 

「それはそれとして、そろそろ到着ですの。人間のマナーで構いませんので、失礼の無い様にお気をつけ下さいませ。何方がいらっしゃっているのか分かりかねますが、フェニックスが足元にも及ばない大貴族の夜会に参加できる格をお持ちである事は確かですわ」

「それはどうかな」

「何か知っていらっしゃいますの?」

「ヒントはホストがサイラオーグって事かね」

「?」

「さすがに語るにはもう時を逸している、答えは自分の目で確かめろ」

 

 

 

 

 

 第三十九話「獅子と猫」

 

 

 

 

 

 優雅で華やかな調べが流れるのは、音の格調に相応しい巨大な空間だった。

 下品にならない程度に飾り付けられた大広間には多くの紳士淑女が集っていて、そこらかしこで歓談の声で部屋を埋め尽くさんと頑張っている。

 帰りたい、一刻も早く場違い感が天元突破なこの場所から姿を眩ませたい。

 遠巻きに陰口を叩かれるのも、侮蔑の目を向けられるのも耐えられるけど、空間を満たす暗黙の貴族ルールでガチガチに固められた世界観は無理です。

 頼みの綱のレイヴェルは挨拶回りに出かけてしまったし、先生も主賓級なので無名の小娘に構っている暇も無い訳でして。

 目立たぬように、壁際のソファーでフィンガーフードを口に運ぶ私は正しく壁の花。

 蝶の寄り付かない造花は、本物志向の皆様と折り合いがつかないのも当然でしょう。

 

「また会ったな小娘」

「舐めた口を利くなら、今度は半殺しじゃ済ませませんが?」

「ぬかせ。先日の敗北は痛手ではあったが、アレは貴様の力を見誤っただけよ。本気を出したなら立場はいつでも入れ替わると知れ」

「確か全ての力を、と言ってた様な?」

「細かい事を気にするなココーノ」

「勝手に人の名前を改変しない。伸ばし棒は不要です」

「む、そうだったか。して、何故にこの場に居るのか答えよ。まさかとは思うが、貴様も出世コースに乗りつつあるサイラオーグに集まって来た蛾の一匹ではあるまいな」

「灯りの事も名前しか知らなければ、お金にも権力にも興味はありません。そもそも生活基盤を人間世界に置く私が冥界の利権に絡むメリットが有るとでも? 中途半端に暗部へ片足を突っ込んで、面倒に巻き込まれるとか勘弁して下さい」

「ならばよい」

「むしろ、そちらこそ羽虫の一匹では?」

「失敬な。名門中の名門たるバラムが、目の前の甘い汁に目を眩ませ誇りを捨てるなど言語道断。俺は、個人的に親交の有るサイラオーグの為に顔を出しただけである」

「格闘家繋がりなら、私も似たようなものですよ」

 

 私に確認もせず隣に腰を落ち着けるのは、何処からとも無く現れた一人の悪魔。

 筋骨隆々の巨躯を無理やりダブルのスーツに押し込むコスプレ姿ながら、その立ち居振る舞いは紳士のそれ。

 初対面の印象で脳筋と決め付けていましたが、その評価を訂正します。

 通常の気を込めただけのカウンターで沈んだにせよ、エアリードのスキルを保有しているだけで上方修正も止む無し。

 せっかくなので暇潰しに付き合ってもらいますよ、バラク・バラムさん。

 

「その言葉で得心した。つまり貴様もこの場でマイノリティーと言う事か」

「人間の時点でアウト。最初から分かっていました」

「そう言うな。何が目的なのかは問わんが、状況を理解していないようだから教えてやろう。話を聞くつもりはあるかね?」

「是非とも」

「うむ、下々に路を指し示すのも高貴なる者の義務である。人の子とは言え、一瞬でもバラムを超えたココノに知を教授してやろうではないか」

「御託はいいから、サクサク進めて下さい」

「では始めよう。前提条件であるが、サイラオーグが異端児である事は知っているな?」

「魔力無しの規格外と聞いていますね」

「そう、そこが問題よ。バアル家の特色たる滅びの魔力を発現できず、肝心の魔力すら皆無。欠陥品と罵られ、一時は母共々辺境の地で飼い殺しの憂き目にあっていたのが奴だ」

「次期当主なのに?」

「本来は、現当主が後妻に産ませた異母弟が継ぐとされていた。しかし、その決定を決闘で覆したからこそサイラオーグは凄い。滅びの力をしっかり受け継いだ弟を、真っ向勝負で殴り倒した。これを奇跡と言わず何が奇跡か」

「バラクさん、一つ質問が」

「聞こう」

「グレモリーの人も滅びの魔力とやらを持っていますけど、それでもお家芸なの?」

「現魔王とリアス嬢の母親がバアル系なのだよ。アレは例外とカウントしておけ」

「なるほど」

 

 バラクさんは熱く語ってるけど、部長と同じ力なら限度は知れている。

 弟さんとやらが同程度の力だと仮定した場合、武の頂を登り詰めたサイラオーグさんならワンパンで倒せない方がおかしい。

 奇跡は、勝つべくして勝った場合に使うべき単語じゃないと私は思う。

 まぁ、空気を読んで口にはしませんが。

 

「そんな訳で公式にはサイラオーグが次期当主だが、魔力至上主義の親族は奴を認めていない。蜜月関係の後援貴族も、内心では疎んでいる内憂外患が今のバアルの内情となる。ここまでがステップ1。理解出来たな?」

「当然ですとも。さあ、続きを」

「ならばステップ2を始めよう。さて問題だ。身内は概ね敵、外にも味方は皆無。一人では何も出来ない。お前ならどうする」

「ああ、だから私や貴方がハブにされるパーティーが必要なんですね」

「その理解で正しい。最後になったが、奴の夢を教えてやろう。血筋優先の社会を、実力主義の世界に変える為に魔王を目指す。単純ながら、極めて困難な茨の道が奴の進むと決めた人生よ」

 

 有名無実になりつつあると言っても、やはり冥界を支配していた旧七十二柱の序列一位。

 その名に群がる甘い汁目当ての貴族は多いらしい。

 特に転生悪魔を筆頭とする新興貴族、彼らにしてみれば孤立無援の次期当主はバアル家に取り入るチャンスなのでしょう。

 やっと先生の言っていた言葉の意味が判った気がします。

 この場の悪魔は大物が僅かで、残りは微妙な家格ばかりと言う事ですね。

 中には二心を持たない悪魔も居るだろうけど、殆どは権力に擦り寄ってきた風見鶏。

 しかし、それでも数は力となる。上を目指す為にどうしても必要な力に。

 互いに打算で塗り固めた表面上の団結を対外的に見せる場、それがこのパーティーの趣旨であり存在理由。何とも面倒な事です。

 そして、今の話を聞いて思い違いをしていた事に気づきました。

 彼は純粋な武人じゃない。

 サイラオーグさんにとっての武とは、夢へと続く獣道を切り開く手段でしかなかった。

 一つでも負けて弱みを晒せば未来が潰えるから負けない、負けられないだけ。

 最強を目指す私と、最強にならなければ先へ進めないサイラオーグさん。

 どちらの信念が重いのか私には分からない。

 ただ、分からないからこそ拳を交えたいと思う。

 

「……素敵な漢ですね」

「中々悪魔を見る目があるではないか。我が友に直接紹介してやろう!」

「既にダンスのお約束を取り付けてあるので結構。全身全霊で踊るつもりですし、サイラオーグさんの了承を得られるなら眺めに来ては如何? 一見の価値はあると思いますよ?」

「おい待て、ダンスとはつまり」

「ナポリ風に言うならAddio Danza、かな」

 

 地方巡業を終えホール中央で淑女達の相手を始めていたサイラオーグさんを見つけた私は、今がチャンスと行動を開始する。

 レイヴェルには自分が戻るまで大人しくして居ろと釘を刺されてはいたけど、揉め事を起こす訳でもないし大丈夫ですよね。

 

「ためになる話、ありがとう御座いました。これで心置きなく挑めます」

「う、うむ」

「さて、手始めに牽制の一刺しでも」

「俺は何も知らないし、聞いていない」

「一曲お相手を申し込むだけですよ?」

 

 音楽の切れ間が間もなく訪れる事を予測した私は、小さくガッツポーズを取って気合を入れると第一歩を踏み出すのだった。

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