赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第42話「Round3」

 必中の奥義を外したと言う事実に、俺は少なからず動揺していた。

 原因は二つ。

 一つは右ストレートを不用意に放った際に極められて以降、ジクジクとした痛みを訴えかけてくる肘の影響。爰乃は投げを失敗したと思っている様だが、果たして爪痕を残していた事に気付いているのだろうか。お陰で狙いが僅かに逸れてしまったぞ。

 二つ目は相手の反応速度が神懸っていただけなので、こちらは俺の与り知らぬ領域だ。

 つまり、結論として敵は致命傷を負っていない。

 見た目こそ派手に吹っ飛んでいても、あれは突風に煽られた木の葉と同じ。

 ここまでの応酬で敵の牙が俺の肉を噛み千切れ無い事は確定してるが、鼠とて猫を打ち負かし下克上を果たすパターンもあると聞く。

 まして相手は知恵のリンゴを齧った人間である。俺の思いも寄らぬ方法で反撃してくる可能性が十分に考えられる以上、勝利の確定する瞬間まで僅かな油断も命取りになるだろう。

 現にセコンドのフェニックスも総督殿も何も言ってこない。

 ならば試合は続行中、伏したまま動かないのも誘いの可能性すらあり得る。

 そう結論付けて様子を伺っていると、やはりと言うか少女は当然のように起き上がる。

 

「来なさい、我が永遠の友」

 

 鼠がそう呟いた瞬間、彼女の前に現出したのは細長い布切れだった。

 色は鮮やかな真紅。不思議と特別な力を感じさせないソレは、意思を持つのか独りでに主の髪へと結びつき黒に彩を与えて動きを止める。

 俺も似たような物を持つので分かるが、独特の雰囲気から察するに間違いなく神器。

 ある意味で予想通りの展開、本格的に不味い事になりそうじゃないか。

 まぁ、何であろうとやる事は変わらん。シンプルに殴りつけて黙らせるのみ。

 

「お待たせしました」

「気にするな、単純に俺が臆病だっただけの事よ」

「ならば早速第二ラウンド―――と、その前に一つご報告が」

「む?」

「既にお察しの事とは思いますけど、フェアじゃないので確認させて下さい。見ての通り、ちょっとした神器に目覚めた私です。今からこの子を使っても構いませんか?」

「俺は強者が大好きでな、敵がさらなる力を得るなら諸手を挙げて歓迎する性質だ。何よりも神器は本来人間だけの特権。ならば、俺が悪魔の膂力を産まれ持つと同じ事ではなかろうか。遠慮せずに使って欲しい」

「了解です。それでは、いざ尋常に―――」

「勝負!」

 

 緩急をつけた歩行術からの踏み込みは開幕と同じ切れ味。

 瞬間的な加速だけは俺の上を行く事も認めよう。

 が、同じ手が通用すると思っているなら甘い。

 開眼した神器が何であれ、後の先を取って潰してくれる!

 勇気と無謀を履き違えた行為に落胆しつつ、しかし侮ること無く牽制の左を一つ。

 あっさりと掻い潜られるが、ここまでは予定調和。

 あえて打たせた掌打に耐えるべく腹筋に力を入れ―――

 

「一度あった事は同条件で二度続くと思い込む心、人はそれを油断と言います」

 

 拳の形そのままに俺の腹が陥没していた。

 想定通り互いの気は対消滅。後は我慢出来る程度の勁が来ると思いきや、実際に飛んできたのは俺と遜色ない重さの拳だと!?

 鳩尾―――横隔膜をピンポイントで打撃された事で発生した呼吸困難、それは悔しい事に俺の動きを強制的に止め無防備な姿を敵に晒させる大戦果を上げている。

 正直、敗北を覚悟した。

 あれほど集中を途切れさせるなと念を押したのに、この有様とは情けない。

 結局、俺も他の悪魔と同じく腹の底では人間を下に見ていたのか……

 恥かしさ以上に爰乃への申し訳なさで胸が一杯だ。

 しかし、いつまでたっても追撃は来なかった。

 技量で遥か高みに居る拳士が、瞬間的にでも棒立ちの相手を取り損なう筈が無い。

 硬直から解放された俺は、疑問を解消すべく顔を上げて驚いた。

 彼女が居たのは俺から三歩遠ざかった位置であり、”どうだ”と訴えかけてくる瞳は明らかに俺が回復するのを待っていた証拠。

 

「言い忘れましたが、私も貴方に負けない程度に真っ向勝負を愛しています。なので嫌でも聞いて貰いましょう」

 

 千載一遇のチャンスを捨ててまで、俺の慢心を叱責する揺ぎ無き精神。

 100%の俺を倒さなければ意味がないと言う意思。

 嗚呼、人間と言う生き物の何と眩しき事か。

 

「神器”赤兎の飾り布”の効力により、今やサイラオーグさんに勝るとも劣らない剛力を獲得済み。面倒だから一発耐えてカウンター作戦、は二度と通じませんからね」

「何と詫びれば良いのやら……本当に済まない」

「貴方は人生で始めて得た宿敵。悪いと思うなら私を倒す事で償って下さい」

「チャンスを与えてくれるのか……?」

「意識を失った私も一度負けた様なもの。これで貸し借り無しと手を打ちません?」

「かたじけない」

「さて、ルールを変更して先に二本先取の三本勝負だった事にしましょう」

「互いにポイントを取った最終戦と言う訳か」

「ええ、勝つのは私ですけどね」

「楽には勝たせんよ、何よりも最後に立っているのはこの俺だ」

 

 下手をすれば初黒星を付けられる可能性すら有るというのに、この胸は未だかつて感じた事の無い喜びの感情で満たされている。

 賭けているのは互いのプライドだけの筈だが、文字通り人生を賭けた兄弟への挑戦と比べてすら勝ちたいと願っているこの心境。

 これぞ俺の求めていた闘争だ。これまでも義務として勝たねばならない相手は何人も居たが、純粋に負けたくないと思ったのはこの少女が始めてなのだからな!

 

「香千屋流、香千屋爰乃―――」

「我流、サイラオーグ・バアル―――」

「「参る!」」

 

 決着の時は近い。

 

 

 

 

 

 第四十二話「Round3」

 

 

 

 

 

「……仕切り……直す……か?」

「下手な心遣いはやめて下さいっ!」

 

 開幕で私はやらかしていた。

 具体的には足を縺れさせて転倒、ゴロゴロと転がっちゃいましたよハハハ。

 いやその弁護人の主張としては、自転車の感覚でアクセルを踏み込んだらF1の加速にズドンされたと言いますか……

 ええと、想像して頂きたい。

 赤兎馬は日に千里を駆けると名高い馬業界の一番星です。

 しかも当時の行軍は日が落ちれば終了の短時間さ。

 それも整備されていない山道やら峠を越える前提の話ですよ?

 苛酷な環境下で出した時速はどれ程のもので、馬力は如何程だったのやら。

 そんなモンスターマシンを素材として作られた”赤兎の飾り布”は、赤兎馬の持っていた身体能力を使い手に上乗せする効力を持っています。

 初使用は拳を打ち込む瞬間にだけ発動させたから問題なかったけど、突然出力系統の変化した体を完全制御をしろと言う方が無理だと思う。

 幸いONとOFFだけでなく、細かい力の調整は可能です。

 なのでぶっつけ本番ながら、手探り感覚を掴む事が急務となります。

 

「先行は貰います、私のターン!」

「無理やり流したな……」

 

 私のOSは最大値を英雄モードで最適化済みなのがネック。とにかく徐々に慣らしてアップデートすると決め、脳内でやんわりとアクセルを踏み込んでいく。

 相手に合せて繊細なコントロールを必要とする投げは一時的に封印し、選んだのは打撃戦。

 打っては離れ、離れては踏み込む。

 私がアウトボクサーなら、サイラオーグさんはインファイター。

 完全にボクシングの様相を呈して来ましたが、これはこれで楽しいかも。

 

「なるほど、打ち合えるだけの力を得たと言う事か」

「付け焼刃ですけどね」

 

 クロスした腕で左拳を耐え切った私を見て、サイラオーグさんは嘆息。

 第一ラウンドは掠ると死ぬ感じだった爰乃さんも、今やキッチリ防御すれば拳打を受け止められる頑丈な肉体を得ていたり。

 ”赤兎の飾り布”の効果による膂力の上乗せ、それはイコール振るう力に見合うハイスペックな土台を獲られると言う事。

 具体的には某篭手と同様に、使用者のパラメータを擬似的に書き換えているのかな?

 別段筋肉が増えたり骨の強度が増した訳でもないのに、導き出される結果だけが上昇したパラメータを参照して計算されている感じですね。

 今はギアが低速なのでジャブをブロックした腕が軋みますが、より多くの力を引き出せたならそれも改善されるのでしょう。

 と、そんな事を考えながら逃げ回っている内にぼちぼち感覚も掴めましたね。

 そろそろ反撃を開始しますか。

 

「拳闘ルールに付き合うのもここまで。ここから先は何でもアリアリです」

「元よりそのつもり!」

 

 私が動きを変化させたなら、サイラオーグさんも対人に特化した戦術へとシフト。

 無駄な破壊力を抑えた代わりに速射性を上げた左右のコンビネーションは、控えめに言って弾幕。必殺技未満の通常攻撃が、既に天馬流星拳級とか愉快すぎて笑うしかない。

 さしもの私も全てを回避する事は不可能ですが、残念なお知らせが幾つか。

 サイラオーグさん、貴方の欠点を見つけちゃいました。

 

「くっ……先の行動が読まれている?」

 

 サイラオーグさんの射程は長く、連打による空間支配力の高さも認めましょう。

 でも、射角は狭い。

 私の様に左右に振り回してくる相手に対し、反応がワンテンポ遅れる点がまず一つ。

 腰の入ったパンチは真正面にしか打てないので、これはまずいと思う。

 そしてもう一つ、悲しい事に何処を狙ってくるかもう八割方読めるんですよ。

 そう、こんな風に。

 牽制弾しか当たらない現状に苛々を募らせたのか、本気の一発を打ち込んできた瞬間を狙って縮地を使用する。

 前傾姿勢で拳の下を擦り抜けると体格差を埋める為に小さく跳躍。階段を上る要領で連続蹴りを浴びせつつ、掴みかかってきた手を振り払って着地した。

 でも、まだ終わらない。

 右手を岩の様な感触の腹筋に押し当てて、足の指先から拳に至る関節を全連動。前にイッセー君へと仕込んだ龍吼を全力でぶちかましてフィニッシュ。

 本日二箇所目となる拳の痕は、店長からのサービスです。

 

「……自分の動きに癖がある事を気づいていませんよね?」

「そう、なのか」

「これが一人で腕を磨いてきた弊害。他者からの助言を受けない限り、自ら掴み取った最善は疑えません。是非とも正しい指導者の下で改善願います」

「誰かに頼る勇気……か」

「何も考えない火力ゴリ押し正面突破な連中を、幾ら相手にしても無駄の一言。動かぬ的を殴りつけるよりも、適切な理を受け入れる方が身になると思いますよ」

「貴重な助言に感謝する。手始めとしてお前から学ばせて貰おうか」

「おや、試合を捨てますか」

「いや、宿題として受け取った。今は芸の無いワンパターンと笑われても目の前の勝利が欲しい。手を抜いたつもりは無いが、やはり先を見越して力をセーブしていたのは俺の甘さ。我が究極の拳をもってフィナーレを飾ろうと思う」

「私も神器に振り回される状態での長期戦は望みではありません。名残惜しくは在りますが、そろそろ決着を付けましょう」

「耐えるか避けられたならお前の勝ちだ。どんな結果になるにせよ、また相手願いたい」

「是非に」

 

 暗黙の了解で開始と同じ距離を取り、ここが勝負所と大きく深呼吸。

 やはり戦いは勝敗の分からないギリギリ感あってこそ。

 過去に対戦した格上は、揃って本気を出してくれなかっただけに余計に新鮮です。

 例えば美猴、彼はそもそも本気か怪しい上に断固として顔を攻撃しないフェミニスト。

 ヴァーリは壊れ物を扱う慎重さだし、弦さんも臣下としての立場を崩さない。

 本来なら五分のグレモリー前衛部は、私への苦手意識が災いして本来の力を出せず問題外。

 強いて言うならライザーが有力株でしたが、性根の脆さが……うん。

 その点、サイラオーグさんは満点です。

 接待の一環で受けた模擬戦なのに、取引先の娘を本気でぶん殴れる狂人っぷり。

 九分九厘負けない相手にも慎重さを崩さない精神性。

 何よりも後付装備無し、コツコツと積み上げてきた力だけが武器と言うのが素敵。

 独学が災いしてテレフォンパンチ気味だったり、コンビネーションの組み立てが雑だったりと欠点は幾つもあれど、彼も私と同じく若手で未熟者。

 次に拳を交える時には、今日よりも強くなっていると信じています。

 ……とまあ上から目線で語りましたが、ライトニングボルト(仮)をどうしたものやら。

 肩の動きから狙いを察知する事は可能ながら、視認した瞬間はもう遅いんですよね。

 理詰めでの対処は不可能と来れば、ここは日本人らしく精神論の出番です。

 頑張って避け、負けじと必殺技で応酬しますか。

 

「長き戦いに終止符を打とう。燃えろ闘気、沸きあがれ魔力!」

 

 あの技の弱点は全身全霊を搾り出す性質上、単発であること。

 次の行動に移るまでに産まれる硬直を狙えば、十分に勝機はあると思う。

 だから危険を承知で前に出よう。

 なりふり構わず逃げて回避しても、それは言葉遊びの勝利でしかない。

 敵を叩き潰さず得られた勝利に意味は無いのだから。

 

「露と散れ誇り高き挑戦者よ。”獅子の爪牙”!」

 

 それは正に閃光の体現者。

 スローモーションの世界で理解したのは、やはり回避は間に合わないと言う現実だった。

 しかも初披露の時と比べてさらに速く、半歩を踏み出す猶予すら無い恐ろしさ。

 うん、場当たり的な対応も許してくれませんね。

 じゃあ仕方が無い、リスキー過ぎて選ばなかった禁断のセカンドプランの出番かな。

 

「左が残れば……何とかなるよね」

 

 獅子の爪牙とやらの正体は、射程が伸びただけの超高速打撃と解析済み。

 極限の集中力が生み出した意識だけの加速世界に追従させるべく、脳のリミッターを解除して無理やり利き腕一本を動かすのに一苦労。既に嫌な音を立てる体を後押しして、手首と肩の僅かな回転を利用した最速の拳を打ち出す事にする。

 狙うのはサイラオーグさんの小指一本。入射角を間違えれば全てが水の泡ですが、今の私に失敗する未来は見えていない。

 そして拳同士が接触。狙い違わずカウンターで指をへし折り、最小の力で破壊のベクトルを逸らす事には成功。但しその代償として肩の基部まで完全に壊れましたが、些細な事です。

 若干のラグをおいて飛来した衝撃波を神器全開で我慢し、成功する前提で動き出していた両足が大地を蹴って私を加速させる。

 ホント、時間が残されていないから必死ですよ。

 限界突破の反動と、衝撃波でシェイクされた内蔵のダメージで遠からず私は壊れる。

 甘く見積もって残り十秒、次の一撃で決めないと負けなのです。

 

「―――爪は防がれたが」

 

 あと一歩、それだけ詰めれば死角に潜り込める筈だった。

 今の私なら、もう一度だけリミッターを解除して奥義を放てば勝てる。

 そんな甘い考えを嘲笑うように聞えてきたのは、冷徹なサイラオーグさんの声。

 瞬間的に勝利を確信した私には見えなかった、本当の切り札がそこにはあった。

 

「牙は折れていない」

 

 右手に爪が宿るなら、左には獅子の牙。

 たった一度見ただけの技を看破したと慢心した私は、大きな代償を払う事になる。

 言葉の意味を理解した瞬間、無我夢中で防御を試みるも全て無駄。必殺の拳を完全な形で叩き込まれた事により全身をズタズタにされた今、もう指一本動かせそうに無い。

 

「……あ……う」

 

 私の負けです、と言ったつもりが謎の呻き声として発声されてしまった。

 今はアドレナリン垂れ流し祭りなので実感は無いけど、喉に絡まる鉄の味から察するに致命傷なんだなーと言われずとも分かる。

 

「不服かもしれないが、対ランカー用に隠してきた秘中の秘たる”牙”を晒しても命が在る時点で俺の負けだ」

 

 え

 

「爰乃の様な一流の戦士と戦えた事を誇りに思う。お互い傷が癒えて、万全のコンディションを取り戻せたならまたやろう」

 

 ちょ!?

 

「俺は技巧を修め、お前は神器を使いこなす。万全とはそう言う事だ」

「ふざっけぅ……こほっ!?」

「悔しいか? 悔しいだろう? 俺はもっと悔しいぞ」

 

 ぐぬぬ

 

「次は眷属込みの公式戦で王としての技量を競いたいものだ」

「さいりゃおぐっ」

「俺は一足先に公式リーグへ上る。上で待っているから早く登って来い」

 

 人が言い返せ無い事を良い事に好き放題言ってくれますね……

 

「あの、もう宜しいでしょうか?」

「お前が医療班か。悪いが後は任せるぞ」

「は、はいっ!」

 

 肺にどっさりと血が溜まり始め、ぼちぼち溺れそうな時だった。

 立ち去っていくサイラオーグさんと入れ替わりに現れたのは、誰の差し金か一目で分かるナース服姿の聖女様。そう言えば最近はフェニックスの涙をドリンク剤代わりにがぶ飲みして居たから、アーシアに頼るのも久しぶりだね。

 

「……もぅ、どうして爰乃さんはいつもいつも瀕死なんですか」

 

 弱くて申し訳ありません。

 

「とりあえず、治しちゃいますね」

 

 出ました、サイラオーグさんの対極に位置する究極奥義。

 ウチの神社に通った影響なのか、アーシアは神器を発動させる際に必ず拍手を打ちます。

 元々は邪気を祓う意味合いを込められた行為だし、実は効力に上乗せしているのかも?

 

「さんくす、アーシア。あやうく冥界から地獄へまっしぐらと、訳の分からない旅地に出発する所でした。やはりPTにヒーラーは必須と改めて実感した今日この頃」

「本当に気をつけて下さいよ?」

 

 賢者の石を用いた錬金術師真っ青の再生術は、一気に苦痛を取り除いてくれる。

 全身の傷が癒されれば、とりあえず上半身を起こすだけの気力は回復。

 遠巻きに見ていたレイヴェルやサイラオーグさんの取り巻きが目をごしごしと一斉に擦っていますが、一般人の常識を平気で取り払う天才は意外と多いものですよ。

 例えばサイラオーグさんだって、周囲から不可能と言われた結果を覆していますしね。

 うん、慣れればよくある光景だと思う。

 

「って、そう言えばどうしてここに? やっぱり総督様関連?」

「はい、アザゼル様から夏休み前にお仕事の依頼を受けていました。何れ怪我人の治療を頼みたいと仰られて居ましたけど、まさか爰乃さん絡みの案件とは思いませんでした……」

「お手数をかけます」

「お友達を助けるのは当然です。今回はお仕事ですが、親友の為なら何時何処でも駆けつけます。気兼ねなく呼んでくださいね?」

「大好きです、結婚して下さい」

「イッセーさんが居ますから無理です」

「と、冗談はさておきお礼を―――」

「ごめんなさい、仕事が終わったら直ぐ戻る契約なので……」

 

 死の淵に首までどっぷりな私をひょいっと釣り上げたアーシアの足元には、グレモリーさんちの魔法陣。つまりあれですか、一発限りの召喚獣扱いと。

 そりゃ長居は出来ませんよね。

 

「じゃあまた今度」

「はい、楽しみにしています」

 

 向こうは向こうで色々忙しいのでしょう。

 無理に引き止める方が悪いと判断して、最後に握手を交わす。

 互いに手を振り、ついにアーシアの姿が消えた所で空気を読んでいた従者が口を開いた。

 

「控えめに言って、どうしてピンピンしていますのマイロード。暗褐色で染められたお洋服と血の気の薄い真っ白な肌以外に損傷無しとか意味が分かりませんわ……」

「日頃の行いかな」

「もう何が起きても驚かないと決めたわたくしにとって、その程度の答えは想定内ですの」

「でも、ちょっと血が足りないかも」

「え」

「ごめん、後は任せた」

 

 如何に神の奇跡と言えど、半死人を完全回復させるのは不可能だった模様。

 表面上は珠のお肌を取り戻していても蓄積された精神的疲労は取り除けず、増血が間に合わない事で引き起こされたクラクラ感は気を抜いた私を容赦なく眠りへと引きずり込む。

 

「マイロードを早くお医者様へ!」

 

 落ちる寸前に聞えたレイヴェルの声は、全てを預けるに足る親友の証。

 私は良い友人を多く得られて本当に幸せです。

 そんな穏やかな気分に抱かれながら私は闇に沈むのだった。

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