赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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これにてサイラオーグ編終了。


第43話「ヒーローズ・カムバック」

「おいおい、あれだけの激戦を繰り広げた相手を放置してさっさとお帰りか? お前さんの性格ならガッチリ握手の一つでも交わす所だろ。淡白過ぎじゃね?」

 

 そそくさと姿を消したサイラオーグに先回り。壁に背を預けて待ち受けていたら、肝心のお客様は軽く会釈をしただけで通り過ぎようとしやがる。

 見過ごすのも癪なので軽いジャブを入れて呼び止めた俺は、自分の考えが正しいのか検証すべく探りを入れてみた。

 

「俺も忙しい身の上ですから」

「知ってる」

「分かっていただけたなら―――」

「最後の牙とやら、未完成だったんだろ?」

「……」

 

 図星か。

 

「爰乃が左腕を強引に動かして自壊させたなら、お前もぶっつけ本番な博打の反動で全身ボロボロ。早いところ戻らんと、いつ倒れるか分からんギリギリの危うさだ。だから取り巻きも連れずに一人で立ち去った」

「……ええ、立っているのがやっとですよ」

「一言言ってくれれば、お嬢ちゃんに治させたんだがなぁ」

「宣言した条件をクリアされ、なおかつ己の未熟さが招いた自爆で瀕死の体。これだけでも屈辱なのに、その上さらに敵の身内に力を借りろと?」

「お前の性格じゃ無理か」

「恥の上塗りを俺は許せない。爰乃は俺の勝利と思っているようですが、所詮は上っ面だけのまやかしに過ぎません。内容を評価するならば、彼女に軍配が上がるかと」

「試合に勝って勝負に負けたって奴だな」

「はい、体面を保てただけですね」

 

 情報が少なすぎてなんとも言えんが、おそらく爰乃の神器は神滅具に遥か及ばない単純な肉体強化系。過大評価をするにしても、龍の手の上位が妥当か。

 そんな特別な効果を持たない”純粋な人間”。それもコントロールが出来ず神器に振り回されている小娘を相手に、最強の看板を掲げるサイラオーグが苦戦した、してしまった。

 はっきり言って失態以外の何物でもない。

 幸いにして互いに信用できる身内しか居合わせていないため大事にはならないが、仮に今回の結果が外に漏れたならサイラオーグの失脚は確実だっただろう。

 本人もそれを理解しているのか、言葉の端々に自虐が込められているのが分かる。

 

「でも、楽しかった。力をセーブせず真っ白な頭で殴って殴られる純粋な力比べがこれほど充実するとは思いませんでしたよ。互いに敬意を抱き、それでも己が上だとエゴをぶつけ合う……嗚呼、アレは今だかつて味わった事のない至福の味わい」

「薄々分かっちゃ居たが、お前は何処のバトル漫画のキャラだ……」

「?」

「今の発言は忘れてくれ」

「はぁ」

「で、そんな戦闘民族様の今後の予定は?」

「悪魔と無関係なアザゼル様にだから恥を忍んで話しますが、実は次期当主の座を掴んだあの日からどうにもモチベーションの上がらぬ日々が続いていました」

「一つの目標を達成した事による燃え尽き症候群か」

「はい。最終的な夢は魔王の座と定めていても、やはり雲の上の事柄。余りにも先は長く、具体的に何を為せば辿り着けるのか確証も無く……」

「そりゃテンション下がるわなぁ」

「しかし、総督様のお陰で手の届く所に目標が出来ました」

 

 やべ、目が完全に燃えてやがる。

 

「再戦時には神器を使いこなし、俺と同等かそれ以上のスペックを手に入れているであろう爰乃を真っ向勝負で打ち破りたい。さらにはレーティングゲームによる集団戦も挑むとすれば、完全燃焼出来そうなイベント目白押し!」

「あ、はい」

「故に我が宿敵に腕力だけの男と落胆させぬ為にも、さらなる修練を積まねばならないのです。お分かりか!」

「お、おう」

「俺はいつ意識不明となるか分からぬ身の上ですが、どうかお気になさらずごゆるりと滞在して頂ければ幸いです。では、医者を待たせていますので失礼」

「待て、最後に一つだけ。お前にその気があるなら、人間だが名伯楽と名高い拳闘のトレーナーを紹介したい。返事は今度で―――」

「是非に」

「即答かよ! 念を押すが人間だぞ!? それでいいのか大貴族!?」

「確かな指導を受けられるなら、誰であろうと喜んで頭を下げましょう。お忘れですか、俺が目標にしている爰乃もまた人間だと言う事を」

「お前は本当に凄い奴だよ。分かった、先方へ確認が取れ次第連絡する」

「どの道、自己流への限界を感じていた所でした。ありがと……ふぉす」

「メディーック! 早くこいつを病室へーっ!」

 

 表情を変えぬまま頭を下げ、そのまま五体投地に移行したサイラオーグに軽く戦慄。

 やべぇ、悪魔世界に波紋を立てるだけの小石の筈が超気に入った。悪魔の癖に裏表無しの異端児が何処までいけるのか、打算抜きで見たい気持ちが抑えられん。

 

「若さは可能性、伸び盛りの輝きは黄金よりも眩しくて仕方がねぇや」

 

 そういや、シトリーと一戦構える事になった赤龍帝はどうなったんだ?

 あいつにも期待しているので、修行先としてタンニーンを斡旋したのがつい先日。

 今頃は奴の領土で孤独な試練に耐えている頃だろう。

 あのガキは地味に常日頃から美女を侍らしてやがるから、一度女を完全に断つ環境に身を置かせ精神的に追い込む必要があると思うわけよ。

 俺も信奉するおっぱいとは何か、今一度考え直せイッセー。

 もしも答えを出せたなら、必ず次のステージの扉が鍵を開けてお前を待っている。

 代償としてドライグの精神が崩壊するかもしれんがな。

 

「次の見所はガキ共が勢揃いする交流戦。ヴァーリも含めてそれぞれが違う方法で強さを模索する中、誰が最も結果を出すのか楽しみだぜ」

 

 俺の大声に反応して現れた眷属達に恨みがましい目を向けられるが、これでも俺は純粋な味方だからな? さも無駄に会話を長引かせて主を潰したとかの深読みは止めろよ?

 しかし、大人は冤罪如きでいちいち目くじらを立てないもの。

 さて、気を取り直し次は爰乃の回復を待って神器の調査開始。

 仮に性能が微妙であれ、レア度が高いならばそれは最高の素材だ。

 一粒で二度美味しい結果に満足した俺は、上機嫌に立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 第四十三話「ヒーローズ・カムバック」

 

 

 

 

 

 告れてないけど、内情は限りなく彼女に近いアーシア。

 下っ端にも惜しみない愛情を注いでくれる部長。

 後輩として可愛がってくれる朱乃さん。

 冷ややかな視線を向けてくれる小猫ちゃ……あるぇ?

 幼馴染以外の異性に相手にされなかった俺にとって、これだけの美人、美少女が身近に勢揃いする今の生活は正に桃源郷だった。

 しかも今回は夏休みを海外(?)で一緒に過ごすファンタジーっぷり。

 健全な男の子なら、ひと夏の火遊びに期待しちゃいますよね!

 なのに部長の実家に着いて早々、朝から晩まで悪魔業界の知識と上流階級のしきたりやらを詰め込む勉強漬け。

 まだ慌てる時間じゃないと二日目に期待していたら、今度は会長のチームと急遽レーティングゲームが決まっちゃったでござる。

 試合の日取りは約三週間後。休みを返上して修行とかマジっすか部長。

 バカンスって言ってませんでしたか?

 ご褒美のサービスタイムじゃなかったんすか?

 何もイベントが起こらず、夏休み終わっちゃいませんか?

 え、元龍王な転生ドラゴンがトレーナを勤める楽しい楽しいブートキャンプ?

 それって、アザゼルが旅行前に寄越してきたメニューまんまですよね?

 てか、文明の香りゼロな大自然で女っ気なしのサバイバル生活とかありえん。

 黄金伝説かよと愚痴っても、結局は上に逆らえない体育会系悪魔社会。

 かくして始まったのは来る日も来る日も昼夜を問わず怪獣に追い掛け回され、たまに逆ギレして反撃に出たら半沢返しでフルボッコにされる毎日だった。

 飯は自給自足。冥界の動植物知識を持たない俺が山で食えそうな木の実を探して糊口をしのぎ、川から素手で魚を捕らざるを得ないんだぜ?

 もうね、限界っす。

 この際、葉っぱのベットも味付け皆無な粗食も我慢するさ。

 だから爰乃に会いたい、部長の膝枕が恋しい、朱乃さんのお茶が飲みたい、アーシアの頭を撫でたい、誰でも良いから美少女分を補給させてくれぇぇっ!

 

「ついに俺のブレスを跳ね返せるまでに成長したか」

「炎を微塵も怖いと思わなくなったからな!」

 

 しかし慣れとは怖いもので、今ではそれなりに順応しているから恐ろしい。

 容赦なく飛んでくる大火球を、ぶん殴って叩き返すのも当たり前っす。

 どれだけの時間が流れたのか定かじゃねぇが、気付けばお早うからお休みまで特に意識せず鎧を維持出来る様になっている俺です。

 だって鎧を失った瞬間、速攻で丸焼きなコース料理のメインにされちゃうんだもん。

 ……疲れてるんです、キモいと自覚しているので見逃して下さい。

 

「ちと用事があるので今日は終わりだ。明日に備えて英気を養っておけ」

「ういーっす」

 

 そしてまた一日が終わる。

 果たしてここに来てから何日たったのやら。

 俺の体内時計はとっくに狂い、まともに動作していないからさっぱりだ。

 まあ……いいや。

 磨きをかけた妄想力が生む、俺にだけ見える女の子達が優しく労ってくれるし。

 希少成分ジョシニウムを補給できない以上、これで満足するしかないっす。

 あははは、皆が見てるから抱きつかないで下さいよ部長……

 目から零れる汗を拭いとり、目指す場所は秘境の天然露天風呂。

 タンニーンのおっさんも汚い物には触れたくないのか、これだけは用意してくれた。

 効能は打ち身・骨折・火傷・外傷etcと、俺に相応しい万能さ。

 ボロい東屋一つとデカイ岩作りの無骨な湯船が一つしかない簡素な施設だが、癒し効果は半端ない。コレが無かったら、今よりも追い詰められていたんじゃないだろうか。

 両の袖が千切れ、すっかり世紀末救世主ご用達なボロ服を脱ぎ捨てお湯へとダイブ。

 少し熱めの濁り湯はマジ極楽―――ん?

 耳に入ってきたのは水の音。

 湯煙でよく見えないが、水面を揺らしたのは人間サイズの何か。

 野生の獣すら見た事が無い環境で、反射的に身構えた俺を誰も叱る事は出来ないと思う。

 

「言葉、通じますか?」

 

 転生悪魔で階級も最下層の俺は上級悪魔のウケが悪い。

 温泉マニアの貴族様とかは勘弁して欲しいなーと思いつつ、反応を探ってみる。

 ゆっくり湯を掻き分けて近づいてくる事から察するに猿や猪じゃないな。

 さては木場かギャー介のドッキリ―――じゃねえ!

 間を置かずに現れたのは予想の斜め上を行く人物。

 髪をアップに纏め、手ぬぐいで見えるとマズイ場所をガードするその姿。

 兵藤一誠が恋焦がれる少女の一人が、きょとんとした顔でそこに立っていた。

 

「俺の妄想力も極限進化を遂げたのか」

「はい?」

「つまりコレは何をしても許される我が作品!」

「少し頭を冷やそうか」

 

 レッツおっぱい。

 三次元を征服した仮想現実の双丘を揉もうと突貫し、あっさり湯に沈められた俺。

 え、何それ。手首を掴まれただけで投げられるとか再現度高すぎじゃね?

 

「先客はイッセー君だから目くじらは立てないけど、お触りは許しません」

「……香千屋さんとこの爰乃さんご本人でしょうか」

「見間違う程度の付き合いだったと?」

「軽いジョークだって、お前は俺が予約済みの女王候補生様だよ」

「その約束、条件を早く満たさないと賞味期限が切れちゃうからね」

「くっ、超頑張る」

 

 むう、やはり我が力は妄想具現化の高みに至っていなかったか。

 きっと足りないのは勝利のイマジネーション。列車戦隊的な意味で。

 

「質問、いいか?」

「どうぞ」

「ほぼ全裸を拝んだのに……怒ってねぇの?」

「ここって特に指定のない混浴でしょ?」

「無人温泉だしな。俺以外の客を初めて見たわ」

「ならイッセー君は悪くありません。それに最低限の防御は間に合ったしね」

「鉄壁だったよチクショウ!」

「何よりも先生に嵌められたと思う。”普段”は誰も使ってないと言う辺りが罠でした」

「先生?」

「んと、堕天使総督のアザゼルさんが私の家庭教師。教え方も上手いし、私生活の適当さを除けば頼りになる大人だよ」

「それはそれで突っ込み所満載だが、何でさらっと冥界に居るんだよ!?」

「武者修行。と言うか、アーシア、木場君、小猫には同時期に冥界入りするって伝えたけど? まさか聞いてなかったの?」

「初耳だっ!」

 

 ひょっとすると、自分達が知っているなら当然俺も知っていると思い込んだか?

 そこはかとなく意図的な悪意を感じるが……そう言う事にしておこう。

 とりあえず地獄の強化プランを用意したアザゼル、もといアザゼル様。俺は貴方の事を誤解していました。まさかの御計らい、本当にありがとう御座います。

 カップ数がチートな先輩ズと比較すればスモールでも、十分に豊かな乳。普段の運動量が作り出す引き締まった腰と均整の取れた肢体は眼福でした。

 このご恩、兵藤一誠は生涯忘れません。

 

「じゃあ、次はこっちのターン。私は湯治だけど、イッセー君は?」

「この風呂をベースキャンプにして、ドラゴンのおっさん相手に山篭り中。成果はそれなりに出てるからよ、下山したら一皮向けた姿を見せてやるぜ」

「楽しみにしていま―――首を回さない」

 

 さすがに寛容な爰乃も、ジロジロと見られるのは嫌らしい。

 妥協点として選ばれたのは背中合わせと言う微妙な距離感だった。

 当然表情は伺えないが、いつもの笑顔を彼女は浮かべていると思う。

 背に感じる体温は心臓に早鐘を打たせ、同じだけの安心感で胸を満たす不思議さ。

 これは部長にも、アーシアにも出せない積み重ねた歴史の証明だ。

 

「こうやってサシで話すのも久しぶりだなぁ」

「だね」

「ぶっちゃけ、最近の俺ってどうよ」

「かなり頑張ってるっぽい点を考慮して70点」

「仮に告られるなら何点以上の男っすか」

「90オーバーってところかな」

「ううっ」

 

 てか、これって事実上の告白じゃね。少し前までは女王、つまり王に嫁いでくれと遠回しに頼むので精一杯だったのに成長したもんだ。

 

「そういや、結局ボコられて聞けず仕舞いだったんだが……」

「バイトの事?」

「それそれ。んで、ヴァーリが一緒に居なかったか?」

「美猴もセットで一緒に浜で遊びましたが何か」

「まじで」

「まじです」

 

 電話の口ぶりから察するに、あんにゃろうは公私に渡って敵に回った気がする。

 エロ本大好きな俺もNTRの当事者とかやだよ! 自殺もんだよ!

 くっ、これがポっと出のヒロインに主人公を持っていかれる幼馴染の立場か。

 選ばれなかった別ルートで変わらない態度で接するとか拷問だろ……

 全キャラクリアは製作側へのリスペクトだから止められないが、幼馴染キャラは他を差し置いてでも最初に攻略すると兵藤一誠はここに誓います!

 

「水着をガン見したであろう白が憎い」

「人の裸を五分前に見たイッセー君がそれを言いますか……」

「それはそれ、これはこれ」

「自称殻を破ったらしい赤龍帝さんも内面は変化無し。この分じゃ一皮とやらも薄皮一枚かな? 少しがっかりな爰乃さんです」

「いやいやいや、超成長してるから!」

「ふーん、それならこの目で確かめさせて貰いましょう」

「一戦交えるか?」

「いえ、結果で示して下さいな」

「?」

「だって、遠からず会長と試合をするんでしょ?」

「良く知ってんなぁ」

「下馬評を信じるなら、敵味方合せてもカタログスペック最強はイッセー君です。ゲーム形式次第で活躍の場を与えられるかも分かりませんが、どんな形であれ一つでも私を唸らせる何かを見せて欲しい」

 

 難易度かなり高ぇが、男子が惚れた女の前で啖呵を切らずに何時切れってんだ。

 

「……当然、条件をクリアしたならご褒美貰えるよな?」

「具体的には?」

「奢るから、映画に付き合ってくんね」

「んと、折半なら」

「やる気出てきたぁぁぁぁっ!」

 

 俺は目の前に人参がぶら下がっていると無限に頑張れる。

 今まで垂らされていた餌―――ハーレム王の味はまだ味わえないが、爰乃とのデートは手の届く距離に配置された極めて現実的なもの。

 悪いな木場。お前も今頃はお師匠さんトコで研鑽を積んでんだろうが、会長戦のMVPは俺が貰う。むしろ、小猫ちゃんにも朱乃さんにもずぇったいに負けねぇ!

 

「相対的に一枚劣るシトリーに対して勝利はデフォルト。初陣の評価は何時までも付き纏う事を忘れないで、と部長にも言伝を頼みます」

「慢心ダメ、絶対にダメって話か」

「有利なればこそ、浅い川も深く渡れ。この言葉をどう解釈するのか楽しみ」

「兵藤一誠、肝に銘じます!」

 

 今回の俺達は挑戦を受ける王座。今までの俺は負けて当然の相手に挑むチャレンジャーであり、難しい事を考える必要の無い気楽な立場だった。

 しかし、これからは話が違う。

 聖魔剣、赤龍帝、万能回復、雷の巫女、魔王の妹。

 改めて一覧にすると軽くキセ○の世代級のチートな俺達は、例えるなら中学でエース級の選手を集めた何でもアリな私立高ってところ。

 対する会長は若手四天王にラインナップされる強豪でも、ぶっちゃけ無名の選手しか揃っていない公立な感じだろうか。

 爰乃の言う事はごもっとも。

 負ければ、ネームバリューの全てがフロックだったと侮られるわな……

 

「ドサクサに紛れてこっちを見ない!」

 

 テンションの勢いに任せ、下心無しで振り向こうとした所でポカリ。

 地球の表面積に占める海水の比率程度にしか悪意は無かったのになぁ。

 しかしその一発で仕事の話は終わり。

 そこからは他愛の無いお喋りが始まったんだから、結果オーライだと思う。

 誰にとまでは聞けなかったが、爰乃が上級悪魔に完敗した事実にビックリ。

 俺は俺でイッセー危機一髪ゲームを語って大爆笑された。

 うむ、ほんの少し前は当たり前だった日常を久しぶりに取り戻せた気がする。

 会話は迎えのアザゼル様が来るまで続き、残ったのは俺一人。

 親指をグッと立てて”頑張れ”とサムズアップしてくれた総督様、俺は魔王様と同格として貴方を崇め奉る所存で御座います。

 

『気力ゲージも回復したか?』

 

 120%充填完了だぜ相棒。

 もはや俺の妄想に死角は無い!

 

『俺はお前が純情なのか不純なのか良く分からん……』

 

 安心しろ、俺にも分からん。

 断言できるのは、悪魔らしく欲望に忠実に生きると決めた覚悟だけさ。

 

『お前の強みは枠にはまらないオンリーワンの謎力。この事実を甘んじて受け入れたからこそおっぱい連呼も受け入れるし、訳の分からん能力の開発も諦める』

 

 ついに俺と同じ地平線に立ってくれたか、おっぱいドラゴン!

 

『……何が悔しいって、相棒は何だかんだで俺を使いこなしているから腹立たしい。言いたくないが、禁手の常時維持を半年もかからずモノにする時点で優秀だ。俺に言わせれば、ぶっちゃけ人間のスペックなんてS級とランク外を比べても人外から見れば誤差。力に溺れず慢心も稀なお前は、限りない可能性を秘めた赤龍帝なのだと思う』

 

 褒め殺し!?

 

『欠点は白い奴への敵愾心不足だったが、それも解決したろ?』

 

 うむ、ヴァーリは色んな意味でシメる。

 誇り高き血統の人並に、奴が手を引くまで殴る事を止めないぞ。

 

『ならば、やるべき事は一つ』

 

 早急におっさんと互角……もとい倒すくらいの成長は必須だな。

 アイツに勝つにはそれくらいやらんと間に合わん。

 

『それでこそ我が宿主! アルビオンさえ倒せるなら風評被害も気にしな……いよ?』

 

 実は考案中の新技が一つ。

 多分おっさんにも有効な汎用魔法だから、開発に手を貸してくれ。

 

『魔法は不得手とも言ってられん。協力しよう』

 

 俺の予想ではゲームの場に奴も現れる。実力差のあるライバルだが、互いに切っても切れない因縁がある以上必然と言ってもいい。

 なら、最後に戦った日から流れた時間を無駄に過ごしちゃいねぇって事を見せてやる。

 その為にもこの瞬間から頭を切り替えて頑張ろう。

 そして同時に目指せ100点満点。

 左手にアーシア、右手に爰乃。俺は夢を夢で終わらせるつもりは無い!


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