赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第48話「天龍の挽歌」

 素人が政治の世界に首を突っ込めば、大抵の場合において面倒毎に巻き込まれるもの。

 そう信じるが故に窓の外の喧騒を他人事と割り切った。

 冥界の趨勢に興味の無い私は、今回の事件に関わるつもりが一片も無いのです。

 

「只今戻りましたのでご報告致します。予想通りと言うべきか、代えの利かない大貴族の当主達を守らざるを得ない現魔王派がやや劣勢。ホテルへの最終防衛ラインが破られるのも時間の問題と見受けられました」

「最大戦力の魔王少女も、お荷物を背負えば本来の力が出せないと。一度魔王とやらの力をこの目で確かめてみたかっただけに残念です」

「何れその機会も訪れまし―――おっと、もう一つ報告が。道すがら遊撃中の小猫に遭遇しまして、足手纏いとなっていたアーシア様を預かりました」

「その割に姿が見えないけど?」

「本人の希望通り、パーティー会場のリアス様に引渡し済みで御座います。特殊な立場の我々と合流させるのは不味いと判断しましたが、問題でしょうか?」

「適切な対応です。今暫くは静観を続けますから、体を休めて次に備えて下さい」

「御意」

 

 事前に襲撃が在る旨を先生に伝えられていた私は、パーティーに参加せずホテル上階のスイートルームで眷属共々待機。事件の発生を待ち、本職の弦さんを偵察に出した次第。

 まぁ、禍の団の目的は反体制派の力を現政権に見せ付ける政治的アピールとのこと。

 本気の殲滅戦ではありませんし、暴れるのは悪魔達だけで十分。

 私は降りかかる火の粉だけ払っていれば十分でしょう。

 

「転送と通信系魔法が妨害されている今、マイロードの判断は妥当ですわね。鬼灯が守りを固めるこの部屋で下手に動かず、救援を待つ事が得策とわたくしも思いますの」

「結界、完璧。我、太鼓判。アン居れば攻めれた、残念」

「……フルメンバーで無い事が悔やまれますわ」

「同意。ラードゥーン、来てる。倒す、めどい。心底、めどい」

「聞かない名ですわね。強敵ですの?」

「攻撃力微妙ドラゴン。硬い、とにかく硬い。我、最大火力でも微傷」

「貴方でそれなら、わたくしの炎は通りそうもありませんわね……」

「弦、何も出来ない。レイヴェル、普通」

「お気遣い痛み入りますわ」

 

 所詮今日の私は選手ではなく外様のお客様です。

 安全面はホストのレヴィアたんが保障してくれるのに、過剰戦力を連れて押し掛ければ仮にも魔王を信用していないと暗に示す事は明らか。

 不義理を働くわけにも行かず、ライザー眷属全員に勝ち越す事に夢中なゼノヴィアと、お堅い行事にもレーティングゲームにも興味の無いアンは、本人達の意向も汲み取りフェニックス邸に置いて来ざるを得なかった訳でして。

 全ては先生が悪い。何が言い忘れていたですか。

 会場入りした後に突然言われても対抗策は打てませんよ。

 敵に鬼灯をして厄介と評する化け物が混じっていると知った私は、堕天使特有の適当さに思わず溜息を一つ。嗚呼幸せが逃げて行く、と己の不幸を嘆いた時だった。

 

『DIVIDE!』

 

 すっかりお馴染みの宣言が響くのと同時、幾重にも貼られた結界を力技でこじ開けるその暴力。堂々と客室の扉から現れたのは、最早お馴染みの銀髪暴君の姿だった。

 

「探したぞ」

「あれ、禍の団のお仕事は? もう終わりなの?」

「野暮用で参戦が遅れた。俺の出番はこれだからだな」

「じゃあ、出勤前の報告とか?」

「違う」

「?」

 

 ヴァーリは禍の団での地位を守る為、地味にマークされているイッセー君を押さえ込む役割を担っていると聞いている。

 間諜としての役割も大事ですが、やはり因縁の深い二人です。

 再戦を邪魔しては野暮と、ホテル入り前に笑顔で送り出した私に何の用事なの?

 

「お前の力を借りたい」

 

 天上天下唯我独尊を地で行く俺様の口から、他人を頼る発言が零れていた。

 良い兆候だとは思う。だけど、あまりの在り得なさに驚きを隠せない。

 思わず額に手を当てて熱を測る私は、極めて平静だと思います。

 

「熱は無いみたいだけど、頭でも打った?」

「何故にそうなる」

「過去の自分を振り返って、よーく考えなさい」

「それはさておき」

「切り返しを覚えたと喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか……」

「時間が無いから話を聞け。これ以上の遅刻はさすがにマズイ」

「はいはい。で、私は何をすれば? 暇潰しに何でも付き合いますよ?」

「よし、ならば俺の言う通りにしろ」

「内容に触れない辺り、嫌な予感しかしませんね。早まったかな……」

 

 コカビエルさんの時は磔にされ、先生の時は自分で自分を貶めた。

 過去の実例を振り返るまでも無く、人外の頼みを聞いて碌な目に遭った試しが無い。

 

「……万が一にも姫様に害は有りませんね?」

「信用出来ないならお前も来い。俺の言葉に嘘偽りが無い事を自分の目で確かめろ」

「毛筋ほどの怪我でも負わせたならば斬る」

「俺とて爰乃を第一に考える兵士だぞ? そんな事になれば喜んで首を差し出すさ」

「話を遮り申し訳ありませんが、わたくしも同行して宜しくて?」

「俺の勝利を称えるギャラリーは多いに越した事は無い。鬼灯、お前も来るか?」

「肯定」

「全員俺について来い。新世紀の白龍皇と赤龍帝の戦いを見せてやろう」

 

 てっきりイッセー君のヘイトを高める起爆剤、もしくは”これが俺の王だ”と自慢されるだけの役割を期待されているんだろうなーとタカを括っていた私です。

 しかし、そんな予測も次の発言で吹っ飛ぶ事になる。

 

「さて、最後のピースたるリアス・グレモリーを拉致ろう」

「は?」

 

 ちょっとこの男が何を言っているか分からない。

 だけど良からぬ予感は在るので、あえて”まさかあんな事になるとは”とは言いません。”やっぱり酷い目に遭った”と愚痴る確信を持つ私は、せめてさっさと終わって欲しいとだけ切に願うのだった。

 

 

 

 

 

 第四十八話「天龍の挽歌」

 

 

 

 

 

 実は俺って強いんじゃね? と錯覚する程に千切っては投げ、千切っては投げ、イッセー無双は続く。稀に遭遇する量産型聖剣使いも技量はイリナ以下。熱湯風呂に体が慣れた後に入る熱めの風呂の如く、大して苦戦しない中ボス程度にしか脅威を感じていない。

 ちなみに小猫ちゃんは

 

「……お互い支援は出来ませんし、ここは別行動でスコアを稼ぎましょう」

 

 と、言い残して既に姿を消している。

 やはり殴る蹴るしか出来ない同型が並び立っても処理能力が上がるだけ。

 せめてオールレンジ型な木場とのタッグなら話は別だったんだと思う。

 つっても、そろそろ雑魚の駆除にも飽きてきた。

 ぼちぼち敵の本隊が攻略中のホテル側に移動してネームドに挑む頃合だな。

 今の俺が何処まで上に通じるか試そう。

 そう決めた俺は、一際大きい花火の上がる空を見上げて獲物を探す。

 するとこれが運命と言うものなのか、奴の方から来やがったんだ。

 光の尾を引きながら飛来したのは宿命のライバル、白龍皇ヴァーリ。

 鎧すら纏わず現れたヴァーリは、空気を読まない気軽さで言う。

 

「久しぶりだな、兵藤一誠」

「顔は合わせてねぇが、何度か携帯で話したお陰で久しさを感じないぞ」

「それもそうか」

「で、まさかトチ狂ってお友達にでもなりに来たんじゃないよな? 最近のお前の言動は控えめに言って常軌を逸してるから、一概に否定出来ないのが怖い」

「安心しろ、俺とお前は水と油。永遠に交わる事のない敵同士であると保障しよう」

「その程度の正気は保っていたか」

「俺は常に正気だが?」

「無自覚って怖いな!」

 

 やはりこの害虫、早めに駆除しないと後々に禍根を残す気がしてならん。

 まだ分岐前だが、幼馴染ルートを邪魔する障害は全て取り除く。

 ハーレム王を目指す端くれとして、その程度の気概は持たないとな!

 

「端的に用件を伝えよう。認めたくは無いが、前回の戦いは事実上君の勝ちだった。だからこそ俺は再戦を挑む。本当の格上がどちらか証明する為に」

「それを言われちゃ逃げる訳にもいかねぇな。俺としても結果はともかく、過程は完全に負けたと思っていたよ」

「それでこそ我がライバル。今こそ真の決着を付けようじゃないか」

「上等だっ!」

 

 勇ましい事を言いつつも、ぶっちゃけ真っ向勝負を挑めば俺の敗北は必死だ。

 悔しい事に前回の勝利は殆ど奇跡。その証拠に寿命を代価に産み出した赤龍帝の烈光翼は、あれ以来一度も発現出来て居ない。

 せめてヴァーリが余裕ぶっこいて昼寝をする兎ならまだしも、一定ペースで進み続ける足の速い亀なのがキツイ。

 俺が成長すれば、その分だけこの男も強くなっているのは確実だろう。

 だが、常に勝率はゼロじゃねぇ。冷静にチャンスを見逃さなければ勝機は必ず在る。

 そんな決死の覚悟を決める俺だったが、どうにもヴァーリから敵意を感じない。

 

「兵藤」

「何時でもいいぜ?」

「俺はホームグラウンドである”強さ”で挑み、そして敗れた訳だ」

「うん?」

「それなのに、またしても一方的に俺の得意分野で競うのはいささか不公平」

「お、おう」

「そこで考えた。メジャーリーガーが野球に特化した存在であるように、君もまた一つのジャンルで名を轟かせる特化型。ならば、そこで勝利してこそ本当の価値があると」

「ちょ、ちょっと待て。俺はずっと帰宅部だし、習い事もやった事ねぇぞ?」

「ははは、君にはアレがあるじゃないか」

「思い当たる節が―――って、ま、まさかっ!?」

 

 確かに兵藤一誠を一言で表現する単語が一つだけ存在する。

 しかし、それは余りにも理不尽が過ぎやしないだろうか。

 頼むからソレを口にするな。

 既に何事かを察したドライグの慟哭が始まってるんだぞ!?

 

「そう、俺は君にエロ分野で挑戦する!」

 

 あー、言っちゃったよこの人。

 

『どらいぐくん、どらいぐくん』

『どうしたんだい、あるびおんくん』

『ぼくがくびをつるにはどうしたらいいのかな』

『あはは、ぼくはもうためしたけどできなかったよ』

『せいしょのかみって、おにだね。いっそほろぼしてくれればよかったのに』

『まったくだね』

『すこしつかれたからぼくはねるよ。めがさめればわるいゆめがおわるとしんじて』

『ぼくたちのますたーとらいばるが、そろってへんたいなわけないもんね』

『またね、どらいぐくん』

『きみとはなせてすこしらくにったよ。ばいばい、あるびおんくん』

 

 神滅具を有する魔王の血統と言う世界のエラーであり、アザゼルが言う所の”僕の考えた最強の白龍皇”が放った言霊は余りにも強烈だった。

 その破壊力は殺しても死なないと悪名高い二天龍の精神を一撃で破壊し、さらに幼児退行を引き起こす副作用まで生んでいる。

 三枚目の俺なら許されるかもだが、超絶イケメンが真顔でコレを言う……だと?

 ありえん、ありえちゃいかんだろ!?

 

「不思議とアルビオンの様子がおかしいが、それも些細な問題だ」

「あ、はい。ウチの子の事も気にしないで下さい」

 

 アルビオンの心を砕き、ドライグに止めを刺したのはヴァーリだが、下地を作ってきた俺に何かを言う権利は無い。

 幾ら呼びかけても反応を返さない相棒よ、俺はお前を信じているぞ。

 だってお前は今まで変態御主人様に耐えて、最後にはおっぱいドラゴンでも構わないと頷けるだけの柔軟性を発揮したじゃないか。

 お前のツッコミが無いと寂しいからよ、早く戻って来いよ?

 

「決戦の舞台は用意してある。着いて来い、兵藤」

「よく分からんが、エロさで俺に挑む無謀さを教えてやるぜ!」

 

 赤龍帝と白龍皇の長い歴史において、史上最低の戦いが幕を開けようとしていた。

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