赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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第49話「第二次天龍大戦勃発」

「なぁ、具体的にはどうやって競うんだよ」

「詳細は知らんな」

「は?」

「俺だけが事前に諸条件を知るのはフェアじゃないだろ?」

「そりゃそうだが……」

「だが安心しろ、全てはその道のプロに委ねてある」

「プロ、だと」

「そうだ、その男はお前も知る偉大なる馬鹿。かつて約束された栄華を捨てでも女の乳を選び、周囲の嘲笑を物ともせず世界と戦えるだけの組織を作り出した漢だ」

「……アザゼル?」

「何か不満が?」

「お前のボスが用意する勝負って俺に不利過ぎじゃね?」

 

 俺は当然のアピール。

 

「アレはそんな漢ではない。万が一にも不正や不公平があればこちらの負けで構わんさ」

「まぁ、お前が汚い真似をする訳もねぇか」

 

 手段を選ばん奴なら、今頃リアルファイトでフルボッコだろうしな……

 

「で、会場とやらはまだなのかよ」

「安心しろ、丁度到着だ」

 

 俺達が向かった先は不思議な事に他の場所の戦闘が嘘の様な静かさで、敵も味方も誰一人として近づかない空白地帯の中心部。ネオンの自己主張も激しいカジノだった。

 厳つい顔の警備員をヴァーリが顔パスでスルーしつつ、乗り込んだのは地下へと続く隠しエレベータ。しかし、おかしな事に何時までたっても止まらない。

 延々と続く落下感に不安を覚えた俺は極めて一般人だと思う。

 が、それもついに終わりらしい。

 つーか、液晶を見りゃ何と驚きの地下20階だぜ? 確か核シェルターですら5階も掘れば十分っつーのに、何に備えりゃこんな深さになるのやら。

 人外って凄ぇなぁと思いつつ、先を急ぐヴァーリの後を素直に追う。

 

「この音は何だと思うよ」

「答えは自分の目で確かめれば済む事だ。違うか?」

「そりゃごもっとも」

 

 通路を進むにつれ、徐々に大きくなるのは人の声だった。

 それも一人や二人じゃない、大勢の人たちの上げる大歓声に聞える。

 やや挙動不審な俺に代わり堂々とした様子で行き着いた先の扉をヴァーリが開ければ、そこはまたしても予想の斜め上を行く人外魔境が広がっていた。

 中央に円形の開けたスペースを置き、周囲をぐるりと囲むのは満員の観客席と一段高い場所から下まで伸びる階段が繋ぐ謁見の間風のお立ち台。

 ソレを見た俺の脳裏に電撃走る。

 これは勝者しか生きて出られないオールオアナッシングの決闘場だ。

 見た目の絢爛さに騙されないよう、気を引き締めていかんとヤバイ。

 

「ふむ、見届け人の入りも上々。これでこそ俺達の戦いに相応しい」

「格好良い事言ってる風だが、エロさを競う時点でシリアス無理だから」

「戦いに貴賎は無い。お前は棋士が身を削る思いで盤面を睨みあうチェスや将棋を、真剣勝負と認めないのか? 彼らの戦いは殴り合いに劣らないとは思わないのか?」

「あ、はい。そうっすね、もうそれでいいです」

 

 これだから真面目をこじらせておかしくなった奴は怖い。

 もう、何を言っても無駄なんだろうな……

 こんなにも変な主人を持ってしまったアルビオンに同情する俺だった。

 

 

 

 

 

 第四十九話「第二次天龍大戦勃発」

 

 

 

 

 

「ようこそ、今宵の闘士達。ジャンヌちゃんは君達を歓迎するよっ!」

 

 コツコツと靴音を響かせながら中央の階段を下りて来たのは、中世貴族風の装いに身を包んだ男装の少女だった。

 彼女がオーバーアクションを見せる度に観客席からは声援が上がり、まるで自分こそがこの場の主役だとアピールしている風にも見える。

 

「先ずは今宵のドラゴン対決をジャッジする審査員をご紹介するね」

 

 説明無しかよ、とあっけに取られる俺を無視してジャンヌちゃん(謎)は続ける。

 その場でくるりとターンをしながら指を一つ鳴らせば、地下から現れるのは審査員席。

 紹介に合せてライトアップされる仕様らしく、先ず正体を現したのは一人の老人だ。

 

「女の尻は触るのが礼儀。ヴァルキリーは全員わしの女! 老いて尚盛んな北欧の主神、オーディンが仕事を放り出して冥界に見参!」

「ふっ、お嬢ちゃんのスカートも必ず捲ると約束するわい」

「パンツルックですけどねー」

 

 ちょ、厨二病が大好きな世界観の有名神だと!?

 

「寡黙な武人は防御も鉄壁。どんなプレイもどんと来い! 嫁は女王様だ文句はあるか! 堕天使が誇るMの化身、バラキエルここに在り!」

「娘には内緒で頼む」

「もう遅いかもですけど、わっかりましたーっ!」

 

 おまっ!?

 

「若手悪魔”彼氏にしたい男部門”に彗星の勢いで名乗りを上げた爽やかイケメン王子は仮の姿。”仲間ってのは、僕の思い通りになる人さ”が口癖。思春期真っ盛りがエロくて何が悪い。腹黒むっつり、木場祐斗が光臨だっ!」

「葡萄と一緒にして欲しくないなぁ。僕はもう少し上手く立ち回るよ?」

「じゃあ、目指せ超越者って事で」

 

 木場ぁぁぁっ、どうしてお前がそこに居る!?

 

「おいコラ待てや」

「どうしたんだいイッセー君」

「部長をほったらかしにして何してやがる。ダチ公……事と次第によっちゃ、俺はお前を許さねぇぞ?」

「おや、君の為の舞台なのに知らないのかい?」

「へ」

「部長がここに居るからこそ僕も居る。こうして審査員席に座っているのも、きちんと許可を得た上での話だけど?」

「りありー?」

「僕は”親友”には嘘をつかないさ。大丈夫、どうせ直ぐに合流する事になるから、今は話を最後まで聞く方が得策だと思う」

「そ、そうだな」

「内輪揉めは終わったかなー? 続けるよー?」

「やってくれ」

 

 よく分からんが、とりあえず部長の安否は問題ないらしい。

 ここは親友の言を信じて、情報収集に努めるとすっか。

 

「では、気を取り直しまして……ゴホン。財は一代、衣は二代、食は三代。全てを兼ね備えた魔王の血統はエロスも嗜むもの。メイドを囲わず何が貴族か! 禍の団、旧魔王派閥を束ねるシャルバ・ベルゼバブがまさかの登場だぁっ!」

「雑種共に本当の萌を教えてやろう」

「メイド押しのシャルバさんに質問です。アイドルはダメですか?」

「デビューシングルは予約済みだよ」

「ありがとうございまーす!」

 

 あるぇー、敵の親玉がふつーに参加してるぞー?

 

「そしてトリを勤めるのはダンディズム溢れる純血悪魔の大御所。絶滅淑女を射止めるまでに流した浮名は数知れず。隠し子が現れても認知するからドンと来い! 王道のプレイボーイことグレモリー卿が推参っ!」

 

 って、部長のお父さんじゃないですか!

 

「ぶ、部長のお父様」

「なんだね兵藤君」

「プロフィールにはあえて突っ込みませんが、グレモリー家って冥界の重鎮っすよね?」

「うむ」

「上は真面目に戦争やってるのに、こんな所で油を売ってっていいんすか……?」

「待ちたまえ。むしろアザゼル氏に頼まれて、私が調停したからこそクリーンな戦争が出来ているのだが?」

「え」

「先ずは現魔王派の観点で考えてみなさい。セラフォルー嬢を旗頭とする現政権はクルゼレイ卿の相手だけで手一杯だ。つまり、何時何処に出現するか分からないシャルバ卿、気分屋の白龍皇等のネームドに備える余力は残されていない。分かるね?」

「増援に来られるとピンチっす」

「次に旧魔王派はどうだろう。自画自賛になるが、私は息子や妻には劣ると言っても強力な部類の悪魔。当然動いて欲しくない。そしてそちらに居られるバラキエル氏は歴戦の猛者であり、同時に堕天使の幹部。未来では敵対する可能性の高い堕天使も、内戦に注力する現状で敵に回す愚は犯せない」

「四面楚歌はきっついですもんね」

「そこで用意した折衷案がこの決闘への参加なのだよ。概ね大災害を引き起こす天龍対決の監視を名目として現政権は私を筆頭に王者を含めた一部の上級悪魔を動かさず、内輪揉めを前面に打ち出して非公式会議に来ている他勢力も関与させない。その代わり、禍の団はネームド級を温存して一定の戦果を挙げ次第速やかに退却する。この他にも裏で幾つもの談合が進められているが、他言は無用に願いたい」

 

 突然の真面目な話にやや頭がついてこないが、言わんとしている事は分かる。

 しかし、だ。

 

「……それって魔王様達は知ってるんすか?」

「いや、一部の有識者だけが知る情報だ」

「なんで!?」

「それはだね、息子やセラフォルー嬢が頑なだからだよ」

「は?」

「独り立ちした一人前の男に言いたくはないが、彼ら若者は世界を白か黒の二色で塗り分ける事しか考えていない。例えば、たかが政争で勝ったからと言って、旧魔王直系の一族から全ての領地を全て召し上げ辺境に飛ばす愚行は見逃せない失策だろう。このありえない処置を見た現魔王派の少なくない重鎮は彼らへ同情的な理解を示し、同時に自分達もそうなるのではと怯えている。つまり、冥界が何時までたっても安定しないのは現政権が原因なのだ」

「そうなんすか」

「兵藤君。誰もが認めた初代ルシファーが統治していた頃の完全なるトップダウンは既に終わり、現在の冥界の社会構造は人間世界で言う所の中世に近い事を覚えておいて欲しい」

「まさかの封建社会?」

「そうだ。自分達の領地で経済活動を含めて完結出来る貴族の力は大きく、かつての人の王と同様に求心力の弱い魔王の権力は極めて限定的なもの。今や議会の圧力すらも無視出来ず、彼らの信を失えば放逐されてしまう極めて弱い存在が魔王の正体だ」

 

 RPGの魔王と違って世知辛いなぁ。

 これじゃあ魔王からは逃げられないじゃなく、魔王は逃げ出したいじゃないか。

 

「それに対し貴族達は、各々が家臣団を抱える一人の王の立場だ。そんな彼らへ、名誉職の癖に力だけは圧倒的な若造が強権を発動すればどうなる?」

「反感喰らいます」

「それが答えだ。だからこそ私は旧魔王派を悪と断じない。やり方はともかく、彼らの怒りは至極当然の権利なのだからね」

「もう、何が何やら」

「同時にこうも思う。旧体制から見ればサーゼクス達が為そうとしている事は暴挙だろう。しかし、それは同時に革新ではなかろうか」

「魔王様が何を目指してるか知らないのでなんとも……」

「君も上を目指すならば勉強が必要だな。この件については自分で調べなさい」

「はいっ」

「結論だけ言えばグレモリーやシトリー家を含めた旧家は、サーゼクスにもシャルバ卿にも中立を保つと公言済み。つまり私は両者の折衝役を担う灰色の存在なのだ」

「……あ、だから事件は魔王領ばかりで起きるのかと納得しました。部長のお父様と同じ考えのトコは対象外なんですね」

「うむ、これもリアスやソーナ嬢には教えていない極秘情報。時が来れば私から話すから、今は口を噤んで内密に頼むよ?」

「信頼には応えます!」

「とまあ、難しい話はこれ位にしよう。今はどちらの勢力も冥界を傾けかねない総力戦を望まず、コントロール可能な限定戦争を目指しているとだけ理解してくれれば十分だ」

「人も悪魔もやる事同じか……」

「脱線してしまったが、一人の審査員として今回の対決には期待している。君が娘の兵士に相応しい活躍を見せてくれることを楽しみにしているよ」

「うっす、白龍皇には絶対に負けません!」

 

 そうだよ、下っ端の俺が考えるべきは目先の勝負だ。

 難しい話は出世して、相応の重責を担ってからで遅くはねぇさ。

 今は部長のお父さんに丸投げして―――エロい事を頑張っていいのだろうか……?

 冷静になればなるほど、自分の置かれた状況のヤバさが身に染みるぜ。

 

「もういいですねー? スケジュールも押してますから、これ以上の横槍はガン無視ですからねー?」

「話が進まんから、兵藤を無視して続けろ」

「むしろ次に割り込んでくるようなら、バリ君がガツンとよろしく」

「責任持って殴り倒してやるさ」

 

 どうもこの二人は顔見知りらしく、ハンドサインでやり取りをしている節がある。

 しかし、審査員の顔ぶれを見る限り全体的に有利なのは俺なんだよなぁ。

 シャルバは人の血の混じるヴァーリと確執アリアリだろうから、あいつの味方はアザゼル派のバラキエルだけ。

 大して俺には木場と部長のお父さんがついている不公平さ。

 中立っぽい別の神話があいつに組して、やっと五分ってのは何だかなー。

 

「以上で審査員のご紹介は終わります。続きまして競技内容の説明たーいむ! 皆様、メインスクリーンに注目っ!」

 

 はい、と司会が右手で示せば映し出されたのはアザゼルの姿だ。

 

『最初に断っておくが、これは録画だ。おそらくこの映像が流れている頃はサーゼクスやミカエルと大絶賛会議中だろうから、一切の不平不満は受け付けないぜ』

 

 最初に文句を封じる辺り、嫌な予感しかしなかった。

 

『ぶっちゃけ童貞ビビリの赤龍帝と、やっと思春期に突入した白龍皇にディープな18禁の世界は早すぎる。なのに、エロで競いたいとか言い出したガキの為に俺は悩んだ訳よ』

 

 あ、はい。反論出来ないっす。

 未だに部長やアーシアの裸を見るだけで心臓が破裂しそうですが何か?

 

『熟考の結果、お前達に与える課題はライトなお人形着せ替え対決だ。詳しくは司会に全部伝えてあるからそっちに聞け。めんどいから後は知らん。頑張れよルーキー共!』

 

 フェードアウトしていくアザゼルの吹っ切れたような笑顔が印象的だった。

 

「……ジャンヌちゃんの記憶が確かならば、片や冥界で人気の紅姫、片や一部で注目され始めた黒姫。奇遇にも龍の主は揃って同年代の美少女なんですよねー」

 

 ん?

 

「彼女達は輝きを放つ宝石ですが、新聞紙で適当に包んでしまえば石ころも同じ。宝石には宝石に相応しい包装が必要なのです」

 

 それってまさか―――

 

「勝負は至って単純。用意された課題に対して自分が最も良いと思う衣装で御主人様を彩り、審査員の票を多く集めた方が一勝。これを三度繰り返して雌雄を決するのです」

「待った、そんな話聞いてねぇから手ぶらだぞ?」

「だいじょーぶ。有志一同の提供により、ありとあらゆる衣類を取り揃えてあります!」

「そ、そうなのか」

「その証拠を見せちゃおうっかなー。衣装ケース、オープン!」

 

 何となくは察していたんだ。

 謎のテーマソングと共に競りあがってきた無数の服飾は食材の代わり。

 地下闘技場かと思っていたら、実はアイアンシェフのパクリじゃねぇか!

 

「それでは皆様お待ちかね、第一の課題を発表します。それは夏の砂浜の正装、殿方の視線を集める誘蛾灯の属性を持つ魔性の衣。それ即ち”水着”!」

 

 うっしゃ、部長のダイナマイトボディには最高の調味料。素材の差で勝ったも同然だ。

 このお題ならヴァーリの王も敵じゃな―――王? ちょっと待て、初耳だぞ?

 

「って、お前が誰かの下僕に?」

「下僕と言うか家臣だがな。ちなみにお前と同じ兵士枠に収まっている」

「ははは、ご冗談を。最強カテゴリーのお前が誰かの手下? ありえんって」

「そもそも、あいつは俺よりも強い」

「なん、だと」

 

 堕天使の幹部を歯牙にもかけず、俺の千倍強い龍皇をして強いと言わしめる?

 それって、神か悪魔か鋼鉄のカイザーの類だよな。

 何者かは知らんが、想像するにお得意様のミルたん系の化け物くせぇ。

 せっかくのコスプレ対決、魔王少女系の強くて可愛い女の子である事を祈ろう。

 

「俺に言わせれば、見掛け倒しで中身の無いリアス・グレモリーに命を救われた義理だけで従う貴様の方が理解に苦しむ。兵藤、悪いが俺の黒は紅と比較にならない良い女だぞ?」

「……お前とは女の趣味が合わないらしいな。腕力だけが取り得のゴリラがウチの部長より優れてるだ? 寝言は寝てから言えよ白龍皇」

「どうせ口で何を言っても埒が明かない。どちらのポーンの趣味が高尚で、どちらのキングが魅力的かを周囲の評価で示そうじゃないか」

「ずぇったいに負けねえ!」

「這い蹲らせてやるぞ赤龍帝!」

 

 負けられない理由が増えた瞬間だった。

 

「さぁ、伝説対決も前哨戦からヒートアップ! シャルバさん、何か一言貰えますか?」

「ならば一度言ってみたかったセリフでも」

「その心は?」

「続きはWEBで!」

 

 始まってすら居ないのに、何故か終わりを告げられる天龍対決とはいったい……

 一切の反応を返さなくなったドライグは、何も応えてくれなかった。


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